コロナで明らかになった日本企業の生産性の低さとIT化の遅れ
This is my site Written by admin on 2020年10月9日 – 12:00
配信が途絶え申し訳ありません。コロナにかかっていたわけではなく、
単に、当方の怠けからです。以下は、有料版として送ったものに、若
干の修正を加えたものです。お詫びのつもりで送ります。テーマは、
必要なDX(デジタルトランスフォーメーション)です。

コロナは、長所も短所も仕事と生活のさまざまな問題を、あぶりだし
ています。水が減って(・・・売上が減って)、雑魚が跳ね、湖底の
泥の底があらわれてきているような感じを受けています。その中で今
後の日本にとっての最大問題は、資産バブル崩壊の1995年から、世界
に大きく後れをとって、伸びていない「産業の生産性」の問題でしょ
う。

【GDPとは】
「GDP=生産性×労働者数=企業と世帯の所得=需要=商品の付加価
値生産」です。これが、GDPの三面等価、つまりGDP=生産=所得=需
要といわれるマクロ経済の基本原理です。

【米ドル換算でのGDP】
1995年から2019年の、ドル換算の日本GDPは以下です。ドル換算で示
すのは、国際的な比較による日本の産業の、評価のためです。

1995年の名目GDPは、5.5兆ドル(1ドル106円換算で583兆円)でした。
24年後の2019年は、5.2兆ドル(同551兆円)であり、減っています。

ドルで見るのは、ドルが、国際的に認められた基軸通貨(国際的な決
済に使う通貨)だからです。基軸通貨は、世界各国が標準的なものと
評価するものです。

【ドルに対する円の下落が33%だった(1995年→2019年)】
円では、1995年が437兆円でした。2019年が539兆円で23%伸びている
ように見えます(年率0.8%)。これは、「1ドル≒80円(1995年)」
が106円(2019年)にまで、33%安くなったためです。5年以上の長期
で見た通貨の下落は、その国の経済の成果が低いことを示すものです。

3年以内の短期の通貨変動は「マネー投機的な動機」によるものが大
きい。しかし5年以上になるとその国の経済(特に経常収支)の成果
を反映します。GDPに対して、中央銀行の通貨増発率(マネタリー
ベース÷GDP)が高くなった通貨は、同じか動かない通貨に対して安
くなります。

【円高から円安の時代への転換は1995年だった】
1995年までは円高の時代、1995年から2019年は円安の時代です。
根底の原因は、日銀が世界で最初に、政府へのマネー供給と銀行の救
済のために、国債を買ってゼロ金利にしたからです(1998年から、日
銀が国債買いを開始し、世界で最初に金利ゼロ%の金融緩和策)

ドルに対して円の価値が下がったので、円では、所得とGDPが伸びて
いるように見えているだけです。つまり1995年以来の「円安」が、
GDPの水膨れを示しています。

特にアベノミクスでは、1ドル=80円台(2012年)から、110円台に円
が下がり、世界基準(基軸通貨)でのGDPも増加しているかのような
幻想を振りまいてきたのです。

【消費税とコロナで剥がれたアベノミクスの成果】

経済では、政府はアベノミクスの成果(円安策+量的緩和+株の官製
相場)を誇ってきましたが、2019年10月の消費税増税(+2%)と、
2020年2月からの新型コロナでの経済停止が、国際基準では幻想だっ
たGDPの虚妄を剥いでいます。

【インバウンド消費は、乗数効果を入れるとGDP換算で24兆円】
円安が誘導していたインバウンド消費(3000万人:4.8兆円)も消え
ました。4.8兆円の需要は、企業と世帯の所得になり、その所得で企
業は設備投資をし、世帯は消費をします。

これが需要の創発効果を生み、「貯蓄率が20%なら乗数効果は1÷0.
2≒5倍」。つまり海外からの4.8兆円の消費が、5倍のGDP(24兆円)
になってきたのです(想定乗数効果5倍)。

インバウンド消費がゼロになる2020年度は、その要素だけで、GDPが
24兆円(551兆円の4.4%)減ります(2020年度のGDP)。


【日本経済のもっとも大きな問題】
1995年以降の、日本経済のもっとも大きな問題は、産業の生産性の低
さです。

NYでは、人と人が近づく対面産業(小売り、外食、サービス業)以外
では、ほぼ100%の職種でテレワークが可能です。NY市が外出の禁止
をしても、対面型産業以外の、会社業務は停止しない。企業の業務で
は、1990年代から、デジタル・トランスフォーメーション(DX)が図
られてきたからです。

小売では、店舗のないアマゾン(売上の年率増加20%)。ウォルマー
トやターゲットもWEB販売と宅配をおこなっています(WEB販売増加は
前年比70%)。百貨店の高級ファッションは、商品の手触りも必要で
しょう。百貨店は、外出自粛で破産と破産寸前になっています。百貨
店は米国でもDX(デジタル・トランスフォーメーション)を果たして
いないため、店舗を閉じると、売上がなくなります。

【NY市では、エッセンシャルワーカー以外、ほぼ100%が、通勤せず
テレワークで仕事ができる】
以上から、都市封鎖による経済の停止度合いでは、ジョブ・ディスク
プション型(業務方法と成果を、会社と契約する仕事の方法)で、自
宅のPCでインターネット介したテレワークができる米国より、メン
バーシップ型で、担当の個々の成果責任が明らかではない仕事をして
いる日本のほうがはるか深い。「外出自粛で、会社に行かないと仕事
ができない」からです。

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<1080号:コロナで明らかになった、
         日本企業の生産性の低さとIT化の遅れ>
       2020年10月9日:無料版

【目次】
1.産業の人的生産性の国際比較
2.世界最大の通貨発行国が日本
3.レガシー・システムとDXの違い
4.DX:デジタル・トランスフォーメーション
5.RFID(Radio Frequency Identification::電波起動の個品認識IC
:ICタグ)
6.AI(Artificial intelligence:人工知能)
7.QRコード(Quick Response Code:二次元コード)
8.仮想通貨(Virtual Currency:暗号通貨)
9.ワークフロー(Work Flow:業務の流れ)
10.自動発注(Automatic Ordering)
11.指数平滑法(EMA:Exponential Moving Average):自動的な加重
移動平均
12.WEB販売(Virtual Store)
13.オンライン処理(Online Transaction)
14.クラウド・コンピューテング(Cloud Computing)
15.アプリケーション(Application:適用業務システム)
16.Wi-Fi(Wireless Local Area Network:無線ローカルネットワー
ク)
【後記】
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■1.産業の人的生産性の国際比較

日本では、なぜか取り上げられることの少ない人的生産性を、米国と
比較すると、以下のようになっています。「企業の付加価値÷労働人
時数(労働時間)=人的生産性」です。GDPは、「人的生産性×8時間
換算の労働者数」です。

【米国を100としたときの、日本の産業の人的生産性:2012年】
(1)米国の74%以上
化学    141
機械    110
自動車    93(国際的な競争力はここまで)
建設業    85
金属工業   75
情報通信   74  
(2)米国の70%以下と、人的生産性が低い産業
紙・パルプ  64
電気・ガス  63
食品製造   61
ゴム製品   57
(3)米国の50%以下と、極端に人的な生産性が低い産業
金融    48
運輸業   44
事業サービス42
石油石炭  42
卸・小売り 38
飲食・宿泊 34
木材木製品 32
電気機械  19(スマホの差が大きいため、こうなった)
農林水産   5
データソース: 
https://www.rug.nl/ggdc/productivity/pld/earlier-release/

政府は、こういったデータを発表しません。都合が悪い経済の実態を
示すからです。

【経営と人的生産性】
人的生産性を高める投資と仕組み作りは、経営の本質的な成果とすべ
きものです。経営者の仕事は、人的生産性が高くなる仕組みを作り、
社員には、世間の30%増しの賃金を払って、利益を出すことです。こ
のためには、業界平均の人的生産性の2倍でなければならない。

経営の仕事は三つです。
(1)現在の事業の、目標とする成果(利益)を上げる。
(2)現在の事業のビジョンを示し、新事業の構想も固める。
(3)社員の生産性を上げる仕組みと制度を作り、社員の賃金は、同
じ業界の平均の30%増しとすることを続ける。

【資産バブル崩壊のあと】
1990年の資産バブル崩壊(地価と株価)のあと、資産の下落で借入金
が過剰になった企業は、90年代からの30年、設備投資と情報化投資を
減らし、負債を減らすためキャッシュフローの利益確保に走りました。
1990年代から、設備投資を、設備と機械の減価償却費以下に減らした
企業は、日本経済の成長のエンジンでなくなったのです。

【円でのGDPが維持されたのは、政府の公共事業が増えたから】
1990年の10年間、企業貯蓄の増加を吸収したのが、国債の発行による
公共事業が400兆円でした。

2000年代は、世帯の貯蓄率が減り、国債を銀行が買い受けることがで
きなくなって(国債の金利が上がるので)、日銀が円の増発によって
国債金利を0%に近く下げ、1年に35兆円平均で増発される国債を、買
ってきたのです(日銀の国債買い増しは、20年間で500兆円)。

【アベノミクスでの円安】
アベノミクスの量的緩和(1年60~80兆円=合計500兆円)は、日銀が
国債を買うマネーを拠出して、GDPに対する通貨発行量が多い円を、
円安に向かわせることでした。民間マネーではなく、財政赤字の政府
にマネーを供給することでした。民間へのマネー供給としては、日銀
の、株ETFの買いの30兆円です。

【マネタリーベースだけが増えて、円安になった】
その結果が、現在の日銀のマネタリーベースである、「紙幣113兆円
+銀行の現金資産である日銀当座預金446兆円=559兆円」です(20年
7月)。政府は、銀行から国債を買い上げて、日銀の負債である現金
を当座預金に供給したのです。

実際のマネー発行は、日銀のコンピュータの数字を叩いて当座預金の
数字を増やすことです。マネーは抽象的な数字ですから、これができ
る。個人の銀行預金も、例えば1世帯平均1752万円という数字です
(医師・弁護士、他の個人事業の、事業主預金を含むので大きくな
る)。

【預金通貨の価値は、分からない】
その数字が、1万円札のお金として引き出されて使われるとき、どれ
くらいの価値になるか、誰も知りません。

仮に、わが国の世帯預金と現金の総額1000兆円(日銀資金循環表)が、
全額引きだされて、住宅購入や商品購買に使われれば、物価が、6か
月で数倍に上がるインフレになるでしょう。

●つまり、預金は、預金として使われないとき、期待価値があります
が、全額が、一斉に使われると、数倍への物価の上昇という形で、1
万円の価値が、数分の1に急落します(小さな供給<大きな需要にな
るため)。

【預金の価値は、観念的なものである】
マクロの預金数字は、それが使われないという前提(数字として、金
利を生まない豚積み(豚の貯金箱への預金のように)として滞留する
こと)で、「観念的な価値」をもつものです。この観点で、貯めた預
金通帳の数字を眺めると、感慨が深いでしょう。現金のタンス預金は、
日本では金利ゼロの豚積みです。

マクロ経済では、国民全員合計では1000兆円に増えた預金を使ってい
ないので、マネーの価値が下がるハイパーインフレになっていないだ
けのことなのです。金利と通貨価値に明敏だったケインズは、これを
「流動性の罠」としました(1933年)。増えたマネーが預金として滞
留し、消費と投資ではなく、金融商品(株式と証券)の買いに向かう
ことです。
(注)所得-貯蓄=預金=消費の留保の数字、です。
https://www.boj.or.jp/statistics/sj/sjexp.pdf

■2.世界最大の通貨発行国が日本

中央銀行が、GDP以上に通貨を発行している国は、世界で、日本だけ
です。将来のGDPの期待成長率が1%台と低いのでこれができる。米国
FRBも、GDPに対しては、32%のドル発行でしかない(GDP22兆ドルに
対して、FRBのドル発行は7兆ドル:20年6月)
(日銀:営業毎旬報告 20年7月22日)
https://www.rug.nl/ggdc/productivity/pld/earlier-release/
(米国 FRB Balance Sheet  20年7月23日)
https://www.federalreserve.gov/releases/h41/current/

【人的生産性が上がらないと、将来のGDPは増えない】
将来のGDP=所得=人的生産性×8時間換算労働人口、です。人口減の
日本では、欧州のように移民を大量導入しない限り労働人口は増えな
い。人的生産性の上昇しか、GDPを増やす方法はない。ところが日本
経済の人的生産性の上昇は、年率0.5%~1%ととても低い。

アベノミスクでは、政府系金融機関による株買いが企図され、株式市
場では、30%は高い「官製相場」が作られています。政府系金融機関
とは、年金運用のGPIF(総資金量160兆円)、郵貯(同200兆円)、か
んぽ生命(同80兆円)、そして、資金量が無限の日銀です。

最初、郵貯とGPIFが株を買い、かんぽ生命が続き、4番バッターが日
銀です。日銀は、2014年以来、30兆円の株ETFを買っています。コロ
ナショックのあとは、1年12兆円(1回が約2000億円×60回(ほぼ毎
週)です。

政府系金融機関が、「買うだけで売らない」ため、日本株は30%は底
上げされているでしょう。日経平均株価2万2397円(20年7月29日)の
うち30%は、6700円に相当します。

東日本大震災を受けた民主党政権(2012年まで)では8500円を割って
いた日経平均(12年6月)は、安倍政権の(1)量的緩和と(2)政府
系金融による株買いを2つの主因として、以下のように2.3倍に上がっ
ています。平均年率11%での上昇でした。

【1年ごとに見た日経平均株価】
2013年6月 1万3200円
2014年6月 1万4900円
2015年6月 2万 500円
2016年6月 1万7000円
2017年6月 1万9800円
2018年6月 2万2100円
2019年6月 2万1000円
2020年6月 2万2200円

つまり、金融的な原因で、株価が上がったことが、日本の実体経済が
好調になり(失業率は減って)、生産性も高くなっているという幻覚
を振りまいてきたのです。この幻覚は、ドル建て生産性と給与を見る
と、覚めるのです。

【筋違いだったアベノミクス】
アベノミクスの7年は、わが国の低い生産性に着目し、生産性を上げ
る、規制緩和を含む誘導(構造改革)をすべきでした。ところが行っ
たことは、国債を日銀が買って円を増発して銀行の現金(マネタリー
ベース)は500兆円に増やしましたが、円安にすることだったのです。

●円安政策とは、国際基準(ドル)での預金の価値が下がった国民に
とっては、貧困化政策になります。これを示すのが、上表の、日米比
較での産業の生産性です。

ともかく、日本の産業の生産性は、低すぎます。552万円へと、94年
比で110万円下がった世帯所得のため、韓国にも追い抜かれる寸前に
なったのです(主婦の70%の共稼ぎを含む)。

思い起こせば日本は、1980年代の後期は、世界1の所得と資産でした。
現在のスイスのような位置でした。そこからの転落は世界1激し
い・・・
https://news.yahoo.co.jp/byline/fuwaraizo/20190728-00134320/

▼2019年の、世界の平均給与(個人:年間)の比較

モナコ      2023万円
スイス      908万円(金融業)
ノルウェー    878万円(資源国)
米国       683万円(日本の1.5倍:ドル基軸通貨特権)
デンマーク    654万円
シンガポール   639万円(アジアの金融センター)
スウェーデン   598万円
オーストラリア  578万円(資源国)
オランダ     557万円
香港       547万円(中国金融のゲートウェイ)
ドイツ      513万円(マルクから、安いユーロにしたため)
カナダ      487万円(資源国)
日本       449万円(生産性の低さ+アベノミクス円安)
英国       449万円(製造業の空洞化+金融立国)
イタリア     364万円(職人制生産国)
韓国       332万円(2010年代電子産業の勃興)
スペイン     320万円
(注)1ドル=108円換算
https://izanau.com/ja/article/view/salary-ranking-world

生産性の停滞の原因は、世界の主要国と比べたときの、2000年代の、
モバイル化含むDX(デジタル・トランスフォーメーション)の遅れで
す。

数字の処理なので情報化投資の権化であるべき金融業を含む全産業が、
80年代のレガシー・システム以降の、2000年代情報化投資を渋ってき
たことです。なぜ、渋ったのか? 方向と方法が、経営者に見えてい
なかったからです。

■3.レガシー・システムとDXの違い

情報(数字、文字、音声、映像)を、二値の0と1として処理するコン
ピュータの基本原理は、現在のスーパー・コンピュータ(高速処置の
コンピュータ)であるスマホでも同じです。しかしCPUがあるメモリ
の容量は小さく、ディスクでの記憶容量も少なかった1980年代までは
(1990年ころまで)は、必要なデータ容量をどう少なくするかが、プ
ログラムの技術でした。

このため、必要なデータ容量が大きくなる文字、音声、映像の情報は、
IBMが代表だった大型機では、取り扱わなかったのです。マイクロコ
ンピュータ(パソコンの前身)が、やっと、ワード・プロセッシング
(文字情報の処理)を始めたくらいでした。

当時のアプリケーション(アプリ:適用業務システム)は、会社の、
経理情報、売上、在庫の事務計算だったのです。入力方式は、有線で
近くにつないだ、大きなブラウン管のTV画面のような端末からでした。
紙に書かれたデータを、オペレーターが一括して入力し、マスターフ
ァイルを更新するバッチ入力(一括入力)の形態だったのです。こう
したシステムを「レガシー・システム(伝統的システム)」と言いま
す。

レガシー・システムの時代は、日本のコンピュータ利用が遅れている
ということはなかったのです。コンピュータ化が早かった米国と、ほ
ぼ同時に、アプリケーション開発が行われ、まず大手企業が大型機を、
中小企業が中小型のオフィスコンピュータを使ったのです。この面で
の順序を言えば、1位米国、2位日本、3位欧州、中国を含むアジアで
は情報システムはないという時代だったでしょう。

日本の情報化の遅れが生じたのは、
(1)1995年に普及が始まったインターネットと、
(2)Windows95が出た1995年からです。

上記で、1995年からドル換算GDPを示したのは、このためです。
インターネットと、急激に低価格になったパソコン化(OSはWindowや
UNIX)に、わが国は大きく遅れたのです。事務計算のバッチ入力と、
大型機とオフコンのレガシー・システムに自足していて、事務計算が
得意な言語の「コボル」を使う年代の高い技術者は、「パソコンは、
個人のおもちゃだ、会社では使えない」と見ていたからです。

アマゾンが、100万冊の本があるとする、インターネットのWEB販売を、
ガレージオフィスから開始したのが1995年です。このとき、日本では、
通信はISDN(64kBps)に向かう時代でしたが、インターネットを会
社が使うという発想はなかったのです。

このため、プログラム言語HTMLのWEB画面での、オンライン入力とい
う概念は生じませんでした。アマゾンの店舗は、HTMLで作られ、本の
画像を見た顧客が、必要なデータを入力しておいて(会員登録)、ク
レジットカードで決済して買う仕組みです。

大型機によるレガシーのバッチシステムではなく、当時の通信は、遅
くて不安定だったインターネットを介して、遠隔の端末(PC)から入
力する仕組みのものがアマゾンでした。当時に作られた電子メールシ
ステムが、パソコン&オンラインのものでした。

1995年からの、情報化・システム化は、現在はDX(デジタル・トラン
スフォーメーション)とまとめて言われるようになっています。既存
の企業組織の分業に合わせてつくれられていたレガシー・システムと
は違い、(1)企業の組織、(2)分業の形態、(3)仕事の手順まで
も変えていくため、「デジタル化による変身」というのでしょう。

企業とは、分業(Job)を組織化(オーガナイズ)したものです。企
業組織に合わせていたレガシー・システムではなく、企業体そのもの
を変容させるのがDXです。有店舗の書店からは、アマゾンはできなか
ったことからも、1995年からのDXが新しい企業を作ったことがわかる
でしょう。

楽天もZOZOも、異業種からの企業づくりでした。このため、DXは、ト
ップダウンでないと、実行できません。社員(システムエンジニア)
は、組織を変えるシステムの提案はできないからです。

DXについて直接に述べると、1冊の本以上のページ数が必要になりま
す。そこで本稿では、基幹となる用語を12個セレクトして解説します。

■4.DX:デジタル・トランスフォーメーション

モバイル(移動体端末)やクラウド(遠隔コンピュータ)、ビック
データ(総合的な情報)といったデジタルテクノロジーを活用し、顧
客満足を高めるサービスと商品を提供すること。

1990年代までの大型機のメインフレームやオフコンのレガシー・シス
テムの目的は、数値処理、データベース、および管理だった。

2000年代のDXでは、会社内部ではなくデジタル化した数値、文章、音
声、画像、動画を使って、顧客との販売とコミュニケーションの経路
と場面を増やして、強化していくことが特徴である。実店舗に対する
アマゾンの仮想店舗は、インターネットが普及した1995年からのDXの
モデルになった。

2000年代のモバイルは、iPhoneのように、インターネット通信の機能
を装備した携帯端末である。クラウドは、インターネットを介して遠
隔のサーバーでアプリケーションとデータを処理(入力→処理→出
力)すること。

定義があいまいなビッグデータは、商品と顧客のコード情報を使うこ
とだけではなく情報量が多くなる文章、音声、映像情報も含む長期で
大量のデジタルデータをいう。

文字、音声、画像の認識(識別)は、深層学習型のAIによって自動化
される。日本は、世界のDX化に大きく遅れていため、生産性が低い。
小売業では、米国の約1/3の生産性でしかない。

■5.RFID(Radio Frequency Identification::電波起動の個品認識
IC:ICタグ)

微弱電波を照射すると、内部の超小型アンテナが電力を起こし、デー
タを電波で受信装置のセンサーに伝える。数千から数Kバイト以上の
容量があるので、商品コード(日本ではJANコード:13桁)だけでな
く商品仕様、仕入価格、売価、メーカー、製造ナンバー、製造日、消
費期限、賞味期限、陳列棚番号など必要な全データを伝えることがで
きる。

商品マスターファイル情報を個々に備える価格札になる。価格も時期、
機会、時間で変動させるダイナミックプライシングも可能になる。

RFIDをつけた商品や部品は、棚の数百品目の自動棚卸が瞬時にできる
(定置型リーダー)。補充発注の際の、目視による数量カウントと消
費期限の管理は自動化され、代金清算のレジも、電子マネーやクレジ
ットカードで自動化ができる。

発注ロジック(自動プログラム化した数式)とつなぐと、個々の品目
の売上予測数に対して、自動的に最適量を計算し、発注するシステム
を組むことができる。

小売業の現場で、商品担当の人時生産性(売上÷労働人時)を30%以
上は上げる決め手が、商品管理・在庫管理のプロセスにおけるRFIDの
利用と、発注の自動化である。1個10円付近だったRFIDチップはプリ
ント製法で2円と、紙の値札並みに安くなった(東レ製)。2025年に
は1円にまで下がる。商品のIoT(インターネットによる全数管理)の核
になるものがRFIDである。

■6.AI(Artificial intelligence:人工知能)

人間の認識、推論、言語運用を行うことができるコンピュータソフト
をいう。2006年からの深層学習、2010年からのビッグデータにより飛
躍的な進歩を遂げた。グーグルが、猫と犬の顔を5000枚学習させたと
き、犬と猫を自動的に識別できるようになった。

こうしたデータセットの学習を機械学習(深層学習も同じ)という。
2015年からは、この深層学習方式でプロのトップ棋士に勝つことがで
きる将棋と囲碁のAIが作られている。画像認識、テキスト解析、音声
認識が可能になっている。

小売業では商品の識別、顧客の識別、売上予測に使うことができる。
認識および判断能力をもつ機械学習を行わせるには、その認識および
判断にかかわるデータセットを、人間が作らなければならない。

販売のときの自動商品認識と代金の計算にすでに用いられている。将
来的にいえば、陳列棚の商品構成の最適判断にも使うことができる。

■7.QRコード(Quick Response Code:二次元コード)

1方向だけの情報のバーコードと違い、縦横の2方向に0と1の二値情報
により、数千バイトの情報をもたせることができるようになった。ス
マホのカメラでQRコードを認識させ、スマホ内の電子マネーで支払う
方式は、世界中で使われている。

QRコードはスキャナでの商品認識にも使うことができるが、この点で
は、電波で情報を受け渡すRFIDが機能で優れる。日本の自動車部品
メーカーのデンソーが、情報量の少なかったバーコードを改善して、
QR方式で大容量にし、1994年に開発した。数字では7089文字、漢字・
かなでは1817文字まで記録できる。

(1)電子マネーでの決済(中国のAlipayやWeChat Pay)、
(2)航空券、
(3)宅配、
(4)広告紙面や地図上のQRコードをスマホで認識させURLの入力なく
サイトに飛ぶこと、
(5)QRコードを名刺に印刷しメールのアドレスを自動登録すること
などに使われている。
(6)チラシ広告にQRコードを印刷しておき、スマホで注文する店舗
も考えることはできるが、詐欺店舗の問題もある。

数千バイトのデータを、一瞬で、デジカメの機能をもつスマホやスキ
ャナに自動認識させるのがQRコードと考えていい。

■8.仮想通貨(Virtual Currency:暗号通貨)

紙幣や硬貨の形をもたず、電子データのやり取りで決済することがで
きる通貨。電子マネーと仮想通貨は、「それが真正のもの」とする認
証方式が異なっている。認証とは、偽造ではないことを証明すること
である。われわれは紙幣を見て紙の手触りで、偽金ではないと判断し
ている。これを、電子データで行うのが、電子マネーと仮想通貨であ
る。

電子マネーでは、発行元の集権型コンピュータが送られてきたデータ
を真のものと認証して、決済される。仮想通貨では、決済の履歴情報
であるブロックチェーンを、ハッシュ値(秘密鍵)を使って、使われ
た仮想通貨につなぐことで、インターネット上の,複数のマイナーの
クラウドが認証する方式である。

仮想通貨には、金額の額面がなく、日々株価のように変動するICO型
のもの(Bit Coinが代表)と、その国の通貨と連動している電子マ
ネー的なものがある。

中国では2020年に、人民銀行が発行した人民元の仮想通貨が使われ始
めている。フェイスブックの「リブラ」と「人民元の仮想通貨」に刺
激を受けた日米欧を含む、世界の中央銀行も、自国通貨に価値が連動
した仮想通貨を発行する計画をもっている。

2025年以降の世界では「日常の買いものに使うお金は、スマホの財布
内の仮想通貨(電子マネーと同じように、通貨価値はその国の通貨と
固定する形式)」ということになっていくだろう。紙幣がなくなるわ
けではない。買い物での使い方が変化する。輸出入での送金でも銀行
を使う必要がなくなる。

通貨の電子マネー化(または仮想通貨化)は、商品のRFIDに伴って、
生鮮食品でも始まったAmazon-Goのような「レジ自動化店舗」を実現
していく。店舗は、レジで、総人時の40%くらいの労働コストを使っ
ている。

労働時間換算では100人の店舗で40人がレジ要員という意味である。
クレジットカードで使われるのも電子マネーと同等の電子情報である
(クレジットカード会社への請求権=マネー)。
https://blogos.com/article/438565/

■9.ワークフロー(Work Flow:業務の流れ)

作業(タスク)を定型化し、そのタスクを作業工程として一貫した流
れにしたものをワークフローという。業務のデジタル化の,プログラ
ム開発の前提としてワークフロー(フローチャート)が必要になる。

定期発注のときは、
(1)繰り越し在庫数の確認(棚の品目の数量棚卸):廃棄在庫の決定
→(2)過去の売上傾向からの売上予測数作り
→(3)発注のロジック:
今回発注数=(発注サイクル日数+入荷リードタイム)×1日当たり
売上予測数+安全在庫数-繰り越し在庫数といったロジックになる。

安全在庫は、2×売れ数の標準偏差×√(発注サイクル日数+入荷
リードタイム日数)である。売上予測数では、7日移動平均または加
重移動平均である指数平滑法(平滑指数0.3)を用いる。店舗におけ
る販売在庫数の管理とは、最適量の発注数の決定である。

店舗のDXに当たって、もっとも重要な核は、補充発注のワークフロー
づくりである。なお、毎日発注する生鮮品目では、指数平滑法を使う。

天候予測(気温と天気)、販売促進の要因、競合店販促の要因等の多
要素を加えるときは、多変量解析になるので、データセットを作って、
機械学習させるAIになる。なお、在庫管理と混同されることが多い商
品管理とは、在庫管理の在庫数でなく、棚の商品構成管理(品目のフ
ェーシングと構成)のことである。

■10.自動発注(Automatic Ordering)

完全な自動発注は、
(1)RFIDを商品に添付する、
(2)発注時にRFIDで繰り越し可能在庫数を取得する、
(3)適量の発注ロジックを作る、
(4)発注データのインターネット送信によって実現される。
発注ロジックについては、ワークフローの項で述べている。

■11.指数平滑法(EMA:Exponential Moving Average):自動的な加
重移動平均

明日の売上数予測(=今晩の発注数の決定)に使うのに最適なロジッ
クが、指数平滑法である。指数平滑は、近いところの売れ数に、平滑
指数(0.3が適切)で比重を重くした加重移動平均である。

数学的な公式は「今日の売れ数予測(EMA)=前日のEMA発注数+0.3
×(今日の売れ数実績-前日のEMA発注数)」である。前日のEMA発注
数に、前日の発注数と今日の売れ数実績の差(プラスまたはマイナ
ス)の0.3倍を加えていくものである。

店舗では、消費期限が短いため毎日発注する生鮮部門(精肉、鮮魚、
総菜、日配)で用いる。

当方の検証では、「明日の最適納品数(今晩の発注数)=昨日のEMA
発注数+0.3×(今日の販売数-昨日EMA発注数)-翌日への繰り越し
可能在庫数+安全在庫数」が売り場の営業利益にとって最適だった。

安全在庫数は、売れ数の増加変動(5%の頻度)に対応するものであ
るが、営業利益を最適化する安全在庫は「今日の売れ数実績×0.1」
だった。なおEMA発注数の少数点は、四捨五入する。

日量の売れ数予測が10個以内の品目の発注数では、1個が10%以上占
めるため重要になる。指数平滑は、発注数を株価に置き換えれば、株
価の短期予想にも用いることができる(MAC-Dという)。

■12.WEB販売(Virtual Store)

商品情報(画像、商品仕様、サイズ、量など購買決定に必要なもの)
を、
(1)インターネットのサイト(URLアドレス)にアップロードしてお
き、
(2)PCやスマホからの購買を受ける形式の店舗。
1995年からアマゾンがモデルになっている(2019年度年商2805億ドル
:30兆円)。年間増加は20%と高い。

有店舗のウォルマートも、店舗から配送するWEB販売を作っている。
ウォルマートのWEB販売は、新型コロナの影響のある2020年は、前年
比70%で増加している。

食品の販売では、1回が400円かかる宅配費が問題になる(購買単価と
宅配費は日本)。1回の購買額の平均は、食品では2500円程度になる
からである。

ウォルマートでは、年会費19ドル(月会費12.95ドル)払えば宅配費
が要らない会員制食品宅配制をとっている(全米200都市:19年9月)。

2020年4月からは、注文後2時間以内に届ける「エクスプレスデリバ
リー」を2000店舗に配備し、スーパーセンター1店舗分の全商品に相
当する16万品目が対象とした(ただし1回当たり付加配送料が10ドル
とまだ高い)。

■13.オンライン処理(Online Transaction)

レガシー・システムの1980年代までは、インターネットはまだなく、
紙のデータを見て行う入力はバッチ(束のような一括処理)だった。

オンライン処理とは、端末での入力処理がインターネットを介して、
遠隔のサーバーで、時間差のないリアルタイムで行われることをいう。

現在の、「クライアント(端末)~サーバー(本体)」のコンピュー
ティングでは、ほとんどがオンライン処理になっている。オンライン
処理になったことで、自宅での、ペーパーレスなテレワークもできる
ようなった。文字やデータの入力は端末の画面上になりデータの入力
がシームレスになったからである。

なおデータを正規化して集めて整合化したのが「情報」、
・情報から意味を汲み取り、論理的に整合化した文章が「インテリジ
ェンス」である。書籍は、インテリジェンスである。

■14.クラウド・コンピューテング(Cloud Computing)

インターネットを介して、遠隔のベンダーが管理するサーバー内のア
プリケーションと処理と記憶のディスクを利用すること(仮想ディス
クともいう)。

システム開発とメンテナンスコストはかからない代わりに、それらに
相当する利用料金がかる。自社に、DXの開発技術者がいないか、余裕
の会社も多く、クラウド・コンピューテングを利用するところは増え
ている。住宅のレンタル利用と同じイメージである。

■15.アプリケーション(Application:適用業務システム)

データの入力、処理、記憶、出力を行うプログラムをアプリケーショ
ンという。自社のワークフローのアプリケーションを作ることが、
DXになっていく。

(1)自社開発、
(2)ベンダーに機能仕様を指示し、個別に開発してもらう方法、
(3)ベンダーがサーバーのクラウドにもつ共有アプリケーションを
利用する方法がある。

たとえばマイクロソフトOffice365(現在の名称はMicrosoft365)は、
ワードやエクセル等の、共有アプリケーションの利用である。

■16.Wi-Fi(Wireless Local Area Network:無線ローカルネットワー
ク)

PCの利用拠点に、無線ルーター(価格はほぼ3万円以下)を設置して、
PCとLANケーブル(有線)または無線でつなぎ、インターネットを利
用できる。

現在、通信速度は4G(第4世代)であるが、2020年から5G(第5世代移
動体通信システム)が登場した。5Gでは一般に下りの通信の最高速度
が2Gbpsから3Gbps(3ギガビット/秒)、上りが100Mbpsから180Mbpsと、
4Gの約10倍は高速である。

5G通信に対応したWiFi6が、多くの道路拠点に整備されると、大量の
画像データの、瞬間での処理が必要な車の完全自動運転が可能になっ
ていく。

【後記】
久しぶりに情報システムについて書きました。コロナが機会を与えて
くれたのです。ともかく、わが国の、2000年代の情報化であるDX化の
遅れははなはだしい。

1995年以降、日本人の平均所得が、低くなった第一の原因がこれです。
政府は、政府と既存の体制を延命させるマネー増発(これが異次元緩
和)ではなく、デジタル立国を政策にすべきでした。

DXには遅れてしまっていますが、2025年から急速に広がる次世代の情
報化であるAIでは、キャッチアップできるでしょう。

小売業でDX化が進まなかった原因は、
(1)小売業の競合が、DX化の進んでいない国内競争であること、
(2)政府が伝統的な零細小売業の保護行政を続けたこと(中小企業
庁と、経産省)からです。

業界の情報システムを、旧通産省に提案していたとき(1990年代)、
おどろいたことがあります。「情報システムの目的として、生産性の
上昇としてはならない。生産性の上昇は、失業を増やすから」と言わ
れ驚愕しました。

人間が行っている事務処理、情報処理を機械化、自動化する情報シス
テムの目的は、生産性の上昇以外ではないからです。政府の時代認識
が、徹底的に遅れていました。アベノマスクのような当為をはずし政
策が、現在も出る理由がこれです。

行政事務処理に生産性という概念がなく、ハンコと紙の行政だった政
府の、DXの前のデジタル化は、目を覆うくらい、遅れています。コロ
ナショックが、白日のもとに差晒したことです



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