日米欧の政府は、資金源がなく、同時に、大きな政策実行で無能になった
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おはようございます。今年も、もう11月です。暑い日を多く感じま
す。調べると、10月8日まで平年(1981年~2010年の平均を言う)
より2度くらい低い日が続きましたが、その後は2度くらい暑い日が
多い(最高気温の比較:大阪)。11月も、普通より、気温の高い日
が多いとの予報です。

原発が11基で、原子力依存度が50%近くに高い関電管内は、今年の
冬は、10%もの電力不足が言われます。停止中が7基あり、稼働中
の4基も、2012年2月までに定期点検(燃料交換)を迎えるためです
。

本稿の前半は、政府政策の奇妙さへの、猛省と変更を促すためのも
のです。世論になれば、政府も変わらざるを得ないからです。後半
は、EUが、2011年に3度目の「金融包括対策」をとっても(10月27
日)、逆に深化するユーロの金融危機、および通貨危機についてで
す。

世界共通に、多くのことで、政府政策が、国民にとって無効とみな
される時期を迎えています。理由は、政府都合が透けてみえるため
です。国民のためのものではない。政府の都合のためだからです。


たとえば原発政策も、政府です。政府財政の赤字が大きくなって、
その政策目的がみえるようになったのです。政治が、特定の勢力や
集団の利益を図る政策をとるようになったからです。御用学者や、
専門家集団が、統計を捻じ曲げても、その論理を作っています。

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<562号:日米欧の政府は、資金源がなく、同時に、
大きな政策実行で無能になった>
       2011年11月2日号

【目次】
1.食品の、放射線安全基準についての疑問
2.TPP(環太平洋戦略的経済連携)で問題にされる日本の食料自給
率
3.円高介入の原資の問題
4.為替差損を回避する簡単な方法はある
5.ユーロの、金融市場からの信任という問題

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■1.食品の、放射線安全基準についての疑問

10月から増える新米の売れ行きが良くない。卸価格では、古米が高
くなっています。平年より20%くらい価格が上がっています。食品
1kgあたりの暫定基準値(500ベクレル未満を安全とする)に、疑問
があるためでしょう。

体内に摂取すれば内部被曝する食品のベクレルと、人体への放射線
の影響を示す量であるシーベルトは、どう換算するのか。ベクレル
は、1秒に1回、放射線が出る値です。500ベクレルは、500本/秒の
放射線が出るという単位です。

食べたときの年齢、放射線毎に半減期、年齢別に見た体外へ排出期
間が核種毎に異なるため、体内影響は複雑です。半減期が30年のセ
シウム137では、経口摂取のとき、ほぼ以下の、内部被曝の実効線
量が、生涯被曝量のメドになります。(図書館情報学研究室 村山
遼さんの算式で計算)

      ベクレルに掛ける数        500ベクレルの
      (実効線量係数)      食品1Kg摂取あたり生涯被曝量
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

3ヶ月   0.000021         0.0105ミリシーベルト(内部被曝)
1歳     0.000012         0.0060ミリシーベルト
10歳    0.000010         0.0050ミリシーベルト
成人     0.000013         0.0065ミリシーベルト
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

http://panflute.p.u-tokyo.ac.jp/~kyo/dose/ (←計算式)

実際の被曝は、いろんな食品や飲料が含む核種を体内に摂取し、留
まる期間の内部被曝、その半減期、および外気・土壌・建物から外
部被曝を累積で合計せねばなりません。何が目処になるのか?

食品からの摂取の概算の構成比では、放射線量で半減期が30年のセ
シウム137が65%、同2年のセシウム134が25%、その他がほぼ10%
と考えて良いので、上記のセシウム137で65%を代表できます。

(注)米だけで言えば、日本人1人の、平均年間摂取量は60kgです
。1年間で、ほぼ体重分のコメを食べています。仮に、1kgあたり5
00ベクレルの線量の米を成人が1年食べると、上記の算式で、0.00
65×60kg=0.39ミリシーベルトの生涯被曝量です。30年食べれば、
およそ30倍と見て、米だけで、[0.39×30年=11.7ミリシーベル
ト]の生涯被曝量になります。

食べるのは、米だけではない。1日1800キロカロリーが平均熱量と
すると、穀類(米や小麦を含む)でほぼ500グラム/日(=800カロ
リー)です。それに肉、魚、野菜・果物などの、複合的な食品摂取
を概算で計算すると、200グラムの牛乳類を含み、飲料を除いて、1
日1600グラムくらいです。[1600グラム×365日=584kgの食事/1
年]

年間で、584kgの食品摂取ですから、体重60kgの人でほぼ10倍の重
さの、調理後の食品(食事)を食べています。食品摂取量は、1年
に体重の10倍くらいが平均と見ていいでしょう。

仮に全部が1Kgで500ベクレルの放射線量を含むとすれば、成人で0
.0065×584kg=3.8ミリシーベルトです。30年の食品摂取で30倍
ですから、約100ミリシーベルトの内部被曝量と見ることができま
す。

●今回、食品安全委員会(内閣府)は、生涯の食品摂取で、100ミ
リシーベルト以内を安全と発表しています(11年10月)。

これは、あらゆる食品の複合摂取で、1kgあたり500ベクレル以下の
線量なら安全とした基準値です。今、計算して分かりました。

つまり、従来の、個別食品の安全基準(暫定基準は食品1Kgが500ベ
クレル未満)の踏襲と延長です。つまり、官僚と委員会の時間費用
(人時)を使って、従来の安全基準を再確認することしかできてい
ません。

生涯100ミリシーベルト以下という食品の政府基準に対し、実際の
人体への影響では、
(1)内部被曝では、飲料を加え、
(2)外部被曝では、福島原発の影響によるもの、
(3)従来からの、自然被曝量(日本は、年間約1ミリシーベルト)
、
(4)そして、放射線を使う医療検査も加算せねばならない。

水分の摂取量は、1日の体からの水の排出量(2000~2500グラム)
と同じで、2kg~2.5kgです。1日の食品に含まれる水分が1kgくらい
なので、われわれはほぼ1~1.5kgを、食品以外の飲料(水や清涼飲
料、ジュース、ビールなどの酒類)として飲んでいます。

このため、1日1~1.5kgの飲料が含む放射性物質を、上記の食事(1
.6kg)に加算せねばならない。また、加算すべき、土壌や大気か
らの外部被曝量(空間線量)は、居住地で大きく変わります。この
ため、食品だけでは安全と言っても、人によっては、数百ミリシー
ベルトという、明確にガンを増やす危険な領域の人が、相当に増え
るはずです。

特に、子供は深刻です。スーパーで食品の産地を選ぶ、子供をもつ
主婦のまなざしは真剣です。政府は、いい加減なことしか言わない
と考えている人たちが過半です。

食品、飲料、および外部被曝による複合を考えれば、食品での生涯
の内部被曝の安全基準は、政府が言うよりはるかに低く、20~30ミ
リシーベルト未満でなければならない。現在の政府基準(暫定基準
の踏襲)は、ほぼ3~5倍も高いでしょう。

素人が1時間考えて計算すれば、以上のことは簡単に分かることな
のに、なぜなのか?  放射線の安全に関し、政府の恣意的な方針が
あるとしか思えません。国民の健康を守るべき職務の厚労省は、何
をしているのか?

食品での生涯内部被曝基準を生涯で30ミリシーベルトに下げると、
食品1kgあたりで150ベクレル未満が新たな安全基準です。該当する
食品は、現在の何倍に増えるでしょうか。政府は、将来の国民の健
康を守るということでなければならない。

風評被害が生じる理由は、政府の安全基準に、明らかに疑念がある
からです。食品や飲料1kgあたりで150~100ベクレル未満を新基準
とし、複合被曝でも安全とすれば、産地で見る風評も消えるでしょ
う。

政府が、誰でもその嘘が分かるような甘い基準を出しているため、
疑念による、産地忌避が起こっています。食品スーパーも、どうし
ていいか、戸惑っています。

政府と東電には、原発被害の賠償金を少なくしたいとう当為がみえ
ます。政府の、猛省を促します。

▼重大事故の確率で見えた藪蛇

なお、政府(原子力安全委員会)は、日本の原発の、放射性物質を
外部に拡散する福島原発のような、原子炉の重大事故(シビア・ア
クシデント)の確率は500年に1回であると発表しています。

500年と聞けば、普通は、われわれが生きている間は、原発が安全
に見えますが、まるで、違います。日本には、福島第一の6基を含
んで、54基(原子炉数)の原発があるからです。1基の重大事故が5
00年に1回なら、日本全体では、[500年÷54基≒9.3年]に1回の
、未来確率に近いからです。

「(皮肉にも)事故が起こらないうちに、54基の原発を廃炉にして
おかないと、近い将来は大変」というのが、政府の見解から見える
ことです。

(注)世界の原発は435基で、計画中が531基です。ほぼ、1年に1回
は、福島第一に似た重大事故が起こることになります。政府は、「
500年に一度というリスク確率の公開で、藪から蛇(やぶへび)」
の発表をしたことになるのです。

原発に限らず、政府の統計には、恣意的(政治的)で変なところが
あります。これが、政策を決めているのですから、困ったことです
。

なお、民主主義における政府の政策は、あらゆることにおいて、国
民経済を計算する統計がベースになります。

官僚の良心(民に仕える公僕の精神)は、どこにあるのか? 官僚
の方針で支配しようしているとしか思えません。封建時代を引きず
って、官僚は国民の上の階級と考えているからでしょう。この点で
中国共産党に似ています。

最近は、政治主導を言う。なぜか?  政策では、政治家(国民の代
議)が官僚の下にあることを認めているからです。

■2.TPP(環太平洋戦略的経済連携)で問題にされる日本の食料
自給率

農水省が一般に言うのは、世界最低の、カロリー・ベースの国内自
給率です。1965年(昭和40年)の73%から2010年は39%へと、一貫
して低下しています。自給が39%と聞けば、「戦争や国際紛争があ
ったら、飢えで大変だ。農業を守らねばならない。」という世論に
なるでしょう。

ところが農水省は、生産額での食糧自給率も計算しています。これ
は、敢えて言わない。卑怯(ひきょう)な、無作為に見える作為で
す。

これで見ると、1960年が86%で、2010年も、自給率は69%でさほど
減っていません。知った人は、驚くでしょう。
http://www.maff.go.jp/j/zyukyu/zikyu_ritu/pdf/22slide.pdf

輸入する食品に、カロリーの高い油脂類・小麦・砂糖が増えてきた
ため、カロリーでは39%、生産額では73%の自給になります。生産
額で見た自給は、米97%、畜産物60%、魚介類53%、野菜81%、果
実が71%もあります(2010年:農水省)。

生産額基準での自給率は、世界で、特に低くはない。欧州の主要国
並みです。ドイツ80%、イタリア63%、オランダ75%、スペイン82
%、英国65%、スイス52%等です(2007年)。

これが同じ基準の、産出高での比較です。カロリー・ベースの自給
率をわざわざ計算し、他国の産出高基準の自給率と並べて発表する
のは、日本だけです。目的は、食料の安全保証として農業に6兆円
の補助金を与えているのを正当化するためでしょう。

米は、約700%の関税です。わが国の輸入農産物への関税平均は21
%(2010年)です。米国が4.7%、韓国が48.6%、タイが22.6%
の輸入関税すから、米や畜産を除けば、日本の関税が特に高いとは
言えません。

仮に、TPPで農産物の関税(19品目)の全部を撤廃すれば生産額が4
.1兆円減って、農業への政府補助金を、更に3兆円増額する必要が
あるとしています(農水省:11年10月)。

日本の農業出荷額は、農家出荷金額で8.7兆円(2007年)ですから
、ほぼ半分に減るという見積もりです。これも、恣意的な、ねじま
がった試算です。

また、TPPへの加盟では、関税を撤廃しなければならないわけでは
ない。米国、オーストラリアのFTA(自由貿易協定)でも、関税の例
外品目は設けているからです。

なお、日本の専業農家は、全国で45万2000世帯に減り、総世帯数の
わずか0.9%です。高齢化は言わずとも、今後10年はもたない。

兼業農家が、この約3倍の118万戸です。兼業農家の多くは、地域の
部品下請けを含む、輸出に関連した工場で働く人が多い。TPPに加
盟し、輸出振興に向かうほうが、兼業農家の所得のためにもなりま
す。統計ではなく、経済計算ですが、他にも、変なところがありま
す。「円高」介入です。

■3.円高介入の原資の問題

政府は2011年に、3回の「円高介入」を行っています。10月31日は
特に大きく7兆円の、「ドル買い・円売り」でした。1日では史上最
大規模の巨額介入でドル・円相場は、一時的には79.6円まで戻し
ています。8月4日のドル買い介入は4.5兆円でした。今年になって
、ほぼ15兆円規模の、介入(ドル買い)を行っています。

政府は、常々、政府予算(一般会計)の40~50兆円の赤字(国税収
入を上回る赤字)で、国債発行が大変と言っています。このために
、増税が必要と言いつつ、野田内閣は増税政府になっています。

円高介入(ドル買い)のための政府のお金はどこから調達するのか
? 短期国債である政府短期証券です。これを財務省が発行し、日
本の金融機関や日銀に買ってもらう。

つまり、金融機関と日銀の円資金を政府が吸収し、その円でドルを
買うのが「円高介入」です。外為特別会計でこれを行っています。


小泉内閣の時は、米国にイラク戦費を与えるため、30兆円もの「ド
ル債買い・円売り」を行い、米国にマネーを与えています。

ドル買いの結果、財務省がもつのが「外貨準備」という資産と短期
証券という同額の負債です。2003年 65兆円、2006年90兆円、2008
年100兆円と増える一方です。

ドル安での差損があるため、財務省は、確か2009年から、ほとんど
黙って、従来は円ベースだったものを、ドルベースでの外貨準備高
の発表に変えています。理由は、円高・ドル安差損が、推計で20兆
円と巨大なためです。

財務省がドル買いでの差損を言えば、世論の猛烈な非難を受けるか
らです。特別会計とは言え、一般会計の政府赤字40~50兆円/年に
加え、ドル債への投資の差損が20兆円も増えることだからです。

2011年8月の外貨準備は、$1兆2185億(80円換算で97兆円)です。
10月末には、10月31日の円高介のため、$1兆3000億(104兆円)に
膨らんでいるでしょう。膨らんだ中味は、ドル債です。

政府が外貨準備をもつ目的は「為替安定化」のためとされています
。

このために必要な金額なら、最大でも$3000億(24兆円)もあれば
足りるはずです。日本の経常収支は15兆円/年の黒字ですから、黙
っていても、ドル債が15兆円増えるからです。つまり、現在の外貨
準備は、80兆円も多い。

この80兆円は、米国債の買いという形での、米国へのマネー貸与で
す。所得で儲けた「日本家」が、ドルという通貨を使う「米国」と
いう所得赤字の家に、相手国の通貨ベースで80兆円を貸して、自分
は貧乏だと言っているのと同じです。

円ベースで米政府に貸すのならいいのですが、ドル・ベースです。
しかも、外貨準備を減らすこと、つまりドル国債売売りは、ごくま
れに行っても少額です。いったん買ったドル国債を、日本政府が売
り越すことは行っていません。このため、外貨準備という米国への
、日本政府からの貸付金は、増える一方です。

相手国通貨のドル建てであるため、ドル安では、日本が巨額損をし
ます。米国はその分、実効レートの低下で利益を得ます。

100円が80円へと20%ドル安になると、一度で20兆円規模の、国益
の損をします。事実、2010年からの約20%ドル安で、含み損は20%
(20兆円規模)でしょう。この含み損も、まぎれもない政府赤字で
す。

野田首相は、財務大臣の時、「外貨準備の米国債を、必要な金額だ
け売って、震災や原発対策の復興債を買う財源にすれば、増税の必
要はないではないか」との国会質問に対し、以下のように答えてい
ます。

「外貨準備は、政府短期証券(円建て)を金融機関に買ってもらい
、その円で、外貨を買ったものである。だから、国債と同じく、政
府の借金である。このため、外貨準備を売れば、政府の国債が増え
たことになって、国債増発と同じである」と答えています。

外貨準備は売りたくないという財務省の意思を代弁したものです。
この財務省論理の誤りを、外為特別会計のバランスシートで言いま
す。

     【資産】              【負債(資金源)】
外貨準備  100兆円        政府短期証券100兆円

質問は、資産であるこの外貨準備を20兆円分売って、そのお金で日
本国債を買ったらどうか?ということです。この取引の、振替伝票
は、以下のようになります。

     【資産】           【負債(資金源)】
日本国債   20兆円      外貨準備売り20兆円

結果として、外為特別会計は、以下のバランスシートです。

    【資産】          【負債】
日本国債   20兆円     政府短期証券      100兆円 
外貨準備   80兆円

外為特別会計の負債(政府短期証券)が増えるわけではない。ドル
債の外貨準備が、20兆円分だけ円の国債に振り替わるだけです。

野田財務大臣の答弁は、完全な、歪曲の誤りです。悪質です。野党
(自民党)は、理解したのかどうか、この答弁の追求をせず、別の
質問に変えました。国会の速記録に、残っているはずです。以上は
、複式簿記を知らないことによる、ごく初歩の間違いです。意図し
た間違いに思えます。

政府のドル買い介入は、米ドルを、政策的に高くします。いつまで
も、ドル買い介入を続けることはできない。米国の経常収支の赤字
、つまり米国によるドル債売りは恒常的なものです。

このため、常に、米ドルは、経常収収支が黒字の円や元に対し、(
長期で言えば)ドル安の基調をもっています。

それを、日本政府が買えば、恒常的な「国益の差損」に晒されます
。

財務省は、進んで、国益の損のためのドル買い介入をしているとし
か思えません。ドルに投じたマネーを国内で使えば、国内経済は、
企業や世帯の名目所得がデフレで減る、この14年の体(てい)たら
くではないはずです。

「円高介入」という考えは、誤りです。ほんとうは、「ドル国債の
買い支え介入」です。

なぜ、財務省は、円高をチャンスと見て、ドル国債買い買い支え介
入を行うのか?  円は、米ドルの付属通貨と考えているとしか考え
られないのです。不思議なことです・・・

ドル国債買いは、進んで行う。しかしそのドル債を、国内の国債買
いに利用しようとすると「(明らかに誤った論理を使っても)それ
はできない」と言う。そして、増税路線を敷く。

輸出が減ると困るからと言います。これも誤りです。
ドル安で、輸出企業が損をしない方法はあるからです。

■4.為替差損を回避する簡単な方法はある

わが国上場企業(約3000社)の、売上の約50%は、現地生産を含む
海外売上です。このうち、輸出は、67兆円(2010年)です。

輸出企業が、ドル安に限らず、海外の通貨安(相対的な円高)で損
をしない方法は、その国の通貨で、同額の借り入れをしておくこと
です。

たとえば、1年に1兆円輸出し、1兆円分のドルを受け取る会社があ
るとします。その会社は1兆円($1=100円のときは$100億)を、
米銀から借り、手許流動性や設備投資の資金にしておけばいい。

80円への円高になると、$100億の借金は、8000億円に減価します
。つまり、2000億円の、負債の減価による利益(為替差益)が出ま
す。

輸出では2000億円の為替差損をしますが、ドルベースの借金では20
00億円の差益が出ます。損と利益は等しい。これでドル安の損は、
消すことができます。

円安での差益もなくなります。信用ある企業なら国内の銀行も、ド
ルベースで貸してくれます。外銀はもちろんです。貸して金利をと
るのが銀行の利益だからです。

輸出額と同額、相手国の通貨での負債を作っておくことです。きわ
めて普通の、誰にも分かる対策があるのに、「急な円高で巨大差損
が生じた」というのは、経営的な言い訳に過ぎません。

1年間や、半年の輸出予定額と同じ額を、相手国の通貨で借りてお
けばいいだけのことだからです。経理部は、「輸出額と同額の、相
手国の通貨での借り入れをして、手許流動性にしておく」ことを行
うべきです。ドルの借り入れ金利が若干高くても現在は2%程度で
、20%にもなる為替差損に比べればはるかに小さい。

異常のような簡単なリスクヘッジを、輸出企業がなぜ行っていない
のか不思議です。実際は、行っている会社が、円高差損を言うなら
、ポーズでしょう。

■5.ユーロの、金融市場からの信任という問題

EU当局は、2011年で3回目の「金融安定化の包括対策」を、10月27
日に発表しました。必要資金は、1兆ユーロ(105兆円)とされてい
ます。(注)当方、500兆円規模が必要と見ていますが、とりあえ
ず数カ月内の、PIIGS債の買い支えのための緊急必要資金を105兆円
としておきます。

金融市場の反応は、ユーロ債の売り越しと、イタリア・スペイン債
、およびギリシア債の売りでした。理由は、1兆ユーロ(105兆円)
の資金を得るのに、EUがユーロ債を発行して、それを、中国を含む
新興国に売ることだったからです。

EUは、ECB(欧州中央銀行)による、ユーロ紙幣の印刷、または、E
CBによるユーロ債の買いという手段をもっています。これには、ド
イツ国会が強く反対しました。理由は2点です。

(1)08年9月以降の金融危機で、すでにECBは、2兆ユーロに近い
通貨を増発し貸し付けた。

これ以上、ECBがユーロを増発すれば、世界からユーロ安が想定さ
れ、ユーロ債は、ECBが買う$1兆ユーロ以上に売られるだろう。そ
うなると、ECBの$1兆のユーロ債買いは、無効になる。つまり、意
味がない。

(2)仮に、市場でユーロ債が売られず、ECBが買う$1兆ユーロで
、1兆ユーロのマネーが増発されると、11年9月で3%に高まったイ
ンフレ率(ユーロ17か国平均)が、更に高まる。

これは、ユーロの期待金利を上げることになるため、現在は2.02%
と3%に上がったインフレ率よりも低いユーロ債(10年もの)の金
利が上がるため、利回り2.02%のユーロ債は売られて暴落する。こ
のため、ECBの$1兆のユーロ債買いは、通貨増発としては、(1)
と同様、無効になる。

ドイツ国会が、以上のように論理的に反論したわけではありません
が、彼らの言うところを金融論から整理すれば、以上になるでしょ
う。至極、当然の論です。このため、EU当局は、ECBによるユーロ
印刷という手段が取れなかったのです。

残る手段は、外貨をもつ新興国に「ユーロ債を買ってもらって、金
融安定化資金を作る」ということになった。ところが、新興国が、
ユーロ安が予想される債券を、1兆ユーロを買うことの想定は難し
い。このため、EUは金融安定化資金を作れないだろうという観測が
強まりました。

加えてギリシア政府は、財政再建のための、緊縮財政(政府支出の
カット)、増税、公務員削減と賃金切り下げ、現役時代の賃金の9
6%も支給されている年金カットのために、国民投票で信を問うと
いう。60%のギリシア国民は、反対ですから、この案は通りません
。

ユーロ債の売り越しと、イタリア・スペイン債、およびギリシア債
の売りが起こったのはこのためです。海外からの売りだけではない
。ユーロの域内銀行(主要91行)からの売りも多い。誰だって、
損をするのは困るからです。

2009年末は、EU当局は、「インフレの高まりからの、金融引き締め
策(出口政策という)」を、日米に先がけて示唆していました。PI
IGS債の下落ということは想定になかったのです。いかにも無能な
、連合政府です。

2009年にはギリシアが債務偽装をしていること、およびPIIGSの、
米国以上の上昇率だった不動産バブルが崩壊し、金融機関に大きな
含み損があることは、わかっていたからです。

連合したEU政府を見ていると、<ユーロを崩壊させるのが真の意図
か>と思えるくらい、稚拙な金融策を続けています。加えて、国民
の意思を代議すべき政治が、連合のため機能していないと思えます
。

この点では、米国も日本も似ています。日米欧が、同時に大きな財
政赤字(=資金不足)で、信認を失い無能になった政府になってい
るのでしょう。政策に必要な資金源がなくなると、政府は無能化し
ます。予算はマネーだからです。

経済(GDP)が成長しているときは、企業と世帯の所得が増えます
。このため税収が増え、政策に使うマネーも増えます。この時、政
府も有能に見えます。ところが、政府支出が増え税収が増えないと
、政府予算は借金(国債)で実行されるようになる。

その国債が、ユーロ債のように売れにくくなって、資金調達ができ
にくくなると、約束した政策の実行ができない。わが国の民主党政
府も同じです。この点で、ユーロ17か国合計が最悪、次が日本、米
国の順です。オバマ政権も、約束した政策の実行ができていません
。大統領や首相の人柄の問題ではない。政府マネーの資金源の問題
です。

ところで、米国FRBは、金本位を離脱して以降、米ドルの通貨価値
は、米国の政府財政信用であると言っています。ユーロ、円も同じ
です。
そうすると、ユーロ、円、ドルの順に、通貨価値の下落が起こりつ
つあることを示します。

2012年の、G7の財政赤字の増加と、過去の国債償還のための、国債
発行予定額は、$10兆(800兆円)を超えます。

08年9月からリーマン・ショック(金融のシステミックな危機)の
後使った日米欧の合計対策費が$5兆(400兆円)であり、それが、
満期になって、2012年に返済期を迎えるからです。

(注)ジャンプするかも知れません。その時は、国債価格が、イタ
リア債のように下落し、金利が上がります。現在、イタリアのユー
ロ債(10年もの)の金利は、6%を超え7%に迫っています(ドイ
ツ債とのスプレッド(金利差)は4~5%)。

現在の、短期がゼロで、長期が1~2%の史上最低の金利水準(中
央銀行の政策金利)の中では、G7は、国債金利が5%に上がると、
市場の引き受け手が消えたことを示します。

毎年、10月から11月は、来年の経済・金融の構図を描くことができ
るようになる時期です。G7の、国債発行$10兆(800兆円)を、誰
が買えるか、買うのかです。十分な買い手がないと、国債は暴落し
、金利が高騰して大きな不況です。政府も、政策実行のために必要
なマネー(予算)がなくなります。税収が政府の売上収入、国債発
行が借金収入です。

PIIGSに対するユーロのように、中央銀行がコントロールできなく
なって、国債が売れにくいことからの金利の高騰は、徐々に起こる
のではない。ほぼ3か月内に、2%→3%→4~5%→6%と上がり
ます。

【後記】
今日は、熊本県の南部にある人吉市、旅館『たから湯』、10畳の
和室の、黒檀の座卓で書いています。細部まで、最高水準の完璧を
求めた旅館・・・恐れ入ります。ただし、畳は慣れていないので、
脚が痛い。
http://www.jalan.net/yad342592/

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