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(02年6月24日) |
さきほど送った第1信に続き、第2信を送ります。 「組織体に依存せず個人として生きていくのは並大抵のことではな い。村上龍も、中田英寿も類いまれな才能に恵まれているように思 えます。この「才能」はなにか。多くの人が個人として卓越した才 能をどうやれば獲得できるのか。」 一体、恵まれた才というのはあるのか。中田英寿と村上龍はどう考 えてきたか。そこから始めます。 <特別号:中田英寿という希望(2)> 【目次】 (第1部:前回送信) 1.さぁ、顔を上げろ、戦いはこれからだ 2.中華レストランと書店 3.『文体とパスの精度』とクロスオーバー 4.既得権益組層という障害 5.団塊の世代に見る会社への忠誠の構造 6.文体とパスの精度 (第2部:今回送信) 7.全然、下手だった 8.中田の自己認識の構造 9.完璧な自分のイメージ 10.自分のビジョンを探し続ける 11.どこまでもポジティブ 12.インターネットとマスメディア 13.シャイな男がチームを率いるリーダーになった 14.同じ喜びを喜びんだつかの間 ■7.全然、下手だった ▼下手だった 村上:たとえば、全国中学代表チームとかに選ばれて、ヒデは一番 うまい選手だったんでしょう? 中田:全然、下手だった。 村上:・・・小学校の時からダントツにうまかったという印象があ るけど。 中田:基本的にはうまくなかったけど、いつの間にか代表に入って いる、みたいな感じ。(最初から)代表チームの中で一番上のレベ ルにいるってことはなかなかなかったんじゃないのかな。 【下手の意味】 村上:どの年代でも代表になっているから、ずっとトップできてい るというイメージがあるよね。 中田:重要な大会があったりしたときに最終的にはレギュラーとし て出ているからそういうイメージがあるのかもしれませんが、実際 は補欠から始まって、徐々に試合に出始めて最後にレギュラーを取 っているという状態なんです。 ※中田も最初は補欠、ここは決して見逃せない点ですね。こうした言 葉は、人に勇気を与えます。 (引用に続く紛らわしい部分の吉田記述の冒頭は※で区分します) 中田:やはり負けず嫌いであるということと、あとは自分で言うの も何なのですが、やはりそれだけいろいろと見て考えていた。言わ れたことをやるのではなく、自分で考えて、例えばうまい選手がい たら、あそこは自分よりうまいなと、そういうふうに自分で吸収し ていって、多分それで試合に出られるようになっていくんだと思い ます。・・・何よりも大事なことは、何が必要かを自分で見つける ことだと思います。 ※「自分で何が必要かを見つけること」、そのために「優れた技術 を観察し、自分で分析すること」、コツを言えば何事でも、これし かない。驚くような秘訣でもなんでもなく当たり前のことですね。 ▼自分がやらなければならないこと 中田:まわりにうまい人がいても、ちょっと自分はかなわないなと 思うんじゃなくて、それを見て自分なりに研究すればいいし、逆に 自分に必要な部分もよく分かるしね。自分がやらなければならない ことを、普通にやっていたらそうなったというだけの話だから。 村上:自分がやるべきことを普通にやるだけ、ということね。言う のは簡単だけど、むずかしいよね。 中田:たぶん、まわりを見て、そうやって自分を把握するのが得意 なんじゃないのかな。まぁ、簡単に言うと、単なる負けず嫌いとい う噂もあるけどね。(笑) ■8.中田の自己認識の構造 特徴は<まわりを見て、自分を把握するのが得意>という比較の冷 静さです。この比較に耐えることは、実はたいへんむずかしい。「 自分のほうが本当は上だ」という意識が邪魔をする。 他の人(または会社)が優れていても、***という特別の条件が あるから、優れているように見えるだけだと割引します。これは、 裏返せば自己肯定です。例えば「大資本」だから強いという言葉も 「中小資本」の言い訳のように思えます。 才があるように思われている人に訊ねれば、みんな「自分には才能 はない」と答えます。これは真実でしょう。周囲はそれを「嘘を含 む謙遜」と取る。 本当は才能があったから今のように成功したと結論付け、「あの人 の才能は生まれつきのものだ、だから仕方がない」と周囲が自己肯 定する構造がある。才能とは、目標を設定した努力ができるという 才しかありえない。 更に「幸運だった」という概念もある。幸運が訪れるかどうか、自 分の責任に帰すべき範囲に属さない。 こうして、「生まれつきの才能があって、その才能を活かす僥倖( ぎょうこう)に恵まれ、今は特別な条件のもとにあるから、讃えら れ成功している」という物語りが出来上がる。 マスコミは、毎日、こうした架空のストリーを飽きずに流す。組織 のサラリーマンである記者が、無意識に自己肯定をしているからで す。成功者は特別に恵まれた人であるとすることによる自己肯定で す。 付け加えれば「自分に必要な部分を分かりたくないという自己肯定」 ですね。 必要はneeds。needsは語源的には「欠けていること=自己否定」で す。欠けていることの認識を、中田は<まわりを見て、そうやって 自分を把握するのが得意>と表現する。 これが、中田英寿の自己認識の方法のように思えます。 中田を作ったのは、冷静な他との比較で、自分を把握することが得 意だったという自己認識以外にないでしょうね。 ここまでは分かる、中田は次のように続ける。 ■9.完璧な自分のイメージ 村上:それは、相対的にだれかと比べて下手だと思っているの? 中田:いや、だれかとではなく、イメージする完璧な自分と比べて ですね。 自分が完璧だという意味ではなく、自分の中でイメージする完璧。 うまい選手、強い選手はたくさんいるし、それぞれの選手にいいと ころはたくさんあるけど、憧れる選手はいますかと訊ねられれば、 別にいないんですけどって答えますね。 ※では、中田がイメージする「完璧な自分」とは何か? ▼限界の縮小と拡大 中田:自分の限界というか、やれる範囲というのは決まっていると 思うし、それは、たぶん・・・たぶんだけど一生辿り着くことはな いんだけれど・・・。でもね、自分の限界と言っても、限界だって 変化するかもしれないですよね。限界が縮むやつもいれば、限界が なんというのかな、どんどん大きくなっていくような人もいるわけ で、だからおれには限界がない、みたいにね。 無理するのとも違うけれど、自分で限界をあえて設定してしまうの も、逆におかしいと思うんですよ。 ※中田の自己イメージ(ビジョンと言ってもまったく同じです)に は、おそらく「完璧な自分」がある。図式的に言えば、以下です。 ▼構造 【中田用語】 【ビジネス用語】 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 周囲の自分より優れた選手を見る。 (ベストプラクティス) →完璧な自分のイメージを作る。 (ビジョン作り) →「完璧な自分」−「現在の自分」 (差異の自己認識) →「自分がやるべきことが見つかる」(差異を埋める戦略) それを「普通に」やる。 (戦略の実行) 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 「完璧な自分のイメージ」は、おそらく中田の内部で、「強く内化 された自己目標:ビジョン」に昇華されています。彼にはビジョン 作りの才がある。 ビジョンとは現在は「ない」こと、つまりは可能性をはらむ幻影で す。 vision:a picture in your mind of a possible situation or sc- ene;the knowledge and imagination that are needed in planning for the future with a clear purpose (Longman) 心の中に描く可能な状況やシーンの映像;ある輪郭のはっきりした 目的をもって描く「未来」の計画化に必要な、知識力と想像力 中田では、ビジョン=「同じチームや他のチームの人のすぐれた技 術(ベストプラクティス)を見て、そこから自分で作った完璧な自 分」です。その完璧な自分に比較すれば、今の自分は常に不完全に なる。これが、中田の努力の方向です。 そして、その完璧な自分の到達点に安易な限界を設定しない。 限界を縮ませない。ここが、中田の卓越した点でしょうね。 こうして彼は、敗戦の後も、記者が期待する「悔しさ」を言わず、 分析的言葉を述べる。まだ足りなかった。それが負けた試合で見つ かったとすれば、敗戦もまた幸運ではないかとなる。こう言われれ ば、悲劇の物語りを作りたい取材記者は、ストリーが描けない。 ■10.自分のビジョンを探し続ける ▼探し続ける 村上:ビジョンがないことを恥じる必要はないんだけれど。 中田:うん、僕もそうだと思う。僕だって将来的にどういうビジョ ンをもっていますか、なんて訊かれても分からない。分からないけ ど・・・ 村上:探さないとね。 ▼準備をしておく 中田:そう、探しながら、それに向かう準備はしていかないと。日 本の大学生でも特にやりたいことがみつからない人がよくいるらし い。目標がみつからないのは悪いことではないけれど、見つける努 力をしているかという話しで、とりあえず大学にいっている。大学 に行くのはもちろんわるいことではないけれど、とりあえずという のは安易だと思う。 【安易と必死】 「安易だ」と思うという言葉に注目すべきです。中田は大学には行 っていない。それを不利だとは考えていない。 重要概念は「準備」でしょう。機会は、準備している人だけにある 日訪れます。そうだからこそいつ訪れてもいいように、準備をして おく。スーツケース必要な荷物をまとめておいて、機会がくれば3 0分後に、旅立つというイメージでしょうか。機会が来てからの準 備では機会が、他の人に逃げることが多い。 普通の言葉では「決断」や「即断」と言います。しかし準備をして きた当人にとっては、他の人には即断に見えても実は「熟慮」です。 重要なことで即断ができるわけがない。機会や幸運は確かにある。 大切なことは、それを機会と幸運にすることです。 さらには、「機会を探し続ける」ということ。強い目的意識、目標 意識を持っていれば、日常生活の中に、いくらでも機会はある。こ れは、体験からも本当のことです。「必死の」願いは、叶う。必死 さに安易が混じると、機会もさっさと逃げますね。 ▼実は必死 村上:ビジョンを見つけるのはむずかしいと言ったって、探してな い人に見つかるわけがないもんね。 中田:仕事がありませんって言う人だっているんでしょう? でも どこまで必死にさがしているかってこともあるんじゃないかな。今 の日本、本当に仕事ってないのかな、とフシギに思うんですけどね。 【普通のことですが・・・】 探す、見つける、必死にやる、伝わってくるのは「普通の」メッセ ージです。中田は「完璧な自分のイメージ」を、おそらく「必死に」 つくった。そして、機会を必死に探す。 だから他の人が「安易に」言うことが不思議に思える。中田の自主 トレは凄いと言います。彼は過酷な練習をし、ビジョンまたは目標 を普通の顔をして「自分で、必死に」探している。 中田は、普通の人から見て過酷なトレーニングをやるのは<自分は プロだから、当然です>と言う。過酷な練習はプロなら誰でもやる。 だから普通です。 中田に非凡な点があるとすれば、 i)目ざすことが、完璧な自分という自己目標であること、 ii)その自己目標は、他人が設定したものではなく、観察から生ま れていることでしょう。 ▼プライド 村上:仕事の問題で言えば、プライドという問題も大きい。今、日 本のお父さんたちの自殺が急増している。本当に中央線がよく止ま るんだよ。たとえば今まで一部上場企業の部長だったおやじさんが、 平気でサンドウィッチを作ったりできれば仕事はあるんです。給料 はきっと半分に減るし、部下もいない。逆に若い奴に、使われたり するわけだけど、その時に彼のプライドが邪魔をしてしまうのかど うかが問われている。 【靴磨きということ】 以前、相談を受けたことがあった。その人は、総務部長だった。辞 めるときの決意では、男泣きに泣きながら「今なら、靴磨きでもな んでもできる」と言った。そこまでの決意なら立派です、どんなこ とをやっても成功します。辛いなら、会社を辞めてもいいんじゃな いでしょうかと答えた。 失業期間が長かった。その人は失業保険はもらっても、靴磨きはや らなかった。私には、要は他人からの援助である失業保険をもらう ことは恥だという意識がある。(自分が払った失業保険の回収であ るということも正当ですから念のために。それを非難するのではな い) 言ったとおりやれば凄い人に思えた。その人との付き合いはそれ以 降止めた。内心で馬鹿にした。後で、会うことがあった。 就職と転職を繰り返し、どこかに就職はしていたが、卑しい顔にな っていた。男の言葉は軽いものではないはずです。 靴磨きに誇りを持てないような人は、どんな仕事にも、誇りはもて ない。この人は今後も不満だらけで仕事を転々としもっと堕ちると 思った。 自己目標ではない、世間の評価に動かされているからです。世界1 の靴磨きになると考えることもできたはずです。屋台のうどん屋も すばらしい。おそらく、大変な技術が必要でしょうが・・・ みんなが嫌がるホテルのベッドの、シーツ変えの仕事に社会的な意 義を見出し、技術を磨き、誇りを持つことから、ホテルのメンテナ ンスを請け負うすばらしい会社が生まれる。 仕事とは、人や社会の進歩や善、そして幸せの役に立つこと。それ 以外にないでしょう。直接または間接に他人の役に立たないかぎり、 自己満足で、自己中心で、大切なお金がもらえるはずがない。 その意味で、今の日本の官僚や政治家の権益のための活動は下卑て います。おそらく、その子供は、父に誇りを持てない。子供は全部 を感じとる。非行や自棄の原因もこんなところにある。官の共同体 組織は最後まで行きつけば、究極の他人依存と、民の支配の意思で ソ連のように国を潰します。 肉体労働の時代は、仕事は生活の糧を稼ぐためだった。 今多くの人が従事する知識作業、情報作業では、仕事の意義におい て、社会的な意味と自己目標にまでつながりを求める。 自分の仕事の社会的な意義は、自分で「必死に」探すことしか方法 はない。サッカーも単に遊びと言えば遊びです。中田が意義を見出 したサッカーは、私には究極の苦痛でしかなかった。 何事にも、自分としての意義を発見する能力、ここが才というもの の秘密でしょうね。その意義は他からは与えられない。 ■11.どこまでもポジティブ 村上:僕は、(小説を)書けなくなるなんて、一度も考えたことが ない。そういったネガティブな発想が自分のどこにも存在していな いことに最近気がついた。 中田:僕もないですね、考えない。 【ネガティブとポジティブ】 一般には、ネガティブになることも多い。なぜ二人とも、ネガティ ブな考えに陥らないのか。その答えは、自分が設定した目標に向か って「努力することは特別のこと」ではなく、普通のことと考える からです。自己目標だから、他に転嫁はできない。 にもかかわらず普通は、ネガティブな心理が、忍び込むときはある。 私にも多い。そうしたときは逃げずに「ハードワークせよ」、「 困難を正面から分析せよ」と自らに命じます。 このことを中田流に言えば「完璧な自分に向かって、やるべきこと を普通にやる」ということでしょう。 つまり正面から考える。そうすると次第に突破口が見える。突破口 が見えるまで「ハードワーク」すると言ったほうが正確でしょう。 そうしていると否定的な自己を乗り越えることができるように思い ます。決して、私ができていると言う意味ではないのですが。 ネガティブの中に蹲(うずくま)らない。不幸は人を蹲らせる。問 題に向かい背筋を伸ばせば、否定的な心理も変わる感じですね。そ うありたいと、いつも思っています。 ▼努力は当たり前 中田:たとえば努力ということだったら、それなりの努力もするけ れど、それは別に大変じゃなくて、自分にとって当たり前のことな んです。気分的には辛いときだってあるけど、ごく普通のこと。 村上:うーん、なぜかとても不思議なんだけど、みんな「苦労」と 言わせたがるんだよね。僕もいろいろ大変だったし、努力もしたけ れど、、苦労なんてなーんにもしてないからね。苦労なんか何もな いと言っちゃうと、取材とか話はそれで終わりになってしまうから ね。・・・苦労してますって、おそらくすべてのメディアが言わせ たがる。・・・「苦労」と「きっかけ」と「秘訣」。これが、日本 の(マス)メディアのキーワードです。 【苦労と普通の努力の転換点はどこ?】 中田も村上も、その個性では「努力は当たり前」と考えます。 気分的に辛いことも、「ごく普通のこと」であると言う。 努力は「苦労」とは違います。苦労は人を苛(さいな)み時間を消 耗させる。大切なことは、村上も中田も他の人から与えられた目標 やビジョンではなく「自分が自分に与えた自己目標=ビジョン」で あることです。 親からであれ、他人から設定された「目標やビジョン」なら、それ は自分の意に染まないことですから、「努力は苦労」に転じる。 ピアノを弾くことに目標や喜びを持てない人に、指がちぎれるよう なピアノの練習を強いれば、「苦労」以外ではない。努力は苦役に なる。他方、ピアノを弾くことによろこびを感じることができるな ら、練習も普通の努力でしょう。私にサッカー強いれば、もう消え 去るしか手段はないです。(笑) 外形は同じ練習が、ある人には苦労になり別の人には当たり前の努 力になる。要諦は「自己目標」になり得ているかどうかでしょう。 自分とは無関係に思える組織の目標やビジョンもこれに似ています。 「組織のために」となると努力は恐らく苦労になる。他方、組織 のビジョンや目標を自分のビジョンとして内化させることができて いれば、苦労ではなく「普通の当然の努力」に転じるでしょう。 マスコミが成功の陰の苦労物語りを作るのが好きなのは、視聴者が それを好きなためです。努力することが死ぬほどの苦労であるとい うのは、その努力をする目標が、どこかで他の人が設定した目標で あるからです。ここが、岐路です。 1回限りの、過ぎた時間は戻らない人生。努力することが苦痛では なく喜びになる「自己目標」を探すことが必要(need)ですね。それ が中田にとってはサッカーの至高の技術であり、村上にとっては優 れた小説だった。二人は見つけた。 ▼物語りはない マスメディアは「物語り」を作る。あらかじめのシナリオがある物 語りに当てはめて、天才に見える中田は、こんな「苦労」をし、自 分の目指すことに目覚める「きっかけ」があって、そして成功の 「秘訣」はこれだったという架空のストーリーを作る。 そして自分にも「きっかけ」あれば、またはだれかがその「きっか け」を作ってくれれば、自分の「苦労」も報いられると考えます。 しかし、成功しているように思える中田も村上も「きっかけ」も、 「苦労」も、「秘訣」もないと言う。だた、普通に「やるべきだと 自分で決めたことを、ごく普通に続けただけだ」と言う。 みもふたもストーリーもなにもない、普通の日常です。 しかし、これが人生の実相でしょう。そう思えます。 ■12.インターネットとマスメディア 村上龍は、Japan Mail Mediaから村上編集長のJMMのマガジンを 出している。私も時々、興味を惹く記事を選んで読んでいます。中 田も読むと言う。中田も本人が記事を書くホームページを持つ。 村上:ヒデが友達だからといってなんて言うか、つるんでいるわけ じゃなくて、僕は今の世の中で、重要で正確な情報がどこにあるか ということを示したいんだよ。それでね、僕はたとえば、オヤジ系 の週刊誌に小説はもう書けないよ。 そういう週刊誌や女性誌やスポーツ新聞よりも、僕(村上)のメー ルマガジンや、ヒデのホームページの情報のほうが、正確なんだと いうことをなんとかして示したい。それに、ネットを重要なツール だと考えている。 村上:人はもちろんヒデだけじゃないよ。今の日本では、個人的な 目標を持つ人は必ず孤立するでしょう? 自分の目標がある人は、 居酒屋でみんなで騒いでも楽しくないからね。そういう人は自然に ネットを活用する。正確な情報のやりとりができない人や集団はこ れから淘汰されると思う。 村上:でも、(グローバル化した)銀行や企業と違って、(日本の マス)メディアは日本語に守られているわけだから淘汰が遅くなっ ているだけなんだよね。もう既存のメディアに反省なんか求めない し、変化も望まないから、とにかく淘汰されて欲しいというか、早 く市場から退席してほしいな。 中田:それは僕も感じます。インターネットがあって本当によかっ たと思う。 【インターネット】 本当のことを自分で書き、媒介もなく伝えることがインターネット というメディアの本質でしょう。村上と中田にとってマスメディア は「よくこんな嘘を、書けるな」というものらしい。 「既存のメディアに反省なんか求めないし、変化も望まないから、 とにかく淘汰されて欲しいというか、早く市場から退席してほしい な」という村上の言葉は重いものです。 村上龍のこの発言を読んで、海外研究ツアーに集まった人々の、意 識を改めて理解し、このマガジンを購読いただいている皆さんの、 意識の高さを尊敬しました。その期待に十分応えることはまだでき ていない。できるのは、書き続けることだけです。 異常な長文を読む、このメールマガジンの読者は、凄い人が集まっ ていることになる。(笑) 私も(最初はわけも分からず)インターネットとメールマガジンを 選択し、正解だった。自己表現の可能性が広がった感じです。 ■13.シャイな男がチームを率いるリーダーになった ワールドカップでの中田は、以前と変わっていた。一級の名人芸を 見せるが、チームのリーダーとは見えなかった。職人的だった。 彼は冷静に言った。 <おそらく、チームのみんなは、ワールドカップで、自分のセリエ Aでの経験を欲していたのでしょう> 中田はセリエAのスターだった。中田がリーダーになったのではな く、皆が彼の体験を欲したことが中田を自然にリーダーにしていた。 そこから、恐らく日本チームは、初めての勝ち点をとることができ た。 ▼リーダーの要素:自分を上から見る自分 村上:記憶にもっとも残っているのが(中田が始めると言った)弁 当屋の話なんだ。 中田:あの弁当屋、おもしろいですよね。・・・日本のジャーナリ ストに高く売ろうと思ってね。(笑)倍の値段で売ろうとか言って。 村上:どういうことかというと、あの時は百人から二百人くらい、 日本のメディアが(イタリアの)ペルージャに来ていたんですよね。 嫌だなと思うのは当たり前だよね。練習の邪魔になるし。でもいっ ぱい来てるなあと、普通はそのくらいしか思わないのに、この人た ちに弁当を作って売ればもうかるというヒデの発想がさ(笑) ・・・ 中田:本当にやろうかというくらい盛りあがったしね。移動式弁当 屋にしようかと言って。・・・(はじめる)直前までいったんです よね。・・・ 村上:俯瞰(ふかん)で見ていないとできないことだと思う。 ・・・ちょっと俯瞰してみて、客観的にその状況を見ているわけで しょう。だって、実際メディアの人たち、何も食わず、ずっといた んだからね。・・・ベルージャには中華料理店はあるけど、日本食 屋はないし、弁当は絶対売れる。1日100食か200食は売れる わけだよね。・・・ 中田:それは遊びこころじゃないけれど、ある意味で一つのことに 注中しきらないで、必ずいろいろなことが見える状況に身をおいて おかないと、サッカーするのでもむずかしいし、何をやるにもそう だと思っているから、そういうことの一つじゃないかな。 【俯瞰の目】 目の前のことに集中しながら、自分の状況を含め、俯瞰的に見るこ と、これは、中田の後ろにも目があると言われる「全体状況判断サ ッカー」でもあるし、リーダーに必須の条件でしょう。 一つのことに集中しすぎ、環境と客観的な状況が見えなくなったと き、危機が訪れる。周囲と先を見ない一所懸命は、枠組みが変わる ときは誤る。 今の日本の危機は、ここから来たのではないか。メーカーは中国を 見ていなかった。金融機関は国内だけの、大蔵省指導の枠内で、M OF担(大蔵省担当)のもたらす情報や指示で動き、グローバル金 融を見ていなかった。大蔵省幹部も世界を見ていなかった。 ペルージャに多くの日本人ジャーナリストが来たのを見て、過酷な 練習をしながら「今ここで弁当屋を始めれば儲かる」と考える。現 在の延長線上にはない発想と言われるものはこうしたものでしょう。 自分を含めた周囲と広い世界を、上から見る俯瞰の目、これがリー ダーに必要な資質です。 ▼さぁ顔を上げろ ゴールを決められ、皆がガクッと来たとき、中田は「バカッ、顔を 上げろ、本当の戦いはこれからだ」と身振りの言語で言った。 しかし、トルコ戦では、結果には結びつかなかった。不完全なとこ ろがあったのか。私にはどこが不完全か、全くわからない。 ものごとを解くときの難しさは、結果が悪かったとき、その結果の 悪さの原因を、戦略とプロセスの悪さや不具合に還元しなければな らない点にある。 結果がすべてだということの意味は、結果には原因があるというこ との裏返しの表現です。日本チームが勢いでは勝てるように思えた トルコに負けた。そうすると、日本チームの戦略・戦術に、どこか 拙さがあった。世間のことに偶然はない。偶然と思えるときは、そ の偶然が起こったプロセスの解明が不十分だからだと思考すること でしょう。中田はきっと、次はやる。そう思えます。 彼は、「完璧な自分」の限界を拡大したように思えるのです。中田 が「完璧なチーム」に向かったとき、日本チームは変わる可能性が ある。 人並みを見たときクールな彼が使った「異常な感動」という言葉に 感応(correspond)します。いいサッカーをやりたいと「個人的に」 考えていた中田という個性が、異常な感動で、セリエAの優勝の 喜びに勝る「ワールドカップ」を発見したのではないか。 多少、詠嘆的・感傷的に過ぎます。しかし日本人は、優れたリーダ ーがいて、努力の方向を見出したときはすごい。古代からの歴史が 証明する。リーダーがいないときは、混乱、腐敗、戦乱になる。 日本人的であることに肯定的な価値を見るとき、よくも悪くもとん でもないところまで進む。90年代、日本人は日本を否定していた。 ■14.同じ喜びを喜びんだつかの間 ▼同じ喜び ワールドカップでできた、多くの日本人の「同じ喜びを分かち持つ つながりの仮想共同体」は、淡く消えた。あの感動は心底凄かった。 瀋陽事件でまたも傷ついた日本人の自尊心に自信を回復させた。 中田と日本チームは素晴らしいことをやった。溶解する日本が、再 生するように思えたのです。 新宿、渋谷、戎橋では、「ニッポン、、、ニッポン、、、」の合唱 が起こった。多くが若いフリーター世代だった。「この国にはなん でも揃っている、希望を除いては・・・」と言う世代だった。君が 代と日の丸に、ワールドカップを通じて、一体化した若い世代がい た。国粋主義やナショナリズムとは全く違う。 学校でも家庭でも職場でも、おそらく「心底から同じ喜びを喜ぶ」 という経験はなかった。しかしそれがまだ消えていないことが、初 めて分かったのではないか。私もその一人だった。 サッカーを初めて見るという一人暮らしの老人がテレビで言った。 サッカーは分からないけれど、一緒の喜びを分かち持てることがす ばらしい。日本人の90年代、一緒のよろこびは消えていた。 直後に見た、イタリアと韓国の戦いがすさまじかった。私は、韓国 チームがはじめて好きになった。他にも多くの人が韓国を応援した。 日韓共催は、日本と韓国の今後の関係の気分を変えることになるの ではないか。日本人が、または韓国人が、お互いのチームの勝利を 喜ぶということは、恐らく過去の歴史で一度もなかった。 西欧のサッカージャーリズムは、イングランドを含め他国の応援を する日本人に不思議な感想をもったと書いている。戦後の日本は、 国際関係の、軍事までを使って確保する国益が相互にぶつかるリア ルポリティクスには戸惑った。政治音痴の国民になった。おそらく 以下のような「空想的世界観」で生きていた。 <日本国民は、恒久の平和を念願し、人間相互の関係を支配する崇 高な理想を深く自覚するのであつて、平和を愛する諸国民の公正と 信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した(日 本国憲法前文:1946.11.03公布> 【翻訳の原文】 We, the Japanese people, desire peace for all time and are deeply conscious of the high ideals controlling human relat- ionship, and we have determined to preserve our security and existence, trusting in the justice and faith of the peace- loving peoples of the world. 米国の若い学者が書いた憲法の前文を、確か中学の教科書で初めて 読んだ。恥ずかしくも、涙を流したことを記憶しています。 旧社会党のような主張をしているのではない。 国防は、必要不可欠と考えています。 にもかかわらず日本人のリアルポリティクスではない国際政治音痴 のナイーブな感性に、今後のグローバル経済での可能性を感じます。 上海で会った日本人技術者は、仕事のモティベーションとして「 アジアのために」と考えていると言った。私はその言葉に感応した。 こうした、世界から不思議に思われる日本人の感性を信じます。 4年前のワールドカップ・フランス大会では、日本は勝ち点ゼロだ った。敗れて去るとき日本人サポーターがスタジアムのゴミを拾っ てきれいにして帰ったことを、自国が負ければ荒れ狂うサポーター に慣れている西欧のマスコミは「驚異」と書いた。 普段は部屋の掃除すらできていないであろう若い世代が、よそ行き の海外で、誰が声をかけたのかわからないが、自主的にスタジアム のゴミを拾って帰った。すばらしい行動です。こうした若い世代が いつの間にか育っている。その世代が、サッカーの勝利で今度は同 じ喜びを分かち持った。 今は、ほどんどの会社は、給料の高い人(団塊の世代)が最も多い 逆ピラミッドです。しばらくすれば、民間企業のこの雇用構造は解 消します。そうすると、日本経済の成長の障害は、制度による既得 権益の拡張と維持をもくろむ組織だけになる。 ▼フランス人の自尊と日本人の組み合わせ 敗戦後のインタビューで、トルシエ監督は言った。 <4年間、日本チームと働いたことを誇りに思う> そう言ったとき、彼の唇は、微妙に痙攣していた。 彼は高慢でチームに溶け込めないと言われてきた。 職人トルシエにとって、ある季節が終わっていた。 その後すばらしく働いた日本チームは、解散した。 抑制をはずせば、号泣しそうな表情だった。 私はトルシエに、深く感情移入をしていた。 誇りに思う・・・この言葉はすばらしい。 人間的な誇り、これこそわれわれが出会う価値で、至上のものでは ないか。人間から、誇りと、ビジョンへのやせ我慢を取ったら何が 残る。 日本人が忘れていたもの、それは排他的ではない<自尊と誇り>で はないか。<平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼し>、同時に <日本人としての誇りを持つ>こともナイーブな日本人にはできる のではないか。 そう言えば、日産でリーダシップを発揮しているカルロス・ゴーン もフランス人だった。フランスは、20世紀の産業で成功した国 ではない。エリート官僚と200家族(ヴァン・サン・ファミーユ) と言われる資本家が支配する国です。自国文化への誇りが高い。 フランス人もフランス文化も自尊によって存在する。他方、日本人 は、マスコミを含め、自尊が裏返った自虐趣味です。 今の日本と日本の産業、政治、官僚に欠けているのは、 (1)日本文化と、日本的経営、日本人であることの誇り (2)方向付けのリーダシップでしょう。 村上龍の言葉を書き換えます。 <この国にはなんでも揃っている。誇りとリーダシップを除いては。 もしそれがあれば、日本人と日本企業に希望が戻る。> グローバル経済とは、激しくローカルあることを研ぎ澄ますことで もある。他国の物まねや二番煎じは、相互交通の発達で淘汰される。 距離がなくなったときは、存在するには差異性が必要になる。 中田には強い自尊があり、今回備わったリーダシップが加わって、 バスを見送り並ぶ人々に対する異常な感動があった。中田は個人主 義的な自己目標を掲げることで、深く人の心を動かした。こうした 日本人が25歳であることは頼もしい。中田は優れて個人であると いう理由で個人を超え<中田英寿という希望>になったように思え た。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 【ビジネス知識源 読者アンケート】 1.テーマと内容は興味が持てるか? 2.理解は進んだか? 3.疑問点や質問点は? 4.その他、感想等 5.差し支えない範囲で読者の横顔情報があると助かります。 コピーして、メールに貼りつけ、記入の上送信してください。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 ▼著者へのひとことメール yoshida@cool-knowledge.com ※友人、知人、同僚、部下、上司、取引先への転送は自由です。 あなたと、会社の、知識とスキルのブラッシュアップを。 ▼<ビジネス知識源プレミアム:1ヶ月ビジネス書5冊分を超える 情報価値をe-Mailで>のサンプル閲覧と申し込み http://premium.mag2.com/reader/servlet/Search?keyword=P0000018 有料マガジンベストトセラーを継続中です。 http://premium.mag2.com ▼クール・ナレッジ掲示板(BBS)で投稿 http://cgi.members.interq.or.jp/venus/yoshida/BBS/light.cg |
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