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日本の金融危機はどこへ向かうか
                   (02年9月30日)

こんにちは、吉田繁治です。連日、トップニュースで報道される金融
危機の対策で迷走が続いています。

迷走が続く第一の理由は、約608兆の民間銀行の融資が含む不良債
権を、金融庁は52兆円と見積もりますが、海外マスコミを含む外部
からの推察では、その約3倍の135兆円から150兆円とされてい
て、明確な反証がされないことです。

第二は、金融機関のトップは、資金繰り難のギリギリまで、政府援助
を求めないことです。

第三は、監督官庁である金融庁(柳沢伯夫大臣)が、銀行の自己資本
不足はない、金融危機はないという立場を取っていることです。(今
、微妙な変化は見えますが)

第四は、小泉首相が金融は専門的であるから担当省に任せていると
(公式発言で)していることです。そのため、金融庁、日銀(速見総裁)、
財務省(塩川大臣)、竹中経済担当相、官僚機構を含んだ認識とスタン
スに亀裂が生じている。

最初に問題を整理します。銀行と生保を含む金融問題は、ほとんどす
べての企業、個人にかかわることだからです。

金融はテクニカルな用語が含まれますが、説明を加えながら大局的な
視点から分析と考察を進めます。形容詞を排し、数字を示しながら記
述します。危機の全体像に、事実で迫るためです。

今日9月30日は、銀行を含む多くの企業での中間決算です。 


本稿の参考として、01年7月に書いた<この国の不良債権問題を解
く(5部作)>をお読み下さい。
http://www.cool-knowledge.com/0705furyou-saiken-mondai(1).html

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
   <Vol .118 日本の金融危機はどこへ向かうか?>

【目次】

 1.金融危機問題の整理
 2.不良債権の総額は?
 3.銀行業態別の内容(02年3月期:金融庁)
 4.公的資金はどこから来るか
 5.日銀の負債と資産の内容を見れば、内部は空洞
 6.日本と米国の、資金構造の相違

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

1.金融危機問題の整理

最初は、(論理的には方向は決まっている)憂鬱な問題からです。金
融危機対策としての「公的資金」の投入が、政府・マスコミで合意事
項になりつつあります。

金融危機の問題は、政治問題になっています。政治が金融を左右する
という、(長期で見れば)経済原理を捻じ曲げる方向です。

マネーは自律的に利を求めて動くことができます。政治で曲げれば、
市場マネーの側からの反乱が起こる。この危険は、今は隠れています
が。

▼公的資金投入とは?

公的資金投入の方法は、以下の3つです。

【方法1】
RCC(不良債権の整理回収機構)での不良債権の買い取り。つまり、
銀行の貸借対照表からのオフバランス化(=切り離し)です。

今までのRCC方式で不良債権の時価評価を行うと、回収可能な額は
元本の15%くらいの価値にしかならない。15%での買い取りでは、
銀行の損失が膨らむ。銀行は損失の負担能力がない。

従って、RCCも銀行の損失を出さないように[債権額−貸し倒れ引
当金]の簿価で買い取る。(9月26日に金融庁が発表)

不良債権の簿価買い取りで、RCCが抱える損失をどう負担するかは
未定です。(銀行50%負担、政府50%負担の案がありますが)

【方法2】
突然発表された、日銀による「銀行の中核的自己資本(Tier I)」を
上回る金額の保有上場株(持ち合い)の買い取り。

大手行の持ち株で8兆3000億円ですが、日銀の予定額は、不明で
す。10月からの、各銀行との交渉で開始されます。

既設の「保有株式機構(02年4月までで4300億円を買い取り)」
での買い取りでは、銀行は売却額の8%を保有株式機構に対する損
失引当金として、保有株式機構に納める必要があった。

銀行に負担を与えないために、日銀の直接買い取りではこれを最小限
にするという方針が出ています。

その代わり、日銀の負担での、購入株に対する価格変動準備金(=損
失引当金)を買い取り額の30%とする。

ある銀行から日銀が1兆円の株を買い取れば、日銀で3000億円の
準備金が必要になる。株が下がれば、日銀の損失になる。

大手銀行合計の中核的自己資本は、17.3兆円(02年3月期)で
す。それを上回る8兆3000億円分の銀行が持つ上場株は、04年
9月までに市場で全部売却するように、法で義務づけられていました。

株式市場で売れば、株価の価格下げ圧力になるので、日銀が買い取る
という政策です。

(補注)中核的自己資本(Tier I)は、銀行が発行している「普通株
+優先株」、つまり狭義の自己資本です。広義の自己資本はこのTier
Iに、TierII(有価証券の含み益×45%+劣後ローン等)を加えたも
のです。

政府は、日本の銀行の自己資本を水増しするために、株の含み益を自
己資本に参入することをBIS(スイスのバーゼルの国際決済銀行)
に認めさせた。今はこれが含み損にもなって、逆に障害になっていま
す。

【方法3】
銀行資本を減資し、銀行のトップ・幹部の融資責任を追及した上で、
公的資金を資本として注入する。銀行の国有化です。まだ、この政策
は発表されてはいません。

(注)公的資本の「強制注入」とは、銀行からの要請を経ず国家が公
的資本を入れることです。

▼対策

金融危機対策で、その内容が(比較的に)確定しているのは、「日銀
による大手銀行の保有株の買い取り」です。

金融危機対策とは、政府または日銀が、銀行が抱える不良債権とリス
ク債権を、「買い取る」ということです。

今の時期になって、こうした対策になった理由は、監督当局(金融庁)
と、小泉内閣の表の見解では「金融危機はない」とされてきたから
です。

02年8月に「金融危機」が認識された理由は、今年の世界的な株価
の下落です。

9月27日時点の9423円の日経平均が、今後8500円に、わず
か10%でも下がれば、TierIIの自己資本に含まれている銀行の株の
含み益がゼロになる。

2.不良債権の総額は?

問題の整理のために「公式に発表されている」不良債権を概観します
。公式には、金融再生法開示債権と言われています。

         
             金融再生法
              開示債権    貸倒れ引当金
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
都銀・長信銀・信託    28.4兆円   4.7兆円
(主要13行合計)
地銀・第二地銀      14.8兆円   3.2兆円
(小計)         43.2兆円   7.9兆円
信組・信金         9.2兆円   2.5兆円
(合計)         52.4兆円  10.4兆円
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
                (02年3月期:金融庁↓)
             http://www.fsa.go.jp/news/news.html

02年8月(最新)の金融庁発表では、銀行分(上記では小計)で
43.2兆円が不良債権として分類され01年3月期に比べ、9.6兆
円(約30%)が増加しています。
(信組・信金分までを合計すれば52.4兆円です)

52.4兆円は02年3月期の不良債権処の、後の残です。02年3
月期の1年では、期中で全銀行では20兆円近い(公表基準での)不
良債権の増加があったことになる。

金融庁が02年3月に行った「不良債権処理は峠を越えた」という発
表の白々しさが分かりますね。こうしたことが金融庁の対外信用の低
下を招いています。

(注)91年から02年までの不良債権処理額の累計は、約80兆円
です。

3.銀行業態別の内容(02年3月期:金融庁)

                 金融再生法
           貸出し額   開示債権  正常債権
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
都市銀行7行     250兆円  22兆円  228兆円  
長期信用銀行3行    35     3     32
信託銀行5行      42     4     38
(以上15行計)   327    28    299
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
地方銀行64行    140兆円  11兆円  130兆円
第2地銀54行     44     4     40
(地銀合計)     185    15    170
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
信組・信金       96兆円  9兆円    86兆円  
                       
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
金融機関合計    608兆円  52兆円   555兆円
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

民間金融機関の総融資額608兆円のうち、52兆円、現在の融資総
額に占める構成比では8.5%が不良債権とされています。

ここで言う52兆円の不良債権とは、破産更正債権(10兆円)、危
険債権(23兆円)、要管理債権(19兆円)の合計です。金融庁分
類に基づきます。

▼焦点

焦点は、不良債権の総額が52兆円では終わらないと見られているこ
とです。3倍近い150兆円〜135兆円が推計されていて、だれも
正確な認識ができていない。まずはこの不良債権総額の不確定が、金
融危機の対策を迷走させる第一の原因です。

不良債権の正確な計上が困難な理由は、担保となっている地価、株価、
そして企業収益、銀行収益のすべてが絡んでいるからです。そして
当事者の、少なく見積もりたいという当為が絡む。

更に詳細に見て行きます。

大手13行(連結前)の主要行で、02年3月期にはどのような内容
だったのか。

▼大手13行の02年3月期決算状況(金融庁)

以下に、大手13行の02年3月期の業務純益(普通企業の営業利益
に相当)、および不良債権処分額、経常利益、当期利益、自己資本比
率、不良債権の残高を示します。

      業務 不良債権 経常  当期  自己資本 不良
      純益  処分  利益  利益   比率  債権残
      兆円  兆円  兆円  兆円    %    兆円
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
みずほ    1.0  -2.4  -1.5   -1.1   10.8%  5.5兆円
三菱東京   0.6  -0.6  -0.4   -0.3   10.5%  4.3兆円
UFJ    0.6  -1.2  -0.7   -0.4   11.4%  6.4兆円
三井住友   1.1  -1.5  -0.5   -0.3   11.5%  5.9兆円
りそな    0.3  -0.9  -1.2   -1.0   8.7%   3.0兆円
中央三井   0.2  -0.2  -0.4   -0.3   10.2%  1.0兆円
住友信託   0.2  -0.1  -0.1   -0.0   10.8%  0.7兆円
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
13行計   4.2  -7.1  -4.9   -3.5   10.8%  26.8兆円
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
                       (金融庁)

まず、上の金融機関の名前が、合併やグループ化でわかりにくくなっ
ていますね(笑)

(注)
みずほ  =第一勧業銀行+富士銀行+日本興行銀行
三菱東京 =東京銀行+三菱銀行+三菱信託
UFJ  =三和銀行+東海銀行+東洋信託銀行
りそな  =大和銀行+あさひ銀行、以上で11行です。
中央三井、住友信託を加えて、(旧)大手13行と言われます。

02年3月期は、大手13行で、4.2兆円の業務純益(営業利益)
であるにもかかわらず7.1兆円の不良債権処理を行った。合計での
経常利益は4.9兆円の赤字でした。

自己資本比率は、BIS規制の8%を上回る10.8%とされ、不良
債権の未処理残高は26.8兆円とされています。

大手13行の年4.2兆円レベルの業務純益で、公表された不良債権
の残高である26.8兆円を割ると6.4年分です。

不良債権が、海外マスコミを含む外部からの見積もりのように、この
2倍から3倍あると想定すれば、12年分から18年分の業務純益(
営業利益)に相当します。

小泉内閣は、あと2年で、つまり2004年までに、不良債権の完全
解決を図ると、国内と海外に公約しています。どういう方法を取るの
か、それは全く「不明」です。小泉内閣には、他の政策でも、こうし
た「キャッチフレーズ」のみがあり、内容がないことが多い。

▼(平均で見れば)自己処理能力を失った銀行

銀行は平均で見れば(10年間の長期を見ても)自己能力で不良債権
処理を行う余裕を既に失っています。

加えて、日経平均株価は02年3月の銀行決算の時点(月平均114
48円)から、02年9月には9400円レベルに下がった。これが
大手銀行の中核自己資本とされる17.3兆円にも食い込んでいるこ
とが分かる。

【9%の株価下落があれば・・・】
仮に、日経平均株価で9%下げて、8500円になれば、大手銀行の
自己資本比率は、公表不良債権(26.8兆円:貸し倒れ引当額4.
7兆円)を含んで、国際業務ができるギリギリの8%の自己資本にま
で下落します。

2000年以降、世界的にボラティリティ(価格変動幅)が大きくな
った世界株価では、1日に4%程度の下落はまれではない。すれすれ
の経営状況にあるのが、今の銀行全体です。

▼急激な信用縮小の連鎖の危険

海外業務を行う銀行は8%の自己資本(BIS規制)が必要で、国内
業務では4%の自己資本(財務省)が必要と決められています。

大手13行を含む民間銀行全体での総融資額は前項に示したように6
08兆円、うち不良債権が52兆円(8.5%)、正常債権555兆
円とされています。

ここで、銀行の総資本の、わずか1%の予期しない損失や不良債権の
拡大(損失6兆円=自己資本の減少)が加われば、
(1)海外業務を行っている都市銀行は、その損失額の1÷0.08
=12.5倍、
(2)国内業務を行っている地銀以下は、限界値では、1÷0.04
=25倍の貸出しを削減しなければならない。

民間金融機関で、融資額608兆円で6兆円(1%)の新たな損失が
あれば、その17倍くらい、つまり102兆円の融資の削減が必要に
なります。これは総融資額の17%に相当します。信用縮小の危険で
す。

銀行が自己資本の余力を失った現在、
 金融機関のわずかな損失の増加と株価の下落は、
 自己資本をボトルネックに変えて、
 全体的な信用縮小を生み、
 螺旋状にマイナスに連鎖する可能性をはらんでいます。

金融では、銀行間の相互融資と企業への融資がつながっていて、企業
間でも債権・債務で複雑につながった「系:トータルシステム」を形
成しているからです。

企業側から平均的に言えば、100億円の借り入れがあると17億円
の返済に該当します。借り入れ額の17%の返済を迫られて平気な企
業はありません。

こうしたことが起これば借り入れをしている企業は、仮に営業上は黒
字を出していても資金繰り倒産が続発する。その方向へ向かう可能性
をはらむギリギリの時点が、02年8月、そして9月でした。

銀行が預金の増加にもかかわらず融資額を減らし、ノンリスク債券と
される国債購入を増やした背景は、低利の融資ではリスクがとれない
ためです。

今、銀行全般と銀行借り入れの多い企業では、日々の株価を見て、資
金繰り上の綱渡りをしていることが分かります。

(小声で言う注)若干は乱暴な論になりますが、日本の民間金融機関
の全体平均では、自己資本がゼロかマイナスであり、「債務超過」に
陥っていると見ています。

銀行決算では、不良債権の認定額と、未来の利益での不良債権償却を
当てにする税効果会計等を含み、実際的には「粉飾」にちかい処理の
許容があります。いわば、「なんでもあり」になっている。

4.公的資金はどこから来るか

2002年夏頃から日銀とマスコミの論調は竹中経済担当相を含め、
銀行への公的資金の投入へ傾斜しています。

公的資金は以下の2種です。

▼1.政府資金の投入

政府予算による、銀行への資金注入。整理回収機構(RCC)による
不良債権の簿価での買取り、および銀行資本への直接の公的資金の注
入(実質的な国有化)

政府の予算は、年間で30兆円レベルの赤字で、新発国債の年30兆
円をと借換え債を合計すれば、100兆円を超えます。国の金庫にお
金があるわけではない。

9月に、史上初めての「札割れ(引受けが、国債売却に達しないこと)
」が生じたくらいですね。財務省は軽微な「事故」であると表明し
ていますが・・・

これは、国債の引受け難、つまり、債券の需給バランスの崩れによる
債券価格の下落、言い換えれば「金利の上昇」につながります。(金
利上昇の危険は、後で述べます)

▼2.日銀信用の拡大

日銀による、銀行の保有株や、債券、手形、CP(コマーシャルペー
パー)の買取り。これは、日銀の負債を増加させ、日銀の信用(円の
信用)を壊すことにつながります。

しかし、上記の1.と2.を見れば、いずれにせよ、方法は間接的で
あれ、日銀による国債引受けと、国債購入の相手勘定である「マネー
増刷」です。

マネー増刷は、日銀が国民経済から借りる信用を増やしたことを意味
します。(日銀のバランスシートの「悪化」は後で説明します)

民間企業収益の増加、銀行収益の増加、株価の上昇の3つ、またはい
ずれかがない限り、「日銀が、国民経済の信用を借り、円マネーを供
給」する対策になるというのが今の方向です。

▼民間金融機関全体の資金循環構造

ここで、銀行、生保、損保を含む民間金融機関全体の、資金循環構造
を示します。資金循環とは、要は、金融機関に対して、どこからお金
が来て、何に使われているかということを示すものです。わかりやす
くするために、左側に資金の源泉を、右側に資金の使途を示します。


【民間金融機関全体の資金循環構造】
  資金の源泉(負債)   資金の運用(使途:資産)
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
預金での預かり 683兆円   貸出し    703兆円
信託での預かり 142兆円   国債購入   119兆円
金融債での調達  19兆円   地方債購入   48兆円
保険での預かり 229兆円   事業債等購入  33兆円
                海外債券購入 122兆円
その他     295兆円   その他    343兆円   
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
預かり合計  1368兆円   運用合計   1368兆円
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
    (1999年:三菱総研の日銀資金循環勘定よりの計算)

以上を示したのは、民間金融機関全体で、国債(119兆円)・地方
債(48兆円)・事業債(33兆円)が合計で200兆円あることを
示すためです。現在は、250兆円を超えているでしょう。

ここで金利が1%上昇するとどうなるか。債券価格は、平均で約1.
5%、つまり3兆7500億円は下落します。これは民間金融機関の
自己資本を減少させます。

国債の大量発行はこうした危険をはらむ。国債の金利の上昇(価格下
落)は、国家財政の信用の下落を示すものです。

現在の国債価格は「最後は日銀が引き受けるから、デフォルト(債務
不履行)はない」という一点で、価格維持(つまり低金利の維持)が
なされていますね。

ここで、マネーの信用の本家本元、日銀の資産・負債の内容に移りま
す。驚くべき実態になった。

5.日銀の負債と資産の内容を見れば、内部は空洞

日銀の最新の貸借対照表を示します。先ほどの資金循環表のように、
あえて、資金の源泉を左に、使途を右側に示します。貸借対照表では
左右が逆になりますが、資金循環的に示したほうがわかりやすいと思
います。

      2002年9月12日時点:( )内は00年7月27日
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
資金の源泉(負債:兆円)    資金の使途(資産:兆円)
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
(以下、負債)           (以下、運用:資産)
円通貨の発行  66 (53)     金地金     0.4 (0.4)  
当座預金預かり 15 ( 5)     現金      0.2 (0.3)
その他預金    1        買現先勘定  2
政府預金    12 ( 5)     買入れ手形 30 ( 3)
売り現先勘定   21        国債      82 (67)
売出手形     4 ( 6)    外国為替  4 ( 3)
(以下自己資本)          国債借入担保金 5 ( 5)
引当金勘定    3 ( 3)     その他   1.4
準備金      2 ( 2)
資本金    (1億円)  
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
合計     125兆円 (81兆円)    合計125兆円 (81兆円)
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

【自己資本は5兆円のみ】
日銀の資本金は、明治以降、驚くべきことに1億円のみ。自己資本に
あたる引当金勘定、過去の利益の積立てである準備金を合計しても、
自己資本は5兆円(正確には5.1兆円)に過ぎない。自己資本比率
は、総資本の125兆円に対しわずか4%です。

82兆円も保有している国債と30兆円の手形、合計で112兆円が、
金利上昇で5兆円下落すれば、つまり4.5%下落すれば、日銀の
自己資本もゼロになることを示しています。

中央銀行が債務超過になる可能性をもつということは、どういうこと
か・・・

▼日銀の物的な資産の裏づけは・・・

貸借対照表上のみでいえば、
国民への通貨発行(66兆円)と、金融機関からの当座預かり(15
兆円)を行う裏づけになっている日銀の資産は、
(1)保有資産としての国債82兆円と
(2)金融機関からの買入れ手形30兆円です(CPを含む)。
   合計で112兆円。

意味は、日銀の資産上の信用は(1)「国債」と、(2)金融機関か
らの「手形」であるということです。

日銀信用は、物的には、国債発行を行う国家財政の信用と、民間金融
機関の信用によって成立していることになる。

▼後は、ブランド価値のみ

資産勘定には出ない、日銀そのものの「無形の信用」は「日銀」とし
ての金融政策の規律、いわば一種の「マネー政策が持つブランド価値」
しかない。

このブランド価値は、国民と諸外国が日銀のマネー政策を信用すると
いうことによってのみ獲得できる価値です。日銀の信用創造の根源は
ここしかない。

言い換えれば、円通貨の価値の下落を日銀が招くことはしないだろう
という、政策的な信用のみで成立しています。

無規律な通貨発行を行うということになれば日銀のブランド価値は、
まずは海外から下落させられます。

これが大規模な円売りです。この円売りが続け、国民そのものが、円
をドルやユーロに交換するマネー脱出までが起こることになる。

他の通貨との交換手段を持った円は国家から見れば危険性をはらむ。

▼日銀の物的信用はどこから来ているか

政府と日銀の関係で言えば、
(1)日銀自体の物的な資産と信用が、政府国債の信用を裏付けるの
ではない。
(2)逆に政府国債の信用(国債価格)が、日銀の資産の裏づけにな
っているということです。

同様に、銀行と日銀の関係で言えば、
(1)日銀の物的な資産と信用が、民間金融機関の信用を裏付けるの
ではない。
(2)民間金融機関が発行するか、または民間金融機関を経由した手
形が、日銀の資産の裏づけになっているということです。

【金融のトライアングル】
まとめて言えば、<[民間金融機関]−[国家財政]−[日銀]>は、
お互いに信用のやり取りをする[3角形のトライアングル構造]で
支えあって成立しているということです。

一角が崩れれば、全体が崩れます。

相互依存のトライアングル構造の根底には、金融機関、融資を受けて
いる民間企業・特殊法人・公益法人の現業部門の信用、つまり利益が
ある。

利益ではなく、逆に、金融機関の不良債権と、民間企業・特殊法人・
公益法人が抱える不良債務は、最終的には日銀信用を壊すことになる。

日銀は自己資本がわずか5.1兆円です。物的には5.1兆円の回収
不能債務(不利量債権)を、銀行から移転させて抱えることになれば、
それだけで自己資本が帳消しになる。それが10兆円であれば5兆
円の債務超過です。

更に、大手13行が中核的自己資本を超えて抱える上場株を、8兆円
分買うことになれば、8兆円×30%=2.4兆円の価格変動引当金
を積まなければならない。

2.4兆円だけでも、日銀が積み上げてきた準備金は消滅します。

▼公的金融機関は?

最後に検討すべきは、省庁が出資している公的金融機関です。
資金循環表を見ます。

【公的金融機関全体の資金循環構造】
 
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
 資金の源泉(負債)       資金の運用(使途:資産)
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
郵貯・簡保での預かり 335兆円   貸出し  321兆円
財務省資金運用部の
      預託金  173兆円   国債   128兆円
その他         46兆円   地方債
                   +公団債  33兆円
                   その他   72兆円
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
借入れ合計     554兆円   運用合計  554兆円  
          
    (1999年:三菱総研の日銀資金循環勘定よりの計算)


民間金融機関と類似の構造です。民間企業、政府機関への貸出しと、
国債、つまり内容は同じです。政府系金融機関の貸出しは、巷間では、
民間金融機関の不良債権の比率を上回ると言われていますが、その
内容は、公表されていないので不明です。

6.日本と米国の、資金構造の相違

米国は、日本のように銀行預金と郵貯・簡保を源泉とする資金構造と
は異なります。以下のような、株・投資信託・債権を中心とする直接
金融構造を作っています。米国の家計がもつ金融資産のうち、預金は
12.2%に過ぎない。日本の世帯は、54.9%が預金です。

【家計の金融資産構成】

          日本の世帯     米国の世帯
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
現金・預金   775兆円(54.9%)  453兆円(12.2%) 
債券       47兆円( 3.3%) 376兆円(10.1%)
投資信託     30兆円( 2.1%)  472兆円(12.7%)
株及び出資金  103兆円( 7.3%) 1202兆円(32.3%)
保険・年金   402兆円(28.5%) 1112兆円(29.9%)
その他      55兆円( 3.9%)  104兆円( 2.8%)
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
合計     1412兆円(100%) 3720兆円(100%)
GDP比     2.8倍       3.5倍
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
          (2002年6月末:日銀調査統計局)

【日本の世帯】
日本では、上場株の下落は、株を持ち合う金融機関と事業法人の自己
資本を直撃します。日銀が、銀行の手持ち株を買う決定をしたのはそ
のためです。株の下落は、個人の金融資産には、直接の影響は大きく
は及ぼさない。

【米国の世帯】
米国では、上場株の下落(現在、2000年春のピークからウィルシ
ャー5000の指数で40%下落)は、家計と年金資産を直撃します。
米国では、株の下落の影響が世帯の金融資産と401Kの年金資産
を減らします。日米は、対照的な構造を持っている。

株下落の影響は、世帯の金融資産の減少として分散し、金融機関の自
己資本の減少としては結びつきにくい構造があります。危機に強い柔
構造と言われます。

他方、株価の下落が、(主として富裕世帯ですが)家計の金融資産を
直撃するため、株の価格が大統領選、中間選挙を左右する構造もあり
ます。世論は株価で形成される構造がある。

米国の株価下落は富裕者の消費を減らしますが、80%の世帯は、あ
まり影響を受けない。ただしワーカーの失業率の増加があると別です。
恐れはもう現実になっていますが。

▼日本のデフレ

日本のとりわけ90年代半ば以降は、土地、株、物価の3つが下がる
デフレ経済でした。

これは家計の金融資産で言えば、預金は目減りせず、金利はゼロでも、
預金の価値は上昇してきたことを示します。つまり株・土地を買わ
ず預金を積み上げることが、資産選択として「結果として」正しかっ
たことになります。

このことは、預金を預かる銀行と借入れをしている企業の資産が、名
目でではなく実質で、銀行と郵便預金をしている世帯に移転してきた
ことを意味します。

その実感がないのは、失業率の上昇と第一次金融危機の97年からは
賃金の下落があるからです。もっと重要な要因は、1000万円を超
える預金は、高齢者世帯に集中しているからです。

今後はどうか?

日本の政治構造と、資産選択から言えば、
(1)金融機関の破綻は、避ける対策をとる。
(2)高齢者預金は、株には(容易には)資金が向かわない。
(3)銀行へは、公的資金の投入が、かなり無原則に行われる。

米国の格付機関は、今後も日本国債の格付を下げます。ということは、
国債価格は下げ、金利の上昇が起こる可能性が高い。

言い換えれば、日本の場合は、長引く金融危機が<[民間金融機関]
−[国家財政]−[日銀]>のトラアングル構造という、相互依存関
係のなかで起こる可能性が高い。

▼国際的な資金移動は?

GDP対比で日米の時価総額を比較すれば、米国が2年半で40%下
げたとは言え、米国はまだ日本より2倍高い。

米ドルは、
(1)01年のセプテンバー・イレブン以降の、9度にわたる金利低
下(現在の公定歩合は1.75%)と、
(2)戦費の支出と、減税を含む景気対策で急転した国家財政の赤字
化で、どの要因を見ても弱含みです。

米国の国家財政は、98年から01年まで黒字でした。02年は、1
650億ドル(19.8兆円)赤字が見込まれます。財政赤字=国債
の増発は、FRBからのマネー注入も含んで、マネーの価値を下げま
す。

そうなると、国際的な資金移動先の選択肢と浮上するのが、GDPの
3%以内の赤字という財政規律を守っているユーロでしょうか。
今年中は、激しい動きに目が離せません。音を立てて、歴史が変わり
つつある。

【ご案内】
10月1日から全国の書店で発売の『販売革新10月号』に「ウォル
マート」の見方に関し、15ページ位の考察を特集分として寄稿して
います。

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