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こんにちは、吉田繁治です。正月は2週分、お休みをいただきました。数十冊の本や、溜まった雑誌を読んでいました。 ▼チープ・シック&ファッション ついさきほどお昼を食べに、近所で評判の新しいイタリア料理店に行きました。漆喰風のクリーム色の壁、松材のオイルステインの家具、そして同じ材のオイルステインの木の床で、イタリアの田舎を演出するセンスがいい。チープ&シックでコストはかかっていない。 12卓くらいが友達連れの主婦でいっぱいだった。(珍しいことではありませんが)イタリアで修行したシェフが丁寧に声をかける。食のリーゾナブル・ファッション化です。 日本人の消費感覚は、高度です。洗練と、経営者の姿勢、思いまでを読み取る。年間1700万人の、度重なる海外ツアーでのリゾートや本場の店舗の体験が累積している。こうしたことが、社会と消費の意識の本質的な部分を変え、変わらぬ供給サイドに不満を感じている。 ▼至る所、視点の欠如がある これを無視した商品開発も店舗もリゾートもあり得ない。顧客が頻繁に海外に出かけ、ホンモノ体験をしたことを前提とした商品と店舗、販売方法になっているかどうか。 安易に空白の90年代と言われますが、人間の経験、消費者の体験は、空白ではない。累積している。これを忘れている事業家が多い。 ▼90年代で変質した比較のスパンを認識する 国内の店舗であっても、世界の選択された最良の部分との競争が起こっている。店に行って、またはレジャーで、あぁ、これは違うと感じるとき、その比較で浮かぶイメージは、なんらかの感動を受けた強い印象の店舗でありリゾート、またはサービスです。人間の記憶は、その人の経験の全体からなる。消費者は感動を求めている。 邱永漢は、中国が1979年の経済開放後、数万人の留学生を海外に送る決定をしたとき、これで中国は後戻りのできない自由経済に向かうと直感します。その直感は正しい。(本稿の後半) 毛沢東主義の中等教育と文化大革命の洗礼を受けた数万人の留学生が、米国や西欧の生活・行動様式・商品・テクノロジー・自由主義・市場経済に触れれば、その衝撃で、もう中国は統制経済に後戻りはできない。 明治の日本がまず行ったのも、帝国大学の学生の西欧留学だった。西欧から近代国家の運営の仕組み、法、学を持ち帰った。これがなければ日本の近代化はなかった。 ▼時事的なこと 遂にダイエーへの<産業活力再生特別処理法>の適用が、報道されることになった(01.14) こうした対処に、危惧を直感します。 ワークシェアや技術論で解決する問題ではない。表面はバランス・シートの崩壊ですが、再生のポイントは顧客と社員、及び取引先からの熱い支持です。 ダイエーが顧客に必要な店舗なら残る。必要なければ消える。社員の熱い思いが伝われば、取引先と顧客を動かす。それがなければ、金融支援をしても無駄です。 ダイエーの他とは違う存在理由とはなにか、そこを青臭く、事業創造の時のように、志とビジョンを持って問うべきです。 企業の再生の本質は、金融支援や債権カットではない。社員と顧客に向かったビジョンの再構築です。返しきれない不良債権処理の本質も、そこにあることを忘れないことです。 今回の救済が、経済産業省の主導で進むことがないよう望みます。理由は、企業経営と銀行経営双方への無責任が忍び込み、飛び火するからです。経営の再生は、人間力からだということが忘れられるからです。 小売業の代表となる案件であるため、政府主導での再建では、今後の事態は一層深刻になる。肝心要のところで政府頼みでは、悪化した内容を他へ転嫁することに過ぎず、これが重なれば、最後は経済原理での恐慌の種を作ることになるのです。 再建は、財務ベースでは行えない。売上が低下した原因に遡った逆転でなければならない。金利を減らすことも債権カットも、要は、悪くなった部分を他に移転することです。社会の富を悪化させ、事業家精神を劣化させることです。これがすっかり忘れられている。400兆円を使った10年の公共事業で経験したことなのに。
中国は、巨大で複雑です。センスのよさ、洗練の一方でぎらぎらした欲望、圧倒的貧困と富裕、日常化した不正、勤勉、共産主義の尻尾、超市場経済、伝統的な行動原理、ありとあらゆるものが雑多に、闇鍋のように煮えたぎっている。 今週は中国に対し、どんなスタンスをとるか、一緒に考えましょう。各社の新年号の雑誌を読むと、中国との関係に対し、肯定と否定への二分があり、双方の視点に、忘れられた大切なことがあると感じたからです。 <Vol.85 中国リポート(3):巨大で複雑なフロンティア> 【目次】 1.雑感 ■1.雑感 ▼センス・内容・良質とReasonable Price 7、8年前まで、付近には高級レストランが多かった。今は消えている。高級の意味は、高額だった。今、reasonable price(納得できる価格)の料理店が、ポツポツと出始めた。 2ヶ月前には、歩いて3分くらいのところに、15人もはいれば満席になる小料理屋もできた。reasonable price、良質な料理、愛想で出店当初から繁盛している。reasonable priceには適当な日本語がない。価格の重要概念です。安いということではなく、妥当というニュアンス。1週間に1回くらいの頻度で行きます。 【部分的な価格の逆転】 他方、90年代後半からNYやロスアンジェルスの大都市では高額料理店が増えた。80年代は、米国のレスランは安かった。今、内容で同等のレストランの価格を較べると、日米が逆転している。 食材では農の国:米国が安い。日本は高い。しかし料理という調理とサービスコストを加えた最終の食では、価格が下がった。 米国は、ナスダック・バブルの90年代末に、店頭の商品も含め価格で行き過ぎた。これから修正が起こる。世界同時に、そうしたプロセスを経る。日本はその面で先行する。 ところが、米国のほうが、修正プロセスも含め変化対応は、日本より4倍速い。理由は、(1)4半期決算であること、(2)雇用の流動性があること、(3)キャッシュ・フロー経営(要は現金支入での経営)であることの3点です。 日本では今、変化をとどめようとする力が強く働く。社会の固定化がある。そうなれば、最後はキャピタル・フライトが起こる。 ▼消えるプロセスから出現するプロセス しかし消えるプロセスを経て、出現するプロセスも起こっています。 近所という超ミクロ経済の領域。こうした変化が次第に広がることが経済の再生です。変化はゆっくり起こっている。まだシャッターを閉じ、買収を待つ店舗が多い。大阪は日本でも不況の筆頭都市です。昨年の地価下落は、政府データで10%だった。実態はおそらく20%以上です。下降プロセスの底打ちはない。 マクロ経済のGDPは10年間、500兆円前後(01年名目502兆円)で変化がない。変わっていないのではない。500兆円の内容に、目に見える興亡がある。 <上げ底経済の修正プロセス>が形をとって見え始めた。しかしまだ100兆円分(GDPの20%)が上げ底ではないか。そう思えるのです。銀行はリスク負担ができないため、企業は投資の直後からキャッシュ・フローが必要です。経営の方法も変わった。 ▼問題は固定費構造 売上額が10%減るとき、10%の経費を減らせる構造があれば、利益額が10%減るだけで、経営は続く。資金難になる理由は、経費の固定構造があるからです。経費の固定構造を脱することができないとき、新しい資本に入れ替わる。易しい論理です。 現代経営は、固定費を、または上昇する経費構造を抱え込んだ。 そのため日本を含む先進国の戦後経済は、インフレ構造だった 生産性(一人当たりの付加価値額=粗利益)の上昇と経費が比例する構造を作ること、これが企業経営の普遍です。 銀行問題は預金者の金利を固定し、需要の過大見積りの上でリスク投資へ向かったことが本質です。リスク投資は、上げ底需要を見ていた。上げ底を前提とした投資は、一時的な貸付を行っても経費の支払い充当であれば無駄になる 。 大手企業の多くは、80年代後半から、固定負債の銀行借入からエクイティ(時価発行増資)に向かった。増資はリスクを見込むマネーです。このとき銀行からの固定負債に依存した投資の多くが、今、不良債権になっている。 ▼市場経済における<再帰性> 【実体】 投資時点で、名目金額で3%増加する需要を5年間見込めば(1.03の5乗で)16%の増加見込みになる。一方需要額が3%ずつ減額(0.97の5乗)すれば15%の減少になる。両者の差は31%です。まとめればこれが現在、30%の売上不足と過剰な負債。不良債権の総額は民間銀行融資分でも、おそらく150兆円はある。 【再帰性での補強】 これに心理的な補強が加わる。人間は事実をありのままには見ない。事実を予測し将来を<評価>する。経済の下降局面では、その下降のトレンド線が、人間の評価で補強される。上昇線も同じです。 心理のパニックを含む<評価>をあらわすのが、将来への共同幻想で形成される株価、地価、資源価格を含む市場経済です。市場経済の価格は、実体経済の合理性の2倍から3倍の変動を繰り返す。 市場のプレーヤーによる評価が、上昇であれ下降であれ実体としての変化を補強し、変動幅を増拡大する現象を、投機家ジョージ・ソロスは、<再帰性>と呼んだ。再帰性は投資理論の根底にあるものだと言っている。(理解されにくい本、『ソロスの現金術』総合法令) 【金融のパイプラインでの自己資本の劣化】 少なくとも2年は、銀行が積極的な資金供給ができない状態が続く。理由は、貸付のリスクを担保するために、利益の蓄積分から引当金を積まなければならないからです。 自己資本の劣化、実質債務超過で銀行がリスクテークできる幅が消滅している。対中小企業金融は壊滅状態と言えます。実物経済に向かう資金が縮小する。デフレは加速する。 企業収益やバランス・シートの悪化の程度に比較すれば、個人所得の減少はまだ小さいが、今年は失業が急に増える。以上は確定しています。ここで目を隣国に転じます。 ■2.巨大で複雑なフロンティア ▼アンビバレンツ 2001年12月からのWTO(世界貿易機構)加盟で、中国論が盛んです。日本人は中国に対する態度で、評価と否定;好きと嫌い;愛憎;優越と劣等;肯定と否定の引き裂かれたアンビバレンツを抱えます。複雑な巨大国。ビジネスのリスクも機会も大きい。 ▼フロンティア 【フロンティア】 事業パートナーとして見ること、可能性を見ること、将来を見ることです。そうしたとき、わが社の事業に、今日の仕事に新しい地平が見える。中国は、日本経済と産業のフロンティアに思えます。 整備が進んだあとは、フロンティアではない。 【腐敗と非効率】 共産党独裁の腐敗は、至る所に見える。この構造は日本の特殊法人や公共投資と類似します。官僚支配は人的コネクション、裁量、お目こぼし、隠蔽される不正、数字の操作、非効率の温床です。 古今東西、太古の昔から同じです。将来も、同じです。理由は顧客の評価に左右されることがなく、政治勢力での予算獲得だからです。経済とは異なる原理の、政治による支配だからです。政治が経済を支配するとき、双方の原理は異なるから、いずれ破綻する。 【国営企業と、日本の特殊法人】 中国の王朝と国営企業は、日本の官僚機構や特殊法人のような生活共同体です。生活共同体は、二重規範を持つ。内部の正義は、突き詰めると、共同体の権益の拡大です。それが外部の正義、および評価と衝突する。経済全体の効率と、衝突する。 (↓共同体の二重規範)http://www.cool-knowledge.com/0810Kyoudoutai-Niju-kihan(1).html 中国の国営企業を見れば、不良債務と非効率で、崩壊に進むように見えます。(『中国はやがて崩壊する』ゴードン・チャン) 一方、華僑的な企業家精神を見れば、機会の宝庫に見える。 私は、磨かれる前の機会の宝庫を見ます。 中国に関しては、論評は多いのですが基本数字が取り上げられることが稀です。映像的なイメージを作る目的で包括的に見ます。 ▼40年前と、30年前の日本 中国は今どんな経済状況にあるか。在日中国大使館が集計している面白いデータがあります。 【中国の1人当たりGDP】 【いつの日本に該当するか?】 (為替レートは当時のもので換算) 13億人は40年前の日本の所得レベル。北京・上海は30年前の状況とイメージ化ができます。(数字で見る中国経済↓)http://www.japan.org.cn/jp/2nd%20tier/03keizai/lc0103-03.html 北京市の市内人口は1382万人、上海市は1674万人。周辺を含めれば各々が2倍になる。ともかく、破壊的にすら思える人口です。 ▼賃金 賃金水準を、アジアとの比較で見れば、以下になる。(1998年) 【月間賃金】 【日本比】
都市部(660都市)の人口は4億人、農村部人口は9億人。外資企業は都市部にある。国営企業は、鉱工業生産の27%しか生んでいない。 都市部の就業者は2億1千万人で、そのうち5千万人が3年間の就労許可をもらった農村部からの出稼ぎです。5千万人は3年で入れ替わるため、最低賃金の上昇がない。失業率は高く、公式集計でも8.8%(99年)とされる。実態では、その2倍はあるでしょう。 これが賃金の上昇を止め、生産過剰で中国内ですらデフレになる原因です。中国は、賃金の高い順に言えば(1)都市部エリート層、(2)外資工場労働者、(3)国営企業の労働者、(4)農業従事者と、4色の経済の混合です。 【産業別就業構成】 (85年) (95年) (99年) 農林水産業 62% 52% 50%(3億5千万人) 鉱工業の1億6千万人は、日本の製造業1千万人の16倍の就業者数です。就業人口の50%を占める農林水産業の生産性が問題です。 【農業の生産性】 (中国) (インド)(ロシア) (米国) 1人当たり耕地(ha) 0.1 0.17
0.85 0.66 農業の生産高は、米国の130分の1です。つまり130人で米国人1人分の生産高(ドル金額)。国民の半数、6億5000万人の年間の世帯所得は4万円弱です。 一方では農業の生産性の低さ(アジア的貧困)が背景にあり、教育の整備があるとき、量産工業に火がつくと経済成長は高くなる。日本の1960年代の高度成長期は、農家から都市への中卒の集団就職と、都市の工業高校からの現場労働者の雇用だった。 中国は、全体では日本の1960年代の、そうした時期に対比できます。異なるのは、外資企業への応募の競争的な殺到があり、労働許可証、滞在許可証に利権が絡む。 ▼都市部地域内での生活格差 都市の内部でも生活水準の格差があり、格差は拡大しています。以下は都市部の低所得者と高所得者の、耐久消費財の世帯普及率(99年)です。 洗濯機 冷蔵庫 TV エアコン 携帯電話 パソコン 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜低所得者 80% 60% 93% 21% 1.5% 1.8% 高所得者 99% 90% 130% 44% 16.7% 12.0%
▼貿易 【中国の世界貿易と、対日貿易】 (94年) (97年) (99年) 94年から外資を呼び込むための人民元切り下げ(1元=15円:米ドルへのリンク制)と、外資の投資への規制緩和と税の優遇策をとったため、投資が増え輸出が伸びた。そして90年代後期の発展になった。 2000年には貿易収支の黒字は$250億を超え、外貨準備も2000億ドルを超えた。(日本は4000億ドル:01年11月) 日本は、米国・EU・アジア相手では黒字を出します。中国相手では大幅な入超で、年間200億ドル(2兆6000億円)くらいの赤字です。 角度を変えて、米国の貿易赤字(00年で$4300億:約50兆円)の最新数字を見ます。 【米国の貿易赤字の、相手国別の構成比(2001年1月〜10月)】 中国 日本 EU カナダ メキシコ その他 米国の貿易赤字は、対日本が最大でした。これが中国に代わった。象徴的転換が見えます。(ただし日本は国内製造品の輸出ではなく、日本の生産コストの高さから現地生産に向かっている。今後こうした傾向は加速します。企業ベースで見ることが必要ですね) ■3.外資の中国投資 中国経済は、1979年から経済特区とその周辺都市への外資、合弁、外資の技術輸入を工業化の導火線にしています。 【世界の対中直接投資:契約額でなく実行金額ベース】 99年末 2002年現在、1年で5兆円くらいの外資の中国投資があると見ていい。 実質価値では、その5倍から10倍です。日本の企業の民間設備投資は75兆円から80兆円。中国への外資の投資が、実物ベースでは、25兆円から50兆円にのぼる巨額であることがわかる。 【対中直接投資の累計額(99年末)】 日本 米国 香港 台湾 韓国 独 仏 (注)日本は直接投資以外に、1998年末までに合計2兆5千億円のODA(開発援助)を行っている。直接投資総額の$249億に匹敵。このODAは、有効に使われていないとの指摘は過去からある。 世界からの対中投資の累計実行額は3077億ドル(40兆円)です。中国の近代工業化と、世界の過剰生産にまでに火をつけたのが、20年間での世界の対中投資40兆円(年間平均2兆円)です。 40兆円は巨額ですが、90年代の日本の1年間の公共投資に相当する金額です。10年間で400兆円の公共投資をしています。日本経済は、世界に比べれば、すべてが金額バブルです。 日本経済の金額を基準に世界を見るのは、誤りです。日本の常識は、62億人の世界では特殊です、そうでないと広い世界がイメージできない。日本は投資がリターンをもって活きない国になっている。 日本の中国直接投資の合計は、20年間の契約ベースで18,737件($350億)、実行ベースで$249億(3兆2400億円)です。中国に隣接する世界第2位の経済大国としては、少ない額です。戸惑いがあるためです。 ▼一方で、乱収費 乱収費とは聞きなれない言葉です。以下の意味を持ちます。 <中国政府(中央・地方とも)の各機関が検査料、寄付、規則違反などのさまざまな名目で納付を要求する「乱収費」は、地方によってはその額が納税額を上回り、企業経営に大きな負担になっている。 この乱収費は全国財政収入の約半分、4000億元(6兆円)にも達すると言われている・・・・99年末までに企業に対する不合理徴収費用(乱収費)では、年間1409億元(2兆円)の企業負担が軽減された(『最近の中国経済情勢と日中経済関係』(在中国日本国大使館)> 乱収費は、地方のお役人や地方政府の<たかり、または賄賂>です。公私の区別は曖昧になっている。欧米より日本が狙われることが多い。国として姿勢がしっかりしていないことが背景にある。 http://www.japan.org.cn/jp/neco0008.html ▼州を統治する地方政府 中国の中央政府と地方政府との関係は、連邦国家風です。行政は地方政府が直接に行う。日本や他の資本主義国のような中央集権ではない。 中央政府は関税だけ取り、他は全部地方政府が徴収し上納する仕組みです。日本で言えば江戸時代の幕藩制を残す。中央政府と地方政府は、税の分割をめぐって抗争する。 コネクションのありなしで任意な裁量が働く人治主義と言われるゆえんです。中央政府はWTO加盟を契機に、法の整備を含め近代化に躍起に見えますが、豪族的な地方政府は不正の温床になっている。 ■4.中国人の行動原理的な部分 台湾生まれの黄文雄は、以下のように書く。 <中国には、いったい、「法」があるのかどうかという質問について、外資企業経営者、あるいは商社駐在員はおそらく否定的な考え方をするものがほとんどであろう。 ・・・中国社会には・・・「情・理・法」という伝統的社会観・価値観があるので、法律は最終的に打つ手だとされ「情(感情・情実・人情)、理(理論・義理・道理)」が伝統的に法律に優先すると考えられているからである。 ・・・更に、中国では古来法律は、君主の命令つまり刑罰であって、君主が管理するための手段であると考えてきた。・・・法律は政治の下僕と考える風潮もある。・・・政治的必要さえあれば法律を否定することができる、という考え方なのである。 ・・・だから「投資」という経済的な行為は場合によっては政治的に処理される場合もあるのだ(『醜い中国人』:p92)> 以上を図式化すれば、以下のようにまとめることができます。 【優先するもの】 (1)政治が〔法〕に優先する。法の適用に官僚の〔任意と裁量幅〕がある。 (2)問題の処理では、中国流の〔感情・情実・人情と、理論・義理・道理〕が、法に優先する。 (3)合法的な〔経済行為〕も政治的に処理されることがある。 【最優先されるもの】 この3原則から更に単純化して抽出すれば、最優先するのが〔政治による統治〕です。一党独裁の特性に、時の政府の共産主義解釈が加わり、〔民を支配する〕ことが目的の法運用(「内部規定」と言われる)が行われるということになります。 【民の支配】 <民の支配>という概念は、現代の日本人に理解がしにくい。 民主政体が、アジア的世界に輸入される以前のことを想定するといい。中国は伝統的な賢者による統治が権者になり、権は利につながってきた。中央と地方の政府は民の支配者であり、機能的な行政機関ではない。立法・行政・司法は共産党の下に一体です。 行政(国家機関)は民を守る、または資本の利益を守るという姿勢ではない。民を支配し、統治する。このことは忘れてはならない。 江沢民も指導者(=賢者)であって、政治家ではないとされる。賢者であるから命令が正当性を持つ。政治家なら権力闘争になる。賢者を交代させるのは陰謀になる。 【私有財産】 資本主義では、私有財産への不可侵という絶対権を保証することで、経済活動を政治が支配することはなかった。 共産主義では当然、私有財産の絶対性は保証せず、恣意性を含む政治の支配下にある。事業家の土地の利用は、国家や州政府から賃借する定期借地権風になる。すべての事業は、中央または地方政府の認許可が必要です。 ■5.フロンティアへのスタンスを決めるということ ▼戸惑いと恐怖 こうした混沌を抱えるフロンティアに対し、どんなスタンスをとるべきか、そのアンビバレンツへの方向を探ります。おそらく多くの日本人が、未だに中国に対するスタンスに戸惑いがある。 同時に、日本の製造業の空洞化への恐怖がある。中国肯定論と否定論は、ここ20年、およそ5年毎の交代を繰り返しずっと続いて来た。 ▼日本の近代化の方法とは違う 明治以降<和魂洋才>という便利な概念を発明し、日本の伝統的な価値観と相克する制度と技術の心理面での分離を図り、近代化のためにフランス、イギリス、ドイツの法を輸入した日本とは事情が違う。 それが、WTO(世界貿易機構)加盟とオリンピックの開催で変わるのか。どう考えるべきか。 【中国論の2分】 WTO加盟をきっかけに、新年号の雑誌に発表された中国論は、中国経済懐疑派と、肯定派に2分されます。 ▼変化の起点になる現象への着眼点 中国人と日本人について洞察が深いと思われる邱永漢は『日本人と中国人(1993)』で次のように述べる。 (邱永漢の文は、抜粋がしにくく、呼吸を読む必要があるので若干長くなります。彼は一種の名人) <長い間、私は日本はもとよりのこと、台湾や香港の企業が中国に進出することに対して難色を示してきた・・・幸いなことに旧ソ連の指導者に比べれば、中国の指導者のほうが遥かにプラグマティックであって、時代の動きや、利害の変化にずっと敏感だった。 おそらく十何年も前に〔トゥ〕小平はこのことに気がついていた。しかしそれを強行するには政治的な抵抗があまりに大きかった。だから農業の分野でまず自由市場を許し、シンセン、珠海、スワトゥ、アモイに経済特区を設立して、国内で自由経済の実験を始めたのである。すると、いままで押さえ込んできた経済意欲に火がつき、農業でも工業でもみるみる生産に活力がついたから、もはや誰の目にも勝負は明らかになった。 なかでも留学生を1年に何万人も海外へ送り出す政策が発表されたとき、もうこれで中国の運命は決まったと私は確信した。若者たちに一度でも自由の空気を吸わせたら、それこそ「人民の阿片」をすわたようなものである。 かつて台湾でも同じことが起こっている。国民党政府の要人たちは海外渡航をきびしく制限していたが、自分の子弟らが海外に出られる抜け穴をつくるために、海外留学の規定をつくった。 ・・・大量の(台湾からの)中国人が先端産業で働くようになり、アメリカのコンピュータ業界から中国人を追い払ったら、業界そのものが成り立たなくなってしまうのではないかと思うほど中国人で占められるようになった。 ・・・12億人の中国人が「解放政策以外に中国の経済発展をさせる道がない」ことをはっきり認識した上で、市場経済への移行と、私有財産制の一部復活と外国資本の導入が始まった。(同書p196)> 【あえて8年前の著作から】 実は、敢えて8年も前の著作を取り上げたのです。理由は、その後の中国経済の推移がどうなったかを検証できるからです。 邱永漢は投資の実践家です。台湾のみならず中国にも1,000億円規模の不動産投資をしている。投資の多くで、人の動きに先駆ける。 ▼教育と情報パワー 留学生の大量派遣、これが中国を変えるとの着眼。統制経済は、情報の開放を行えば崩れる。ソ連の崩壊もそのきっかけは、西欧の衛星放送をソ連国民が見たことが端緒だった。 今は更にインターネットがある。統制できない自由な情報の力は強い。こうして、中国は後戻りのできない経済開放へ、自由化へ向かったと見ることができます。 ▼事業の方向の決断 事業では、現在ではなく未来の経営環境と経済を見なければならない。その判断に、あとの成功も失敗も含まれるのです。 【日本経済の危機の根は、構想力の劣化】 方向を決めた後のオペレーションは、CEOの分野ではあっても、事業家が大枠で決めた路線を歩むに過ぎないのです。最近の日本では、事業創造のための構想力が劣化しているのを感じます。 このことが日本経済と日本企業の最大の危機です。小泉構造改革も、不良債権処理と特殊法人改革の先を描くことができていない。改革は、改革の先にある方向を示さない限り、痛みだけになる。 【一方でフロンティア、そして真の国防】 私は、中国経済との本格的な関係に、日本経済の新しいフロンティアを見ています。これは、最良の国防は経済面での切っても切れない関係の構築であるという防衛も含むのです。国防は武器の増強ではない。 貿易と投資の長期的な関係を深めることです。北京政府は経済発展以外の政策を取ることはできない。雇用が失われれば、政体転覆すら起こる可能性がある。 経済政策に失敗があったり、国内の不満が高まれば危機の演出は行われる可能性がある。しかしそれは政治的な演出にとどまるはずです。 米国と日本は、中国にとって輸出で1位と2位のお客様です。世界のGDPの40%を占める2国に、他国が代わることはできない。2国を失えば、中国の輸出主導の経済は、成立しない。 所得格差の不満を外敵に向ける意図での、国民向けのものであって本音のものではない。そう判断して間違いない。中国政府も民もプラグマティズムです。実利のために主張を使う。 時に行う日本への内政干渉的な発言は、揺さぶりの効果を計算した上で、政治的な実利を得るためのものです。 <中国人と日本人比べて一番違うところはどこだろうか。それは中国人の行動原理が、利己主義(家族も含めた)を中心としているのに対して、日本人がグループの利益もしくは公益を優先させていることではないか・・・これほど利己主義に徹し、これほど家族中心に物を考える国民は他に類例を見ない。(同書:邱永漢)> そろそろ紙幅が尽きました。今年はメールマガジン開始2年目です。お役に立つ記事や論考をお届けすべく努めます。どうかよろしく。 【ビジネス知識源 読者アンケート】 1.テーマと内容は興味が持てるか? 2.理解は進んだか? 3.疑問点や質問点は? 4.その他、感想等 5.差し支えない範囲で読者の横顔情報があると助かります。 コピーして、メールに貼りつけ、記入の上送信してください。 ▼著者へのひとことメール yoshida@cool-knowledge.com ※友人、知人、同僚、部下、上司、取引先への転送は自由です。 あなたと、会社の、知識とスキルのブラッシュアップを。 ▼<ビジネス知識源プレミアム:1ヶ月ビジネス書5冊分を超える 情報価値をe-Mailで>のサンプル閲覧と申し込み 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