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ゴーンの改革手法の第2部 改革のキーになるブランド・アイデンティティの再生 コスト構造の変革 |
| ※友人、知人、同僚、部下、上司、取引先への転送は自由です。 <知識のこころ>のプレゼントになれば、幸せです。 2001年6月11日(Vol.51):<50号記念>:経営分野 鋭利なメスをもつ精神分析医:カルロス・ゴーン(2) (第2部:ブランド・アイデンティティの構造) ビジネス知識源:良質な経営・IT・ビジネス知識の提供を目標に Systems Research Ltd. chief consultant吉田繁治 著者へのひとことメール⇒ yoshida@cool-knowledge.com こんにちは、吉田繁治です。<鋭利なメスをもつ精神分析医:カルロス・ゴーン>、50号記念シリーズでは、日本の多くの会社、GMS、百貨店、卸、及び金融、保険、建設等に必要な「構造改」を考察する意味で、日産でカルロス・ゴーンが行った改革手法を分析しています。本号は第2部です。 <Vol.51 50号記念シリーズ> 鋭利なメスをもつ精神分析医:カルロス・ゴーン(2) ■目次 <項目から、内容を想像する3分間> 1.リソース(経営資源)の活用ということ 2.ブランド・アイデンティティの構造 3.コスト構造の改革 4.ケイレツ下請け構造の再編成 5.ケイレツメーカーの苦闘と自立への打開の事例 6.情報社会の部品メーカーと自動車メーカーの関係の変化 ■要約 <インテリジェンスの3分:要約からの内容の読み取りを> 再生に必要なことは、(1)組織の自己否定(過去)、(2)今後のネタになるリソースの肯定、(3)そしてリソースのRe-Organizeである。リ・オーガナイズは原因があって不活性に陥っていた経営資源を、原因治療(再編成)を行って、よみがえらせること。筋力の回復です。しかしこれだけでは組織は健康にならない。組織の精神の問題が残る。 再生で根幹的に必要になる「ブランド・アイデンティティの再生」、消費者がこころから求める商品・サービスの開発と、社員のやる気の結集です。「ブランド・アイデンティティ」によって、再生の目標、ゴールができる。その作りかたの、8ステップを解く。 これが、精神の回復です。 次は、コスト構造の変革。新製品開発の4000億円(トヨタ並)を確保するには、現状のコスト構造の改革を果たすべきである。燃えている桟橋(出血)を消火しなければならない。その対策の手法。スタープレーヤー(ゴーン)と、過去の失敗を引きうける黒子役(塙) 日産の過去のケイレツのまずさがある。官僚と特殊法人に似た、癒着(ゆちゃく)構造。ケイレツ的な上下の、封建的身分制度。 20%、25%のコストダウンを要求されたケイレツ・サプライヤーはそこから立ちあがる。窮地が新たな機会になったケース。部品メーカーとしてグローバルな自立の機会。今後の産業のありかた。 ハイテク部品のカタマリになった自動車では、高付加価値部品メーカーが、親会社の組み立てメーカーを逆支配する可能性がある。下請け会社のピンチは、(1)意思と(2)技術と(3)方法で、大きなチャンスに転じる。ネットワークとロジスティクスを使えば、下請けは、もう下請けではない。過去の産業構造は急速にかわりつつある。 崩れるのは、20世紀型の、恐竜化したピラミッド組織。 (vol.51 summing up) <さぁ、ここから一緒にジャーニーへ> ■1.リソース(経営資源)の活用ということ 日産も含め、多くの会社が、発掘すれば優秀な人材、リソース(経営資源:人、モノ、カネ、情報)を持っている。しかし、それが「有効活用」されていない。赤字とはそうした状態です。 ゼロから作る創業に比べれば、再生は容易なことが多い。問題は、無意識、または意識的に、過去の「枠組みの囚人」になっていること。 【カルロス・ゴーンのCOOとしての機能】 組織の精神分析医であり、かつ鋭利なメスを持つ外科医、カルロス・ゴーンは、その有効活用に取り組んだ。彼は経理的なコスト・カッターではない。リーダー(COO)として、改革に方向を与え、ゴールを示す。ここまで、この方法で到達しよう。 それが、グループ15万人のやる気を生む。 ▼必要な自己否定と、将来への自己肯定のバランスをとること 人は、全(すべ)てを否定されることには耐えられない。巨大組織も全く同じ。全否定からは、<どうせ、俺はダメだ>という自暴自棄、自虐、嗜癖しか生まれないことが多い。 【否定】 まずゴーンは過去の失敗を、5項目にまとめた。 (1)利益追求の不徹底 (2)顧客志向の不足 (3)機能、地域、職位横断型業務の不足 (4)危機意識の欠如 (5)共有ビジョンや共通の長期計画の欠如 <(1)お前たちは、お金の意識がなく、(2)自分の立場や自己保身と自己都合ばかりを考え、顧客のニーズは無視し、(3)横では、てんでんバラバラのことをやり、お互いにみんなで甘えて、どうすべきかの方向がない、(4)それでもう足元は燃えている、(5)だけど、どうすべきか分からずみんなじっとしている。> 上の5項目を、日常用語で言えば、こうなる。ゴーン、お前はここまで言うかという感じです。強烈な否定です。こうした自己否定では、組織は嗜癖(しへき)の裏返った自己肯定に向かう。 その後、ゴーンは、日産のリソース(経営資源)を肯定します。 【肯定:再生の可能性ありとゴーンは言った】 (1)国際的な認知と、海外展開がある。 ニッサンは、国際的に、ブランドが認知された組織である。 (2)世界最先端の生産技術がある。 工場には、世界の最先端の生産技術がある。活用が不足。 (3)特定分野での世界最高の先進技術がある。 末来技術でも、世界最先端のものがある (4)ルノーとの提携がある。 このカルロス・ゴーンがいるじゃないか (5)優秀な人材がいる。 私は、社内ヒエラルキーを無視し、人材を登用する。 さぁこれで、少し、救いができた。でも、これはまだ救済ではない。 以上のような救いの次は、「ブランド・アイデンティティ」です。つまり、やる気の結集。日産という組織の、存在証明と精神の再生。 【アイデンティティの問題】 会社という組織体の「集合的なやる気の象徴」になるもの、それが「ブランド・アイデンティティ」といわれるものです。 組織体の精神構造も個人と同じです。個人では「自己実現」が目標になる。企業も、自己実現です。そこに、活動の生命を燃やす核がある。 人のこころが燃えなければ企業は、結局官僚組織になって、最後は死ぬ。(悪しき官僚組織は、組織の最後の段階) その構造を解きましょう。ブランド・アイデンティティ作りです。 ■2.「ブランド・アイデンティティ」の構造 自動車メーカーに限らず、GMSも銀行も保険も建設もIT産業も、「顧客のこころ」をつかむ商品とサービスを作らなければならない。その時のキーが「ブランド・アイデンティティ」です。二番煎(にばんせん)じでは、得られない。「信念」から生まれるものです。 リーダシップ論の7部では信念を解いています。↓ http://www.cool-knowledge.com/0510Leadership(7).html 近年の例では、<iMac>があった。あれひとつでアップルの倒産が救われた。「ブランド・アイデンティティ」が結実した。その後冴(さ)えません。<2匹目のドジョウの罠(わな)>にはまった。iCuveは悪乗りだった。顧客のニーズとの距離があったのです。 【ヒット商品との違い】 ヒット商品という底の浅いことを言っているのではないのです。それは売れた結果に過ぎない。そうではなく、顧客のこころを動かし、全社員の、こころのやりがいに火をつける、「ブランド・アイデンティティ」 BMWやベンツ、フォルクスワーゲンは一貫したブランド・アイデンティがある。 【商品以外のブランド・アイデンティティ】 形を持つ商品でなく、仕事の仕組み(=システム)であるときもある。 ・トヨタは、トヨタ生産方式で「ブランド・アイデンティティ」を作っている。 ・小売りのウォル・マートは、「最低価格」と、物流の「クロスドック・システム」です。 ・窮地に陥っていたIBMは箱モノ売りから、大転換をして「e-Business」で、ブランド・アイデンティティを再生した。 ▼栄光のフェアレディZ(1973年) かつての日産にとってブランド・アイデンティティを象徴したフラグシップ・カー(旗艦車)は、天才 片山豊が開発した<フェアレディZ>だった。 初代の240Zは、ニッサンを世界の自動車会社に並ばせる位置まで高めた。1970年代初頭の、トヨタのシェアは34%。ニッサンは32%とほぼ互角だった。差はわずか2ポイントだったのです。 【当時の社内】 <当時、毎月の売上数字が社内に回ってくると、(トヨタとの比較で)野球の巨人が勝った負けたかと同じような騒ぎになった:CM総合研究所 関根建男:ニューズウィーク:01年1.24号> 数字への喝采(かっさい)、共感に社内が燃える。仕事でもっと重要な「アイデンティティ」、しかし、それから26年、日産はずっと負けつづけた。最近のトヨタのシェア46%:日産17%(軽自動車を除く) 負けつづけると、誰も、数字の現実を語らなくなる。数字は気が滅入(めい)る。現実回避、そして裏返った自己正当化、部分最適、目先の作業だけへの没頭。これが、人間の心理です。 ▼ブランド・アイデンティティの再生 今まさに、日産の「ブランド・アイデンティティ」、(1)グローバル企業Nissanとして、他との「差異化」を図り、(2)日産の顧客にとっての「存在価値」を再生させる必要がある。 2002年までに22機種の開発をコミットする新車開発。開発チームのミッションは、日本車の没(ぼつ)個性的イメージの払拭(ふっしょく)である。個人の「自己実現」と同じです。 かつて<いすず>のデザイナーであった中村史郎(50歳)を、日産のアイデンティティを具体化するフラグシップ・カーの開発にあてた。彼は、髭(ひげ)とメガネで、ゲージュツカのような所作をし、TVコマーシャルに出ている。日産が変わることの消費者への演出。彼はTVで言う<私たちがつくる本当のプレミアム・カー スカイライン・・・> チーフ・デザイナーに登用した中村史郎には<新しく大胆な車をつくるニッサン:ペラタ副社長>という「ミッション」を与えた。 COOカルロス・ゴーンはリバイバル・プランの中で、ブランド・アイデンティティを誇れる新車の開発を、最重点項目に位置付けた。 しかし、冷静なゴーンは、「利益」という注釈を忘れなかった。 【リバイバルプランの第1項】 1.「事業の発展」チーム コスト削減の原資を、新商品開発に充てる。 (1)2000年から2002年で、合計22の新車種を開発する。 (2)連結結設備投資額を25%増加させる。 つまり、今、桟橋が燃えている。まず、コスト削減を果たす、その果実を新車開発に当てる。 トヨタの開発予算4000億円、日産2000億円、その差を埋めるには、原資を確保する必要がある。燃料電池も含め、ここで追いつく。差はわずか2000億。それは、コストダウンで生み出せる。 ▼コスト構造改革に必要な、ゴール これで、経費構造の合理化に、開発という方向がつき、目的・ゴールが与えられた。合理化は手段です。目標がなければならない。 経費の合理化は、過剰な工場の閉鎖、社員のカット、下請けの部品・資材メーカーのカット、納入価格の低下という、「痛み」を伴うのは必然である。そんなことは、みんな分かっている。 しかし、自分だけが、なぜ痛みに耐える必要があるのか、そこが分からない。他の人が悪いとなる。これでは、改革は進まないのです。 【改革という痛みに必要な希望】 痛みには方向と、将来がないと、人間の集団である組織は手術に絶えられない。健康に戻れるという希望があるから、人は手術の恐怖と術後の痛みに、耐える。希望がなければ、誰も手術室の、ステンレスの恐怖の部屋には、向かわない。それで手術を受けるなら嗜癖です。 【改革の痛みを黙って引きうける配役】 リストラでカットされる側の恐怖と痛みを、真正面からひきうけよう。 過去の失敗は、「会長:塙(はなわ)義一」が、黒子(くろこ)となって、もぐもぐ言いながら、一身に引き受けよう。見ているひとはいる。塙義一は武士道を心得たひとです。 【栄光のニッサン】 末来へ向かっては、「栄光のニッサンのブランド・アイデンティティ」の復活。これで、皆のこころが、希望に燃え、30年を経て再び熱くなる。新しいリーダーが果たすべき機能です。 【蛇足ですが・・・悪例:ダイエー】 日産と似た状態のダイエー、他のGMSにも、これができるかどうか? 人間不信の妖怪(ようかい)、ダイエーの中内氏は、おれは正しい、ファウンダー(創業者)だ、日本の流通だと言って去った。これで跡を濁(にご)した。 これではあとの人:高木氏・平山氏は、苦労する。中内氏は、晩節を汚した。塙義一の人間信用と、中内氏の抜き難い人間不信。 中内氏は自らを犠牲にし、高木・平山氏に頭を垂れ、過去の失敗を一身に引きうける役を演じるべきだった。そうすれば、高木・平山氏には、痛みを伴う改革のスタープレーヤーの役割が与えられる。中内氏にはこれができなかった。むしろ怨(うら)んだ。記者会見の席上で、高木・平山氏を、不快そうに無視したのです。 高木・平山氏に向かって、過去の悪いことや失敗は俺が全部引きうける、どうかお前たちはダイエーの再生に向かって存分にやってくれ、と言うべきだった。そうなれば中内氏は男になれた。もう遅い。 日産の塙義一はそれをやった。 そう、もう30年くらい前、三島由紀夫と石原慎太郎が対談した。テーマは男らしさ。2人の答えは同じだった。それは、「自己犠牲」 女を、家庭を、会社を守る自己犠牲です。 私は、このとき、はっと思いました。 コストカッター・ゴーンの合理化に、目的がついた。彼はたんなるコストカッターではなくなった。塙義一のおかげで、末来をつくるスターになり、「目的」を作った。構造改革でも、その先にあるゴールを設定しなければ、果たせない。 ▼再生論は共通:必要な一人の人物 果たして日本の金融の構造改革、不良債権処理には、どんなゴールを設定しているのでしょう? これが問題。小泉さんは、痛みに耐えよという。なんのために? この国は、まだ、まだ再生に時間がかかる。 政治家に武士道のカケラでもあるなら、過去の失敗は、全部、おれたちが引きうける。小泉さん、存分にやってくれというリーダーが一人くらいいてもいいはずです。やるのは、相変わらず見苦しい足の引っ張り合いです。みんなの顔に、毅然とした光がない。政治家を筆頭に、この国は、人物が小粒になったように思いますね。 これでは子供からの尊敬や信頼は得られないなぁ。オトナは利害で人を見ます。子供は人を利害で見ない。ありのままに見るのです。 浅薄なマキアベリズム?そして、政治家の教科書であり、ほとんどの政治家が、最初に読む『職業としての政治(マックス・ヴェーバー)』を、どこかで間違えて読んだとしか思えないなぁ。 本シリーズは50号記念として、カルロス・ゴーンを素材に、日本再生論を説くものでもあるんです。自己反省を抜きにしてね(笑) 日産という主語を日本に、そして、GMSに、建築に、金融に、農業に、そしてわが社に置きかえれば、方法は同じです。 ▼ブランド・アイデンティティの開発の8ステップ 15万人の日産グループの希望は「栄光のブランド・アイデンティティの再生」、じゃ、どんな方法でこれを行うのか? このことに入ります。 以下の8ステップは、すべての企業に共通な手法です。 【ブランド・アイデンティティ作りの8ステップ】 ブランド・アイデンティティつくりの方法を、極めて単純化して示します。企業規模の大小、業種には関係がない。 【1st ステップ:末来透視図作り】 自動車産業(我が業界、あるいは地域)の、「世界的」な再編後の、規模、品質、技術を描く。 つまり、数年後のわが社を取り巻く競争環境の「透視図」を描く。 ※重要なことは、「世界的」という観点。もう、競争に国境はない。現在は、情報化・ネットワーク化での再編の時期です。ネットワーク化は世界です。再編とは、Re-Organize、つまり、過去の序列がくるくる変わって、情報化・ネットワーク化に有機的に適合した序列ができるという意味。中小規模こそ、そうですね。 【2ndステップ:末来ポジション作り】 その透視図の中で、自社の末来ポジションを描く。 末来透視図での、自社、及び自社商品のポジションはどこか? ※描いた末来透視図のなかで、自社が、顧客にとって占めるポジションはどこか。大切なことは「顧客にとって」の観点。どんな位置を占めたいのか、です。 【3rd ステップ:商品価値の差異化の定義】 自社と、自社の製品の特徴を示す。 正確なコトバでは、「差異化」の3項目、つまり ・「存在理由の差異化」、 ・「顧客にとっての価値の差異化」 ・「顧客フォーカスの差異化」を、クリアに明らかにする。 ※ここで、ブランド・アイデンティティが描ける。プログラム化が必要。プログラム化とは組織に組みこむこと。それで、第4ステップ以下に行く。第4ステップ以下をやらないと、絵に描いた餅(もち)で終わる。 【4thステップ:人事(移動・スカウト・抜擢)と組織再編】 過去の開発責任と問題を明らかにし、それを反映した人事を行う。 なぜ、過去にそれが行えなかったのかの原因の「反省」。 これがないと、実行の前に、潰(つぶ)れる。全てが、組織と人、及び業績評価方法の不適、人材の浪費、士気の低下、過去の失敗の問題に集約されるのです。 ここで「Gentleman塙義一」が過去を引きうける黒子になり、ゴーンとクロス・ファンクション・チームをスタープレーヤーとしておくり出した。 黒子(くろこ)役がいないと、社員や下請けは、改革の不満、恨みをぶつける象徴がいない。そうなると、スタープレーヤーを演じるべきゴーンが、過去を引きうけることになる。これは、方法が稚拙(ちせつ)です。ゴーンは過去ではなく末来にコミットメントしなければならない。 【5 th ステップ:戦略組織(根幹的に重要)を作る】 コンセプト・デザイン主導を実現できる戦略的組織を作る。 日産のリバイバルプランでは、COOとして退路を断った責任を持つカルロス・ゴーンは、従来の工場と技術主導ではなく、「デザイン主導」とした。これはトップが決めるべき専決事項。根幹的なことです。 デザインの現場が、存分に活動できる「舞台と配役作り」です。没個性的デザインの脱却。やる気を与える仕組み作り。これを現場に任せるトップは、機能を果たしていない給料泥棒です。過去の日産の役員・社長がこれに近い。 昭和30年代ころの高級官僚にも、お前たちが犯罪を犯さない限り俺が救ってやる、だから存分にやれという上司がいた。今は? カルロス・ゴーンは「中村史郎」とニューヨークで会い、<いすず>からスカウトし、チーフデザイナーに任命。工場と技術はコンセプト・デザインを実現する従属的なポジションにおいた。デザインと工場は、それぞれ正当性を主張し対立するのです。 戦略的ということの意味は、設定した目的を実現できるような、人員配置と責任・分業の連鎖を作ることを意味する。以上が戦略的組織。 以下の3ステップはもうお分かりでしょう。 【6th ステップ】 コンセプト・デザインの実行=中村の才を活かす。 【7th ステップ】縦割り組織、ヒエラルキー組織の打破 【8th ステップ】環境親和のための、テクノロジーの柱を示す(自動車産業の今後のキー項目) ※7は人事と組織の問題、8は末来技術問題です。この末来技術は、業種で異なります。 これで、大きな改革の柱が揃(そろ)った。単純ですね。 カルロス・ゴーンはこうしたプロセスをクリアに、単純に示した。 このステップは、特にオリジナルではない。 重要なことは「(3)商品価値の差異化」「(5)戦略組織」 15万人の巨大組織だからこそ、個人のパワーは大きいのです。 ■3.コスト構造の改革 さて、リバイバルプランの第2項、コスト構造です。 【2.「購買」チーム】 購買の集中化、グローバル化、及び取引先の半減により調達コストを削減する。 (1)総コストの60%を占める購買コストを2000年から2002年で、20%削減する。 ▼自動車製造業の、ネットワーク業としての本質 最初に、日産のコスト構造を見てみましょう。以下に今回のリバイバル策の製造コスト面での中核があります メーカー(日産)からのディーラー(販社)への出荷価格を100とすると、そのコスト構造は、 (1)部品・資材購買費 60 (2)販売費・一般管理費 23 (3)製造費 11 (4)研究開発費 3 (5)その他 3 この工場出荷価格に、各地のディーラーの販売マージンが付加されて、われわれが買う価格になる。 上ではケイレツ部品・資材メーカーからの部品・資材購買費が60%を占めますね。日産の工場での製造費(=組立ての付加価値)はわずか11%、後は、車の販売費です。 これで(特に日本の)製造ビジネスの本質が分かる。車をデザインし、ケイレツ部品・部材メーカーに仕様発注し「プラモデル」のように、それを組み立てる。これが工場です。 これは製造業というより、「開発・部品調達ネットワーク業+販売業」と言ったほうがより近い。工場が生む製造の付加価値は11%に過ぎない。工場が主導して部分最適になったら、日産はどうなるか?過去の製造業日産の自己認識に、誤りがあるのです。 最も重要なことは60%のコストを占める。部材・部品をどう仕入れるかです。ここに自動車製造ビジネスの本質がある。 事業規定の本質にかかわるところで、過去の日産には誤りがあった。 ▼ゴーンのコスト合理化プラン (1)購買費の60を20%下げる⇒48にする (2)販売費・一般管理費の23を20%下げる⇒18.4にする。 部品・部材購買費の60(約3兆6000億円)を20%下げて48(2兆8800億円)にし7200億円の合理化に入ります。すごい金額の合理化です。 これを理解するには自動車産業で発達し、80年代までは日本の製造業の強さの本質と言われたケイレツ下請け構造を解く必要があります。これは日本産業論につながる。日産のケースでは、どこに問題があったのか。 ■4.ケイレツ下請け構造の再編成 ▼米国メーカーと日本のメーカーの、内製率と外注率 GMを筆頭とする米国の自動車メーカーは、「部品の内製化」を行っていた。部品の外注比率は30%から40%と、日本メーカーの70%以上とは対照的だった。 米国メーカーは主要部品のメーカーを必要としたときは、買収や合併をして、内製化することでコストダウンする手法を取った。 日本メーカーは子会社や、独占的つまり下請け的に取引を行う部品会社との取引を行ってきた。いわゆる日本型ケイレツ。日米どちらがいということではない。 (トヨタは、今、ある狙(ねら)いを持って、むしろ系列の統合化を図りつつある) 日本型ケイレツでは、親会社のメーカーの販売が不調のとき、メーカー本体は米国のようなレイオフを行わず、部品価格切下げや外注量のカットで凌(しの)ぐ。下請けでは、年功序列も長期雇用もなく、いわゆる日本型雇用の余裕はない。産業の2重構造です。 出資比率20%程度でも、ケイレツ会社を実質的に支配した。ケイレツのトップ、役員は天下りが多かった。ケイレツ会社の賃金は、親会社の70%から80%が上限であることが不文律。親会社の命令は神の命令。階級制度ですね。 【いまどき珍しい会社】 カルロス・ゴーンは言う。 <私たち(日産)は、量の効果を無視して、地域レベルで部品を買う、いまどき珍しい会社のひとつなのです:船橋洋一のインタビュー> ゴーンには、日産はグローバルな部品・資材調達の有利性を、全く活用していないように思えた。 なぜこうした転換に、ゴーンを待たなければならなかったのか。 【悪しきケイレツ構造】 日産のケイレツでは、以下の問題があったのです。 親会社からの、下請けへの天下りと独占的支配。 メーカーの若い技術者は、大先輩が天下ったケイレツ会社に、正当な要求ができない。トップ同志が結びついている。言えない不文律が増える。正常な商取引ができない。 幹部は、好調なときは自分が天下るであろうケイレツに、発注価格の上昇を含めた、なんらかの恩を、売る。不調なときは、合理的理由のない割引リベートを要請する。 高級官僚と特殊法人の関係と、同じです。 産は1152社の部品・部材サプライヤーを抱え、年間3兆6000億円の発注を行っていた。ゴーンはこれを半分の600社にし、平均で20%:7200億円のコストダウンを図ると言った。 ケイレツメーカーは大騒ぎ。総額で7200億円の売上を切り捨てられる、潰(つぶ)れる。つぎはそれを見ましょう。 ■5.ケイレツメーカーの苦闘と自立への打開の事例 ▼要求された25%のコストダウン 【ケイレツの典型】 鬼怒川ゴムは、日産からの20%出資を受け、6代続けて日産から社長を迎えている典型的ケイレツ会社です。売上の80%は、対日産であり、自動車用ゴム、合成樹脂部品を供給する。 99年10月の日産リバイバルプランで、鬼怒川ゴムは、3年で25%納入価格ダウンを言い渡される。日産と同じく、92年以降赤字だった。連続8年の赤字は、潰(つぶ)れるかどうかの瀬戸際です。 【原因】 98年6月に日産から来た関根社長は<グループ内でのもたれ合いが原材料コスト高の原因>と見ていたが・・・ 【窮地】 窮地に立った関根社長は、東洋ゴムの指導を受け、カンバン方式を導入した。日産に気を使い、「カード方式」と名称を変えたが、中味はトヨタカンバン方式であった。それまでの現場監督からの生産指示、数量指示ではなく、直接、作業を指示するカンバンを回す、受注引っ張り型生産。紆余曲折(うよきょくせつ)・試行錯誤を経て、これで、不良品の率が低下し、在庫は減って、生産性は上がった。 従来、これができなかった原因は<日産との持たれあい、コストダウン意識の徹底のなさ>という。25%の売上が減ると追い詰められ、それに取り組んだ。目標は、コストダウンと日産依存体制の打破と言う。危機はチャンスの別名。 【将来】 さらに、自動車部品メーカーとしての独立を目指す。 <外資であろうと、国内メーカーであろうと、提携し、世界に販路を拡大する> 2000年7月には敵であった豊田合成の資本を受け入れる。 面白いところは、日産とトヨタの要求仕様が、微妙に異なること。 <トヨタではドアのシール部品の油などが、ガラスをかすませる原因にならないか実験を行う。日産ではそれは必要条件ではない。一方同じ部品の耐久性の実験は、日産が多くの段階を踏む。材料に求める硬さはトヨタのほうが日産より若干硬い> http://www.yomiuri.co.jp/atmoney/special/f36/21seiki11-02.htm 日産とトヨタでは車作りの精神への差がある。 鬼怒川ゴムの事例は、窮地が機会になる事例です。なぜか? 窮地では、従来の枠組みを変えて、発想するからです。 うまく行っているときは、「枠組み」を変えない。ここでリーダーが将来の方向を見据えた引っ張りを行うこと、これが欠かせません。方向を間違えれば、水泡に帰す。 日産リバイバルプランを受けて、ケイレツ部品メーカーは、次々に外資との提携を図りはじめた。ここが日本の産業の力ですね。 【窮地は機会】 大きな機会は、好機にではなく、窮地から生まれる。 機会は、現在の枠組みでの、直線的な延長線上にあるのではないのです。実践的(プラクテイカル)であることの本当の意味は、「他に方法がないか?」を探すことです。 【間違え易(やす)いこと】 売上を5倍にすることは、1を5に膨らませることではない。 現在の成功手法をそのまま将来に伸ばす方法は、失敗することが多い。悪乗り、柳の下の2匹、3匹のドジョウ狙(ねら)いで安易になる。 1は過去の成功の結果に過ぎない。将来の成功の原因ではない。 そうではなく、4の新しいことをつけ加えることです。そのためには枠組みを変えなければならない。現在は1の実力なのです。 窮地は、枠組みを変える機会です。危機が次の機会をつくる。 さらに、情報社会の今後は、もっともっと大きな変化がある。 それを見ましょう。 変化が次々に起こるのです。その変化の「先」を見ること。 ■6.情報社会の部品メーカーと自動車メーカーの関係の変化 【車は走るコンピュータ】 90年代の車作りは、電子化・ハイテク化部品を内部に大量に使うようになった。車は走るコンピュータに変化しつつある。 ドライバー支援でITS(Intelligent Transport System)も始まった。ITSはカー・ナビゲーションの高度化、つまりドライバーが走行をするとき、渋滞状況、所要時間などをディスプレイに表示して、運転を助ける。 ITSは高速道での自動料金徴収システム、さらに事故を防止する安全運転支援(AHS)システム等、9つのシステム化を含む。更に燃料電池がある。電気自動車のビッグチャンスが控えている。 (蛇足ですが・・・) 私、車のライセンスがありません。車はドライバーが運転する、私は乗る人だとうそぶいていますが。 車の老セールスマンから、免許を持ってないひとは現代人じゃないと言われました。これはコタエた。一応、車はあるのです。英国車ローバーの、ブリティッシュ・グリーンのオンボロです。時々、いろんな部品が、スポッとはずれる。それでも、走る。たいしたものです。 ▼部品メーカーが組み立てメーカーを従属させる時代へ向かう可能性 今後は「技術のオープン化」、「標準部品」になる。部品メーカーが組み立てメーカーを従える、自動車産業の下克上が起こる可能性が大きい。以下が、ポイントです。 <生産400万台の完成品メーカーより、世界中で5000万個の、高付加価値部品を売るメーカーが、強くなる可能性が高い> かくして自動車メーカーをピラミッドの頂点とする縦のケイレツ構造は、横の分業、<サプライチェーン・マネジメント>へ向かうのが必然の方向。PCでのインテル(CPUという高付加価値部品)とPCメーカーの関係です。 ピラミッド組織から、ネットワーク産業になる。大きな変化が起こります。(事例はGMからのデルファイとの分離独立等)自動車でも、マス・カスタマイゼーション手法の、Dellが、生まれるでしょう。 こうしたことを背景にして、トヨタは基幹部品メーカーのデンソー、アイシン、豊田自動織機製作所に会長・副会長を送りこみ、持ち株会社化を狙(ねら)う。上流の支配です。トヨタは先を見ている。 鋭利なメスをもつ外科医、カルロス・ゴーンもそのことを知っている。 (第3部へ続く) (1)著者へのひとことメール yoshida@cool-knowledge.com ※友人、知人、同僚、部下、上司、取引先への転送は自由です。 <知識のこころ>のプレゼントになれば、幸せです。 (2)クールナレッジ掲示板(BBS)で投稿 http://cgi.members.interq.or.jp/venus/yoshida/BBS/light.cgi (3)WEBで、他の考察を体系的に http://www.cool-knowledge.com 送ったマガジンを含め、後日、修正と付加の説明を加え掲載 |
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copyright : Systems Research Ltd. Chief Consultant 吉田繁治