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決定版:金融危機とデフレ経済を解く:第2部
                   (02年11月04日)

こんにちは、吉田繁治です。<決定版:金融危機とデフレ経済を解く>
の第2部です。前号は、デフレ理論の紹介を含んで、少し難しかっ
たようです。感想で伺えました。

メールマガジンはキャッチボールでできあがるインタラクティブな性
格を持ちます。編集者はいなくて、読者との相互関係で出来上がるジ
ャズの「ジャムセッション」のような感じがありますね。

昨日が連休でしたので、1日遅れで、配信させていただきます。

【1.用語の問題と、デフレ経済】
本号では、前号と同じ趣旨をより具体的に解きます。借りたカネを返
せないという単純な問題が、ややこしくなるのは、金融・税務・会計
用語がからんでいること、そして、実質金利が高いデフレ経済がから
んでいることです。

(1)バブル清算という過去の付けを、誰が支払うかという問題と、
(2)銀行を含めた企業の、総資本利益率の極端な低さという構造問
   題があります。

本号では、そこを解くことを目的にします。
問題の根底が、ここにあるからです。

【2.特殊法人的な性格】
銀行は日銀も含め、80年代まで大蔵の保護下にあり、特殊法人的な
ポジションだった。米国の要請を受け他動的に、1986年からの英
国を真似た橋本内閣の金融ビッグバンで、自由化が図られた。

しかし銀行は、過去の失敗を抱え、自己資本では自立できない内容で
あり、金融秩序を守るという言い訳を政策にして、官民の呼吸で決算
内容の糊塗を行ってきたのです。

【3.迷走状況】
「ペイオフ解禁の延期」は、銀行が自立できないことの表明です。

ところが02年4月には「金融危機は去った」という公式発表があり、
自己資本に問題はないとされた。事実を隠すということが、金融問
題を不透明にします。事実が不透明ですから、議論は藪の中になる。

【4.他方、世論は・・・】
興味深いことに、20代から40代の約50%は、景気対策より不良
債権整理の早期化に積極的に賛成。特に20代・30代はその傾向が
強い。他方で、50代以上は不良債権処理より景気対策を求めている
ことです。

世代で気分の違いがあります。世の中を変えてくれという世代と、こ
のままいけるところまで行こうという世代とで意見が分かれる。読者
の方は、どちらでしょう?

日経ビジネスの読者アンケート(681名:02.11.04号)では、「不良債
権処理は、大銀行の国有化や大企業の倒産をためらわず、一気に進め
たほうがいい」という方針に賛成が76.7%で、反対は
15.6%です。

今の政府と政治が根本的に間違えてるのは、未だに(根では責任体制
の空白の)統治意識があることです。大手銀行は、統治機構に保護さ
れてきた。今、急に保護のルールを変えるのは困ると合唱しています。

銀行内でも、40代以下と50代以上で意識の乖離(かいり)があり
ます。現場の多くには思考転換ができず、実務能力を失い、意識の空
白がある。

過去50年もゴルフ場の支援でハンディキャップをもらってプレーを
してきたのに、他のゴルフ場へ他流試合にでかけ、シングルにされる
ルール変更では勝てないと嘆き、われわれが勝てないと日本は米国支
配になると脅迫しているのが銀行です。5年も経てば、この騒動はお
笑い草になります。(笑)

しかし、今後の仕事、会社経営、明日の生活には深く関係します。面
倒な内容を含みますが、問題を理解し、その後考えて欲しいのです。
銀行問題の推移は、100万社(25%)、1000万人(15%)
の日本人とって、明日の失業の問題です。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
  <Vol.123決定版:金融危機とデフレ経済を解く:第2部>
       名目金利と実質金利の区分が鍵

【目次】

 1.わかりやすく書いた債務超過
 2.金融危機をまとめれば、問題の根は粉飾と認識不足
 3.中央銀行の、国民経済でのポジションの比較(2001年度)
 4.デフレとは何か?
 5.恐慌とは何か?:失業と賃金低下です
 6.本質的な変化に着目し、着地点を見ること
 7.(工業社会の枠組みでの)デフレの問題
 8.投資リスクと期待収益率
                
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

■1.わかりやすく書いた債務超過

「金融危機」は、企業と銀行の債務超過が原因です。<資産の時価評
価額−負債の時価評価額>がマイナスである債務超過でなければ、不
良債権処理は、問題にならない。

▼補注:債務超過の帰結

家計で言えば、預金(流動資産)が400万円、株が200万円(有価証券)
で、住宅の資産(固定資産)が2400万円(時価)なら、総資産は
400+200+2400=3000万円です。

高いときに借りた住宅ローンを含む借金(負債)が4000万円なら、資
産3000万円−負債4000万円=−1000万円。家計の財政では、自己資本(
=純資産)がマイナス1000万円の債務超過。

(注)日本の世帯で約1000万世帯が類似の状況にあります。総額で、
100兆円規模の資産価値の喪失でしょうね。

なぜ、節約した生活を続けた家計が純資産でマイナスになったか?
<資産選択(ポートフォリオ)の誤り>というリスク意識が、なかっ
たからです。企業、銀行、家計が卵を土地というひとつの籠に入れた。

住宅ローン名目金利7%+住宅価格下落年率10%=実質金利の年率
17%と、「サラ金なみの高金利」を負担した結果になった。
これに類する企業への貸出しを、不良債権と言っています。

その誤りを、資産の持ち主を交代させ(=債務整理をして)、マイナ
ス分の差額は、可能な限り日銀が引き受けますと言っているのが政府。
持ち主の交代を、政府は「構造改革」と呼んでいます。

ただし、恐慌が起こっても、空襲のようには建物は消えないので心配
は要りません。持ち主の交代と、90年代の政府予算拡大で底上げさ
れていた「(平均)実質賃金の下落」は起こります。

(注)企業会計は、勘定科目の種類が増え、引当金、未収金、未払い
費用等の経過勘定が加わっているだけで、企業でも銀行でも、個人の
家計と全くおなじ計算をします。

資産の時価−負債の時価=(実質)自己資本=純資産、です。
自己資本のマイナスを、日常用語では、倒産状態と言います。

こうした不良債権をかかえた大手銀行は、まだ一部しか倒産はしてい
ませんが、銀行全体を合計した内容が倒産状態にある。特に、大手銀
行〈5行〉の内容が、地銀よりも悪い。

こうした認識があるかどうかが、対策の分岐点になります。

2.金融危機をまとめれば、問題の根は粉飾と認識不足

銀行の債務超過が続くことが金融危機です。資産(貸付金)が含む不
良債権を少なく見積もり、資産査定を甘くした「粉飾会計」で隠して
きたのが銀行と金融庁ですね。粉飾が危機をつくるのです。

粉飾は無いものをあるように見せることです。ひどくなるとエンロン、
ワールド・コムの会計詐欺に至る。世界の銀行の歴史は「無いもの
をあるように見せる」歴史でもある。金融の特殊性がある。

銀行の粉飾会計に(積極的に)関与してきたのが旧大蔵省です。
大蔵省、日銀、銀行は、天下りの制度を含み一体だった。
銀行マンの意識の根は、特殊(な)法人意識でした。

6ヶ月前の4月には、金融庁は「自己資本に問題はない、金融危機は
ない」と、世界と国民に対し公式発表しています。なぜか?銀行は政
府の「認可法人」だからです。もともと、資本主義原理の企業ではな
い。特殊法人とおなじ政府機関の一種です。

銀行の粉飾を明らかにし、不足する銀行資本を公的資金で補おうとし
ているのが、竹中チームです。税収不足で政府資金はないから、公的
資金の財源は国債であり、国債は日銀が引き受けます。銀行は、政府
機関と認識されているからです。

▼小泉首相の認識不足が見える

竹中大臣が、銀行と自民党の猛反発を受けた理由は、「審議会スタッ
フ」がトップの立場に立ったからです。首相が立つべきでしたが、小
泉首相は専門家に任せるという態度だった。理由は、「金融経済と会
計」の知識がなく、自分では答弁ができないためです。

小泉首相には、不良債権処理に100兆円規模の財源が要ると金融庁
から言われ、今、驚いているような恐るべき認識不足があります。

不良債権の完全処理を2年で終わらせるというブッシュ大統領への
「安易な公約」は金融への無知が言わせた言葉です。2年でできるわけ
がない。本気でやれば、すべての不良債権を、要は日銀が引き受ける
という政策しか残っていない。そこまでの認識がないのです。

小泉首相は「内容が分からないことを約束する人」だが、実行はでき
ないリーダーであると、西欧・米国からは認識されつつあります。

3.中央銀行の、国民経済でのポジションの比較(2001年度

国債を日銀が引き受ける結果、中央銀行のマネー政策が経済に関与す
る度合いが、「異常に」大きくなっているのが日本です。以下のデー
タが、取り上げられることは少ないでしょう。

           日本銀行  米国FRB 欧州中央銀行
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
バランスシート規模  139兆円   86兆円   95兆円
名目GDP      500兆円  1342兆円   799兆円
GDP対比      28%    6%   12%    
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
(『日本銀行の政策・業務とバランスシート』02.07.29日銀企画局)

何を示すか? 日銀のマネー供給に依存した「上げ底経済」です。
〈国内の〉マネー循環の生殺与奪の権を、過去は大蔵省、今は日銀が握
ったと言ってもいい。

今、日本は、国民の預金の増加によって経済を成り立たせてはいない。
それでは不足しています。ここが、認識されていない。

個人金融資産の1400兆円は増え方が減っています。個人金融資産
の運用の範囲では、日本は、97年以降資金不足で、名目も実質も超
高金利になったはずです。

国民は国債増発(=政府政策)を受け入れてはない。金融機関を経由
し、日銀が引き受けています。10年もの国債が0.985%の低金
利(02.11.01)だから、国債発行を国民経済が受け入れているとのエ
コノミストの論は、認識の誤りです。

国債の増発のために低金利を必要とし、97年以降のマネーの供給元
になったのが日銀です。それゆえの〈名目〉低金利です。

しかし、実質金利は高い。これは、中央銀行は名目金利は動かせるが、
実質金利は動かせないということを示します。

銀行制度を廃止し、中央銀行が企業融資に当たったほうが責任の所在
ははっきりします。その方向も、実はあるのです(笑)
国有化は、日銀による銀行支配に向かうことです。

予測で言えば、日銀の資産と負債の増加(=マネー増加)は加速しま
す。日銀マネーの増加は、経済に「政治」が深く関与することを意味
します。

帰結では日本の大手銀行は「郵貯化」が進行します。郵貯は総務省の
管理ですが、銀行は、97年からの金融ビッグバンの空騒ぎを経て、
財務省管理に戻る。日本とはそうした国でしょうか。

私の判断は、国債の高金利(=国債価格下落)が起こるまで、つまり、
行き着くところまで行くということです。

4.デフレとは何か?

▼公式的な定義から

資産と物価が継続的に(IMFの定義では2年以上)下がり、
(1)物価下落率を加えた実質(real)金利が高くなるために、
(2)プラスの投資が減少し、経済が下方均衡の縮小に向かうマクロ
(=全体)経済を言います。

日本は91年以降、資産と物価の下落のために、名目(nominal:表面
金利)は低金利ですが、資産と物価の下落率を加えて計算する実質(
realな)金利は高金利です。

銀行の資金仲介機能が壊れているための、高金利ではない。
企業の投下資本(=総資本)利益率が異常に低いためです。
マネーはそれをリスクと見ています。

▼理解の鍵は、「実質金利」

デフレとインフレの理解の鍵、そして、投資とライフプランの鍵は、
実質金利(高金利)と名目金利(低金利)の区分です。

<実質金利=名目金利+物価下落率>

銀行が融資する名目金利が2%でも、物価が5%下落するなら、実質
金利は7%。 これがデフレ経済です。デフレ経済ではプラスの投資
は縮小し、債務超過企業の赤字を補う資金需要が急増します。そのた
め、正常な投資サイクルは崩れる。

名目金利が10%でも、物価が8%上がれば、実質金利は2%です。
これをインフレ経済と言います。インフレ経済は投資を加速します。

ここが、個人であれ企業であれ、投資で必要な「総資本利益率」を理
解する鍵です。

<総資本利益率:ROI=純利益÷投下した総資本の時価>

総資本利益率で、実質金利を上回らせることができないとき、それを
投資と経営の失敗と言っていますね

▼日本企業の、総資本利益率の(驚異的な)低さ

全企業の総資本利益率(ROA:Return On Asset)で、日本は米国の
4分の1、西欧の2分の1です。これを記憶しておくことです。

意味は、おなじ金額での投資資産の価値では、米国の4分の1、西欧
の2分の1であることです。中国と比べるとおそらく10分の1以下
です。価値は、生む利益から逆算した評価額です。日本の資産の実質
価値は、米国の4分の1、欧州の半分、中国の1割であるということ
です。

日銀がGDPの28%(総資本139兆円)のマネーを人工的に供給
し、国内経済を資金供給(=日銀の電力供給)で139兆円分底上げ
してきた結果が、(平均)投下資本(=総資本)利益率の低下です。

資金は中央銀行が作ることができる。
しかし、総資本利益率は数字操作では作ることができない。

80年代以前は、地価の高騰が、民間マネー(=信用)を生む根源で
した。地価下落の後は、日銀が信用の発電機になっていますね。

いつ、余分な電力を供給している日銀発電機が煙を出すか。
格付けの低下、国債価格の下落(=高金利)によって、です。

国債がリスク資産になったときが本格的な金融危機です。
(今はまだ序曲ですね)
その時、「底上げ」の舞台が、なくなります。

90年代に資産価格が下落した理由は、マネーが国際的に自由に動く
ようになり、総資本利益率で「国際比較」が行われるようになったた
めです。これがグローバル化です。

例えれば、今の日本では10億円を投資しても〈平均的には〉米国の
4分の1、西欧の半分、中国の10分の1の利益しか「期待」できな
い。とすれば、日本への投資が減るのは当然なことになる。

投資が減るから地価と株は下がる。どこまで下がるか?10億円の「
投下資本利益率の期待値」が、米国・西欧・中国と等しくなるレベル
が動的均衡点です。

この認識が島国意識で、欠けているのが日本人であり、日本政府です。
他国と国境を接していれば、底上げが分かったのですが・・・

資産価格は、資産が利益(キャピタルゲイン)を生むことができる水
準まで下がる。それを理由に、90年代から21世紀初頭の日本で、
資産価格と物価の下落、そして後で述べる賃金下落が起こったのです。

今、バブル期(80年代末)を実質金利では越えています。
ゼロ金利でも(実質: real)は引き締まっているのです。
まさにケインズが言った「流動性の罠(Liquidty Trap)」

中央銀行が、GDPの、(大国では世界史上最高の)28%のマネー
を供給しながら、実質金利が高い。だからプラスの投資が起こらない。
資金需要分の多くは、債務超過の赤字の補填です。

■5.恐慌とは何か?:失業と賃金低下です

経済が縮小均衡(=デフレの連鎖)に向かい企業が倒産して失業率が
20%を超え、以前より低賃金でも就職を希望する人が増えるため、
平均賃金が大きく下落する状況を「恐慌」と言います。

1929年の大恐慌では、米国の失業率は25%でした。

恐慌が終わるのは、賃金が十分に下落し、下落した賃金で、新しい産
業と新興企業が雇用し始めるときです。

総資本利益率が、実質金利を上回るまで続きます。

▼雇用変化を見れば

日本では正社員の賃金は、年率で3%レベルの下落、完全失業率は
5.4%ですが、雇用の前線では、驚くべき変化が起こっています。

(1)15歳から34歳の若年労働者の完全失業率は7%になってい
   る。これは92年の2倍です。
(2)大卒の新卒を雇用する予定の企業数は全企業の30%に落ち
   た。92年は80%の企業が、新卒の採用予定を持っていた。
(3)新規求人のパート比率は、35%になった。
   92年はわずか10%だったのです。
(4)小売業のパート比率は、65%になった。
(5)パートの平均賃金は正社員の時間給の50%です。
   (米国、英国も50%、西欧は70%から80%)

(『わが国の雇用・賃金の構造変化について』:日銀調査月報02年
8月号掲載論文から)

日本ではパート化(=時間当たり賃金の50%下落)という方法で、
賃金の低下(賃金の構造変化)が進んでいることがわかりますね。

実は、このパート化(時間賃金が半分)であることが、日本の失業率
の急増を救った。西欧のような、賃金の固定性(下方硬直性)があっ
たら、失業率は、今2桁を超えていたでしょう。

90年代経済は、パート、フリーターが救ったと言っていい。

表面は、過去のような(劇症の失業と)恐慌は見えません。
現場のパート化を見れば、準「恐慌」状態でしょう。

しまむら、ファーストリテイリング(ユニクロ)、良品計画、トイザ
らス、ドンキホーテの新興企業5社の、社員に占めるパート比率は(
厚生労働省調査で)80%に達しています。新興企業は、パートによ
って成立しています。

新興企業はパート化(現場労働コストの50%カット)によって企業
利益を出しています。パートは、国内の中国化でしょうか。

製造業は中国化し、国内産業ではパート化が起こっています。

今後こうした企業は増加します。日本はすでに、(パート化による)
現場賃金の下落という方法で、「低温恐慌」に突入していますね。

労働のパート化(=時間当たり賃金が、同一職種の正社員の半分)と
いう雇用形態の変化によって、です。

大企業幹部も銀行マンも高賃金の「正」社員ですから、実態が見えて
いない。特に行政官僚には、見えないでしょうね。

▼年功賃金の実態(製造業:厚生労働省調査:2000年)

         正社員賃金
20歳〜24歳  300万円
25歳〜29歳  500万円
30歳〜34歳  600万円
35歳〜39歳  800万円
40歳〜44歳  900万円
45歳〜49歳 1000万円
50歳〜54歳 1150万円
55歳〜59歳 1150万円

こうした(底上げの)賃金体系を、もう守ることができなくなった。
年齢間の賃金格差は、成果給制の導入で、個人間格差に向かうことが
確定していますが。

▼近代経済史上初めての現象

(1)株価は90年以降12年間、
(1)地価は91年以来11年間、
(2)消費者物価は、(97年の消費税の5%の影響を除けば)95
   年以来7年間下落していますね。

株価、地価、物価が、こんな長期にわたりダラダラ下落するのは、世
界の近代経済史上初めてです。初めての現象だから処方箋は混乱しま
す。

原因は2つから構成されます。
(1)80年代の投機経済の後始末、これは単純なマネー現象です。
(2)20世紀の工業資本が価値を失って、先進国では21世紀の知
   識資本へ向かう構造変化です。

6.本質的な変化に着目し、着地点を見ること

マネー現象はマネー対策で回復します。これが景気循環。

ところが今回の着地点は、工業資本が価値を失い知識資本へ向かう
「相移転」の変化です。(仮説)

工業的な視点でのマクロ経済対策は、無効になる。<知識資本と知識
労働へのノート:3部作>で述べたことです。

(注)「相移転」は、水が固体の氷になったり、気体の蒸気になるよ
うに、量的な変化があるところで質の変化に様相が変わる物理現象を
言います。

「補正予算を!」との声があります。それは工業経済の固定の機能し
か果たさず、数年先になれば時間(=富)を失った消耗にしか帰結し
ません。

着地点(goal)への合意がないための混乱(chaos:カオス)です。高
価なダム、道路、空港、橋を作っても工業経済のインフラに過ぎない。
だから、無駄になる。

(1)国有企業の支配で貧困の極にあった中国経済が、外資と技術導
入という枠組みの変更によって、近代工業化を果たしつつあるよ
うに、
(2)工業経済方式で、つかの間のチャンピオンになった日本経済は、
「知識資本の高付加価値経済」に向かう必要があります。

「高付加価値経済」とは土地、資源、エネルギー、肉体労働を節約す
ることです。情報作業と知識作業をデジタルプロセスにすることです。
そのプロセスは、年功賃金体系の崩壊を伴います。

2005年からのブロードバンド時代に、世界の先端を走るという
「気概」が欠けていますね。

卑近な例では、地球の資源が無駄になる紙の出版ではなく、例えばデ
ジタルのメールマガジン、これはまだ言いすぎでしょうか。(笑)

紙の出版が増えなければ、経済や所得は縮小するという構造は、「工
業社会」の枠組み(パラダイム)。モノになった商品の大量消費の経
済は、先進諸国ではもう行き詰まっています。

今、書籍の値段は、限りなく「紙の価格+印刷コスト」に近い。つま
り紙を使う方法での「情報的、知識的付加価値」は、すでに極小化し
ています。これが、出版社の赤字原因です。

単に本が売れない不況ではない。情報伝達の構造変化があります。郵
便も同じです。e-mailで置き換わる。電報の異常な高さを見れば、こ
れは古代です。郵便システムは、古代の遺跡に近い。

売れない本が大量に裁断され燃やされる状態を見れば、だれでも、こ
んなムダなことはもう終わっていると思うはずです。
それが良質な考えであり、優しい知性でしょうか。

工業社会では、第三世界の資源とエネルギーを大量に使い、無駄な消
耗をしないと、先進国経済が成り立たない構造があった。

知識資本の社会は「知識」によって、資源とエネルギー消費を減らし、
資源とエネルギーの効率的な利用があるから生活が豊かになる社会
です。これが、価値観の転覆であり産業の枠組みの変更です。

ここを見据えておくことです。一例では、紙の生産と消費が減ること
がプラスであり、知識社会への入り口になる。知識には紙は不必要で
す。デジタル化はそうした特性を持つ。デジタルになるから、情報と
知識のコストも即時共有ができて極小化するのです。

私の部屋は、まだ本と紙だらけです。郵便もどっさり。自己反省を込
め言っています。(笑) まだ、紙のほうが便利だからです。あと数
年で、変えますが・・・プリンタという機能も消えることになる。デ
ータベースとネットワークがその代わりになる。今はまだ、紙がない
と不便です。コンピュータ技術が未成熟だからです。

■7.(工業社会の枠組みでの)デフレの問題

デフレが問題になるのは、
(1)土地・株を含む資産評価と商品価格は下がるが、負債(=借金)
  は借りたときの金額(=名目額)で固定されるため、
(2)新規投資が起こりにくくなって、
(3)プラスの資金需要が減り、資金需要は赤字補填になり、
(4)経済の全体が、縮小に向かうことです。
  (注)経済を拡大するのは、投資以外にはありません。

資金需要はあります。それが、将来の利を生むプラスの資金需要でな
く、工業社会の上げ底の継続のための赤字補填であることが問題です
ね。

▼「実質」金利で見なければならない

1億円の住宅を1億円の住宅ローン(金利5%)で買ったとき、(名
目)金利を5%(年500万円)とします。

【事例】
住宅価格が10%下がれば、(実質)金利は=名目ローン金利5%+
資産価格下落10%=15%になります。

15%の実質金利では(どんなに生活上の住宅ニーズが強くても)住
宅購入は広くは起こらない。住宅を買えば資産を失うことが予想でき
るからです。

住宅価格が年10%上がるなら、実質金利=名目金利5%−資産価格
上昇10%=−5%になって「金利を支払ったあとのキャピタルゲイ
ン(資本利益)」が得られます。

こうなると(生活上の住宅ニーズがなくても)住宅需要は、投資で拡
大します。米国の住宅需要の過半は、キャピタルゲイン期待です。だ
から、しぼむときは早い。

大切な点は、資産や資金需要は、全部が「ニーズ:needs」に基づいて
起こるのではないという点です。「不労所得に似たキャピタルゲイン
期待」から起こる。ここが生活必需の商品ニーズとは異なる点ですね。

(注)実質金利=名目金利−物価上昇率、です。
   実質金利=名目金利+物価下落率と言っても同じです。

日銀は、<短期金利をゼロにまでしているが、民間資金需要がない>
と言い続けています。本当に「金利」は安いのか?

物価下落の環境では、〈名目〉金利をゼロにしても(実質)金利は高
くなる。

「名目金利と実質金利の違い」というマクロ経済の初歩を無視した論
が多すぎるため、デフレ論が混乱する。

名目金利と実質金利の違いがわかったところで、投資がなぜ起こるの
か、そしてなぜ起こらないか、少し専門的に見て行きます。

8.投資リスクと期待収益率

投資は、未来収益への期待から起こるので、常に「うまく行かないか
もしれないというリスク」を含みます。

将来のキャピタルゲイン(=資本収益)が「期待」される環境でない
と、目先のリスクの方が(人間心理では)大きく見え「投資行動」は
起こりにくくなる。

今年のノーベル賞経済学者、プリンストンのカーネマン教授が心理学
を経済学に融合させ、論証したことですね。

5年後のリスクを含む100万円の期待利益より、今失うかもしれな
い50万円の方が大きく見える(非合理)が人間の心理であることを
彼は示した。

▼投資が起こる理由と、今起こらない理由

投資が起こるのは、以下の「期待」が満たされる時です。

物価上昇率−名目金利+事業の期待収益率−リスク>0

移項すれば、
事業の期待収益率>名目金利−物価上昇率+リスク

事業の期待利益率を、総資本利益率(ROI)、投下資本利益率と言
い換えてもおなじです。

名目金利は0%以下にすることはできない。下限がゼロです。

マイナスの預金金利にすれば、銀行から預金が引き出され、タンス預
金になって、銀行システム全体(=資金循環)が崩壊し、マネーが価
値の仲介機能を失って、物々交換経済に近づいて行きます。

今、預金金利はほぼゼロですが、銀行貸出しの名目金利(長短)の平
均は1.9%(02年8月)です。消費者物価は−0.9%です。

(注1)消費者物価は約2%上に集計される癖を持っているというの
が経済統計の常識です。実体では−2.9%でしょうね。

(注2)医療費、公共料金等を含むサービス価格は下がりにくいので、
工業的な有形の商品物価は、年率−5%と判断していますが、ここ
では、(穏便に)−2.9%を使います。(笑)

▼国内投資に高いハードルがある

数字を入れれば、
事業の期待収益率>名目金利(1.9%)−物価上昇率(−2.9%)
+リスク=4.8%+リスク

事業で1億円投資をするなら、税引き後純利益の「期待」が、4.8
%〈480万円〉以上、税前なら、その2倍の960万円(9.6%
)以上の期待収益がなければならない。それくらい「実質金利が高い」
のが今の日本です。

投下資本利益率で9.6%以上が必要であることを示します。
これは、ずいぶん高い投資収益のハードルです。
今、国内で投資が起こらないのが「当たり前」です。

▼正しい行動

民間資金需要が盛りあがらない、工場投資がカントリーリスクを含ん
でも中国へ向かうのは、デフレ予想があれば、投下資本利益率の経済
合理性からも、未来より現在が大きく見える人間心理からも当然です。

(1)預金者(=消費者)が消費を増やさない行動、
(2)企業がキャッシュフローの範囲の設備更新しか行わない行動、
(3)そして余まったキャッシュフローで借入れを返済する行動は、
   デフレ下で実質金利が高い環境では、「正しい」。

(注1)企業のキャッシュフロー
     =税前利益−税支出−配当等+減価償却費+在庫減等

(注2)個人のキャッシュフロー=可処分所得−消費額

現在は、低金利ではなく実質は高金利です。
だから消費は節約され、投資は抑制される。

【他方で、破綻へ向かう行動】
この時期に増額され活発だったのは公共投資ですね。
実質高金利での公共投資は要は採算が成り立たない。
実質高金利で国債を増やした政府は財政が破綻する。

リチャード・クーを筆頭とする公共投資促進派は、名目の低金利のみ
を見て、「実質高金利」を無視した議論を重ねていることになります。

実は、本号として、あと10ページくらいを書いています。
しかし一覧性のある本とは違いメールマガジンではひとつの号にたく
さんのテーマを盛り込めば、分かりにくくなる。

今日は、この辺で終わります。

本号では、<総資本利益率>と、<実質金利>の関係が、キー概念で
あることを示しました。身辺雑記は、今回は書きませんでした(笑)

see you next week!

【ご案内】
11月1日発売の『販売革新11月号』に「在庫管理の根幹は何か」
を15ページにわたった特集記事として寄稿。ウォルマート(28兆
円:4400店)は知識共有化を図った現場自律型のチェーンストア
です。

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