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日産が陥っていた、部門最適(=部分最適) 経営で、もっと大切な、<部分最適と全体最適>の 関係を明らかにする |
2001年6月18日(Vol.52)<50号記念>:経営分野 鋭利なメスをもつ精神分析医:カルロス・ゴーン(3) (第3部:部分最適と全体最適) ビジネス知識源:良質な経営・IT・ビジネス知識の提供を目標に Systems Research Ltd. chief consultant吉田繁治 著者へのひとことメール⇒ yoshida@cool-knowledge.com こんにちは、吉田繁治です。カリフォルニアの乾いた空気がうらやましくなる湿気です。以前、飛行機の窓からグレーにけぶった山々を見て思った。あ、これは東山魁夷の世界。日本画って写実だった。母なる国レバノンの、地中海の紺碧(こんぺき)の空を記憶にもつラテン人カルロス・ゴーンも、この景色を眺めたはずです。 日産とカルロス・ゴーンの第3部です。 第2部では、企業の自己実現に相当する「ブランド・アイデンティティの構造」を解きました。第3部は、コストと利益の構造改革のキーになる「部分最適と全体最適」がメインテーマです。 ■目次 Vol.52 鋭利なメスをもつ精神分析医:カルロス・ゴーン(3) (部分最適と全体最適) <項目から内容を推定する3分> 1.「部分最適と全体最適」をめぐって 2.SCMで基本的なこと 3.ゴーンの基本手法 4.部分最適と全体最適を単純化すると 5.有形資産と在庫の変質:90年代は資産の疑わしさの発生 6.リーダーの戦略的決定の方法 ■要約 <インテリジェンスの3分:要約からの内容の読み取りを> 部分最適と全体最適の違い、矛盾を知ることは、今後の企業改革のキーです。わが国では縦割り組織の文化が強い。部署での長期雇用(**畑)であったことも原因。日本の官僚組織も同じである。家、藩、軍隊組織の流れを汲(く)むものです。縦割り組織では部分への忠義。 サプライ・チェーン・マネジメント(SCM)の方法は、顧客需要を起点にして、あらゆる無駄を排除し、最終収益から得られるスループット(会計上ではキャッシュフロー)を、全体最適を示す数字として、最大化させる改革手法です。プロトタイプはカンバンシステムです。 ゴーンの基本手法は、過剰になっていた工場をリストラして、構造的な赤字体質を直し、その利益をブランド・アイデンティティを再生させる開発費に当てるという方法。そのために、利益の全体不適に陥っていた縦割り組織の改革を、推進します。 部分最適と全体最適の単純化した事例。 会計上は資産とされてきた有形固定資産(土地、建物、工場、設備、在庫)の、すべての資産の価値が、今疑わしい。スループット会計では最終顧客への販売やサービス向上に効果がないものは、すべて無駄と見る。 危機や、大きな改革でのリーダーの選択は「AもBも」ではなく、「まずA」と決断して、組織のエネルギーの方向を集中させることです。 <Vol.52 Summing up> <さぁ、ここから知のジャーニーへ> ■1.「部分最適と全体最適」をめぐって 【まず日常用語での部分最適と全体最適から】 米国人経営者が90年代に理解し、日本の経営者、幹部、社員がまだ理解していない、<部分最適と全体最適>の問題を取り上げます。これが、ゴーン改革の中核にあるメソッドです。 ▼オプティマイズという考え方 「最適」とは、Optimizeの訳語です。システムで、オプティマイズを図ることはキーワードのひとつ。コスト(経費、または経営資源の投入)と、得られる利益(効果)の関係で、最適(もっとも利益が出る)ようにバランスを取ることを言います。 「最適」を理解するには、「トレード・オフ」を理解する必要がある。 【トレード・オフの概念】 コストと利益の関係は、「トレード・オフ」の関係です。両方の最大化が同時にはなりたたない関係(矛盾の関係)にあることを言います。品質と価格も、普通はトレード・オフの関係。 【部分最適と全体最適】 「部分最適」とは、全体工程から見ると「部分」のみで、コストを最小化し、利益を最大化することです。 一方、「全体最適」とは、工程全体でのコストコストを最小化し、全体の利益を最大化することです。 【単純な例】 ビジネスでは、「部門や作業工程の部分最適の追求」が、逆に「全体の利益:全体最適」を減少させることがあるのです。 例えれば、商品仕入れ工程。10個ずつ仕入れるとき1個100円とします。これを一度に1000個仕入れれば、1個が80円になるとします。仕入れという工程の部分最適(最小コスト)で言えば、1000個仕入れたほうがいいに決まっている。 ところが販売の工程で、月間の販売力が500個しかないときは、売れ残る。売れ残った在庫が、原価割れの売価でしか捌(さば)けないとすれば、1000個仕入れることは、全体最適ではない。 全体最適(全体利益の最大化)を図るには、仕入と販売力のバランス(つまり最適:Optimize)をとる必要がある。 これが、最適という概念です。もう、お分かりですね 単純化すれば、だれでも、こうした部分最適は変だと分かる。 ところが15万人のグループ、組織ではどうか? 【組織の縦割り分業】 会社は、部署や個人の分業で、部分の仕事をやる。個人の仕事、あるいは部署の仕事の「部分での最適の追及」が、他の部署、又は個人との関係で、全体利益(特にキャッシュフロー)の減少になることが多い。 各部署が独立採算をとる会社で、多く発生します。 【組織という魔物】 官僚組織のように、部署(省庁)で縦割りで動く行動様式があると、部分最適こそ正義だとなるのです。日産は、縦割り組織が強かった。全体を見るべき役員も、部署の利益代表であって、他の部署との有機的な関係で全体最適を図るという行動文化は薄かった。 当たり前のことであるはずの「全体最適を図る」ことの困難は、日本の省庁改革が、どんなに大きな現場の抵抗を生んでいるかを思えば、分かる。部分が抵抗し、結局は全体を潰(つぶ)すというのが、組織では普通のことなのです。部分への忠義が、全体を毀損(きそん)。 コンサルタントとして改革を図るとき、小さな企業でも、部分最適で動いていることに当人すら気がついていないことに直面することが多い。我々は正しい。悪いのは他の部署だ、本部だと、暗に表現する。自己正当化の構造。 これを避けるコツは、部分の代表を改革チームに参加させることです。ゴーンはクロスファンクション・チームでこれをやった。この方法は、彼がルノーの改革をおこなったときもとった方法です。 ▼ザ・ゴール イスレエル人の物理学者:エリヤフ・ゴールドラットの『ザ・ゴール』(ダイアモンド社:2001年5月)が、米国での発刊17年目に翻訳されました。550ページの小説仕立てで、読みやすいものではありませんが、米国では、250万部のベストセラーだった。 【生産管理】 工場を事例に「生産管理」での部分(原価低減)の活動と、全体の、利益の関係のトレード・オフを解くものです。生産管理というと、難しそうですが、クールナレッジの、原則化・単純化の方法でこれを解きます。 ▼SCM 生産と流通をコンピュータネットワークで結びつける「サプライ・チェーン・マネジメント:SCM」でも、部分最適を押さえて「全体最適」を図ることが、キーになる。 昨年12月にお届けした、<サプライ・チェーン・マネジメントの焦点>では、部分最適と全体最適を解説しています。The Goalの翻訳の6ヶ月前でしたね(笑) http://www.cool-knowledge.com/0124Supplychain.html できるかぎりやさしく、A4―17ペ−ジ、2万文字で解いたつもりですが、推測では、およそ60%のかたには、?が残ったはずですね。 ▼蛇足ですが・・・ 3時間くらいの講演で、いろんな事例を交え解説すると、80%くらいのかたの理解にまで高まるのですが、まぁそこは仕方ありません。 『ザ・ゴール』の物理学者ゴールドラットですら、全体最適の説明に、550ページを使ったんですから。(笑) ▼NPS トヨタの元副社長で、トヨタ生産方式の原型を作ったリーダーの大野耐一は、1960年代後半に、ニュー・プロダクション・システム(NPS)としての在庫レスで同じことを、説いています。 カンバン方式は、90年代流通の主流の改革手法であるサプライチェーンのプロトタイプ(原型)になったものです。 NPSは、1920年代のフォードの、工場稼動率を重視する大量生産、大量在庫方式(押しこみ販売型)から、受注を起点にする生産(引っ張り生産型)への転換だった。 ■2.SCMで基本的なこと (1)カンバン方式 「下流工程からのカンバン(発注書)で、上流の在庫補充や、生産指示を出す方法:カンバン方式」が、コンピュータネットワークと結びつくと、SCMに通じます。 (2)流通では、 最下流のPOS(店頭販売のリアルタイムデータ)をもとに、展示在庫の補充をし、1個1個のバラ発注、バラ補充をするシステムになる。 (3)さらにこれが、 ・倉庫在庫の最適量維持と倉庫作業の標準化を含む、倉庫管理システム(Warehouse Management System)、 ・最適な輸配送(Routing)計画での運送を行う、輸配送管理システム(Transportation Management System)、 ・生産に必要な、需要数量予測システム(Demand Forecast System) ・生産管理とつながったものが、サプライチェーン・マネジメント(SCM)の全体ですね。 <サプライチェーン・マネジメントの焦点>↓ http://www.cool-knowledge.com/0124Supplychain.html ▼実はユニクロも スター企業になったユニクロも、昨年秋から、ERPを使ったSCMに取り組んでいます。ユニクロの懸案は、中国工場への大量発注の売れ残り在庫の問題です。 今のところ、マークダウン(売価の切り下げ)で捌(さば)いています。しかし同じ店舗で、ある品目を安くすると、売りたい定価の新製品が、思うように、売れないという結果が生じることがある。 【3手法】 これをどう避けるか、ここが利益の焦点です。大きく分けて3手法がある。 (1)「しまむら流」の倉庫引取り〜店舗への移動展示手法 (2)マークダウン商品を専門に販売する「アウトレット店」の方法(量産の国、米国に多い) (3)生産と物流の「リードタイムの短縮」を図って、発注サイクルを短縮し、発注ロットを適量化する方法があります。 本筋は、(3)のリードタイム短縮です。 特に開発MDing(マーチャンダイジング)で、(3)の方法のみでまかないきれない部分を(1)や(2)で補う。 順序を間違えると、大きな戦略のミスをします。戦略の枠組みミスは、日常活動の戦術ではカバーができないのです。ここがとても重要なことです。 ▼e-Market Place SCMを、多くの会社が集まって、それぞれの最終利益を目的にしたWin−Winの協働(Co−Working)で行っていこうとするのが、2000年11月にその内容を解いたe-Market Placeです。 <e-Market Placeの衝撃>↓ http://www.cool-knowledge.com/1129eMP3.html ▼ファブレスメーカー:ネットワーク組織 更に、製品の在庫レスのみならず、工場レス(ファブレス)にまで行くと、瞬く間に世界ナンバーワンになった、「マス・カスタマイゼーション(受注後組立て)」のパソコン販売の「Dellモデル」にまでつながるのです。 http://www.dell.com/jp/ この原型は、「カンバン方式」にある。 パソコンのDellモデルは、有形固定資産や在庫に、一切価値を置かない経営手法です。 Dellで最も価値を置くのが、「顧客との良好な関係」つまり「Customer Relationship」です。店舗より、工場より、在庫より価値があるのが、「顧客との関係性」です。 15世紀、16世紀の「重商主義」に発する資産概念のイタリア会計手法は、もう古い。本当の価値を見誤ります。 【総資本回転率】 小売りでは、優良と言われても総資本(=総資産)の回転率は、現状ではせいぜい2回転。これが、10回転、20回転になるのがDellのビジネスモデルです。 調達と販売のネットワークがそれを可能にした。 総資本回転率は、売上高÷総資本で、使った資本の回収の速度を計る。総資本回転率が高いほど、資本回収の速度が速い。これが、21世紀の経営手法のキーですね。 インターネット第一次ベンチャーは、2000年で終わった。膨大なマネーを使った思考錯誤の結果は残った。インターネットでは、次の、S字カーブの成長の踊り場、つまりチャンスが生まれる時期です。 ▼15年前 15年くらい前、業界ネットワークを推進したとき、SCMという概念はなかったので、NPSの方法を解説したことを思い出します。ちょうどコンサルタントを始めたときでしたから、印象深い。話しが、10年くらいはやすぎたかなぁ。今でも考えはかわりません。 20年前の、以下のコトバは、今こそ新鮮ですね。 【大野耐一】 <「トヨタ生産方式」の発想の原点は、徹底した無駄の排除にあったが、実はその目標に迫っていけば行くほど、「大衆」などという抽象的なカタマリではなく、むしろ一人一人、個性の違った人間像が鮮明に見えてきて、それら一人一人の注文を受けて、一つ一つ異なる品物を作っていくのが本物のインダストリーの姿であることを発見した:大野耐一:『なぜ必要なものを、必要なぶんだけ、必要なときに提供しないのか』(1981年)> ネットワークでは、工場すらネットワークでのファブレス(工場を持たないメーカー)になる変化が起こる。工場という有形固定資産を持つ必要がどこにあるのか?固定費リスクを抱えるだけではないか? そうした、根源的な思考をしてみるべきでしょうね。 情報社会の変化量は、過去の7年分が1年分です。 【濡れぞうきん】 日産は、当然、トヨタ生産方式の内容は、知っていました。ずっと「斜めに眺めていた」。トヨタ方式はタブーで、日産は工場主導でした。無益な対抗心が邪魔をしたのでしょう。2番手特有の「こころ」です。 日産のコスト管理、在庫管理、原価管理は<濡れぞうきん>と揶揄(やゆ)されていた。社員自身がそう語っていた。車の販売の利益率は低く、利益は出なかった。全体不適の組織だった。 ■3.ゴーンの基本手法 カルロス・ゴーンの (1)日産の工場の、閉鎖を含む改革 (2)工場と販売の「同期」と「全体利益」を図る改革は、部分最適から、全体最適への事例になるような改革です。 ▼90年代の、欧州・米国企業の高収益の原因 カルロス・ゴーンのみならず、1990年代の、欧州、米国の企業利益の上昇は、「部分最適から全体最適へ」という考えを理解したうえでの、事業の再構築(Re-Organize)でした。 日本では、まだ80年から90年代の、欧米企業の苛酷(かこく)なリストラの意味が、正当には理解されていない。経営を部分で見るからです。 単に4半期の短期収益目的での首切りやレイオフと見た。そうした面も強い。しかし根底には、部分最適から全体最適への動きがあった。 米国の90年代の流通サプライチェーンも、その一環です。 全体最適を、流通分野に応用(apply⇒application)したものです。 ▼90年代の日本企業の低収益や赤字の原因 日本は、日産などを筆頭に、1990年代はいろんな業界で例外なく、需要に対して、生産力の約30%の過剰を抱えた。 2000年の、日産の工場の稼動率は、53%であった。販売力に比べて、生産力が2倍もあった。 日本の企業全体で言っても、生産力はバブル投資を含んでいましたから、ハイコストなものだったのです。ここにその後11年も残る問題があった。これから、構造改革に入る。そうした時期です。 バブル期の投資は、ほとんど、総資本回転と採算を無視した。製造に限らず、流通、リゾート、観光、文化施設も同じです。 ▼100兆円から150兆円の不良債権の廃墟(はいきょ) 日本の至るところに約100兆円〜150兆円以上の、不採算の廃墟(はいきょ)が残った。 結果は、米国ハゲタカ・ファンドのリップルウッド(長銀と宮崎シーガイアを買った)などが、10分の1の価格で買う。10分の1の総資本に変換すれば、採算が成り立つ。 ハゲタカ・ファンドは、屍肉(しにく)を食い、新しいコスト構造に整え、総資本回転率を再生させる変換装置です。 ▼外科医と精神分析医としてのゴーン ゴーンは、日産の全体を見てそのことが分かった。<リバイバルプラン>は6兆円、15万人グループでの「部分最適を押さえて、全体最適」、つまり、総資本回転率と利益への改革です。 ここが外科医としての診断と手術であり、肉体と筋肉のリストラです。利益を生む組織に、変える。西洋医学手法で病巣を切り取る。 【精神分析医】 精神分析医としての診断は、「ブランド・アイデンティティ:栄光のニッサン」の再生プラン(⇒本稿の第2部)でした。 事業の再構築の部分です。精神の部分。リストラで確保した利益を、開発に向かって再投資する。利益の目的ですね。「気」を再生せる。東洋医学手法でしょうか。 ▼利益の目的づくりの重要性 利益に目的があるかどうか、ここが苦しいリストラを果たすためのポイントです。目的やゴールがないと、リストラは一時的な成果があっても、後は、目的と方向性が消えたカオスに終わることが多い。 【防衛文化から建設文化へ】 リーダシップ理論で言うと、リストラは「防衛文化」にあたるものです。一方、アイデンティテイは「建設文化」にあたる。 <リーダシップをめぐって:7部作の第5部>↓ http://www.cool-knowledge.com/0506Leadership(5).html 企業の再生には、(1)利益の確保、(2)及び利益の目的、この両面が必要。生きる体力の回復(リストラ)と、生きる意味(アイデンティティ)につながる<やる気>です。 企業の改革にあたって、決して忘れてはならないことですね。 外科的手法(リストラ)と精神分析手法(アイデンティティ) ■4.部分最適と全体最適を単純化すると さて課題の「部分最適と全体最適」です。これは、今後の日本企業の改革手法で、根幹になると思います。 要素を絞って、単純化して、説明します。本質の理解はこれで十分です。暗算の算数を使うだけです。丁寧にたどってください。 ▼単純化した計算 <1.工場部門> 【コスト構造の前提を以下とします】 (1)月産製造能力 100台 (2)引き渡し価格 150万円 (3)1台当たり部品・資材 100万円 (4)工場の固定費 3000万円 【標準原価計算】 (1)100台生産のとき 1台当たり原価:100万円+3000万円÷100台=130万円 100台生産では、1台当たり20万円(150万円−130万円)の工場部門の未実現利益が出ます。 (2)60台生産のとき 1台当たり原価:100万円+3000万円÷60台=150万円 60台生産(60%稼動)で、工場の損益分岐点(BEP)です。 (3)40台生産のとき 1台当たり原価:100万円+3000万円÷40台=175万円 40台生産(40%稼動)で、1台当たり25万円(150万円−175万円)の工場部門の赤字です。 この損益分岐点の構造があると、工場は必ず60%稼動以上を目指します。それが「工場の部分最適」、部分の正義です。 <2.販売部門> 【コスト構造】 (1)販売部門の販売力は、月間40台とします。 (2)販売部門からの顧客への価格は175万円とします。 1台当たりの販売マージンは25万円です。 (3)販売部門の固定費が、月間800万円とします。 【利益】 40台売ったときの、販売部門は 25万円×40台―800万円=200万円の利益です。 <3.工場部門+販売部門の合計利益> (1)40台生産して、顧客に40台売ったとき 工場部門は1台あたり赤字25万円×40台+販売部門黒字200万円=800万円の赤字になる。工場の固定費が高過ぎるためです。 (2)60台生産して、販促費(インセンティブ)を積み増し、60台を売ったとき 工場を損益分岐点の60%で稼動させ、販売部門では販売力より5割増しの20台余分に売るために、ディーラーに1台当たり20万円の販促費(インセンティブ)を使ったとします。 工場部門の損益ゼロ+(販売マージン25万円―インセンティブ20万円)×60台−販売部門固定費800万円=500万円の赤字 無理をして、50%余分に売っても、赤字は変わらない。しかも、無形価値(intangible asset)のブランドイメージ、言い換えれば最も大切な顧客との関係性の資産は劣化する。 ▼単純化した問題と対策 工場の生産能力(100)に対して、販売の実力(40)が弱すぎるため、全体のコスト構造変革(リストラ)を行わない限り、赤字が続く。90年代の日産でした。「構造的な赤字」といいます。 問題と対策の柱は3つです。 (1)工場部門の固定費が高過ぎる。 ⇒余剰生産力の、固定費の30%以上のカット (2)部品・資材コスト(変動費)が高過ぎる ⇒部品・資材コストの20%合理化 (3)販売力が弱い ⇒ブランド・アイデンティティの再生(第2部)↓ http://www.cool-knowledge.com/0613nissan-Ghosn((2). html 変動費:生産量や販売量に比例して増加する経費を言います。 (部品・資材の仕入れや、製品の仕入れ、販促費など) 固定費:生産量や販売量に比例せず固定的な経費を言います。 (設備経費や人件費など) ▼「標準原価計算(全部原価計算)」が含む問題 固定費があるときは、固定費を吸収するだけの生産や販売が必要になる。これが、損益分岐点(BEP: Break Even Point)です。 本例では、引き渡し価格が150万ですから工場では60台の生産がBEPになる。 100台生産=標準原価 130万円・1台(20万円の未実現利益) 60台生産=標準原価 150万円・1台(損益ゼロ) 40台生産=標準原価 175万円・1台(25万円の実現赤字) 100台生産すると、販売部門の販売力との差の在庫(60台)が残るが、1台当たり20万円(合計2000万円)の、見かけ上の利益(未実現利益)が、工場部門で出た計算になる。これが標準原価計算。 しかし、現金(キャッシュ・フロー)で言えば、在庫(60台とします)の原価分(7800万円―設備の減価償却費)が支出され、現金が減少したことになる。 現金は減った(又は、負債が増えた)が、工場の「未実現利益」が会計上は出た状態ですね。 現金や負債の増減の観点だけで言えば、税法上は資産と見なされる在庫費用も、損金と見なされる経費も同じです。 在庫代金も人件費の支出も、同じ現金の減少です。 在庫や設備が将来価値を生む時代は、これでも良かった。 在庫や設備が価値を生まない時代は、過去の標準原価計算手法は問題がある。スループットで見なければならない。 (注)スループット会計は、以上のように、キャッシュフローの観点に立って、「実際に最終顧客に販売ができた時点」で、 ・売上収入―直接原材料支出=スループット ・スループット―すべての業務経費=キャッシュフローとする方法です。 (注)製造の労務費も製造原価に入れず、一般管理販売費を含んで全てを業務経費に含む。 ▼そして10年 全体不適の状態が<10年も>続けばどうなるか? 日産は、1兆円以上の借り入れ増で補った。借入れができなければ資金ショートで倒産だったでしょう。ルノーからの6000億余の資金導入で救われた。 工場も本社ビルも正常な外観の中、15万人の各部署は、部分最適で一所懸命ですが、全体では恐るべきことが起こっていたのです。 <セクショナリズムの最大の問題は、だれもが、自分こそが正しいと信じていることです。だれもがいい気分でいるということです>という状態。部分の自己正当化の心理構造があるとゴーンは見た。 今、日本にゴーン改革前の日産に似た企業がとても多い。 しかも事実上の粉飾を含む会計操作で、損失を隠しているところが多い。150兆円と言われる不良債権の実態が、明らかにならない理由です。 以上、単純化した計算ですが、部分最適の思考の怖さが理解できましたか? 実際は、資材調達〜生産〜販売までの、流れ図の各工程で、部分の最適と、全体の最適が矛盾する事態、つまり全体不適が、至るところで起こっていますね。 ■5.有形資産と在庫の変質:90年代は資産の疑わしさの発生 会計上の「有形(固定)資産」や「在庫」というものの本質は、部分最適と全体最適の矛盾の結果、生じていると見ることができる。 有形資産は、1年でみれば転売できる資産でしょうが、10年、30年で見れば、減価して価値がなくなる経費です。過去に資産とされたものを全部、経費としてみる視点が、今必要なのです。 ▼全体最適のトヨタ手法の本質 トヨタ生産方式は、 (1)最終工程(つまり顧客受注)から出発して、工程を逆に見て、(2)最終販売にバランスをとって工場と在庫と流通の全体最適(利益の最大化)を図り、 (3)在庫、工場設備、人員を含む、全部の無駄をカットする方法です。 サプライ・チェーン・マネジメントも同じ思考方法です。 最終販売に効果がないものは、全(すべ)てを、無駄とする。 ▼日産の問題はどこにあったか? 部品・資材購買、製造、販売、開発が、それぞれ部分最適で行動したためです。縦割り組織のため、全体体最適を計算する「キャッシュフロー」の増加の観点がなかった。 一旦(いったん)は計上された見かけ上の利益は、在庫のカタマリに含まれ、販売では値引くから、最終的に赤字、資金不足がでる。 ▼全体最適=キャッシュフロー最大化 全体最適は、在庫を含む有形資産の無駄な部分を、全部カットし、稼げるキャッシュフローを最大化させる経営を行うのです。 キャッシュフロー経営は、1980年代までの日本の経営のなかには、組みこまれていなかった。損益経営、及び、売上至上主義の、シェア経営だったのです。 ※ここに、日本企業のメインバンク・システム=借入金依存経営が、深く絡んでいます。利益主義でなく、シェア主義の根源。これはこれで、別原稿を準備すべき内容があります。 ▼今、会計上の資産の疑わしさが生じている 80年代までは、在庫は売れるとの前提だった。土地・建物は、上がるとの前提だった。有形資産は価値があったのです。 そうでないなら資本を眠らせ、金利がかかり、利益を減らすコストですね。過去の資産は、今、その価値が、全部疑わしい。これはデフレという一時的なことではない。ネットワーク化による、もっと根底的な変化を含んでいるのです。 会計上の資産、つまり、バランスシート(貸借対照表)の左側に記載される資産(流動資産と固定資産)のすべての項目と内容を、根底から、疑う必要がある。 問い:各資産は、今以上の評価や効果を生むものかどうか? ゴーンは、それをやった。実際は53%しか稼動できない工場を抱えていて、将来どうなる? ▼工場の閉鎖とリストラの判断 ゴーンは、53%の稼動率(1999年:2直体制)でしかなかった生産部門を放置して、固定費の垂れ流しはできないと判断した。村山工場を含む工場閉鎖を決め、稼動率を77%に(2002年:2直体制)まで高めることを決定した。他に選択肢はないと言った。 200人のクロス・ファンクション・チーム(CFT)は、そのために30%の工場の閉鎖が必要と計算した。 ■6.リーダーの戦略的決定 日産の2001年はまず利益を出す。そこからでなければ再生はできないとの、戦略的な判断による決定です。ここがトップに必要なリーダシップです。大きな改革では、(1)まずAをやる、(2)BはAができるまで無視しろと言わなければならない。「Aも、できればBも」のandでは、改革はできないのです。ここが改革や新しい商品開発で間違える部分です。 ▼1年前の計画書 あれもこれもと、二兎(にと)、三兎を追う目標を作り、事態の改善を果たせない。これを10年も繰り返し、計画とはそういうものだというあきらめになる。改善活動が無駄になる。これが日常でしょう。これが、約26年間の日産だったと見ていい。 ▼できないことの言い訳になっている計画書 計画を作る作業が、実際は現在のマズイ事態を説明し、将来に引き伸ばす言い訳になり、実行の裏づけがない。そうした計画書が多い。1年前の計画書を引っ張り出してみて下さい。どんなに実行されていないことが多いか。1年前の計画書の「反省」、できなかった原因の確定から開始すべきなのです。 ▼選択と集中ということの意味 AもBもできているなら、ぎりぎりの改革が必要な<桟橋が燃えている>事態にはならなかった。AもBもできていないから、AかBかに集中する必要がある。ここがコツですね。 【集中の結果が、一石二鳥になることが多い】 しかも、そのAかBかが根底の原因であるときは、AかBかに集中すると、AもBもできてしまうことも多いのです。このとき、一石二鳥の効果が生まれる。改革手法の要諦(ようてい) 【クロネコヤマトの一石二鳥】 戦略的な決定では、宅急便を開発したクロネコヤマトの小倉昌男氏の<サービスが先、コストはあと>の決断方法です。サービスが先と決めたことが、一石二鳥の効果を生んだ。逆に、コストが先と決めたら、両方の成果を失ったのです。↓ http://www.cool-knowledge.com/1002senryaku.html なぜ宅急便では、<サービスが先>が一石二鳥になったか? 翌日宅配のサービスが潜在ニーズだった。最初は赤字でもそれをやった。それで客が増え、その結果、宅配の密度が上がり、倉庫、運送の固定費コスト割合が下がったからです。 (第4部へ続く) (1)著者へのひとことメール yoshida@cool-knowledge.com ※友人、知人、同僚、部下、上司、取引先への転送は自由です。 (2)クールナレッジ掲示板(BBS)で投稿 http://cgi.members.interq.or.jp/venus/yoshida/BBS/light.cgi (3)WEBで、他の考察を体系的に http://www.cool-knowledge.com 送ったマガジンを含め、後日、修正と付加の説明を加え掲載 |
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