財政破産を促進させている政府のリフレ派
This is my site Written by admin on 2016年11月26日 – 09:00
おはようございます。AIの記事以降、ご無沙汰していました。本稿
は、先週、緊急の有料版として送ったものです。

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金融市場では、「逆トランプショック」の相場が続いています。

逆という理由は、トランプが大統領に就任した場合、事前の市場の
大勢では「株価暴落、円高/ドル安、新興国通貨は下落」とされて
いたからです。新興国通貨の下落のみが想定通りであり(2%~10
%安)、他は、まるで逆でした。一体、何が起っていたのか?

▼大統領選投票の5日前から、米国の国債価格が下がり、株価は上
がっていた

開票日(11月9日)の前後の底値からの変化を整理します。
まず米国です。

       11月4日   11月22日   変化   
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
米国ダウ  $1万7888   $1万9023   +6.3%
10年債金利  1.8%      2.3%   +27.8%
ドル     103.4円     111.0円    +7.3%
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

注目すべきは、クリントンの当選を、例えばNYタイムズ紙が93%の
確率としていた5日前(11月4日)を起点に、米国市場では、トラン
プの当選を予想した、動きが見られたことです。

(1)金利上昇を織り込んだ、米国債の売り
      →国債は下落、金利は上昇
(2)金利が上がると価格が下がる債券を売って、株に振り替える
     動き(特に、米国金融株の買い)
(3)他方で、円と新興国の通貨は売られ(=ドル買い)、ドルは
     上昇しています。

これが、投票の5日前の11月4日から起っていたのです。米国の株価
と金利(国債価格)には、トランプショックは見ることができない
のです。

【奥の院でのトランプ当選予想】
これが意味するのは、メディアのインサイダー情報と直結している
米国投資銀行(ゴールドマンやJPモルガンが代表)と、その投資部
隊であるヘッジファンドは、投票日の5日前に、「トランプの当
選」を予想していたことです。

そのため、
(1)国債売り
(2)国債を売った代金での株買い
(3)円と新興国通貨の売りの、
3セットのポートフォリオ(分散投資)を仕組んでいます。

ウォール街金融と一体の、メディアの奥の院では、11月4日時点で、
僅差での「トランプの勝ち」を予想していたのでしょう。

GOOGLEは、AI(人工知能)で、世界中のWEBの記事とメールを分析
しています。「トランプ当選」の予想だったと思われます。

GOOGLEは8年前にも、泡沫とも見られていたオバマの当選を予想し、
「なぜグールグは知っていたのか」と騒がれました。その後、外部
への予想の発表をしなくなっています。

【トランプ当選スピーチ後の追随買い】
11月9日トランプの当選スピーチ後に、ヘッジファンドの動きに、
慌てて「追随した」のが、他の金融投資家でした。

【5日遅れの日経平均】
米国株に遅れて動くのが常の日経平均は、開票日の11月9日の前ま
では、株価下落、円上昇の動きでした。

トランプの深夜の当選演説のあと、日経平均は米国ダウを追って
11.2%上がっています。円は逆に、1ドルが111円へと7.8%も急落
しています(11月22日)。(注)11月26日現在は、1ドルが113.2円、
日経平均は1万8381円です。

         11月9日   11月22日    変化   
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
日経平均   1万6251円  1万8162円  +11.2% 
米ドル    103.4円   111.0円     +7.3%
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
このデータは、
・日経平均(あるいはTOPIX)の指数買いが、
・それより大量の、円の先物売りでヘッジされたことを示します。

〔日経平均上昇1911円÷円下落7.6円=251円〕です。
1円の円安につき、日経平均の上昇は、251円と少ない。


2013年以降の平均では、
・円の1円の変動(1%)が、
・日経平均の300円の変動(1.8%)に相当しています。

【円売りの大きさ】
トランプ当選のあとは、1円の円安に対して、日本株の上昇は251円
であり、円の変動幅が大きい。これは「円売り」が先行して、しか
も大きかったことを示します。

【政府系金融と日銀の円売り/ドル買い】
日本の政府系金融(とくにゆうちょ銀行)と日銀による、「円売り
/ドル買い」が、大きかったからです。

円とドルだけで言えば、短期での1円の円安には、ほぼ5兆円の「円
売り/ドル買い」の介入が必要です。7円分で35兆円付近の「円売
り/ドル買い」があったことを示します。

(注)ゆうちょ銀行は、前号で述べたように、保有国債を日銀に売
り続け、45.8兆円のフリーな現金を、日銀当座預金に預けています
(16年3月期)。これは、異常すぎる額のキャッシュです。

このゆうちょ銀行のマネーが、急遽、「円売り/ドル買い」に使わ
れたと推測します。3ヶ月後の比較貸借対照表でわかるはずです。
日本からは、円高(ドル安)と、株価下落が予想されていたからで
す。(注)ゆうちょ銀行の、特にドル買いのときの資金運用は、政
府が指示しています。

【株価上昇は、国債売りの派生的な事項】
米国や日本の株価上昇は、国債売りから派生した、付帯的なもので
す。

株価は、金利が上がったときは、下落するのが普通の動きです。普
通の動きになっていない理由は、ここ数年は、マネーの行く先がな
い「過剰流動性」相場が続いているからです。

【経済指標と逆の動きになることが多い過剰流動性相場】
過剰流動性の相場では、株価は、実体経済の期待金利、期待インフ
レ率、GDPの期待伸び率とは、無関係な動きをします。

これをメディアは、「株価が上がったから実体経済の景気がよくな
っている」と、本末転倒のとらえ方をします。

トランプ氏は選挙中から、FRBの量的緩和の継続を非難し、議長の
首をすげ替えても、「ドル増発を終わらせる」と言っていました。
(これは期待金利上昇の要素)

【FRBは、金融緩和を継続している】
FRBは15年12月に、2015年夏から中国が売った米国債の、海外から
の買い支えを促すため0.25%の利上げはしています。

しかし、満期が来る国債($2.3兆)は買い換え、MBSの配当分でも
MBS($1.7兆)を買い支えて、ドル増発($4.4兆)は維持してい
ます。新聞が言う出口政策は、とっていないのです。
https://www.federalreserve.gov/releases/h41/Current/

【トランプ減税と、インフラ投資のへ期待】
加えて、トランプは大幅な減税をした上で、$1兆規模の赤字国債
の増発をして、劣化している公共インフラ(道路など)への投資を
すること公約しています。(これも期待金利上昇の要素)(注)数
兆ドルになるという見方もあります。

現在は、年間$7000億規模の米国債が増発されています。国債の新
規増発が増えると、買い受けのために金利が上がり、米国の既発国
債($15兆:1500兆円)は、下落することを示します。

【早すぎる織り込み】
減税も、国債の増発も、1年以上先なることです。しかし米国の大
手投資銀行とヘッジファンドは、それを見越して、国債を売り、得
たドルで株を買ったのです。このため、金利は1.8%から2.3%へと
27.8%も急騰しました。

残存期間が10年の国債は、1.18÷1.23=0.96・・・4%下がってい
ます。国債価格での、わずか10日での4%の下落はとても大きなも
のです。これはヘッジファンドの米国債売りが大きかったことを示
しています。(注)1500兆円の既発国債全体では、60兆円も下落し
ています。

【日米の金利の動きは連動する】
米ドルの金利上昇は、円金利も上げます。円から金利差(イールド
スプレッド)が開いたドルへ買い(円売り)が増えるからです。米
国の長期金利は2.3%、日本は0%ですから、2.4%のスプレッドが
あります。これが、円高(ドル安)リスクをカバーします。

10年ものの円国債は、16年7月には最低のマイナス0.3%でしたが、
11月は、米国金利につれて上がり、ほぼ0%です。0.3%上がりまし
た。マイナス金利だった円国債も金利が0%に上がり、価格が下が
っています。(注)日本から米国にマネーが流れると、国内の金利
は上がり、円安になります。5兆円のドル買い/円売りで、円相場
は約1円下がります。

ほとんどのメディアは、「トランプ政権で、米国経済が好転すると
見こんで株価が上がった」としていますが、これは違います。

「米国債価格の下落(つまり金利の上昇)」を予測したのです。

【早すぎる織り込みのツケが回ってくる】
米国投資銀行と、ヘッジファンドの投資の多くは、「限月が3ヶ月
の先物」です。買った先物は、3ヶ月以内に、反対に売らねばなら
ない(限月までの清算の義務)。

そのときは、現在の相場とは、逆向きになります。今回の動きは長
期的なものではない。金利上昇期待が大きすぎるからです。

本稿のテーマは、<白旗をあげて、金融抑圧に転じたリフレ派と日
銀>です。日経新聞の、浜田宏一氏に対するインタビュー記事を見
て、その、あまりの認識不足に、心底、驚きました。

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<Vol.365:財政破産を促進させている政府のリフレ派>

    2016年11月26日:有料版と共通

【目次】

1.リフレ派の、遅まきの白旗
2.「物価は貨幣現象」の自己否定
3.米国へのマネーの誘導のエージェントに見える
4.シムズ論文に「目から鱗が落ちた」と言う
5.(3)今後は、減税も含めた財政の拡大が必要だ。もちろん、歳
  出をふやすのではなく、何に使うかをかんがえないといけない

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■1.リフレ派の、遅まきの白旗

アベノミクス開始4年として、日経新聞の記者が、浜田宏一氏にイ
ンタビューしています。(16.11.15号)

東大とエール大学の、経済学教授を歴任し、現在は、安倍政権の内
閣官房参与を務(つとめ)ています。安倍政権のリフレ政策の、総
帥の立場にある人です。

記者の質問:
日銀は、国債の買い入れを年80兆円に増やしました。4年経っても、
物価目標とする2%に達していません。

浜田氏:
国民にとって一番大切なのは、物価ではなく、雇用や、生産、消費
だ。最初の2年はうまく働いた。しかし、原油価格の下落や、消費
税率の5%から8%への引き上げに加え、外国為替市場での投機的な
円高も傷害になった。

▼解釈

異常な金額の金融緩和は、インフレ目標(2%)の達成を目的に行
われたことは、明白でした。

ところが浜田氏は、まず、「国民にとって一番大切なのは、物価で
はなく、雇用や、生産、消費だ」と、質問のはぐらかしを行ってい
ます。

リフレ派が政策目的にしていたインフレ目標より、雇用(失業率)、
生産(企業の売上)、消費(世帯の需要)が大事だと言っています。
学者にあるまじき、理論的誠実さのない態度です。

次に、金融政策は効いたという主張の上で、

(1)2014年6月以降の原油価格の下落、
     [$105(14.06)→$47(15.01)]
(2)消費税の引き上げ、[5%→8%(14.04~)]
(3)投機的な円買い、[122円(15.12)→101円(16.08)]の3点
     が、物価を下げる働きをした、と言っています。

この3点がなければ、金融政策により、2%へのリフレが成功したと
いうことを言うためです。しかし、これは、リフレ派の物価に対す
る基礎理論と、矛盾しています。

また、2015年12月の1ドル122円から16年8月の101円への円高を、浜
田氏は「投機的」と言っています。あたかも、投機的でない、円
高・円安があるかのような言い方です。

常々から、為替の売買(円・ドルでの1日100兆円:2016年)のうち
95%は、貿易用や投資用の実需に基づかない、通貨投機的なもので
す。

以上を知らずに、浜田氏がいう「投機的な通貨売買」とは、何を意
味するのでしょうか?

■2.「物価は貨幣現象」の自己否定

リフレ派の、物価に対する基礎理論は、「物価は貨幣現象」という
ことです。

これは、金融緩和政策に対する国会質問で、安倍首相が鸚鵡(おう
む)返しに「物価は貨幣現象なんです」と答えていたことからもう
かがえます。

安倍首相は、物価について、他の理論を知らない。このため、これ
が国際標準だと言いながら講義した、浜田氏の「貨幣現象論」を信
じたのです。罪深いことですが、アベノミクスの始まりがこれでし
た。

【フリードマン】
「物価は貨幣現象」という仮説は、1929年から1933年の、米国の大
恐慌を研究した、ミルトン・フリードマンが、言ったことです。

1933年までに、銀行の信用収縮と、取り付けから米国のマネースト
ック(マネーサプライ)は、2/3に減少していました。

引き出されるマネーの不足のため、20%の銀行は、営業を停止した
のです。(『大収縮 1929-1933』:ミルトン・フリードマン、ア
ンナ・シュウォーツ)

このマネー不足のため、需要不足が起こっています。卸売物価は、
恐慌の初年度(1930年)に13.5%下落して、個人消費は17%も減っ
ています。

【仮説】
以上の現象をもとに、「物価は貨幣現象である」と仮説を作ったの
です。これが、中央銀行がマネー・サプライを増やせば、インフレ
になるということも意味するようになって行きます。

【マネー・サプライと、ベース・マネーは違うもの】
なお、日銀の当座預金は金融機関がもつ現金性預金であり、ベー
ス・マネー(マネー増加の元になるのもの)ではあっても、世帯と
企業が、実体経済(消費と設備投資)に使う預金のマネー・サプラ
イではありません。

【岩田副総裁の誤り】
リフレ派の岩田副総裁は、「日銀が国債を買ってベース・マネーを
年70兆円増やせば、マネー・サプライも70兆円(6%)増える」と
言っていました。

現在、マネー・サプライ(M3)の増加は、3.2%(16年10月:日銀
マネーストック統計)に過ぎない。前年比での2%から3%の増加は、
異次元緩和前と変わらない水準です。

つまり、異次元緩和は、ベース・マネー(銀行の当座預金)は増や
しても、
・世帯と企業の預金であるマネー・サプライを増やさず、
・需要を増やして、物価を上げる効果もなかったのです。

記者の質問:
デフレ脱却に、金融政策だけでは不十分だったということですか。

浜田氏:
私がかつて、「デフレは(通貨供給量の少なさに起因する)マネタ
リーな現象」だと主張していたのは事実で、学者として以前言った
こととは、考えが変わったことは、認めなければならない」

【解釈】
考えが変わったことは認めなければならない・・・そうではない、
「間違えていた」と認めねばならない。

間違えていたと言わない理由は、「では、責任は?」となるからで
す。男らしく責任をとるつもりは、毛頭ないからです。

なぜ間違えたのか?

経済学は、単純化した理論モデルを作る性癖があるので、まだ、こ
れを認めていませんが、現実のマクロ経済は、数えきれないくらい
多くの要因が複雑に絡む、気象のような「複雑系」でしょう。

物価は貨幣現象であるというような、一つの原因と結果の、線的な
関係ではない。(マネー量→インフレ/デフレ、ではない。実際の
物価には、他の要因も絡んでいる)

ところが浜田氏は、「マネタリストの元祖フリードマン」の仮説を、
疑いもせず信じ込んだのです。

原因は、自分で現実の経済から学問をしなかったからです。
他人が書いたもの(他人が分析したもの)を読んで、理論としたの
です。

このため「(後述する)副作用を含む異次元緩和」を実行してしま
ったのです。これは、日常用語で言えば「ついに、やらかしてしま
った。その取り返しは、つかない」ということでしょう。

診断と処方が誤っていたため、医薬が目的の効果を発揮せず、死に
まで至る他の病気を引き起こす副作用のみを生んだということです。

失礼なことをあえて言うと、浜田氏の、リフレ論の本を読んで、
「この人は、すでに、脳が老化している」と感じたのです。
自分は誰々(一流の経済学者)を知っている、**がこう言ってい
た、ということしか書いてなかったからです。

老化していないとすれば、わが国の、金利を0%やマイナスにした
異次元緩和は、ドルとドル債を買って、米国に資金提供するために
行ったということになります。

■3.米国へのマネーの誘導のエージェントに見える

これには、実は証拠があります。

【ついに、とんでもないことを言い始めた浜田氏】
最近の浜田氏は、「日銀が米国債を買って、円を増発する方法もあ
る」と言い始めています。

ユーロの中央銀行であるECB(中身はドイツマネー)が、ギリシア、
ポルトガル、スペイン、イタリアなどの南欧債を買うことで、資金
提供したことと同じです。

A国の国債、債券、通貨を、B国のマネーで買うことは、B国からA国
にマネーを提供することと同じです。

記憶のある方もおられるかもしれませんが、異次元緩和の開始直後
に、当方は、あえて露骨な表現を使い、浜田氏を「亡国のエコノミ
スト」と書いたことがあります。(注)小泉内閣にも、類似の人が
いました。

異次元緩和であふれた、銀行の当座預金マネーが、ドル買いになっ
たからです。

三菱UFJグループの事例で言えば、総資金量(298兆円:16年3月
期)のうち、外国貸出が43兆円、外国債券が28兆円です。

合計で71兆円が主に米国に行っています。同時期の国内の貸し出し
は59兆円、国内証券が34兆円で、合計94兆円です。

(注)16年9月期は、$1=101円の円高のため、海外運用は6兆円
(8.5%)減ったように見えていますが、これは、ドル安(円高)
で減ったのであり、回収したわけではない。

わが国で資金量が最大の銀行は、国内55:海外45の資金運用です。
国内の金利がゼロやマイナスなので、海外で運用したからです。こ
のマネーの海外流出も、異次元緩和が国内のマネー・サプライを増
やさなかった原因です。

三菱UFJグループも、ゆうちょ銀行や、年金のGPIFと同じように、
日銀に国債を売って、そのマネーは、米国への提供です。

民間銀行は、異次元漢和による国内金利(0%やマイナス)と、米
国金利(1.5%から2.5%)の、大きくなったイールド・スプレッド
を確保するため、政府政策に従属した運用をするしかない。
http://www.mufg.jp/ir/presentation/backnumber/pdf/slides1609.pdf

浜田氏が、「異次元緩和は、国内のサプライを増やすものではない。
それは、ドル買い(ドル預金)と、ドル国債買いになって、米国の
マネー・サプライを増やす」ことを知った上で、異次元緩和を推進
したのなら、確信犯です。

行っていることから、米国の金融エージェントに見える浜田氏は
「日銀が米国債を買って、円を増発する方法もある」と言い始めた
のかもしれません。国民経済にとっては、害です。

FRBのバーナンキも、日本に異次元緩和を奨めました。明らかに、
「米国債を買ってくれ」という意思表示だったのです。

【2014年10月の事件】
2014年10月に米国がテーパリング(FRBによる国債買いの順次縮小
:10ヶ月)を終えたとき、その同じ月に、わが国の公的年金を運用
するGPIFが「米国株と米国債の保有を2倍に増やす」方針を発表し
ています。

(注)14年10月末には、日銀も追加緩和で、国債の買い増しを発表
しています(年80兆円)。

実は、2015年8月からは、米国債の1位保有国である中国政府が、米
国債を売り始めました。それ以降の売りの累積は$1260億(12.6兆
円:ブルムバーグ)です。

(注)中国政府がドル国債を売ったのは、自国のGDP成長率の低さ
と、不動産の不良債権の実際を知っている民間の「元売り/ドル買
い(=元の海外流出)」が2015年8月から大きくなって、大きな元
安を招く恐れがあったからです。

このため政府は、民間の、「元売り/トル買い」に対抗した「ドル
国債売り/元買い」を行ったのです。
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2016-06-16/O8U9B06K50Y101

中国政府が、米国債を売る分の買い手がいないと、米国の金利は上
昇し、レポ金融に依存した米国金融と株価に、深刻な影響をもたら
します。

しかし米国FRBは、ドル信用の維持のため、テーパリングは終了せ
ねばならない。

そこで、日本政府に頼んで、ゆうちょ銀行と、GPIFのマネーを、米
国債と株の運用として提供するということだったのです。

こうしたことは、政府は平気で行います。以前、安倍首相が、
NYSE(ニューヨーク証券取引所)で、「Buy Abenomics」と叫んだ
ことがあります。これは米国に対して、強制的な買いを促すもので
はありません。あくまで、お願いのレベルです。

ところが、米国政府が日本に言うときは、異なります。「強制」の
意味をもつのです。(従来は、財務省が、これを外圧と言っていま
した。今はこの言葉は消えましたが、続いています)

状況証拠からは、リフレ派は、狙ってか、狙わずか不明ですが、米
国のエージェント役に見えるのです。

■4.シムズ論文に「目から鱗が落ちた」と言う

ジャクソンホール会議は、毎年8月にワイオミング州の、イエロー
ストーン公園近くの田舎で開催されます。世界の中央銀行、政治家、
学者、エコノミストが参加します。

ここの会議の議題や講演内容は、そのまま、米国FRBの政策になる
ことが多い。米国では、ブレトンウッズ(ドル基軸を決めた会議:
1944年)もそうでしたが、重要な会議ほど、田舎の大きなリゾート
ホテルで開きます。

浜田氏:
米プリンストン大学教授のクリストファー・シムズ氏が、8月のジ
ャクソンホール会議で発表した論文を紹介されて、目からウロコが
落ちた。
(1)金利が0%近くでは、量的緩和は効かなくなる。
(2)マイナス金利を深掘りすると金融機関のバランスシートを損
(そこ)ねる。
(3)今後は、減税も含めた財政の拡大が必要だ。もちろん、歳出
をふやすのではなく、何に使うかをかんがえないといけない。(こ
こまで)

▼解釈

当方は、浜田氏が、「金利が0%近くでは、量的緩和は効かなくな
る」と聞き、目からウロコが落ちたというのを聞いて、ひっくりか
えりました。

これは、まず、ケインズ、ヒックスが言い、クルーグマンもリフレ
策の理論的な根拠になった『流動性の罠(1998年)』で取り上げて
いたからです。
http://cruel.org/krugman/krugback.pdf

その1行目で、クルーグマンは以下のように書いています。

学問分野としてのマクロ経済学の初期には、流動性トラップ、名目
金利がほぼゼロなので、金融政策が威力を失うという変な状況、現
金と債券とがほぼ完全な代替物になってしまうためにマネーの量が
どうでもよくなってしまうという変な状況は、中心的な役割を果た
していた。(山形浩生訳)

▼コメント

【名目金利のZLB(Zero Lower Bound:ゼロ金利制約)】
預金金利は、0%以下にはできない。マイナスになれば、金利ゼロ
%の現金として引き出されて、銀行がマネー不足に陥るからです。

物価が、5年以上続いて下がるデフレ経済では、[実質金利=名目
金利(0%)-(-デフレ率)]となって、実質金利はプラスにな
ります。

【流動性の罠】
人々の期待デフレが2%なら、名目金利を0%に下げても、実質金金
利が2%と高くなって、借り入れによる投資が増えなくなります。

このため名目金利0%であっても、マネーは現金のまま銀行にとど
まって、流れない。これが流動性の罠です。主唱したのは、ヒック
スです。

物価が年率で2%下がるなら、預金金利が0%でも、1年後には、
100円の物価が98円になるので、2%(2円)の金利がついたのと同
じことになるからです。

【(1)期待インフレ率を2%に上げて、
実質金利をマイナス2%にする】
これを浜田氏が知らないとは、一体どういうことか? 
知らないわけがない。

インフレ目標を実行した根本の理由は、インフレ率を2%にもって
行くことによって、[実質金利=名目金利0%-期待インフレ率2%
=-2%]に下げ、借り入れによる需要、投資による需要を増やし
て、GDPを名目で3%以上、成長させることだったからです。

全く・・・わけがわからない。

本人が嘘を言っていず、本当に目からウロコが落ちたのなら、これ
はもう、ひどい話です。内閣官房参与(政府の経済政策のブレー
ン)は、今日、降りるべきです。

▼(2)マイナス金利を深掘りすると金融機関のバランスシートを
損ねる

これも、浜田氏の目からウロコを落としたことだという。全くもう、
という感じです。

マイナス金利とは、国債の金利が、マイナスになることです。マイ
ナス金利政策で、10年債の金利がマイナス1%になったとしましょ
う。これはどういうことか。

額面100万円、金利0%の国債を、金融機関(日銀、銀行、生保)が、
111万円で買うことです。これは、国債を発行する借り手である政
府に、貸し手である金融機関が11万円の金利を払うことです。
(注)100万円÷(1+(-1%×10年))=100-0.9=111万円

額面100万円国債を111万円で買った金融機関は、10年後の満期にな
ると、100円しか償還がないので、11万円損をします。この分が、
普通の金利と逆に、買い手が売り手に払う金利になります。

こんな馬鹿なことが、起るのがマイナス金利です。

こうした国債を持てば、金融機関のB/Sが、含み損で痛むことは当
然です。(注)日銀は08年2月からのマイナス金利で、すでに、自
己資本7兆円がマイナスになる規模の含み損を抱えています。

浜田氏が、マイナス金利のことでも、シムズ氏の論文を読んで目か
らウロコが落ちたのなら、もう何をか言わんや・・・です。こんな
ことも知らずに、日銀のマイナス金利政策(16年2月~)をバック
アップしたのか。

■5.(3)今後は、減税も含めた財政の拡大が必要だ。もちろん、
歳出をふやすのではなく、何に使うかをかんがえないといけな
い・・・という。

政府は、今年度、28兆円の経済対策を立てています。このうち、財
政の拡大分は7.5兆円です(GDPの1.5%分:ただし複数年:2年なら
0.75%/年)。

浜田氏が言うのは、シムズ教授の奨めに従い、もっと、財政を拡大
することです。

これを、安倍内閣の初期に言われていた年20兆円の公共投資(国土
強靱化20兆円×10年)としましょう。財源は、国債の20兆円の増加
発行です。国債の新発は、年60兆円になります。

これがどういった結果をもたらすかです。わが国の公共投資(公共
事業も同じ)の乗数効果は1.14倍に下がっています(IMFの試算)。

20兆円の公共投資では、初年度のGDP増加が20兆円ですが、2年目は、
20×0.14=2.8兆円の増加効果に減るということです。

そこで、また20兆円の公共投資を行うことにします。やめれば、
GDPが下がるからです。そして翌年も実行したとします。
GDPと政府負債の増加は以下のようになるでしょう。

      2016  2016  2018  2019  2020
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
政府負債  1277  1337  1397  1457  1517兆円
名目GDP  505  525   528   531   534兆円
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 
債務比率  253% 254%  264%  274%   284%
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
債務比率=政府負債÷名目GDP

乗数効果が、公共投資の1.14倍しかないので、毎年20兆円ずつ、現
在より財政支出を増やしても、GDPの増加、ほぼその年度分だけで
止まります。

このため、国債発行が、現在(40兆円)より20兆円増えた分、債務
比率は悪化し、財政破産に一直線になってしまいます。

【結果は債務比率の増加から、財政破産へ】
浜田氏が目からウロコが落ちたという、減税策と公共投資の増加は、
政府のGDPに対する、すでに限界的な債務比率を(253%:2016年)
を、254%、264%、274%、284%と拡大させ、財政破産に向かわせ
ます。

異次元漢和が効果を生まなかった政府は、若干のインフレ効果はあ
っても、その効果以上に、政府負債を膨らませるだけで、結局は、
自滅に向かう財政拡張政策をとるでしょうか。

【次の政策】
浜田氏が、2018年からの日銀総裁を狙っているスイス大使本田悦朗
氏(前内閣官房参与)とともに、政府に要請する次の政策が、
(1)少しの減税、
(2)年20兆円ではなく、10兆円(GDPの2%)程度の公共路投資の
拡張でしょう。

この結果は、金額は10兆円ですが、上の表と同じで、財政破産を早
期化させます。これは、財政破産を早期化させないために、やめさ
せるべきものです。

浜田氏は、わが国の公共投資の乗数効果が1.14くらいに低下してい
ることを知らないのでしょうか。乗数効果が2.0倍あった1970年代
までとは、異なります。

政府に巣食うリフレ派は、財政破産の促進をしています。

【後記】
今回の、インタビュー記事を読んで本当に驚きました。

ごく一部の人からノーベル賞とも言われ、東大の経済学の教授だっ
た人に対して失礼になりますが、もし浜田氏が、正直に言っている
のなら、経済学のもっとも基本的なところの素養に欠けます。一刻
も早く、責任をとって辞表を書くべきです。

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<835号:政府の財政破産は、
                   どうすれば防ぐことができるか>

        2016年7月13日:有料版

【目次】

1.中央銀行の信用は、政府の財政信用に由来する
2.2018年ころ、日銀が、国債を買い続けるのが困難になる時時期が
 来る
3.20年も続いている日銀の国債買いにより、
 政府は財政赤字を縮減しなくなってきた
4.日銀の損失の増加には、いずれ、限界が来る
5.日銀は、国債を買い過ぎて、価格のバブルを作ってしまった
6.財政破産を避けるために、政府・日銀が行える唯一のこと

【後記】

<836号:政府はヘリコプター・マネーに向かうか>

     2016年7月20日:有料版

【目次】

1.金融市場からは予想外だった、英国国民投票の結果
2.7月12日からの円安(ドル高、ユーロ高)への戻りは何か
3.政府は認めないが異次元緩和は失敗した
4. 7月12日からの、
   円安(ドル高、ユーロ高)への戻りのきっかけ
5.ヘリコプター・マネーの方法

【後記:インフレ期待と金利の関係】

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