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戦略的思考とは、どんなものか?
宅急便を成功させた小倉昌男氏の戦略の設定と、リーダシップが示すもの。
               (戦略的思考とリーダシップ )
【概要】
特に90年代後期から、経営において「戦略や戦略的」、「リーダシップ」という言葉が多く用いられます。サプライチェーンでの戦略同盟、IT戦略、顧客戦略、物流戦略、商品戦略、財務戦略、人事戦略、経営戦略・・・では、その戦略や戦略的って一体どんな意味ですか、リーダシップってなんですか?と尋ねてみても、はっきりした答えが返ってくるケースはほとんどありません。
 
私自身も、いろんな会議で戦略やリーダシップという言葉を使うと提案がなんとなく当世風になるような気がして、無意識のうちに用いていることがあり、時に反省します
戦略に限らず、こうした流行の言葉には注意する必要があります。お互いになんとなく分かっている感じがしますが、実はよくわかっていない言葉だからです。

「宅急便」を開発した小倉昌男氏が、初めて書き下ろした「経営学」(日経BP出版センター:2000年2月10日 第6刷)の中に以下のような記述があります。

【二律背反のなかでの優先事項の決断】
(1)サービスとコストは常にトレードオフ(二律背反)の関係にある。サービス水準を上げればコストは上がり、コストを押さえればサービス水準も下がる。

(2)経営者の仕事とは、この問題を頭に入れ、そのときどきで、どちらを優先するかを決断することに他ならない。

(3)宅急便事業を始めるにあたって、私が決断したのは、「サービスが先、利益は後」ということだ。

(4)サービスを向上して、まず郵便小包との差別化を図らなければ、結局、利益の上がる事業にはならないと考えたのである。

こういった確信に基づいて、差別化の方法を考え、決断することがまさに「戦略的思考」です。
「差別化」とは、競争相手と比較した時、最初から、どの部分での新しい価値を顧客に提供するかの商品戦略です。

【現在の需要では計れない】
当時の宅配の需要量は、郵便小包の料金と配達日数(4日から5日)という条件下での需要です。翌日宅配という価値が実現できれば、需要が増加するから、当時の郵便小包の需要量では、需要は計れないのです。

【需要開発のキーを見つける】
小倉氏は、郵便小包の4日の配送リードタイムを翌日にすることが宅配の需要開発の鍵であると判断しました。翌日配達で宅配の需要が増加し、そうなれば、利益は出ると確信。つまり、宅配でのマーケットの潜在需要を顕在化させるためには、優先すべき事項はコストではなくサービス、と決めることでした。これが戦略的思考でしょう。

この戦略的思考で、小倉氏はつぎのようにして、戦略を具体化し、投資と事業展開の設計図にします。戦略の実行は、実行の順序を決める設計図が必要です。

【当時の経営状態】
当時、昭和51年3月期の経常利益はわずか2690万円。売上は350億円にすぎません。全役員が反対するなかで小倉氏は「清水の舞台から飛び降りる決断」だったといいます。
投資可能資金は不足しているのです。

【戦略の実行順序の設計】
「社員が先、荷物は後」、「車が先、荷物が後」、つまり荷物が増える前に、最初に社員数、集配車数、集配センター数を増やして、郵便小包とは差別化した翌日配達を保証するサービスを提供したのです。

【確信】
宅急便として差別化したサービスを提供できれば、荷物はどんどん増えるはずだとの確信があったのです。もう1度言いますが、経常利益が、2690万円の時の決断です。

戦略的な順序付けには、なかなか難しいものがあります。ひとつのことを重視して、他のことを後回しにすることは、危険と思われるからです。

【決断】
戦略的な経営とは、顧客にとっての価値とはなにかを熟慮・確信した上での、恐怖の決断です。普通はコストとサービスのバランスをとる政策にします。安全策で二兎を追います。

しかし矛盾する二兎を追ったサービスや商品の提供では差別化のレベルが低く、大きな事業には育たないのです。最初から鮮烈なサービス・商品・価格によって顧客を惹き付けることがないと、その後のコストの合理化もないのです。

こうした戦略的思考の方法に気がつく上での、若いころのエピソードも紹介されています。
当時ヤマト運輸では労災事故が多く、労働基準監督局に呼びだしを受け、静岡管内に安全の面で模範的な木工の工場があるからそこを見に行けと言われました。木工と運輸は違うと思ってあまり期待せず行った時
【優先事項の設定の効果】
 壁一面に「安全第一、能率第二」と書いた紙が貼ってあった。・・・工場の経営者はこう言った。「前は本当に労災事故が多かった・・・それで考えたのは、能率を上げることだけを言っているうちは事故はなくならないだろう、ということだった・・・その気持ちを表すために、安全第一、能率第二という標語を掲げた。時間が経つうちに、安全の実績は徐々に上がったが、能率は決して落ちなかった。安全も能率もどちらもしっかりやれと言っていた間は、結局どちらも中途半端でしたね・・・」

現場に、こうした優先付けを与えること、商品やサービスの差別化のために、仕事のやりかたで守るべき「価値」を示すことが「リーダシップ」です。

リーダシップ作りで重要なことことは
(1)□□□が第1とする。
(2)■■■は第2とする・・・というように、第一優先事項と、第二優先事項を区別して、両方を比較して挙げることです。

リーダシップは、あれやこれやを並べて、バランスをとることを示すことではなく、その時最も必要なことを判断して、あれか、これかを示して、現場に実行を促すことと導けます。

ここで重要なことは、「その時、最も必要な」ということの判断です。宅急便を開発する時点では、コストより差別化であって顧客にはっきりと分かるサービスを作ることでした。

コストと安全、コストと品質、コストとサービス、コストとリードタイム、コストと環境問題こうしたことは、経営的に言えば、いつも二律背反のグラフになります。二つが同時には成り立たない。そこで、その時最も必要なことに優先付けを与える、これが経営のリーダシップです。

こう考えると、流行の安易な「リストラ」でコストカットや人員カットを優先した時は、結局どんな結果になるか、はっきりと見えてきます。顧客が満足する品質やサービスの差別的な価値を作り、守ること、これを優先しなければ、コストは下がっても今度は客が離れるでしょう。

現在の顧客は、以前よりずっと商品知識も増え選別眼もついていて、商品とサービス、価格の選択肢はぐんと増え、手抜きがあるとすぐ見破ります。

戦略や戦略的思考といった時、こうした小倉昌男氏の思考方法とリーダシップを記憶にとどめておけば、大きく誤ることが少ないように思えます。

誤る原因は、紙の上では立派に見え、しかし、それぞれの項目の実行を行うと矛盾する内容を含んだ、標語や経営計画書の中にあることが多いのです。
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