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鋭利なメスをもつ精神分析医:カルロス・ゴーン:第4部

         ザ・ゴールのゴールドラットが発案した「制約理論」は
         経営の利益改革の、中核となる手法
         単純化を図って、その実践方法を解く

2001年6月18日(Vol.53)<50号記念>:経営分野
    鋭利なメスをもつ精神分析医:カルロス・ゴーン(4)
      (第4部:制約理論の理解と実践)


ビジネス知識源:良質な経営・IT・ビジネス知識の提供を目標に
  
  Systems Research Ltd. chief consultant吉田繁治
著者へのひとことメール⇒  yoshida@cool-knowledge.com


こんにちは、吉田繁治です。メールマガジン開始50号記念のカルロス・ゴーンのシリーズも、今回が第4部です。<佳境>に入ります。
カルロス・ゴーンの方法が、多くの人の関心を惹(ひ)いていることが、いただく感想、意見で伝わってきます。

今回は、とても重要な、「全体利益改善のメソッド」を解説します。

素材はゴールドラットの「制約理論」です。ゴーンの日産改革の手法には、(彼は一言も言いませんが)「制約理論」がある。私にはそれが見えます。本稿では、制約理論のエッセンスを示します。

カルロス・ゴーンを素材にする<50号記念シリーズ>では、この「制約理論(TOC:Theory of Constraints)」を、17ページで明解に紹介したかったのです。短く整理するのが、ちょっと大変でしたが。

TOCについては、SCMのセミナー等で聞かれたかたも多いと思います。しかし十分な理解となるとどうでしょう。実践方法はどうでしょうか。応用ができなければ、分かったとは言えない。

クール・ナレッジの方法である、単純化・原理化・原則化の方法で、解きます。あなたもゴーンになれるかもしれません(笑)

まぁこれはジョークです。でも・・・40%くらいは本気です。


目次 <項目から内容を推定する3分>

Vol.53 鋭利なメスをもつ精神分析医:カルロス・ゴーン(4)
        (第4部:制約理論の理解と実践)

1.もともと単純なことが、複雑なことになる不思議さ
2.根強い部分最適のワークスタイル
3.ボトルネック工程の問題(以下重要)
4.制約理論を使った、最終収益のレベルを上げる5ステップ
5.たった1つの工程が全体の成果を決める怖さ
6.制約理論のスマートさと、改革の障害



要約<インテリジェンスの3分:要約から内容の読み取りを>

採算が取れるようにすることが、構造改革。しかし世間は「採算」とはなにか?で複雑な議論になっている。採算って何ですか?

ほとんどが「与えられた部分の仕事のみに忠実」なワークスタイルになって、成果を問われると、「自分は上から言われたことをやっただけ」だとなる。みんなが、部分の採算に囚(とら)われている。

ボトルネックと制約理論を理解すべきです。部分が集まったときの、ゴール⇒全体成果(スループット)が問題。しかし理解に至るには、とても丁寧(ていねい)な論証が必要です。

制約理論を使った、全体最適のレベルを上げる5ステップ。ここに、部分最適がおちいるトレード・オフの罠(わな)の解法がある。

「相互依存関係にある業務」、つまりシステム(系)では、制約条件となるたった1つの工程(ボトルネック)、又は、たった一人の人の処理能力が、全体の生産性と成果を決めてしまう。

制約理論のスマートさと、改革の障害。現場の抵抗は予想外に強い。しかし解法は単純。要は教育から。ゴーンが取った解法でもある。

               <Vol.53 Summing up>

<さぁ、ここから知のジャーニーへ>

1.もともと単純なことが、複雑なことになる不思議さ

単純なこと

国でも企業でも、大きなところも中小も、構造改革は単純です。要は「採算が取れるようにすること」

何のために採算がとれるようにするか?正当にがんばった人が公正(Fair)な成果を受け取れるようにするためです。これが構造改革です。採算がとれなければ、分配できる成果もない。つまり消耗で終る。バブル期に、採算の思考が、壊れたのです。

公共部門の構造改革の問題

政府や公共部門は「採算」という考えが欠落。採算を取らなくも倒産しないから。とどのつまり、税金を上げるか、国債や地方債の負債の価値を減らすインフレという手段がある。こうしたことを、がんばった人に痛みを与える「無責任」と言います。(今のところ、インフレ、つまりマネー増発に抵抗しているのが日銀です。このテーマも取り上げる必要がありますね。)

採算を取らないことは、最高ランクの無責任なのです。
「国富論」のアダム・スミスを俟(ま)つまでもなく。

日本の官僚は法や制度を作れば解決すると思っている法学思考です。法学思考が、国を潰(つぶ)すかもしれない。もう、ギリギリの地点にまで来ました。採算思考、最終成果思考が必要です。

しかし民間企業も

民間企業には採算という考えはある。

問題は「採算」とは何か?です。ここが混乱。みんなが「私の仕事は採算が取れている」と言う。全体は赤字または利益が少ない。なぜこんなことになるのか? 70%の法人が赤字です。

総スカンを食った、私の20年前の経験

20年以上も前、覚えたての「20:80の原理」を使い、300人の社員のうち60人は採算がとれているが、240人は赤字社員と言った。みんなから大変な不評を買い総スカンを食った。方法が青かった(笑)

みんな「自分だけは採算が取れている」と思っていたのです。
制約理論を発明したイスラエル人:ゴールドラットは言う。
<変化に対する抵抗は、マネジャーと現場にあることが多い>

マネジメントの原義は「The Goal:目的に向かって思い通りに動かすこと」ですが、多くの会社で部分マネジメントはあっても、全体マネジメントがすっぽり欠落してしまっている。

蛇足ですが、文化を規定する風土論

カルロス・ゴーンの祖父はレバノン人です。レバノンはイスラエルと近い。耐えられなくなくなるような明晰さを感じさせる地中海の空ですね。(大著「地中海」クローデル・・・)

ゴーンとゴールドラットは、文化的相互浸透があるのかもしれない。ギリギリの選択のときは、利害ではなく、人間を文化が支配します。

日本海の空はどうでしょう。憂愁? 以前、能登半島で講演の前に、港の埠頭に立ち、鉛色の海と空を眺めた。沸きあがるのは演歌(怨歌)でした。「怨(えん)」の唸(うな)りです。田中角栄的エネルギー。真紀子が受け継いでいる。和辻哲郎ならずとも、風土が文化を規定するのは間違いない。

角栄は娘を見て言った。<このじゃじゃ馬を誰も統御できない。統御できたら、そいつは傑物>

縄文的な「怨」が肯定的には「憧れ」になり、「モデルや方法」が見つかって、合意された方向をもつとき、日本人は強い。これを、世界が恐れる。その理由で、日本に蓋(ふた)をしたのが米国です。安全保証条約の意味ですね。この国はファシズムへの傾斜がある。

一方、「怨」が、自尊または自虐に向かうと、大新聞の論調になる。
11年も経(た)った不良債権問題を複雑にしているのは、大銀行への「怨」です。 日本海に囲まれた韓国も「怨」が強い。約10年間で交替する自尊と自虐のサイクル。
精神分析では、自尊と自虐、そして暴発は同じ根でしたね。



■2.根強い部分最適のワークスタイル

部分最適

前回の第3号では、日産がおちいっていた縦割り・ピラミッド組織の「部分(又は部署)最適」と、全体利益を目的とする「全体最適」の矛盾を、明らかにしました。

部分の囚人

仮に自分や自分の部署が赤字だとしても、心の中では「言われたことを、真面目にやった、何が悪い?」と思う。こうして「部分の囚人」になっていて、本人は、気がつかない。

日産に限らず日本人の伝統的行動文化では、「イエ、部署に忠実」であることが正義。官僚の省庁至上主義と同じ。組織の全体目的、つまり「The Goal」を見ない。

コミットメント(契約)のワークスタイル

ゴーンのリーダシップは、ゴールを見たコミットメントです。「今やるべきこと、つまり日産が利益を出すこと、営業利益率4.5%」にコミット(契約)する。はっきりした業務契約にみんなが驚いた。

当たり前のことをやる人が稀有(けう)な逸材に見える

ゴーンの行動様式は、日本人にとって、日産の社員にとって初めて目にするものだった。改革の中核になったチームのリーダーは、<入社して約20年になるが、こんなに強い動機付けを受けたのは初めてだった。・・・経営者として世界に稀有(けう)な逸材(いつざい)だと思った>と言った。

経営者が利益を約束し、利益責任をとるのは、「常識」では当たり前でしょう。それが「逸材」に見える今の日本の経営は変ですね。

日本に200万人以上もいる社長も、1000万人いるであろう幹部も多くが変になっている。(実は根は金融から来ている⇒第5部)

さてここから、「正常」に戻るための「制約理論」へ


3.ボトルネック工程の問題

「標準原価計算手法」が含む、部分最適の誘因

製造は、モノを加工し、製品としての付加価値をつける。加工の各工程で、使った労務費や製造間接費(減価償却費等)を、産み出された価値として原価に加える方法、つまり標準原価計算(全部原価計算とも言う)がとられた。

原材料が1万円で、A工程の加工を経ると、加工費が付加価値になり、11000円と評価され、B工程を経ると12000円に評価される。

各工程で加工にかかった経費は加工原価として、仕掛かり品や製品在庫の価値に付加される(これが付加価値)

この評価方法は、部分最適(=過剰生産)への誘因を含む。30%の余剰設備があって、評価が生産への誘因を含むとどうなるか?
最終利益(Goal)を忘れた増産、シェア至上、乱売になる。
これが日本の生産の特徴で時期によって強みにも弱みにもなる。

A工程を遊ばせるより、後のために、あらかじめ加工をしておいて溜(た)めたほうがいいと判断する。これが、工程間の在庫になる。

工程を、流通工程として、マクロから見ると

工程を工場外まで見れば、メーカーと店舗の各部分の不適(=過剰在庫)になっている。サプライチェーンの全体観点です。

メーカーは1個1000円で店舗に1000個売る。店舗はそれを仕入れて1500円の売価をつける。30%は売れ残る。値下げする。返品する。又はメーカーはリベートを店舗に払って処分させる。過剰な生産(=在庫)の本質は、生産と流通の部分最適の結果なのです。

今、日本全体で30%が供給力過剰です。
無駄だらけで、結果が赤字や低収益です。

価格弾力性があるかどうかの判断(※この項重要)

価格戦略で重要な、導きの概念を示します。
それが「価格弾力性」、経済学が準備する、操作概念です。
これで、いつも議論が混乱する価格問題が、すっきりする。

【価格弾力性が強い商品】

価格を半分にすれば、需要数が3倍、5倍に増える商品を、価格弾力性がある商品やサービスという。価格弾力性が大きな商品は、価格を下げることが、全体需要を増やす。

(例)ユニクロのフリースは、最初のころの1900円は価格弾力性が大きかった。それが次第に小さくなってきた。マクドナルドの半額バーガーは、今はまだ価格弾力性があります。中年が増えた。

価格弾力性が弱い商品】
価格を30%下げても、近末来の需要数が10%〜20%しか増えない商品は、需要が飽和していて、価格弾力性が弱くなったものです。こうした商品は、新しい付加価値をつけるか、サービス価値をつけることが有効な戦略になる。

(例)パーソナルコンピュータは99年以降、価格弾力性が小さくなっています。付加価値&サービス戦略の時期です。
あなたの業界の商品やサービスは?・・・議論が必要ですね。

価格弾力性から「制約理論」に戻します。

制約条件(Constraints)の問題

ゴールドラットが説いた「制約理論(TOC: Theory of Constraints)」、これは、今後の生産性改善、利益拡大の有効ツールです。
以下単純化を図り示します。どうか、丁寧に読むこと。

ABC工程からなる業務の事例】

            原材料費を1個当たり1万円とします
    (処理能力) (1日当たり処理費) (1個当たり処理費)
A工程  120個    12万円      1000円
 ↓
B工程   80個     8万円      1000円
 ↓
C工程  100個    10万円      1000円

(1)A工程は120個の処理能力(Capacity)。1個当たり標準処理費は1000円で、仕掛かり品の価値は、原材料の1万円に加工費1000円が加わり、1万1000円になる。A工程の最適は120個の加工です。(処理費は、短期では変動・固定を区分しません)

(2)ところが、A工程と「依存関係」にあるB工程は80個の処理能力しかない。A工程がコスト最適の120個を送りこめば、B工程の処理能力を超える。余った40個は仕掛かり在庫として40個ずつ増加する。これは大変です。

(3)そこで、A工程が、B工程の処理能力の80個の加工に絞れば、能力の33%に遊休が出る。1個当たり加工費は12万円÷80個=1500円になり、標準処理費の1000円が50%も上昇する。

(4)C工程では100個の処理能力があるが、B工程から80個しか来ないから、最大で80個しか処理ができない。したがって、ここでも1個当たり1250円の25%増しの処理費になる。

そうなると、最終結果はどうなるか。
計画では各工程の1個当たり処理費は1000円で、原材料費1万円+3000円=1万3000円の原価のはずだった。

結果は、A工程の処理費1500円、B工程1000円、C工程1250円で、1個あたり処理費の合計は3750円になり、原材料費を含む原価は、1万3750円になった。

B工程が80個で、処理能力が低いのが問題です。
これを「ボトルネック」、一般概念にして「制約条件:Constraint」と言います。

「制約工程の制約条件を放置したままででは、全工程の成果(スループット)」は上がらない。これが原理です。

トレード・オフの発生

A工程の部分最適】
ボトルネックの制約条件のままで、原価を下げようと生産すれば、A工程は120個をB工程に送りこむ。1個あたり処理費が1000円になるA工程の最適です。

【工程間在庫】
しかしこれではAとBとの間に、40個の仕掛かり在庫が積みあがる。つまり、余剰在庫の原材料費の40個×1万円=40万円が、余分な原材料への支出になり、毎日増え、在庫資金として眠る。

トレード・オフ:意味は前号】
A工程の処理を全体最適の80個に押さえれば、処理費は計画の1000円から、50%も上がって、1500円。
処理費用と、在庫資金の間に「トレード・オフ」が発生します。
こうした議論が、現場の工程間で、縦割り組織で、火花を散らす。

さて、ここでどうするか? すっきりした解法は、なかった。
ここで登場するのが、「制約の概念」を使った改善方法です。


4.制約理論を使った、最終収益のレベルを上げる5ステップ

制約理論(TOC:Theory of Constraints)】
ゴールドラットは、「継続的な」改善の原則を、たった5項目の、改善ステップに単純化した。
(彼の発想の根は、『ソクラテスの対話編』(プラトン)です)

全体最適改善の5ステップ

第1ステップ】⇒制約工程(ボトルネック工程やボトルネック作業)の制約条件を見つける。

上記事例では、B工程の80個の処理能力が、全体工程から見たボトルネック、つまり制約工程でしたね

第2ステップ】⇒制約工程を、最大パフォーマンスに維持する。

つまり、ボトルネック工程を最大の稼動状態にまで持っていく。事例では、B工程の日量80個処理の最大能力から、常に落ちないように維持する。制約工程では、このことが重要です。

第3ステップ】⇒非制約工程を、制約工程に従わせ(同期させ)る。

上の事例で言えば、A工程もC工程も、(1)ボトルネック工程のB工程の、80個の処理に合わせて、(2)統計的分散(偏差)をカバーするバッファ(安全在庫)を除き、(3)工程間に在庫が余分に溜(た)まらないようにする。

これをB工程に「同期:シンクロナイズ」させると言います。シンクロナイズの概念を、(1)店舗POS(需要の制約条件)を起点に、(2)輸配送スケジューリング、(3)引っ張り型生産スケジューリングの、ネットワークで使うのが、サプライチェーンの本質です。そう、脚を綺麗に揃えるシンクロナイズド・スイミングと同じです。
SCMでは鼻はつまみません。全体利益をつまむ。

第4ステップ】⇒制約工程を改善して、制約条件を取り除き、能力を高める。

上の事例では、工程の処理能力80を、C工程並の100にまで高める改善、能力アップを行い、それができたら、A工程並の120にまで高めるための、投資と改善、スキルアップを行う。

第5ステップ】⇒B工程の制約条件が改善されたら、次の制約条件を見つけるための(1)に戻る。これで「改善」が組織の中に組みこまれる。

第5ステップが重要です。改善を熱病のように1回はやるが、後はキレイに忘れ、半年後は惰性に流す会社が、とても多い。

それでは効果は一時的、次のボトルネックが生じたままです。
対策は改善の5ステップを、組織の日常活動の中に、「プログラム化」して組みこむことです。(ボトルネックは次々に生まれる)

【小声で言います・・・】
セブン・イレブンでは、店舗の発注処理の「質」がボトルネックだった。鈴木敏文はGOT(グラフィカル・オーダリング・ターミナル)を用い、全発注の時、「本部が作ったグラフを見なければ発注できないようにした」。これが情報利用のプログラム化です。彼の秘密。

応用

業務フロー(流れ)図が描けるすべての業務】
全体最適での生産性改善の「5原則」は、業務フロー図が描けるようなもの、物流センター、営業・販売工程、事務作業、商品部、ソフトウエア開発工程など、すべてに適用が可能です。

相互依存ということの理解:重要】
A工程の作業が終わらなければ、B工程に移れないような業務を、「相互依存関係(又は従属関係)」にある業務と言います。

会社の業務は、全工程を一人でやれるものはないから、すべてが、他の人や部署と相互依存の関係にあると言えるのです。(仮に個人業務でも、長い工程がある)

企画や提案のケース】
企画・提案等で、制度上、部門長の決済が必要なとき、部門長の決済とスタッフの提案に、相互依存があると言えます。

スタッフが、いい企画や提案を出しても、部門長の決済にボトルネックがあるときは、多くの企画や提案は無駄な在庫になる。

部門長の「未処理」の引き出しに、企画や提案の在庫がたまるだけになる。在庫がじゃぶじゃぶたまった状態です。
逆のケースもある。スタッフの提案力又は提案の質に、ボトルネックがあるときも同じです。

このとき、スタッフや部門長は、仕事workをしたと言えるか?
(1)「就業」はしたかもしれない。就業給部分はもらえる。
(2)「成果」を出す仕事はしていないのです。

こんなことがしょっちゅう起こっている。会社は、改善点だらけ。会社全体ではコストの無駄、利益の消滅です。逆から言えば、利益は「限界利益」まで、無限に出せる。



■5.たった1つの工程が全体の成果を決める

以下は重要です。知ると居たたまれなくなる(笑)

「相互依存関係にある業務」では、(怖いことですが)制約条件となるたった1つの工程(ボトルネック)、たった一人の処理能力、つまり速度が、全体の成果(スループット)を決めてしまう。

このことは、何を意味するか?
先程の例でいいます。ゆっくり、注意深く、読んでください。問題解決の視界が開ける。「制約理論とスループットの考え」を理解すればゴーンになれるとまでは言いませんが、部分原価計算の伝統的会計では見えない、有効ツールが見えてくる。

まず予備概念の「スループット」の理解

「スループットタイム」はシステム関係の人にはおなじみの用語です。入力データが、CPU(中央演算処理装置)で処理をされ、ディスクのデータを読み、又は書きこんで、結果が出力されるまでの時間です。「スループット」といえば、一定時間の処理量(成果の量)です。

through-put: 
the amount of work , materials etc, that can be dealt in a particular period of time(Longman).
「一定時間で処理される仕事や素材等の量」これが日常的な意味です。
理解したら、つぎへ進みます。

たった1つの工程が全体のスループットを決める(重要)

A工程⇒B工程⇒C工程の事例:再掲】

            原材料費を1個当たり1万円とします
    (処理能力) (1日当たり処理費) (1個当たり処理費)
A工程  120個    12万円      1000円
B工程   80個     8万円      1000円
C工程  100個    10万円      1000円

最大パフォーマンスでの処理コスト】
A⇒B⇒C工程の最大処理能力は、B工程が制約工程ですから、日量で80個。コストは12+8+10=30万円です。1個当たりコストは、30万÷80個=3750円です。

原価は原材料費1万円+処理コスト3750円で13750円。
(顧客への売価は2万円であると仮定します)

B工程の処理コスト
B工程では、1個当たり処理の「部分コスト」でみると、8万÷80個=1000円です。B工程が産む1000円の付加価値は、全体から見れ3分の1に過ぎない。だからB工程は1000円分である、普通はこう考える。(部分の囚人思考)

ここからが、たいせつなところです。

制約工程が、全体の成果=スループットを決める

B工程は制約工程です。B工程で1個分の処理量が減ると、1個の商品が完成しない。1個の商品の売上(2万円)が失われるのです。1000円の付加価値の消滅ではない。(スループット思考)

B工程の処理が1個減ればA工程とC工程の能力を、無駄にする。A工程は120個まで、C工程は100個まで付加費用はない。
(すべての内部コストは、短期で見れば固定費です)

発見された原理】
「一番弱いB工程が他の全体のスループットを決める」
B工程以外が、がんばるほど、工程間在庫が増え、コストは増加する。

B工程の、部分処理経費(B工程での付加価値)は、1個1000円ですが、B工程の1個が、その20倍の2万円の成果(6250円の粗利益=成果=スループット)のありなしを決めている。

以上が全体の視点です。ABCの各工程の「囚人思考」ではない。全体成果、つまりスループットの視点。

制約工程の重要さ】
こうしたことは、全体改善(利益改善)の観点からは、どうなるか?
たった1つのB工程の改善を図ることが、他の工程の生産性上昇と、顧客への売上を、直接に拡大することになる。

逆に、B工程で稼動低下や能率障害が起これば、直接に、今日の全体成果(収益、スループット)が減る。

実際の現場では?】
実際は、どの工程も最大パフォーマンスの維持はできない。B工程の最大能力が80個なら、平均ではその80%、64個がせいぜいでしょう。そうなると収益の機会損失は、ますます大きい。
(トラブル、不良品、欠勤、意欲、バイオリズム、予想外の事態、クレームの発生、他の業務の侵入:以上の統計的分散)

これで、明確に分かったでしょうか?(再読)

<たった1つの制約工程が全体の成果(スループット)を決める>
これを、胆(きも)に命じること。
制約理論を、映像化し、ありありと理解できている人は、日本のビジネスマンでは、まだ、0.05%もいないでしょうね。

制約工程(ボトルネック)の原理

制約工程の原理は、上下の縦の工程、横の工程の「相互依存関係」のすべてに通じます。工場だけではない。流通も、事務作業も同じ。

他の工程(又は部署)ががんばっても、無駄な作業や未処理の在庫が溜(た)まるだけになる。スループットは上がらない。
集中改善すべきは、ボトルネック工程なのです。

(注:重要)在庫とは、形のあるものだけではない。最終処理が行われていないものすべては在庫です。最終処理に至っていない企画書、伝票、クレーム処理、明日やるべき作業、計画も、すべて在庫。事務作業は「情報作業(ビル・ゲーツ説)」として工程解析するんです。
(別稿で、「業務の在庫論」の展開が必要でしょうか?)

ボトルネック工程の集中改善】
改善、能力拡大、要員増加、機械投入すべきは、ボトルネック工程なのです。ボトルネック工程に気がついていないと、どうなるか?

「非制約工程」でのコスト垂れ流しが大きくなるだけになる。
理由は? 全工程の成果(スループット)の制約原因を見ないからです。みんなが頑張るが、頑張る結果が集まってコストの拡大です。

最終成果(スループット)に至らない未処理の仕掛かり仕事、未処理の在庫が増え、全体工程のカオス、JOBの待ち行列が増すばかりです。こうして、すべての会社は「見えない未処理在庫」だらけです。利益はいくらでも出せる、ということが分かりますか?

システムという見方】
ボトルネックは、システム(系)に共通の性質です。インターネットで、「サーバーマシン」と「クライアントPC」の能力が高くても、「ネットワーク回線」の速度(スループット)が遅ければ、回線で、ネットワーク全体のパフォーマンスが制約されます。

このときPC(パーソナル・コンピュータ)の性能を上げるための買替えではなく、ボトルネック(制約)になっているネットワークの回線速度を上げるべきなのです。それが合目的(整列)の行動。

PCを高性能にしても、自己満足(嗜癖)。成果(スループット⇒目的⇒Goal)の観点ではコストの無駄、ハイコスト化です。

制約理論というと難しく感じます。でもとても日常的なことでしょう? 無限の応用ができます。工程が単純化できない?大工程(分類)、中工程、小工程の3階層に分けて、描くことです。

キーワード】
・相互依存関係(業務の工程流れ図=フロー図)と
・ボトルネック(制約工程の制約条件)です。

制約理論は、業務改善、成果と利益、つまりスループットを上げるための「全体」の業務改善に有効です。
ただし、業務流れ図と制約条件の判断を間違えれば、混乱です。
フロー図が描けない人も多いなぁ。(95%くらいでしょうか)

(競争文化の米国では、最近は2年毎に知識とスキルのブラッシュアップと、入換えをしないと生き残れないという人が増えた。ところがこの国では、ブラッシュアップを怠っている人が多い。情報時代は体力と忠誠のみではない。そういう理由で、ソニーは社内大学、ソニー・ユニバーシティを作った。いよいよ知の時代へ。「自己投資」が必要ですね。これがクール・ナレッジのミッション第1項)


6.制約理論のスマートさと、改革の障害

You're smart!

ゴールドラット理論がスマートな点は、ボトルネック工程だけの改善に集中すれば、全体効率が上がって、すぐに成果(利益)が出ることです。

  ・即効性がある。
・単純である。
  ・対策を1点に集中できる。
  ・継続的な改善ができる。

本当の原理は、単純で数式のように綺麗(きれい)です。

制約理論には、次々にボトルネック工程を発見し、改善を加えることが、継続的な生産性の上昇になり、全体工程の成果を上げ続けることができるという「戦略性」がある。

事実、制約理論を使った改善は、(1)多くの事業所で、(2)少ない努力で、付加コスト最小で、(3)2ヶ月〜数ヶ月という短期間での生産性上昇と、利益の成果をあげた。

ゴールドラット自身が、成果にびっくりしたと言います。
(The Goalを書いた後、実は、彼は落ちこむんです。理由は?)

しかし、制約理論」を現場に理解させるには、彼は苦労した。

西欧でも、アメリカでも、みんなが分業で「部分思考」です。
しかし西欧とアメリカには、一握りのスーパーエリートがいる。
ゴーンは、私の見るところ、制約理論の実践者(プラグマティスト)ですね。

ゴールドラットが、『The Goal』の日本語への翻訳を、17年間許さなかった理由を、本の帯(おび)に書いています。
<日本で出版されると、貿易摩擦がまた起こって、世界経済が破滅してしまう>
日本人は部分最適の追求では、世界で稀有(けう)な才能がある。制約理論で、全体最適のスループット極大化の方法を知ったら、怖い。今なら、だいぶ弱っているから、もういいだろう。

まぁ、本の宣伝コピーですが。それにしてもゴールドラットは天才。
ストリー仕立てのこんな本を書きたいですね(笑)
インド、中国、ロシアが知ったら? 知ることになるでしょう。

最初は教育から

成功のポイントは、トップ又は有力なマネジャーに、制約理論と全体最適の概念を理解できる人がいるか、いないかだったとゴールドラットは言います。やはり「何ごとも、最初は、教育から」です。

しかし障害も

障害も大きかった。ゴールドラットが多くの現場で推進したときの障害を、以下の4つにまとめています。

(1)変化に対する現場の抵抗は予想外に強い
(2)マネジャーの理解のレベルが相当異なる
(3)自分たちが原因ではないという言い訳が多い
(4)罠(わな)は根強い部分原価計算の思考

日産では、ゴーンによってミシュランでテストされ、ルノーで成果をだした「参加型のクロス・ファンクション・チーム」が変化への抵抗を取り除いた。

リバイバルプランと制約理論の活用

ゴーンは、日産におけるボトルネック(制約条件)を販売力にあると見た。そこから改善のステップに入る。

(1)販売力の制約にあわせて、過剰な生産力(販売力の約2倍)のうち、効率の悪い村山工場から閉鎖する。
(2)販売力が制約になる原因であった、落ちた「ブランド・アイデンティティ」を再生する。約束の22車種の第1陣は、01年秋の、モーターショーで発表されます。
(3)ハイコストの原因である、販売力に比べた車種の多さを解消し、ルノーも含めて、プラット・ホーム(車体)を共通化する。

突き詰めれば3項目です。対策は、更に単純になった。
制約理論、理解できましたか? 次回は「オカネ」の問題です。

(第5部へ続く)


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