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産業のアジア型ポストモダニズム
                     (02年5月13日)
こんにちは、吉田繁治です。めまぐるしく時代が動く。中国(香港
・シンセン)から帰って4日目です。5月のシンセンは外気温30
度で、暑かった。短期間の滞在で、また発見と認識の変更があった。



  <100号記念:産業のアジア型ポストモダニズム>

【目次】
 
 1.時事問題:堕ちた職業意識
 2.ドッグイヤーの工業化 中国沿岸部
 3.中国論への19項の視点
 4.20世紀の先進国とは異なった産業モデル 中国
 5.マン・メーションという中国システム
 6.China Priceの実相と流通の付加価値
 7.認識:日本を含めた先進国の価格低下は始まったばかり
 8.2つのご案内



1.時事問題:堕ちた職業意識

瀋陽の日本総領事館内へ中国の警察が立ち入り、保護を求め駆け込
んだ北朝鮮人5名を連行した事件で、外務官僚の堕(お)ちた職業
意識が明白になった。

国家主権の問題というのではない。エリートであろう副領事を含む
幹部職員が、国民から委任された業務を果たさなかったという問題
です。

問題が拡大するのは、外務省、大使館、領事館は、国家主権の行使
と調整を行う機関だからです。

中国の主権を行使する警察の侵入を阻止しないことを、日本総領事
館は自己の任務の怠慢とは思わない意識が見えた。

問題が大きくなった理由はひとつです。韓国のメディアによってあ
らかじめ準備されていたビデオで一部始終が撮影され、テレビで放
映された。テレビで放映されたことで、「事件」になった。

なかったであろう事件

ビデオが流れなければ、日本総領事と外務省は、責任を問われない
ための報告で済ませただろうから「事件」にはならなかった。

【官僚の責任回避の体系】
外務省に限らず、現代官僚の行動様式の根底に、行政(国家主権の、
法の枠内での行使)に伴う責任の回避という問題があります。

行政手続き、事務作業、決済システムで、無意味に複雑なお役所仕
事の体系を作り、その副次的な目的は、自己責任回避です。

官僚の内部組織では、自己正当化を優先させるワークスタイルと価
値観を持つことが、露呈した。勤務時間はこなすが、「本当の仕事
」の場面で判断ができず、税の分配である禄(ろく)を食(は)む
階級制の集団であるということです。

税を食(は)んでいるという意識があるのか。国民から委任を受け
た機関として、国家主権と国民の基本的人権を守るという意識はあ
るか。

映像のシンボル効果

映像は象徴的だった。領事館の外で警備をしていた中国警察は瞬間
の責任職務を遂行した。北朝鮮人女性は泣き叫んだ。連行されれば
最後は命が危ない。中国警察からの発砲があっても、許される状況
だった。

領事館の幹部職員は眼前の修羅場を見て、ぼんやり行動した。
職業意識の弛緩(しかん)が、明白に露呈された映像だった。
中国警察のすばやい動きと対蹠(たいしょ)的だった。

警察も領事館では日本の文官の支持に従わなければならない。彼ら
はそれを知っているため、領事館の許可と感謝があったと(たぶん
虚偽を)言った。(中国内部ではこの事件の報道はほどんどない)

国家主権を行使する官僚の、とりわけ海外に駐在する官僚が持つべ
き「ノブレス・オブリッジ」は地に堕ちている。部分の問題ではな
い。広く、わが国現代官僚の組織と精神に巣食う障害です。

警察官が落とした帽子を、ゆらゆらと拾って、渡す。
副領事は、世間的には温厚ないい人かもしれない。
国家主権が衝突する現場での判断力は、見事になかった。

国家機関の義務

外務省は国家機関です。民間の機関ではない。国家機関の職員(官
僚)が国際関係のイロハすら分からず、職業的義務の精神もなく駐
在し、外務の先頭にいることが示された。

中国の瀋陽は北朝鮮に近い。他国の領事館で亡命のための駆け込み
は頻発している。対応策はどうなっていたのか。

マニュアルがなかったという危機管理の問題ではない。
(外務省はまた官僚的に、狙いは責任回避のために、マニュアルの
整備を図る)

これは官僚精神の本質に関わることです。

パワーポリティクスがゆがめる国際法ではなく、ルソー的な自然法
である基本的人権に関わることについて、どこの国の国民であれ領
土内の人々の「基本的人権」を守るべき機能を持つはずの行政機関
が、それをしなかった。

大使館も領事館も敷地内は「治外法権」を認められ、中国の法では
なく日本の法と制度が及ぶ。中国の主権である警察権は侵入できな
い。

5人の北朝鮮人は、自然法的な基本的人権を保護されるべきだった。

領事館機能は

大使館と領事館は、外国の日本人にとっての基本的人権・生命と財
産の安全・国家主権を、外務関係のなかで守るべき機関です。外務
官僚に、こうした基本意識があるのか、何のための領事館か疑わし
い。外交を社交と取り違えているふしが見える。

日本人は中国を含め、今後ますます多くが世界で仕事をする。外務
省や在外公館は、日本人の海外における、自然権に基づく基本的人
権、安全、財産を守り、調整することが基本機能であるという認識
をもっているのか。

これがないとすれば、どういう根拠で領事館にいて、国家としての
行政権限をもち、存在できるのか。

ニューヨークの9.11のとき、NYの日本領事館は日本からの民
間人を含めた被害者、関係者名簿を作ることができなかった。義務
的な業務にまで、堕落があった。

北朝鮮の5人は、北朝鮮では死刑を含む厳罰に処せられることは予
測できる。それが北朝鮮国民でなく、日本国民だったらどうか。

日本国民や日本人ジャーナリストが、何らかの理由で中国の公安に
追われ、基本的人権の保護を求め、駆け込んだとき、大使館・領事
館はどう処理するのか。

利発な川口外務大臣が指示し、内部起案された外務省改革案の一項
は笑えます。<外交官の夫人は平等、同格であることの確認> 
エアポケットのように平和な宦官(かんがん)の階級社会です。

憶測的疑問

なぜ韓国のメディアが、ビデオを準備したのか。日本の国会の、
(1)戦後の防衛体制を根底から変える有事立法の審議の最中に、
(2)タイミングよく日本と中国の国家主権の衝突まで至ることが予
測できる映像を流し、(3)今、日本の海外駐在官僚の意識の弛緩
を示す映像を流す意図はなにかという疑問もあるが、憶測に留まる。

本質へ

官の組織と精神が根底的なところで堕ち、弛緩した意識をもつこと
がまたも露呈された。この事件の波及は大きくなる。

賄賂の検察問題も含め、戦後は一定線で機能しているように見えて
きたこの国の官と民間の大組織の多くが、適応力を喪失している。
解体し、機能を再構築すべきことを最近の事件と腐敗は示す。

官の機能改革は、この国の21世紀のために必要なことです。

大蔵省にある700の部屋のマスターキー紛失は、内部告発による
発覚だった。雪印食品も、産地偽装は内部告発から露呈した。盗ま
れた現金とビール券もお笑いです。

官の組織と(みずほ銀行を含んだ)民間の大組織の、基本機能の堕
落は、今後も連続的に露呈される。

300年の鎖国の後の武士階級の堕落に似てきた。武士は外敵から
民を守る機能があったから、排他的に帯刀の権利を付与されていた。

刀と剣道は黒船の大砲に無力だった。無力化した武に代わり、植民
地化を避けるため、近代化と富国強兵のイデオロギーを掲げた明治
政府に国民は行政権を委ね、近代装備軍に国防を委嘱した。

■2.ドッグイヤーの工業化:中国沿岸部

▼沸騰する電子産業


今回の中国訪問で、ここ数年で電子機器の先端分野でも中国は既に
日本を追い抜いたところがあるのではないか。そう思えた。

訪中するたびに、衝撃が深まる。私もここ10年の中国を、裸眼で
は見ず、曇りガラスを通した先入見で見ていた。

遅れた国の社会主義の体制下の、1国2制度の資本主義は、動かな
いと考えていた。中央政府の官僚組織が、民間経済を覆っていると
思っていた。今でも、日本人のおそらく90%はそう考えている。

現代中国は日々変化する。1ヶ月前の情報がもう古い。日本経済が
不良債権問題をコアに、身動きがとれない10年を過ごしている間
に、中国の経済開放路線での成長は高みに達し、5つの経済特区が、
中国産業のギアを回した。

先富起来

最初は、前国家主席トゥ・小平の1992年の南巡講和だった。解
放・改革経済を解いた。「先富起来(先に富みなさい)」、言い換
えれば格差を作ると言った。王たる国家主席の発言は、ルイ14世
のようにそのまま法であり政策です。(↓南巡講話)
http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/kuni/china_chu.html

資本主義改革が本格化したのは、実利主義の朱鎔基首相の、(1)
地方への権限委譲(エンパワーメント)の行政改革、(2)国有企
業の民営化政策、(3)資本主義へ向かうための金融改革からです。

これが、台湾・香港・米国・西欧・日本の技術と資本を呼び込み、
90年代後期にはバブルを含む建設投資と、成長の爆発を生んだ。
97年と2002年の中国は、もう別の顔です。

中国はリアルタイム情報と実体験でしか捉えられない。
それくらい変化が速い。書は、遅い。

中国のGDPが150兆円だから、13億人でも500兆円の日本
の3分の1以下の経済規模であり、一人当たり所得は40分の1と
見るのは認識不足です。

店頭の商品価格に3倍くらいの差がある。そうすると、商品数量で
は150兆円×3倍=450兆円。既に、商品経済のGDPでは世
界第2位の日本並みです。。

2つの留意点

中国については、以下の2項を留意しなければならない。

【1.中国をひとつにまとめて論じることはできない】
13億人(実数は15億人?)の中国を、ひとつにまとめ論じるこ
とはできない。

内陸の農村中国と沿岸部の工業都市は、別の国、別の行動様式、価
値観、文化と言えます。

沿岸部でも東北3省(中核は大連市)、北京・天津回廊、山東半島(
同、青島市)、長江デルタ(同、上海)、福建省(同、アモイ)、
珠江デルタ(香港、シンセン、広州)は、独立した経済であり制度
と言っていい。各省と都市の独立性が高い。

【2.変化が速い:いつの中国を言うのか】
70年代、80年代、1990年、香港返還の97年、97年と0
2年は違います。いつの中国を論じるのかに留意しなければならな
い。

中国産業論では、(1)どの都市の、(2)いつのものかを確認し
ないと的が外れる。安易に、ひとまとめにする論が日本のみならず
世界で多い。

中国は、(1)中世の農村、(2)近世のマニュファクチャリング、
(3)イデオロギーとしての社会主義、(3)王朝の全体主義、
(4)市場経済、(5)最先端の電子工業までを一国で包含する、
ひとつのThe Worldです。

90年代のドッグイヤーの工業化

日本では5年、10年かかった変化を、現代中国では1年で行う。
シンセン市(人口600万人)の経済成長率(GDP)は、年30
%の速度です。30%の成長は、地の底から沸騰する経済になる。
寒村が10年で600万人の部品工業を従える電子産業都市になる。

中国全体では7%成長ですが、10億人の農村を含みます。
沿岸部工業都市の成長は、年20%から30%です。

平均したGDP成長率7.3%ではなく、沿岸部の20%から30
%の伸びを成長力と見るほうが正しい。均質に見るのは間違いです。

沿岸部は今後10年で、6倍(20%成長)、14倍(30%成長)
になる可能性すらある。

1960年代の日本の高度成長は10%台だった。10%成長は、
10年で2.6倍で。20%成長の6倍、30%成長の14倍とは、
自転車と車くらいに速度感が違う。

日本は加工貿易(中国では「来料加工」)での米国・西欧への輸出
から経済成長した。中国はGDPの30%を、10億人のOECD
を含む世界へ輸出する。中国の工業化で経済の世界はOECD10
億人から、90年代に10年で倍増し20億人になった。そう見る
べきです。

世界経済の観点では、90年代は米国と中国の高度成長期だった。
世界では日本が沈んだ。原因は、90年代の冷戦終結後のグローバ
ル経済を、捉えそこなったことです。

バブル経済は投資の方向を誤ったことによる自家中毒です。
冷戦終結の意味づけができず中国への先入見が邪魔をした。

ソ連・東欧は、エリート官僚主義が崩壊し混乱の時代を経ている。

中国は中央政府のエリート官僚主義と国家の体制を維持し、地方都
市と民間経済にエンパワーメント(権限委譲)した。

1989年の↓天安門事件というバックラッシュがあった。
http://www.asahi.com/edu/lookback/080.html

3年後、国家主席トゥ・小平の92年の南巡講話で1国2制度の経
済開放路線が導かれた。実務家、朱鎔基首相が方法を導いた。

過去はアメリカから戻ってこなかった米国留学組み、80年代後期
および90年代の米国のハイテク産業を技術者となって支えたエリ
ート層の多くが中国へ戻った。大卒は、中国ではエリートです。

80年代までの日本の経済成長モデルに、中国は視野に入っていな
かった。90年代もアジアを人件費の安い工場の立地とか見なかっ
た。駐在は本社を向き、現地を見ず、それで機会が逃げた。

北京政府は、経済成長策、所得の向上が民政の安定に必要と洞察し
ています。目の前にぶら下がっている経済成長策からの、政治的イ
デオロギーでのバックラッシュはないと判断します。

先入見での認識の誤り

訪れる日本人は<中国は日本の30年や40年前、1960年代の
高度成長期>とまとめます。この認識は一面では正しい、しかし、
ここから中国の将来を敷衍(ふえん)すれば、誤る見方になる。

日本は中国に対し数10年先行し、中国は日本製品のコピーで後追
いするという日本優位の見方を生む。

日本人は、中国に対し先入見を持つ。先入見は、明治以降の大きく
は日清戦争・太平洋戦争・文化大革命という歴史的な背景を持つ。

3.中国論への19項の視点

中国は、以下の19項の視点で、ミラーボールで写すようにくるく
る回り、多色の側面を見せます。もともと人口の面で、ひとつの国
というには大きすぎる。整理のため単純化し箇条書きで示します。

1.政治的イデオロギーの側面
  アジアへの覇権 軍 公安 国営企業 行政 官僚 
  ・悲観論になりやすい
2.中国の伝統文化的な側面や価値観  
  文化 行動様式 価値観 デザイン感覚 色彩感覚 料理
 ・中国礼賛か、または逆の偏見になる。
3.資本主義・市場経済の側面 
  外資 民族系企業 合弁企業 流通 小売業
  ・将来楽観論、経済成長論になる
4.制度と法、税法の側面
  現在普請中、急速に、近代法と制度を建設中
  ・解釈差と、裁量での人治の部分がある。
5.個人主義
  日本的な和や協調の精神は薄い。自己主張が強い。
  ・自己正当性の主張がないと殺されることがあった。
6.マネー主義の徹底
  忠誠心はマネーから
  ・華僑的価値観と米国風の個人主義の混合
7.電子・ハイテク産業
  既に世界最高水準の、品質と規格品量産システム
  ・90年代後期の技術導入と最新の設備投資
8.日用品工業
  オートメーションではなくマンメーションシステム
  ・マニュファクチャリング(手工業)
9.勤勉
  生産個数での能率給制を取る。評価の透明さが必要。
10.学習意欲
   日本や世界の優れた生産技術、品質管理を学びたい。
   他方、文化は中国が上であるとの意識
11.商魂
   中国は商人的文化が強い(日本は職人的文化)
   ・セールズマン精神が横溢
12.階級差別
   少数の大卒と、人民の階級差、給与差、身分差
   ・エリート主義、階級制が強い。13億人の統治の必要性。
13.対日本人
   義務教育では、日本人は悪人扱いされてきた。
   ・他方、豊かな経済への憧れはきわめて強い。
   ・個人的には親日が多い。公式には嫌日。排日ではない。
14.中華思想
   アジアは中国を中心に動くとの意識。
15.儒教の倫理
   韓国・台湾・香港では強い。中国では弱い。
16.北京政府は社会主義の王朝
   王朝は、主席でころころ変わる。人々は、適応する。
   ・政治、公安体制へはホンネを言わずタテマエで対応
   ・心理、行動様式の2重化がある。
17.厳罰主義
   贈収賄の発覚(内部告発)で死刑になる国
犯罪の多発
   ・公開処刑での見せしめ、上からの統制・統治
18.国際政治での原則主義
   原則を崩せば、13億人の秩序維持と統治はできない。
19.政府は人民を統治する
   民主主義、選挙制ではなく、エリートによる統治

以上の視点のどこから中国を見るか、意識しておくべきです。
そうでないと、論の認識の混乱、混線を起こす。

4.20世紀の先進国とは異なった産業モデル:中国

中国人の香港への入境は制限される。香港は所得が中国で一番高い
シンセン(01年:2万5941元=41万5000円)の、更に
4倍以上、同じ職種の現場労働者の所得が高い。

香港への観光バスで人が消え

中国からの観光ツアーが香港を訪れる。
闊達で明るい中国人女性ガイドが、笑って言っていた。
<バスに集合するたびに人数が減ります。40人の団体が10人く
らいなることもあります。待っていても来ないから、放っておきま
す>

逃げた人は香港で低賃金の現場労働者になる。人口の捕捉は、経済
特区のシンセン、香港も含めできない。どこも統計より10%から
20%くらいは多いのではないか。(香港の統計は631万人)

過剰とも思える建設投資と世界1のコンテナ港

狭い香港で、更に天に伸びる高層住宅の建設ラッシュが続いていま
す。新開地や郊外は、高層アパート街になった。至るところ工事。

香港は、世界最大のコンテナ港です。99年の取り扱い量は1620
万TEU(20フィート標準コンテナ換算)です。未整備がある
シンセンから香港へ戻ると、香港は繊細で、清潔で、洗練された街
に見える。中国への投資は、香港を起点にする。↓
http://www.jri.co.jp/JRR/1997/199707/JRR199707cn-aus.html

日本人の多くは香港を観光都市と見ている。中国の産業と社会の将
来図を示す産業都市、世界からの資本の供給基地と見るべきです。

当然と言えば当然の発見

香港も含め中国は人的資源が、世界1豊富です。西欧・米国・日本
とは違った、別の経済産業モデルを作るのではないか。今回の発見
でした。

シンセンの近未来が、香港です。周辺を含めれば3000万人の上
海の未来図も、規模を5倍にした大香港と見れば将来がイメージ化
できます。香港の中国化ではなく、中国の香港化が起こった。

西欧・米国・日本型モデル

日本は、米国をモデルに産業を興し、経済発展をした。
(特に流通・小売業は米国コピーと言ってもいい)

繊維の軽工業から重化学工業へ、そして自動車・家電産業、電子産
業と進んだ。ソフトウエア産業では、日本語という言語的な障害か
ら、世界を制することができなかった。そのため、90年代の米国
の高成長、日本の低成長があった。

【工業製品の低価格化】
日本の製造業が作ったハードウエアは、特に90年代、
(1)アジアが生産基地になったこと、
(2)部品が標準化されたことで低価格化していった。

有形の工業製品の低価格化が、コストが世界1高い日本の産業を苦
しめた。

人的な、知識による付加価値の高い知識産業、つまり無形の商品で
あるソフトウエアで、産業の展望を開くことができていないことが、
日本経済の閉塞状況の根底の原因です。

中国の発展モデ

中国の現代工業は、以下の3項で、西欧・米国・日本型の発展モデ
ルとは、まるで違うものになる。

【1.同時発展】
軽工業、重化学工業、自動車・家電産業・電子産業・そしてバイオ
までを含め、同時発展に入っている。

【2.無尽蔵の人的資源】
中国では、根底的に違う条件、無尽蔵の人的資源がある。

【3.流通システムが未整備】
国有企業の卸は、効率が悪い。販売網作り、物流網が課題。

20世紀の先進国モデル

10億人の先進国では、機械化が生産性を上げ、国民経済単位での、
福祉国家制度での税の分配を含み平均所得の上昇があった。

所得の上昇は人的作業コストが高騰することを意味します。
高い経営資源は、節約されるのが原理です。

先進国では、軽工業、重化学工業、自動車産業・家電産業、電子産
業と、重点が移動するに従い、現場労働部分は機械化を増やし、オ
ートメーション化されてきた。

先進国の工場現場は人が少ない。他方、管理・営業部門のホワイト
カラーは溢れる。人のコストの大半は、ホワイトカラーが占める。
(中国は逆です。生産ラインに人が溢れる。管理者は少数)

作業は、広義の情報作業(ビル・ゲーツによる命名:『The road A
head』)です。情報作業は、言語と数字を操る。モノの加工・移動
という過去の現場労働とは、方法・質も・次元が違う。

言語と数字を操るホワイトカラーの人数を節約するのが、コンピュ
ータ化とネットワーク、および直接的には合併やM&Aという方法
です。ホワイトカラーは言語と数字の処理から、知識の処理へ進ま
なければ、機能的な存在価値がもうない。

先進国モデルの到達点

先進国の大企業は、ほぼすべての業種で、合併とM&Aのプロセス
にある。M&Aは、米国では80年代から始まり90年代に猖獗(
しょうけつ)を極めた。その過程は、現場労働者の実質賃金低下を
含んでいた。

日本では、これが今始まった。約10年は合併とMS&Aによるコ
スト構造改革、つまりはホワイトカラーの賃金低下時代に入る。

論を戻します。

5.マン・メーションという中国システム

中国の産業モデルでは、
(1)軽工業、重化学工業、自動車・家電産業・電子産業・そして
農業や医学のバイオまでを含み、同時発展する。従来の段階的な発
展モデルを超えた、一足飛びの現代工業化が起こっている。
(2)他方で、先進国的な(平均)賃金の高騰は、10年間は起こ
りにくいという2つの特性を持ちます。

以上の2つの特性は、先進国にはどこにもなかった。

現場労働の人的資源が、無限に思えるように豊富な国が中国です。
(他方、管理層の人材は不足しています。管理層の賃金は高い)

(マン・メーションという用語は、本マガジンの読者からヒントを
得ました。感謝します)

(注)10年後から一人っ子政策のつけが現れ、優位資源である労
働力不足になる可能性が高い。その時、中国の成長速度は鈍化する。

人的資源の供給源

10億人の農村は、都市労働力の供給源です。農村の世帯所得は月
収で3000円から5000円。中国では一番高いシンセンで、
1人当たりの平均所得が月収で3万円(01年:現場は1万円)で
す。6倍から10倍の地域間格差がある。中国は、国内に別の国を
抱える。シンセンに隣接する電子工業都市東カン(600万人)で
も、1万8000円でシンセンの40%安です。

シンセンのように月3万円(現場は月1万円)の賃金になると、工
場はその周辺部を目指す。周辺部は急速に人口が増える。

人口2000人の漁村が、外資を導入する経済特区になって20年
600万人の巨大工業都市にまで膨らんだ。そうした工業集積が、
上海、大連、天津、瀋陽、青島、アモイ、北京、広州で起こってい
る。

▼マン・メーションによるアジア型ポストモダニズムの産業モデル

人口稠密(ちょうみつ)になると、周辺に向かって工場集積が拡大
し、都市部の人件費の上昇に抑止力が働くアメーバー構造がある。

人的資源の豊富さの中国産業モデルは、西欧・米国・日本とは、別
のモデルを作ります。マン・メーションの傍らでコンピュータが動
く。

名づければ<マン・メーションによる、アジア型ポストモダニズム
の産業モデル>です。

先進国産業は、現場はオートメーション化する。中国産業は<オー
トメーション+マン・メーション>の混合型。現場にもオフィスに
も、人が溢れる作業風景、これでしょう。

最高度に発展した香港でも、どこにでも人が溢れる。
香港は、中国沿岸部の10年後の将来図です。

6.China Priceの実相と流通付加価値

以下に、工業製品のチャイナ・プライスを示します。中国のGDP
が小売価格で計算されていることを考慮すれば、150兆円は実体
で何倍になるか、流通マージンはいくらかまで分かるのです。
日本では、まだ意外にチャイナプライスは知られていない。
                 (週刊東洋経済02.5.11号)

      中国の   中国の   日本の  日本の小売価格
      製造原価 小売価格  小売価格  ÷中国製造原価
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
電話機  720円 3200円  16800円   23倍
扇風機  864円 2400円   4980円    6倍
腕時計  128円  480円   1980円   15倍
20ポケットクリアファイル
      77円  224円    380円    5倍
A4用紙500枚 
      80円  256円    598円     7倍
名刺100枚128円  640円    2500円    20倍
オフィス用椅子
    1040円 1600円   5800円     6倍
同机  1000円 2800円   9800円    10倍
マウス   98円〜 400円〜  1980円〜   20倍
男性用スーツ
    1980円 8000円   9000円〜    5倍
男性用シャツ
     240円 1600円   1480円〜    6倍
ジーンズ 400円 1600円   2980円〜    7倍
Tシャツ 112円  880円    980円     9倍
綿靴下   32円  180円    298円     9倍
電球40W 13円   48円    180円    14倍
洗剤    19円   80円    328円    17倍
ティッシュ1箱4円   16円    128円    32倍
石鹸     9円   48円     85円     9倍
レンジ用ボウル3個
      67円  352円   1980円    29倍
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日本の小売価格と中国の製造価格の差(%というより倍率)は、ビ
ジネスの機会が製造から離れ、流通のシステム化に移ったことを意
味する。工業製品価格が安くなる構造を、世界経済は組み込んだ。

中国の小売価格−製造原価=中国国内の流通の付加価値

製造原価は表現できないくらい安い。しかし中国でも小売価格はそ
の4倍から5倍くらいです。

中国内の小売も、工場直の取引なら、流通の粗利益率は75%から
80%にはなる。(ここに、非効率的な国営企業の卸が介在するこ
とが多い。)

中国の小売価格に比べても、製造原価はその20%レベルです。工
場と直結するウォルマート風の無駄のないサプライチェーン、PO
Sを起点にする大量の継続的集荷と補充システム(クイックレスポ
ンスのクロスドックシステム)を敷設すれば、中国では、流通は超
高付加価値のビジネスモデルになる。

製造の付加価値部分(製造原価)より、物流と流通の付加価値部分
(小売価格−製造原価)が4倍から5倍も大きい。
サプライチェーン型流通が、チャンスです。

中国と日本の小売価格

中国の小売価格と日本の小売価格を比べると、衣料では90年代の
価格低下で、日本も中国価格並みになっていることが分かります。

【アパレル】
日本のアパレル産業には、ユニクロ以降、大きな機会はなくなって
いることが分かる。価格差のみなら、中国の小売価格の水準で、身
を切る合理化競争に進むのがアパレル産業です。ユニクロの、最近
の業績低下をもたらした根底の理由が、ここにある。

【電化製品や住まいの関連商品】
他方、電化製品や住まいの関連の生活用品は中国の小売価格に比べ、
日本は3倍から5倍くらいは高い。製造原価と日本の小売価格の
倍率では、10倍以上になる。

日本のチャイナ・プライスでの価格低下が歴史必然的に進行します。

近々、住関連のユニクロが出現し、生活用品でもユニクロが出現し
ます。100円ショップは一時的なバラエティストア。ウォルマー
ト的ディスカウントストアの日本型翻案(低価格でも品質へのこだ
わり)が本格的なものです。

中国のGDPの実質水準

店頭価格の、中国と日本の差を総合すると、150兆円のGDPは、
01年でその3倍の実質、450兆円分はある。世界第2位の日
本のGDP総額(商品とサービスの総額)と拮抗します。

人口は10倍です。中国人の1人あたりGDPは日本人の40分の
1ではなく、10分の1です。工業都市に限って言えば、日本人の
3分の1くらい。商品経済では既にそのレベルに達している。都市
部の街や、生活、住まいを見た実感に、合う数字です。

7.認識:日本を含めた先進国の価格低下は始まったばかり

デフレ経済云々が言われます。仮に中国がなければ、金融面のマネ
ー供給策で、国民経済は価格低下を避けことができます。

しかしグローバル経済は、中国を既に組み込んだ。90年代以降の
世界経済は内容を変えた。認識変更が必要です。

30%位の価格差までは、品質や性能での差異化も有効です。類似
商品で2倍、3倍の価格差があると、微細な品質差による差別化効
果は消えます。

日本の卸・小売を含む流通業では、
(1)中国の工場との直結の、情報化サプライチェーンシステム(
中国内DCと、国内コンテナ港でのクロスドックシステム)を(共
同化か単独かで)作るか、
(2)あるいは、調達の枠組みを変えることができないことを原因
に、働けど働けど続く合理化で最後は消耗するかという岐路がここ
にあります。

文藝春秋の6月号で、本田技研工業の社長:吉野浩行氏が述べてい
ます。

<調べてみると、彼らが(ホンダのコピーを作るオートバイ工場で)
彼らが使っている部品でも、こちらの厳しい基準をクリアする質
のいい部品がいくつもあった。こういった部品を組み込むだけでも、
コストは大幅に下げることができます。・・・提携したおかげで、
日本からは片手くらいの部品を持ち込むだけで、ほぼ半値のオー
トバイを作ることができるようになりました。・・・経営層にも3
0代が多く、工場は活気で溢れ返っていて、大変頼もしく思ったも
のです>

中国の部品や製品の品質が、一律に劣るというのは、90年代初期
までの先入見です。認識遅れは怖い。電子産業を含み日用品工業で
も同様です。

日本が独占していた携帯電話やPC用のリチウムイオン電池でも、
比亜迪(BYD:今回の研修ツアーで訪問予定)は躍進しています。

製造原価が半分以下になる時代を、21世紀は中国の工業化で組み
込んだ。中国脅威論から業界協調で輸入制限をすれば、実際は、輸
入者の利益は大きくなる。

日本人がやらなければ、中国、米国、西欧、韓国、台湾を含む外資
がやる。『このやっかいな国、中国』(東京外語大学名誉教授:岡
田秀弘氏)に代表されるような認識は、政治の視点は別にして、産
業人なら取るべきではないでしょう。

8.2つのご案内

▼寄稿

商業界の販売革新6月号(6月1日発売)に、『21世紀の流通業
にとって社会的使命になったユニバーサル・リソース・マネジメン
ト(URM)の提案(3万文字:75枚)』を寄稿しています。手
に入らないと言われる方が多いので、早めにお知らせしておきます。

IBMフォーラム講演会(再掲)

IBM主催のフォーラムは、全国ツアーの7割を終わりました。テ
ーマ「競争優位のための知識経営」で以下のスケジュールと時間で
基調講演の時間を担当します。

5月16日 福岡 博多都ホテル(10:30-12:15)
5月21日 札幌 ホテルアルファ札幌(10:30-12:15)
5月31日 名古屋 ヒルトン名古屋(10:30-12:15)

(IBMとの関係が全くなくても、無料でどなたでも申し込みがで
きます。申し込みは↓で受け付け中です。お早めにどうぞ。)
http://www-6.ibm.com/jp/gto/forum2002/

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