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サプライ・チェーン・マネジメント(SCM)の焦点

          :部分最適と全体最適とはなんだろう?

サプライ・チェーン・マネジメント(SCM)を取り上げます。
90年代後期からのセミナー、ビジネス書、話題の中心は<企業間でネットワーク化を図ったサプライ・チェーン・マネジメント>というテーマです。

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サプライチェーンマネジメント(SCM)を取り上げる理由

SCMを取りあげる理由は、現在のSCMの推進がシステムの導入(手段)で終っていて、または混乱していて、目的とした効果を上げているのか疑わしいと感じるからです。システムの導入でよく見られる、手段と目的の混同です。最初は、はっきりしていたはずの導入目的がいつのまにか蒸発する現象。

【モデル化】
最初にもっとも基本的なことを単純化して整理します。細かい部分を捨象して、欠かせない部分を浮かび上がらせます。

機能の本質的な内容を浮かび上がらせ、相互の関連を整理することを<モデル化>と言います。モデル化を計ると、物事がすっきり整理されて、映像的に見えてきます。

このモデル化では、どうも西欧・米国人に1日の長がある。日本人はモデル化が苦手です。理由は、細部にこだわるからです。細部にこだわる特質は、 日本の産業の長所になったり短所になったりします。

細部にこだわる特性が長所になるときは、大きな環境変化や技術革新がなく、QC的な細かい改善の積み重ねが有利になる時期です。一方、短所になる時期は、大きな革新が起って、枠組み(パラダイム:土俵)が変る時です。

現在は、環境変化と革新が、同時に起っている時期です。従って細部を捨象して、 単純化したモデルで大きく捉えることが必要ですね。

以降では、サプライ・チェーン・マネジメントを解くための重要概念を整理しながら、クール・ナレッジの方法である<単純化・原則化>を図ります。

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サプライ・チェーン・マネジメントへの道程(Way)

サプライ・チェーン・マネジメントへの道程を、順を追って見て行きます。また、各道程でのゴール(到達点)を見ます。ゴールから現状を見ると、問題点は浮き彫りになるはずです。

順序は、(1)コンピュータシステム→(2)サプライチェーン→(3)モデル化→(4)SCP→(5)サプライチェーンの可視化→(6)戦略同盟の6段階とします。

(1)コンピュータシステム

わかりきったことをまず確認します。
コンピュータシステムとは、i)データを入力し、ii)プログラムに従って計算処理と記録処理(Data Base化)をし、ii)計算結果、記録結果を出力して、iv)人間に見せる仕組みです。

人間に出力を見せるわけですから、現場の改善活動はそこから始まります。システムの導入は、現場数字の改善活動を行う手段。

(2)サプライチェーン

サプライ・チェーンは、
i)<資材→資材物流→工場(加工)→製品物流→店舗(最終需要への販売)>という商品供給の流れを、
ii)<商品供給の連鎖>として捉えて、
iii)コンピュータシステム化の対象とする、という点に新しさがあります。

<全体としての商品供給の連鎖>をシステム化の視野とするという点が、多くの人を熱狂させているわけです。
サプライチェーン以前のシステム化の対象・範囲は、供給連鎖の全体の中では、部分でした。

(3)モデル化

【部分と全体の相似形】
サプライチェーンの全体視点とは言っても、人間は普通そんなに大きな視野は持てません。そうすると、部分をモデル化したものと、外見が複雑に見える供給の連鎖の全体は相似形かもしれない(フラクタル)という仮説が浮かびます。仮説が生まれるのは直感からです。

【3つの本質機能の抽出】
製造も卸も小売も、<仕入→(商品化処理)→販売>の3つの機能が本質でしょう。

【商品化処理の部分】
しかしカッコに囲んだ(処理)の部分は、違いがある。
i)製造では加工機能(生産システム)
ii)卸は小売と製造の中間機能(流通システム)
iii)小売では製品の展示・販売処理(販売システム)というように内容が異なります。

【共通部分を全体へ】
異なる部分ではなく、共通部分で言えば、<仕入れ→(商品化処理)→販売>
この共通部分をシステム化対象にしてみよう。そうすれば、部分のシステムをサプライチェーン全体にまで共通化ができるかもしれないとの仮説。

【WMS】
企業間の相互インターフェース、つまり中間流通部分で、共通システムとして浮び上がったのが、 受注処理→商品処理→配送管理を行うWMS(Warehouse Management System:倉庫管理システム)です。

【ERP】
一方で、各企業で異なる業務処理の部分を、部品にまで縮小して共通化を試み、そこから相互に関連する構造として組みたてようとしたものがERP(Enterprise Resource Planning)のシステムです。

(4)WMSからSupply Chain Planningへ

【WMSの基本機能】
WMS(倉庫管理システム)の基本構造は、<受注→(在庫引当→補充発注)→出荷>になる。

受注と出荷の部分は、機能的にはすべて共通化ができる。それに(在庫引当→補充発注)の部分は、サプライチェーン全体の在庫管理として合理化の工夫ができる可能性がある。

【SCPへ】
そこで、生まれたのがSCP(Supply Chain Planning:サプライチェーンの商品計画)です。

サプライチェーンの、それぞれのプレーヤーの販売データ、在庫データをリアルタイムに共有化することによるCPFR(Collaborative Planning、Forecasting、Replenishment:協働化を図った商品計画・協働による予測・協働による商品補充)を含むものです。

協働での予測をベースに、製造・中間流通・店舗で、生産計画・中間在庫計画・店舗の展示と補充計画を、同期化をとった共同Planにすること、これがCPFRを含むSCP。
サプライチェーンの到達点(Goal)になるものです。

【サプライチェーンのデータベースの可視化】
この共同プランの商品計画を実行するためには条件がある。異なる企業を含むサプライチェーンの供給連鎖で、在庫・販売のデータベースを可視化することが必要です。

サプライチェーンの可視化(従来は組織の壁で見えなかったものを見えるようすること)の目的は、製造、中間流通、店舗での商品計画を同期化(シンクロナイズ)させて、現状の商取引が含むお互いの無駄を省くことです。

(5)サプライチェーンの可視化によるマネジメント

【可視化で全体を一望】
<資材→加工→中間流通→店舗>のサプライチェーンをネットワークで結べば、最終需要者にまで至るモノの全工程の動き(商品の処理プロセス)と在庫が一望できるはずである。ここには、わくわくするような、全体一望のイメージがあります。
距離の限界は、リアルタイムデータで突破できます。

【デマンド・チェーン】
つぎに、サプライチェーンを最下流から逆に見て、<顧客需要→店舗POS→中間流通→工場(加工)→資材>と遡れば、デマンド・チェーン(需要を充足させるための無駄のない連鎖)になる。

デマンドチェーンのGoalは、POSで売れたものが商品の最上流から1個ずつ、間断なく、リードタイムが短縮されて補充されること。
21世紀の商品供給の映像です。

【Order Fulfillment 】
デマンドチェーンのGoalは、Order Fulfillmet(商品の完全手配による短時間での納品)と言ってもいい。

現場の管理作業の過半は、リードタイムが長いこと、そのためBack Order(未処理の受注や途中変更)が多く生じることが原因です。つまりAvailable to Promise (受注時点で最短納期を約束して守れること)になっていない。

【サプライ・チェーン・ビジビリティ】
そのために必要になることは、従来は企業の壁、部門の壁で見えなかった在庫と作業工程をVisible(可視化)にすること、つまり企業の壁で見えなかったところを見えるようにするという考えです。
これがサプライチェーン・ビジビリティ(Visibility)、サプライチェーン全体の可視化。

【可視化は合理化のマネジメントを生む】
サプライチェーンの全体の、(i)モノ(原材料・仕掛かり品・製品)の動き(商取引と物流)とすべての在庫、(ii)及び商品処理の作業を、リアルタイムで見えるようにすれば、いままではできなかったような、大きな合理化と改善ができるはずであるという仮説があります。

合理化と改善を図る全体活動を、サプライ・チェーン・マネジメントと言います。

【マネジメント】
合理化と改善を図る活動が、人間が行うマネジメントです。
システム導入が利益を生むのは、マネジメントによってであって、システムが自動的に利益を生むわけではありません。システム担当、そして、トップですらがしばしば忘れる視点です。

サプライチェーンが成果(利益)を上げるには、サプライチェーンのマネジメントが必要です。導入直後から改善活動が始まる。

【サプライチェーンの相互協力】
サプライチェーンの相互協力でのマネジメントには、従来の商取引の関係とは違う、1歩も2歩も進んだ、新しい関係が必要になる。それが同盟関係。
ケイレツや長期での、相互融合的な商取引に慣れてきた日本の産業には、なじみやすいはずです。

枠組み(パラダイム)が変る時期(まさに現在)は、日本はじっとしていて弱いが、枠組みが決まれば、その数年後には改善という日本人の得意領域になる。私はそう判断しています。日本のサプライチェーンには大きな希望がある。緻密なシステムを作るはずです。

一方、枠組みが変るとき強いのが米国人、変った後で強いのが日本人。サプライチェーンのマネジメントは、必ず日本人の得意な領域になる予感がします。

(6)企業間・組織間の戦略同盟

【企業間と、部門間の壁】
サプライチェーンの可視化を図ろうとすると、企業内には部門の壁、分業する工程間の壁がある。これを壊すのが難物。意識のファイアウォールの突破です。

企業間では、商取引の結果(つまり受発注)は相互に見えるが、その前工程と後工程の部分は、見えない。

サプライチェーンを可視化するために障害になる組織の壁を取り払おうとする試みが戦略同盟、つまりアライアンスです。

【同盟:アライアンス】
アライアンスは、企業合併とは違います。参加する企業や組織は、それぞれが個としての自律性と競争性(コアコンピタンス)を保ちながら、最終需要を充たす(CS:顧客満足)という目的で、協働(Collaborate)するという意味です。

【目的の共有化】
協働化を図るには、共通目的が必要です。目的を共通化できなければ協働化はあり得ません。目的を強く共通化できれば、細かい部分を捨象して同盟・アライアンスが形成できます。

【PBの事例】
小売のPB(Private Brand)開発も、小売と製造の同盟の結果です。
従来の、仕入れ=バイイングの商品アイテムの視点での散発的な商取引の関係から、顧客満足を図ることを共通目的にし、小売と製造で長期的なアライアンスを結んで行くことです。

そうすれば、従来の商取引から派生する無駄が省けて、相互に大きなコストダウンができる可能性が生まれる。

PBでは、店舗の商品計画(新規展示計画と補充計画)を、工場と共有化して、生産を店舗販売と同じサイクルにする(同期化する)ことがゴールになります。

【PBでの小売責任】
そのためにPBでは、PB商品のライフサイクル全体に小売が販売責任を持ちます。その責任と引き替えに、製造側は製造のコストダウンを図る。 製造側は、無駄な販売用在庫を持たず、受注生産をします。

【共通のゴールの設定は、共同商品計画へ向かう】
目的をGoalとして、つまり到達点として共有化できるなら、サプライチェーンの壁を取り払って相互に可視化ができ、協働化ができる条件が整う。

戦略的な、言いかえればゴールを想定した協働化の実現形が、製造と店舗での共同商品計画です。

下流から言えば、店舗の展示計画・補充計画から、中間物流の在庫、工場の在庫、そして生産計画までを、同期化(同じサイクルで動かすこと)させる。

サプライチェーンは最終的には、<共同商品計画>に結実します。

(1)コンピュータシステム→(2)サプライチェーン→(3)モデル化思考→(4)SCP→(5)サプライチェーンの可視化→(6)戦略同盟の6段階のまで道程を、それぞれのゴールを示しながら解きました。
お疲れ様でした。

単純化して大きく見ると、いろんなことが見えてきますね。
つぎはサプライチェーンの全体最適の思考です。これは少し難物。

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サプライチェーンの全体最適の思考

【全体最適】
SCMを日本語にすれば、<供給連鎖の全体最適を図る経営手法>ということになります。うーん・・・なかなか分かりにくい、全体最適とは難しい概念です。

このサプライチェーンの全体最適に視点を置いた思考方法とマネジメントには、20世紀までの経営の常識を、根底部分で覆す深い意味が含まれています。

一言で言えば<最終需要(消費)に対して、小売・中間流通・製造の供給の連鎖の全体最適を図る>ということです。

【連鎖と全体最適】
解く鍵になるのは、<連鎖(企業内の部門、及び企業間分業の連鎖=従属の関係)>と、<全体最適>

サプライチェーン的な思考は、企業内の問題にせよ、企業間の問題にせよ、部分の問題を細かく個別に解く手法ではなく、大きい観点から、全体を単純に解く方法です。

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サプライ・チェーン的思考を理解することの果実

(1)21世紀の経営への大きな展望が得られる

企業内、または企業間の供給連鎖を全体としてとらえたうえで最適化・利益化を図るマネジメント(SCM)は、21世紀の経営の焦点であると、私は直感しています。仮説です。

20世紀が終って、21世紀を迎えることの意味の根底には、サプライチェーンの思考方法を使った、経営手法、経営技術の転換があると判断しています。
ここが人間の進歩です。進歩とは、学習効果を活かすことです。

世間も、仕事も一見複雑になっているように見えます。しかし複雑で巨大になりすぎたものは、コントロールが不能になって、いずれ生命を失います。現在は、官僚機構、大企業の機構などが複雑で巨大化。

複雑なものに見えるときは、それをもっと大きな観点から、単純に捉えること、そうすると、解決は意外に単純であることが多いと感じます。視点のポジションの問題です。

(2)経営の危機における即効策を作るときも有効である

更に、現在、多くの企業が陥っていて、先が見えない大きな問題に対して、<即効的な効果を上げる>ための対策を立てる時の重要なヒントも、サプライチェーンの全体最適という思考方法で見付けることができます。即効的な対策が、長期的な効果にも結びつく。

袋小路に見える問題の、意外に簡単な解決方法も、サプライチェーンの全体最適思考で見つかることが多いことを感じます。

【焦点となるテーゼは?】
部分最適の総和は、全体最適にならないことが多いということです。

以降で、このテーゼを解きましょう。

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まず問題提起

企業経営が悪化したときの行動パターンは類似しています。自分の分野を限定して、担当部分の改善に走るという行動。
しかし、大きな危機の時は、これは役に立ちません。共倒れになる。

<企業経営が悪化するときの企業メンタリティはだいたい同じで、自分の分野を決めて部分最適化に走る。タイタニック号の上で、乗組員が自分の日常の仕事の責任分担通りにイスを並べ替えて、整理するようなものである。>

タイタニック号が、まさに沈没せんとする時に、乗務員が日常業務に戻って、傾いた船の上で何も起らなかったかのように仕事をやる・・・映画ではとても美しい行動でした。誰もこれを非難することはできません。乗務員は、誰も沈没を防ぐ手段がなかったわけですから。

しかし、会社でこんなことが起ったら・・・防ぐ手段は、必ず見つかると判断します。

▼とはいいながら

【分析的思考と一所懸命】
物事を部分に分けて考えて、その部分、部分を積み上げて全体にするのが、われわれが、ずっと慣れてきた<分析的>な思考方法。会社でも各部署が分業を推進し、部分として<一所>懸命に生産性をあげることが重要とされます。

仕事の遂行方法としては、正しい方法です。というより、個人は会社組織という全体のなかでは、普通、1つの工程の分業を遂行する部分ですから、部分を一所懸命にやることしか方法がない。

日本的経営では、特に各部署・各個人が、残業をやって一所懸命にやることに文句をつけることはムードとしても難しい。一所懸命は、仕事に邁進する純粋さとして称賛されます。

【ところが部分の総和は全体最適ではないことがある】
(全体と無関係に)部分で一所懸命にやったことを積み上げた結果(総和)が、全体がうまく行くことにつながるか?
・・・となると、<部分の生産性を上げることが、全体利益を上昇させるとは限らない>という逆説が生じることがとても多いのです。

行政マンも金融マンも、個々人としては仕事に一所懸命。立派な人が多い。しかし、そうした一所懸命の総和は、全体最適でしょうか?

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サプライチェーンの全体の強さは、部分(部署・各工程)の強さの総和か?

▼ネックレスの強さとは?

ネックレスはチェーン(鎖)です。ネックレスを引っ張った時の全体の強さは、各々の鎖の強さを加えたもの(総和)でしょうか?

引っ張った時切れる部分は、その鎖の中で最も弱い輪です。
他の鎖をどんなに強くしても、1ヶ所弱い部分があると、そこでぷつんと切れます。

ネックレスの強さ(全体)は、一番弱い鎖(部分)以上には強くなりえません。そうすると、ネックレス全体を強くするには、弱い鎖の部分を発見し、きれる前にそれを他と同じように強くするしか方法はありません。

▼電車ごっごでの速さとは?

会社全体の、相互に依存関係のある分業の仕事の遂行は、例えれば電車ごっことして見ることができます。

Aさんが最も速く、Bさんが中間、Cさんがもっとも遅いとします。
最も速いAさんが、もっと速く走ることは部分の一所懸命の努力としては正しいことです。

しかしロープで囲んだ電車ごっこ(従属関係、依存関係がある全体)では、全体の速さはCさんの速度以上には速くすることはできません。
Cさんという制約条件(Constraint)が、全体で歩調を合わせたときの最適な速度です。

Aさんが、個人として頑張れば頑張るほど、電車ごっこで使うロープは長くなって(生産工程なら工程間の仕掛かり在庫が増えて)、全体としては無駄が発生することになる。

全体の観点では、Aさんは、最も遅いCさんの足並みに歩調を合わせる(シンクロナイズ:同期)するのが無駄のない最適になる。

▼製造部門、中間流通部門、営業部門へのアナロジー

製造部門の生産能力に余剰(余力)があり、営業部門の販売力が弱いときは、どんなことが起るでしょう?

製造部門は、どんどん商品を作ったほうが製造原価は下がる。製造原価は、必要な原材料をより大量購入(原材料単価の下落)をして、工場設備と人員の稼動率を100%にした時、1商品当たりの原価が最も下がり、工場の利益率は上昇します。
これが<標準原価計算手法>での計算結果。
つまり製造部門としては、生産性が上がる。

ところが、営業部門が弱いと、低い製造原価の商品も中間流通部門で在庫(バッファ)として積みあがります。

会社全体としては、在庫として眠る資金が増加(キャッシュフローの減少または借り入れの増加)が生じ、全体の利益が急低下。

原材料にせよ、製品にせよ、在庫とは資金が眠っている状態。

ひとつの経営体として、全体最適を図るには、営業部門の販売(=需要)に合わせて、工場の生産を少なくすることが必要だったのです。

ところが、工場の設備や人員は短期では固定費ですから、生産量を少なくすると稼動率は下がり、設備と人員の費用が有効に使われない結果、1商品当たりの原価は上昇。
標準原価計算手法では、工場部門は見かけ上の利益率が低下。

そうではあっても、営業部門の販売にシンクロナイズ(同期)させて、結果として製造部門の原価を上げても、生産量を少なくすることが、キャッシュフローでは全体最適になる。

しかしながら、これは全体最適ではあっても縮小均衡に向かいます。
従って、ボトルネック工程の、集中的な改善活動が必要です。
強い部分から見たとき、ボトルネック工程にならないように弱い部分を改善して強化する必要がある。

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ボトルネック工程の集中的な改善

経営改善のキーは、最も弱いボトルネック工程の発見と改善、強化です。ボトルネック部分(全体の生産性の制約になっている工程)の生産性以上には、全体の生産性は上がらない、というサプライ・チェーンの大原則。

<The Goal>を書いて制約理論(Theory of  Constraint)をありありと示したイスラエル人ゴールドラット(Goldratt)の功績です。

【方法は、全体工程のフローチャート作りから】
i)各部署の業務(企業間では各社)を工程に分けて関連付ける(全体の作業フロー作り)
ii)相互に関連するどの部署、部署の中のどの工程(工程分析)が、
iii)全体の利益を下げるボトルネック工程(制約条件)になっているのかを発見し、
iv)そこを集中的に改善するための対策を立てて改善。
v)そして、次のボトルネック工程を探して改善。

【対策の単純化と集中化】
わが社の、または企業間のボトルネック工程の発見による短期での対策が、長期での全体の改善につながるということです。

対策とは、あれやこれやではなく、全体効果の最大の障害になっている工程(部分)の改善や改革に焦点を絞り、まずそこに集中することです。

こうして、全体ではとても複雑(複雑系)にみえる供給連鎖、作業連鎖の問題が、A部門のa工程のボトルネック工程の改善・強化という単純な課題に集約されます。

企業のいろいろな対策において、もっとも少ないリソース(経営資源=経費分配)の使用で、全体効果を上げる方法が、ボトルネック工程の改善を図ることです。

以上のように、サプライチェーンのマネジメントは、コンピュータシステムやネットワークである前に、供給連鎖の工程改善であるということ、ここが重要です。

【QCの復権も図れる】
1960年代からの日本の産業の得意領域であったQC活動が袋小路に陥ったのは、現場からの部分の最適化の積み上げで、全体の生産性が改善するという前提が強過ぎたからですね。

QC活動の前に、サプライチェーン思考で全体工程を見渡した上でのボトルネック工程の発見があれば、その後は、得意だったQC活動での部分の改善を図れます。こうした、ちょっとしたことが重要です。

【サプライチェーンの全体利益とはなにか】
つぎは、利益とはなにか?の問題を解きましょう。もともとはわかりきっていたものなのに、複雑な会計計算で、なにが利益か分からなくなってきているのです。
ここでも単純化を図ります。
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サプライチェーンの最初の問題は在庫、最後の問題も在庫

原材料にせよ製品にせよ、在庫は企業会計のバランスシート上は、資産とされます。

ところが会計計算では仕入れは、直接には経費になりません。仕入れは損益に関係ない資本的支出とされる。売上に関係なく仕入れを増やしても減らしても、損益計算書の結果は変りません。

以前、会計学を勉強した時、これはなにか変だなと思いました。感覚に合わなかった。

会計学で在庫が費用になるのは、売れた時です。これが売上原価。在庫だけがどんなに積みあがっても、即時・直接には原価にならない。

しかし極めて単純に、経営上のマネーの増加と減少を計算すれば以下のようになる。これは、会計学を知らない人にも分かるはずです。

▼当月売上―当月(原材料または商品)仕入れ―当月経費=利益

売上高より仕入れが増えれば、利益(現金)も減る。極めて単純な構造です。この計算は日常感覚と合います。仕入れはモノを買うことだから、買うのが増えれば現金は減ります。

ところが会計計算では、
当月売上高―(繰越商品在庫高+当月仕入れ高―次月繰越在庫高)=売上総利益

当月仕入れをどんなに増やしても、売れ残れったもの(期末在庫)が多ければ商品原価にならない。数字にしてみます。

当月売上1億円―(繰越商品5千万円+当月仕入れ高1億円―次月繰越商品1億円)=売上総利益 5千万円

期末在庫(過半は売れ残り)が先月の5千万円から1億円に増えたのに、なんと5千万円も利益が出た勘定。これが会計の損益計算です。

売上収入が1億円しかないのに、仕入で1億円使いましたから、給料も経費も払えない状態(資金ショートか借入金の増加)なのに、売上総利益が5千万円と計算されています。
残っているのは商品在庫1億円。これが売れれば幸いですが。

当月売上1億円―当月仕入れ1億円=売上総利益はゼロ、こちらのほうがよほど日常感覚に合いますね。

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キャッシュフロー会計による現金の増加

【キャッシュフロー会計】
サプライチェーン思考とともに登場したのが、キャッシュフロー会計。名前はスマートですが、極めて素朴な、経営の現金計算です。

【スループット】
キャッシュフロー会計では、<当月売上―当月(原材料または商品)の全仕入=スループット>と言っています。

スループットとはコンピュータ用語です。入力(仕入)されたものが、出力(売上)に至るまでを言います。これをどんどん短くしていく。つまり在庫回転を上げる。これが、サプライチェーンの全体最適のゴールです。

銀行からの運転資金(在庫資金)調達ができず、初めて商売を開始した時の原点に戻るのが、このスループットです。売上の枠以上には仕入れないこと、単純だったですね。まず売ってから仕入れる。これを守れば資金ショートはありません。

サプライチェーンは原点志向です。複雑に見えた時は原点に。
売上に比べて在庫が増えれば現金が減る。在庫が減少すれば現金が増える。今は、昔と違って、商品は稀少なものではありませんね。多すぎれば売れ残ります。

現金を持っていれば、どこででも、どんな商品でも仕入ができます。
サプライチェーンの経営改善とは、本質はここからの再出発。極めて単純です。

全部とは言わないが、過半の在庫は売れ残りです。売れ残り在庫は、日々価値が下落する。従って、在庫は最小限にする。

【リードタイムの短縮化】
その代わりに、発注した時から入荷するまでのリードタイムを短くすする。そうすれば余分な在庫は必要ない。
つまり、発注から入荷までのリードタイムの短縮が、サプライチェーンの改善の根幹です。

逆にいえば、リードタイムを短縮できないサプライチェーンは意味がない。そこまで極言できます。

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以上、サプライ・チェーン・マネジメントで焦点になる部分を、順に解いて来ました。

▼結論をまとめれば、2つに集約されます。
 現場改善の焦点が、ボトルネック工程の改善
 利益改善の焦点が、在庫のスループットの改善

サプライチェーンは、コンピュータシステムやネットワークである以前に、新しい経営改善のツールとしての方法を与えることがお分かりいただけたでしょうか?

ご感想やご意見は
yoshida@cool-knowledge.com

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  Systems Research Ltd. Chief Consultant吉田繁治

   2001年1月17日号:
          サプライ・チェーン・マネジメントの焦点

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copyright : Systems Research Ltd. Chief Consultant 吉田繁治