臨時号:なし崩しにアイマイにされた異次元緩和(2)
This is my site Written by admin on 2018年7月25日 – 10:00
おはようございます。言っても仕方のないことですが、7月の暑さ
は異常な域を超えています。コンビニまでの外出もおっくうになる。
本号は、有料版の定期以外の臨時号として送ったものと同じです。

「日銀が異次元緩和の調整に向かうのではないか」という市場の観
測が生じ、7月23日には、突然、長期金利(10年債の利回り)が
0.03%から3倍の0.09%に急騰しました。国債が売られて価格が
0.6%下がり、流通価格に対する金利が上がったのです。

わずかに見えますが、ゼロ金利誘導を敷いている中では、ショック
的です。日銀の異次元緩和が微妙な点にまで来て、「国債が売られ
る時期」に至りつつあるという市場の状況を示すものです。その後、
日銀は慌てて国債の指値買いをし、金利を0.065%に下げました。

本シリーズでは、日銀の量的・質的緩和について書いています。日
銀の考えはどうなのか。政策委員会審議委員の原田泰氏の講演録が
インターネットに掲載されています。
https://www.boj.or.jp/announcements/press/koen_2017/data/ko171130a1.pdf

読んでみて、「リフレ派の考えの典型」があると感じたので、取り
上げて検討します。17年11月の福島での講演です。

経済学的に最大級の事件である異次元緩和について、経済論争がな
いのを不思議に思っています。エコノミストが御用学者風になって
いるからでしょう。政府が行っていることが正しいとすれば論争は
起こりません。日銀は政府のマネー部門です。

異次元緩和のプラス効果に対し、一貫して批判的な学者は、知る限
り、慶応大学の池尾和人氏でしょう。『連続講義・デフレと経済政
策』は名著です。池尾氏には一時、日銀審議委員へとの話もありま
したが、自民党とリフレ派からの反対で、消えています。

発表した論文から見て、原田氏は審議委員の中でもっとも過激なリ
フレ派です。旧経済企画庁、内閣府、大和総研を経て、2015年の3
月から、黒田総裁の、政策スタッフである審議委員に任命されてい
ます。経済理論に精通したわが国一級の、エコノミストです。なお
日銀審議委員はエコノミストの到達点とされている職です。

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<臨時号:なし崩しにアイマイにされた異次元緩和(2)> 
      2018年7月25日:臨時号

【目次】
1.大胆な金融緩和により、経済は好転しているという主張
2.米国の1930年代;金融危機からの大恐慌の事例を挙げる
3.日銀は、マネーサプライ(M2)を減らすことはできるが、直接に
増やすことはできない。
4.出口政策での日銀の債務超過について
5.金利の上昇の仕方

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■1.大胆な金融緩和により、経済は好転しているという主張

原田氏の発言は原文のまま<>内に示し、その内容を検討して行き
ます。引用の中の()内は、当方の補いです。

<QQE(量的・質的緩和)で日本経済が良くなったという私の主張
を厳密に証明することはなかなか困難です。なぜなら、2013年から
現在までの日本経済について、QQEをしたときとしなかった時にど
うなったかを比べることはできないからです。>

確かに、経済では科学的な実験ができない。同じ条件を作ることが
できないからです。このためQQEがどんな、プラスの効果をもたら
したか証明はできない。すべての経済政策の効果検証も、同じです。

<であるなら、私の主張をより説得力のあるものにするためには、
せめて今からでもQQEを止めてみる必要があります。これよって経
済が悪くなれば、QQEで経済が良くなったと多くの人は信じてくれ
るでしょう。もちろん、これでも不十分です。2012年以前の日本経
済は13年以降の日本経済とは異なるからです。
 しかし、こんな実験をすれば、金利は急騰、円は(円高に向かっ
て暴騰、株価は暴落、経済は急降下になるでしょう>

原田氏のこの論理は、どうでしょうか。例えて言えば、以下です。
QQEを停止すれば、「金利は急騰し、円は暴騰して、株価は暴落し、
経済は急降下する」。つまり。日本経済は、恐慌的に悪化する。こ
れはその通りです。

原田氏は、「だからQQEは経済にプラスの効果があった、そしてこ
れからも効果がある。したがってQQEは今後も続ける。」というも
のです。

日銀によるマネーの供給(国債を買って現金の供給を増やすこと)
は、人体で言えば、輸血に似ています。血液は、栄養そのものでは
ない。栄養や免疫を運ぶものです。5年続けた大輸血をやめれば、
血液不足に陥って、恐慌的な大不況になる。

マネーは経済的な価値を数字として媒介するものです。信用が高け
れば大きな価値を運べる。信用が低い通貨は、金額は大きくても、
運ぶ価値は少ない。媒介(Vehicle)とは、運ぶものです。

AさんからBさんに現金が行くと「そのマネーが表す数字が表す経済
的な価値」が、Bさんに行ったことになる。これが、マネーの本質
論です。金本位の時代のようにマネーそのものに、価値があるので
はない。紙のマネーの数字が表すものに、価値がある。

今QQE(量的・質的緩和)を停止すれば、日本経済は恐慌的な不況
になる。だからと言って、QQEが経済にプラスの効果をもっていた
と言えるのか。

水を与えなければ生命は死滅する。だからと言って、水を大量に与
えたことが、成長に効果をもっていたと言えるのか。ここには、
「非論理」があります。

確かに、マネーの引き締めは、経済活動を緊縮させます。しかし、
マネーの増発が、いつも経済にプラスの効果を生むとは言えないか
らです。なお質的緩和という奇妙な言葉は、日銀が株を買うことを
示しています

▼金融の効果は、引き締めと緩和で非対称

金融政策では、マネー量を減らすときはマイナスの効果があります
が、増やしたからといって、プラスの効果にはならない。凧揚げの
ようなものだと言われます。糸を引けば(金利を上げれば)凧は上
がり緊縮のマイナス効果が出る。押しても(金利を下げても)、凧
を上げる効果はない。

経済を成長させるためには、中央銀行がマネーを増発すればいいだ
けなら、中央銀行は、その信用を使って、いくらでも無償で増発で
きますから、あらゆる国の経済は、成長を続けたはずです。世界
150か国に、貧困な国は、なくなっていたでしょう。

マネーを増発で成長する(=所得が増える)なら、簡単です。無税
国家にもできる。政府の財政マネーを税収に頼らず、中央銀行が増
発すればいい。

ヤシと海と海岸しかない南海の島国で、「マネー増発」だけで成長
できるのかと問えば、誰でも「そうではない」ということがわかる
でしょう。

質的緩和で株を買えば、市場の売買で決まる株価は上がるでしょう。
株価の上昇は、株主資産の増加と、企業の調達金利の低下を意味し
ます。しかし株の上昇によって、企業の設備投資や技術投資が増え
なければ、南海の島国の経済が成長することもない。株価の上昇は、
経済成長に対しては、マネー増発と同じよう間接的です。

▼銀行信用が縮小した非常時の対策であるQQE

量的緩和の政策は、金融史上初めて、08年9月のリーマン危機のあ
と、信用収縮から来る、恐慌的な不況を避けるためにFRB、ECB、人
民銀行がとりました。

【米国と欧州】
米国と欧州では、デリバティブ証券の下落による銀行資産の低下か
ら来た金融危機(マネー量の大きな縮小=放置すれば恐慌に至る)
への対策でした。

方法としては、中央銀行が、金融機関がもっていた下落した債券を、
(中央銀行が損をする)額面金額で買い上げて、金融機関に、特例
のマネー供給を、無償で与えたのです。金融危機は銀行のマネー量
(Credit=信用量と言っても同じ)の縮小ですから、そのマネーを、
中央銀行が無償で与えるQQEは、銀行信用の回復には、直接の効果
を持ちます。

【中国】
米国・欧州の金融危機から輸出が急減した中国は(中国にとっては
外需の減少)、輸出減によるGDPの低下を防ぐため、企業に貸し付
けをして、住宅建設を行わせるための元の増発でした(内需の拡大
策)。住宅建設の増加は、GDPを増やすからです。

【日本の長的緩和は目的が違っていた】
日銀の量的緩和は、金融危機やGDPの成長率急低下への対策ではな
い。インフレ目標を2%として、デフレ的だった経済から脱却を目
指したものです。同じ量的緩和でも、FRB・ECB・人民銀行とは目的
とマネー供給の方法が違います。

原田氏は、日銀のQQEが、2%の物価目標を達成できなくても、実質
経済の成長(物価上昇を引いたGDP成長率)には効果があったとい
うために、逆証明という非論理を使っています。

例証の内容が誤っているとは言えない。しかし正当な論理性はない。
リフレ派のイデオロギー的なものでしょう。

■2.米国の1930年代;金融危機からの大恐慌の事例を挙げる

更に原田氏は、金融緩和によって、回復した米国の大恐慌の事例を
挙げています。

<(1930年代の大恐慌のとき)米国のGNPや物価はM2の低下ととも
に大きく下落し、その上昇とともに順調に回復しています。そして
1937年にはM2の減少とともにGNPも物価も下落してしまいます。早
すぎた出口(金融引き締め)の失敗です。しかし、金融緩和を再開
すると、M2の増加とともにGNPも38年から回復します。>

(注)GNPは、海外企業の生産を含まない国民総生産。現在は国内
企業と海外からの進出企業の商品生産額であるGDP(国内総生産)
で、国の経済規模(商品生産の実質金額)を計るのが通例になって
いる。たとえば、米国で日本企業のトヨタが生産すると、それは
GNPでは日本だが、GDPでは米国のGDPになる。

▼M2の問題

異次元緩和が失敗したことの問題は、この事例の中の、M2にありま
す。M2とは、企業と世帯がもつマネーサプライのうちの、現金と銀
行預金です。日本の場合は、M2が年率で4%以上増えると、需要>
供給から、物価がインフレ傾向になっていました(1970年代から
80年代)。

わが国ではM2が、異次元緩和のあとも増えなかったからです。この
ため、金融緩和を原因として需要が超過することによる物価上昇は
小さかった(0.5%か?)。円安と原油高騰が上げたのみでした。

【フィッシャーの交換方程式が働く】
M(マネーサプライ)×V(マネーの流通速度)
               =P(物価水準)×T(実質GDP)

マネーの流通速度とは、世帯と企業の預金が使われる速度ですが、
これは長期でほぼ一定と見ていい。この式では、わが国では4%マ
ネーサプライが増加したとき、物価上昇はほぼ0%の線であり、実
質経済成長も0%ということで
した。

この式のM(マネーサプライ)は、銀行預金であるM2やMで計ります。
主なものは、世帯と企業の銀行預金です。預金も現金性の通貨の機
能をもちます。支払いのときの、振り込みでわかるでしょう。期日
にしか引き出せない定期性預金も必要なら解約ができるからです。
(注)郵貯を入れたものはM3です。

わが国では、マネーサプライが4%以上(たとえば7%)増えると、
商品需要と投資の増加から、右辺のP(物価水準)×T(GDP)は、
「7%-4%(物価0%水準の基準)=3%」に向かう。実質GDPの増加
が1%なら、物価上昇は2%になります。

日銀が13年4月から開始した年70兆円(約1000兆円のM2に対して7
%)の量的緩和は、このマネーサプライを7%増やすことを目的に
したものだったのです。

■3.日銀は、マネーサプライ(M2)を減らすことはできるが、直接
に増やすことはできない。

【ベースマネーと、マネーサプライの区分】
日銀の、銀行からの国債の買い上げは、日銀に銀行が預ける当座預
金を増やすだけです。これは銀行マネーであり、ベースマネー(基
礎的通貨)と言われ、世帯と企業の預金ではない。世帯と企業は日
銀には預金口座を持てないからです。(注)ベースマネーは、マネ
タリーベースとも言います。両者は同じです。

マネーサプライは、銀行の、世帯と企業への貸付の増加によって増
えます。

日銀が、銀行が保有していた国債を買い上れば、日銀に預けた銀行
の当座預金は、売った国債の代金分、増えます(これがベースマ
ネー)。それが銀行の貸付金を増やし、マネーサプライを増やすこ
とになるとは、言えない。銀行から世帯と企業への貸付金が増加し
なければならないからです。

日銀に預金口座をもつのは、銀行を中心とする金融機関です。
金融機関が持つベースマネーは、企業と世帯のマネーサプライ
(M2)ではない。企業と世帯に対しては、日銀は貸さないし、預金
口座ももたせてはいないからです。

日銀が増やせるのは、銀行がもつベースマネーであり、投資や商品
購入に使われるM2である世帯と企業の預金ではない。M2の総量は、
銀行の、世帯と企業への貸し出しの増加(日銀ではなく、銀行の金
融緩和)によってしか増えない。以上は、原理的なことです。

【原田氏の作為】
原田氏は、上記の事例において、世帯と企業の銀行預金であるM2と、
銀行が日銀にもつ当座預金のベースマネーを、「意図的に」混同し
ています。両者の区分を、原田氏が知らないのではない。その点、
タチが悪い。

知っていて、意識して「中央銀行が行った金融緩和がM2を増やし、
デフレ型の大恐慌から回復し、GNPが増えて物価も上がったと」し
ているのです。

日本の異次元緩和の問題は、1年に70兆円、のちに80兆円ものマ
ネー増発(ベースマネーの増加)を行っても、それが、銀行貸し出
しの増加にはならなかった。世帯と企業が、投資のための借り入れ
の総量を増やさなかったからです。ここが、2010年代の日本経済の
特殊性でした。

特例の2020年オリンピックは、50%の円安で増えたインバウンド消
費2700万人と絡んで、ホテル投資を増やしましたが、80兆円の設備
投資がある経済全体から見れば、数兆円であり、わずかな金額です。

【増えなかった世帯の住宅ローン】
超低金利により、相続税対策の、貸家の借り入れ投資は若干増えて
も、世帯はその先25年や30年も払う住宅ローンを増やすことはなか
った。

貸家が相続税対策になるのは、木造では耐用年数が22年と短い住宅
の、借入金に対する相続税評価額が、大きく下がるからです。この
ため、相続資産の税務評価を減らす効果があります。

すでに空き家が820万軒あり(構成比13.5%:2013年:国土交通
省)、2010年代から始まって20年代、30年代、40年代と大きくなる
人口減から、住宅需要の総量は増えず、価格の上昇は見込めない。
住宅価格も、需要と供給で決まります。住宅ローンを組むときは、
20年後の住宅価格を想定しなければならないでしょう。

(注)全国的な人口減の中で、学校と職業による社会的な流入によ
って人口が増えている東京圏は、例外です。東京圏の人口減は、全
国の15年後の2025年からでしょう。なお、今後、もっとも高齢化が
進むのは東京圏です。高齢化のあとが、人口減です。

【企業が借り入れを増やさなかった理由=GDPの成長予想の低さ】
企業は、GDP(=所得=需要)の増加率の低さの予想(1%台)から、
借入金を増やして設備投資をすることはなかった。

投資をしたあとの需要が増えないと、増加した設備投資の投資採算
がとれないからです。このため、企業は、設備の劣化である減価償
却費(100兆円)以下の設備投資(80兆円)しかしていません。

以上の日本経済の、世界最初の事情を考慮することはなく、日銀は
(リフレ派は)、国債を買って、銀行のベースマネーだけを増やし
てきたのです(5年間での増額額350兆円)。

【M2の増加率は高まらなかった】
しかしM2の増加は、物価を上げる効果のある6%や7%ではなく、
2015年が3.6%、2016年が3.4%、2017年が4.0%、2018年6月が3.2
%です。金額では1007.2兆円です。
https://www.boj.or.jp/statistics/money/ms/ms1806.pdf

このM2の増加は、異次元緩和によるベースマネーの増加には対応せ
ず、異次元緩和前の、過去の預金の傾向であるにすぎません。

異次元緩和は、銀行の現金を増やしました。
しかし、企業と世帯の預金の総量を増やすことはなかった。

金融緩和とは現金の増加供給です。日銀は銀行に対して金融緩和を
しても、現金が増えた銀行が、貸し出し金利を1%以下に下げても、
貸し出しを増やすことはできなかったのです。金利が1%や0.7%以
下でも、借り手が、借り入れを増やさなかったからです。

無理やりに、貸すことはできない。借り手が、採算が取れる投資が
あると判断しなければならないからです。

【異次元緩和のあとも、わが国のM2の増加は4%以下】
M2の4%以下の増加では、日本はインフレにはなりません。貨幣の
流通速度(=購買額/M2の金額)は、1年に3~4%くらい低下してい
るからです。これは、世帯と企業所得の合計に対し、預金量の増加
が3~4%高いことを意味しています。

(注)ハイパーインフレは、通貨価値の下落(=物価の上昇)が予
想されて、現金性のM2の流通読度が、10倍、100倍に高まることで
す。蓄めておけば通貨価値が下がり、その間に商品価格が大きく上
がるので預金はせず、皆がすぐに、必要な商品を買う。このためM
(マネーサプライ)×V(流通速度)が、10倍、100倍になります。

「M×V」が10倍なら、物価は10倍に、100倍なら100倍に上がります。
物体のように、「重さ(マネーサプライの量)と飛ぶ速度(流通速
度)」の掛け算が、マネーのエネルギーです。

わが国では、世帯の現金性の貯蓄は、年金が十分ではない退職後の
備えのため、所得以上の率で増えてきたからです。(注)貯蓄には
現金性のものと、株や債券などの金融資産、そして金や不動産があ
ります。

異次元緩和のあとも、M2の増加は、それ以前と変わらず、4%以下
でした。このため、リフレ派が依存したフィッシャー方程式から言
う、マネー要因での物価の上昇は、0%です。以上が異次元緩和の、
物価目標に対する失敗です。

ところが日銀と政府は、5年経ってもこれを認めません。原田審議
委員は、FRBの金融緩和によってM2が増えた大恐慌期の米国を事例
にして、「金融緩和がM2を増やし、M2の増加が物価を上げ米国経済
の成長を回復させた」と断じています。

経済では、金融においても、国と時代で条件が違うので、同じ政策
が、同じように効くとはかぎりません。その時の、国の経済の条件
を検討していなければならない。リフレ派は、米国のクルーグマン
の『流動性のわな』の論に依拠し、日本経済の現状分析を行ってい
ませんでした。

そのため、知らないかのようにベースマネーとM2を混同して、論点
をずらしています。この表現法(レトリック)から見ると、原田氏
自身が内心では、「異次元緩和は、2%のインフレ目標達成には機
能していない」と判断しているのかもしれません。その上で、上記
のM2の事例をもち出したのでしょう。

わが国の政府と官僚の特徴は、国会答弁にも見えるように「決して
政策の失敗を認めない」。データを捏造してまで、失敗ではないと
主張します。安倍政権では、野党の支持率が低いため、この官僚の
特性が強化されています。

■4.出口政策での日銀の債務超過について

原田氏は、日銀の出口政策(金融の引き締め)から金利が上がると、
日銀が債務超過になることの影響について、以下のように述べてい
ます。

<私は、金融緩和の出口で、日銀の損益計算書が赤字になることが
あり得ますが、経済には何も起きないと考えています。>

<出口では金利をあげなければなりませんが、例えばその方法とし
て、(1)現在日銀が行っているマイナス金利政策をとりやめて、
(銀行の)超過準備課す付利を引き揚げる、(2)または日銀保有
の国債を売却する(国債価格が下がり金利が上がる)といった方法
が考えられます。>

出口政策では、いずれにせよ金利が上がります。たとえば金利が2.
5%に上がると、既発国債約1000兆円の価格は、以下のように下落
します。2.5%という長期金利は、金利の歴史から言えば一番低い
水準です。ちなみに米国の長期金利は、現在、2.96%です。

FRBは、リーマン危機のあと、銀行を救済するドル増刷のために買
い上げた保有国債とMBSは売らずに、短期金利を0.25%ずつ上げる
という出口政策をとっています。2018年は4回の利上げです。

現在の円の長期金利は、0.03%から0.09%付近です。0.05%としま
す。100万円の国債には10年後に、0.5%の5000円の金利しかつきま
せん。

円国債1000兆円×(1+0.05%×平均残存期間8年)÷(1+0.05%
×平均残存期間8年)÷(1+2.5%×平均残存期間8年)
=1000×1.04÷1.2=866兆円

金利が2.5%に上がるだけで、1000兆円の国債の流通価格は86.6%
の866兆円に下落します。日銀は、458兆円の国債を持っていますか
ら(18年7月24日)、13.4%の下落により61兆円もの損を被ります。
日銀の自己資本は引当金・準備金を全部入れて8.4兆円しかないの
で、52.6兆円の債務超過になります。

金利が上がると同時に、保有株(22兆円)と金利0%付近の貸付金
(46兆円)の流通価値も下がるので、日銀の債務超過は60兆円を超
えるでしょう。

日銀以外の、542兆円の国債をもつ金融機関(銀行+生保+海外金
融)は、合計で73兆円の損を抱えることになるのです。日本の銀
行・生保は、自己資本を失うでしょう。

【国債の時価評価について】
国債の時価評価については、「保有国債を満期まで持てば、満期に
は、政府が額面の償還をするので、会計上は損失を計上しなくても
いい」とされています。

ただし、金利が上がれば、政府が借り換えのために発行する新規国
債(年間125兆円くらい)の金利も上がって、利払いが増えるので
政府にとって、新規発行は難しくなっていくので、1000兆円の国債
を、政府がスムーズに満期償還ができるかどうか、実は、(大き
な)問題があります。

マネーが不足している財政赤字の政府は、借り入れの返済にあたる
国債の償還は、すべて新しい国債を発行して売り、現金を得て行っ
ているのです。赤字(支払い支出の超過)の企業が、資金不足のた
め、借入金の利払いと返済ができないことと同じです。

倒産させないためには、銀行が追い貸しをして、借入金の償還と利
払いをさせますが、この追い貸しに当たるのが政府にとっては、借
換債の発行です。これについて、原田氏はどう発言しているのか。
3つのパラグラフを載せます。

<今は、長期国債でも利回りは0%近傍ですが、90年代の中ごろま
では3%でした。実質経済成長率が(今よりは)高く物価も上がっ
ていたからです。物価が上がればいずれ金利も上がります。という
ことは、いずれ、より高い利回りの国債を買えることになります。
>
 
<もちろんそうなるまでは、低い金利の国債を持ちつつ、景気の過
熱を抑えるため銀行に対して、(日銀が当座預金に対して)高い金
利を支払わねばならないという局面があります。>

<しかし、最終的には、ほとんどコストのかからない(日銀)当座
預金で高い金利の得られる国債を買うのですから、中央銀行は長期
的には必ず利益を得ることができます。長期的に見た場合、日銀が
(金利の上昇によって)損失を負う危険など存在しません。>

金利の上昇による既発国債の流通価値の下落には、一言も触れてい
ません。リフレ派の論理がこれです。「満期前に売らなければ、損
は生じない」とするのです。

果たしてこれが、銀行にとって、正しい信用への考えなのか。

中央銀行に限らず、銀行と金融機関の信用は、保有する資産の価値
が、負債を上回っていることから得られています。信用するのは国
民です。銀行が信用してくれといっても、資産より負債が大きくな
った債務超過の銀行は信用されません。

「満期までもつ国債は、金利上昇による価格の下落を損として計上
しなくてもいい」というのは、現在の会計制度上の、便宜に過ぎま
せん。実際に発生した損の評価は、政府が、額面金額を償還をする
国債については免れるとしているのです。同じ債権の企業の社債や
株では、損を計上する必要があります。

(注)後述しますが、金融機関は、国債は満期保有はぜず、2か月
の短期所有で売買しています。満期までもつというのは、決算書作
りのための嘘です。

銀行間取引では、相手行が資産の時価評価で債務超過になっていれ
ば、取引リスクが高まっているので、貸し借りの関係は停止します。
国債の時価の下落のときも、同じです。

これは南欧債が下落した欧州の銀行間で、起こったことです(イタ
リア、ドイツ、フランス、スペイン、ギリシア)。国債を時価評価
しないのは、会計制度上の便宜だからです。

▼資産価格の下落がもたらすこと

地価(不動産)が下がり、資産より負債が大きくなった1990年代の
ダイエーのような企業は、取引のための、信用が得られません。信
用での商品仕入れが困難になり、売れる商品が減って売上が低下し
ますから、ついには、仕入れが不能になって倒産(支払い不能)に
なって行きます。

銀行間取引でも同じです。国債の下落の評価により、自己資本を減
らし、債務超過が疑われる銀行に対しては、他の銀行が短期貸付の
継続を、謝絶します。このため、銀行間負債を返済しなればならな
くなる。銀行では、銀行間の短期負債が大きいのです。加えて国民
の預金も、銀行にとっては短期負債です。

このときは、金利を高くしても、貸すところは、消えています。リ
スクが高くなっているからです。

預金者も、自分の預金(マネー)が引き出せないリスクを感じ、預
金取り付けに走るでしょう。銀行の破産は、引き受けていたCDSが
高騰したリーマンブラザースのように一瞬で(約2週間の期間で)、
起こります。短期負債が大きいからです。

日銀は、通貨を増発できるし、債務のデフォルトはあっても倒産と
いう概念がない政府がバックなのでマネー不足からの破産には至り
ません。

しかし下がった国債をもつ銀行は、違います。銀行は破産します。

▼銀行の救済マネーは日銀の負債になる

銀行の破産に対しては、日銀がマネー増発をして貸付をすることに
なっています。その貸付は、日銀当座預金であり、日銀の負債です。
つまり民間銀行が破産に瀕したときは、貸し付ける日銀(発券銀
行)の負債がどんどん膨らんでいくのです。預金の取り付けに備え
て、紙幣も大増刷の必要が出るでしょう(現在の紙幣の発行は104
兆円:18年7月24日)。

1000兆円の国債を、日銀と銀行が資産として保有している場合、そ
の下落による損は、以上のようなプロセスを経て、日銀の負債の増
加になっていきます。

日銀は破産しません。しかし、銀行の救済資金の増加ために負債と
紙幣の発行がどんどん膨らんでいくのです。ついには、円が信用さ
れないとことまで行くでしょう。

【増刷された通貨は下がる】
リーマン危機は、米国の金融危機でしたが、対応はFRBによるドル
の増刷($4兆:440兆円)だったため、ドルの信用が低下して、ド
ル安になったのです。

ただしこのドル安は、欧州も、南欧債の下落から銀行の危機になり、
ECB(欧州中央銀行)が同じく440兆円を刷って、世界第二の通貨で
あるユーロの価値を下げたため、目立たなかったです。

GDP(国の経済力)からして、3位は人民元、4位が円でしょう。人
民銀行と日銀も、通貨の増発を行っています。米国、欧州、中国、
日本の中央銀行の通貨増刷額は$20兆(2200兆円)という巨額さの
ままです。

2009年から、世界がマネーを増発したのでドル下落が目立っていな
い。むしろ2018年は、0.25%の2回の利上げと、あと2回の利上げ予
想からドル高の傾向すらあるのです。

以上に対して、原田氏は、
(1)<金融緩和の出口で、日銀の損益計算書が赤字になることが
あり得ますが、経済には何も起きないと考えています>とのんびり
と答え、
(2)<(金利が上がれば)最終的には、ほとんどコストのかから
ない(日銀)当座預金で高い金利の得られる国債を買うのですから、
中央銀行は長期的には必ず利益を得ることができます>と答えてい
ます。

■5.金利の上昇の仕方

当方は、日銀が出口政策をとると表明すれば、金利の上昇で流通価
格が下がる1000兆円の国債を、金融機関が先を争って売りに出でる
ので、売りが超過した国債は下落し、ほぼ3か月の短い期間で簡単
に2.5%の金利には上がると想定しています。誰でも、下がる債券
を持ち続けるのは嫌なことです。

2017年までの利下げの過程では国債価格は上がり、それが、日銀に
国債を売った金融機関の利益になっていました。金利が上がると、
逆になります。下がって損が出る国債は、売りに出ても買い手がな
くなり、債券市場は金利高騰の気配値を示すだけで、死滅するでし
ょう。

実は国債は、金融機関の間で、激しく売買されているのです。

▼金融機関は、実際は、国債を短期で売買している

2018年6月の、日本国債の売買額は1060兆円です(1か月間)。残高
が約1000兆円ですから、平均保有期間2か月で売買されています。
国債は、平均保有が1年の株式よりもはるかに「短期所有され、頻
繁に売買される債券」です。

時価評価を逃れるため、満期までじっともっていれば、平均保有期
間は8年で、1か月の売買額は25兆円にしかなりません。ところが実
際は、25兆円42倍も売られています。

円国債を、満期まで持ち続ける金融機関は、稀です。「国債は満期
までもつ。時価評価はしない」という嘘を申告して、今年も損益計
算書を作っています。金融庁は、金融機関国債の評価を意図して見
逃しています。(国債の売買額↓)
http://www.jsda.or.jp/shiryo/toukei/tentoubaibai/index.html

【後記】
原田氏のような「金利の上昇と国債についての誤った認識」が出る
理由は、日本の政府負債(1287兆円:資金循環表)、うち国債
1000兆円余という、GDPに対する政府負債の大きさを無視して論を
組み立てているからです。

GDPの2倍以上の政府負債がある国では、わずかな金利の上昇が、国
債価格の大きな下落になって、それが金融危機を生みます。日本に
とって、出口政策での金利の上昇から「何も起こらない」のではな
く、2.5%への上昇でも金融危機が起こります。

金融機関がもつ国債の資産額が大きいからからです。他の国の事例
は、当てはまらないのです。

いつも思うことですが、金利の上昇と国債価格の下落を、定量的に
論じる人が当方以外にはいないのは、なぜでしょうか。定量化すれ
ば、金利の上昇から来る危機がわかるはずです。

【後記】
有料版では、毎週、時事的な事象から原理的なことに至る論を書い
て送っています。若干、難しいかも知れませんが、本質的な論を
目指しています。

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1.マグニチュード9の、東日本大震災が予報(予知)できなかった
理由
2.米国の利上げ(18年6月)
3.FRBが利上げする本当の理由
4.トランプ関税の理由
【後記】

<947号:米欧の出口政策と、日銀の量的緩和の持続(2)>
        2018年6月27日:有料版
【目次】
1.ECB(ユーロの中央銀行)も12月からの出口政策を示唆した
2.再びの危機のドイツ銀行と、イタリア国債の問題がある
3.ECBが言う予定は、過去繰り返したように、不明だろう
4.統一通貨を続ければ矛盾は深まって結局は解体されるユーロ
5.量的・質的緩和を継続している日銀
6.目的の物価上昇に失敗しても、日銀は異次元緩和を続ける
【後記】

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年)や登録が切れてないか、調べてください。

もっとも多いほとんどの原因は、クレジット・カードの期限切れで
す。お手間をかけかけますが、「新しい有効期限とカード番号」を
再登録してください。月初めに送った分の再送を含み、再び届くよ
うになります。

以下のページの「マイページ・ログイン」から、メールアドレスと
パスワードでログインし、出てきた画面で、新しい期限と番号を再
登録します。
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