緊急テーマ:ユーロ・日本・米国の同時切迫した国債問題
This is my site Written by admin on 2011年6月29日 – 08:00
おはようございます。つかの間の、バンコクから帰りました。タク
シン派とPAD(民主市民連合)の政治紛争からの暴動は収まっても
、基底では政治的な争いが続いています。

主要路の至るところ、総選挙(7月3日)の、シンボルとして動物も
載せたポスターが目につきます。国民の未来を見る目は、南の海の
ように明るく感じました。GDPの実質成長は3%(2011年)から4%
です。

昨日、東京のTOC有明で、小売・流通業の有事・災害対応をテーマ
とする講演でした。東京は、タイより暑い。日本は、1980年代以降
、夏のピーク電力を生む冷房を前提とし、密閉されたオフィスと住
まいになっています。

【電力はまかなえるが・・・】
8月のピーク電力(東電管内では約6000万KW時)は、冷房によるも
のが30%分増えるために起こります。家庭では、エア・コンディシ
ョナー(中味はモーター:動力)を消すだけで、家庭は昼間の電力
消費量が40~50%に半減します。平均的な20KW時が、8KW時位にな
ります。

工場・オフィス・店舗を含み、電力使用の50%(年間5000億KW時)
は、動力用です。1日の時間では、事業所が稼働する午前9時から午
後11時位がピークになる。

8月の数日、送電の安全に必要な余裕を10%見込めば、約5%の電力
が瞬間的に不足します。(東電と関電管内)

(1)工場の休日シフト、(2)オフィスと家庭の、昼間の冷房用電
力の節電があれば乗り切ることができます。定期点検の原発が再運
転できず、停止している関電の管内も同じです。日本人は、こうし
たことへの対応を、粛々と行う国民性をもっています。

安全基準への疑念から、ほぼ1年内に、全原発(54基)が停止する
可能性は極めて高い。ただし電力は、今の火力発電と水力でまかな
うことができます。(注)九電の玄界では、佐賀県知事と町長が、
海江田経産大臣の「事故が起こっても、燃料を冷やす対策が完了し
た」という説明に納得し再開に同意したとのことです。周辺の世論
はどうでしょうか。

世界同時に、脱原発に舵を切りつつあります。このため、火力発電
に使うLNG(天然ガス)の国際価格の、実需増による高騰が問題で
す。(注)LNGの国際価格は、2011年3月は、$209/1000立方メート
ルでした。事故後の5月には、需要増を見込み$258へと23%も上が
っています。夏用の先物への、投機買いがあるためです。

電力会社が、原発の停止に対し難渋する根底の理由は、電力は火力
発電で補えても、LNGを中心に燃料費が3.5兆円/年増え、その負担
を電気代に転嫁しにくいと思っているからです。電気代を3.5兆円
(電力費の約20%に相当)上げず、電力会社が負担することはでき
ない。

それに、原発は発電しなくても、核燃料が存在する限り、崩壊熱を
出し続けます。このため運転中と変わらない維持費がかかる。原発
の発電原価は設備費と維持の人件費であり、燃料費は少ない点で火
力と異なります。火力発電の原価は燃料費が多いく、原子力発電の
原価は設備費が多いのです。

電力会社も、何が何でも原子力と思っているわけではない。全国に
54基を作ってしまった以上、方針を転換すれば、増加経費が、電力
会社を破産させても足りないくらい巨大だからです。

【脱原発の問題は、燃料費と廃炉・核燃料処理の費用】
(1)増加燃料費が3.5兆円/年
問題になるのは、全原発の停止のため、出力調整されていた火力発
電が定期点検期間を除いて全開せねばならず、LNG(天然ガス)や
石油の燃料輸入が1年に3.5兆円増えることです。(注)11年度だけ
では2.4兆円(経産省試算)

今、日本の電気代の総額(=9つの電力会社の売上総額)は、17兆
円です。火力への転換で発電原価が3.5兆円上がるため20.5兆円(
約20%増)になる。この3.5兆円/年は、電力会社の負担能力を超え
ます。経費を合理化し国有化するにせよ、増える燃料費負担は同じ
です。

いずれは家庭で15%、事業所の大口需要で25%くらいの電気代の値
上げになる。とりあえずは、この3.5兆円が原発停止のコストです
。

(2)次に、廃炉・解体と、核燃料処理の費用が30兆円

原発を停止しても、電力会社の原発関連の経費は、なくならない。
放置できず、メンテナンスが必要です。

そして、正常な原子炉でも、放射能を出す設備の解体に1基当たり
千百億円、核燃料の最終処理に3千数百億円、両者の合計で1基平均
5000億円を要します(電気事業連合会の試算)。建設費(3000~50
00億円)より多くかかるのが廃炉の費用です。

(注)2002年に、当時50基だった全原発の後処理費用を、電気事業
連合会は26.6兆円と試算していました。今は30兆円でしょう。これ
も脱原発の追加コストです。10年で54基の廃炉を行うなら、1年に5
基(3兆円)です。

(1)で燃料費が1年に3.5兆円増え、(2)で廃炉と核燃料の最終処
理に、1年3兆円(10年間)がかかる。合計で、6.5兆円/年です。こ
れは、企業(大口使用)と世帯(家庭用)の直接負担と、公共事業
での負担増加になるでしょう。

誰が負担するにせよ、今の電力費17兆円(1兆KW時/年)は23.5兆
円へと、6.5兆円(37%)上がります。この6.5兆円/年(消費税換
算で3%に相当)が、脱原発によって生じる負担増です。政府が公
共事業として負担しても、それは税に帰結します。国民負担になる
のは、変わらない。

機械には、寿命があります。原子炉の寿命も40年付近とされます。
強い放射線で、圧力容器の鋼鉄や配管が劣化します。今後、新しい
原発プラントの建設は、安全基準の問題と世論の変化から無理です
。

スリーマイルの事故(1979年)以降、米国では、一基の原発も建設
できていません。なお、ウラン235を燃料に使う発電を、諸国が推
進してきた理由には使用済み核燃料のプルトニウムを濃縮すれば、
核爆弾を作ることができるという副次的なものもあったのです。

地震・津波への安全基準を世論が納得するように高めると、その分
、原発の設備コスト(今は1基で3000~5000億円)が累増的に上が
り、火力発電へのコスト優位がなくなってしまいます。

電力会社の経営からも、今後、原発の維持と新設は無理になる。以
上から、ほぼ10年内に、電力会社は54基を古い順に廃炉、解体する
という選択を迫られることは確定と見なければならないでしょう。


(注)電力会社には、原発の後処理のための、利益を生まない費用
(一基分で5000億円付近)が発生し、これも、自らではまかなえま
せん。日航のように、政府が公的資金を入れねばならない。このた
め今の株価と社債の価値は、順次、ゼロに向かって行きます。先の
ことを言い過ぎでしょうか?

1年6.5兆円(GDPの1.3%)の、企業と国民の増加負担は、大きい
。400万人の介護費の7兆円(2011年)に匹敵します。原発の大事故
を想定せず(予想費用の算定を行わず)、核燃料の最終処理費を考
慮の外においてきた政府のエネルギー政策のつけが、今後10年で襲
います。

原発の、建設から廃炉、及び核燃料の最終処理のライフサイクル・
コストを、火力発電より安いと国民に見せるために、政府が犯した
失政です。

他に、社会福祉(年金・医療費・介護費:約108兆円)の負担増が
、1年で約3兆円(3%ずつ増加)です。2011年度3兆円、2012年6兆
円,2013年9兆円・・・と順列計算で増えて行くという意味です。

これに加え、福島原発の事故を起点にした予期せぬ電力費の固定的
な負担増が、6.5兆円(10年で65兆円)です。

福祉費と電力費の負担増は、企業の商品生産や、流通費の増加にな
り、世帯では、生活の増加費用です。(注)元々高かった電気代に
加わる国内生産費の負担増を嫌い、企業の海外移転も進むでしょう
。

福祉費の増加と電力の国民負担増を合わせた金額は、2011年度9.5
兆円(GDP比2%)、2012年度12.5兆円(同2.6%)、2013年度15.5
兆円(同3.3%)、2014年度18.5兆円(同4%)、2015年度21.5兆円
(同4.6%)・・・です。2015年で、消費税換算では10%分の国民
負担増になります。

(注)消費税を上げなくても、国債の増加発行、及び福祉費や電力
費の上昇として、迂回的な負担になります。上記の費用は、いずれ
にせよ、かかるからです。

震災後、以上の脱原発のコスト(1年に6.5兆円の国民負担増)への
論は、まだ進んでいません。政府も民主党も、計算していません。


電力会社は、以上を知っていなければ、経営の観点からは責任を負
っているとは言えません。しかし全資産を処分し株価と社債の価値
がゼロになっても、原発の廃炉費用に足りないとは、たぶん思って
いない。

電力会社は、政府機関である独立行政法人とも言っていい。政府に
よる電気代の認可と、設備の許可で成り立っているためです。この
ため、原発の賠償費にも政府の援助を期待しています。

電力は国家であると考えているふしもあります。企業のミッション
でもあった。電力を担う自恃(じじ)が、これだったのです。

国民にとって、電力で1年6.5兆円の追加負担は、確定です。金融や
経済でも、先に言い過ぎれば「現実感」がないでしょうか? 半歩
先を言えば、現実感があるのか。

予測できることは、先に述べておいたほうがいいと思えます。
遅くとも、数ヶ月後には大きな議論になることですから・・・

本稿は、
・前半を、PIIG問題で複雑な動きを見せている国際金融とし、
・後半を、日本の国債問題とします。

前号で、2011年は、国際金融の一大転換点になると書きました。
これはどんなことか?との質問も、複数あったのです。

複雑というのは、逃げ口上です。その中に、必ず、単純な動きがあ
る。単純なことが重なり、糸がもつれるように全体が複雑に見える
。

(注)消費の個性化、多様化、分散化という表現も、解くことをし
ない逃げ口上でしょう。どこかの地層には単純な動きがあって、そ
れが、商品購買に現れる形態は多様であるため、多様に見える。コ
トラーのマーケティング3.0の視覚では、単純化が見えます。これ
がコトラーを取り上げる理由です。

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<544号:緊急テーマ:
       ユーロ・日本・米国の同時切迫した国債問題>
          2011年6月29日号

【目次】

1.PIIGSの国債危機
2.PIIGSが危機に至ったのはユーロへの加盟が原因
3.ギリシアの返済不能がもたらすのは欧州金融危機
4.追い貸しは愚だが・・・
5.ユーロ離脱という方法
6.円高と日本の長期金利低下
7.米国の、1年100兆円の国債発行
8.日本国債へのCDS(回収保険)の料率(プレミアム)

【後記:米国の連邦債務上限法案】

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■1.PIIGSの国債危機

昨年5月に表面化したアイルランドとギリシアを起点とする国債価
格の下落(金利の高騰)は、ユーロ当局からの金融支援で収束する
どころか、ポルトガルに広がり、南欧の大国スペイン債にも及びつ
つあります。

PIIGSがユーロに向かい約束した財政の再建、言い換えれば、
(1)増税と、
(2)政府予算の削減が進んでいないためです。

2011年の年初来、ギリシア10年債の利回りは12%→18%、アイルラ
ンド9%→12%、ポルトガル7%→12%と高騰しています。

(注)国債金利の高騰がスペイン債に及ぶと知られたとき、ユーロ
は暴落します。今は、スペインの10年債は利回り5.51%で、ドイツ
債(2.95%)との利回り格差が、2.56%に上がっています。

デフォルト確率を示すCDS(債務回収保険)の料率は、金利と同じ
率で高騰します。金利上昇とCDSの料率は、正比例します。破綻リ
スクが小さいと評価されるドイツ債(長期金利2.95%)と、上記の
PIIGS債の金利差が、ほぼ、CDSの料率です。

当然、ギリシア、アイルランド、ポルトガルの国内金利は、国債金
利以上に上がっています。そのため、経済は減速・低迷します。(
注)国債金利は、その国で、最も低い金利です。国債金利+プレミ
アムが、市場の金利になる。

例えばポルトガルの10年債での、5ポイント(500bp)の利回り上昇
は、(1+7%×10年)÷(1+12%×10年)=1.7÷2.2=0.77→23
%の、国債の市場価格の下落です。

1億円だったポルトガル10年債が77%(7700万円)に下がっていて
、まだ下がる可能性が高いという意味です。逆を言えば、これが先
物を売ったヘッジファンドの利益になる。

アイルランド、ギリシア、ポルトガルは、対外負債が大きい。
政府の財政赤字も、GDP比で8.4%(ギリシア)~10%と高い。

このため政府債務の償還(満期になった国債の償還)と利払いがで
きなくなっています。

▼3つの補足事項
(補足1)
日本の財政赤字もGDP比で8%(40兆円)、米国はGDP比9.1%(100
兆円)と巨大です。08年以降、ユーロが先に下落しているのは、比
較上のことです。

(補足2)
今、日本の長期金利が1.1%へと、逆に、下がっている(国債価格
は上昇している)原因は、『赤字国債法案』が11年4月以降、ねじ
れ国会の参議院を通らず、過去、毎月少なくとも4兆円はあった新
規国債の発行が、今はまだ、ないためです。

政府は、今、特別会計からの手当で凌いでいますが、6月から8月に
は枯渇するでしょう。その後は、日銀に財務省の短期証券を買わせ
た資金調達でしょう。

国債をもつ金融機関には、毎月、満期を迎えた国債の額面償還金が
約8兆円はいります。その償還金で、長短の借り換え債(1ヶ月平均
で約8兆円)が買われているために金利が下がったのです。借り換
え債の発行は、『赤字国債法案』が成立しなくても可能です。

2000年代の金融機関にとっては、預金や融資での取引より、国債の
償還金と、国債の売買(ディーリング)の金額がはるかに大きくな
っています。

(補足3)
米国も日本と同様に、赤字国債法案(連邦債務上限法)が、共和党
の反対で通らない。日米同時に、今、新規国債の発行が停止してい
ます。

赤字国債法案が通ったとき、日本は、借り換え債(8兆円)に加え1
ヶ月に約4兆円、米国は8兆円の新規国債を発行するため、引き受け
難から、日米同時に金利が上がります。

現在が、日米の長期金利(米国2.99%:日本1.11%)が、最低水準
と見なければならない。(以上で補足は終わり)

今ギリシアは、満期が来た国債の償還(返済)に必要な資金を、ユ
ーロ当局からの貸し付け(追い貸し)で、凌いでいます。

アイルランド、ギリシア、ポルトガルは借り換え債の発行にすら、
難渋しているからです。(注)この点で、借り換え債は発行できる
日本と米国よりひどい状況。

償還と利払いができないと国債はデフォルトし、デフォルトした国
債をもつドイツ・フランスの金融機関は巨額損を被ります。金利が
高騰すれば、借り換え債の発行ができない。

借り換え債が発行できないと、政府はもともと赤字(赤字=資金不
足)なので、満期が来る国債の償還ができなくなる。これが国債の
デフォルトです。デフォルトは、金利が2桁に上がった後に起こり
ます。

ギリシア国債にデフォルトが起こると、米国の2008年のリーショッ
クのような、ユーロの、連鎖的な金融危機を招聘(しょうへい)し
ます。その寸前の状態が、今のユーロです。

▼事例:08年9月の世界金融危機の後

リーマンショックの直後、米国FRBは、資金不足が起こった金融機
関に対し、約100兆円(当時のレートで$1兆)の緊急融資(及び不
良債券の買い取り)をしています。

以来、FRBの、信用増加を示すバランスシート(B/S)は、$1兆分
、膨らんだままです。昨年11月からの追加のQE2(量的緩和第二弾
:$6000億)で、FRBのB/Sは、更に$2.3兆に膨らんでいます。

【ゼロ金利の過剰流動性が、金融機関に過剰に生じた】
平常時より約$1.3兆の、増加資金供給が続き、そのマネーが、世
界中に対するキャリー・トレードの元本になっています。

ゼロ金利のドルを金融機関やファンドが借り、期待利回りの高い世
界の通貨、債券、株に投機する動きです。

【その展開】
2008年9月以降の、(1)株価上昇、(2)国際コモディティの上昇
、(3)先進国の10年債金利の下落(米国2.0%:ユーロ2.96%:日
本1.11%)の根底は、FRBによる増加資金供給からのものです。

【大元の資金は、08年9月以降、FRBが供給した】
FRBが、30%~60%下落して不良債権となった住宅関連証券(MBSや
CDO)を額面に近い金額で買い、金融機関に現金を入れた。現金は
金利ゼロです。

このゼロ金利のマネーが、投資銀行とヘッジファンドの、米国内、
及び米国外、そして商品相場への投機資金の元本になった。

それは先物の売買(差金決済)ですから、自動的に数十倍のレバレ
ッジがかかる巨大資金になります。リーマンショック以後、国際金
融では、米ドルとユーロの過剰流動性が、様々に、「いたずら」し
ています。

▼20~30%の円高の理由

GDP比の累積財政赤字は210%と、世界で最悪で、経済状態は悪い円
が、米ドルとユーロに対し高騰した理由($1=81円付近:1ユーロ
=116円付近)は、日銀のマネー印刷量が、FRB(米国)とECB(ユ
ーロ)よりは少ないためです。

【証拠】
日銀の現在のB/S(貸借対象表)は、130兆円です(6月20日)。中
央銀行のB/Sは、マネー供給量を示します。信用の供給とも言う。
http://www.boj.or.jp/statistics/boj/other/acmai/release/2011/ac110620.htm/

リーマンショック前、2008年8月の日銀B/S(資金供給量)は、109
兆円でした。08年の世界金融危機と、11年の3.11での増加資金供給
を含んでも、日銀の資金供給量は、130-109=21兆円しか増えてい
ません。
http://bkup.boj.or.jp/statistics/boj/other/acmai/release/2008/ac080831.htm

$1.3兆を増やしている米国FRBと、FRBとほぼ同額を増やしているE
CBに比べてはるかに少ない。このため、増加した米ドルとユーロに
対し、約20%~30%の円高が起こっているのです。

●日銀は記者クラブで「資金供給を全開した」と言い、マスコミも
それを伝えます。しかしB/Sで見る実態は、日銀は資金供給を若干
(21兆円)は増やしても、絞った増やし方です。

■2.PIIGSが危機に至ったのは、ユーロへの加盟が原因

【南欧バブルが起こった】
1999年に、統一通貨ユーロが結成されたことが、現在のPIIGS危機
の原因です。ユーロ結成以降、経済力の弱いアイルランド、ギリシ
ア、ポルトガル、スペイン、イタリアに対し、ドイツ・フランス・
英国の金融機関から、国債買い・不動産の購入・貸し付けが起こっ
たのです。

このマネーが、PIIGSに不動産価格のバブルを引き起こします。そ
して2008年以降の、PIIGSへの貸し付けの減少(国債購入の減少)
とともに、バブルは崩壊したのです。マネー量が縮小すれば、その
国のバブルは崩壊します。バブルとは、経済合理性を超えて、資産
価格が上がる資産のインフレです。

2000年代は、後発国の工業化で、安価な商品の生産力が増えたため
、マネーを刷っても、1980年代までのような店頭商品のインフレは
起こりません。

代わりに、不動産・国債・国際コモディティに、バブル的なインフ
レが起こります。世帯や企業ではなく、金融機関(投資銀行)とフ
ァンドが、投機するからです。ゴールドマン・サックスやファンド
は、店頭商品は買わないでしょう。

【原因】
南欧バブルに至る投資が起こった理由は3点です。

(1)通貨は同じユーロであり、資金をもつドイツ・フランス・英
国から見て、為替差損のリスクがない。
(2)為替差損のリスクがない上に、PIIGSの国債金利は、ドイツ・
フランス・英国より高い。このため、無リスクで利益が得られる。

(3)南欧のリゾート用不動産は、ドイツ・フランスに比べ安い。

日本で例えれば、同じ通貨圏の九州や沖縄に、東京(例えればドイ
ツ)や大阪(フランス)、名古屋(英国)から投機が起こって、資
産と国債のバブルを作ったと言っていい。

ドイツ、フランス、英国から、南欧への不動産投資が大挙して起こ
り、地価・不動産価格は、ちょうどサブプライム・ローンで資金供
給された米国と同じく、それ以上に高騰していました。2005年頃、
マドリッド郊外の普通の住宅(80平米)が1億円でした。

(注)今、08年の金融危機以降の政府マネーが生んだ中国の不動産
も、バブル崩壊の寸前になっています。

【PIIGS政府は、低利の国債が売れるため、財政赤字を拡大】
PIIGSの政府は、ドイツがいるユーロへの加盟以降、3%付近に下が
ったユーロ金利のため、実力以上の低金利で、ユーロ建ての国債を
発行できました。2000年から2008年まで、虎の威(ドイツ)を南欧
が借りて、安い金利で資金を借りることができたのです。

このため、PIIGS諸国は、安易に、政府の財政赤字を拡大させ、経
済を浮揚させました。低利で、ユーロ建ての南欧国債が売れたから
です。南欧の物価は、1ユーロ=160円という高いユーロによって、
ローマの普通のスバゲティが2000円というように高かった。どう見
ても、800円以下のものです。

2008年の前に欧州を旅行された方は、経験されているでしょう。日
本は貧困になった。南欧もフランスも豊かになったと思えたのです
。

2008年9月まで、1ユーロは160円でした。08年9月のリーマンショッ
ク以降、120円へと激しく下がり、その後一時(2009年)は130円付
近でしたが、2010年のアイルランドとギリシア国債の危機の発覚以
降は、ほぼ110円台です。通貨の下落は、その債券が売られること
です。資金が逃げた状態が、通貨安です。

ユーロのバブル期に発行を拡大させた、南欧国債の償還の満期が、
次々に来る。以前は、借り換え債の発行ができていました。

【変曲点は2010年5月】
2010年5月になると、PIIGS国債を保有していたドイツ・フランス・
英国の金融機関は、財政赤字が拡大を続けるPIIGS国債に対し将来
のデフォルトのリスクを感じ、売りに出ます。

これは、PIIGS国債の下落と金利の高騰を意味します。
13ヶ月前の5月でした。

そしてほぼ2009年からは、ヘッジファンドや投資銀行のゴールドマ
ン・サックスは、PIIGS国債の下落(=金利とCDS価格の高騰)に利
益の機会を見て、
・低い料率でCDS(保証保険)をかけ、
・PIIGS国債の先物を売っていたのです。行為は、生命保険をかけ
て(CDSをかけて)、殺人(デフォルト)に荷担する行為に類似し
ます。

(注)ゴールドマン・サックスは、密かに、ギリシア政府に貸し付
け、ギリシア政府の財政赤字と債務の偽装に荷担していたことが、
2010年5月に明らかになっています。

一方では貸し、ギリシア政府から高利を取り、他方ではCDSの保険
をかけ、ギリシア債の金利が上がると(ギリシア国債が下落すると
)利益が出る仕組みを仕掛けていたのです。投資銀行やヘッジファ
ンドはこうした売りと買いを、組み合わせます。

投資銀行とヘッジファンドにとって、
(1)2008年までのサブプライム・ローン証券の下落かCDSによる利
益が、
(2)2009年以降は、PIIGS国債のCDSによる利益に変わったと見て
いい。

危機が認定される前のCDSの料率(保険料)は、低いのです。(注
)CDSは、市場で売買ができる保険証券です。自分と無関係は債券
や国債に対し掛け、売買ができる保険証券です。

CDSの引き受け手(買い手)は、買った後に対象となった国債価格
が下がると(=金利が上がると)、デフォルトの確率が上がって、
それに連れ国債の償還を保証するCDSの保険価格が上がるので、利
益を得ます。

(注)CDS証券の買い手は、国債がデフォルトしたとき、CDSの売り
手から、そのデフォルト分の保証を受けることができます。

国債価格を下げる(金利を上げる)には、市場が引き受けられない
くらい「国債の先物売り」を行えばいい。

繰り返せば、その方法は、
(1)掛けたCDS(保険証券)を買い、
(2)国債の先物市場で、他が追随する時期を狙って、先物を売っ
て、国債価格を売り崩すことです。

(注)市場を追随させるため、投資銀行とヘッジファンドは、必ず
「**は危機であるという主旨のリポート」を出します。マッチ・
ポンプとも言えるのです。

最も信用があるとされる国債の先物取引(差金決済です)には、数
十倍から100倍のレバレッジがかかります。

(注)先物取引全体は、決済日に利益や損の差金を決済する先物取
引です。これは、商品相場での先物取引、株式市場も同じです。

5000億円の元本資金であっても、30倍のレバレッジで15兆円、100
倍なら50兆円の資金量になる。経済小国であるアイルランド、ギリ
シア、ポルトガルの国債を売り崩すことは、FRBの資金を借りた投
資銀行とヘッジファンドにとっては、造作もない。

(注)日本の極めて薄商になっている株式市場(6月現在、1日でわ
ずか1兆円の総売買)でも、同じです。数百億円の元本資金の投入
や引き揚げで、株ETFは大きく値動きします。

■3.ギリシアの返済不能がもたらすのは欧州金融危機

【ギリシア経済と、政府の財政赤字】
ギリシアは、日本経済の17分の1です。GDP(国内の商品生産)では
28兆円という経済小国です(九州のGDPの62%)。

人口1100万人、GDPが3500億ドル($1=80円では28兆円:09年)で
す。1人当たりGDPは254万円ですから、日本人の1人当たり368万円
の約70%です。ほぼ沖縄県並みの1人当たり所得です。

最大の産業は、米欧からの、ギリシア古代文化を尋ねる観光です。
観光が、国の経済で主力産業(外貨を稼ぐ輸出産業)であるのは、
スペインも似ています。南欧は、夏が短い欧州のリゾートでした。


海に面した景勝地には、例外なく、白い別荘が立ち並んでいます。
わが国とは違い、パリで仕事をする普通の賃金の人が、小さなアパ
ルトマン(貸家)に住み、毎週末と夏のレジャーは車でスペインに
も出掛けるといいライフ・スタイルが多い。別荘と言っても、豪華
ではなくごく普通の、小さな家です。

公務員が40%と極めて多い政府の債務(=国債発行)は、GDPの120
%の$4200億(33.6兆円)です。ギリシア国債の特徴は、99%を、
海外(中心はフランス、ドイツの金融機関)がもつことです。つま
り、国債が対外債務です。(注)米国の国債の50%は、海外がもち
ます。他方、日本国債の95%は国内金融機関による消化です。


【財政の信用危機は、南欧に波及】
ギリシア国債がデフォルト(支払い不能)を起こすと、ポルトガル
とスペイン債の金利高騰にまで及ぶため、ギリシア問題は大きいの
です。(注)信用は、心理的なものです。そのため波及する。

ギリシア政府の財政の統計には、かねてから粉飾(偽装)が多く、
欧州諸国から信用されていません。帳簿が信用できない企業と同じ
です。実態は、常に公表数字より悪い。ただし分析は、公表数字で
しか行えません。

【国債償還の不能】
ギリシアでは3年内に、6.4兆円の国債償還が来ます。国家の財政(
税収-支出)はGDP比で13.6%(3.8兆円)の赤字です。3年で[3.8
兆円×3年=11.4兆円]の新規国債発行が必要になります。

つまり今後3年で、[借り換え債6.4兆円+新規増加債11.4兆円=17.
8兆円]の借り入れが必要です。1年で、約6兆円(GDP比21%)の国
債発行です。

借り換え債にせよ新規債にせよ、発行金利は、今、18%と極めて高
い。(注)18%の金利を国債につけなければ売れないという意味で
す。2桁の金利は、以下で示すように、市場では国債発行の不能を
示します。企業でも18%の高利貸しの金利で借金すれば、破産しま
す。

【借り換え債を発行すれば国債価格は下げ、金利は高騰する】
ギリシアが、今、国債を6兆円/年も発行すると、市場が買わないの
で、即日に金利が更に高騰します。18%が、20%、30%と上がって
行くはずです。

長期金利が30%になると、既発国債(33.6兆円)は、年初の価格(
金利12%)に比べ、(1+12%×10年)÷(1+30%×10年)=2.2
÷4.0=55%に下がります。

【南欧債の下落からの欧州の金融機関の損失】
2011年初は33.6兆円の時価だったギリシア国債が、18.5兆円に暴落
します。こため15.1兆円の損が、ギリシア国債の主な持ち手である
フランス、ドイツ、英国の金融機関に生じます。

ギリシアが国債を発行すれば、ギリシア国債の損だけで、フランス
、ドイツ、英国の金融機関に、[15.1兆円の損失÷金融機関の必要
自己資本8%=188兆円]もの信用収縮が生じてしまいます。

(注)金融機関の資金自体が、自己資本の12.5倍(BISの規制基準
)を借りて運用するレバレッジ構造です。

これに、アイルランド債、ポルトガル債、スペイン債での損も同時
に加わる。

このため欧州には、米国のリーマショックの規模以上になる金融危
機が生じます。世界に波及した、米国の金融危機の元は、住宅証券
の値下がりでした。ユーロ危機は、南欧債の下落から起こるのです
。

日本人にとって、欧州は米国より馴染みが薄いのですが、これはユ
ーロ崩壊(1ユーロ≒60円等)に向かうことになります。

【しかし、資金は必要】
ギリシアには、1年に6兆円の追加資金が必要です。ところが、ギリ
シア国債の発行は、上記の理由(金利を暴騰させ、国債を暴落させ
る)ので、行えない。

そうすると、国債の利払いと満期が来た国債の、償還ができない。
(注)ポルトガル、スペインも類似しています。

これが国家のデフォルトです。ギリシア国債をデフォルトさせれば
、ポルトガル、スペインに波及します。

南欧の大国スペイン(GDPは81兆円:ギリシアのGDP 28兆円の2.9倍
)まで行くと、ユーロが上記のように、完全に崩壊します。

実に、この危機は大きい。

国家がデフォルトすれば、国債価格は更に下がり、金利は瞬間では
100%以上にも高騰します(1998年の、米国ヘッジファンドのLTCM
が破産したロシアのデフォルトの事例)。

PIIGSが経済成長し、
・政府財政の赤字を3%以下に減らし、
・貿易を黒字に転嫁させる見込みはないからです。

PIIGS政府が対外的に言う経済対策は、実行できた試しがない。
計画は、工程表のように見栄えがよく作れますが、実行ができない
。

昨年の5月も、ギリシアは政府予算を減らし、財政再建をするとい
うことだったのです。

【事態は切迫している】
ギリシア国債のデフォルトは、切迫し一刻を争っています。

返せない借金は、日々金利が嵩み、国債の償還期限が、毎月来るか
らです。赤字の会社で、新たに借りなくても、過去の借金の金利が
毎月嵩んで、利払いが増えるのと同じです。

借金国は、借金を増やせる間は、資金が回り、幸福です。
増やせなくなった途端に倒産します。ギリシアがこれです。

(注)東電も、3月の2兆円の、銀行からの緊急融資がないと、5兆
円の残高で、毎月満期が来る社債の償還ができず、倒産するところ
でした。銀行は、2兆円の融資は、事実上政府が保証するというこ
との約束で貸しています。政府は、保証していないと、いつものよ
うに言を左右していますが・・・

■4.追い貸しは愚だが・・・

ギリシアのデフォルトで、自国が金融崩壊を被るドイツとフランス
は、何らかの形で、ギリシアに資金を与えようとしています。
考案されている方法は以下です。

国債には、償還期が来ます。ギリシアのような2桁への金利の高騰
で、借り換え国債の発行が事実上できなくなると、その月に、デフ
ォルトが起こります。企業の社債の満期(東電の事例)と同じです
。

【対策】
ギリシアに対する債権者(国債保有のドイツ、フランス、英国の金
融機関)は、償還期限が来た国債に対し、その50%を、ベース利率
が5.5%の30年債として買い換える。つまり大幅に利下げをし、50
%を追い貸しするという案です(フランス案:ウォール・ストリー
ト・ジャーナル)。

この案を受け、ギリシア危機は後退したとして、米国のダウ平均株
価も上げました。

【デフォルトの認定があると予想】
これは国債のロールオーバー、つまり、満期の来た国債の返済期限
を延ばすことです。

格付け機関が、近々に、ギリシア国債はデフォルトしたと見なす可
能性があります。リーマン危機以降の格付け機関(フィッチ、S&P
、ムーディーズ)は、30%~60%に下がった住宅証券にAAAをつけ
ていたことに懲り、今、事前に厳しい見方をするように傾斜してい
ます。

ロールオーバーで、ギリシアの国債危機が、消えるわけではない。
いつまで先延ばしにできるかということだけの、短期の効果です。
(注)5%の金利でギリシアの借り換え国債を買うドイツとフラン
スの金融機関が、追加の損をします。

【最終的には・・・】
最終的には、欧州中央銀行が金融機関に対し、PIIGS国債での、金
融機関の損に見合う分を、貸し付けるでしょう。

リーマンショックの時の、米国金融機関に対する、FRBの貸し付け
(緊急に$1兆)と同じ仕組みと構造のものです。

結局、欧州中央銀行がユーロを刷って、ギリシア・ポルトガル・ス
ペインに、低金利で貸し付けるしか方法がないように思えます。

これよって、ユーロ(1ユーロ=116.5円)は、下落するでしょう。
ユーロに対する、円高ということです。

■5.ユーロ離脱という方法

長期的には、PIIGSのうち、アイルランド、ギリシア、ポルトガル
、スペインはユーロを離脱し、自国通貨を再び発行して、その通貨
が今のユーロの1/3くらいに下がるしか方法はない。

通貨が1/3に下がれば、ユーロ・ドル・円から見た、南欧観光、不
動産、賃金は、1/3に下がります。

商品価格も1/3になるため、貿易も黒字に転化し、経常黒字から過
去の借金(ユーロ建て)も、順次、返せるように変わります。

1997年のアジア金融危機で通貨が下落した東南アジア(タイやマレ
ーシア、及び韓国)と同じです。通貨が下がったため、輸出が回復
して、その後の経済成長になったのです。

▼離脱をしないと・・・

ユーロに留まる限り、アイルランド、ギリシア、ポルトガル、スペ
インには、自国通貨を切り下げるという方法がない。このため、国
債危機が、4半期毎に深まるだけです。

フランス・ドイツが、今、アイルランド、ギリシア、ポルトガル、
スペインのユーロ離脱という方法を採ろうとしない理由は、4国の
国債が暴落するからです。

しかし、ユーロ加盟を続ければ、借金が返済で原資(経常収支の黒
字)がないので、危機は毎月深まる。

一時は、リーマンショックのような金融危機を被っても、ユーロ離
脱を進めるべきと思えます。追い貸しすれば、将来の損が、一層大
きくなるからです。

銀行の、赤字企業に対する追い貸しも同じです。貸せば、一時的に
倒産は免れる。しかし、企業が利益を出すように変わらない限り、
赤字で借金額は増えます。このため、いよいよの時の、最終的な金
融機関の損は、追い貸しをした分、膨らみます。

フランスとドイツは、目先の危機を避けるという前提で、アイルラ
ンド、ギリシア、ポルトガル、スペインに対し、追い貸しする銀行
と同じ愚を犯そうとしています。

危機は「損切り」で被るべきです。

下がった株で、ナンピン買いを続け、最終的な損を拡大する投資家
になってはいけない。この原因は、損失の確定を嫌がることです。
現在の損は、将来の大きな損より、大きく見えるからです(行動経
済学が言う心理)。

2000年以降、国境を超える国際金融(マネーの面でのグローバル化
)が、実体経済の成長速度より、遙かに大きな増加率で肥大したこ
とが原因で、今回のPIIGS危機も起こっています。

ドイツとフランスの低金利マネーが、ドイツとフランスとの比較上
、金利(イールド・スプレッド)の高いPIIGSに流れ(=国債を買
い)、PIIGSでは不動産バブルを生んで、そのバブルが、2008年以
降、潰れたからです。

■6.円高と、日本の長期金利低下

日本経済が物損で16.9兆円の損害を被り、原発問題から最低で20兆
円が必要になった3.11以降に、円高になったのは逆の傾向に思えま
す。

円高とは、貿易額の100倍以上の金融取引がある国際為替市場で、
円買いが増えることです。なぜ円が買われたのか?

円高の傾向は、金融危機(08年9月のリーマンショック)以降の、
継続的な傾向です。

根底の原因は、既述したように、FRBとECBの、金融機関対策を目的
にしたベースマネーの増加額(両方で$2兆以上)より、日銀のそ
れが、わずか19兆円と少ないことです。

日銀のB/Sは、109兆円(08年8月)が130兆円(11年6月20日)に増
えているにすぎません。

このためドルとユーロに比較した「相対的」なマネー量の増加が少
ない。これが、08年9月以降の円高の主因です。米国と欧州に比べ
て、日本経済への信認が高まったからではない。

それに、本来は上がるべきと見られた長期金利は、3.11以降、逆に
1.1%という超低金利に低下し、日本国債の市場価格も、バブル風
に上がっています。4月以降、急に、1ヶ月3~4兆円はあった親発債
の発行がなくなったのです。

その理由も、本稿で既述したことが原因です。ねじれ国会のため、
参議院で、赤字国債法案が通っていないことです。

政府は、財政の新年度の4月以降は、満期が来た国債の償還金に相
当する資金を借りる「借り換え債(月平均8兆円)」しか、発行で
きません。この借り換え債は、国債をもつ金融機関に対する国債償
還金と同じ金額です。国債の満期のため、政府が償還したマネーで
、金融機関が借り換え債を買っています。

政府から、国債をもつ金融機関(民間・年金基金・郵貯・簡保)に
は1ヶ月8兆円平均が振り込まれます。その8兆円を、確実に運用す
る手段を、金融機関はもっていません。

企業に融資すれば、貸し倒れのリスクとして融資額の1%は引き当
てねばならならない。株(リスク資産)を買っても同じです。

銀行の貸し付け金利は、長短平均で1.5%と極めて低い。融資にか
かる業務手数(信用調査と書類作成)は、融資額の1%でしょう。
[1.5%の融資金利-信用リスク1%-事務手数料1%=-0.5%の赤字
]になる。

金利が低いことは、企業への貸し付けが増えるということでなけれ
ばならないのですが、1%台の金利で低すぎれば、銀行は逆に、貸
せなくなるのです。(注)3%の貸付金利がないと、企業への貸し
出しは増えません。企業への貸し出しが増えないと、生産性を上げ
る設備投資が減って、GDPの成長はなくなります。

1%台の貸し付け金利が続いていため、銀行・生保による企業融資
は、日銀がゼロ金利を敷いた1997年以降、毎年、減っています。代
わりに増えたのが、国債保有です。銀行の国債保有の増加は、企業
への貸し出しの減少を示すものでもあります。

日銀が、1997年の金融危機から、ゼロ金利策をとった1998年以降、
銀行の国債保有は、総資産の5%から20%増えて158兆円(11年4月
末)に膨らんでいます。これは貸し出し金利が1%台に下がったた
めです。

銀行は、今、発行された借換債を買う。これが、国債価格が上がっ
て、金利が1.1%(再下限でしょう)に下がった原因です。

今、円高と、金利の低下が、同時に起こっています。
転換点は、いつになるか? 国会で赤字国債法案が通った後です。


(1)もともとの政府赤字のため、45兆円/年規模の新規国債の発
行が必要でした。

(2)これに加え、震災の復興対策に最低で、2011年度に10兆円の
、名目は何であるにせよ、特別債の発行が必要になるでしょう。合
計で55兆円です。

2012年度も、同額か、それ以上が必要になる。3.11で2011年度の企
業利益が減って、翌2012年度の税収は、大きく減るからです。

毎月、4~6兆円の新発債の発行が、約8兆円の借り換え債に加わり
ます。今はない新規債を、余裕をもって買える金融機関はなくなり
つつあるのです。根底で言えば、国民の預金が増えていないからで
す。

・年金基金は、支給が増えて、減っています。政府も一般会計が1
年に5兆円くらい借りて使っています。
・最大の国債の買い手であった郵貯・簡保も、総資金量が減ってい
ます。

【2011年秋から2012年】
年金基金と郵貯・簡保は不足する資金のため、近々、国債の売り手
に転じます。政府系の国債の買い手は、2012年には消えるでしょう


じゃ、民間銀行と保険会社が、1年に55兆円規模の新発債を増加購
入できるでしょうか。困難です。資金量が、銀行と保険会社に増え
るわけもないからです。

そうすると、最後の手段、日銀による国債の買いしかない。ちょう
ど、FEBが、2010年11月から2011年6月にかけて$6000億(48兆円相
当)の米国債を買ったことと同じです。

■7.米国の、1年100兆円の国債発行

米国の政府赤字は、今、1年に100兆円レベル(GDP比9.1%)です。
国債の増加発行が100兆円/年という意味になる。

このうち50%の50兆円は、従来、海外が買っていました。日本が米
国債の増加の買い手からは脱落しつつあります。貿易黒字が減り、
3.11以降は31年ぶりの赤字で、経常収支の黒字が減っているからで
す。

経常収支の黒字が$3000億(2011年)の中国と、産油国しか、大き
な買い手がない。

FRBが禁じ手の国債を買うというQE2($6000億)を行った理由は、
海外での米国債の売れゆきが思わしくなく、中国は$3兆(日本の3
倍)に増えた外貨準備から、時折、米国債の売りを行っているから
です(注:特に短期債の売り)。

QE2を原因に、米国の長期金利(10年債の金利)は、2.99%に下落
しています。

ところが、海外から米国債が買われるには、約3%のイールド・ス
プレッド(金利の差)を必要とします。理由は、ドル安のリスクに
引き当てるためです。

中国の長期金利は、今、4.06%です。米国債では2.99%の利回りし
かない。中国政府にとって、米国債で運用すれば、4.06-2.99=1.0
7%の逆ザヤになるのです。

逆ザヤで損をしても、中国が経常収支の黒字(1年$3000億)で、
米国債を買う理由は、貿易ために元高を避けることが目的です。
かつての日本に替わって、今は中国が、米ドルを支えています。

日本の長期金利は、今1.11%付近です。米国の長期金利が2.99%で
すからスプレッドは1.88%ありますが、ドル安のリスクをカバーす
る3%には届かない。

このため、日本からの米国債買いは、この金利では減るはずです。
円高の理由でもあります。

■8.日本国債へのCDS(回収保険)の料率(プレミアム)

マスコミではほとんど取り上げられることがない日本国債(10年物
)のCDS(回収保険)は、大震災の3.11以前に、すでに80bp(ベー
シスポイント:0.8%)に上がっていました。

日本国債の信用リスクが高まったのは、2009年以降です。
(注)2008年以前は、ほぼゼロだったのです。

3.11直後には、
・国債リスクの上昇を反映し120bpに急騰し(50%上昇)、
・5月には再び0.8bpに下がって、
・今、90bpと、じりじり上がる気配を示しています。
http://www.bloomberg.co.jp/apps/cbuilder?T=jp09_&ticker1=CJGB1U5%3AIND

比較で言えば、米国の5年債のCDSの料率も50bp(0.5%)と、4月の
37bpの1.35倍です。CDS証券の価格が1.35倍に上がったという意味
。

言うまでもなく国際金融の中では、(変に思えますが)米国債の信
用は、日本国債より高い。ドルが機軸通貨とみなされているためで
す。(注)いつも通貨価値を保っているのは、産油国マネーを集め
るスイス・フランですが、小国過ぎるため、極少数の人しか買って
いません。

既述したように、日本政府が発行する長期債の金利は、1.11%に過
ぎません。

なお、国債の金利は、政府が決めるわけではない。政府は額面に対
する表面金利は例えば1.5%というように決めます。その実際の利回
り(国債価格に対する金利)は、市場の買い手が、いくらで国債を
買うか(入札するか)によって決まります。

政府は、国債価格も金利も、市場が決めるということを認識しなけ
ればならない。

しかし財務省は、経済ではなく、法なので政府が決めることができ
ると思っているふしがあります。1980年代まで(1995年の金融自由
化の前)は、政府が金利を決めていたと言っていいのですが、その
後は、全く変化しているのです。国債の売れ方で、金利は決まりま
す。

市場金利が今、1.11%ということの意味は、額面100万円で1.5%の
利付き国債の価格は、以下のように上がって売れているということ
です。

100万円×{(1+表面金利1.5%×10年)÷(1+市場の期待金利1
.11%×10年}=100×(1.15÷1.11)=103.6万円、これが低
金利バブル価格です。

この保証保険料が90bp(0.9%)ということは、実質金利は、1.11-
0.9=0.21%に過ぎないことになります。企業への融資リスクがほ
ぼ1%ですから、日本国債のCDSと見合います。

CDSのプレミアムの上昇は、金融機関が1%台の金利では、国債を買
い進むことができないことを意味しています。

8月に赤字国債法案が通り、復興特例国債を含んで、1ヶ月に5兆円
の新規国債が、借り換え債の8兆円に加えて発行されるようになる
と、どうなるか? 1ヶ月に、13兆円もの国債発行です。

日銀があらかじめ、市場での残余分に買い出動をするというFRBのQ
Eのような言明(介入)がない限り、金利の高騰(国債価格の下落
)が起こるはずです。

今、日本の862兆円の国債は、いずれも、超低金利で、その価格は
バブル的に膨らんでいます。

今は、1980年代末の土地価格ではありませんが、日本では国債に価
格高騰のバブルが発生しています。この国債バブルは、わずかな金
利の上昇を契機に、はじけます。

2%の期待金利の上昇で、超低金利の10年債の市場価格はどうなる
か? 

(1+現在金利1.11%×10年)÷(1+期待金利3.11%×10年)=
1.11÷1.31≒85%・・・15%の価格下落です。100万のものが85
万円に下がります。

国債の信用リスクが、近々に迫っているように感じています。

【後記:米国の連邦債務上限法案】
タイからの便(前号)でお約束していたコトラーの[マーケティン
グ3.0]への結論的な解釈は、次号に回させていただきます。

実は、米国でも国債残高の上限引き上げをするための「連邦債務上
限法」が、下院で反対318、賛成97で、否決されています。

米議会も、日本と同様、下院は共和党、上院は民主党が支配するね
じれ国会です。野党の共和党が「連邦債務上限法」に反対していま
す。

米国の国家債務は、5月に、法的な上限の14兆6000億ドル(1225兆
円)に達していて、法が可決されない限り、これ以上の国債発行が
できません。結果は、国債の利払いと償還ができないデフォルトで
す。

ただし米国の大統領は、日本の首相と異なり、上院・下院を通った
法案に対し拒否権を持っています。大統領が拒否権を発動した法案
を、議会が通すには2/3以上の議員の賛成で、再可決する必要があ
ります。

政府は、1年に100兆円のお金が足りないので、拒否権が発動される
でしょう。米国債がデフォルトすれば(利払いと満期返済がないこ
と)、米ドルは恐らく$1=60円、あるいはそれ以下に堕ちるから
です。

オバマ大統領が、ドル暴落を狙って、国債をデフォルトさせるとは
思えません。しかし昨年のFRBが$6000億の米国債を買うQE2が、政
府にとって、ギリギリ決断だったことも、以上から分かるのです。


日米同時に、今、国債発行に困難を来す事態が、太平洋を越えて起
こっているのです。

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