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ビジョンという「空」、
      及びテンプレートテンプレートという方法
      :業務改革の新しい方法

こんにちは、吉田繁治です。読者数が2万名に迫りつつあります。
予想の最高数字の2倍です。

師走です。新年に向かって事業の<ビジョン>というものの本質を
考え、<標準テンプレート>を考察します。必要な時間は30分。
時に、根底的なことを考える時間が必要です。日々の凌(しの)ぎ
に忙殺されれば、いずれ消耗で終わる。

(※今日2時から4日間、中国(広州)視察です。また観察記を送
りましょう。お読みになる時間は、たぶん飛行機の上)


 <Vol. 82 ビジョンと空、及びテンプレートという方法:01.12.10>

目次】

1.表現ということ
2.不遜ですが、小林秀雄を借りて
3.Visionへ向かった緊張をはらんだ空(くう)が<現在>
4.ビジョンとミッションとリーダシップ
5.昨日のある人の文字で
6.〔エージェント〕−〔ワークフロー〕−〔標準テンプレート〕



■1.表現ということ

▼2000年10月


昨年10月末、通産省公募による受託システム開発の4回目の納品
を9月に済ました後、時間的な余裕ができたのでホームページでの
考察の公開とメールマガジンを開始しました。5年間、書きたいこ
とが溜まっていました。

最初は、3000名の読者があるだろうかと思っていた。どんな切
り口で、表現すべきか考えたのです。<重要ではあるが理解されて
いないことを、日常用語で解く>という記述方針を立てました。

概念的な単語を使い、硬く長い文章を書いてきたので冒険でした。
過去の癖は今も現れます。1年で単行本10冊分を書いています。
来年は、有料版をふくめると1年で20冊分になるでしょう。毎回、
倦(う)まずたゆまず・・・と言い聞かせながら。

視点を定める

<経営・経済・システム・社会を含め、世間の事象は、複雑に見え
る。しかし生きている一人の人間の視点で整理し、原理的なことに
至れば、単純に解きほぐすことができるのではないか>との仮説に
基づいていました。

読者の感想に力づけられ、1年が経過した。数ヶ月前<闇のなかに
文を放り投げる感じです>と書いたことを記憶しています。今、そ
の感じはなくなった。誰かが、どこかで読んでいただいているだろ
うとの実感があります。感謝します。なぜ感謝するか?

表現ということ

表現することは片思いです。読まれることを求めるが、読まれるか
どうかわからない。表現者にとって読まれないことは、辛いことで
す。著作権などは、小さなことです。

<手紙>は個人から個人に向かって発せられる。相手が読まないと
いうことはない。読む相手をあらかじめ決めない書の文は、誰に向
かって書くのか?私が書くとき、想定読者を意識しています。

では、観客がゼロの舞台で演技するとき、演技者は何に向かって何
を表現するのか。ピエロが舞台に出たとき、聴衆がゼロで、ピエロ
の演技ができるか。

自己の内部へ向かう表現もある

表現は相手に向かったものだけではない。自分自身の考えを深める
こともある。そうしたとき、思考の内部世界に入る。多くの先人が
いる。<思考の劇>の世界は、物理では無だが、内感では確かにあ
る。

2.不遜ですが、『小林秀雄』を借りて

師『小林秀雄』は、雑誌『新潮』に『本居宣長』を1965年から
76年まで11年間も連載で書いた。それが607ページの本にな
った77年(昭和52年)、請われて行った学生向けの講演で言っ
た。

講演の言葉

<新潮にぽつぽつと発表しているときは、11年、誰も何も言って
くれないんです。書く作業は本当に孤独なものです・・・そして本
が出た。編集者は経験でこの本ならこれくらい売れると見当がつく。
それを超えていました。もぅ、びっくりするんです。・・・近所
のウナギ屋の主人が、店で『本居宣長』を持ってきて「先生、サイ
ンをしてください」と言う。これは嬉しかったですね。ウナギ屋が
読んでくれている・・・文士冥利に尽きます。いや読まなくてもい
いんです。買った本を読まなきゃいけないという法律はないのです
から・・・(講演のテープより)>

誰も11年間何も言ってくれない・・

11年間も同じテーマで書き続け、周囲の誰も、評論家ですら何も
言ってくれない。孤独は、想像を絶します。著名な文芸評論家の、
恵まれた世界では決してないのです。恵まれた世界は、どこにもな
い。

小林は、仕事は孤独なものだと言った。多くの事業家も、認められ
ない時期、だれも何も言ってくれない時期の孤独な世界を持つ。

そして事業と、金額の多寡は別にして財を賭けた決断が成功すると、
人が集まり、賞賛がある。不運にも、敗れることも多い。そこか
ら再度立ち上がった人がより大きなビジネスをつくる。

サラリーマンも会社に賭けている。日本の労働市場で、転職するこ
とは、幸運な人を除けばゼロのラインに立つ。18,916名の読
者の中に、今日または今週、決断を迫られる人が100名、少なく
とも50名はいる。これから1年間なら3000名にのぼるでしょ
う。

辞表を胸に、仕事をしている人が増えた。大手でも自分の会社が1
0年後も同じ形で続いていると思っている人はいなくなっている。
公務員ですら・・・社会が変りつつある。

会社を辞めたとき<根底的な拠り所>になるものはなにか?
あらかじめ考えておくのも、準備になるかもしれません。

小林は、宣長との対話の思考世界をも持っていた。独自の世界だっ
た。誰にも言われず、ひたすら読み、<架空の対話>を重ね、発露
する絹のようなコトバを綴った。今それを辿ることができる。

身の丈にしっくり合うということ

<この誠実な思想家(宣長)は、言わば、自分の身の丈に、しつく
り合った思想しか、決して語らなかった。その思想は、知的に構成
されてはいるが、又、生活感情に染められた文体でしか表現出来ぬ
ものであった。この困難は彼によく意識されていた。だが、傍観的
な、或いは一般観念に頼る宣長研究者達の眼に、先ず映ずるものは
彼の思想構造の不備や混乱であって。これは彼の在世当時も今日も
変わりないようだ。(『本居宣長』p19:新仮名遣いと漢字に変更)>


宣長の思想を「身の丈にしっくり合った」と感得できることは、小
林自身がそれを求めていたことを示します。小林が思考を重ね、晩
年に求めたものが「身の丈にしっくり合った」世界だった。検証は
できない。記述はその方向を示す。

事業家は、経営者は、サラリーマンは、仕事を通じて「身の丈にし
っくりあったもの」を得ることができるか。仕事とは生活の資を稼
ぐもので、生甲斐になるものを得るものでないのか?

仕事が単に手段なら仕事の先にある<生活>とはなにか。家族とは
なにか。最後まで<身の丈にしっくり>合わなくてもいいのか?
私にとって、仕事は生甲斐です。それしかできない。

【方法】
小林と宣長の姿が、焦点のずれた映画のように二重写しになる。私
には、宣長を借り、小林が自分の身の丈に合った思想を探索した記
録に思える。これが、小林秀雄の方法だった。

『本居宣長』は小林秀雄が発したメッセージです。
どんなフォルムのメッセージか?

思想劇の世界がある

<要するに私は簡明な考えしかもっていない。或る時、宣長という
独自な生まれつきが、自分はこう思う、と先ず発言したために、周
囲の人がこれに説得されたり、これに反発したりする、非常に生き
生きとした思想の劇の幕が開いたのである。・・・私が辿ろうとし
たのは彼の思想劇であって、私は、彼の遺言訓を判読したというよ
り、むしろ彼の思想劇の幕切れを眺めた、そこに留意して貰えばよ
いのである(同書:p20)>

思想の劇の世界。人は言葉とイメージを使い、思考世界を作る。
人が創るあらゆるものは、そこからしか生まれない。

事業は、ビジョンのみがゼロから有を創る。ビジョンの前には何も
ない。ビジョンの後に形ができる。周囲が、顧客が、取引先がいろ
いろと言う。人が集まったり離れたりする。マネーも増えたり減っ
たりする。

3.Visionへ向かった緊張をはらんだ空(くう)が<現在>

事業家は製品で、研究者は言葉と文章で、思考の世界に至る。

製品設計者が描く製図は、彼の思考の世界を線で表現したものです。
建物の設計も、製品も脳髄からしか生まれない。料理のレシピも、
ビジネスモデルも同じです。

音楽家は楽器を使う。画家は筆を使う。サラリーマンはコンピュー
タと紙とコトバを使う。工場は道具や機械使う。小林は言葉を使う。

戦略(strategy)と組織の原義、及びリーダシップ論

90年代の米国でまとめられた新しい経営学(=リーダシップ理論)
では、事業目標(ビジョン)に至るために描く設計図を<戦略:
strategy>と言っています。クリアな定義です。

組織論は貧困だった。太古の昔からの王、王から権限委譲を受けた
指揮官、軍隊風の統制型組織論しか持ち得なかった。この国でリー
ダシップと言えば、織田信長であるし、松下幸之助だった。

時代は変わった。方向は示すが、運営が統制型の組織では、こぼれ
落ちる大切なものが増えた。先進国が、共通にそうなった。だが経
営学は、新しい組織論を発見できなかった。といっても、経営学が
生まれたのは、つい戦後、知的巨人ドラッカーとともに、だった。

90年代の情報化、および民度の成熟とともに、新しい組織論が見
えた。それが、リーダシップ論と自己目標型マネジメントです。

事業目的(vision)と戦略(strategy)の関

戦略は、事業目的を創ったとき、目的実現に至るためのツール(道
具)と方法を整合的に描いたものとして意味を持つ。目的がない設
計図(戦略)は、原理的にありえない。

設計図は目的を実現するために描くものであるし、戦略は事業目的
を実現する手段です。

経営戦略は、事業目的(言い替えれば実現すべきビジョン)の後に
来るものであることを記憶することです。その意味で、経営戦略セ
ミナーは変です。刃物が切れても、材料が新鮮でも、それだけで料
理は作れない。問うべきは事業目的です。

戦後の創業期は別にして、日本は2代目・3代目の世界に入った。
創業者には<貧からの脱出>という目標があった。皆貧困だった。

2代目・3代目にはその動機が欠け、維持型のサラリーマンになっ
た。サラリーマンは事業の目的を考えることはない。上から与えら
れた目的・目標、またはビジョンを遂行する戦略を起案し、上から
の承認をとって実行すればいい。

事業の目的そのものが有効でないとき、戦略も資本も無効になる。

青木建設の事業目的は何だったか。ダイエーの、IY堂・ジャスコ
とは異なる事業目的はなにか? マイカルの事業目的はなにか。富
士通とNECは? 長銀は? 興銀は? 三菱は? NTTは?
実はバブルではなく、ゼロからの創業のときは明確だった事業目的
が薄れたとき、事業が融解に向かうのではないか。

事業ではこれらの目的を<ビジョン>と言っている。事業に生命を
与えるものは、使命(ミッション)感を持って実現すべきビジョン
です。

顧客に向かったビジョンを失えば、自己正当化と、共同体化した組
織の生き残りだけを目的にした<凌(しの)ぎ>になる。多くの会
社がそうなっている。その原因を、根幹から解くべき時期なのです。

21世紀のチームメンバーが、そして顧客が、心から協賛できるビ
ジョンを描けるか、そのビジョンの実現に鮮烈なミッションを持て
るか?建設、金融、流通、官僚は、特殊法人はどんなビジョンを持
っているか?顧客に向かったビジョンをもたないで存在できるのか?

ビジョンが世界中の経営体で肝要になった。

4.ビジョンとミッションとリーダシップ

<ビジョン=理想>では大切な意味が逃げる

ビジョンは日本語では<理想>と訳される。あなたの会社のビジョ
ンはなにか? あなたのビジョンはなにか? 問われれば理想とい
う日本語のニュアンスに引きずられ、いや理想はとてもとても・・
・と口ごもる。翻訳語につきまとう欠陥です。どうもしっくり来な
い。

小林秀雄の用語では<身の丈>ではない。

<ビジョンというカタカナ語>がある理由は、visionが含む大切な
ニュアンスが日本語の<理想>では伝わらないからです。

生硬な概念のままだから、カタカナ語が使われる。
原義を辿(たど)ります。

vision : a picture in your mind of a possible situation or s
cene(Longman)
ビジョン:心の中に描く可能な(未来の)状況または場面の映像

ビジョンとは<未来へ向かった心の中の絵>
あなたの会社に、そして大切なことはあなた自身に<未来へ向かっ
た心の中の絵>はあるか? 問うべきは、そこからなのです。

<空(くう)>ということ

【ビジョンというもの】
ビジョンは思想劇です。ビジョンは、今は影も形も無い、触ること
もできない。しかし心(mind)では思い描ける。言葉や映像で描い
て伝えることができる。同じ考えを持つ人間の間に広がり、ビジョ
ンの実現のための、役割分担の組織ができる。それが経営の原型(
プロトタイプ)でしょう。

ビジョンのように、今はまだ無いものは<無>と言います。実は<
無>はある。無はないのではない。心のなかにある。仏教では<空
(くう)>と言った。

そして、<空>は無でありつつ有であるとした。

形式論理を超える】
空の概念は、西洋の形式論理学では<矛盾>です。西洋人の思考の
根幹にあるアリストテレスの論理学では、有るものはある。無いも
のはない。その中間項はない。アリストテレス論理学では<神は存
在するか存在しないか>のどちらかです。<存在するなら本当の神
か、偽の神か>

一方が真なら、一方は偽である。この形式論理は、科学も生んだが、
歴史では大量の虐殺や終わりのない闘争があった。

形式論理学が生む闘争
神の存在を信じる側と、信じない側(あるいは別の神を信じる側)
で闘争が起こる。自分が信じる神がホンモノだと闘争を起こす。

仏教は、仏はあるようでもあり、ないものでもあると言う。曖昧模
糊としている。仏教では、仏を信じようが信じまいがかまわない。

形式論理の限界から向かうもの
21世紀は、西欧的な形式論理の理性の限界が出て、東洋的な思考
に向かう。もうしばらくすればだれの眼にも分かるでしょう。そう
した、有史以来の変化が起こる。東洋思想の時代です。

その前に、闘争がある。歴史は闘争を経ないと決着はつかない。
闘争の無益に気がついたとき、人は変る。

アフガン戦争、そして予想されるイスラエル・米英連合軍対、パレ
スチナ・アラブ連合軍の闘争は、人類にとって有益な意味があるか?
 9月11日以降のアメリカが向かっているように、兵器産業に
税を使い武器を量産すれば、人間は安心でき、仕合せになるのか?
貧困に発するテロリズムからのセキュリティは、武器で守れるの
か?

【物理的世界観】
死は、物理的には人間を物質に分解する。物質が規則(DNA)で
組み合わされ、人体と心を作っていた。死によって、その人の心ま
で消える。物質は、分解され形を変えて残る。物理的世界観。

意識と心の世界観】
では、死者の心は無かったのか。その人が思い描いたビジョンは無
かったのか。それはあった。私の父の心はあった。今、墓の中のど
こを探してもそれはない。だか、父のこころはあったし、<今もあ
る> 過去であるが現在でもある。

私は、ありありと感じることができるのだから。

本居宣長も小林秀雄も死んだ。物理的には人体は分解してしまった。
しかし、記憶という心の世界に、日本人の心の世界に生きている。
小林秀雄は焼かれ煙と灰になった。しかし小林秀雄は、私の意識
の世界では現在です。

思考的な世界がある。彼が残した文字を辿って、小林秀雄の思考世
界の襞まで、感得できる。人間は、言葉と文字での表現手段を持っ
たことで思考世界を創った。

このメールマガジンの99%の読者を、直接は知らない。手段は文
字しかない。しかし文字を通じた私の想いは、どこかの誰かに伝わ
っているだろうという感覚がある。これは具体的なものでしょう。

▼空がはらむエネルギーが源

<ビジョンが実現された状態>は、今はない。
事業家の心の中だけにある。実現へ向かった強い意志(使命感=ミ
ッション)がある。この心的な緊張が、ビジョンと現在をつなぐも
のでしょう。

<空>がはらむ緊張の心のエネルギーが、工場や店舗の事業を生み、
商品とビジネスモデルとマネーを生んで、街を作り、人を変えて
いく。人間の思念という無から、有が生まれる。

唯物論の自然科学では及ばない<心>の世界です。
人間の意識の内感を、自然科学は解かない。しかし私が感じている
内部感覚は、明らかに<実質>をもったものとしてある。

だれもこれを否定はできない。

物理学】
物理学は、舌が感じる甘さを物質の反応に還元する。しかし物質の
反応で、私が感じた〔甘さの感覚〕を味わい、伝えることはできな
い。甘さは、味わうものです。物理学では<美>を解明できない。
私は美を感じることはできる。言葉で伝えることもできる。

そして〔空としてのビジョン〕へ向かうリーダシップまで

ある人は<リーダシップ>をどう訳すか考え続けた。
リーダシップと言えば、指導力、人を方向付ける力と解される。
だが、こぼれ落ちるものがある。非凡な人は、普通の人が安易な理
解で済ますことに疑問を持つ。

彼は考えた。
<空としてのビジョン>に向かい、現状を、ビジョンに向かって整
列(organize)させ、人をビジョンに<結ぶ>ものがリーダシップ
というものではないか?

そうすると、リーダシップの適訳は<目標に描いた状態と現状の結
び>ではないか?彼とは藤原直哉です。<結び>はなるほど名訳で
す。これで、リーダシップの本質に近づける。

リーダシップは目標と現状に橋渡しをすると同時に、人と人のチー
ム、役割分担の組織を創る。チームで、人は、ビジョンに向かった
<自己目標>で動機付けをし、専門的な仕事をする。

やる気と技術・知識はどちらが重要か。やる気です。優秀だがやる
気のない人と、技術も知識もないがやる気が溢れている人、どちら
が集まった組織が優秀か。答えは言うまでもない。

そうなると、以下がすぐ導けるのです。
<〔ビジョン〕−〔ミッション〕−〔リーダシップ〕−〔バリュー
(行動綱領)〕−〔戦略の設計〕−〔日々の仕事〕>が有機的に
<結び>つく。これが経営です。
管理型、統制型では生まれない自己増殖型の組織でもある。

(最後の章で〔日々の仕事〕の部分をテンプレートとして解きます)

威嚇権力に基づく、統制・命令・作業割り当てには拠らない、新し
い経営組織です。21世紀はリーダシップ型組織の時代になる。

10年の執行猶予の終わり

世の中がいろんなところで<煮詰まって>きている。近未来はいい。
現在が問題という視点は、確かにある。現在を、一言で単純にま
とめれば、どんな時期か?

<10年の執行猶予>は終わった。<マネーが与えた執行猶予>を
過ぎても、事態が改善に向かわず年々深刻化した。<なにがなんで
も増えたいマネー>は痺れを切らし、執行猶予の終了を宣言した。

それが今、つまり2001年秋です。GDPや大幅に落ち込んだ上
場会社の経常利益は、架空の数字ではない。多くの人が、その数字
の上で苦しんでいる。

5.昨日のある人のメールで

<北京出張から帰って一旦は自宅に戻り、今朝、(会社に)出てき
ました。 今日は、お客様のところへ謝りに行きました。 納期を
取るか品質を取るか迷って、納期に賭けたのですが、それが間違い
でした。 なんか疲れているので・・・>

大手エレクトロニクスメーカーで電子部品を作る製品課長です。
3年間のドイツ支社の勤務を終わり、昨年日本に帰ったと言う。

<私の仕事は、付加価値のない製品の上でストリップを踊っている
ようなものです>とのメールが来た。

多くの人が、会社の現場で、ギリギリの選択が必要な仕事をしてい
る。のんびりしているのは、官僚と政治家だけかもしれません。形
容詞が多く言葉だけが激しい。自分は無関係とする表情に安逸が見
える。

サプライ・チェーンは部品メーカーにとって迷惑なことが多いと言
っていた。今もってこいと言われる。発注予約の約束を変える。共
有ビジョンのない浅薄なサプライ・チェーン。

ユーザーの少量発注やキャンセルに価格を上げずに応じる。そうし
た時の正当化に、サプライ・チェーンが使われることが多いと言う。
上流へのしわ寄せ、なるほどそんな一面もあるのかと思った。

<吉田さんは、サプライ・チェーンの推進ですね。自己本位のユー
ザーが多く、メーカーはそれを受けているという取引の実態も知っ
て、共通ビジョンとwin-winの関係になるように推進してください>
と警告を受けた。

先月の健康診断で、癌の疑いがあるので、精密検査をと医者から言
われたときのメールは、以下だった。

<誰しも、余命が分からない中、老後に困らないようにって、我慢
していることがたくさんあるじゃないですか。 私も、平均寿命を
念頭にライフ・プランを立てて、「今」を頑張っているところがあ
りますし。 

でも、同時多発テロのように、あっという間にピリオドが打たれて
しまうかもしれない。将来のために今を少し犠牲にしていたところ
が、その将来がなくなって、味気ない「今」だけが残ってしまった、
みたいな。

以前から、余命が分かったらいいなぁという思いがあって、それも
元気なうちに。そしたら、しておきたいこと、行っておきたいとこ
ろ、逢っておきたい人、漫然と長生きするより、後悔することなく
カバーできるような気がしていて、その中に癌っていうのも念頭に
ありました。 

そんなことを以前から考えていたせいか、今のところインパクトが
小さいみたいです。 不謹慎ですが、余命が2年で1年半は元気でい
られるのなら、仕事を辞めて、あそことあそこに行って・・・なー
んて、ちょっとワクワク(?)している部分すらあります>

私が癌の疑いを言われれば、見苦しく慌てるのではなかと思った。
その人が送ってきた<なんか疲れているので・・・>が気になった。

私は以下のような返事を書いた。

<メールありがとう。おそらくそちらは寒いでしょう。好きな本で
も読んで寝るのが一番かなぁ。そのとき部屋の暖房はないほうがい
い。
寝床の中だけ、暖かい感じがいいんです。本を読んで眠るとき、温
かさが次第に体を蔽って、まどろむという感じが好きです。世間が
消える。

15年くらい前かな、独立したてで原稿で忙しく本が読めず、その
ときは(キザに聞こえるかもしれないけれど)サミュエルソンの経
済学を原書で読んでいて、それを手にして寝床の入ったとき「仕合
せの感じってこれか・・・」って思ったことを鮮明に覚えています。

そのとき、仕合せが形をもったから、いつもそれを思い出すんです。
そうすると、形がはっきりしているから、終着点があります。

さぁ、寝床へ、ってね。あのときを思い出すんです。ヘーゲルやカ
ントなど、または別の哲学者のものでもいいかもしれない。時間を
かけることが必要な、繰り返し読める思索的なものを決めるといい
かもしれない。

根底的なことを考えた人のものを読むんです。
比較するのは変だけれど、世間のことが小さく思える。
そうすると内面に別の世界を作ることができます。思考の箱庭です
ね。そこに言葉が道を作る。誰も入り込めない世界です。

人間の相互な世界は、相互交換的だから気持ちがズレます。
でも思考の世界は、ズレない。気遣いも要らない。
自分が王の、自分の箱庭です。それがあると、ずいぶん気持ちは平
静です。

新宿の地下鉄の段ボール箱でも、きっとこんな世界があるはずです。
だから段ボールでもいい。段ボール箱のなかって、素敵に仕合せ
がある感じがします。>

5月に、東電OLの渡邉泰子を取り上げた<心の闇>を書いていた
とき、<渡邊泰子のことを語るのは、自分自身を語るようなところ
がある。かなり慎重に言葉を選んでも、思いがもれる。誤解を受け
るおそれもある。無意識のなかに封じこめておきたい部分です>と
いうメール↓を下さった方です。(幸い腫瘍は良性だった)

http://www.cool-knowledge.com/0529Kokorono-yami(1).html

20世紀から21世紀にかけて、会社も、多くの人も困難を経由す
る。構造改革のプロセスだと、しれっと言うことはできない。マネ
ーとは無関係な、内面の世界をどこかに持つことでしょうね。そう
すれば、最も怖い<自己崩壊>が防げるかもしれないなぁ。

<不安>は、老後の年金や健康だけではなく、もっと根源的な社会
とのつながりを失うことによる自己崩壊でしょう。

この国で失業が増えること、5年後から思えば無駄な仕事が増える
ことは避けられない。痛みは、自分でなければ親族、知人、友人を
巻き込んだものになる。<心>の準備が必要でしょう。

一方で、21世紀が向かう仕事の世界もある。それが先週示した〔
エージェント〕−〔ワークフロー〕−〔標準テンプレート〕のシス
テム的な世界です。

以降で前回の記述を補いながら、説明を加えます。

6.〔エージェント〕−〔ワークフロー〕−〔標準テンプレート〕

先週の<ERPからサプライ・チェーンの可視性まで>は、反響を
呼んでいるようです。後半では、これからの業務改革のコアになる
<〔エージェント〕−〔ワークフロー〕−〔標準テンプレート〕>
の概念を示しました。

単純なことなのですが〔用語〕の生硬さから、難しく思えるかもし
れません。まずは最も基本的な仕事の部品になる標準テンプレート
から。

標準テンプレート(template:鋳型・金型

テンプレートは鋳物を作るときの「鋳型」です。鋳型を作れば、寸
分違わないものが多く作れますね。<鋳型>(または金型と言って
も同じですが)をたくさん作って、組み合わせれば、複雑な製品も
作ることができます。

標準テンプレートの原意
ここから派生し、
(1)業務を、小さな、安定した単位の作業に分解し、<単位作業>
にする。
(2)単位作業に対して<テンプレート:鋳型・金型>を作ってい
けば、一見では複雑で高度な業務の塊も、だれもが<標準的に>遂
行できるようになる。

現代工業は、金型を使います。金型によって、中世的な匠(たくみ)
の世界が、精度の高い近代工業になった。

作業標準への応用】
生産物だけではなく、業務にテンプレートの考えを応用し、現場作
業の標準化(Standerdization)を図っていく。これが、ERP
(Enterprise Resource Planning)の方法です。

表計算を使いひとつのテンプレートを作るとします。ABC分析を
グラフ化する(マクロ)プログラムでもなんでもいい。

標準化】
作った<テンプレート:鋳型・金型>を登録しておけば、他のだれ
が異なる数値入力をしても、作業手順と得られる結果は標準的なも
のになる。

複雑な構造のテンプレートも作れます。例えば、難題の在庫管理で
の発注法の公式です。

【事例】

週間の発注サイクルの時の公式
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
月曜の必要発注数=
 ={入荷までのリードタイム(日数)+発注サイクルタイム(日
数)}×(1日あたり)売上予測数−発注時点の有効在庫数+安全
在庫数
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
・「入荷までのリードタイム」は、発注をした日から、入荷するま
での日数
・「有効在庫数」は、現有在庫のうち、顧客引き当て(予約等)が
なされていなくて、販売や出荷が可能なもの。
・「安全在庫数」は、売上の変動をカバーし、欠品を避けるために
余分に持つ在庫。
・安全在庫数=売り上げ数の統計的な変動幅(標準偏差値)×2.3
(安全係数)=99%の在庫安全率(=1%の欠品率)

これを、表計算ソフト、または別のプログラムで組んでおけば、最
適発注数量計算の<標準テンプレート>になりますね。

こうした大きな塊では単位作業のテンプレート(鋳型・金型)とは
呼ばず、ワークフロー(作業の標準的な流れ図)及びエージェント
(代理人)と呼んでいます。テンプレート間の、作業フロー(作業
の順序と結果判断による分岐)があるからです。

標準テンプレートからワークフローの概念へ

上記の、週間定期発注法を例に言います。

【エージェントの概念とワークフロー】
まず入荷までの<リードタイム>を計算する必要があります。過去
の商品別・ベンダー別の〔発注日と入荷日の日数と所要時間の統計〕
を取る必要がありますね。正確にやるなら大変な作業です。

発注と入荷日のデータベースを調べるプログラムを作って、自動計
算させる。自動計算をさせるものを<エージェントプログラム:業
務の代理人>と呼ぶことができます。あなたに代わって作業をする
から。

名づければ<入荷リードタイム統計エージェント>になる。ある商
品を指定し<入荷リードタイム統計エージェント>のプログラムを
立ち上げると、あなたに代わって、プログラムが条件に合うデータ
ベースを検索し入荷リードタイムを自動計算して、統計結果を教え
る。あるいは、発注公式に自動入力する。

売上予測でも同じです。統計的な予測に必要なデータベースを集め、
計算するプログラムを作り集計処理をさせるものを<売上数予測
エージェント>とする。

ユーザーはある商品を指定し<売上数予測エージェント>を立ち上
げれば、その結果を自動的に得ることができます。

こうして、熟練的・技術的・知識的な業務を次々に〔標準ワークフ
ロー〕にしていく。結果は業務生産性の向上と、需要適合による無
駄な資源使用のカットです。

これが、ERP(Enterprise Resource Planning)、
日本語で言えば、
(1)企業の基幹業務を標準テンプレートに分解し、
(2)標準テンプレートで、ワークフローを再構成すること。

ここで特にERPと言うのは、わが社だけの固有業務と思っていた
ものが、業務を組み立てている<最小の業務単位>にまで遡ると、
各社の業務は共通のものになるということがあるからです。

<ABC分析のグラフを作る>という単位作業は、財務省でもNT
Tでも、メーカーでも店舗でも、同じ<標準テンプレート>にでき
ます。複雑になりますが発注法(=在庫管理)の公式も同じです。

各社の基幹業務が<横に標準化>され、情報が共有化されていく。
その情報が共有化された状態を、メーカー、物流業者、倉庫、店舗
で相互に作ればネットワークの意味でのサプライ・チェーンになる。
標準テンプレート化した業務を外部に委嘱すれば、<アウトソー
ス>になる。標準テンプレートは、そうした威力を持つ。

と同時に、自社でプログラムを組まなくても、自社のワークフロー
に合う<標準テンプレート>を組み合わせるという方向もある。こ
れが、標準パッケージ化です。

私は<標準テンプレート>の世界を、肯定的・積極的に見ています。
雇用が奪われるのではない。例えば、金型が発明され製造で普及
することで、われわれは品質の優れた故障しない車を、気軽に買う
ことができるようになってきた。

そうした変化を、製品の面ではなく、仕事の基幹部分で広げていく
のが<標準テンプレート>の革命的な概念だと考えています。

そうしたとき人間は生活の資を稼ぐための労働に支配されなくなる。
そうなればなるほど、人間の内面世界、思考的な世界が、輝きを
増すだろうと判断しています。労働からの疎外から開放され、個の
ライフスタイルを追及する人を増やすことができる。

(注)ERPは、ドイツのソフトウエア会社SAPの命名によるも
のです。ここでは、SAP、i2、Baan、Oracle等のERPパッケー
ジを示すものではなく、私の解釈での<一般概念にしたERP>に
ついて記述しています。

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