他の記事・エッセー・論文へ

ライフ・プランの戦略:第1部
          会社依存のライフ・プランは、過去のものになった
           ・個人ライフ・プラン構築の前提を解く
           ・日本人の金融資産に大きな問題がある

(ご報告)
3月6日:火曜日のアンケートには、多くのご回答をいただきありがとうございます。プリントして集計中です。3cmくらいの厚さになっています。結果は、後日ご報告します。

▼アンケート結果のざっとした中間報告

(1)多くの方の関心を共通に引いたのは、孫正義の構想を分析した<フロントビューとバックミラー>と<ユニクロ関連>の考察。
しかし、他も甲乙はなく24編全部が予想以上に高い評価。
(2)交流会・講演会・経営塾等の企画は、80%くらいの方がスケジュールが調整可能なら参加を希望。ただし、開催地・参加料・会費等は? との問い合わせがあります。ゲスト講師を含まず、吉田1名での連続講演会・セミナーを希望するとのことです。企画を考えます。
(3)メール・マガジンの今後の希望テーマは分かれますが、およそ70%は私の守備・攻撃の範囲で書くことが可能なこと。今後取り上げます。(今回は、共通の希望テーマを取り上げました)
(4)お励ましでは、<身体に気をつけて、クール・ナレッジのWebとメールマガジンを長く続けて欲しい。4万種類もあるメールマガジンではトップクラスの質・内容>とのことです。

面映い感じです。継続は力です。より一層質の向上を目指し、長く継続する計画です。量には限界があるが、質には限界がない。情報収集・仮説検証の累積・想像力、そして言語との格闘技です。


今回のテーマは<ライフ・プランの戦略>

今回はテーマ希望として多かった、今後の仕事や生き方です。このテーマで十分に考察するには、2回〜3回分が必要でしょう。
(その第1部で、重要な前提部分を大きく解きます。)

焦点はライフ・プランの戦略

<ライフ・プラン戦略>とはまだ耳慣れないコトバ。要は、豊かな人生をおくるには、どんな準備・計画・実行が必要か、ということ。
こころの領域ではなく、マネー・プランや仕事です。
会社に勤めて仕事をし、給料をもらうこと以外のライフ・プランがありますか? 会社員は<会社人間>であることで生きてきた。中小企業経営者は借金の連帯保証と担保で、会社がうまく行かなくなれば全てを失う。

▼日本型雇用には3つの前提があった。

(1)長期雇用(本人の意思で離職しない限り普通は解雇がない)
(2)毎年の賃金の上昇(就職後30年間の賃金上昇カーブ)
(3)保険・年金・福祉での、生活の保障

こうした今までのライフ・プランの前提が、音をたてて大きく崩れていくのが21世紀。だれでも感じていることです。しかしこの<感じ>は、どんな根拠からきているのか?明晰に分析し大きく単純にまとめ、<新しいライフ・プラン>を作る必要があります。
今後の、企業経営とも密接不可分です。<やる気>と関係する。

明白な不安と生き方の模索

丸ごと会社依存、年金依存では、無理になってきたとみんなが感じている。しかし、それ以外の方法が分からない。分からないことは、言えない。みんな、不安を抱えながらも、黙っている。
<漠然としているが、明白である不安>が今の日本人の共通気分です。
<ライフ・プラン>の構築は、とても切実な問題なのです。
実は、私自身に向かっての、問いかけでもある。

失業の恐怖が支配するRat Race

Rich Daddy Poor Daddyを書いたロバート・キヨサキは、ほとんど(95%)の人がマネーに使われるRat Race(ねずみの競争)に陥っていると言う。しかし、そこから抜け出す方法はあるのか?

会社へ行かなければ、食べることも、ローンの支払いもできない。今の職場がなくなることや失業は、恐怖です。過去は、賃金の上昇と年金は確実に思え、福祉もよくなって行った。今は違う。会社勤めを何十年も続ければ、仕合せな人生がおくれるのか? 果たして、残るものはあるのか?

こう問われると、それ以外に方法はないじゃないかとしか答えるのが95%以上の人でしょう。日本でも米国でも同じです。

結論の方向:マネーを働かせる

自分が働かなくても、マネーを働かせる方法があるのか?
実は私も個人の生活では、<マネーを有効に働かせる方法>には取り組んではいない。それは避けてきた、というより、正確には、切実に考えてはいなかった。
残念ですが、私もマネーに使われてきたと言っていい。過去の時間は戻らない。これからどうするか?本稿は自己反省を込めながら書いています。

結論の方向は、マネーに使われるのではなく、つまり疎外ではなく、<マネーとどう付き合って、マネーを有効に働かせる主人になるか>ということです。マネーは<働いて利を生む>ことができる。

しかし、<マネーを自分の代わりに働かせる>とは、一体どんなことか?マネーに使われることとマネーを働かせること、ここに天地の違いがある。本稿を通じて考察します。


過去の方法の崩壊

<いい教育を受け、いい成績をとるというのは、もはや成功へのパスポートではない。それなのに、だれもそのことに気がついていない。子供以外はだれも・・・>

<就職すれば一生食うに困らない時代は、終わったんだ。ダウンサイジング(経営の規模縮小)やライトサイジング(経営規模適正化)だのって話は僕も知っている。近頃の大学新卒者の給料が、父さんや母さんの時代より低いのも知ってる。医者を見てごらんよ。医者だってもう前ほどはもうからない。それに社会保障や企業年金だって、あてにできないことも分かっている。僕には新しい答えが必要なんだ>

(Rich Dad Poor Dad:ロバート・キヨサキ:邦訳「金持ち父さん 貧乏父さん」筑摩書房)

2001年2月では日本でもベストセラーになっています。当メールマガジンのロス・アンジェルスの女性読者の方から<お読みになりましたか?>とのメールを受け、それで読んだのです。

最初は、よくあるマネー作りの本のひとつとの偏見で、期待はゼロでした。しかし2月の米国研修ツアーの折り、ホテルのベッドで読むうち、次第に<この本は重要なメッセージを含んでいる>と思った。

今後も、いい学校へ行って、いい会社に就職することが、果たして一生の成功だと言えますか? いい会社ってどこのことですか?

思い出すこと

近所の高級ステーキハウスのオーナーで、とても勉強好きでいろんなセミナーに出掛けるスタイリッシュな女主人から、<先生、子供が大学を出てヤオハンに入ったんですよ!>と聞いたことがあります。確か7年くらいも前のことだった。

私は、当時ヤオハンは破綻すると見ていた。就職で喜んでいる母に、ヤオハンは近々つぶれるとは言えません。当時は<流通の国際企業>として、マスコミに持て囃(はや)されている時期。一言、それはおめでとうございますと言った。
私は米国ヤオハンの店舗に行って、技術の稚拙さを見ていました。
(米国NJのヤオハンで鯖寿司を食べて、お腹をこわしたこともあります。旅行中で、あれは苦しかった。普段は鉄の胃ですが)

ヤオハンの和田一夫氏は、香港にレセプションハウスと称し超豪華な邸宅を構え、「中国ビジネス報告:1993年」という本を書いた。
それを読んで財務内容を調べ、これは危険だと思ったのです。
大先輩のコンサルタントの若い綺麗な夫人は、香港で和田氏の贅をつくしたオフィスで会い、あの人は私を見るときの目つきが変で、怖い・・・と言っていた。

私は、その時一緒に食事に行った人に、こっそり<ヤオハンは、もうしばらくすると破綻します。可能性は95%、可哀想に・・・あの頭のいい人でも、分からないかなぁ・・・>と言ったことを覚えています。
1997年にヤオハンの国内16店舗を330億円でダイエーが買収、それでも間に合わず、買収を受けた直後の1997年9月にヤオハンは倒産。
しかし3年後には、今度は買収した側のダイエーの危機が表面化。

以上のようなことが、規模・業種に関わらずあちこちで起り、特殊なことでなくなるのが、これからの時代です。その一方には、超短期での成功がある。
90年代以降は、経済の変化、企業の盛衰が、極めて短期間に起る。理由はマネー経済化です。
大学生を対象にした就職希望の人気調査では、毎年トップ100の順位がコロコロ変わる。大学生だけではなく、親は勿論、企業側のトップですら10年後を予測できていない。

最近は、身の回りにも、過去では思いもかけなかったような破綻・没落・成功が、表面化します。特に2001年・2002年はそうした時期です。

過去のライフ・プランの崩壊】
従来の長期雇用では、およそ45歳くらいから55歳くらいまでの期間が、過去の低賃金の実質的な<回収期間>になっていた。就職して20年以上も後です。

現在の延長線で、20年後を想定できる企業がどこにあるか? 
95%の人が暗黙に想定していたであろう<会社勤めは安全で安定した一生>ということの根底が変りつつある。

20年後どころか、5年後を確実に予測できる企業すら少ないのです。
雇用の安定、20年をかけた長期での賃金上昇カーブは維持できなくなった。

<日本人にとってのライフ・プランの根底的な崩壊>と言えます。
その根にある原因は、資源・原材料輸入はあっても完成品は輸入鎖国の状態にあった日本が、1985年(プラザ合意)以降の2倍の円高で、特に90年代半ばから安い商品が大量流入し始めたことにある。日本人の人件費は、東南アジアや中国とのコスト競争になった。

米国は自由主義が前面に出る経済ですから、こうしたライフ・プランが崩壊した時期は、日本より10年以上早かったのです。リストラが始まったのは80年代からでした。
西欧は、共産国と隣接していたため、冷戦下での対抗上、福祉国家の国を作りで、階級格差はありますが、ライフ・プラン崩壊とまではいっていない。
その代わりに、負担する社会保険料と租税は高い。特にスウェーデンは極端で、所得の75.6
%が社会保険料と租税です。(ドイツは55.7%、英国44.4%、フランス60.0%:一方日本は36.4%、米国36.7%)

本稿の内容

(1)最初に、日本と米国の世帯の財政を比較します。
(2)つぎに、日本の公共部分の財政の、危機構造を描きます。
(3)3番目に、日本と米国の個人金融資産の構造と問題を示します
以上で、ライフ・プラン戦略(1)を構成します。

本稿では3つのことを行います。
i)普通は見えない日本人の仕事と生活の基底部分、
ii)米国人の生活の基底部分、
iii)大きな問題を抱える、日本人の個人金融資産の使途の考察。

以降では、これからの短期・長期のライフ・プランの戦略を作るときの2つの前提、
(1)世帯の財政と
(2)公共機関の財政を描きます。
大きく、鮮明にイメージを作って下さい。

米国の世帯と日本の世帯

日本では、まだ、お父さんの時代の頃(約30年前)より、大学新卒の初任給が実質的に低いということは、起っていません。
しかしこれは米国の90年代では、現実です。

米国は、更に先まで行っている

<企業のダウンサイジングのために、1990年代は多くの失業者が生まれたが、そのおかげで中流の家庭が、実はどんなに財政的に不安定な状態にあるか浮き彫りにされた。会社が一生面倒を見てくれるはずの年金プランが突如水の泡と化し、政府による優遇税制を利用した個人的な年金プラン(401K)に頼らなければならなくなったのだから。それに、社会保障が問題を抱えているのは明らかで、引退後の収入源としては全くあてにならない。まさに(米国)中流家庭にパニックが忍び寄っていると言ってよい:Rich Daddy Poor Daddy>

米国の80%の世帯の内実:富の偏(かたよ)り】
これが米国のミドルクラスの、90年代の内実です。
米国の救いは、年金資金(401K)を取りこんだ1995年からのナスダック株の上昇でした。投資信託や直接の買いで約50%の世帯が参加。しかしナスダックは、2000年3月から60%も崩落している。

米国の80%の世帯はカードローンと相殺すれば、銀行預金はゼロか、マイナスです。

米国人が$10の食品ですらカードを使うのには理由があります。
<手元の現金や預金の余裕がない世帯>が、約80%なのです。
ワーカーは、週給を使い切ってしまう生活。

資産では、
(1)上位1%が国民の米国の全資産の41%を保有(1998年)、
(2)上位20%までをとると、97%の資産になる。
残り80%の世帯の純資産は、わずか3%です。
米国では、現在驚くべき富の偏りがある。
(数字は<富のピラミッド>より:レスター・C・サロー)

日本の世帯と米国の世帯の比較

日本の世帯と米国の世帯の財政をおおまかに比較します。
(この比較は、本稿の後半部分でも詳細に行います)

日本では1987年あたりから1995年あたりまでに住宅ローンを組んで、その後、値下がりした住宅を購入した約20%:1000万世帯以外は、家計のバランスシート(資産と負債の構造)は壊れてはいない。

2001年現在でも、世帯収入のうち15%くらいは貯蓄です。賃金の下落は、部分的には見られるが、全体ではまだ起っていない。賃金下落が見られるのは、年収1500万を超えていた大手製造・商社・銀行等の課長以上の階級です。

個人金融資産では銀行・郵貯の預金が53.8%、株式は投信を含めてわずか9%です。
株をもっているのは、日本人では300万人の少数です。

米国では50%の世帯が、年金積み立ての401Kを通じて株や投信を所有している。
株と投信は、個人金融資産の31.7%を占める。
個人金融資産で、米国人の預金はわずか12.4%であり、日本人の4分の1以下の割合です。
しかもカードローン80万円を抱えている。

大きく言えば日本の80%の世帯の財政は、<名目上>は健常です。
米国では、80%もの世帯は、預金がほぼゼロに近くその日暮らし。

ところが日本では、実は世帯とは別のところが壊れています。
<国家・地方自治体の財政>、及び<財政投融資(財投)>です。

以下、問題の国債・地方債と意外に知る人が少ない財投の中身を、見ていきます。憂鬱になり、つぎは腹が立つ気分を押さえながら。

大きな数字が続きます。兆円の単位のイメージがつかめないときは、それを1億分の1にして、万円として見るとおよそ日本人1人あたりに割った<個>の金額になります。
私も兆円の単位は、万円の単位でイメージ化します。
<1兆円>は、一人あたりで約<1万円>


国と地方自治体が借金をし、投資と需要を支えて来た10年

i)最初に公共部門の債務の内容を、ii)つぎに財投の中身を見ます。
すべての本源的な資金は、われわれの個人金融資産です。

666兆円の公共部門の債務

90年代の民間の需要縮小と投資縮小で、企業と個人の所得減になる部分は、無駄と浪費を含む政府・地方自治体の公共投資で、カバーしてきたのです。
その残高は、先進国で最悪でGDP500兆円の1.2年分。666兆円。
もう、これ以上の積み増しは困難になってきた。

バブル崩壊以後の90年代は、
(1)国債・地方債を大量に増発した公共投資、
(2)銀行救済とゼネコン・流通の債務カット、
(3)郵貯・年金・簡保をじゃぶじゃぶ使った財投で、民間企業の投資の減少と、個人消費の減少を補ってきたのです。

この政府の行動は、<マクロ経済運営>では正当な行動です。
これによって、GDP総額を維持し、金融危機を回避してきた。
公共投資の増額が行われなかったら、多くの企業の自己資本が毀損が表面化した1997年から、パニックが起ったことは明白です。
しかし現在の問題は、公共投資の時価価値と、投資の有効性です。

一般には知られていない財政投融資の中身

666兆円に達した国債と地方債は新聞にもよく出るし、国家・自治体の財政が、危機へ向かう状況は知られています。

しかし、(1)郵便貯金225兆円、(2)年金積立て140兆円、(3)簡易保険積み立て112兆円、合計477兆円、これがどう使われているかを知る人は少ないのです。

郵貯・年金・簡保で集まった477兆円の運用は、まるで<経済観念>のない運用に見えます。
年間GDPに匹敵する477兆円の資金は、旧大蔵省の<資金運用部>が一手に引き受けて<財政投融資(財投)>とし、以下の運用が行われてきたのです。

財投の運用の中身

財投を通じた融資は、411兆円です。後は国債・地方債の購入。 
(1)大部分は54の特殊法人と地方自治体への融資、
(2)その他、住宅金融公庫(74兆円)、国民生活金融公庫(10兆円)、日本政策投資銀行(17兆円)、道路公団(21兆円)等に、ばら撒かれています。(2000年3月時点:日経新聞)

東京虎ノ門に集中している特殊法人の内容、公庫・公団の資産の内容は、今年から順次明らかになるでしょう。

実はメール・マガジンでも、財投の内容をまともに論じることは、少し危険です。
財投の一部は、日本の政治家・高級官僚・土木・建設の暗部と結びついている可能性が極めて高い。マスコミも政治家も、財投はまだ追求してない。

モノ作り大学のKSDと大同小異の、腐敗構造を含む内容でしょう。
財投と特殊法人・公団・公庫は<パンドラの箱>と言われている。

【内実】
トップはキャリア官僚の天下りでたらい廻し。年間数千万円の報酬と、数年の勤務で億の退職金が得られ、次々に交替します。
特殊法人の現場は、とてもまじめで、仕事のできる人も多く、全く罪はありません。
しかしそのトップと土台はとても変なのです。

全部とは言いませんが、次官レースに敗れる多くの高級官僚の楽しみは特殊法人・公団・公庫、そして民間金融機関への、優雅な天下りだったのです。そのために若い頃の薄給と、過酷な労働に耐えるというライフ・プラン。高級官僚に許された生活設計でした。

こうして、長年の間に<経済性>とは無縁な公共部分が、全金融、民間経済をゆるがす位まで肥大してきた。これが悲しい現在の日本です。

問題は財投の現在価値

現在の時価で、財投の実質価値はどれくらいでしょうか?
414兆円の50%もないでしょう。特殊法人や公団・公庫の事業は多くが赤字で、無駄になる資金投入を続けないと存続できない。

既に使われた財投分は、取り戻すことはできません。郵貯225兆円、年金140兆円、簡保112兆円の末路です。最終的には、誰が払う?

国家機関は保証人代理です。真の保証人は国民です。
ここを間違えてはいけない。
経済性とは無縁な投資で減ったものは取り戻せない。i)国民の税金の投入か、ii)またはインフレでの借入の目減り、iii)その二つのミックスを図る方法しかない。

国債・地方債と財投の使途

輸入自由化以後の農業対策費、大きな橋、高速道路、新幹線、漁港、ダム、河川の整備、埋立て、公共の建造物、空港、山林は、ほとんどすべての運営が巨額の赤字。
一体誰が、あとの面倒を見るのか?

小淵政権の1988年からの銀行対策費、債務カット費用の結果も、構造改革ショックを回避しましたが、最終的には多くが無益になるであろう維持策でした。

国債・地方債でマネーを集めた公共投資と、郵貯・年金を使った財投で、1年間に30兆円から50兆円くらいの経済の支えを行ってきた、と見ていいでしょう。

問題は、こうした公共と経済の全体を誰も見ていないことです。
省庁は縦割り、政治家は族議員、マスコミは会計音痴、学者は狭い専門分野。

本マガジンで、世帯、公共、民間経済の全体をシンプルに見ます。
おおきくまとめると、良く見えるのです。

90年代に増加した個人金融資産は500兆円

日本の個人が節約して貯めた金融資産は、実は10年間で500兆円増加して、その結果200年には1400兆円になった。90年代の空白の10年間とはいえ、個人金融資産は各世帯が節約に節約を重ねた結果、GDPの1年分も増えた。
問題は、この増加分の500兆円の使途です。

10年間の個人金融資産の増加分500兆円は、預金通帳のコンピュータが打った数字だけが名目上、抽象的に増えたものでしょう。
企業への有効な、将来の利益を生む投資にはなっていないからです。

i)利益を生まない目先の公共投資、ii)不良債権処理、iii)そして米国への貸し付けに、すでに使われています。
米国は日本から借りたマネーを返すつもりはありません。
返せば米国経済は崩壊することが明白だからです。国家防衛戦略は<返さないこと>

以降の記述の内容

世帯の財政構造と、公共の財政を大きくまとめて、そのイメージを作った後は、どうして巨額の個人金融資産が利を生まない結果になったのか、その原因を追求します。
結論は、個人・銀行・政府・自治体のFinancial Literacy(本当の資産を見極める頭)の欠如。

これからのライフ・プラン作りの大前提になる部分です。
例によって、<兆円>は<万円>に変換して金額イメージを作ってください


日本人の個人金融資産の構造とその最終的な使途

(1)まず、日本人の現在の個人金融資産を見ます。
(2)次項で米国人の個人金融資産を見ていきます。
 (日本人と米国人では大きな違いがあります)

個人金融資産の現在までの構造が、実は日本の金融問題と、企業の経営、新産業創出のボトルネックになっているのです。
過去のライフ・プランから抜け出すには、この構造を変える必要があるのです。

日本人(1.27億人)の個人金融資産の構成(2000年3月時点)

(1)現金・預金(銀行+郵貯)  750兆円(53.8%)
(2)年金            130兆円( 9.4%)
(3)株式             93兆円( 6.7%)
(4)投資信託           32兆円( 2.3%)
(5)その他生命保険・債権等   385兆円(27.8%)
  合計            1390兆円(100%)

(注)主として高齢者の20%世帯が、1390兆円の60%、834兆円を保有。残り80%世帯で、556兆円です。大きな世代間偏在、偏りがある。
実は、金融資産の偏りを言うことは、日本では、一種のタブーになってますね。
みんな、1390兆円の多くの部分を一体誰が持っているのかを、知らないのです。

日本人の貯蓄行動が生む、政府と金融機関のモラル・ハザード

日本人は、今は、銀行への預金と郵便貯金が主たる貯蓄。
銀行は集まった預金を企業へ融資し、国債や債権を買う。
郵貯は、旧大蔵省の資金運用部を経由し財投に使われた。

年間で今でも30兆円〜50兆円(バブル期は80兆円)は増加する個人預金の運用を、銀行や大蔵省に任せたのが日本人です。
その結果は、前の項で示しました。多くが空洞化した内容です。

集団的なモラルハザード】
モラル・ハザードとは、運用担当者の規律の欠如、無責任を言います。
根本は<どうせ自分のお金ではない>という意識です。
なにをやっても、詳細な情報公開の必要がなく、どんどんお金が集まれば、聖人君子でもこうなる。聖人君子は経済観念がない。
個人の資質ではなく、<預金の運用の構造の問題>なのです。

金融ムラの集団的なモラルハザードの極致
覚えていますか?2兆円余の借金をして倒産した<そごう>の元興銀マンの水島社長が言った<俺の責任じゃない、悪いのはバブルを潰した大蔵省と、どうか借りてくれとお願いに来た銀行だ> 
実はこれは日本の金融の構造と、金融ムラの本質を言い当てているコトバです。集団的な、それゆえ大規模な、モラルハザードの極致です。
日本人の昔からの特性は、集団になると異常なことをやるのです。

根本は、<個人>が金融機関の選別をせず、預金を増やす構造があったためです。

日本人個人が毎年増加する豊富なマネーで、企業への直接投資行動をとっていれば、金融ムラや大蔵省に蔓延したモラル・ハザードは生じなかった。
マネーは、経済観念のない人に預けてはいけません。

経済観念を<Financial Literacy>と言います。PC Literacyがない人はコンピュータを利用できないように、Financial Literacyがない人は資金運用はできない。
90年代までは、操縦技術もなく、レーダーもないパイロットに、命を預けたよううなものですね。

なぜ、90年代後期の米国が繁栄したんでしょう。日本を筆頭として西欧、中国からのからのマネー流入があったからですね。はっきりしています。
不良債権の元になったものは預金でしょう?  国債は最終的に誰が買っていますか? 銀行? 銀行のマネーはだれのものですか? 郵貯は?
金融経済への無関心は、いけませんね。

1970年代まで銀行の正常な資本供給機能】
1970年代までの銀行融資は、企業への資本の供給として、有効な投資に振り向けられたのです。回収もできて、更に再投資ができていた。
証券市場が育っていなかった日本は、銀行が企業へ資金供給することで、経済を成長させたと言っていい。

優良企業の銀行離れから、銀行の融資が異常になった
ところが、Financial Literacyがある財務優良企業、及び上場企業が銀行離れをはじめた80年代半ばから、銀行は、相変わらず多額に集まる預金の、有効な融資先に困り始めたのです。

優良企業は80年代後半から銀行離れをし、もっと有利なエクイティ・ファイナンス(時価発行増資)や社債での資金調達に向かった。

その結果、銀行のバブル期の融資の増額の多くは不動産とノンバンクを通じた胡散臭い内容の、経済効果のない融資になったのです。
これがバブル投資の本質です。Financial Literacyの集団的な欠如。
多くの人が安心して乗っていたジャンボジェットを、まるで素人が操縦したようなものです。
それが、日本のバブルだった。

低金利の本質的な意味
90年代は、低金利の巨大利益は、マネー操縦の失敗である不良債権消却に使われた。
本来なら、預金者が受け取るべき5%前後の金利は、バブル不良債権の消却になって消えた。預金者が受け取るべき金利で、<バブル損害の保険金>を支払ったことになる。
それが、現在の超低金利の意味です。実は預金搾取なのです。

個人金融資産の1400兆円の利回りが5%なら70兆円。
国民1人あたり1年60万円、1ヶ月5万円。この所得が移転した。
金利分の70兆円は、国家予算に匹敵する巨額の維持のコストでした。

これを使ったのが、
i)金融機関と、ii)国債・地方債を発行する公共、iii)郵貯・年金・簡保を運用する政府、iv)及び借入金のある企業です。

巨額の個人金融資産は、<合法的な搾取の対象>になったのです。
毎日の生活で節約し、貯めた結果が<果実>を生んでない。
それが、低金利の意味です。

郵便貯金は財投】
財投を使った道路公団の道路作りも1980年代までは有効でした。
日本では高速道路が足りなかった。経済効果に結びついていたのです。
しかし、90年代の高速道路は、次第に地方や田舎の無駄な道路になって、投資に対する経済的な有効性がなくなってきた。他の公共投資や埋立て、河川整備、巨大橋、建造物も同じです。

90年代に銀行を危険と見た個人預金は、多くが郵貯へ向かった。
こんどは財投が増えて、無駄な公共投資を支えることになったのです。

個人貯蓄行動の<合成の誤謬>が生じていた

以上をまとめれば<預金の安全性を求める個人の行動が、全体ではひどい結果、もっとも安全でない結果を生んだ>ということになる。
こうしたことを経済学用語では<合成の誤謬>と言っています。

安全性を求めた貯蓄行動は、巨大マネーを少数の運用者に集めたが、その運用では、i)Financial Literacyの欠如と、ii)モラルハザードがあった。

これが2001年の現在までをまとめた<個人貯蓄行動の合成の誤謬>の結果でしょう。
今後も、いつまでこうしたことを続けるのか?

日本人の金融資産構成の問題点

個人株主は総計で300万人であり、米国の7000万人と比べるとまるで少ない。日本の世帯では、株式投資はどんな条件が整っても絶対しないと答える世帯が76%もある。実に、驚嘆すべき数字です。
(証券広報センター調査2000年5月)

株離れを生んだ証券会社の営業姿勢】
理由の多くは、証券会社の営業姿勢の問題に求めることができるでしょう。零細な個人をどう扱ってきたか?ここにもモラルハザードがある。
証券会社の風雲児、小さな松井証券が伸びる理由です。
これを証券会社は、寄ってたかって潰そうとしている。

将来収益への見通し】
株購入は、
i)現在の企業業績の判断と、
ii)将来の利益の可能性の見通しを競うベット(賭け)です。

証券市場は、これから伸びる企業と衰退企業の選別を行う。
今は小さいが成長する企業と見なされれば、そこに大きな資金が集まる。
そこでは実物資産の解散価値は、参考程度のものにすぎない。
バックミラーで実物資産しか見ない銀行融資と、フロントビューを見るマーケット・マネーは診る次元が、評価するところが違うのです。

ベンチャー投資は確率論】
ベンチヤーは、今までの米国では、100社のうち数社で大きく成功する。100社に投資して数社のビジネスが成功すれば全体の投資が大きく回収できるというポートフォリオの確率論です。

米国では、こうしたダイナミックな企業の誕生と消滅が、常にある。
個人が情報を集めて、投資するからです。米国の強さの根源です。

実物資産しか見ない銀行融資の問題
銀行は確定支払いが必要な預金を運用しますから、リスクマネーの投資は、本質的に難しい。ルール違反になる。
企業の成長の将来性ではなく、実は形式的に過ぎず、企業の実体価値からいえば容器に過ぎない実物資産の担保と、保証人の世界になる。
最も古いパターンの担保融資でしかない。
銀行に資金が集まる限り、将来も多くはこうした投資になる。

21世紀の企業の価値は、実物資産からは生まれない
これからの企業の価値は、土地ではなく、建物でもない。
時代の価値は、特に95年以降では根本的に変わっている。
土地は利を生む経営資源ではない。むしろ無駄なコストです。

21世紀の企業価値のエッセンス】
重要な価値は、
i)ビジネス・モデル、
ii)情報、
iii)技術と知識、
iv)リーダシップ 
v)チームワークの、5要素の統合(integration)でしょう。
ところが銀行融資は、多くが、不動産しか見ない。旧い。

日本の会社が、軒並み本社を豪華にする理由です。
中身がなく、有名ブランド服を着飾ったお嬢さん。
本社コストは、結局は商品価格で、それを消費者が支払うことになる。
東京都心の高い土地の上の巨大ビルを見るたびに、ため息が出ます。

マイクロソフトやアマゾンが、田舎のシアトルを選んだのは土地が安かったからです。
米国の直接投資家は1点の無駄をも許さない。

現在の個人金融資産の構造では21世紀の企業は育たない
今までのような個人金融資産の主要部分が銀行と郵貯に集まる資金環境では、21世紀型の、土地や建物の実物資産が必要ない企業は、大きくは育たないのです。ここが、今後の日本を見るポイント。
しかし、まだまだ、多くのひとは気がついてはいない。

日本の将来のために】
日本が、21世紀に一流の経済であるためには、実はその根の部分、つまり個人金融資産の構成が、変わる必要があるのです。

そうでなければ、また<金融ムラ>のモラルハザードが起って貴重な預金が無駄に失われる結果しか生まない。損をするのは常に国民、搾取されるのは預金。こんな構造と体制で、これからもいいのですか?

個人のライフ・プランに直結する
預金を積み立てても、積み立てても、結果は実質的には増えないどころか無駄に500兆円を使ったと言える。
90年代は、とても授業料の高い学習の時期でした。


米国人の金融資産の構造

米国の個人金融資産の構造を示します。
構成割合での、日本との大きな違いは、
(1)現金・預金の割合12.4%は、日本人の53.8%の4分の1以下
(2)年金の割合28.7%が、日本人9.4%の3倍
(3)株式と投信の合計31.5%は、日本人の9.0%の3倍以上

米国人(2.7億人)の個人金融資産の構成(2000年6月時点)

(1)現金・預金         473兆円(12.4%)
(2)年金            1096兆円(28.7%)
(3)株式            863兆円(22.6%)
(4)投資信託          340兆円( 8.9%)
(5)その他生命保険・債権等   1046兆円(27.4%)
   合計           3818兆円(100%)

日本人が金融資産と言った時は<銀行・郵便預金>であるのに対して、米国人では<株と年金>である点が、根本的な構造の違いです。

日本人の金融資産が米国型に近づくかどうか。
私は米国並にまではいかないが、個人の株の所有割合は、増加すると判断しています。

株式へ向かう分が増加しないと<いつか来た道>で、また金融のモラルハザードが生じる。Financial Literacyのない人が預かって、手続きは正当な、しかし結果は無責任で運用を続けることになる。

日本人の現金・預金750兆円は、現在の家計貯蓄率からして年間で最低でも30兆円〜50兆円分が増加するのです。これが活きていない。


2001年の4月は、実は大きな制度変更がある

2001年の4月から、旧大蔵省資金運用部に無条件に預託されていた郵貯・年金・簡保の<自主運用>が開始されます。もちろん財投へ向かう分が、急にゼロになるわけではありません。

必要な財投資金は、政府が<財投機関債>を発行し、郵貯・年金・簡保はそれを買う制度になるのです。内輪の取引ではある。
郵貯と年金は、この<財投機関債>、<国債・地方債>での運用になる。こうした制度変更は、次第に従来のマネーの循環を<市場型>へ変更するのです。


ライフ・プランの戦略、第1回のまとめ

<ライフ・プランの戦略>の第1回は、世帯の財政、国家の財政を解きました。大きな枠組みを、できるだけシンプルに描きました。

日本が21世紀に経済のダイナミズムを取り戻すためには、家計の預金構造が、運用能力を失った銀行・郵貯から、直接金融へ転換する必要があるのです。ここが重要なフォーカス・ポイントです。

われわれ個々人が投資への態度(Financial Attitude)を確立する必要がある

本源的な投資は、実は企業が行うものではない。
本源的マネーを持つ個人が情報を持ち、知識と判断力をもって、<将来利益を生む企業>を選択することです。企業の投資は、そのマネーの預託をCEOが受けた結果で生じる、派生的なものなのです。

日本人の銀行・郵貯の預金は、世界の総預金の60%をも占めている。90年代の500兆円の増加分は、残念なことに、旧い体制の維持、必要な経済改革の先延ばしのために無駄に使われたと言えます。

しかし、先がある。<自分が働くのではなくマネーを働かせることのできる5%>のグループに入ることが肝要でしょう。マネーに使われて、恐怖からいつまでもRat Raceを行う95%ではありたくないものです。人間は、目標で動くことより、恐怖で動くことが多い。
今は労働の搾取はないが、大規模な金融の搾取がある。
(続く)

▼次回は<Financial Attitude・Literacy・Intelligenceを解きます。

<5%への途(みち)>は一体どんなものでどこにあるか?
価値の大転換期の現在は、数十年に1度の絶好機会なのです。
危機は、他の側面では常に機会です。観点を変えることです。
機会が2001年2002年と続きます。次回をお楽しみに。

ご感想・ご意見・連絡は
yoshida@cool-knowledge.com
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
ビジネス知識源:インターネット時代の経営の成功原理と原則
    良質な経営・IT・ビジネス知識の提供を目標に
       http://www.cool-knowledge.com
   Systems Research Ltd. chief consultant吉田繁治
    2001年3月11日号:ライフ・プランの戦略(1)
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

copyright : Systems Research Ltd. Chief Consultant 吉田繁治