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サム・ウォルトンの遺言(3) 現場主義の内容
                   02年8月5日

こんにちは、吉田繁治です。本稿が読者の方々に届く頃は、ニュー
ヨークに向かう機上です。8月末の週と、9月の第1週の、2班に
わけて行う<NY視察・研究ツアー>の事前調整と、視察先の細部
の決定を現地で行うための旅行です。

2部をお届けした<サム・ウォルトンの遺言>シリーズは、彼が死
の床で後世のために残した言葉をたどり、流通・小売業の経営の原
点になるようなものを探し、普遍的な原則にできないかということ
をモチーフにしています。(NYツアーでは、ウォルマートの、食
品部門を併設するスーパーセンターも訪れます)



 <Vol .110サム・ウォルトンの遺言(3):現場主義の内容>

【目次】
 1.原因をたどるということを目的とした考察
 2.対話せよ
 4.セントラルバイイングとQR
 5.しかし、物流と情報システムは先行投資
 6.Keep your ear on the Ground(地面に耳を接するように、現
   場の生の声に耳を澄まし、現場の地鳴りを聞け)
                      (続く)



■1.原因をたどるということを目的とした考察

第1部では<小さく考えよ:think small>、第2部では<1店舗か
ら考えよ:think one store at a time>と副題をつけました。ウォ
ルマートは、世界に大型店4400店余を擁し、全米の小売売上の
10%弱を占める世界最大のチェーンストアです。

【結果と原因】
大切なことは、われわれが現在見る巨大企業、情報システム(50
00人余の情報技術者)、サプライチェーシステムは、ウォルマー
トが、1店舗のバラエティストアを作って以降の、不断の新しいこ
との実験と原則化によって達成している「結果」であるということ
です。

その結果を見て、例えば、今のウォルマートのようにデータマイニ
ングを行って、サプライチェーンを作れば、ウォルマートのような
企業になることができるというのは、「原因と結果」を取り違える
誤りです。

ウォルマートの、現在の、情報システムを核にしたリテイルマネジ
メント・システムの全体は、それはそれで、興味深いものです。

しかし本稿はそこに焦点を当てるのではなく、今のウォルマートの、
リテイルマネジメントの全体システムが作られることになった原
因を、つまりサム・ウォトン思考方法を探ることです。

【小さく考える】
ウォルトンの思考の根底には、売り場の1つの棚、ひとつの商品、
1人の顧客、現場社員(associate:仲間)のちょっとした行動や作
業、そして変化を、本部がリアルタイムで知り、そこから考えるこ
とを、他のなによりも重視すべき価値観(Value)と考えることがあ
る。

2.対話せよ

小さい単位で考えること、見ること、調べること(原因)が、大き
な結果を生む。ウォルトンはそう考えていた。

規模においてペンタゴンを超えるといわれる情報システムは、そう
した価値観を原因にして作られた。情報システムは、商品一個一個
の動き(物理的な場所の移動と所有権の異動、および時間の変化の
記録)から集計するマシンです。

ここに、ウォルマートがわれわれと世界の「小」売業に問いかける
大切なことがある。ウォルトンが繰り返す「小さく考える」ことを
手がかりにすれば、経営と仕事の具体的な像が浮かび、28兆円、
130万人のビジネススケールを解く手がかりが得られると判断し
ています。

原因から見る

ウォルマートが達成した結果や店舗は、だれでも見ることはできる。
しかし、「原因」を語り得るのは、当事者しかいない。当事者中
の当事者が、実験的なアイデアに満ちていたサム・ウォルトンでし
ょう。

そうしたことが、死を覚悟しながら「最後の事業」として全力で取
り組んだ自伝的遺書の原文をたどることによって、見えてくるので
す。たとえば以下の描写。

<If you had to boil down the Wal-Mart system to one single
idea, it would probably be communication ,because it is one
of the real keys to our success>p282

<もし、ウォルマートの(経営)システムの全体を一言で表せる概
念に煮詰めろ(boil down)と言うなら、それは対話ということにな
るだろう。対話(communication)こそ、われわれの成功の本当の鍵の
ひとつであるからだ>

対話と指示・命令

コミュニケーションは、本部からの指示・命令とは違います。まず
は相手の事情を聞き、そしてこちらの事情を伝える[双方向の話し
合い]、つまり「対話」です。ウォルマートの経営システムを、一
言で言えば「対話」であるということは、記憶すべきことです。

決定の当事者だからこそ<本当の>の鍵と言える。対話とはどんな
内容を持つものか。ここにも「小さく考えよ」の原則があります

【コミュニケーション・システム】
<われわれは、土曜日の朝の会合、一本の簡単な電話、衛星通信シ
ステムなど、あらゆる方法を使って、対話を行う。相手に伝わる対
話こそ、こうした大組織にとっては、どんなに重視しても重視しき
れないくらい本質的(vital)なことになる。ビーチタオルの巧い売
り方が分かっても、会社の全員に伝わらなければ、意味がない>
原文p282

【小さな創造】
ここで、小売における「創造的現場」の内容も見えます。

つまり、「ビーチタオルの巧い売り方」がある店舗の社員によって、
または本部、あるいはベンダーによって「発見」される。新しい
売り方だから、それが創造です。その創造を、「全社員」に伝え、
実行させること、これがコミュニケーション。

【原則化と伝達】
ウォルマートはその8万品目について、店舗現場で時には偶然的に
実行される巧い売り方を集め、それを実験して「コトバと映像で原
則化」し、大規模な衛星通信までを使ったコミュニケーションシス
テムで、すばやく(quick response)、全社員に伝える。

【大きな成果とは?】
ひとつの店舗のある品目で、社員の創造的な工夫から、または偶然
から起こった「ビーチタオルの巧い売り方、展示方法」は小さなこ
とに過ぎない。

しかし、この方法を「原則化」し、全米3000店に伝えれば(コ
ミュニケーション)、3000倍の効果を生む「大きなこと」にな
る。

ウォルトンが言う「小さなこと」が大切だということの意味はここ
にある。小売のみではなく、すべての産業に通じる経営と仕事の普
遍原則がここにあるでしょう。鍵はいつも、本部のコンピュータに
ではなく、現場にあるのです。

ウォトンが言った「小さなことから考えよ」、「1店舗から考えよ
」ということの意味は、コミュニケーションシステムによって、「
全店で実行され、大きな成果を生む」ことになる。

【原則化すれば】
<[具体的で小さな、現場の工夫]→[方法の原則化]→[コミュ
ニケーションシステムという拡声装置]→[みんなが実行し、大き
な成果を生む]>

[5万から8万品目:3000坪]の店舗現場では、日々、時々刻
々、[小さな成功]や[小さな失敗]が無数に起こっている。それ
らを情報システムと、店舗現場の観察(フィールドワーク)、およ
び社員との対話から拾い上げる。

サプライチェーンまでを一貫する「情報共有」の原点は、こうした
「現場の小さな成功」を何よりも重視するトップ経営者と本部の価
値観(Value)から来ています。

情報システム

<最近、経営論の記事で、会社の力(power)の新たな源(source)
として情報共有化(information sharing)について書かれているの
を目にする。われわれは数店しかないころからこれを実行してきた。

振り返れば、店長にはその店のすべての数字を見せ、次は、売り場
の部門長にまで同じ数字を見せ合って来た。
成長してもこれを続けた。そのことが、われわれがコンピュータシ
ステムと衛星通信に何十億ドルもかけ、会社に関係するあらゆる細
かい数字までをカバーし、可能な限り早く集計することの理由であ
る>原文p282


現場を小さく見るのに効率的な方法は、情報システムを使うことで
ある。ウォルトンがそう考えたから、コンピュータシステムに、ど
こよりも多くの投資をしてきた。

ここにも「原因(できる限り小さな単位で見ること)」と「結果(
情報システムに投資する)」という関係が見える。コンピュータシ
ステムは、デスクに座る本部スタッフのためだけのものではない。

大切なことは、「多くの現場の、売り場の棚を見ながら、作業を行
う意思決定者(発注の決定は店舗の部門マネジャー)」のために、
ハンドヘルドのRF(Radio Frequency:LANの無線)ターミナル
の画面上で、「在庫、売上、入荷予定情報」を役に立たせることで
す。

現場の(全体から見れば小さい)意思決定者の個々の作業に、情報
システムを使うこと、システムの設計はここにフォーカスされなけ
ればならない。(売上情報では2年間、104週のデータを使って
います)

こうしたところに、ウォルマートシステムの根幹の「設計思想」が
ある。本部のメインフレームで国内3000店の情報を集計・分析
した結果は、ひとつの現場の、意思決定者の判断を、的確に支援で
きるものでなければならない。

とすれば、必要な発注支援情報とはなにか? ここから、入力と出
力のファイル設計、通信設計、店舗と本部のハードウエア構成を開
始する。

売り場の棚の前こそ、発注という小売で最も大切な作業を実行する
現場になると、彼は考えた。

4.セントラルバイイングとQR

1店舗で、ある品目が週平均で10個売れるなら、週4万4千個、
4半期で57万2千個、年間の定番展示なら228万8千個売れる
ことは予測される「結果」です。

その結果を、本部バイヤーが「先取り」して考えれば、予測数量を
メーカーに発注し、本部で量の仕入れを行えば、有利な価格を引き
出せると考えるのは至極妥当です。チェーンストアの最重要な機能
とされてきた「セントラル・バイイング」です。

ここで、ウォルマートの初期の歴史を振り返る必要があります。
以下の物流とシステムに着目して下さい。

ウォルマートの初期

1945年:バラエティストアのベン・フランクリンのフランチャ
      イジーとしてアーカンソー州のニューポートに、
      450平米の店舗を開店。
45〜60年:この間、店舗経営の基本事項を学習し実践。
      繁盛店を作る。
      60年には「ディスカウントストア」への挑戦への協
      力をベン・フランクリンに要請するが、断られます。
      サム・ウォルトン42歳。
1962年:1500平米のディスカウントストア「ウォルマート」
      の1号店をオープン(アーカンソー州 ロジャース)
 
      その後、ディスカウントストアの標準型を4500平
      米にまでアップスケールする。
1969年:店舗数32店(ウォルマート18店:ベンフランクリ
      ン14店)
1970年:店頭上場で$306万の資金を手にする。本部(アー
      カンソー州 ベントンビルに)を開設し、7000平
      米の第1号の物流センター(DC)を併設する。
1974年:店舗数 100店 
      米国中部の8州にドミナントチェーンを展開。
      DCの在庫管理(品目別管理)をコンピュータで行う。
1975年:週間棚卸しで在庫把握を開始。
      リードタイム3日から5日で店舗補充をする。
1977年:コンピュータによる在庫管理で全米の先端企業になる。
(『販売革新01年9月号』から作成)

【バイイングと単品大量展示】
ウォルマートも初期では当然、バイヤーが全米各地を飛び回り、有
利な商品を仕入れて、店舗に並べていた。棚(ゴンドラ)エンドで
の、「常識はずれ」の大量の単品展示をして、どこよりも大量に売
り、高い単位面積あたりの売上を稼ぐ。

【1978年】      
しかし、物流のバックシステムを整備した1978年頃から、ウォ
ルマートは、原則的にセントラル・バイイングの方法をとらなくな
った。

本部の218人のバイヤーは、リテイルリンク(戦略同盟)結んだ
ベンダーと協働(co-working)の方法で、店舗の品揃えを支えると
いうスタッフに徹する。

このことは、倉庫と店舗を連結した、品目別の在庫管理の開始(1
974年)と関係しています。8万品目のうち85%がここを経由
して店舗へ行く。

【バイイングを補い、最後は変えたQR】
店舗を支える物流のインフラストラクチャーとして、商品補充にお
いてQR(発注商品を、翌日入荷させるクイック・レスポンス)を
実現するための、コンピュータ管理されたDC(ディストリビュー
ション・センター:後に自動化されたCrD(クロス・ドックセンター))
を作った。他の店が、入荷に1週間かかるなら、ウォルマートで
はその入荷リードタイムを、2日から3日に短縮することを目指し
た。

ウォルトンは、店舗を支える流通システムを「機械化&コンピュー
タ化」と言っています。

そして、従来のチェーンストアのセントラルバイイング手法を初期
では補い、後ではそれに代えて、POSでの売上および在庫のリア
ルタイム管理と連動する物流システムの全体整備を図ったのが、8
0年代中期(1986年:$100億:1000店)頃からです。

【CPFRという異次元へ】
翌1987年、ウォルマートは、センラルバイイング&PB開発型
のシアーズ、Kマートとは異質な、CPFR(協働商品計画、予測、
補充)という次元での成長軌道に入る。これが、あとで有名にな
った、P&G社とのリテリル・リンクです。

コンピュータへの関心と、経営の方法への信念のつながり

2002年の今では、店舗や物流に限らず、コンピュータと通信を
使うことは当たり前になっています。だから、ウォルマートの物流
システムとコンピュータシステムへの投資も、当然だったと思うの
は間違いです。

大切なことは、自分を、1960年代半ばの時代に(想像力で)置
いてみて、果たして自分がサム・ウォルトンと同じように考え、決
断することができたかどうかです。

【皆が気がつく10年前】
サム・ウォルトンのコンピュータへの関心は、40年前、1960
年代半ばに遡ります。事務計算が中心だったコンピュータが小売の
経営のツールとして持てはやされ始めるのが1970年代半ばから
ですから、その10年前です。

【紙の上の情報による不在経営】
<(彼は)数店舗を経営している頃から、どこに店舗があっても運
営を自分の手で行うために「紙の上で情報を把握(capture inform-
ation on paper)」していない限り、その限界を超えて店舗を展開
してはいけないということを理解していた。・・・1966年のこ
とです。彼は、過去のだれよりもうまく、「不在経営(absentee
ownership)」を実践するために、紙の上の情報を把握していた>
原文P110

ここから、まずは自分がコンピュータをセミナーで学び、次は優秀
なコンピュータシステムエンジニアを雇い、どこよりも早く衛星通
信まで使うことに至るのは、論理的には一直線です。

企業を大きくすることは、細かい具体的単位で、全体情報を把握す
ることだ、把握限界を超えて規模を大きくしてはならないという経
営に関する根幹の洞察があります。

これを、別の言葉では「経営管理原則」と呼んでもいいでしょう。

【原点】
つまり、コンピュータを知る前に、1店舗1店舗を、「商品の最も
小さな単位」から、リアルタイムで把握することが、多店舗の経営
でなによりも大切であるという情報力への本質直感があったことに
なる。店舗の売上や在庫を、商品の最小単位でリアルタイムでつか
むことは、コンピュータにしかできない。

(補注1)多店舗経営をもっと正確に言えば、「店舗クラスター(
特性)」別の管理です。

cluster: a group of things of the same kind that are very
close together.
クラスター:非常に近い(性質をもつ)同じ種類のもののグループ

店舗は一度には作ることができない。多くの店舗を作るには何年も
かかります。売り場面積、競争環境、部門が異なってくる。その店
舗クラスター(同種の店舗の集合)の種類を、いかに少なくするか
が、チェーンとしての成功の鍵になる。

更に言うなら、店舗内の商品部門(カテゴリ)では、A部門、B部
門、C部門、D部門・・・・はその内容を、最適規模(optimize)
で共通化する。そして、売り場面積が小さい時は、部門カットを行
う。重要なことは、a'、 b'、 c'のようなA部門、B部門、C部
門のミニ版を作って、小さな売り場面積に押し込めないことです。

店舗クラスターが複雑になったとき、多店舗経営のメリットは失わ
れ、チェーン経営ではなく個店経営になる。

(補注2)ウォルマートは、本稿の第一部で描いたように商品部に
よる中央集権体制は拒絶しますが、根幹では、世界最大のチェーン
経営です。ウォルマートは、シアーズ、Kマート型の集権型チェー
ン経営をとらなかったという解釈が正しい。

現在は、店舗経営でPOSやコンピュータを使うことが、当然のこ
とになっています。ここに落とし穴があります。わが社では何を、
いつ、どう把握し、どういうアクションをとるために、コンピュー
タを使うのかという原点が忘れられる。そうなれば、コンピュータ
ベンダーが奨める他店並みのことしかできない。

【不確定な未来が確定する】
他店に勝つには、不確定な未来の中を、他店より先に行かなければ
ならない。その根底には、確固としていて、それゆえ単純な「信念」
が必要です。信念だけが、当人にとっての未来を確定させる。未
来はだれにとっても見えないのです。

繰り返し申し上げますが、本稿では、サム・ウォルトンが作り、わ
れわれの今の眼に見える結果としてウォルマートではなく、将来が
確定していないときに、彼がどう考えていたのか、そこを示すこと
を目的にしています。彼にとって<think small>が信念だった。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
[創業]→→→[現在 30店舗]→→→[未来]
     ↑           ↑
[原因:think small=リアルタイムの売上&在庫情報]
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

創業から30店舗までの最初の方法は紙の上に集計した情報だった。
30店舗以降は、コンピュータ情報にツールが変わった。
しかし経営の信念と価値観は、同じです。

こうした原因を見る視点ではない限り、「本当のケーススタディ」
にはならない。本質を見れば、単純な方法が見えます。

5.しかし、物流と情報システムは先行投資

情報システムと並ぶウォルマートのもうひとつの武器である、物流
システムではどうだったか?

必要性

<(1960年代後期に)私は、別の問題を考えていた。店舗への
物流システム(distribution)である。エイブ・マークスのような
他の(先行した)業者は大都市に市場を持ち、大手ベンダー(dist
ributor)から商品供給を受けていた。Kマートやウールコは、彼ら
が持つ数千店のバラエティストアに対し、同様の(ベンダーが提供
する)補充システムを使っていた。>

<われわれのような片田舎には、商品を供給してくれるシステムを
持っているベンダーはどこもなかった。店舗のマネジャーが、巡回
してくるセールスマンに注文し、いつか、どこからか来るかわから
ないトラックで、商品を落としくれる(drop off)だけだった。そ
の頃の経営規模でも、その方法ではやっていけなかった。われわれ
の店舗は、まだパレット単位での商品を注文できるほど大きくはな
かった。>原文P112

経営では、しばしば、「現在恵まれた条件」にはないことが、根底
的な対策を生んで、そのことが、後の発展の基盤を作ることが起こ
ります。Kマートは都市部の店舗展開で、大手ディストリビュータ
ー(日本では問屋か、メーカー販社に当たる)の物流網に恵まれて
いた。それで、自前の物流網を整備するのは遅れた。このことが、
80年代中期以降の、ウォルマートとぶつかる競争での命取りにな
る。

しかし、投資の実際は・・・

実際の物流投資やシステム投資は、平坦なものではない。
物流センターが必要だとは思っていても、ウォルトンは投資に迷う。

ボブ・トーソンを中心とする物流プロジェクトが10万平方フィー
ト(9000平米)の設計図を書くと、ウォルトンはそこまでは必
要ないと言って6万平方フィートに縮小する。必要最小限で行うこ
とに、ウォルトンは固執する。こうしたことは、よく起こることで
す。

情報システムへの投資でも類似する。

<(情報システム構築の中心だった)ロン・メイヤーが会社にいた
1968年から、私たち双方にとって不愉快な状況で彼が会社を去
る1976年までは、ウォルマートの歴史でもっとも重要な発展を
した時期だと言わなければならない>P166

<(最初の高度なシステムは)、ウォルマートが急速に成長したと
きでさえ、店舗が手に届く近さにあるようにしてくれる経営方法
(management method)をもたらしてくれた>

先行投資

物流設備と情報システムは、現在の問題の解決である以上に、「将
来への規模化、多店舗化への準備」を含んでいなければならない。
つまり、将来のニーズを先取りする「ムダ(先行投資)」を含むも
のです。

現在のニーズに合わせれば、出来上がったとき、または会社が大き
くなったときは、不足するものになる。

ところが自分のマネーから投資するオーナーは、投資が、ムダにな
ってしまうのではないかという恐怖を抱く。過去だけではない、シ
ステム化では今後も必ず起こることです。

ここが、物流とシステム投資の難しい点です。物流と情報システム
への投資をめぐって、慎重派のウォルトンと、積極派のロン・メイ
ヤーは不仲になる。しかし、ウォルトンは最終的には提案を認める。

<ロンは、各店舗がメーカーに発注し、運送業者が、その運送ルー
トで商品を店舗にドロップするという古い物流システムから、脱皮
するための推進力をつとめてくれた。彼は、われわれを新しい方向
に導いた>と、自伝の中で言う。

ここが、今のウォルマートを作った。think smallという方法と、ク
イック・レスポンス(QR)の店舗補充を行う情報化ロジスティク
スが加わったのです。ウォルマートは、この方法によって、商品部
集権型のシアーズやKマートを超えた。

QRの方法は、後で、それを徹底すれば、P&G社を筆頭とするメ
ーカーとのCPFR(協働商品計画、予測、補充)に結びつく。原
点は、店舗を頂点にするロジスティクスです。

TCとクロスドック

店舗の現場の発注を、直接、メーカーに行かせるのでなく、物流セ
ンターでまとめる(assemble)。そして、まとめたものを、メーカ
ーへ送る。メーカーは、複数の店舗分の商品をまとめて、物流セン
ターへ納品する。物流センターでは、メーカーから入荷したまとま
った梱包を解いて、各店舗分に仕分けする。そして、店舗へ補充配
送する。ハブ空港システムに似ています。

これがあとで、TC(Transfer Center System)と言われる物流集
約の方法です。TCシステムは、バイヤーが行っていたセントラル
・バイイング(売れる先に購買を行う)の方法を、売れた後の補充
に変えた。

また、大口発注をするメーカーに対しては、進んだ方法も取ること
ができる。

店舗の発注データを、まとめず、各メーカーに送る、メーカーは、
店舗別に梱包し、行き先店舗の表示を着けて物流センターに送る。
物流センターでは、同一店舗向けのものを集めて、店舗へ配送する。

これは、後で、クロスドック・システムと呼ばれます。当時は、こ
うした用語でまとめられてはいなかった。物流センターの機能を、
今のようにDC、TC、クロスドックセンターのように整理するの
が一般化したのは、米国でも1985年頃からです。

システムの性質

ただしここまで至るには、物流とシステムだけではない、店舗の棚
割りで、補充発注をする定番商品と、そうではない一時的な売り切
り展示するシーゾナル(集荷)商品を、区分することが必要になる。
それによって、発注すべき商品とそうでない商品が決まる。

これがシステム(ある目的を達成するために合理的な全体最適の系)
の意味です。有効に機能する物流センターにするには、それと整
合的に動く店舗商品の運用の両方を整備しなければならない。

片方が未整備では、店舗だけ、または物流だけの「部分の改善」に
はなっても、それが却って、店舗と物流センターをあわせたとき「
全体不適」になる。こうした全体最適の理解は、なかなか難しいこ
とです。

こうした物流システム、およびコンピュータシステムへの投資を、
他のディスカウントストアは行ったのか? サム・ウォルトンは
80%の会社は行わなかったと言います。そして、今は彼らは消滅
している。ここが分岐点です。

以上のように、サム・ウォルトンの言葉を手がかりにして、想像力
で、ウォルマートの1960年代に自らの身を置いてみれば、何が
分岐点になるか、理解できるでしょう。

※実は、今、日本で起こっている流通変化の本質は、米国の80年
代半ばの、物流の情報化と集中化に向かった変化です。

■6.Keep your ear on the Ground(地面に耳を接するように、現
場の生の声に耳を澄まし、現場の地鳴りを聞け)


コンピュータデータが有効になるには、現場でのフィールドワーク
(実地調査)を加える必要がある。

<computer can tell you down to the dime what you've sold.
But it can never tell you how much you could have sold>p285

<コンピュータは、何を売ったかは正確に教える。しかしコンピュ
ータは、本当はどれだけ売ることができたかは、決して教えない>

結果は分かる。しかし、その結果から、原因を読むことはできない。

経営に必要なことは原因である。原因は、推論による仮説からしか
得られない。その推論と仮説を正確にするには、店舗現場に実際に
出かけるフィールドワークが必要になる。

サム・ウォルトンは、1960年代、9店舗を管理していたときの
方法を、18人の地域マネジャー(regional manager:district
manager の統括)の就業条件にする。

それが月曜日から木曜日までの店舗フィードワークです。その後、
金曜日の朝の販売促進会議に、重役たちと一緒に集まる。

ここで、コンピュータの帳票を見ながら具体的に、売り場に即して
「小さく」考え、お互いの仮説をぶつけ合う。店舗のオペレーショ
ンライン(店舗運営部)と商品部では、いつも意見の対立がある。
(翻訳本ではこの部分が、経営側と販促側という誤訳になっていま
す)

(注)翻訳本の『エブリディ・ロープライス』には、上記の部分の
ように小売の組織用語や技術に関するところで、かなりの量の誤訳
と、意味が変わってしまう勝手な意訳が含まれます。この本が日本
で話題にならかなった理由にもなる。大きな損失です。以下、要約
しながら大切なところを示します。


決定と実行

ここで大切なことがある。どんなに異論が出ても、ある品目につい
て、仮に間違っていても「結論を出す」ということである。これを
「会議のルール」にしている。

そして、金曜日の会議で決定すれば、土曜日には、(3000店の
全店舗)で実行するよう行動する。われわれは「考えておきましょ
う(Let's think about it)」という態度を排除する。われわれは
決定し、行動する。

こうしたことができる小売が、世界に何社あるか?
おそらく数社もないでしょう。非凡さはこうしたところにある。

普通、決定を引き延ばし、決定したことも現場で実行されない。
なぜか? 決定の方法が悪い。現場が実行できるような小さな単位
での決定になっていず、決定内容が漠然としていて、抽象的だから
です。

ここが、ウォルマートの、今も変わらぬ強さの根底です。こうした
体質の会社を、作ることです。すばやく変化すること、ここに企業
の命がある。間違いは後で修正すればいい。決めないこと、実行し
ないこと、これは、結果に結びつかない。

ウォルマートを28兆円、4400店、130万人の企業と思えば、
その経営を解く手がかりを失います。

サム・ウォルトンの方法で、小さく考えていけば、方法は具体的に
なる。というより、サム・ウォルトンの「小さく具体的に考える、
現場から考える、決めて実行する、すぐ現場に飛ぶ」という方法が、
28兆円小売を作ったと言えます。

あと、解くべき3項目が残っています。

4.Push Responsibility ---and Authority----Down(組織が大きく
なるにつれ、責任と権限を現場に、組織の下の階層に与え続けよ)

5.Force Ideas to Bubble Up(現場のアイデアを、沸騰した水中の
泡が上にあがるように、「強いて」上にあがらせよ)

6.Stay Lean, Fight Bureaucracy(効果を上げるに必要なコストし
か掛けない身軽な組織を保ち、官僚主義の煩雑な手続きを撲滅する
ために戦え)

今日はここまでにします。あと数時間で、出発です。
see you again!


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