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(02年6月24日) |
こんにちは、吉田繁治です。サッカーの日本チームの、2002年 World Cupは、6月18日(火)のトルコへの敗戦で終わった。先週 の有料版のマガジンを送った直後が、0−1で惜敗したトルコ戦で した。 【無料版と有料版】 今回は、先週水曜日の有料版に、説明不足の分を書き加えた特別号 として2部に分け送信します。無料版は30Kバイトの制限がある ので、最初、「抄録」にしようかと思いましたが、伝えたいメッセ ージが多く含まれるので無料版の2号分に拡大します。 時に聞かれます。無料版と有料版はどう違うか。意識的な区分はで きていません。書くことは、どんものでも、毎回、未知の真剣勝負 です。力を落として書くことも、力以上に書くこともできない。器 用ではないのです。 【ワールドカップ】 多くの方と同じようにTV観戦で拍手し胸を揺さぶられ、今は欠落 感があります。ベルギー戦でベビーフェースの稲本が、2点目の同 点ゴールを鮮やかに決めたとき、2階の仕事場のTVを見ていたの ですが、ドタドタとリビングルームまで階段を走り降り、「やった ぞ!」と叫んだのが私です。 道頓堀の戎(えびす)橋から、ダイビングした人々と行動の質は変 わらない。この川の底には、ヘドロに無数の自転車が沈み糞便性の 大腸菌がうようよで、水を飲めば危ない。承知の上での飛び込みの パフォーマンスです。 この情動を、読者の方と共有したいという思いがあります。 こうした気分にさせるサッカーは、一体なんでしょうか。 共同体の祝祭とサッカーには、深い結びつきがあるのか。 今回は、記述の趣を随想的にします。 <特別号:中田英寿という希望(1)> 【目次】 (第1部:本送信分) 1.さぁ、顔を上げろ、戦いはこれからだ 2.中華レストランと書店 3.『文体とパスの精度』とクロスオーバー 4.既得権益組層という障害 5.団塊の世代に見る会社への忠誠の構造 6.文体とパスの精度 (第2部:次の送信) 7.全然、下手だった 8.中田の自己認識の構造 9.完璧な自分のイメージ 10.自分のビジョンを探し続ける 11.どこまでもポジティブ 12.インターネットとマスメディア 13.シャイな男がチームを率いるリーダーになった 14.同じ喜びを喜びんだつかの間 ■1.さぁ、顔を上げろ、戦いはこれからだ オフサイドの意味が、ワールドカップの解説で初めて分かったくら いサッカーに無知です。オフサイドという言葉には、消したい記憶 がある。 大学の体育の時間にサッカーがあり、「コト」の弾みでゴールキー パーをやらされることになった。 教官はゲーム前に、オフサイド・ルールの適用ではむずかしくなる から、ノー・オフサイド・ルールと言った。私はオフサイドの意味 を知らなかった。 ゴールキーパーは、走り回ることがなく暇なポジションと思い、空 や景色を見て、ぼさっと立っていると、ボールとともに敵と味方が 私に向かって突進してきた。 大変だ、危ない!と思い、かろうじて身をかわすと、チームの全員 から「おい、吉田、一体なにをやってるんだ?」と言われ、その後 は、記憶の底に閉じ込めたい時間だった。ボロボロになって、自殺 や指を詰めたり、頭を丸める人の心理が分かったように思えた。 突進してくるのが怖く、ポジションから逃げた。卑怯な態度だった。 これこそ「オフサイド」だと思っていた。オフサイドは適用しな いと教官が言ったのに私だけがオフサイドの禁を犯したと思った。 グラウンドに生えていた草を、生々しく覚えています。 草よ、お前たちはサッカーがないから幸せだと思った。 大学で哲学やフランス文学の教師をしている同じクラスの友人が、 その時の証人であって、彼らには記憶喪失に陥ってほしいと念じて いるのですが、言えば、思い出しゲラゲラ笑うに決まっている。 これが、私の唯一のサッカー体験です。 オフサイドは謎の言葉だった。英和辞典をひくと、「低俗な;いか がわしい;フェアじゃない;卑怯な;ずるい;不適当な;ルール違 反の」とあらんかぎりに書いてあって、なるほどオフサイドは人間 としてやってはいけないことだと理解していた。 オフサイドは違反だから、ボールから逃げるような卑怯な態度をと ってはいけない、これが、サッカー理解のすべてだった。 ところがあの試合はオフサイドを適用しないサッカーだったから、 人間としてやってはいけないことまでを許す卑怯なルールのサッカ ーだったんだ、だから心に傷をのこすことはないと自分を納得させ た。今でもこの複雑な手続きの曲解を思い出すと顔から火が出ます。 思えば他のスポーツも、からきしダメでした。 体育は苦痛な時間だった。通信簿は永遠の3。 一度だけ5をもらって驚愕した。中学3年の最終学期の、その時の 通信簿は、生涯で1回だけのオール5だったので、体育の3はかわ いそうだと先生から贔屓(ひいき)にされたと思った。 友達には体育が5だったと知られるのが嫌だった。 親すら5と知って、「まぁ、まぁ」と呆れていた。 にもかかわらず、30歳から始めたゴルフは、なぜか熱中し3年く らいでシングルまで行った。全米オープンの素人解説くらいはでき るのですが、ゴルフとサッカーではまるで違う。 他のスポーツ以上にサッカーは人の心を「集団的にまたは共同体的 に」熱くするように思えるのか、分からない。Jリーグは見ない私 もワールドカップでは熱くなった。理由より事実です。サッカーは 心が熱くなる。 チュニジア戦の3時30分のキックオフの時間が、2時から4時の 新阪急ホテルでの講演と重なっていた。講演を3時30分までとし、 3時30分からは質問時間と決めた。3つの質問があった。 3時45分にもう質問はないですねとダメを押し「今日は日本にと って大切な日です。じゃここで終わります」と言ってタクシー乗り 場まで、脱兎のごとく降りた。約30分のタクシーの中ではラジオ で実況中継を聞いた。 予選リーグ最後のチュニジア戦は、危ないと思っていた。中田がヘ ディングシュートを決め、2点のリードになったとき「やった!す ごい」と思った。本人は以下のようにホームページに書いている。 <ゴールしたときは、ヘディングをした後に相手の足が唇に当たり、 ちょっと切れたために、なんか変な喜び方になっちゃった。> ↓ http://nakata.net/jp/sn_contents.htm?hidesmail/index.htm ゴール直後に唇を押さえ、困ったような表情をしていた。 とても中田らしかった。 予選リーグの第一戦、対ベルギー、逆転の二点目を取られたとき、 チームメートに向かって彼は「バカッ」と叫んだらしい。 <点を取られたことが問題ではなく、それに対して頭を下げてガク ッとしている選手の姿を見るのがいやなんだ>と書いている。 <さぁ顔を上げろ、戦いはこれからだ>と言ったように思えた。 この瞬間に胸が熱くなって、私は中田のファンになった。 照れ隠しにクールな態度を見せるこの男は、なにをやりとげようと しているのか。 負けたトルコ戦の後、物議をかもした赤いトサカ頭の戸田が泣いて いた。彼は、反則すれすれか、または反則を犯し防御する役に徹し ていた。彼の決意は伝わった。悪役が泣いた。彼は言った。 <存分にやることができた。思い残すことはない> 若い市川はしゃくりあげ、トルシエから肩を抱かれていた。 4年後のドイツ大会ではお前が中心だと言われたのかもしれない。 市川は、随所で、才能を感じさせる働きをしていた。 中田は、敗戦後、先頭に立ってグラウンドを回り、声援を送ってく れたサポーターに、優しい表情で感謝の意を表していた。 勝利の記念写真では、照れて皆の陰に隠れて座り、写ることを避け ることすらしていた中田が変わった。 彼は言う。 <(チュニジア戦)の長居スタジアムから新大阪に向かう高速の乗 り口に向かったのだけれども、その長い距離すべてをたくさんの人 々が埋め尽くし手を振っているのを見ていたら異常に感動した> 大型バスのスモークガラスの向こう側に、集まった人波みを見て、 「異常に」感動した中田がいた。クールを装う彼がこうした言葉を 使うのは珍しい。おそらく、今までにない強い感動が彼を襲った。 暗いガラスの向こうの時間は、集まったファンにはかすかにしか見 えない。こうして、世界にはいつも、人間の数だけの小宇宙がある。 個に閉じ込められている多くの小宇宙が、サッカーでは、ある瞬間、 重なる。そうしたとき人々は忘れていた「共同体の祝祭」の記憶 を呼びさまされるのではないかとすら思えた。 近代社会は、経済の世界です。すべてに渡って「価値の交換取引: トランザクション」や金額計算、価値評価、商取引がある。 トランザクションの経済世界では人々は「個」に分断される。夫婦 の間ですら、契約とトランザクションで理解することが多いのが個 人主義の米国です。米国人は、時折、凄惨に孤独な表情を見せる。 米国に住む日本人も、数年で、こうした表情を帯びる。 共同体は「リレーション:つながり」の世界です。ひとつの共同体 は、他の共同体に対し、排他的で敵視するという特徴を持つ。 共同体の内部は、甘えに通じる赦し合いがあり価値観や喜びを共有 する。同じ喜びを喜ぶ。ワールドカップで、多くの日本人が同じ喜 びを喜ぶことを体験した。 トルコ戦に負けた後の日本人が共有した空虚感は、サッカーの日本 チームの戦いを見て「同じ喜びを喜ぶ」機会が消え、日常の砂をか むような「トランザクション」の世界に戻ることの欠落感からくる のではないか。WCのサッカーは、「共同体の祝祭」だった。 マルクスは『資本論』で言った、共同体と共同体の境界で商取引が 起こる。商取引は共同体の内部では起こらない。たとえば家族(共 同体)の内部では商取引はない。隣の家とは、取引の関係です。 家庭の場までが政治的な言語と商取引の世界に転じたとき、現代人 が帰る場所はなくなる。多くの家庭は、今そうなっている。 ■2.中華レストランと書店 ▼店舗競争の、レベルの低さ トランザクションの世界に戻ります。 6月18日、トルコ戦を見た後、(大阪)千里中央のショッピング ・センター:セルシー5階の『千里中華街』に出かけた。27軒の、 新しい中華料理店が集まる。 一見では、北京・四川・香港・広東料理等、工夫をこらしたレスト ランがあるように見えたが、何か怪しかった。偽者の雰囲気があっ た。 7時頃で、ほとんどのレストランの入り口では行列ができていた。 メイン・エントランスのすぐ右にある、大型の四川料理の店は列が 短かったのでそこを選んだ。それでも20分待ちだった。 数品を頼んだ。全皿、激しく期待はずれの内容だった。 街のラーメン屋のほうが価格も半分でずっとましです。 オープンの宣伝で客を集めているが、数ヵ月後が思いやられます。 顧客は満足を求めてきている。単に、空腹なのではない。 不況で財布の紐がしまっているということではない。内容が良く顧 客ターゲット、提供する満足の内容が適切か妥当(reasonable)な ら、人は集まり財布は開く。 昨日のままの料理なら、この四川料理店は自滅です。目に見えます。 入り口の脇の目立つところにある大型店で、核店舗のはずです。 こうした例は多数ある。この国は、競争のレベルがまだ低い。 レストラン・ローの設計者と経営者の、認識の甘さが見えた。 トップの情熱が感じられない店舗だった。直感では外食産業の5割 はこのレベルと同等です。こうしてみると店舗過剰ではない。もと もとダメな店が多すぎる。いつもそう思っています。 業界平均値の伸びに対しては、いつも、三グループに分かれる。 平均値以上のグループ、平均値グループ、平均値以下のグループ。 平均が前年比−5%なら、+10%のグループ、−5%のグループ、 −15%のグループにきれいに分かれる。+10%のグループに、 少数の次の時代を拓(ひら)く店舗がある。 四川料理店には5つの要素が揃っていた。 ・料理の内容から判断し、価格が2倍は高い。 ・グルメを気取り、各皿に盛った量が少ない。 ・料理の彩りが、薄汚く、美的でない。 ・皿がいかにも安物でコーディネートがない。 ・アブラがぬるぬる皿に残り味は単調で不味い。 駅弁にあるような、時間が経って冷たいべとべとの中華よりひどか った。ビールすら不味かった。従業員や調理人のせいではない。 問題はいつも顧客に向かうトップの精神です。 ▼インターネットは親密なリレーション CRMは、顧客とのトランザクションを、リレーションに変換しよ うとする活動です。購買の商取引が終わったとき、新たな関係が始 まる。 訪ねれば、主人の心遣いや温かさと意気に、ほっとするレストラン や寿司屋はないか。訪ねれば自分の好みをすべて知った本屋はない か。分身になることができる秘書はいないか。(笑:余計です) 21世紀は、リレーションがトランザクションに勝つ。 友人の関係は共同体を作る。それこそ価値ではないか。 インターネットは、リレーションを作るツールではないか。 インターネットは、「新しい共同体」を作るのではないか。 インターネットのチャットも電話とは違うものではないか。 マスコミの代替が、インターネットではない。 もっと親密な、相互関係になるのではないか。 インターネットのe-commerceは省力化ではなく思い切り手間をかけ リレーションの接点を、尖って増やするためのものではないか。 高校生がクラスメートと携帯電話で電話し、加えてメールのやり取 りをすることがインターネットメディアを示しているのではないか。 そうすると省力化を目的とするe-commerceの試みは挫折に向かうの ではないか。コンピュータの背後に人間が必要ではないか。 21世紀はメディアに囲まれつつ人と人がもっと近くなる社会では ないのか。商品は媒介(メディア)に過ぎないのではないか。皆が 求めているのは、人との真性のリレーションではないか。 ▼書店に寄って セルシーにある田村書店は大型になっていた。四川料理店での気分 を変えようと立ち寄った。中田について知りたかった。 『文体とパスの精度』(村上龍×中田英寿:集英社)が見つかった。 帯には、「溢れる想像力、シンプルな哲学 自分のことは自分で 決めて高い技術とスキルで武装する」とあった。 村上龍はサッカーの小説『悪魔のパス 天使のゴール』(幻冬社: 2002年5月)も出している。 幻冬社はベストセラー作りがうまい。見城徹という名プロデューサ ーがいる。角川書店を辞め、出資者と出会い、売れる本を出している。 余計なことですが、出資者の夫人と家人は大学の同窓の友人だそうで す。(笑) 帯には「これだけ緻密にサッカーを書いた小説を読んだのは初めて。 ストーリーにどきどきしながら僕自身「言葉で展開するサッカー」 を読みました。 中田英寿(A.C.パルマ)」とある。 『マネーロンダリング』(橘玲:幻冬社)も買った。「合法的脱税 それが個人のための金融危機サバイバル術だ! 「資産防衛→資 金逃避」という動きは今後高まるだろう。この小説には貴重な情報 が縦横に織り込まれている」と村上龍氏推奨、とある。「大型新人 デビュー 金融情報小説の傑作登場」だそうです。 7月初旬から国際金融のメッカ、チューリッヒ、ロンドンのプライ ベートバンクを研究のため訪れます。飛行機の中で読もうと思う。 ■3.『文体とパスの精度』とクロスオーバー ▼クロスオーバー 村上龍と中田英寿は、スポーツ・ジャーナリストの増島みどりを介 し、97年の9月(中田が20歳のころ)初めて会ったと言う。そ の後、e-Mailと村上のイタリア訪問によって、交流を続けている。 メールが重要な役割を果たす。電話とメールは、まるで違う。電話 で熱くなることは少ないが、メールは熱くさせるところがある。 作家の村上とサッカーの中田のような「交流のクロスオーバー」は、 いたるところ共同体が崩れた現代社会の、新しい紐帯のキー概念 になるのではないか。e-mailは手紙とは違う。食い込むような新し い関係を作ることができる双方向メディアではないかと思えます。 【メディア】 インターネットとe-mailは、マスコミが奪った「パーソナルコミュ ニケーション」を回復させる機能を果たす。 20世紀:〔個人〕−〔マスメディアとしてのマスコミ〕−〔個人〕 21世紀:〔個人〕−〔パーソナルコミュニケーション〕−〔個人〕 朝起きれば、(マスコミである)大新聞を読んで社会を知る。出来 事は「ワイドショーやニュース解説」を通じ解釈する。家族の食事 時ですら、TVはついていて、隣も同じTVを見ていることが多い。 マスコミは、個人の間に「共通意識」をつくってきた。こうしたこ とは全世界で、空気のように当たり前になっている。 インターネットやメールは、メディア革命になる。20世紀は大規 模な機械装置には資本が必要だった。次第に、必要資本は大きくな ってきた。しかし21世紀は、5万円のパーソナルコンピュータも、 100億円の放送設備と比肩できる「メディア」になる。 「知識と技術」という新しい資本は個人のものであって、大規模組 織が有利とは言えない。ところが知識はそれ自身では価値を生まな い。 ここ以降を、多くの人が間違える。研ぎ澄ました個の知識や技術は、 それを活かす組織、販売網、生産会社とネットワークで結びつい て、経済的価値に転じさせることができる。個人の専門性は他の専 門性や組織と連結されなければ、価値ある最終商品にはならないの です。 中田の、状況を見た正確なスルーパスは、個人技です。 そのパスを得点にするにはチーム(組織)が必要です。 こうして、個人の知的または技術的価値(資本)と組織が結びつく。 今後、規格型の定型作業の組み合わのみで成立してきたワンセット 型の既存組織は、ばらばらになる可能性がある。その後、個人の才 と新しい組織がネットワーク的に結びき、個を活かす21世型組織 になるのではないか。それが次世代組織のイメージでしょう。 ■4.既得権益組層という障害 村上龍は冒頭で言う。 <他人に従うのではなく、自分で考えそして実行してみる。中田英 寿の哲学はシンプルだ。そしてすばらしいサッカーがシンプルであ るのに似て、真実はいつもシンプルなものだ。この対談集は、特に 若い人と女性に読んで欲しい。若い人と女性には既得権益が少ない 分、変化に適応できる可能性も大きい。活力を失ったように見える 日本の社会は、ダメになったのではなく。内外の変化に適応できな いだけで、その底には巨大な既得権益層がいる(『文体とパスの精 度p7』、以下も引用部は同書から)> 既得権益層は、今のこの国では(およそ)世代で分かれる。 【注:世界の共同体的なもの】 米国では、資本家・マネジャー・ワーカー階層で分かれる。 そこでは、横の労働組合、「ユニオン」が労働の階級と賃金水準を 保証する機構になっている。アメリカンドリームが米国の活力です。 西欧ではギルドがある。タクシーの運転手を相続できるわけではな いが、親の仕事を継ぐことが多い。西洋の底はギルド、資本家、官 僚エリートの階層分けで安定を図った社会です。西欧に共通する社 会民主主義は、資本家階級及びエリート官僚層(いずれもプチブル ジョア階級に属する)と、ワーカーの階級差を緩和するための、安 定装置です。 中国では信義の関係をベースにする「幇」という強い横の連帯と、 父系の血族の「宗族」がある。いずれも社会の安定装置になって いる。王朝の変転を経ても2つの共同体で中国社会は崩れにくい。 日本では、共同体になった会社が、戦後社会の安定装置だった。会 社は、会社間で大企業と下請けの階級を作ったが、会社の中では、 すべての人に幹部への道が開かれていた。それが共同体ではあって も日本の会社の動的活力になっていた。また高級官僚も世襲的では なく、学歴とパーパーテストの成績でなることができた。その後、 世襲議員も増え、2世.3世経営者が増え、階級の固定化が起こり 始めたのが80年代末でしょうか。そのころから、社会の活力が急 に失われてきた。 戦前の共同体は農村だった。都会で敗れれば母の住む故郷とイエが あった。今は家庭は機能化し会社も機能化に向かう。新しい、動的 コミュニティをどこに回復させるか。これが、日本の最大問題です。 【制度の固定化で既得権益層が生じた】 既得権益層は、たとえば年金で言えば、40代で後半で分かれます。 40代後半以上なら、今の制度では少なくとも払った分はもらうこ とができる。60代は払った分以上にもらうことができる。40代 未満では、払い込んだ年金が、上の世代の受け取りに移転する。 人口が多い世代がどう考え行動するか、それによってこの国の近未 来が決まる。団塊の世代は多くがリストラを受ける世代になった。 ▼固定を望むか、創造的破壊か 特殊法人、官僚組織、会社組織、系列、業界を含め、今の制度や慣 習、文化を、今のまま固定したいと思うグループと、破壊したいと 思うグループが、今後、はっきりと対立するはずです。この国では およそ世代で分かれる。 90年代になって、国民から憎まれる高級官僚でも50代以上の局 長・次官、または天下り組みと30代では、意識が異なるように感 じられる。 今年の最初、ある会社の研修で言ったことがあります。前の席には 40代以上の幹部層がいた。後ろの席には女性を含め20代・30 代がいた。 <まず、皆さんは国家を信用していないでしょう。年金も減額され、 福祉負担は増え、増税になるのだから>と言うと顔を伏せていた2 0代・30代の人たちが一勢に私を見つめた。この男は、何を言う のだろうといった雰囲気だった。 <次に、ホンネでは会社も信用していないでしょう。5年先に今の まま、給料が上がり続ける安定した職場があると考えている人はい ないでしょう>と言うと、私を見る全員の視線が強くなった。 団塊の世代も、会社に忠誠を誓ったのではない。 年々増額される「賃金制度に忠誠」を誓った。 以下の構造があった。 ■5.団塊の世代に見る会社への忠誠の構造 (1)1970年代の初任給4万円〜5万円くらいから95年頃ま ではほぼ一直線に上がってきた。世代の平均年収は、同じ会社で勤 続していれば、1000万円を超えるようになった。 会社が大きくなれば、中小企業的な待遇も改善され、各種の手当を 含めた福祉も充実する。含み資産があり、潰れる危険はなかった。 (2)労働の流動化市場があり、ユニオンで横の連合で賃金が保証 される米国と違い、また失業しても給与保証が高い西欧の社会民主 主義とも違い、この国では途中で会社を変えると、収入は60%か ら80%に下がる。自分に特別のプロフェッショナルの技術はない。 (3)直属の嫌な上司がいても一時的に我慢すればいい。自分のこ とを公正に見てくれている他の上司がいる。忍耐し耐えれば、生活 も保障される。今の上司は嫌なやつだが、会社は好きだ。 こうしたところが外面では会社に忠実に見えたことのホンネ部分だ った。80年代までは、ひとつの会社に勤続することが有利な賃金 制度だったから、勤続と忠誠を続けた。根底の理由は単純です。 ▼底にある疑問 今後も、嫌なことに耐え、ひとつの会社に勤続することが有利にな るだろうか? 果たして、10年後に今の会社は存続できているのか? 年金は保証されず、増税は確定していて、預金も結局はインフレで 価値が無くなるかもしれない。中国の工業化に続く、低賃金国の工 業化で賃金は上がらない。ホンネではそう思える。 グローバル経済は、戦後体制とその付属物を破壊する。 過去は、輸出によって、米国・西洋の産業を破壊した。 今後は、輸入によって、日本の戦後体制が破壊される。 会社に勤続すること以外の、どんなライフ・プランがあるのか。 威勢良く辞めた人とたまに飲むと、元気な声とは裏腹に時折曇った 表情が見える。さびしそうな雰囲気が全身にある。 自分には誇ることができる技術も、知識もない。 勤続を続けた今の会社だから高い報酬をもらえている。 幸運に他の会社に拾われても、ごく少数の例外を除けば、給料は下 がり、自分を理解し引き立ててくれる上司もいず、孤独な戦いを強 いられるだろう。 とすれば、矛盾だらけだが踏みとどまって、慣れた環境を維持する ほうがいい。給与の5%カットくらいはなんてことはない。それが 多数派です。 行けるところまで行く。たとえ数年後の断崖が待っていても、とい う悲壮感が漂う。多くのサラリーマンと話していてそれを感じます。 ▼蛇足ですが・・・ ある業界の最大手の会社の部長をしていた友人が、数年前「会いた い」と電話をかけてきた。同じ会社にいた信頼する元上司から、大 手外資の日本支社の社長をやってくれないかと誘いを受けていると 言う。 こうした岐路ではどう判断すべきかとの相談だった。 彼は、既に自分では決断していて、確認を求めていると思えた。 寿司屋で刺身を摘み、ビールをかなり大量に飲みながら言った。 <やりたいと思うことをやることでしょうね。計算ではなくやりた いことをやったほうがいいと思う。今その誘いを断れば、後悔が残 るでしょう> <私は、自慢できるようなことは何もしていないが、やりたいこと をやってきた。自分で決めてきた。このことに後悔はない> 彼は外資に移り社長になった。 就任前は赤字だった会社を黒字に転じた。 前の会社で普通にやっていたことが、この会社の文化では当たり前 ではないから簡単だったと言った。年収も2倍くらいの数千万円に なっていたようです。 その3年後くらいのある日、新宿ヒルトンでの講演の後、帰るまで 時間があったので久しぶりに食事でもしませんかと電話をした。彼 は1時間後に、日本では巨大に見えるキャデラックで現われた。 <会社を辞めることにした>と彼は言った。 理由は言わなかったから私も聞かなかった。 私は<これからですね。個人の真価が試されるのは>と言った。 彼は深く頷いた。今は大学の講師の他、数箇所の仕事をしている。 ■6.文体とパスの精度 『文体とパスの精度』のなかでの、サッカーの技術的な会話は私に は理解不能です。 しかし以下のようなところは、分かる。 村上:<サッカーのパスも、小説の文章も、一番大切なものは 正確さだ、みたいなことを話したよね。狙ったところにパスが通る のが重要なわけで、それは広義のコミュニケーションだから、小説 の表現で厳密に言葉を選ぶのと同じわけです> 【異なる世界のクロスオーバー】 ここで、村上龍の言葉の世界と、中田英寿のサッカーの技術的世界 がクロスする。こうしたクロスオーバーができるかどうか、これが 職業と生活で、一番大切になるのではないか。 【井戸の中の世界】 会社の共同体内部の特有の価値観、行動様式、文化、評価されるこ と、言語、これらの多くに外部世界には通じない暗黙の用語の定義 がある。 共同体が永遠に続くものなら、その用語や価値観を反省し考え直し、 外部世界とコミュニケーションできるように翻訳する必要はない。 ▼共同体の短期化 92年以降の地価の崩落(つまり日本の戦後の会社の、本源的な資 本の消滅)で、永遠と思えた共同体は、多くが原始株式会社に戻り、 短期的なプロジェクトの様相を呈してきた。それに、交通と流通 の発達によるグローバル競争が重なった。 80年代までの地価の含みは将来を保証したが、今の株式会社の今 年の利益やキャッシュフローは、来年の利益を保証するものではな い。忍び寄るグローバル経済で、会社は浮動的なものになった。 永遠に思えるのは法と制度に頼る官僚組織のみでしょう。その官僚 組織すら、リストラが避けられないという意識は、若い世代の役人 には芽生えている。国民的な合意で増税ができなければ、官も人数 減らしか、ワークシェアという名の(実質)賃金低下しかない。 【個人】 会社共同体が短期的なものなら、「個人として」世界に通じる技術、 知識、言葉を持ち得ること、これが方向になる。このことは、皆感 じている。しかし、それで成功できるのは5%か20%の少数派で はないか。80%の多数派に属する自分はどうすべきか? 以前は、20歳からおよそ30年働いた。会社の寿命が、個人の仕 事をする期間より短いとは考えられなかった。多くの就職は、生涯 の生活の保証だった。 【会社の寿命のほうが短くなった】 今は、寿命も伸び40年は働く。今日就職した会社が、40年後も 存続し、定年で多額の退職金をもらえると想定している人はいない。 もうしばらくすれば、長期勤続でも10年でひとつの仕事、つま り、40年で4回は仕事や会社を変えることが普通のライフ・プラ ンになる。長期雇用が有利な制度も、変わらなければならない。新 入社員から定年までの長期雇用は、例外的になる。 そうなると戦後の生涯観は根底から崩れる。 それを補うものが、この国にはまだない。 【結婚も】 女性にとっても、結婚が永久就職とは思えない。夫が安定して給料 が伸びるという前提での、ライフ・プランだった。報酬の変動や失 業があるとき、計算ではない夫婦の愛という絆がそれに耐えられる ものか。今後米国並みに離婚が増えるのも確定している。生涯を添 い遂げるということはぐんと少なくなるのではないか。 夫婦は社会の中で最小の共同体だった。それを取り巻いて会社があ った。その両方の共同体の永続性が、根底から崩れようとしている。 【キー概念】 こうして「交流やコミュニケーションのクロスオーバー」は、共同 体が崩れた日本社会のキー概念になるのではないか。 サッカーで、熱狂的に騒いだのは日本では若者が多かった。諸外国 では、世代を超えたサッカー熱があるのと好対照だった。 ▼海外研究ツアーでも 昨年秋から3回に渡って、読者を対象に海外視察・研究ツアーを行 っています。研修ではなく、私も加わった研究です。 行動や文化のコード(綱領)が異なる海外で考えたことを未整理も 構わずナマで、言葉のシャワーのように参加者にぶつけます。 あることに気がついた。この人たちは、以前のようには、もう自分 が属する会社という深い井戸から外部世界を見てはいない。80年 代とは様変わりしています。多くが、個人的な参加動機です。 皆、その意味でスマートで、個人主義的です。そして個人主義的だ からこそ、参加者相互のコミュニケーションがすごい。ホテルで部 屋に集まり、深夜・早朝まで語り合うという風情がある。かと言っ て、翌日のバスツアーで、居眠りするような人は少ない。バスに揺 られ、講師の話を聴きメモを取る。 中国では、参加者が80名でバス2台分だったこともあって、毎日、 自由参加のパーティを企画した。ほとんどの人が参加し、予定時間 が終わっても、帰ろうとしない。あちこちのテーブルで話が弾んで いました。 香港在住で輸出入をされていて中国ツアーに参加された方からのメ ール。 <いつもシンセンから香港に帰ると、ホッとするのですが、今回は 違いました。知り合いになった人たちと離れることになると思うと、 後ろ髪を引かれる不思議な思いでした> 日本の社会も、深いところで変容を蒙りつつあるのではないか。 「個人」が誕生しつつある。 しかしながら、組織体に依存せず個人として生きていくのは並大抵 のことではない。村上龍も、中田英寿も類いまれな才能に恵まれて いるように思えます。この「才能」はなにか。多くの人が個人とし て卓越した才能をどうやれば獲得できるのか。 ここで、およそ30Kバイトになりました。<特別号:中田英寿と いう希望(1)>として一旦ここで送信します。続きは、第2信と して、すぐ送ります。じゃ、すぐあとで。 第2部へのリンク 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 【ビジネス知識源 読者アンケート】 1.テーマと内容は興味が持てるか? 2.理解は進んだか? 3.疑問点や質問点は? 4.その他、感想等 5.差し支えない範囲で読者の横顔情報があると助かります。 コピーして、メールに貼りつけ、記入の上送信してください。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 ▼著者へのひとことメール yoshida@cool-knowledge.com ※友人、知人、同僚、部下、上司、取引先への転送は自由です。 あなたと、会社の、知識とスキルのブラッシュアップを。 ▼<ビジネス知識源プレミアム:1ヶ月ビジネス書5冊分を超える 情報価値をe-Mailで>のサンプル閲覧と申し込み http://premium.mag2.com/reader/servlet/Search?keyword=P0000018 有料マガジンベストトセラーを継続中です。 http://premium.mag2.com ▼クール・ナレッジ掲示板(BBS)で投稿 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