| フロントビューとバックミラー(1) 見える過去と見えない将来 |
以前からソフトバンクの孫正義氏の事業発想を分析してまとめてみたいと考えていました。とても新しいものを含んでいるからです。 どんな視点からまとめるか?<孫氏の目に世界がどう映っているか>という視点。ソフトバンクの事業的成功や失敗ではなく孫正義氏の思考方法の分析です。 <フロントビューとバックミラー> 全4回分の第1号です。 ■孫氏の事業的世界観を分析する 彼は単純に整理された世界観をもっています。 決して複雑には考えない。 単純に見えるまで徹底して調べ、聞き、観察し、構想する。 小説風人物論ではありません。ソフトバンク自体が今後うまくいくかどうか、これにもさして興味はありません。 現象的なことを重ねるマスコミ的視点は私の役割ではありません。 事実確認には必要でしょうが、それ自体は価値のない情報です。 1年前の2月には総時価21兆円だったものが60%(01年2月初旬)も下がっている、どうせネットバブル、マスコミ評論にはそうしたところが見えます。 元をたどれば<嫉妬と怨嗟>、意味のないことです。 ▼フロントビュー 本分析で行うのは、彼が発している<メッセ―ジ>がどんなものかということ。事業構想の根本部分のケーススタディです。 彼の発言を分析すると、発しているメッセージが見えます。 彼の目には、はっきりと見えている前景:フロントビューへ迫りたい。 普通の人にすぎない自分が、孫氏の立場だったらどう認識し判断しただろうか、という想像的な視点からの分析です。 孫氏を特別な人とは思いません。とくに、恵まれてもいない。 われわれと同じ現在に立っている。 今流行りの松下幸之助を読んでもピンと来ないことがある。 同時代人ではないからです。歴史として確定しているが、やはり過去です。 孫正義は現在です。現在は評価しにくい。確定がないからです。 明かに過熱があったインターネット株崩落の今の時期だからこそ、より冷静な分析ができます。また、しばしば起る<過熱>がどんな意味を持つのかも、分析の過程で明かになるはずです。 ―――――――――――――――――――――――――――――― ■想像力が21世紀の事業の原点 ▼20世紀の方法の根幹 大きく言えば<モノの量産による貧からの脱出>そのための会社への隷属が本質だったのが20世紀の方法でした。組織はピラミッド型。 20世紀後期には福祉的修正と、所得分配が加わっています。いわゆる修正資本主義。19世紀型の露骨な隷属はない。自由です。日本は他国と比較すれば賃金は高い。 しかし自由ではあっても、日本では有効な選択肢が少ないように見える。転職の選択肢が狭いこと、これが将来不安の根源にある。 この国では、いつも大転換期には閉塞感が生れます。繰り返されたことです。過去も現在も。閉塞感の頂点では、キレるときがある。 しかし孫氏は閉塞感とは無縁です。 閉塞感は過去のバックミラーの世界を見ているからだと言うでしょう。 しかし風穴が開かない。末来が見えない。過去の後始末、企業と家計はバランスシート修復に懸命。果たしてそれだけでいいのか? 白け、コトバを失った間欠的反抗、悲惨な事件、頻発する猟奇的な犯罪、官僚の不正・堕落、政治家の矮小化、教師の無力感とも根で関係している。こうした現象は、根は日本人が共有化している未来への閉塞感から発したものでしょう。 ▼21世紀の方法 21世紀の方法は、20世紀とは違います。それが見える。 組織が効果的に動く原動力、労働内容とモラールの根幹が変った。 貧からの脱出では、組織のエネルギーの動機付けにならない。 価値ある生き方の希求。この<価値>とは一体とはなにか? チームメンバー個々が納得できる<意味>。 自己管理、それを通じての自己実現へ向かった成長。 自己成長を通じた、社会への使命。 個人として認められること。成長や自己実現とはなにか? 見えない末来を見るのは<想像力>のみでしょう。夢と言い換えてもいい。緻密な推論と戦略を加えると構想になる。 想像がどんなに歪んだものでも、その方法しかない。 想像力は、誰にでも備わっている人間の能力。 しかし曇ったフロントガラス、鮮明なのはバックミラーで見える過去。 ▼リーダシップによる組織経営原理 【1.想像力⇒構想⇒ミッション】 ・<想像力>に基づいて生まれるのが、事業や仕事では<構想> ・構想を実現させるエネルギーの原動力になるのが<ミッション> 【2.ミッション⇒リーダシップ⇒戦略】 ・構想を最適に実現させる手段・方法が<戦略> ・ミッションの実現への方向を示し、メンバーのエネルギーを束ねて戦略を実行するのが<リーダシップ> 【3.チームワークによる協働と、自己管理の評価制度】 ・自分の最も強い専門部分を持ち寄って協働collaborationするのが<チームワーク> ・<自己管理>でのやる気と学習の動機を高める<評価制度> そしてチームメンバーを成功導き、成功を心から褒めたたえることができる真のリーダー。 21世紀に成功する経営組織の運営の根幹。 論理的で、単純で、誠実。 以上の点では、みんなゼロの地点です。金融を筆頭に過去のB/S(貸借対照表)修復に忙殺されているのが今の時期です。 今後は<ピラミッド組織の規模>ではありません。ソフトバンクの本体は、代表者の孫氏を含めて社員数6名の会社です。驚くべき小人数。 現下で突きつけられた問題であるB/S(バランスシート)の修復ができればいい、また順風と考えているひとが多いかもしれません。 違います。 約10年後になると、実はそれだけではなかった・・・ということになるでしょう。はっきりと見える。 赤字・債務超過、重い事実。にもかかわらず本当の課題は将来どう利益を生むか、そこが焦点なのです。 仮に必死の資産処分・社員カットで債務超過が消えても、それは単に消えたというだけ。 末来の利益ではない。末来をどうするか、どう利益を生むか、構想・構築すべきはそこである。 負のサイクルにあるとき、問題は本当に次々に起る。 これでもか、これでもかと、問題が襲う。問題の処理に忙殺される。 統計的に言っても、稀なことは、しばしば連続的に起る。 そこで将来を構想できるか? 問題に負けないための唯一の方法。問題の課題化。苦しいなかでの構想。それだけが負のサイクルを変える。成功といえるのは、失敗があったからです。これは単にコトバの遊びじゃない。 成功が連続すれば、実は成功ではなくなる。 喜びもそれがいつも続けば、喜びが不満や不安になる。 成功に至るには、失敗を通るしかない。それが自分にとっての成功の意味。自分にとっての意味が、一番大切なものでしょう。 ―――――――――――――――――――――――――――――― ■フロントビューとバックミラー ▼見える世界 われわれはバックミラーで世界を見る。 バックミラーに映るのは、過ぎ去った過去の事実。 過去は実は抜け殻にすぎない。 損益計算書、バランスシートは過去の事実である。 しかし厳密にいえば抜け殻です。統計データはすべて抜け殻。 抜け殻の分析は、学者に任せておけばいい。 フロントビューは、なかなか見えない。 蠢く芋虫、毛虫を見ても、春になれば空にひらひら浮かぶ蝶になるなんてとても思えない。 フロントビューは<想像力に基づく構想>です。 バックミラーに映った抜け殻の延長で、前を見る。これが普通の方法。 科学的という呪文を被っている。 事実であるファンダメンタル分析からは、将来は見えない。 過去から将来が見えれば、誰も失敗はしない。 しかし将来から、現在を見る方法があるのか? 普通は実は前を見ていない。過去を愚痴る。後悔する。過去は確実である、慣れ親しんだ事実である。 顔をあげると時代は変っていた。成功を怨嗟し羨む。自己肯定のために、あれは偶然だと断じる。うまくいかない。これが普通です。 しかし未来の<雛型>は現在に含まれているはずである。末来から現在を見ているひともいる。 誰でも知っている<目標管理>という方法がある。目標(実現すべき将来の状態)と現在の結果を比較して差異を見つけ、それを課題にする方法。しかし、本当の意味でこれを実行している人、企業は実は少ない。目標の設定に問題がある。微差の目標にすぎない。それが実務か? 実現可能性、このコトバが目を曇らせることが多い。 将来は現在の延長線か? 違う。はっきりと違う。 将来が現在の単純な直線的延長なら、ことは簡単である。 <一所>懸命の改善手法でいい。 過去の延長線でいいときもあった。それが戦後だった。 ▼2人の人物 日本で、フロントビューをしっかりと見て、判断し、構想を実行している代表的人物は、事業家ではソフトバンクの孫正義氏と、CEOではソニーの出井伸之会長と判断します。 2人のようにフロントビューが見えれば世界観は変る。 90年代の空白の10年・バランスシート不況・ネットバブルの崩壊・構造改革など、この10年間のちいさなことに見えるはずです。 過去は参考情報(いわば芋虫や毛虫の世界)です。 見るべきは、構想すべきは、これからの世界(蝶の世界) 現在は大転換の過渡期。安定的な時代ではない。 技術革新の爆発がある。 みんな蝶が見えない、その点ではまさに1線に並ぶ。 どうしたら、芋虫や毛虫から蝶が見えるか? 路傍の石ころからダイアモンドを選び取れるか? 地から天空が見えるか? 一体どこが違うのか? 末来の価値は、その<雛型>が現在に含まれているはずである。 突然、なにもないところから末来が降りてくるわけではない。 現在に含まれてはいるが、見えない末来の価値とはなにか? そこまで迫りたいと思います。 ―――――――――――――――――――――――――――――― ■ソフトバンクの概要 2000年2月のピーク時は株価総時価が21兆円でした。現在は90%の下落で約2兆円(01年02月)ネットバブル崩壊の象徴と言えます。 ソフトバンクは日本のインターネットネット関連会社の資本の元締めと言っても過言でない。ソフトバンクが資本提供(買収も含む)しないと日本のインターネット関連の主要企業、起業はしぼむ資金循環の構造。 今手元に、ソフトバンクの中間決算書(2000年11月期)があります。 変化の速度が速いため、意外に知られていないソフトバンク本体のイメージ作りのために示します。半期での連結決算の概要です。 ▼営業成績(連結) 半期売上 1698億円 経常利益 10億円 税前利益 683億円 ・B/Sの簿価総資産1兆781億円 自己資本3839億円 ▼事業の範囲(連結子会社と非連結の持ち株会社) ・e-Commerce (ソフトバンクコマース・ベクター・カーポイント等31社) ・メディア事業(ソフトバンク出版等45社) テクノロジーサービス事業(ソフトバンクテクノロジー等11社) ・サービス事業(ナスダックジャパン・日本債権信用銀行等6社) ・インターネットインフラ事業(アイビーレボリューション等5社) ・放送メディア事業(ソフトバンクブロードメディア等4社) ・インターネットカルチャー事業 (ヤフー・インターネット総合研究所等9社) ・海外ファンド事業(37社) ・e-Finance事業(ソフトバンクファイナンス等94社) 合計で274社。なぜこんなに多くの会社の株を持つのか? 管理はどうするのか? 1社の経営でも大変なのに・・・ ▼中心になる持ち株会社がソフトバンク 事業の円の中心にあるのが、純粋持ち株会社のソフトバンク株式会社。社員数(戦略スタッフ)は、なんと6名のみです。 社員数では、零細企業です。 【経営ボードメンバー】 孫氏1名が代表取締役、あとは非常勤の平取締役で以下のメンバー。名前を見ると、経営ボードの運営、議論の内容が見えますね。 ・北尾 義孝(ソフトバンク・ファイナンス社長) ・宮内 謙(ソフトバンク・イーコマース社長) ・笠井 和彦 ・ロナルド・フィッシャー(ソフトバンク・ホールディング副会長) ・藤田 田(日本マクドナルド社長) ・宮内 義彦(オリックス社長) ・大前 研一(大前アンド・アソシエーツ社長) ・村井 純(慶応義塾大学教授) ―――――――――――――――――――――――――――――― ■根本の発想の発生点 創業期はソフトの販売事業でした。書籍のような、モノのハンドリングです。 孫氏は、自分の事業の発想をある日変える。以下に示します。 (<>は孫氏の発言:主として「孫正義大いに語る」PHP出版より) 【1.当時の事業への認識】 <ソフトバンクを始めたころは、なけなしのお金でソフトの流通をやっていました。・・・流通というのは、市場が成熟してくると激しい価格競争が始まります。そうなるとマージンが減る。> 【2.別の世界がある⇒フロントビューの世界】 <マイクロソフトやインテル、ロータスなど、会社が小さかった時に、僕らが協力してその製品をいっぱい売ってあげた多くの会社は、どんどん大きくなっていったわけです。・・・こちらは働けど、働けどたいして伸びない。> 【3.発想の転換】 <だからやっぱり早い段階で協力した分、あとになっても価値がもてるようにしたい。それは株式を持つことだと、この10数年ずっと思っていたんですね。 ・・・すこしでも余裕が生まれたら必ず株を持つんだ、ということを常に考えていました。> モノの流通では、事業は苦労の割りにたいして大きくならない。<すこしでも余裕ができれば・・・> 伸びる会社の株を買う。 <あとになっても価値がもてること>、キーワードですね。 以上が、現在のソフトバンクの原点です。この発想の転換がなければ、ソフトバンクも並の会社でした。 【4.機会を待つ】 <かつて大型コンピュタからパソコンになった。このときパソコン革命だと興奮が生まれたわけですけれど、その時は僕はお金がなく投資できなかった。しかし歴史は繰り返すだろうと考え、ずっと次の機会を待っていました。そこに来たのがインターネット革命というわけです。> ここで、重要なことは2つです。 <歴史は、あるサイクルで繰り返す>との確信。 それまで、<マネーの準備をして機会を待つ> 芋虫が蝶になろうとする、その瞬間を10年くらい待った。 【5.方法】 孫氏はインターネット事業を自分で直接経営するのでなく、一番手として成功しそうな会社を見つけて、株を買う方法を採ります。 インターネットは、一番手に人とマネーが集中する世界。 この方法を採ったことが、分岐点です。 自分ではまりこんで現業(オペレーション)をやれば、苦労して大きくするのに、長期かかる。ソフト販売の経験からの学習。 しかも、他の世界のことは見えなくなる。 自分がプレーヤーになるのでなく、一流になる素質のプレーヤー(芋虫)を見つけて買うこと。あるいは事業パートナーになる。 ―――――――――――――――――――――――――――――― ■最初の、一流プレーヤーの資質をもったものはYahooだった 【Yahoo】 <年商が2億円で社員が15人。まだ設立して半年。赤字が1億円。 そんなものに100億円も出したからさすがのアメリカでも、日本から最後のバブル男が来た、ロックフェラービルなら建物があったからまだわかるが・・・といわれた。> 1996年:年商2億円、赤字1億の会社に100億円出せるかどうか・・・ ここに、フロントビューとバックミラーの違いがある。 ジェリー・ヤンが創設したYahooは売上2億円、赤字1億円、社員15名は、バックミラーに映るものつまり過去であり事実です。 証券アナリストの世界です。 フロントビューの末来価値は、そこからは判断できない。 孫氏は、当時のYahooの35%の株は100億円(総体で300億円)では安い、と判断します。 事実、その後Yahooは1997年からのインターネットのブーム化で急上昇した。孫氏のインターネット事業の、最初の核になった。 Yahoo-Japan ピーク4兆円(昨年2月)約1兆円(01年2月) Yahoo-USA ピーク12兆円(昨年1月)約1.9兆円(01年2月) ▼情報のソース <ZDnetのジフ・デービスから得た情報は大きいですね。彼には3000人くらいの社員がいて、そのほとんどが、テクノロジー・アナリストです。 証券会社にはフィナンシャル・アナリストがいて、彼らはそれぞれの会社の業績を見て判断するわけです。> <しかしテクノロジー・アナリストはテクノロジーのタネの段階で、このテクノロジーはとういう方向にいくだろう、この人物が企画しているアイデアはこうなるだろうと将来を予測するわけですから、タネの状態を良し悪しを計る際には、ジフ・デービスの威力はものすごくおおきいんです。> 証券会社は、過去の業績とその延長というバックミラーでの分析。 ジフ・デービスはフロントビューの分析。 ここに、孫氏の2番目の秘訣がある。 実は、ジフ・デービスのZDnetを孫氏は買収している。 ZDnetはサイトがあります。 http://www.zdnet.com http://www.zdnet.co.jp ―――――――――――――――――――――――――――――― ■ジフ・デービスの情報価値と孫氏の投資 <これから宝島に行きます。何が欲しいか・・・鉄砲なのか、槍なのか。僕なら地図とコンパスだけでいい。 宝が隠されているところを記した地図とコンパスさえあれば、3日とかからず毒蛇に噛まれる前に宝を見つけてパッと逃げる。飢え死にする前に掘り当ててさっさと逃げます。 ですから、僕はどこに宝が隠されているかとの情報の価値は、万金に値すると思ったわけです。 ジフ・デービスには全部で3000億円投入しましたが、自らの収益で買収資金を返していけるのですから、無料で情報のありかを得たことになるわけです。> ▼後知恵 こう言われれば、誰でも、孫氏の言う通りと理解するでしょうね。 しかし、それは皮相な理解にすぎないのです。 後で考えて、孫氏のやったことは正解だったとなったに過ぎない。 これを<後知恵>と言います。後知恵ならだれでも100%できる。マスコミが最も得意とする方法です。バックミラーです。翌日の競馬新聞を見て昨日の競馬を当てるようなもの。誰でもできる芸当ですね。 ▼情報の価値化 まず<情報の価値>に対して、いくらジフ・デービスの情報が優れているにせよ、総計3000億円も投入できるか・・・です。 その時は末来は不確実。末来投資とは常にそうしたものです。 断崖絶壁から飛ぶ覚悟です。 しかし、断崖から飛ぶのは自殺行為。 ほかの人には断崖に見えるものが、実は断崖でなくしっかりした階段であるとの判断・確信が必要です。なぜその確信が生じるのか? フロントビューへの、確実な地図は当然ない。 フロントビューは、見えない。 ▼普通の方法 普通は、地図に大枚を払うのでなく、宝島らしいところに行くには、銃や槍や食料を持って出かけるのです。 宝がない可能性のほうが高いと、内心では判断するからです。 情報に価値を認めることができない。 なぜなら<そもそも宝とはなにか>がわかっていないからです。 末来の宝を発見するのに過去の尺度とバックミラーで見る。 自分の目で、調査と称して島中をうろうろして、島から戻ってくる。 自分の脚でくまなく探したけど・・・実際、宝はなかった。 その同じ島で、孫氏は宝を見つける。 ▼見えない宝、不信と自己過信、そしてシステムの間違い 年商2億円:赤字1億円:社員15人の会社が、将来の宝にはとうてい見えない。 Yahooというへんな名前の会社はあった。 あれはまぁ、たいしたことはないだろう。 人手がかる方法で、ひとつずつ、サイトを訪れて確認していた。 コストが大変だ。だからいつまで経っても赤字のままだ。 これが普通の見方です。 検索ツリーなんてそんなに価値はないと判断。 インターネットの島にはYahooという会社は誰の目にもあったのです。インターネット初期から知らない人はゼロだった。 【1.不信と裏腹の自己過信】 インターネットは伸びるだろうからというわけで、Yahooをマネして自分でやろうとする。多くの検索エンジンがうまれた。 Yahooのような人手のかかる、サイト確認でコメント書く方法でなく、ロボット検索ならもっとコストを押さえて、赤字を生まないようにできると考える。 みんなが気がついていない、インターネット利用のサービスビジネスの重大な間違いが、ここにある。 【2.デジタルサービス業も、人的サービス業である】 インターネットとは言え、サービス業は、人手を(巧みに)かけてサービスの差別的な価値を生む産業です。人対人が、サービス。 CRM(顧客関係の管理)も、ロボット音声での案内になった途端に、価値が減じる。ロボット音声の案内では、なんだ失礼な・・・と思うのが顧客の反応。 留守番電話の不快感は、身に覚えがあるでしょう。 ところが自分がやるときは、コスト合理化を名目にロボットや留守番電話の方法をとる。機械に使われた状態。 友人はともかく顧客はテープ音声を聞いた途端に、電話を切る。 なぜ、Yahooがユーザにとって価値があるのかを考えない。 【3.機械は機械にすぎない】 実は、機械そのもの(コンピュータ)は価値を生まない。 それはすぐマネされます。終りなきマージンの低下競争。マネされないようなものでなければ、あとで価値を生まない。この誤解が多い。その意味で<IT革命>、ではない。 一旦、機械の利用を離れて、どうすれば、顧客に優れたサービスを提供できるか、というプログラム(カスタマー・エクスペリエンス)を組まなければならない。その後に、機械とネットワークでしかできないことを探す。これが本筋です。コンピュータ利用で最も間違えやすい点です。 【4.コンピュータ利用で繰り返される間違い】 理由は、システム設計をコンピュータエンジニアに任せるからです。 <システム設計>では、<プログラム設計>は一部にすぎない。<業務設計>のなかの一部分が、プログラム設計なのです。 70年代からのSIS(Strategic Information System)以降、飽きずに何回も繰り返される間違い。 SISが有効になるなら、<経営者の業務設計>ができなければならかなった。そんなことができるわけがない。 だからSISは革命的と大騒ぎされた結果が、無効だった。 その意味でなんでもIT化をいう<IT革命>は幻想です。 【5.Yahooの価値の誤認】 Yahooが利益を生むのは、誰も人手を掛けた方法を真似できないからです。なぜジェリー・ヤンが、2億の売上で1億の赤字まで出して、人手での手法を続けたかを見ない。 無駄と見る。みんなが無駄と見たところが価値だった。 Yahooのインターネット<サービス業>の本質の価値がわからない。 自分が宝になろうとする。人間不信と、傲慢です。 Yahooを参考に、もっと合理化すれば、自分ならもっとうまくやれる、と思うのです。ツノを矯めて牛を殺す類。みんなこれをやるのがIT。 その結果は・・・Yahoo以外は、数多の検索エンジンが、現在、全部赤字で、次々に消えているのはご存知ですね。 ジフ・デービスが孫氏に出した報告書と同じものを、他の人が見ても、それに価値があると判断できないひとが99.9%以上でしょう。 それに株の買収の発想は、特に日本人には湧きませんね。 買収とは、他人が作った事業の将来価値を、信用(Credit)することです。その意味で日本人は、ほんとうは自己過信かもしれない。 自分だったら、先行モデルより、もっとうまくやれると思う。 だから、マネをするんじゃないでしょうか? 世界最大・人類史上最高の1380兆円の本源的な個人貯蓄を持っていながら、投資ではそれを減らしてばかり。(公共投資は論外です) マネーは有効な投資で増える。銀行の金庫のなかでは紙に過ぎない。 紙を価値にして、増やすのは<投資>です。 フロントビューがないのでしょうね。 バックミラーでの運転だから。 ▼情報価値を判断できない ジフ・デービスの情報に価値があると判断しても、実際にその価値分のマネーを払う決断ができるのは、情報に価値があると判断した人0.1%のうちの、更に0.1%もいないでしょうね。 1000万円位なら払うかもしれません。 価値を判断できないから、情報(地図)に価値があるとは思えない。孫氏のように3000億もジフ・デービスに投資するなんて、まさにとんでもないことです。 ▼ジフ・デービス自体が、報告書の価値を分かっていたか? 実のところ、報告書を書いたジフ・デービス本人も、それが、宝の地図とは思っていなかったかもしれません。 思っていれば、融資を受けて自分でYahooを買ったことでしょうね。 孫氏も、興銀からの融資で、Yahoo株を買っています。 <なぜ孫氏は、ジフ・デービスの持つ情報の価値を宝として判断できたか>という点が焦点になる。 ▼Yahoo自身が分かっていたか? Yahooを作った当人も、自分たちが15人でやっていることが、実は巨大な宝とは思ってなかった。だから、35%の株を100億円で売った訳ですね。 もっと価値を生むという確信があれば、売らないでしょう。 ▼人と人の出会いと結合が、情報の価値を生む 孫氏とジフ・デービスの出会いで、ジフ・デービスの情報が、後に価値を生んだのです。 情報の価値は、そうしたところがある。 報告書は単に文字と数字がプリントされた紙です。 製造原価はテクノロジーアナリストの人件費のみ。 それに3000億の価値を付与したのは、孫正義です。 ―――――――――――――――――――――――――――――― ■情報の価値化の方程式 ジフ・デービスの持つ情報と判断と、孫氏が調達可能なマネーと判断、これが結合したのです。 情報とマネーと判断が、3つ結合したことによる<化学反応>から、巨大な価値が生まれた。 ▼情報の価値化の方程式 情報が価値になるには、<情報×判断×マネー=新しい価値>という、出会いと結合の化学反応が必要なのです。 重要なことは、この価値方程式は足し算ではなく掛け算。 3つの要素のうちどこかがゼロなら、結果もゼロになる。 ―――――――――――――――――――――――――――――― ■孫氏に見えたフロントビュー 他の人には、多少光ってはいるが石ころや芋虫にしか見えなかった売上対比赤字50%の15人のYahooが、なぜ孫氏にとっては100億円をかけも35%の株を買収すべき宝のタネと<判断>できたか、ここが問題ですね。 <情報>はジフ・デービス、<判断>は孫氏、<マネー>は孫氏の借金力です。 この3つが出会って掛け算になり、新結合の価値を生んだ。 ▼孫氏の認識と判断 【モノの世界はますます儲からなくなる】 <世の中には、時間の経過とともにだんだん価値が薄れていくものと、むしろ価値が高まっていくものがあります。例えば多くの製造業の場合にはノーハウに相当する部分が時間の経過とともに、発展途上国に容易にマネされるようになっていきます。マネされて、市場参入者が増えてくればくるほど、完全な自由競争が行われてとんどん利幅は薄くなる。> ▼伸びなくなったモノの世界 モノの世界は、すでにそうなっていますね。毎日のニュースでの企業合併、統合、工場の閉鎖。最適生産地が、90年代でどんどん変って行っているのが証拠です。 モノの生産は、特別の付加価値をつけ得るものを除いて生産の海外移転の方向です。 一例をあげれば90年代初期、生産のマレーシア移転で先駆けて超優秀企業と賞賛されたアイワは、98年から売上が急低下。いま372億円の赤字です。理由は、どこもが海外生産で低価格競争。ここ3年で陥落。またたく間です。 モノは生活に必要。しかし、伸びがなくなった。工場は海外移転で、国内は縮小。店舗を出せば、新しい売場面積が増えた分だけほかの店がなくなる。以前は、新しい店舗の売上を吸収して需要が伸びていた。 今後、モノの世界がどんどん拡大するか? 入れ替わりはあっても総体は増えない。ゼロサム、マイナスサム。入れ替わりとは価格競争。マージンが減る。みんな苦労の割りに報われない。働けど、働けど。 孫氏は80年代末にそう考えた。 【一方デジタル情報の世界はますます大きくなる】 <ところがデジタル情報産業の世界というのは、WindowsのようなOS、インテルのCPU、あるいはシスコのルーター、こういうものは時間の経過とともに、価値がどんどん高まる。プラットフォームを押さえるとそれの上にアプリケーションがいっぱい生えてくる> <たとえばYahooのようにみんなが使うインターネットの入口のような場所を押さえると、時間の経過とともにインターネットのユーザーがどんどん増えると、Yahooにぶら下がっている情報もともに増えていく。そうすると、時間の経過とともに、Windowsのように、Yahooの価値は高まっていく・・・なおかつブランドが確立されます> 価値のキーワードは<プラットホーム>、<ポータルサイト>、<ブランド>です。そこを見つけて押さえるのが方法。 ▼鉄道とインターネットのアナロジー 【鉄道】 孫氏には、過去の鉄道のアナロジーがある。鉄道が開通して駅ができると、そこが街の中心になった。駅前にいろんな銀行や店がならび、それが人を呼んで<自動的に>郊外住宅開発が起った。 地価は、何倍、何十倍にもなった。 【電鉄財閥の形成方法】 電鉄会社は、あらかじめ駅周辺と郊外の土地を買い占めておいて駅を作った。戦後の<新興財閥>を形成。 西武、東急、東武、阪急、阪神、名鉄、西鉄・・・全部戦後です。 戦後は旧財閥解体とパージで一線からのスタートでした。 なにか、現在と似ている。<歴史は繰り返す> 【戦後のフロントビュー】 鉄道を支えたのは、人口の都市移動、世帯数の増加、郊外持ち家住宅です。電鉄はそれを見越して土地をあらかじめ<押さえた> だれもそう思ってない終戦直後からずっと、土地を買い占めた。 土地需要は増加する。世帯は増える、持ち家は増える、それがフロントビューでした。戦後の食うや食わずの時も、フロントビューを見ていた人がいた。 もう鉄道事業は相当苦労しても儲かりません。 i)人口の増加と郊外移動の増加が、止まった。 ii)移動手段は多くが、車に変ったからです。 【電鉄のマネー吸収装置】 電鉄事業、不動産事業、ホテル事業、百貨店事業、量販店事業、バス事業、娯楽事業、リゾート事業 いずれも駅を押さえれば<自動的に>生えてくる事業でした。 ▼インターネット事業を核に e-Commerce、メディア事業、テクノロジーサービス事業、サービス事業、インターネットインフラ事業、放送メディア事業、インターネットカルチャー事業、海外ファンド事業、e-Finance事業 合計274社 <モノや人を運んだ鉄道事業>のイメージを、<デジタル情報を運ぶインターネット>を中核にしてマネたものです。事業の円環の中心がソフトバンク。 ▼インターネット これからどんどん増加するデジタル情報を運ぶ<インターネット>つまり、インターネットの駅(ポータル)とそのプラットホームを押さえる。 そこから<自動的>にどんどん需要が生えてくる。 <自動的>にという概念は、孫氏の事業のキーワードです。 鉄道時代は、世帯数の増加と人口の都市集中、そして郊外持ち家だった。 奥さんをパートにして長時間通勤に耐え、必死の思いでサラリーマンが払った住宅ローン(住)と、服(衣)や食品(食)の需要を吸い上げた機構が、戦後の電鉄財閥です。 大きな産業では、その後は車(移動)です。これはトヨタ。 それと、家電産業(生活機器)これらは全部<モノ>でした。 今後は情報ネットワーク、これがインターネット。 電鉄財閥の発想で、ここのポータルとプラットホームを<最初に押さえる> 後は<需要が自動的に派生>する。歴史は繰り返す。 孫氏はそんな風に構想した。そして苦労の割りに儲からない出版事業とソフト流通を細々とやりながら、大きな機会を10年待った。 【マクロの判断】 インターネットが情報流通の中心になる、との判断。 世界でインターネット接続人口は、当面の間年率で2倍くらいの速度で増えるのは確実です。 モノはこれ以上は伸びなくても、デジタル情報の世界では大きな成長がある。ソフトの流通や出版は苦労の割りに儲からなかった。 インターネットを使う人はどんどん増える、使う時間も増える。 人が集まればマネーが集まる。 【マクロの判断で誰よりも先に動く】 インターネットの可能性を述べる人は多くても、世界の誰一人として、ビル・ゲーツですら、実際には本格的には取り組んでいないと孫氏には見えた。 最初は、インターネットもたいしたものじゃなかった。芋虫だった。 ビル・ゲーツがインターネット中心の戦略を出したのは、Win95を出した1995年からです。 PC(パーソナル・コンピュータ)の可能性は信じていたが、インターネットの可能性は否定的に語っていた。 1995年このころから、各地で熱狂が起り始めた。 しかしみんなはYahooの将来価値を見誤っていた。 孫氏はマクロでの歴史観から世界を見ています。 なぜ、孫氏には他の人には見えないフロントビューが見えたのか? なぜ、みんなはバックミラーだけを見ていると思えたのか? ここを探らないといけません。 こうしたところが分岐点なのです。大きな分岐点。 一見とても些細なことです。 誰でも、言われて実証されれば、なるほどそうかとおもうはず。 しかしそれは後知恵。 孫氏が見たのは特に秘密の情報でもなんでもない。 ありふれている情報。情報はいたるところにある。 それを大きく、歴史観を持って見ることです。 歴史の事実は抜け殻です。 過去は二度と繰り返さない。個々の事実は1回限りの特殊なものです。 しかし、歴史<観>は違う。 <観>は、事実に対する人間の見方・態度・判断です。 歴史観で見ると、あるサイクルで、歴史は繰り返すように観える。 そう観えると末来に確信が持てる。 そして、機会を判断して、行動する。 人とマネーは、その後を追いかける。 孫氏は、一体なにをフロントビューに見ていたのか? なぜそれに確信が持てたのか? (第2号へ続く) ご感想ご意見は yoshida@cool-knowledge.com 【本マガジンの、友人・知人・取引先等への転送は、ご自由です】 ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ ビジネス知識源:インターネット時代の経営の成功原理と原則 良質な経営・IT・ビジネス知識の提供を目標に <メールマガジンの登録・解除・及び記事のバックナンバー> http://www.cool-knowledge.com Systems Research Ltd. chief consultant吉田繁治 2001年1月29日増刊号 :フロントビューとバックミラー(1) ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ |
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copyright : Systems Research Ltd. Chief Consultant 吉田繁治