2011~12年の日本経済と世界(1)
This is my site Written by admin on 2011年5月25日 – 08:00

こんにちは、吉田繁治です。本稿は震災後の錯綜した経済情勢を整
理し、復興投資(必要額30兆円)を含む、中長期の経済を見通すこ
とを目的とします。

【経済学】
経済学は、過去のデータを解釈し、そこから、科学的と思われる法
則を見つけようとします。科学的とは、「原因→結果」の関係にお
ける原理です。

科学では、「人間が、事実とその情報をどう認識するか」が関わり
ません。例えばニュートンの引力の法則は、人類が、その法則を知
らない時代も、働いていました。

科学の法則に従う原子核の分裂は、人間がその分裂を認識するか否
かに関係なく、働きます。病気も同じです。人が、自分の病気を認
識するか否かに関わらす、病気は医学(科学)的に進行します。

ところが経済学は「事実とその情報に対する人間の認識」が挟まる
点で、科学的な法則と違います。

経済は科学、言い換えれば「事実が原因になって、展開を生むもの
」ではありえない。(注)投資行動も購買行動です。

経済学の難しさは、「事実→解釈(人間の認識)→判断と行動」に
なることです。事実が原因になるのではない。事実の解釈が、購買
行動と投資行動を生みます。

例えば、ある土地が安いと思う(人による価格情報の認識)。そこ
から、買う(あるいは投資する)という経済的な行動が出る。

土地が3.3平米当たり100万円(事実)で安いという認識は、将来、
上がるだろうとする予感値(例えば数年後に120万円という不確実
性)に比較してのものです。将来安くなると思えば、誰もその価格
では買いません。

経済学は「あらゆるものの価格は、供給と需要の一致点で決まる」
という、とても貧弱な「市場の需給による価格決定の原理」しか準
備していません。(注)価格原理は、経済学のもっとも基本的なも
のであるべきものです。

【アニマル・スピリット】
マルクスを超えた最大の碩学者と思えるケインズは、投資行動に対
し、「アニマル・スピリット」と言っています(『雇用・利子およ
び貨幣の一般理論』:1936年) 

投資行動の非合理(非科学性)を言ったものです。
アニマルは、動物です。

アニマルという言葉を使い、ケインズが言ったのは、「投資行動は
、科学的な法則による行動」ではありえないということです。確か
に、その通りと思えます。

未来の価格の想定は「直感(認識の1形態)」によるものです。
例えば、ゴールドが上がり、原油が上がって、穀物が上がっていた
。なぜ上がったのか? 過去の市場での供給より、需要(購買)が
多かったからです。

今、決して返せない累積財政赤字から、原理的に言えば上がるべき
日米の金利が逆に下がって、国債価格が上がっています。

原因は、資金供給より資金需要が少なく、投資家が、もっとも金利
が低い国債を安全資産と認識して買ったからです。過去の価格は、
以上のように説明ができます。

この点では、一見、需要と供給の関係で価格が決まったように思え
ます。

しかし、それは、過去の価格に過ぎない。経済学は、過去の価格を
意味づけて、需給の関係から、合理的に解釈することを行っていま
す。経済学は、死体の腑分けに似ているのです。

じゃ、ゴールド、原油、穀物に投資する(買う)という今日の行動
は、どこから出るか。「もっと上がるという期待(未来への予見)
から」でしょう。

ところが、未来は、事実としては認識できません。明日や半年後の
株価は、予感(または予見)しかできない。

予見した株価に対し、現在は安い。あるいは高い。予見したゴール
ドの価格、原油価格、穀物価格に対し、現在は安い。あるいは高い
。そこから現物買い(先高予想)、あるいは空売りや先物売り(先
安予想)が出る。

つまり、予想や予見という「アニマル・スピリット」によって、今
日の価格が決まっています。

メールマガジンで何回も繰り返している、経済や金融の予想をする
とき、いつもこうした「アニマル・スピリット」が、奈辺(なへん
:どこ?)にあるのかと考えるのです。

【錯綜】
今、経済に関する情報は「錯綜」しているように感じます。

企業の活動と生活(所得)を決める日本経済について言えば、「30
兆円の復興投資が必要で、そのため政府が国債を発行し、その国債
を買う日銀がマネーを刷るから、日本経済は成長する(GDPが増え
る)」と見ている人がいます。

太陽光発電、自然エネルギー、復興需要の建設・土木に関わる企業
の株は、買いと言う。海外ファンドは、こうした予見から、日本人
(金融機関と個人)が、大震災以降、下がると見て売り越した株を
、逆に買い越しています。

他方、政府財政の赤字が増え、高齢化した日本経済は、阪神淡路大
震災(1995年)のころのような復興投資を行うことができない。東
日本大震災の25兆円以上の物的損害と、賠償にいくらかかるか不明
の、放射能問題の広範囲化と、10年以上に及ぶ長期化のため、長期
低落に入ると見る人もいます。政府の消費税増税も、日本経済の低
落を促進する要素と見ています。

この買いと売りが、今日の株価の一致点(日経225種平均で9422円
:11年5月25日)でしょう。この価格は、すでに過去です。

過去の事実の解釈は、いかようにもできる。しかし問題にすべきは
、未来であり、将来の価格です。

【インフレだったが・・・】
高騰していた資源価格(国際コモデティ)は、銀の下落を端緒とし
て、今、下げています。

リーマンショック以降(08年9月)の、国際コモディティの上昇(
約35%)は、「新興国の高い経済成長率」によって資源と食品需要
が増えることが想定され、ファンドがそれを言いながら、商品先物
を買い越していたことが原因でした。

(注)その資金源をたどれば、米国FRBのQE2(量的緩和第二弾:$
6000億(48兆円))による、ドルの印刷です。

資源・食物の基礎価格の上昇は、物価が上がるインフレを促します
。インフレは、期待金利の上昇を招きます。

商品供給の休眠が10%(=製造業稼働率90%:10年12月)はあって
、物価が下がっている日本を唯一の例外として、世界は今、インフ
レです。(米国の消費者物価の上昇率は3.2%:ユーロ2.8%:英国
4.5%:中国5.3%:ロシア9.6%・・・等)

将来のインフレを予見し、市場の期待インフレ率が上がると、国債
価格は下げます。

国債価格の下げは、国債を買う人の総額より、売る人の増額が増え
ることです。国債の期待金利←「GDPの実質期待成長率+物価の期
待上昇率+財政リスク認識」です。

市場の、物価上昇期待が高まり、日米欧の、リーマンショック以降
、GDPの低下を防ぐ経済対策として増やした「財政赤字」をまかな
う低金利国債が売れにくくなると、政府財政は、困る。

期待インフレ率を加味した金利が上がれば、国債価格が下がり(国
債をもつ金融機関は巨額損を被って)、政府の利払いも増える。政
府は、インフレ期待の上昇を、とめなければならない。

どうするか? 国際コモディティの上昇は、ファンドに集まった低
金利資金(短期ゼロ金利のドル・キャリートレード)が、商品先物
への投機(先物買い)をしたことによって、起こっている。

つまり、短期ゼロ金利の資金が、国際コモディティでの利益を探し
たからだ。(注)ヘッジファンドによる、日本の株買いもこれです

先物の取引は、証拠金を入れる差金決済です。買った先物の、契約
期限での売りの価格と、清算する価格の差金しか必要としない。こ
のため、ファンドの商品投機には、10倍~30倍のレバレッジがかか
る。1兆円の元金で、数十兆円の売買ができるという意味です。

2000年代以降の世界の資源価格、株価、金融商品は、実需ではなく
、ヘッジファンドの資金が、利益を求めた短期売買で動かしている
と見ていい。このため、価格変動が大きくなっています。

(注)リーマンショックで減っていたヘッジファンドの元本資金は
、再び、$2兆を超えて、増えています。この資金の淵源はQE2と、
日米欧の、短期金利ゼロ政策です。リーマンショック以降の、政府
・中央銀行による供給資金(推計500兆円)が、実際の、設備投資
を生んでいるのではない。金融機関の損失補填と、ファンド資金に
なっています。目的としたケインズ策(投資不足のときは、政府財
政を赤字にして貯蓄を使い、投資すること)ではなく、投機的な運
用マネーの増加です。

ファンドの投機を減らせば、実需の増加で上がった価格部分が少な
い国際コモディティ価格は、下がる。資源・穀物価格が下がれば、
市場のインフレ期待はしぼむはずだ。

先物取引に必要な、証拠金の金額基準を上げれば、ファンドの買い
は少なくなって(=レバレッジ倍率は下がって)、国際コモディテ
ィ価格は下げに向かう。

この目的で、米政府が、証拠金の基準額を上げたのです。これが原
因になったのが、11年5月の、銀と金を含む国際コモディティの下
落でした。

【本来はインフレだが、その現れ方が、今は異なる】
政府が財政赤字を増やし、QE2のように中央銀行がその国債を多額
に買えば、インフレになる。米国の政府財政の赤字は、GDP比で9.1
%($1.3兆:104兆円/年)に膨らんでいます。

(注)日本の政府財政赤字(GDP比8%:40兆円:近々50兆円を超え
ますが)の2倍です。

約100兆円/年の米国債の、約50%を海外が買い続けるなら、問題
はない。かつては、そうだった。

ところが、リーマンショック以降、様変わりしています。(注)米
政府が保証する準国債とみなすことができる住宅関連証券(500兆
円規模)の価格は回復せず、下落を続けています。これはドル安と
同義です。

世界は、米ドルの先安感から、米国債を海外が買い超することが、
次第になくなってきています。海外がもつ外貨準備(約500兆円)
でもドル離れが起こっています(ユーロと円がわずかに増えていま
す)。

世界がドル国債を買わなくなってきたので、米国は、FRBが、昨年1
1月以降、半年で48兆円分の国債を買うというQE2をやむなく実行し
たのです。

インフレは、本質的には、通貨価値の下落です。事実、米ドルの世
界の通貨に対する実効レート(貿易額による加重平均)は2010年8
月が104、2011年5月は94です。ドルの価値が、9ヶ月で10%下がっ
ています。実は、この10%が、米ドルのインフレ率です。

(注1)想定される日銀による、政府復興資金のための、国債買い
でも、米ドルと同じことが起こるでしょう。

(注2)円・ドルの関係だけでは、以上が見えません。ゴールドの
ドル価格は、米ドルの実効レートの動きと逆の関係を示しています

(注3)なお、通貨価値の下落率が、2000年代は、そのままでは、
その国の消費者物価の上昇率にならない理由は、物価と賃金の安い
新興国が、世界に向かって工業製品を供給する基地になったからで
す。

世界の消費財物価のアンカーが、GDP(国内総生産)で日本を超え
た中国です。中国元が切り上がると、世界は、通貨の下落率に比例
した消費財インフレになるでしょう。

以上、プロローグの目論見で書いたことですが、思わず、長くなり
ました。本論の2011年~2012年の日本経済に関しての予測は、増刊
として送ります。

【後記】
トルコのような、全世帯太陽光発電(1世帯あたり4KW時=40アンペ
ア)へむかう投資額を計算すると、1世帯400万円×5000万世帯=20
0兆円に相当します。(注)設備が100兆円、工事費100兆円です。

1年で20兆円(GDPの4%)、10年で200兆円の設備投資です。設備寿
命は、約20年にできるでしょう。

分散型のスマート・グリッドに変えれば、家庭の余剰電力(5000億
KW時/年)は、産業用に使えます。今のままなら高騰し、日本の所
得を、産油国に流出させている原油やLNGの輸入も、30~40%減ら
すことができます。

太陽は、エネルギーコストがゼロです。資源の輸入減は、日本人の
所得を増やすことです。今、産業と世帯の電力コストは、1年に17
兆円(=電力会社の総売上)です。この17兆円は、生活と産業の原
価になっています。

以上を行えば、日本経済は、再び、高度成長期にはいるのですが・
・・米国の、大恐慌(1929年)の後の、「ニュー・ディール政策」
に相当します。政府の、意思次第です。

1990年代に、政府が行った公共事業は、10年で400兆円(箱物や道
路)でした。20兆円×10年は、十分にできます。

次稿では、その根拠を言います。原発の危機を、21世紀の経済成長
を生むように変えることができるのです。

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