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新しい商品価値のフォーミュラ(公式):
         判然としない、<商品価値>の構造を解き、
         わが国の小売業の方向を示す

急に温かくなり桜が満開です。お元気ですか? 吉田繁治です。
桜は日本人の文化や血に訴えますね。
小林秀雄の名著:本居宣長を思います。
ラスベガスにも桜の木があるが似合わない。風土は文化。

■今回のテーマは<新しい商品価値のフォーミュラ>

(1)モノの過剰、価値観の多様化といわれる。表面をなでる評論、これでは何も解いていない。

良く使われる言葉でありながら、その内容がはっきりしない<現代の商品価値>の構造を、事例を交えながら解きます。なにが重要な商品価値かは、<時流>とともに変わる。
商品価値の見極めが、商品戦略の分岐点になる。
過去からの評価基準である機能や品質以外の要素が、重要になったのです。

(2)ケース・スタディとして、企業存亡のぎりぎりの時点にきているダイエーのリストラ戦略の核<CVC:カテゴリ・バリューセンター>の方法を解きます。このCVC風の対策は総合品種店のリストラ策に共通の方法。呼び方は変っても、現代小売業のコアの戦略と言えるものです。

CVCで使われているカテゴリーもバリューも、現代小売業のキーワードですが、一般にその内容への深い考察がない。それを解き明かします。

(3)最後に、マクロの視点から見たわが国流通業の機会を示します。本質的な転換の手掛かりは、一体どこにあるのか?
経営は、結局は組織問題に帰着する。商品対策は、実は表面です。

以上を通じて、今後の流通業の成功で<何がキーになるのか>をまとめます。
まずダイエーのリストラ(事業の再構築)策であるCVCから。



CVC(Category Value Center)を素材に

2001年3月1日、金沢八景店の改装で、ダイエーのリストラ策の核になるカテゴリ・バリュー・センター(ショップ名:RedWoods)が登場した。CVCとは、従来の総合品種のビッグストアの売場に、専門化した直営インショップを作ることを示すダイエーの造語です。
インショップRedWoodsの隣にはユニクロをいれ、ユニクロの集客力を利用しようとする算段。

このCVCとは? ダイエーも難しい言葉を使ったものです。<カテゴリー>や<バリュー>は色んな場面で登場します。現代小売業の2つの核になる概念でしょう。しかし、その中身や構造を説明できる人には、ほとんど会ったことがないのです。

最初にカテゴリー

カテゴリーとは、店舗経営では損益管理の小単位とする売場部門を意味します。広い売場を運営する時の管理と運営の手法で、売場管理技術の粋ともいえるものです。

【方法】
i)売場を30坪前後の管理単位(カテゴリー)に区切る。
ii)運営の責任者(カテゴリ・マネジャー)を配置する。
iii)人員では稼動計画(Labor Scheduling)による管理。
iv)商品ではPOSデータを解釈し、判断を加えて商品発注を行い、陳列内容を最適状態に維持し、販売する。

【組織】
ストア・マネジャーが店舗の全体の損益を管理職務。カテゴリ・マネジャーは、責任カテゴリーの損益(P/L)を管理し売場と商品運営を行うことになります。
本部バイヤーはカテゴリ単位の縦断組織になる。

【SCM】
売り場のカテゴリ・マネジャー、及び本部バイヤーと商品を供給するサプライヤー(メーカー・問屋)が、販売データ・催事計画・在庫データ・生産計画データを相互に共有化し、商品運営を行うとカテゴリ・マネジメントになる。このカテゴリ・マネジメントはサプライチェーン・マネジメント(SCM)のコアになるものです。
SCMとはソフトを買って入れることではない。それは手段。しかし手段と目的を混同することが、トップ・現場では多い。

【バリュー】
つぎに、キー概念になる<バリュー:価値>の現代的な構造を解き明かします。バリューとは顧客の立場から見た商品評価です。時代や、時代の気分(共同幻想)とともにその内容が変わる。モノ不足の時代と過剰の時代では、顧客にとっての商品の価値の内容は変わるのです。

変化するバリューを正面から見極めることが、商品戦略の起点になる。企業が衰微するときは商品価値の取り違えがあり、成長するときはジャストフィットがある。


バリューとは一体何か?

キーワード:バリュー(価値)も、使われることが多いのにほとんど理解されていないもののひとつです。

これを解くには<使用価値>と<交換価値>に分ける必要がある。
はっきりさせるために、人文科学じゃなく、自然科学風に定義し数式にして解きましょう。若干の思考訓練。

【混乱】
商品価値があるとかないとか、安いとか高いとか、いいとかダメだとか言うとき、なにを意味しているのか?
商品の<価値>は、どんな構造を持つのか?
買物をする立場、売る立場、作る立場からも大切なことですね。
価値の判断で混乱していれば、それこそ<お話>にならない。

使用価値とは?

商品の価値は、二つの側面から考察する必要があります。。
ひとつが<使用価値>と言われるものです。商品を実際に使う時の、他の商品と比較した違いと言ってもいいものです。

使用価値=(商品の機能性+品質性+スタイル性+ブランド性)の4要素であらわすことができるでしょうね。(吉田仮説)

(1)機能性
商品の効能です。薬の<能書き>や、家電等の取り扱い説明書を見ると、商品が提供する機能の種類と中身がわかります。
セーターの機能はみんなが知っているから説明書がない。

(2)品質性
機能が発揮されるときの、機能の高度さのレベル、効果性、スマートさ、及びその商品ができている素材と部品のグレードと特質をあらわします。耐久性と使用感も、品質の構成要素です。

(3)スタイル性
外形の様式の特徴。アパレルの様式をあらわす言葉では、モダン、トラディショナル、クラシック、フォーマル、エレガンス、ジャパネスク、フェミニン、セクシー・・・など。ブランドは、個々の商品のスタイルを調和させるところから生まれる。プラダ風、エルメス風、ヴェルサーチ風、ギャップ風、コムサ風、ユニクロ風で表されるのが、商品スタイルです。
カラーの種類と、色相の調和もスタイルの要素です。

(4)ブランド性
国語では銘柄。広くは世間で、狭くは仲間で、その商品が共通に認められた評価です。他の人が知っていないとブランド価値はないのです。

街で<チラリと向けられる視線>、あれを求めてブランドを買う人が多いでしょう。無人島でのシャネルは、どうもいただけませんね。見てくれる人がいないからです。価値に疑問符がつき、ばかばかしくなるはずです。

新興ブルジョアの経済行動を解いた<有閑階級の理論;1899年>で有名な、異端の経済者:T・ヴェブレンはこのブランド性を<衒示(げんじ)的価値>と言っています。
<見せびらかしの満足> 欧米でも日本でもブランド嫌いのひとが一定割合いる理由は、この見せびらかしに欺瞞を感じるからですね。あなたはどうですか?

実際は横並び、一見では差別化を求めた購買行動。私も海外視察の折り、ブランド品を安く買うのは好きです。軽佻浮薄。自分を納得させる言葉が高くても長持ちするという貧乏根性。心理学で有名な<認知の不協和>を避ける言い訳です。実は長持ちしないのですが(笑)

商品の使用価値のなかで、機能性と品質性は過去から重んじられたものです。この2つの価値は、物理的で理解がしやすい。しかし現代はスタイル性、ブランド性がとても大切な要素になる。生鮮食品ですらそれが前面に出てきた。モノの過剰で、<差異化>がないと価値の判断ができなくなってきているからでしょう。

商品価値のもう1つの側面:交換価値とは?

商品価値のもうひとつの側面が<交換価値> これは価格のことです。1000円のワインと1000円の本は、交換価値が同じです。

マルクスは資本論の中で、交換価値はその商品1単位を作るために費やされた総労働価格であることを示した。1000円のワインと1000円の本は、それを作って販売するまでの総労働価格が同じである。だからマーケットで等価交換ができる。

使用価値は商品価値の中身を示し、交換価値は価格を言います。
この二つの操作概念の準備を行うと、<バリュー:商品価値>が説明できます。

商品価値の公式(フォーミュラ)へ

150万円のカローラと600万円のBMWは、どちらが安い?カローラに決まっています。これが交換価値です。

じゃカローラとBMWはどちらが<お値打ち:商品価値>が高いでしょう?
解答に困るでしょう。それぞれいい点がある。これでは答にならない。以下の公式で考えると、思考を導くことができます。

商品価値(お値打ち)=使用価値÷交換価値

説明的にすると、
お値打ち=(機能性+品質性+スタイル性+ブランド性)÷価格

価格では4倍の違い。使用価値ではカローラの機能性・品質性・スタイル性・ブランド性と、BMWそれらの比較。BMWの使用価値(機能性+品質性+スタイル性+ブランド性)が、カローラの4倍と評価するならBMWとカローラの<お値打ち>は同じになるのです。

<商品作りとは商品価値、すなわちバリューの勝負>だということになる。これで、<藪の中>の概念を単純化できましたね。

ダイエーのリストラ策の中核になるCVC(Category Value Center)作りを事例に、カテゴリーとバリューの意味と中身を示しました。

▼商品価値を解く操作概念

お値打ち=(機能性+品質性+スタイル性+ブランド性)÷価格
で解けば、すっきりと解けるはずです。

【比較】
ダイエーのカテゴリー・バリュー・センターと称するRedWoodsと、ユニクロを比較評価してみましょう。

プライス・ライン(1900円や2900円の価格)は、ほぼ同じです。
RedWoodsのメンズ(40%)のTシャツやカジュアルが1900円から3900円、レディス(40%)が1900円から4900円、キッズ(20%)が1900円から2900円。

ユニクロはカジュアル・ウエアのプライスリーダー。01年8月期の売上予想が3500億円。1枚平均で1900円前後とすると年間で2億枚も売っている。
お値打ち=(機能性+品質性+スタイル性+ブランド性)÷価格

価格が同じとすると、機能性・品質性・スタイル性・ブランド性の比較になる。さてダイエーのインショップRedWoodsと、ユニクロとの差は? スタイル性とブランド性の差でしょう。

【考察の深化】
ここで更に深めて考察すべきは、ユニクロの商品をダイエーの売場に置いて、ユニクロの店舗と同じように爆発的に売れるかどうかです。疑問ですね。売れないでしょう。

そうすると、商品のスタイル性やブランド性は、ユニクロとダイエーの店舗の全体イメージと関わっていることになる。お値打ちの公式に、もうひとつの要素<店舗イメージ>を加える必要がある。

お値打ち感=(機能性+品質性+スタイル性+ブランド性)×店舗イメージ÷価格

公式(フォーミュラ)が実際に使える感じになってきました。

Invisible Store:見えない店舗

ブランド性、店舗イメージでは、現在のダイエーは相当に劣ります。人口が多い団塊ジュニア、その下のXジェネレーションの高校生世代には、ダイエーは<存在しない店舗>に近い。1973年と2001年では、約30年つまり1世代の隔たりがあります。

機能性と品質性は、世代で共通の価値評価ができます。しかしスタイル性・ブランド性、及び全体価値を左右する店舗イメージは、世代間での評価の違いが、断絶的なくらい大きい。

ダイエーは50代の団塊の世代、及び40歳代までしか肯定的には見ていない感じを受けます。これがインショップRedWoodsの試練になるでしょう。

モノとしての商品自体(機能と品質)の比較ではない。スタイル性、ブランド性、そして企業イメージが、価値の重要部分を左右するようになった。モノに還元されない企業文化という<無形の価値>
商品の1枚1枚、1個1個の比較を、超えたものです。

米国シアーズの90年代のリストラの苦悩も、ここにあった。米国の若い世代にとってGapやLimited等の専門店チェーンは存在した。シアーズやJCペニー、ロビンソンズ等のGMSは選択肢として存在しないInvisible Store(見えない店舗)だった。 研究・調査と多額の投資をリストラを試みたが、十分には成功していません。儲かったのは、コンサルタント会社。

80年代まで優良企業の典型と言われてきた、PB開発の<英国マークス&スペンサー>も業績の急低下に苦しんでいる。先日、欧州大陸からの全面撤退と、国内での事業再構築を発表しました。

なぜ若い世代にとってInvisible Storeになってしまったのかを解き明かすには、<総合品種店のビッグストア>が、どういうものであったか、をまとめる必要があります。
<なんでもあるが、欲しいものがない>自店を見て中内氏も言った。



日本型ビッグストア

ダイエー、IY堂、ジャスコ、ニチイ、西友、ユニー等のビッグストアは、1960年代に日本で生まれた独特の<業態>です。業態とは、i)品種の構成、ii)品種内の商品の構成と価格帯、iii)陳列方法、iv)販売方法、つまり顧客が外形で見て差異を識別できでる商売のやり方を示すものです。

米国流デパートではなく、スーパーマーケットでもない、GMS(General Merchandising Store)でもない。チェーンストアとも違う。日本型ビッグストアに近いのは、フランスのカルフールの前身であるグラン・マガザン(フランス語の百貨店)です。

文化と生活がそれぞれ違うように、生活文化に近い店舗にはお国振りがあります。それぞれ独特の部分を持って発達するのは当然です。米国流、フランス流、ドイツ流、英国流、日本流がある。

▼1973年にはビッグストアが小売の中心になったが

主婦の店から出発したビッグストアの代表選手ダイエーが、三越の売上を抜いて小売業1位になったのが1973年です。ちょうど第1次オイルショックでの物価高騰の時。
売上高4766億円。その後27年、2000年(2兆2000億円)まで、ずっとダイエーが1位。驚くべき安定、実は商業の停滞。

27年間の平均年間売上伸び率は5.9%。年間で約5%程度の売場面積の増加(出店)はあったから、既存店はゼロ成長です。80年代までは数%のインフレがあったので、既存店顧客数は減ってきたのです。

出店分を含めたダイエーの売上が落ち始めた1995年(2兆5003億円がピーク)まで、小売業には、微風は吹いても波風は立たなかった。私は、ずっとそう思っていました。なんと変化のない産業か・・・
変化が表面化したのは、1995年からに過ぎない。
2001年はまだまだ<変化の入り口>でしょう。

デパート

デパートは一貫してシェアを減らし、トップの三越が1973年で3739億円、1999年で6757億円。26年間の年間平均伸び率は2.3%。
ライオンの彫刻がある日本橋三越は、堂々としていて、華やかな売場をぶらぶら歩くのは楽しい。しかし華麗さの商売の中身は停滞し、新しい顧客を獲得できず、既存客は減り大きくシェアダウンしていた。

デパート131社:307店の総売場面積は、714万平方メートル(2000年11月)で、日本の総小売面積の5.5%に過ぎません。総売上げが8兆8000億円(2000年)。合計売場面積では5%、売上で6.3%の小売業です。デパートの建物の存在感は大きい。シェアでは寡少。

日本型ビッグストアと食品スーパー

チェーストア会員111社:店舗数7187店:総売場面積1944万平方メートル:総売上18兆4000億円(2000年)
街中がビッグストアとスーパーマーケットのように見えますが、総小売面積に占めるシェアは15%、売上シェアが13.1%です。まだまだとても少ない。

専門店チェーン

1990年代にビッグストアに代って売上を伸ばしたのが専門店チェーン群です。大手専門店チェーンで505社:総売上が14兆2882億円(小売シェア10.2%:2000年)です。まだまだシェアは小さく、これからの分野。
地域チェーンから、全国版のナショナルチェーンの競争へ向かう時期です。

コンビニエンス・ストア

90年代に売上を最も伸ばしたのが、コンビニエンス・ストアです。
76社:37000店:6兆3333億円、小売シェア4.5%、あれだけの店舗数があり飽和が言われているのに、小売シェアはわずか4.5%です。

まとめれば

デパートがシェアで6.3%、ビッグストア・食品スーパーが13.1%、大手専門店が10.2%、コンビニエンス・ストアが4.5%ですね。合計で、34.1%

この34.1%のシェアをデパート131社、ビッグストア・食品スーパー111社、専門店チェーン505社、コンビニエンス・ストア76社、合計823社で分け合っている。
残り65.9%は、商店街店舗、ママパパストア、小規模専門店。
全国商店街の95%以上が、アンケートでは衰退と答える。

この日本的小売風景をどう評価していいのか分かりにくいので、欧米の大手小売10社のシェアと比較します。鮮烈な差がある。

▼大手小売上位10社のシェアの国際比較

日・米・欧の小売上位10社までの市場占拠率を示します。
 日大手10社(ダイエー、ジャスコ・IY堂・・・   8.8%
 米大手10社(ウォル・マート、クローガー・・・) 16%
 英大手10社(テスコ、セインズベリー・・・)   38%
 仏大手10社(カルフール、アンテルマルシェ・・・)42%
 独大手10社(メトロ、レーヴェ・・・)      47%

i)米国では大手小売10社の合計シェアが日本大手小売の2倍、
ii)西欧では4倍〜5倍です。
カリフォルニア州の面積の日本で、小さな規模の小売が多いこと、これが、日本が他の先進国と違っている大きな特徴です。

日本の小売業は、これからビッグ企業が現れる産業領域です。
巨大な流通マ−ケットがある。欧米の大手は、日本をそう見ている。
消費の飽和とか、不況とか嘆く時じゃないなぁ。


流通中進国、後進国との認識を

英国(38%)やフランス(42%)なら約10社でのシェアを、日本(34.1%)ではその82.3倍の823社で分け合っています。
日本では、大手小売業823社とは言っても、多くが家業のレベルを脱していず、近代化、規模化の途上であることが分かります。
日本の小売・流通は、青天井。

工業(1330万人)ではトップランクの先進国ですが。卸43万社:450万人と、小売140万店:803万人で構成する1253万人の流通業は、産業化途上の中進国、または後進国と認識するのが正しい。

21世紀になってもエンジニアリング論とシステム論がない

この国で、流通の話をする時いつも話が混乱する理由、エンジニアリングやシステム論ではなく、商売のコツ・細かい工夫・チラシ作りや個々の商品の話になってしまう理由が、ここにあるのです。

日本は流通後進国と認め、謙虚に学ぶほういいと思っています。90年代初頭のトイザラス1社で玩具の流通が激変し、2000年ではカルフール1社で大騒ぎになる理由は、彼(か)の国の方が、技術で進んでいると暗に認めているからです。
商品の微細な比較ではない。商品の視点では間違うのです。
<エンジニアリングとシステム論と技術>でみなければならない。

守られた理由

過去の日本の多くの小売業が、一見、強く見えた理由は土地の含みがあったからです。つまり他力での不労所得に守られたものだった。極論ですが、それ以外になかった。その証拠に地価が下がるとバタバタ倒産や閉店。140万店のうち70%は経常赤字です。赤字は運営技術のなさを示す。実力と他力を混同しないことです。つぎに好況の風が吹いた時、あれ、こんなはずじゃなかったということになる。

立地産業ではない輸出産業の製造業は、自由貿易で世界の一流企業、ビッグカンパニーと戦った。流通業は、厳しいとは言いながら、i)立地、ii)土地含み、iii)出店規制に守られて、流通のエンジニアリング、システム化、技術の練磨を深く怠ってきた。

国内流通業の機会を認識する

以上のような背景があるからこそ、21世紀の流通はご破算で機会があると言えるのです。
欧州の上位10社のシェアの大きさ、40〜50%を見ると息がつまります。後発にとっての機会は、ないように見える。
世界第2位の消費力(小売総額140兆円)の日本は機会だらけなのです。

世界はそう見ている。だから、自国内に参入の隙がなくなった西欧や米国の大手小売業が<日本は濡れ手で粟のビッグな成長市場>として参入する。

西欧・米国の大手小売業からの視点で、世界で2番目の日本マーケットを見る必要があります。
閉塞どころか、やるべきことが多いんじゃないかなぁ。
ニーズはいたるところにある。どうか目を見開いて・・・



ビッグストアの原点

手元に1988年刊の渥美俊一氏の「商業経営の精神と技術」という本がある。渥美氏は大正15年生、三重県松坂市の商家の生まれ、読売新聞の記者を経て、経営コンサルタント。現在76歳。

i)原点を見つめること、ii)そして目指したもの(目的)を見ること、それによって、本質的な理解ができます。

ビッグストア世代の原体験

<日本人が飢餓状態にある時期の、私の物資調達の体験と、生協の19世紀末のロッジデールの宣言の知識がそのまま、アメリカチェーンストアを正確に理解するための、よりどころになった。:商業経営の技術と精神>

われわれが経験したことのない飢餓状態。ダイエーの中内氏はフィリピン戦線でもっと悲惨な体験をしている。

<食料はいよいよ不足してきた。特に副食物がない。トンボクサとかいう赤い茎の、松葉牡丹に似た雑草をゆでて食ったり、さつまいもの茎や葉を食ったりである。てきめんに便が青くなるのには驚いた:カリスマ:佐野眞一著>

中内氏は若い頃から総入歯。フィリピンで食べ物がなくなった時、飢えで死んだ同僚の革の軍靴と取り替え、自分の靴を飯盒で煮て噛んだためだと言う。靴を食べる・・・

その時見た米兵キャンプ
<日本兵はガソリンの一滴は血の一滴と教えこまれていたが、中内らが食料調達のために敵陣に斬り込みにいくと、アメリカ軍はガソリンの発動機でアイスクリームを作っていた:同上書>

<人間は幸せに暮らしたいと常に考えています。幸せとは精神的なものと物質的なものとありますが、まず物質的に飢えのない生活を実現していくことが、われわれ経済人の仕事ではないかと思います。
人間の生活で最も大切なものは、詩でも俳句でもない。物質的に豊かさをもった社会こそ豊かな社会ではないか。好きなものが腹いっぱい食えるのが幸せです。観念より食べることが先です。動物的なものが満たされてはじめて人間的なものがくると思ったわけです:同上書>

こうしたところから主婦の店ダイエー(1957年:大阪千林店)が出来た。IY堂が設立されたのも、その翌年の1958年。
1962年:東大教授林周二が「流通革命」を著した。
1963年:ケネディが国際チェーンストア大会で、有名な演説、<More Merchandise to More People>のアジテーションをした。

目標というものの偉大な効果

その10年後、1973年にはダイエーは日本の小売業で売上高トップにのぼりつめる。4766億円。主婦の店1号店以来わずか16年です。
<16年>で小売業の売上高トップになれる。

2001年の16年後は、2017年です。これから1店舗からはじめても、なれるんじゃないでしょうか? 今の100倍、500倍になろうと決めること、計画を立てることですね。既存ものが音を立てて崩壊しつつるある現在は、新しい戦後と見ていい。

    年率で33%伸ばせば、16年で100倍です。
    1億は100億、10億は1000億、100億は1兆。
    年率で47%伸ばせば、16年で500倍です。
    長期目標とは、こうしたことを言います。
    長期目標に近づくために戦略が必要になる。

年率5%、10%の目標を立てた途端に、あなたの企業は小さなものになる。個人のライフ・プランの資産も同じですね。

目標を上回る機会はこない。幸運が来ても、目標が小さいと、理由をつけて逃すことになる。機会は来るものではない、作るものという意味がここにある。目標を持ち準備をしている人にのみ偶然の顔をして実は必然の機会がくる。目標は現状否定の上での構想でなければならない。16年で100倍は、現状の方法では到達できない。戦略が必要になる。99を付け加えなければならないからです。

可能性がないという妙な自信と、楽だろうと目標を小さくし、人は現状を肯定する。みんながそうだから、バカじゃないかと言われながら、巨きな目標を持つ人に機会が訪れる。16年間とはそうした期間です。人間の器とは目標の大きさ。なぁに、リスクがあっても今は飢えることはない。一体、何をそんなに恐れるのか?

ユニクロの柳井社長は山口県の田舎で、GAPを抜いて世界一のアパレルになるという、周囲の誰もが信じないアホな目標を立てた。90年代初頭のことです。

25歳の人なら41歳、30歳なら46歳、40歳なら56歳、50歳なら66歳、年率33%なら16年で100倍、これは不可能じゃない。
90年代の10年間は、目先の対策で瞬く間に過ぎた。

<バブル崩壊>という訳のわからないまとめ方の弊害。
崩壊する現象の解釈は、学者やジャーナリズムに任せておけばいい。ヘーゲルも言った。学問はミネルバの梟(ふくろう)
実務家は、目だけぐるぐる動かす梟になっちゃいけません。

崩壊の後には、空白のキャンバスの上の新しい建設がある。
思いきり、描けるはずです。

実はそのための思考の材料提供として、<ライフプランの戦略>を書いているんです。情報社会・知識社会は、80年代までの成功の方法とは違うと思って。16年で100倍の長期計画と周到な戦略。

ビッグストア作りで必要だったことの本質はなにか?

<当時(昭和30年代)、小売業の店員の平均年齢は22歳から24歳だった。飲食業は18歳から20歳。
最初の頃は、私(渥美)は、苛酷労働のために病気になるのかと思った。なぜなら、労働時間の長さと、あまりにも低い労働条件から商業の世界はハードワークがあたりまえという印象を強く持っていたからである。しかし、病気になるのではなく、絶望してやめていくのが実態だった。

なぜ、20歳代の後半になると男性がやめていってしまうのか。残っているのは40歳代から50歳代の経営者と20歳前後の人間ばかりという状況である。それで非常に憤慨して、まず労働条件をよくしなければならないと私は叫び出した。

しかし、つきつめていくとやめていかなければ資本家であり経営者である店主の取り分がなくなるのだとまもなく気がついた。そうするといくら努力して繁盛店を作ってもそこから何一つ生まれてこない。
それは店主とその家族の所得が増えるだけ、いうなれば個人資産が増えるだけであって、従業員は単なる道具に過ぎない存在とされてるのだということもはっきりした。

従って、定着率を高められるような労働条件が必要でそれによってのみ、長期教育が可能となる。
長期教育を前提としてしか技術者は育たない。そして、そうした経営環境を作り上げることによってしか技術の導入はできないという結論に達した:商業経営の技術と精神>

流通・小売業は、機械に人が従属する加工業とは違い、人が技術です。
教育して、技術を育成し技術を年々高度化すること、これが必須になる。30年も同じことをやっているとするなら、商い(飽きない?)ではあろうが、ビジネスではない。多くの商店が陥る罠。

日本にビッグストアができた理由は、教育でしょう。トップが率先して勉強し、目標を大きくもって、部下を訓練(動作とマニュアル教育)し、教育(ロマンと技術の伝授)をしたのです。これが本質。

業態の問題、ビッグストア作りの、i)ラインロビングの技術、ii)品種総合化は見よう見まねでできるものだった。
店舗は、モデル店の見学で分かる。最大の問題はロマンに燃えた技術者(商品部と店長)を育てることだった。それが出来たところがビッグストアになった。

▼2001年4月

ところが、中内氏は90年代になると、こう語るようになっていた。
<小売業は、社長とコンピュータがあれば運営できる>
建設的文化の破壊の言葉。重大な認識の錯誤。コンピュータは人間の判断と作業の支援を行うものであって、主役は人間です。

ライン型製造業では人間の作業は機械のお手伝いになる。それが量産です。トップに情報を集中し命令で動くピラミッド組織が適合する。

流通小売業では、コンピュータは業務のシステム化はできるが、情報の面ではデータを集計し伝達する機械にすぎない。情報は人間の知識による判断を加えて、役に立つものになる。機械が商品を加工する製造業とは根本的にちがう。みんなが流通業でここをまちがえるのです。

【蔓延している防衛文化】
ダイエー380店は本部主導になり、マニュアル化は徹底したように見えた。命令されて動くことに慣らされ、本部の社員も思考停止状態。行動を起こしても、もし失敗すれば身が危うくなる。結局<何もしないほうが得>という雰囲気になっていた。店舗は、本部が悪いと愚痴をいう。本部は、店舗が動かないと言う。

リーダシップ論で言う<悪しき防衛文化>の典型症状。結果数字のみが重視され、あらゆる場面で原因解析がなく、変化をリードすること、変化を創りだすことより、外部変化を不十分に追いかけることしかできない状況。こうなると、どこでも毎日がスパイラルに苦しくなる。

ダイエーにかぎらず日本の過半の企業がこの<悪しき防衛文化>に陥っている。<建設的文化>に転じない限り、本当のリストラクチャリング(事業再構築)はできない。部分的な商品投入ではない。

【建設的文化】
建設的文化とは、
i)知らないことや分からなかったことが次々に分かること、
ii)新たな発見や開発、自己実現が図れること、
iii)自分やチームが成長していくことに対して、喜びを見出せること。
iv)チームの成功を導き、指導するリーダーがいること。

脇の甘い言葉が並んでいる。飢餓世代には、現実はそんなことで動かないと言う人が多い。認識の錯誤。貧困な時代の人間とは違う。人間が動く動機と求める価値が変わっている。飢餓や恐怖では動かない。命令では、粗く不充分なことしか伝えられず、実行は徹底しない。
流通は細部に神が宿る産業。現場の自律的な微細な作業が必要です。
キーワードが自律性。自律性の文化で、はじめて情報が活きる。

教育は、こうした建設的文化を作る手段です。流通業は人間の産業であることを深く記憶すべきです。機械は電気をいれれば動く。人間は報酬だけは動かない。報酬を上げてもそれだけでは浪費です。人間を動かす導火線に火をつければ、人は自律的に動く。

ダイエーでは、2001年3月末の1000人の希望退職枠はすぐいっぱいになった。その前のニチイでは、即日応募で700人も上回った。

【人間不信】
<カンパニー制をひき、その長にかなりの裁量権は与えたというものの、どんな些細なことでもカリスマである中内の許可を仰がなければならないというのがダイエーグループのいつわらざる実情である:カリスマ> 悪しきピラミッド型、過去の組織。

<他人を信じないという点にかけてもあれほどの人は見たことがありません。店長を猫の目のようにくるくる変えるんです。1年も同じ店をまかせれられれば、いいほうです。ボクがそんなことではいつまでたっても店の業績はあがりませんよと文句をつけると、中内さんはこう言ったんです。1年以上同じ店にいれば悪いことをするに決まっている:カリスマ>

本質がこの人間観では<建設的文化>は育たない。1973年までは年率で30%も伸びた。貧困からの脱出の時期は、人間不信の企業文化の中でも、希望に燃えることができたかもしれない。
貧困は全てのモノを宝に見せる。空腹は最良の調味料になる。

銀行の支援条件は中内家の支配を脱することだった。中内氏は、俺は流通業の歴史だと言いながら退陣した。ある日新幹線で偶然目にしたとき、表情から精気は消え、身体が小さく見えた。

【時流】
時流は変わる。価値観が変わり、商品の評価尺度も変わる。
流通業は、時流を、新しい需要の萌芽を捉え、商品化するビジネス。
あたらしい商品評価の尺度のフォーミュラ:
お値打ち感=(機能性+品質性+スタイル性+ブランド性)×(店舗イメージ)÷価格

機能性と品質性の差異は、商品の個々で作れる。商品だけを取り出して仕様比較とライフ・テストをすれば、分かる。

しかし現代の商品は、もうひとつ深いレベルまで進まなければ顧客が評価しない。スタイル性、ブランド性、そして店舗イメージ。コーポレートカルチャー、企業文化に深く関わり、マーケット・フォーカス、顧客グループの価値観に関わる。<商品対顧客の時代>から、<企業対顧客>の時代へ。二番煎じは有効でなくなった。

商品過剰の時代は、そうした問いかけをする。果たして、ビッグストア・量販文化・ピラミッド組織の典型であったダイエーが、そこまでをこなすことができるかどうか。期限は来年の2月までしかない。80年代初頭までのエクセレント・モデルであったシアーズでは、転換は失敗だった。日産の事業再構築は、参考になる。

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  2001年4月9日号:新しい商品価値のフォーミュラ

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執筆:Systems Research Ltd. chief consultant吉田繁治
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