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この国の不良債権問題の根底を解く(1):
         
         小泉構造改革の焦点は<不良債権問題の処理>
         マスコミ情報では明らかにならない根本の問題を
         解くと同時に、どう向かうかを示す。
※友人、知人、同僚、部下、上司、取引先への転送は自由です。
<<あなたと、チームの、知識とスキルのブラッシュアップを>>

2001年7月1日(Vol.56):金融・経済・経営分野

      <この国の不良債権問題の根底を解く(1)>

ビジネス知識源:良質な経営・IT・ビジネス知識の提供を目標に
    
  Systems Research Ltd. chief consultant吉田繁治
著者へのひとことメール⇒  yoshida@cool-knowledge.com



小泉内閣の、<骨太の改革>という形容詞の<新世紀維新>の内容が、明らかになってきました。この中で目下の焦点は、言うまでもなく<不良債権の処理>です。今回は、この問題を解きます。

ここでも問題の混乱が見られる。ひとつずつ解きほぐしていけば、方向が見えるはずです。ともかく、過去の90年代は、日本経済は『The Goal 』に向かった経済運営に、大きく失敗したのです。

【2つの負の「成果」】
その失敗の結果が、
(1)政府負債(666兆円)=政府のバランスシートの悪化と
(2)民間企業のバランスシートの悪化=不良債権です。

【ギリギリの時点】
両方とも、「国際金融市場」から見れば、抜き差しならない不良債権の金額に至った。そこで「小泉内閣の骨太の改革」となって、国民の支持の90%を集めていますが、果たしてそれは、正しい処方箋か、を検討します。

小泉内閣に本当の改革の成果をあげて欲しいという願いからです。(兆円は例によって、1億分の1の<万円>で見ると現実化します)


■目次

<Vol.56号>この国の不良債権問題の根底を解く(1)

1.問題の提起
 驚くべき数字100万社:1000万人雇用の倒産予備軍がある。

2.だんだん・・・大恐慌に似てきたが
米国の1929年の大恐慌を「突発型の高温火傷」に例えると、日本の90年代から現在は、広範囲な「10年の低温火傷」の状態である。その低温火傷の内容を示す。

3.民間銀行の根本の問題:総融資額531兆円(00年9月)
世界で最大の預金総額をもつ日本の銀行に、金貸し業の本質的な機能であるべき<事業リスクを金利化する機能がなかった>

4.横並び金利の融資を成立させた根幹:歩積み預金のドラマ
なぜ、銀行が事業リスクを金利化しない、横並び金利で商売ができたのか、その理由は?

5.不良債権の内容
23.9兆円から111兆円まで4.6倍も開きがある不良債権の内容を確定する。銀行の現在の自己資本と将来収益では、消却処理はできない。

6.奇妙に静かなマネー発行の胴元日銀、なぜか?
金融の不良債権問題を、民間経済の構造問題とすりかえる日銀。彼らが、奇妙に静かな理由はなにか?



1.問題の提起

表面の、分かりにくさ

不良債権処理は、会社経営と家庭生活にまで、直接に強く影響を及ぼします。しかし以下の2つの理由で、分かりにくくなっている。

(1)国内で発表される不良債権総額が、23.9兆円から111兆円まで4.6倍も開きがある。更に、海外アナリストでは、150兆円以上と見ている人が多い。

(2)元々は簡単なはずの、金融用語が分かりにくい。例えば<不良債権>とはなにかの定義をはっきりさせないままに、大声のTVマスコミ議論が進む。(本稿の後半で示します)

撃の情報は、100万社の倒産予備軍

信用調査会社の最大手「帝国データバンク」は、倒産の予備軍が100万社はあるだろうと内々に言っています。日本の全企業数は491万社(個人企業324万社を含む:99年:総務庁統計局)です。

【簡単な試算】
不良債権先は、企業規模の大小とは相関関係がない。100万社÷491万社=20%で、各業界で5社に1社、雇用者数では1000万人くらいが倒産予備軍の企業に勤務していることになる。100万社の倒産予備軍が、全部潰れるとは言えない。生き残る企業もある。しかし、2001年6月末現在、1000万人雇用の100万社は、スレスレの経営であることは間違いがないのです。

日産のCEO、カルロス・ゴーンの表現を借りれば、既に<桟橋が燃えている。一刻の猶予もない>状況ですね。


2.だんだん・・・大恐慌に似てきたが

(誤解なきように・・・微妙な問題です。丁寧にたどって下さい)

大恐慌に近い状況

わが国の20%の倒産予備軍は、1929年からの「米国の大恐慌」に似た数字です。81年前の当時に比べれば、政策の方法論の進歩があるので、40%近くが職を失ったような事態にはならない。そこまでは、行かないと見ています。しかし、じわじわした恐慌になる。私は、それが、もう始まった感じがします。

米国の大恐慌を「突発型の高温火傷」に例えると、日本の90年代から現在は、とても広範囲な「10年の低温火傷」の状態です。

【一例】
その一例を挙げれば、小売り最大手のダイエーも、2ヶ月後の8月中間決算の数字次第です。猶予はない。仮に銀行が救う姿勢を継続しても、1997年の山一のように、国際金融市場が株を下落させ、社債を暴落させて、息の根を止めることがある。

銀行団が融資を続ければ、ダイエーは安泰ということではない。ダイエーがキャッシュフローを生む企業に変わることが、本質的な対策であって、それ以外の対策は、全くないのです。

人間心理と経済原理の相克

倒産する企業は、よく銀行が・・・と言います。確かに、数ヶ月という期間で見れば、運転資金の融資があれば、つかの間の継続ができたかもしれない。しかし、それが単に赤字補てんなら、その企業の財務は、資金の融資を受けたその負債の増加で、更に抜き差しならない自己資本の毀損(きそん)、つまり企業価値の劣化を行ったことなる。

現在の不良債権の本当の原因

実は、90年代の多くの不良債権は、バブル融資後の赤字補てんが原因で起こっている。間違えた原因の大元は、地価の下落を一時的と見て「数年後には回復する」としたことです。つまり、集合的な認識の遅れがあった。その筆頭が、旧大蔵省と官庁系エコノミスト(代表が金森久雄氏)だったのです。知識人の責任は重い。

【政府・日銀・銀行も】
世界のマネー市場は、日本政府、日銀、銀行の意思では動かない。ダイエーは、数多の事例のなかの、たった一例。政府、日銀、銀行も、有力ではあるが、マネー市場のプレーヤーの、一角に過ぎないのです。

相対軸のマネーの世界

世界のマネー市場は、政府や中央銀行が左右できる「固定的な絶対軸」ではなく、プレーヤーの集合意思が決める相対軸の世界になっているのです。旧大蔵省の意識は、抜き難く、絶対軸での判断だった。傲慢です。

【遡ればレーガン・サッチャー】
1980年代以降の、レーガン・サッチャー革命での世界的な資本の自由化、資金に対する規制の撤廃が、そうした「時価の世界、相対軸のマネー世界」を作った。これが金融ビッグバンの本質です。

▼未熟な金融大国の、脚もとの制度改革の遅れ

歴史を大きく眺めれば、日本の不良債権問題は、世界マネーの時価の世界に対して、国内の間接金融の、簿価の世界が、制度改革の遅れのために不適合を起こした結果であると見ることができる。

私は、不良債権の問題の本質は、
(1)収益の計算を度外視して借りた、借り手企業に問題があるのは当然ですが(誤解なきように)
(2)国内銀行の融資制度が、国際化したマネーの動きの速度に、ついて行けなかった結果であると見ています。

以上のことは、何を意味するか?

2004年ころから

【繰り返す可能性】
仮に、2年〜3年の絶え難い痛みを味わって、不良債権問題が解決したあと(2004年)も、銀行が、時価の相対世界を理解できず、従来のような、「固定的担保主義の融資方法」を継続すれば、同じ問題を繰り返すということです。

そうすれば、更に先はどうなるか。国内の銀行そのものが、企業融資の面では、経済的な機能、存在理由を失うことなる。不良債権問題は、不良債権の処理を済ませば、元の正常な、絶対軸の間接金融の世界に戻るということではない。

更にはっきり言えば、今のままでは銀行は、1年以内の短期スプレッド貸ししかできなくなるという意味です。スプレッド貸しとは、日々変動する市場金利に一定幅を上乗せする融資方法です。短期とは、長期設備資金の融資ができなくなるという意味です。

【日本の抜き難い絶対軸の世界】
今回は、確定利回りの、絶対軸の世界である郵貯の問題、年金問題、生保の問題は、紙幅の関係で取り上げませんが、その世界も、民営化ということではなく、相対軸の世界に変化せざるを得ないことが確定です。民営化は、その制度的な手段に過ぎない。

「絶対軸の世界」は、現在の1万円札が、10年後も1万円の交換価値を持つとする仮想の世界です。それは、もう、終わった。

日本の株価のキープレーヤーは海外投資家

01年6月現在、370兆円の東証株価の時価総額の、20%を握るのは、ヘッジファンドを含む海外投資家になりました。

【回転の速い資金】
この20%部分(74兆円)は、ほぼ全部が短期投資で、投資も逃げ足も、資金回転がとても速い。株、社債、コマーシャルペーパーの、直接金融市場は、深く国際化しているのです。11年前の1990年は、外人持ち株はたった10%でした。その後10年で2倍になった。(6月27日:日経新聞のデータ)

【唯一の買い手】
1990年代の日本株の、唯一の買い越し手は、外人投資家と言っていい。国内事業法人、金融機関、個人はいずれも株の売り越しです。
仮に外人買いが無かったら、日本の株価は、更にとんでもないひどい事態になっていたと言えるのです。

【資金還流のグローバル構造】
日本人は、米国の経常収支赤字に対して資金供給してきた。しかし、その資金は、一部が還流して、プレーヤーが米国人ファンドマネジャーに転じ、グローバルポートフォリオ投資の一環で、日本株の持ち株シェアを高めてきたのです。

【海外マスコミのマネー世論の形成力】
こうして、90年代から現在に至るまで、外人持ち株が、唯一の買い越し手として東証株価を決めるようになったということは何を意味するか?国内の政策も、英国のクオリティペーパーFinancial Timesを筆頭とする海外マスコミからの評価を受けないと、効果を生まないということです。

【小泉政権の評価】
ファンドマネジャーは、年金資金や個人マネーを集めて、グローバル投資をする。現状では、彼らは小泉構造改革を支持してはいない。それが、小泉首相就任以来の、東証株価の下げです。現在の株価は、3ヶ月から6ヶ月後の、景気のひどい悪化を見込むものです。

マネーの「間接」マーケットと「直接」マーケット

【マネーの間接市場】
国内銀行は、マネーの「間接市場」です。ここでは、名目負債金額(融資額)が固定される。不良債権問題は、ここで起こる。銀行の貸し付けでは、融資の名目額が、帳簿価格(簿価)で固定する。ところが、その融資を受けた投資の価値(時価)は、日々変動している。融資の簿価を、融資の時価が大幅に下回った時、不良債権問題になる。

現在、銀行の不良債権処理で、銀行が回収できるのは10%から20%にすぎない。80%から90%は、失われた価値です。

【マネーの直接市場】
マネーの「直接市場」では、株、社債、国債等の価格が、日々騰落(とうらく)する。価格はリアルタイムで調整されるから、投資の損益が即日に確定し、不良債権問題はないのです。これがいわゆる「時価の世界」です。

【直接市場の例】
例えば、マイカル(旧ニチイ)の第16回社債は、100円額面のものが56円に下がった(6月26日)。この価格は、ジャンク債並です。マネーの直接マーケットでは、集合意思でマイカルの先行きに何を見ているか、この56円の価格ではっきり分かる。

【間接市場の例】
同じ意味で言えば、マイカルへの総有利子負債1兆1510億円(01年2月)は、6月時点では、その56%、つまり6446億円の価値しかないことになる。44%部分は価値が失われている。それが銀行のバランスシート上では、正常貸し出しの資産になっている。

【量販店のこの夏の商戦の意味】
マネーマーケットがつきつける現実に対して、ダイエーもマイカルも、夏の正念場の商戦を、ぜひ乗り切って欲しいものです。

(注)上場企業は、社名を出します。ディスクロージャーすべき公開企業だから。非上場企業は、モデル化する時を除いて、社名を出しません。個人企業だからです。

【7月、8月から秋】
2001年の7月から8月、そして秋は、100万社:1000万人には、大きな岐路になることが確定。現状の推移では、ナチュラルな需要回復の兆しは、全くありません。予測されるのは、橋本改革の時の、1997年秋の再来ですね。

遠くの「痛み」で済めば、幸い

【この痛みは、痛い】
小泉政権は、「痛み」と言っています。この痛みは、なかなか痛いのです。それを、今、国民の90%が支持しています。しかし、「あれ?自分が痛みを感じるべき本人だった」と雇用者1000万人が感じ始めると・・・どうなるか?そこまで読んでいるか?

今月の7月、8月からのマスコミと週刊誌の論調は、変わります。
小泉構造改革が、絶え難い不況と倒産をもたらすという論調です。

実は、既に小泉首相が就任以後、東証株価は、一本調子で下げている。
国民の支持と、マネーマーケットの動きが反する。これはなぜか?

【日本で4万5千人】
株式投資をする人は、経済評論家や大衆ではないのです。彼らは、日々生死を賭けた、経済や企業業績の読み合いをやっている。日本人で、株式投資をやっているのは、300万人です。しかしその中心は、50単位株以上を持つ1.5%の、わずか4.5万人でしょう。

世界の金融の総本山、米国からは、日々、経済の悪化のニュースしか来ない。欧州も、インフレと景気の減速が激しい。輸出大国アジアでは、IT不況で、半導体関連の工場稼動率が30%台になっている。

6月27日:FF金利下げで、米国も実質ゼロ金利

グリーンスパンのFRB(米連邦準備会:米国の日銀)は、6月27日に、今年6回目の利下げ(累計利下げ2.75%)で、FF金利(フェデラル・ファンド金利:日本の国債金利に相当)を3.75%にした。この金利は、<緊急事態>であることを示します。最初は単にITバブルの崩壊と軽く見ていたグリーンスパンも、今年は、とても慌てている。グリーンスパン神話は、もう昨年から終わっている。

米国は、日本と異なり、約3%のインフレです。従って、実質金利は(3.75%―3%)で、0.75%
これで、世界の40%のGDPを占める日米両経済大国が、金利でゼロに揃ったことになる。さて、これからどう進むか?

ここで、考察を深めるために、日本の民間銀行の収益の根幹を見ます。



3.民間銀行の根本の問題:総融資額531兆円(00年9月)

日本の銀行の横並び体質の怖さ

日本の銀行は、今も横並びで動きます。抜き難い行動様式。金融庁の政策が「不良債権処理」であれば、その動きも横並びになる。

なぜ横並びか?上から下まで、自己判断で動いて責任を問われるのがイヤだからです。長期雇用では、失点はキャリアの命取りです。

バブルの時は、どこの銀行も横並びで押し込み融資を行い、今は不良債権処理となると、また一勢に、横並びで引き揚げに動く。

ここに、実は根本的な問題がある。銀行マン個人の問題ではありません。金融行政と銀行を包む、全体のシステムの問題です。問題の根は、大蔵省・日銀が、50年も護送船団での横並びを強いたことです。

本来の金融機能は、融資先の事業リスクを金利化すること

【金貸し業の本質】
銀行も本質は<金貸し業>です。融資の回収リスクを、金利で上乗せして、それで融資をすることが、社会経済的な機能です。

融資先の回収リスクに5%を見込み、預金の金利が1%、業務費用が1%で、利益を1%とするなら、その合計の、8%の金利での貸し付けでなければならない。

こうなれば、企業側は、一勢に融資が殺到したり、一勢に閉ざされることはない。融資競争になるような優良な企業、成長企業は、3%や2%、短期なら1.5%で借りることができるし、危険がある企業は8%。
これが金融の原理です。これで正常な、企業競争が行われる。

事業リスクを金利化する機能がなかった

ベンチャー企業は、リスクも大きいかもしれない。従って、金利のハードルを高くする。しかし融資は閉ざさない。これが金融の常道です。担保よりも、事業リスクを、確率計算で金利化するのが、金融の機能でしょう。

戦後の日本の銀行は、これを行って来なかった。私的な株式会社(つまり株主利益を出すことが本質)でありつつ、実態は「大蔵・日銀の窓口指導、窓口規制で動く地方出張所」だった。預金金利も、融資の金利も、官僚的に横並びを強いられた。銀行だけの責任ではないのです。

【担保主義の古さ】
担保のない融資を行うと、現在も、支店長は背任に問われる。担保主義という厳然とした規制が残っている。担保の元である土地の価値が流動状態になった今も、ですよ。ベンチャーが育たない理由です。知識産業、21世紀型産業のほとんどは、担保になるような土地は要らないのです。持てば資本効率が悪化する。

【過去の銀行融資の本質】
担保を取り、連帯保証人で、規制金利で融資するのが銀行だった。
(1)事業リスクを金利化する金融仲介の機能ではなく、
(2)貸し出し金利を(規制で)横並びに一定にし、
(3)事業リスクは「担保」と「歩積み両建て」でとったのです。

こうした融資スタイル(行動綱領:Value)で、担保の元である土地が下落すると、どうなるか? 問題は行動綱領にある。

担保不足になって、
(1)融資を引き揚げるか、
(2)実質的に金利を上げるための、融資先への、定期預金や他の(実質拘束)預金の要求を行うことになるのです。

次に、横並びの低い名目金利で、なぜ日本の銀行が成立したかの構造を示します。これは、日本的かつ戦後的、特殊です。



4.横並び金利の融資を成立させた根幹:歩積み預金のドラマ

優良企業の銀行離れの理由:歩積み預金の構造

金利3%の10億円の融資先に、毎日、強く要求して、預かる預金を5億円に維持すれば、銀行の実質融資額は5億円と計算できる。

今の預金金利は、ほぼゼロですらから、表面金利では10億×3%(表面金利)=3000万ですが、実質は5億円×6%(実効金利)=3000万円で、実効金利は表面金利の2倍です。

【自主預金】
しかも10億円の担保の、地価下落での目減りは、5億円の預金でカバーできる。これが、銀行が隠したがる「歩積み両建て」の仕組みです。公式指導では、当然禁止されていますが、実態は「融資先からの自主預金」として続いている。

企業の経理担当と、銀行の融資担当の、「呼吸」で伝わるのです。このあたりが日本的です。(官の、口頭での行政指導も同じです。官は個人名の文書を、渡すことはない)

経理担当としては、まさかの時の融資を断られると困るから、「自主預金」に協力します。経理担当特有の、心理です。
(経理と、融資窓口の現場では「預貸率管理」と言っています)

こうして、融資を受ける企業側は、帳簿上は10億円借りているが、実際は5億円しか使えない。そうなると3000万円の支払い金利で、実効金利は6%である、となる。

【優良融資先が実質金利は高くなる】
銀行にとって、10億円の融資で5億円の預金を維持できる先は、優良な融資先です。優良融資先から、高い実効金利を取っていることになる。これは<経済原理>に反しますね。
本来は優良先への融資は、回収リスクがないから、低金利でなければならないのです。

【所得移転】
優良企業の所得(キャッシュフロー)が、このケースでは、5億円×3%=1500万円分、銀行に移転します。優良企業は、その分、健全な、自己資金での投資の機会を、逃がすことになる。つまり、経済が活性化しない。

【優良企業の銀行離れ】
1980年代〜90年代に、多くの優良企業が、銀行からの設備投資の資金調達をやめ、直接資金市場の(1)エクイティ・ファイナンス(時価発行増資)や、(2)社債、コマーシャルペーパーでの資金調達に走った理由です。

ここでは、実効金利が高くなる歩積み預金は要らない。世界で競争をするには、資本調達コストは、根幹的に重要です。

一方で、不良融資先の実質金利は、低下する仕組み

一方、経営状態が悪い赤字の不良融資先はどうなるか?
最初は、優良企業並に10億円で5億円の預金があったとします。

90年代の経営赤字で、運転資金導入が必要。ところが、土地担保の評価は、平均で80%も下がった。銀行が回収リスクを見込んで金利を上げれば、赤字は更に拡大し、資金不足が大きくなる。金利は、やむを得ず、融資当時の、3%のままになる。

【預金取り崩し】
しかし、資金不足で、明日運転資金を入れないと手形が不渡りになる。赤字で担保不足では、増額の追加融資はできない。銀行は、やむを得ず、支店長の裁量で、預金の取り崩しを許可する。5億円の預金があるときは、実質6%だった金利は、預金の取り崩しで、どんどん3%の低利に近づく。

つまり不良融資先への実効金利は、名目金利が同じでも、預金の減少で次第に下がって行くのです。これも<経済原理>に反しますね。

銀行の経済機能

銀行としては、どんな<経済機能>を果たしたか?これが問題の焦点。

(1)ふんだんな預金(キャッシュフロー)がある優良企業、成長企業の実効金利(6%)を高く維持して成長の芽を摘み、
(2)不良企業の実効金利は、経営悪化とともに、実際は下げたことになるのです。

簡単に言えば<持てる所、取れる所から取るというやり方>

結果は、80年代から90年代の20年間で、財務優良企業は銀行を離れる傾向が強まり、銀行の資産(融資)が、毎年、毎年、劣化して行って、それが民間銀行の「不良債権」になった。

根本では、事業リスクと成長の可能性を計量しないで、
(1)担保主義融資と、
(2)歩積み両建てで、実効金利を稼ぐ構造が、日本の間接金融構造に、組み込まれていたために起こったことです。

銀行の行動が、未だに横並びであることが、日本の産業の新しい目を摘んでいる。事業の将来価値の評価ができないことが、日本の産業の転換を遅らせた。重ねて言いますが、銀行マンの個人の問題ではない。(私も銀行マンには友人・知人が多い)

<旧大蔵省―日銀―銀行>の、システムの問題です。
次に、不良債権の内容を見ます。より具体的になるはずです。



5.不良債権の内容

さて、不良債権処理の方向を見定めるには、不良債権の内容を見る必要があります。

(注)今回は<郵貯225兆円、簡易保険112兆円、年金積み立て140兆円=合計477兆円>を使った、旧大蔵省の財政投融資や特殊法人の資産空洞化の問題は抜きにします。民間銀行(全国銀行+信用金庫)の、総額531兆円(00年9月)の融資の、不良債権に絞ります。

不良債権の、4種の公式集計から

全国の民間銀行の総融資額     531兆円(00年9月)

いわゆる不良債権は、公式には、以下の4種の集計があります。
(1)旧来からのリスク管理債権 32兆円(旧来からの開示分)
(2)銀行の自己査定の分類債権 64兆円(97年から開示)
(3)金融再生法による開示基準 33兆円(98年から開示)
(4)問題先債権       111兆円(金融庁の最新調査)
(資料は三和総合研究所:不良債権の現状:01年5月29日)

民間銀行の総融資額531兆円のうち、上記(4)の問題先債権の111兆円(総融資額の21%)が、いわゆる不良債権の、公式な総額と見ていいでしょう。金融庁の最新調査による、柳沢大臣の発表。

これは、民間の帝国データバンクの100万社(企業の20%:雇用者1000万人)の倒産予備軍があるという情報と符合しますね。
不良債権の111兆円は、融資総額531兆円の21%です。

【111兆円、100万社:1000万人雇用】
日本では、今、大手・中小に関係なく、民間企業の5社に1社が、問題債権先で、その銀行借入れ総額は111兆円です。
これで、はっきりしました。

【100万社の3分類は以下の通りです】
問題先(倒産予備軍)の100万社とは何か?
(1)破綻先・実質破綻先、つまり、実質的には潰れている企業。
(2)破綻懸念先、つまり、近々危なくなることが見込まれる企業。
(3)要注意先、つまり、今後の情勢次第で、潰れる企業。

▼全部潰れたとした時の銀行の回収額

100万社が全部潰れたと仮定しても、111兆円が全部回収できないわけではない。回収見込み額は、47兆円(42%:優良担保、保証等、及び貸し倒れ引当て金がある:認定が多少甘い)とされています。

つまり、2001年7月1日現在、<64兆円>が回収不能の可能性が大きい。64兆円は、総融資額531兆円の12%ですね。

【日々動く回収不能額の査定】
この64兆円の回収不能金額は、土地が更に下げると増えます。また、連鎖倒産があれば、急に増える。そこまでは、誰も分からないのです。一方では、要注意先がなんとか踏みとどまれば、減少する。

【小泉政権の世界への公約=2〜3年】
仮に最長の3年で不良債権処理を行うと、年間で64兆円÷3年=21兆円の回収不能が出る。これは、民間銀行の総融資額の4%です。民間銀行は、21兆円の回収不能を自己負担できるわけがないのです。
以下に、それを示します。



民間銀行の、全体合計での収益構造(2000年末)

(1)貸付総額        約500兆円
(2)貸付利ざや、債権運用益   10兆円(2%)
(3)債権ディーリング益、為替損益、手数料収入
                 2兆円
(4)合計収入         12兆円
(5)人件費、店舗運営の総経費
               7.5兆円
(6)業務純益        4.5兆円(0.9%)
(7)不良債権消却(ほぼ毎年)7.0兆円
(8)損失          2.5兆円(0.5%)

(『銀行はなぜ儲からないか』深尾光弘慶大教授の集計より計算:文藝春秋01年6月号)

全国銀行の、年間の全部の粗利益(上記(4)の合計収入)は、12兆円に過ぎない。それで総経費を引いた業務純益が4.5兆円です。ここで、不良債権消却を毎年21兆円もやれば、赤字が(4.5兆円―21兆円)で、16.5兆円になる。

(注)2000年では上記の(7)の7兆円の不良債権消却で、2.5兆円の損失です。

これでは、民間銀行が、バタバタ倒産します。じゃどうするのか?

結局は政府資金の投入しかない

【15兆円】
小泉政権が、<不良債権処理の国際公約>を守るなら、毎年、民間銀行に対して、少なくとも15兆円、最大なら20兆円近い政府資金の投入が必要になる。投入しなければ金融システムは破壊され、大衆の1390兆円の金融資産から、預金引き揚げが起こる。そうなると、誰も手をつけられないのです。銀行は、窓口が閉鎖になる。日本国債は暴落し、金利が上がる。

【可能性】
日銀は、大衆の預金引き出しに対して、(1)民間銀行へマネーを供給(貸付け)する必要、(2)国債の暴落(金利の上昇)に対して、国債を買い支える必要が出て、市中の現金マネーが、じゃぶじゃぶになる。

マネーはとても薄い水割りになり、金額価値が下落、ハイパーインフレへ向かうことになる。ハイパーインフレは、モノへの需要で価格が上がるのではない。マネーの価値が、急に下落するのです。

急な不良債権処理では、その可能性もないとは言えない事態を迎える。

ハイパーインフレに向かうかどうかは、ただ1点、物言わぬ大衆が、預金の安全に危険を感じ、銀行から一勢に預金を引き出すかどうかです。預金保険機構など、ひとたまりもない。

【民間金融機関が政府系になる】
政府資金を15兆円投入するとはどういうことか? 資本の面で、ほぼ全ての民間金融機関が、政府の機関になるという意味です。

金融機関は、それでいいかもしれない。元々が護送船団方式で、<大蔵―日銀>の、実質出張所だったからです。銀行マンのワークスタイルにも合います。銀行にとって大蔵・日銀の指導は神の声だった。
(今はだいぶ違っています。反抗の急先鋒が、東京三菱です)

【小泉構造改革の矛盾】
大変な事態です。このことは、政府もマスコミも、誰も言わない。私は、実は、「2〜3年での不良債権処理がなければ先に進めない。痛みが先」という小泉政権のスローガンと、実際にやることの、矛盾を感じています。小泉さんは、果たして十分に分かって言っているのでしょうか? どういった<計算>があるのか? 竹中教授は、マネー経済を理解しているのか? 疑問が残ります。

それに、とても不思議なのは、日銀の態度です。マネー供給の胴元が、奇妙に静かなのです。



6.奇妙に静かなマネー発行の胴元日銀、なぜか?

日銀の記者発表は、日銀サイトで詳しくみることができます。
http://www.boj.or.jp/press/press_f.htm

ここを読んでも、喫緊に迫った不良債権の処理で<絹のハンカチの集団>が何を考えているのか、さっぱり分からない。

1995年から2000年のマネーの動き:日銀理事 増渕稔

(1)マネタリーベース(現金発行+日銀当座預金)は、年率7.9%も増加させた。
(2)マネーサプライ(M2+CD:譲渡性預金)は、年3.3%の増加に過ぎない。
(3)銀行貸出しは、年率でマイナス0.4%

マネタリーベースとは、1万円札などの現金通貨(01年5月、57兆円)と、民間銀行のみが引き出せる日銀の当座預金(01年6月、5.7兆円)です。これは、我々は十分増やした。

ところが「マネーサプライ(M2+CD:01年5月、649兆円)は年3.3%しか伸びず、銀行の貸出しは0.4%ずつ減少した」と、よその国のことのように、説明するだけ。

日銀が言うのは、我々はマネーは十分供給(マネタリーベース)しているのに、民間銀行が、貸そうとしないということです。増えた預金で、銀行は国債の購入を増やし、企業への融資は引き揚げ、減らしている。米国と異なり資本市場の発達のない間接金融の国日本で、銀行からの融資が増えないで、経済が成長するわけがない。

そして、増渕理事も<倒産や失業の痛みを乗り越える覚悟か必要>と言う。ぎりぎりの経営の100万社:1000万人に対して・・・なにか変です。

バブル期は、無茶な貸し出しを、銀行の窓口に要請した。民間銀行はその点は受け身なのです。大蔵や、日銀に指導されれば、銀行はそれに従う。バブルを作ったのも、とばしたのも、結局は大蔵・日銀と言える。今度は、不良債権処理、言い換えれば、100万社の整理をやれと言っている。さて、どう進むのか?

(第1部終わり:第2部へ続く)


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