復興予算の財源、GDP、及び政治の迷走
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おはようございます。大震災と原子力発電の事故が、経済の前提と
されていた諸事項を一変させたことは、認めねばなりません。

改めて振り返れば、2000年代の経済は、テロや戦争、信用危機、震
災危機などのショックが、2年から3年サイクルで襲うものになって
います。なぜ、危機が度々襲う経済になったのか、原因は分からな
い。行き過ぎたことが原因でしょうか。

▼対比:2008年9月の金融危機

最近の事例としては、2008年9月からの金融危機(リーマンショッ
ク)があります。金融危機の内容は、常に「信用の収縮ショック」
です。

経済は、有形・無形の商品の生産と流通及び消費と、消費を見込ん
だ投資です。その際に行われる取引(販売と購買)の媒介になるの
が「マネー」、言い換えれば信用です。

「証券」は信用を表象(シンボライズ)するものです。証券に認め
られていた価値が、ショック的な急落を起こした。

起点は米国、次に欧州で、「住宅価格の下落のへの認識」が広範囲
化し、まだ下落するという予想が長期化したことによる、住宅証券
の市場での価格下落でした。

米国の住宅証券は、政府系住宅金融(ファニーメイ・フレディマッ
ク)が保証するもので$5兆(400兆円)、欧州もその金額に匹敵す
るでしょう。

具体的に言えば、ほぼ2006年ころまで、例えば1億円の価値と見ら
れていた住宅証券が、2008年9月には、信用が高いAAA格のシニア債
でほぼ6000万円付近、信用の低いBBB格のエクイティ債で3000万円
以下となって、売買市場が消えたのです。

証券保有で損失を被った金融機関では、一挙に、債務超過(負債が
資産を上回ること)になるところが出ました。

地震のような、物理的な破壊ではない。
しかし信用の破壊は、世界を同時に襲った地震に似ています。

巨大地震がどこでいつ起こるかを知っている「神の目(仮想ですが
)」を想定すれば、その土地の上に築かれた設備の価値は、ゼロに
なる日が見えたでしょう。人間には神の目はない。信用崩壊は、起
こるまでは見えません。

住宅価格は、2007年から下落していました。しかし、確率的な金融
工学で作られた証券の価値に及ぶことはないと見られていました。
その証券の売買市場が、08年8月から9月にかけて、世界的に消えた
のです。

信用崩壊が起こると、昨日までのようには、お互いが信用できなく
なった。金融機関間で、短資資金を貸借する市場は、即日に消滅し
ました(08.9.15)。

金融システム、言い換えれば金融の全体連鎖は、お互いの信用で、
信用を創造しています。具体的に言えば、ある金融機関が保証して
発行する短期債がある。

この短期債を、金融機関間の市場で、売買する(短資取引)。売っ
たところは、現金マネーを得ます。買ったところは、その短期証券
を担保に、他の機関との間で短資取引をする。

この繰り返しによって、金融システムの全体が生む総マネーが乗数
的に増える。そのマネーが経済取引を媒介する信用になる。

住宅証券を含む証券の総損失は、米欧で$5兆(400兆円:IMFの09
年5月推計)とされました。$5兆は、米欧の主要金融機関の自己資
本を消す額です。

【対策】
グローバルに信用が連結した世界で、経済取引が急減し、1929年に
匹敵する大恐慌に陥るところでした。

実態経済の恐慌を避けるため、米欧の中央銀行と政府は、下落した
証券の買い取り(例えば、FRBによるMBS証券の買い取り)と、金融
機関への緊急の融資を行った。

これが米国FRB、欧州ECB、インランド銀行、日銀、中国銀行の同時
信用拡大であり、政府では財政赤字の増加でした。これによって、
急落した株価が上がり、急落していた国際コモディティも上がった

総体の集計はありませんが、多分、米欧の金融機関の含み損失額だ
った$5兆に相当する、中央銀行と政府の信用増加(信用供与)が
あったはずです。

(注)現在も、それが続いています。世界のGDPが増え、株価が企
業利益の増加を原因に上がり、住宅価格が回復しないと、この損失
の回復もできません。

中央銀行と政府の信用拡大(=マネー供給)によって、約2.5年、
金融機関のシステミックな信用崩壊は、避けられた。しかし民間経
済(世帯・企業)では、信用が減った。

具体的に言えば、価格が30~50%下落した住宅を所有する世帯は、
ローン破産のためそれまでの信用が減って、商品購買を減らさざる
を得ない。商品購買の減少が起こって、日本は輸出を急減させます

金融危機の前の、日本の輸出額(名目)は、08年7~9月で24兆円(
12ヶ月換算でその4倍の96兆円)でした。金融危機後の2009年1~3
月は13兆円(同52兆円)と、46%も減ったのです。年換算では96-
52=44兆円(GDPの約8%)の減少でした。

【日本への波及】
日本経済(GDP)にとって、輸出増はほぼ2倍の乗数効果をもってい
ます。輸出が1兆円増えると、波及効果でGDPが2兆円増える。

年換算で44兆円の輸出の減少は、逆波及で88兆円(GDPの17%)の
日本のGDPを減らす可能性があったのです。

【名目GDPで見る】
金融危機前からの日本の名目GDP(3ヶ月を年換算したもの)は以下
です(内閣府)。

名目GDPは、物価の騰落(今は下落)を含む原数字です。企業の売
上、所得、世帯所得は名目数値なので、今は、GDPを名目で見たほ
うがいい。新聞等で発表されるものは、名目値に、今は年率で約1.
9%の物価の下落率を加えた実質GDPです。

2008年7~9月期  498兆円(08年9月が金融危機)
2009年1~3月期  469兆円
    4~6月期  472兆円
    7~9月期  468兆円
   10~12月期  472兆円
2010年 1~3月期  482兆円
    4~6月期  478兆円
    7~9月期  480兆円
   10~12月期  475兆円
2011年1~3月期  469兆円(11年3月11日が大震災)

【大震災以降の経済】
年間換算の名目GDPは、2010年の10~12月期が、475兆円でした。20
11年の1~3月期は469兆円(1.3%減)です。

上の表の、何でもない数値から、以下のことが分かります。

(注)政府、マスコミは、こうしたとき、減少を小さく見せるよう
な解釈をすることが多い。政府がそうする理由は、対策費を少なく
するためでしょう。マスコミは政府(GDPでは内閣府)の解釈を載
せるだけです。

3ヶ月で1.3%の減は、年率換算では、4倍(12ヶ月分予想)であり
、1.3×4倍=5.2%の減少に相当します(名目GDP)。

今回は、大震災と原発の影響から、全企業の平均所得と全世帯所得
が、1年で5.2%減る傾向と見ることができます。平均年収700万円
の世帯で35万円の平均所得減に相当します。

(注)需要面のGDP=生産面のGDP=所得面のGDPです。GDPの3面等
価と言います。

GDPの減少があったのは、3月11日以後です。20日間での減少ですか
ら、3.11以後の瞬間風速での名目GDPの減少は、5.2%×4.5倍=23.
4%と見ることができます。

百貨店、GMS、レストラン、ファッション、ホテル、旅行、車等の
平均売上減は、この数値に匹敵しています。

リーマンショック直後のGDPの減少は、上表(498兆円→469兆円)
から、3ヶ月後で6%でした。年率換算の瞬間風速では、6%×4倍=
24%です。これは3.11以降、20日間のGDPの減少の、瞬間風速であ
る23.4%とほぼ同じです。

短期で言えば、東日本大震災は、08年の9.15とほぼ同じ規模のショ
ックで、GDPの減少(23.4%)をもたらしたと評価できます。

GDPの大きな減少が、1995年の阪神淡路大震災とは異なる点です。

【鉱工業生産】
ただし3月に15%も落ち込んだ鉱工業生産では、部品サプライチェ
ーンの破壊で落ちこみが最も激しかった自動車生産(11年4月29.2
万台:前月比60%減少)も、6月には前年比90%台への回復が予想
されています(トヨタ)。

10月ころには、鉱工業生産の回復も見られるでしょう。その際の、
ボトルネックになるのが、想定されている全国の原発の80%停止に
よる大口契約需要家での動力不足です。

10%節電で、工場の動力の稼働時間が90%に減れば、生産量も90%
に減ります。工場は動力源の電力がないと、商品生産ができないか
らです。

店舗、オフィス、家庭の節電(例えば25%の冷房費の削減等)と、
工場の事情は異なります。店舗は25%の冷房費を減らしても、売上
にはあまり関係はない。

【小売業】
4月の、わが国小売業全体(100万店)の売上は、10兆8550億円で、
前年同月比で4.8%の減少です。自動車販売の38%減が大きく影響
しています(経産省)。

他方、大型小売店の売上は、11年4月には前年比0.9%減にまで回復
しています。このうち、3月に売上の落ちこみが15.4%と大きかっ
た百貨店も、4月は2.4%減にまで戻りました。

チェーストアの4月売上は、0.1%減です。
コンビニの4月売上は、前年比で3%増です。

【ホテルの稼働率】
全国主要19ホテルの、客室稼働率は3月が49.8%でしたが、4月は更
に落ち込んで40.5%でした(日経新聞調査:11.05.25)。

特に、放射線問題と、海外からの旅行者急減のため東京地区の稼働
率が40.5%(昨年は81.4%)と低い。大阪地区は73.1%(昨年は83
.9%)です。

ホテルの稼働率は、超大型連休で若干回復したものの、5月の第二
週からは、再び稼働率が低下しています。外人旅行者がもとに戻る
には2年かかるとも見られています。

当初想定されていたより、回復に長期がかかります。外人の旅行者
数は、原発問題の収束如何にかっているからです。(注)原発問題
に関する米欧のマスコミ報道は、日本のものとはトーンが違います

以上のようなGDPの落ち込みをカバーできるのは、復興需要と政府
の復興投資以外にない。以降でこれがどう向かうかを予想します。

【名目GDP5%減の、大変な意味】
現状の名目GDPの傾向は、5%減(年間でマイナス25兆円)という感
じでしょう。

企業で言えば、GDPである粗利益収益を増やすところが常に10%は
あります。30%が横ばいでしょう。30%が減少、20%のグループが
急減になる。

GDP全体での5%減(25兆円)は、一見、たいしたことはないと感じ
られます。

しかし、売上収益(GDPに対応するのは粗利益)を減らすグループ
では10~15%減になり(企業数の30%)、下位グループ(企業数の
20%:5社に1社)では、20%以上の売上収益減になります。

GDPの5%減少、言い換えれば、会社のうち20%のグループにおいて
、20%~30%の売上減少が半年から1年も続けば、資本蓄積(過去
の留保利益や含み利益)に乏しいところは支払い資金が不足する信
用危機から消滅し、雇用は失われ、失業が急増してしまうからです
。失業の増加は更に買い物を減らし、企業の売上を減らします。

このため、どこの国でも年間GDPの5%減は「大変なこと」になりま
す。名目GDPを増やすとは言わないまでも、減少させない金額(25
兆円)の、政府による対策が必要です。

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  <541号:復興予算の財源、GDP、及び政治の迷走>
        2011年6月1日号    
【目次】

1.電力不足と鉱工業生産
2.復興需要、復興投資
3.ケインズ策が有効なときは?
4.資金需要が生じて金利が上がる
5.増税や電力税は愚策
6.繰り返し、財務省に要請

【後記:政治】

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■1.電力不足と鉱工業生産

地震直後の3月には、夏のピークでの東電管内での電力不足が25%
もあり、産業の大口需要と家庭で、大規模な計画停電が必要だと見
られていました。

その後、原発での発電量は全国で30%付近であっても、それは「発
電能力」の30%ではなく、火力と水力には発電力の余剰があること

火力と水力による発電のピーク・ボトム調整によって総電力が供給
されていることが明らかになり、8月のピーク時の供給にもほぼ間
に合うとされました。

しかし、全国54基の原子力発電設備における耐震設計の安全基準が
震度6付近であること、加えて、プラント全体の津波対策では不備
があることが、その後、明らかになっています。

半年~1年内に、相当な確度で想定されるM8規模の余震、そして30
年内の発生確率が80%以上とされている東南海地震に対する備えが
不十分とされた浜岡原発は、首相の要請で、津波対策のため稼働を
停止しています。

浜岡原発が万一福島並みの大事故を起こせば、風下にあたる首都圏
の機能は停止し、日本経済の全面崩壊を招きます。「あり得ない」
とされていたことが、福島原発の大事故とともに「あり得る」とい
う認識に転じたのです。浜岡に付随し、2011年の夏には80%の原発
が稼働を停止するという予測に変わったのです。

稼働中の原発も、ほぼ1年内に全部が定期点検期を迎え、再開の際
の耐震・津波の安全基準を上げると、相当な期間(不明)、全部の
原発が停止することを予想せねばならなくなりました。

54基の原発の再稼働は、世論が納得するレベルの対策が完了するま
で、長期間、ないということに変わっています。

(注)数年はかかるでしょう。原発の新設も、地元の反対運動で、
無理になる可能性が高い。対策は、火力発電の増強です

原発の全面停止があると、全国で需要ピーク時の電力は5%~10%
は不足します。火力・水力も発電力の100%は稼働できず、原発と
同様、定期点検での休止期間が必要だからです。

火力・水力で、メンテナンス期間以外はフル運転でも、年間平均稼
働率は80%が上限でしょう。電力不足が「ピーク時節電」によって
、どの程度になるか、まだ不明確です。

日本経済研究センターは、2011年1~3月の鉱工業生産指数の前期比
減少を2%とし、4~6月期 -3.2%;7~9月期 +0.7%;10~12月
期 +4.0%;2012年1~3月期 +3.6%と予想しています。(日経新
聞11.05.27)(注)製造業のGDP比は20%です。

当方、想定より長期化する電力不足の波及的な影響から、鉱工業生
産は、日本経済研究センターの回復予想より、1~2ポイント%低く
なると見ています。最短でもほぼ2年間、長期化する電力不足で、
生産量の回復が遅れるためです。政府にこの認識があるかどうか・
・・

(注)電力不足では、発電量と需要量を確定的に予想できず、事態
がまだ流動的であるためか、生産量と関係づけて予想をしていると
ころは、まだ、少ない。

【動力用の電力が問題】
既述したように、工場の動力用電力が5%不足すれば、生産量はそ
れに比例し、5%は減ります。

店舗や家庭の冷暖房や照明の節約と、工場の動力用電力の節約は、
意味が違う。生産用の機械は、ほぼ全部が電力で動いているからで
す。

家庭での太陽光発電は、首相が目標にした1000万戸(20%の世帯)
に設置しても、総電力は5%(年間500億KW時)です。電気代相当で
1KW時を20円として1兆円です。わが国の必要電気量は、1年で1兆KW
時です。

全原発分を補うためは、(1)集電と配電のスマート・グリッド、
(2)2000万戸での太陽光発電、(3)蓄電設備、(4)メガ・ソー
ラー、(5)地熱、(6)風力、(7)産業の自家発電との複合化が
必要です。以上は、2年内には稼働できません。

政府が実行すると決めた後、5年はかかる。電力では、電力会社に
よる地域独占を許してきた政府の政策変更と、自然エネギーへの補
助金がないと実行できません。

2度のオイルショック(1973年、1980年)のときは、原油の供給が
途絶したのではない。価格が上がりました。このため経済成長率は
低下しましたが、生産量の大きな減少はなく、製造原価が上がって
物価の上昇になりました。

原発の停止による電力不足は、石油危機と性格が異なります。

生産に使う動力の、稼働時間の短縮が起こる。全電力(年間1兆KW
)のうち25%(2500億KW)が家庭用、75%(7500億KW)が産業用で
す。その7500億KWの産業用のうち50%(3750億KW)が動力用です。

動力用に及ぶ不足が、商品生産量の減少を生みます。工場は、生産
してないとき動力電源は使っていません。節約は、できないのです

(注)24時間稼働をしていない工場では、稼働時間を午後11時以降
の深夜から午前7時ころまでの早朝と、週末にシフトする体制は採
られるでしょう。

■2.復興需要、復興投資

【20兆円】
大震災地の物的な損害が25兆円規模(阪神淡路の10兆円の2.5倍)
と想定されることから、2年間の復興需要と復興投資は20兆円が想
定できます。1年に10兆円規模(年間GDPの2%に相当)です。

政府の公共事業分は、最低でも2年で10~15兆円が必要で、民間分
が5~10兆円になるでしょう。

東電が払えない原発の賠償費(2年で推計5兆円)がかかるため、政
府の対策費は増えます。

(注)なお原発の賠償費は、2年(5兆円)では終わらない。その2
倍の10兆円程度かかると見ます。これに福島第一の6基の廃炉まで
の総費用2兆円が加わる。同時に、火力発電用のLNGの増加輸入は1
兆円/年と推計されています。他に、浜岡を含む他の原発の対策費
や、問題の「もんじゅ」と「六ヶ所村」もある。

阪神・大震災のとき、10兆円の物損に対し、1995年1月の震災後に
注がれた復興費は13兆円でした。損害を上回る復興費・復興投資で
した。このため、GDPの低下はなかったのです。

1995年の大震災では3年間の政府の補正予算は3.2兆円(構成比25
%)でした。75%の9.8兆円(震災後5年)は、民間が出したのです
。2007年の金融危機の前の、1995年当時は、日本経済に今より貯蓄
と余力がありました。

【第一次補正予算4兆円は決定:財源は未定】
政府が緊急に決定した第一次補正予算は4兆円です。財源としては
、基礎年金の国庫負担(50%)分2.5兆円を転用することが決まっ
ています。

年金基金に対し、政府が1年に補填すべき2.5兆円を震災の対策費に
使うということです。他の1.5兆円も、他の予算の分を転用する。
国家公務員の報酬(3兆円)の10%削減も決めています。

自民党は補正予算の転用案に反対し、「復興事業債」の発行を主張
しています。

【第二次補正予算は最低で10兆円が必要だが・・・】
一次補正予算が含んでいない原発事故の賠償を入れるべき第二次補
正予算は、最低でも10兆円が想定できます。いや想定ではなく、そ
の予算を組まねばならない。しかし今の政府の方向では、財源が何
か不明です。

消費税の増税(4%上昇で10兆円/年)を充てるなら、GDPの増加要
素にはならない。あからさまな日銀による復興国債の引き受け(マ
ネー印刷)を財源にするなら、為替市場で円の下落からの金利上昇
が予想できます。

(注:参考)米国FRBの、QE2による$6000兆円(48兆円)の米国債
買いは、ドル信用の下落によるドル安を生んでいます。ドル安とは
、ドルの証券価値が、額面より下がることです。米国内の金利上昇
はありませんでしたが、海外通貨との関係では、米国債の実効価値
がドル安の分下がったことで、米国債をもつ国にとってドルの金利
上昇と同じことが起こっています。

日銀が、米国のQE2と同じ方法で、10兆円規模の補正予算のため日
本国債の増加引き受けをすれば、内外からの円売りと日本国債の先
物売りを惹起し、国債の下落と金利の上昇に向かうでしょう。

(注)必要な二次補正予算を組まなくても、2011年度の一般会計の
財政赤字から、国債発行は最低でも40兆円必要でした。震災の損害
によって、当年度の税収が仮に当初の財務省の予定より5兆円減れ
ば、その分の5兆円が加わって45兆円になります。(注)当年度の
国債発行に必要な特例法は、まだ成立していません。管内閣では、
成立の目処がないのです。

ところが・・・こうした財源問題があるにせよ、原発事故の賠償と
復興事業は、実行せねばならない。

財源がないから、原発被害の賠償はしないということはできない。
財源がないから、津波の被災地の復興投資は行わない、中小企業、
農業・漁業の自営への対策費はないということはできないからです

■3.ケインズ策が有効なときは?

ケインズ策とは、民間に需要と投資の不足(つまり貯蓄の超過)が
あるとき、政府部門が代わりに公共事業を増やし、つまり公共部門
の需要を増やして、経済を引っぱることです。

政府予算による復興需要と復興投資は、ケインズ策になります。第
一次補正予算4兆円と、想定される第二次補正予算10兆円、合計で1
4兆円は、このケインズ策になるのです。

ケインズ策によるGDPの増加は、民間部門に余剰貯蓄があって、そ
れが消費と投資に使われてないときに有効になります。

需要面のGDP=消費+投資です。消費不足と投資不足が、貯蓄です
。その貯蓄を政府が国債発行によって吸収し、それで公共事業を行
う。これで、国民経済の供給力(=生産力)と需要が均衡して、GD
Pが増えます。

ところが今回は、今までとは、ケインズ策が有効になる事情が異な
ります。電力不足のため、増える復興需要と復興投資(2年で20兆
円)をまかなう生産増ができない可能性が高いのです。

(注)野口悠紀夫氏が、雑誌『文藝春秋』(2011.6月号)に書いて
いる「震災インフレ・最悪のシナリオを避けるには」を読んで、当
方も、生産力に生じたこのボトルネックに気がついたのです。

1年で10兆円、2年で20兆円の復興需要、原発賠償、復興投資を政府
が行えばどうなるか? その需要を満たす商品を生産する企業にと
っては、特需的な1年で10兆円、2年で20兆円の売上になります。こ
れは行わないで済ませることができない。必ず、行わねばならない
ものです。

■4.資金需要が生じて金利が上がる

▼復興需要・投資のための資金需要

港湾や田畑の土木工事、住宅、店舗、工場、オフィスそして社会イ
ンフラ(道路、公共設備)の建設需要です。波及して店舗で売る商
品の需要にもなる。それを提供する企業には、資金需要が生じます

今までは返済一方で借りなかった企業が、復興需要を見込み資金を
借りるようになる。そうすると、国内で金利の上昇が起こります。
この金利上昇は、国債価格を下落させます。

▼国債の資金需要

政府は1年で10兆円規模の補正予算と、もともと必要だった40兆円
の国債増発、そして長期国債の借り換え債100兆円の合計で、150兆
円の国債を発行せねばならない。

【金利の上昇が起こると】
現在(長期金利1.12%)から2%金利が上がって3%台で止まっても
、1年に3兆円ずつ国家財政からの利払い費が増えて行きます。社会
福祉費(医療+介護+年金+生活保護費等)は1年で約4兆円は増え
ます。1年に7兆円も政府財政の赤字が増えて行く。

つまりは、政府の金庫から払うお金が、枯渇します。これが財政破
産です。このことの意味は、保険医療費、年金、社会福祉費、そし
て公務員給料に遅配が起こるということです。

(注)NY市では公務員給料と公費の支払い遅延が1980年代に起こっ
ています。現在、財政が破産に向かっているカリフォルニア州がこ
れかもしれません。

▼日銀の国債増加買いの顛末(てんまつ)は・・・

政府の財政破産を避けるには、期待金利(将来へ向かった予想金利
)が上昇することよる国債価格の下落を避けようとする金融機関の
国債売りを、日銀が買い受けることしかない。

国債市場で売られる1%台の低い金利の国債市場の金利を上げない
ために、日銀が買うことになるでしょう。そうすると何が起こるか
、海外から日本国債の先物が売られることによる円の下落です。

(注)野口悠紀夫氏は、前掲論文で、復興需要・投資の1年10兆円
の増加による企業の資金需要と、国債発行の増加は、金利の上昇に
なる。その金利の上昇が、海外からの円買い(=円国債買い)を促
して円高になるとしています。オイルショックの後の円高がこれだ
ったとしています。

当方の見解は、異なります。企業と政府の資金需要の増加から期待
金利の上昇の気配が起こると、海外ファンドによる国債の先物売り
(円売りになる)が起こって国債が下落し、金利だけが上がって、
円は安くなると予想します。

【金利上昇と国債価格の関係】
金利の上昇と国債価格の下落は、政府債(国債+短期証券)を約10
00兆円もつ官民の金融機関(日銀・郵貯・簡保・年金基金と民間金
融機関)に、含み損をもたらします。

1%の金利の上昇で、長短の平均残存期間が6年の国債は、(1+1.1
2%×6年)÷(1+2.12%×6年)=0.95・・・つまり5%下がりま
す。1000兆円×5%=50兆円の損です。

2%の金利上昇なら、日銀を含む官民の金融機関に100兆円の損害が
生じ、ほぼ全金融機関の自己資本が消えます。これは、ちょうど、
わが国金融機関に対する、リーマンショックのような金融危機を意
味するのです。

以上から、日銀によるあからさまな国債引き受けは避け、何らかの
形で、復興需要と復興投資のための政府予算の財源を調達せねばな
らない。

■5.増税や電力税は愚策

【財務省的な発想は、愚策】
野口氏は増税を提案しています。財務省の狙いと同じです。現在の
所得税と法人税が20兆円、これに臨時的に10%の付加税を課して2
兆円を政府収入とする。

そして電力税(電気代の値上げ)も課す。
及び、消費税の増税です。
(注)消費税は1%で2.5兆円に相当します。

以上は、なるほど「財務省的な発想」です。当方、これから数年、
復興需要と復興投資がなければGDPが縮小する経済の中で、以上の
ような増税策を採ることは、世紀の愚策と考えています。

【振り替わりにすぎない】
増税による財源で、復興需要と復興投資(2年で20兆円)を政府が
行っても、それは、民間の消費と投資の、増税分の減少の振り替わ
りです。民間(企業と世帯)の所得に課税し、その課税分を予算と
するにすぎないからです。合計したGDPは、減ったままでしょう。

GDPが減れば、所得の減少ですから、政府の税収は減ります。増税
分が消えるくらい減る。意味はないのです。むしろ経済の破滅に向
かうことになる。

【GDPの構造】
需要面のGDP(478兆円)=民間消費(279兆円)+住宅投資(13兆
円)+企業の投資(67兆円)+政府消費(96兆円)+公共投資(19
兆円)+輸出(73兆円)-輸入(68兆円)です。

(注)数値は名目値:2011年3月期:内閣府
http://www.esri.cao.go.jp/jp/sna/__icsFiles/afieldfile/2011/05/23/jikei_1.pdf

政府が10兆円の増税をして、上記の公共事業を19兆円から29兆円に
増やしても、その財源が増税なら民間消費(279兆円)と企業の投
資(67兆円)から、増税10兆円に相当する分が減るに向かうからで
す。

消費税で例えれば、これが分かるでしょう。5%の消費税を10%に
上げれば、政府には、確かに10兆円(+5%分)の増収があります。
それを復興予算の財源にして、現在19兆円の公共投資を29兆円に増
やす。2011年度と2012年でこれを行う。

【物価の5%上昇】
民間消費はどうなるか? 現在100円の商品が105円に、1000円のも
のが1050円に、1万円のものは1万500円に上がります。10万円の家
電は10万5000円です。200万円の車は210万円になる。

消費税が3%で創設されたのは1989年(バブル経済の最盛期)でし
た。このときは世帯所得も増えていました。消費の縮小にはならな
かった。

次に2%上げたのが1997年の橋本内閣の時代でした。この時期は、
世帯所得が減少に向かい始めた時期でした。このため民間需要は減
って金融危機に向かったのです。

今、震災後の世帯所得・企業所得は、大きな減少を被っています。
この中で5%も消費税を上げて、物価が5%上がると、その分、民間
需要は減ります。恐慌に向かうような減り方になる可能性もあるの
です。絶対にとってはならない愚劣な策が、増税です。

■6.繰り返し、財務省に要請します

補正予算の財源はどうするか。政府(財務省)が管理している外貨
準備($1.1兆:88兆円)の売却です。つまり米国債の売りです。

補正予算20兆円(決定した一次補正4兆円+次の二次補正等で16兆
円)を、米国債の売却で調達することです。

米政府は反対し、円高・ドル安に向かうでしょう。FRBが買い取る
ことになります。これは米国にとって、QE2の次に米国債を買うQE3
になる(量的緩和第3段)。

想えば、小泉内閣の時代(2003年)でした。日本政府は1年に30兆
円のドル債を、米国のイラク戦費のために買っています。このため
政府の外貨準備は、2003年に、一挙に30兆円も増えたのです。

大震災の後の日本政府が、この30兆円より少ない20兆円分の米国債
をFRBに売るのに、米政府が文句を言えるはずもないのです。

【後記:政治】
小沢一郎氏と鳩山悠紀夫氏が同調したことによって、自民党が6月1
日に提出した内閣不信任案に対し、小沢派から77名、鳩山派から20
名程度(ただし自主当票と言う)の同調者が出る感じになっていま
す。

議員を増やせる自民党は選挙をしたい。大幅に議員が減る民主党は
選挙を避けたいという力学が、内閣不信任案の原因でしょう。

自民党には賛成できない共産党(9名)は、棄権と言う。社民党は
、まだ、方向が定まっていません。国民新党、新党日本、無所属は
どうするか? 採決は6月2日の午後の、衆院本会議です。

可決されれば、内閣の総辞職か、衆院の解散・選挙です。

否決され内閣がそのままでも、不信任案に賛成した民主党員は除名
にすると岡田幹事長は言う。

参院は野党が多数のねじれ国会です。民主党が除名で分裂すれば、
連立与党が衆院で2/3を失うため、法案は一層通らなくなります。
これは政権与党の政策立案と、実行の不能を示します。ひどいこと
になる。

どう言えばいいか。国民経済の危機に当たって、否決されても可決
でも、2ヶ月は政治不在を招くことを政治家が行うことになる。迷
惑な話です。

麻生政権の後のブームで議員になった民主党の議員の大半(約150
名)は、総選挙になると議席を失うでしょう。このため、自暴自棄
になっているように思えます。何よりも選挙が怖い。選挙で落ちる
ことを怖がる政治家は、政策を立案する政治家ではあり得ないので
す。

国民からも指示を失っている管内閣は、内閣不信任案がかろうじて
否決されても、政策の立案・実行力を失います。今、政府の対策が
、何より急がれる時期です。総辞職すべきと考えます。

その後は、復興政策が遅れる政治不在を招かないよう、民主党の分
裂と自民・公明との連立による新政権でしょう。

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