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時には身近な話題など (02年8月26日)


こんにちは、吉田繁治です。いつもビジネス、IT、経済、金融、流通など、「大きなテーマ」に取り組むことが多い。肩に力を入れているつもりはないのですが、お読みになる側では、そうではないかもしれません。

今回は、趣向と記述スタイルを変え、短く、身近な話などをしてみようと思います。

いろんなところに出かけると、この店や料理店、レストランはいいなと感じる理由や、そうは思えない原因がどこにあるか、仕事柄か無意識にそうした目で見ることが多い。

【変転】

住まいは、豊中市北部の戸建ての借家です。大阪に住むようになって14年になりますが、江坂、緑ヶ丘、そしてここと、ずっと借家住まい。今の住まいは5年目です。10軒くらいが集まった、新築戸建て借家の集落という感じでしょうか。

かなり入れ替わりが激しい。住民は、事業を行っている人が多いようですが、昨年末から今年にかけ、2軒が、おそらくは言うに言えない事情からか、引っ越しの挨拶もなく、どこかへ移転した。

パートナーの同窓会の友人には東京の2世経営者が多いと言う。漏れ聞けば、今年になっての苦境に立つところが多いらしい。損益問題を過ぎ、資金繰りの困難に至っている。「どう思いますか?」と聞かれますが、「その状況では、おそらく厳しいんじゃないかな。普通は、聞く内容より、実際の数字は悪いことが多いから・・・」

「じゃ、どうしたらいいんですか?」と訊ねられても、「悪いとか苦しいとか、人に言える間は、まだ大丈夫かもしれない」と答えることが多い。

定期預金のペイオフ解禁の前から、普通預金と一部都市銀行への資金移動が起こり、銀行は融資の姿勢を激変させた。回収不安のリスクを上乗せすることができる金利にまで上げるか、または短期資金の融資を回収するかの選択に迫られる。

金融庁は、昨年来の「予想外(と言う)」資金シフトに慌てている。

定期預金から移ってきた普通預金は、流動性が激しいから、安定した貸出しには回しにくい。

民間企業への融資総額は、ここ数年で100兆円も減少し、国債へのクラウディング・アウトが起こっています。日銀は、銀行が利用できる日銀当座預金を以前の3倍に増やしている。

柳沢金融庁担当相は、銀行の自己資本問題は解消しているといい続けてきた。これが、政治的発言であることを多くの人は知っている。担当相として銀行の内容に問題があるとは言えない。

こうした銀行の自己資本問題(実質債務超過)は、政治的リーダシップで「うむを言わせず一挙」に対策を行わなければならない性格をもちます。

企業の損益問題とは違い、銀行機能は、預金者からの信用を「唯一」の根拠にして成立しています。微温的な、時間をかける解決策では、発表される数字への不信が、時間が経つにつれ大きくなる。そうした道をたどっています。

数年前までは、身近なところで、倒産や失業を聞くことはほとんどなかった。今、かなり頻繁に、それらが起こっている。

【夢】

午後6時ごろ、ビールが飲みたくなり、十数人もはいればいっぱいになる、近所の居酒屋風の料理店へ出かけた。

土曜日のこの時間だから満席かもしれないと思いつつ家から数分歩き、扉を開けると、奥のテーブル席だけが空いていた。カウンター席は、おそらく近所の、夫婦連れと見える人たちが並んでいた。

昨年末にオープンした。犬を連れ、散歩していたとき、外から見て、なにか感じがよさそうだと思い、早速当日行ってみると、期待は満足された。以来、1ヶ月に数回行きます。ここ数ヶ月は満席のことが多い。

壁は白く、天井にはキャンバスのヨットの帆に似たデザインの布が張ってあり、ハロゲンライトを使っていて明るく、和食料理店としては風変わりです。外見では、ショットバーにも見える。

白い紙の短冊に、毛筆で本日のお奨めが書いてありますが、1皿で

1000円を超えるものは少ない。

時折、カウンター越しに、20代後半に見える独身の若主人と話を交わす。以前は、近所の自宅で、母と酒屋をやっていた。そこを、いい条件で売り、100メートルくらい移転し、昼は隣で酒屋を、夕刻から料理店をやる。家庭料理です。「おから」や「和え物」なども私がなじんだ味に合う。

魚は、よくこんな価格でと思うくらい、質がいい。母が裏方をつとめ、以前百貨店の地下に魚屋を出していたが、今は退役している白髪のきれいな、上品な印象を与える人が板長です。

まだ20歳という、指がとても細い人が、ウェィトレス役で手伝っている。注文をすると、彼女の最初のコトバは、そのたびに「ありがとうございます」 笑顔が涼しげで、可愛い。

今日は、まずは生ビールをオーダーし、「なにか、刺身の盛り合わせを・・・」と言うと、厨房の奥から、若主人急にテーブルのそばに来て、小声で「今日は、いいトロがあります」と言う。「じゃ、それを」と頼むと、見事な中トロが出てきた。

若主人は、マリンスポーツと車が趣味と言う。目が合えば、いつも、笑顔がある。背は165cmくらい、体重は100kg(以上?)らしい。首筋に汗をかき、紺の作務衣で、暖簾で仕切った厨房の奥から出て来る。

たまの休みには、釣り仲間と船をチャーターし、カジキマグロなどの大物を釣りに出かけると言う。私は、釣りが一向に分からないので、うまく受け答えができない。釣りの話には、曖昧に頷くことにしている。

「船を出し、沖で釣ると、釣れますか」という間抜けな問いを発すると、「自分にも、すごいのが、一度かかったことがあります」と言う。私にはその「一度」がどんな意味をもつのか、わからない。

母親に、「息子さんは、まだ結婚はしないんですか?」と、これもまた変な問いを発すると「この子は・・・車だけなんですよ」

(こうしたときの会話は、どうもうまくないと自分でも思います)

ある時本人に「本当に、車が好きなんですか」と直裁に聞くと、心底、車が好きらしい。

「どんな車が、好きですか?」

「それは、もう、ベンツです」

「へぇ、ベンツ・・・ね」

私は車を運転しないので、意味を解せず、20代にはあの漆黒のイメージの「ベンツ」は奇妙だなと思い、「なぜまた、ベンツなんですか」と、またも不適当な質問を発した。

近所の家に、母の手伝いで酒やビールの配達をしているとき、ベンツがあって、見るたびにそれがうらやましく、いつか絶対これを買うと決めたと言う。

「夏の夕方にビールを配達し、空き瓶を持って帰る時は、大変なんです。蚊はビールの匂いが好きで、空き瓶の周囲にいっぱいいて、体中を刺されます。イヤですね、あれは」

「ローンじゃなく、キャッシュで買うと決めていたんです」と彼は言った。「そりゃぁ、すごい」

酒屋の手伝いをやりながら、クロネコヤマトの宅配のアルバイトを何年もやり、貯金をし、足りない分は母親から借金をして、ついに、ベンツを手に入れた。

学校から帰り、宅配をしながら、近所のショールームのウィンドー越しに、何年間もベンツを見つめていた彼の姿が浮かんだ。

「お袋から借りたお金は、アルバイトをして、返しました。計算して、やっと、これで借金が終わったと思っていると、お袋は、なんと、まだ金利が残っていると言ったんです。それが、結構多額なんです。子供から金利を取る親はいませんよね。全く、ひどい親ですよ。それから、また、クロネコヤマトです」

母はそれを聞いて笑っていた。

ある日、食事を終えその料理店から出ると、店の前にスポーツカーのような黒い車がとまっていて、友人らしい人と、その若主人が立っていた。ピカピカで、新車のようだった。

「また、車を買ったんですか?」と言うと、「買ったのは9年前ですよ」と言う。

「じゃ、あの時、クロネコヤマトのアルバイトをして買ったベンツと言ったのがこれ?」

「そうです」

「まるで、新車じゃないですか」

「大事に、手入れして、使っていますから」

これには、びっくりした。

車は、街灯に映え、おろしたてのような光を放っていました。

しばらく見つめた。

「高かったでしょう。900万円くらいですか?」と、余計な、車への無知を露呈する質問をすると、「1300万円でした」、一瞬言葉を失った。

彼が行ったアルバイトの総時間が、瞬間に見えた。

私は、あんなに輝く車を見たことがなかった。

自宅まで数分、歩いて帰る時、その日はとてもいいものを見たと思った。

ますます、その料理店と若主人が好きになった。


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