アフター3.11:大震災後の経済
This is my site Written by admin on 2011年4月20日 – 08:00

こんにちは、マイアミの、サウスビーチに立つホテルからです。こ
の時期に海外とは、言い訳じみます。長女のフィアンセの家族に会
うため、昨年の12月から計画していたものです。訪問すると、会う
なり大震災と津波への、お見舞いの言葉を受けました。当方、たど
たどしい英語で、ご両親と親族に、日本の状況を説明しました。

マイアミでは、地震を経験した人は1人もいないと言う。カリブ海
に突き出した半島で、夏の盛りのように暑く、梅雨なみに湿度が高
い。時折、空が暗く、涼しくなったかと思えば、スコールが降り、
1時間も経てば青空に戻る。

ホテルの窓から見ると、コバルト色のプールやプライベート・ビー
チで泳いでいる人が多い。4月は観光シーズンで、全米から集まる

ここには今、変わらぬ日常があります。凡々とした、終わりなき日
常が、幸せです。震災と原発の日本は、心理的にも、はるかに遠い

危機において示した日本人のOrganized Actions(秩序立った集団行
動)は素晴らしいと言う。海外からは、そう見えるのか。米国では
、「自分はこう考える」と言い、集団的な行動には馴染まない面が
あります。

理由を言えば、長くなります。端的に言えば、「Person(個人)や
個性」は、18世紀の啓蒙思想(ルソーやボルテール)を淵源として
います。異なる考えの個人を前提にした民主主義と、人間の目で自
然を見る科学も、ここから生まれています。中等教育でも、説の暗
記ではなく意見を求める。「**はこう考えた。あなたの意見は?

改めて言えば、原子力発電の推進は、無資源国という神話を背景に
した国策でした。経済的・安全・クリーンであり、生態系にもいい
と言う。今回、根拠を調べると、これは政治的な主張をもったイデ
オロギーでした。

総コスト計算、二酸化炭素、地球温暖化においても、捏造と言えな
いまでも、計算基準に政策的な操作がありました。電力への政府補
助金(国民の負担に帰する)の約68%も、原子力に投じられていま
す。これもほとんどの人は、知らない。

(注1)政府交付金9137億円、うち原子力6251億円(68%);火力
2498億円(27%);その他発電388億円(4%):1975年~2007年累
計。出典『原子力大綱の見直しについて(2010.9)』立命館大学教
授 大島堅一氏

(注2)1975~2007年の、IKW時当たりの総発電費用は、原子力8.0
4円、火力9.80円、水力7.08円と言う。原子力の優位性は、あやふ
やです。(同上:根拠:電力会社の有価証券報告書の発電費用と、
政府補助金)なお、1機で3000~5000億円(費用想定)はかかると
いう廃炉での費用を入れれば、原子力のコスト優位性は崩れます。

東電が払うべき賠償の想定は、メリルリンチの見積もりでは10兆円
です(2年間)。原発だけでも、阪神・淡路大震災の物損の全額(1
0兆円)に相当します。この10兆円には、今後の食品の被害を含む
波及的影響による損害は、入っていません。

保障費用は、まだ見当がつかない。被害が現在進行形なためです。

大震災と原発問題が、どう今後の経済・金融、そして国家財政に影
響するか、何をどう変えるか、これを見通すことが、本稿の目的で
す。まだ定量的な材料は少ないのですが、論理的に推計することで
ある程度は補えます。結論を言えば、「経済と生活の一大転換」の
契機になるということです。

原発問題に関する見通しは、週サイクルで変わっています。
先週末は、「収束への工程表」が東電から出されました。

経営でも使う、工程表は、本来、「**までに、**が原因の**
について、**の対策を打つ」というものなければならない。とこ
ろがよく読めば「**の条件が満たされれば、次は**を目標に、
**行いたい」という願望を示したものでした。

「対策の目標」と言っていい。要は、東電の「願い」です。ただし
この中から、今、何が問題と認識され、どう解決したいかという希
望はわかります。

重要なところは、「(1~4号機とも)正常な冷却水循環システムの
、修復ができない可能性がある」(原子力安全保安院:NY Times 
11. 04.18))という見方にシンボライズされます。

ありていに言えば、冷却システムの修復(ここが本質)の可能性は
、限定されるという東電の認識を示すものです。

このため、外部から「数10トン/1時間」の冷却水を入れることを、
溶解した核燃料の冷温停止に至るまで続ける。外部から水が入れば
、どこからか、人が近寄れない高度汚染水を外部に出さねばならな
い。この処理が、いつまで続くのか?

東電が明らかにした期間の「希望」は、今後3か月で安定状態+(
その後に3~6か月で冷温停止)とされています(東電:工程表=ロ
ードマップの現物は以下です↓)。
http://www.rbbtoday.com/article/2011/04/17/76240.html

放射性物質が、大量には漏洩しなくなる冷温停止(100度以下)ま
でに、9カ月を希望しているという意味と解釈できます。

当方、願望することを書き、作業の必要人時の記載がない工程表を
初めて見ました。会社でこんな工程表を作れば、上司や顧客から突
き返されるでしょう。

建築や土木に例えれば「作業量は不明だが、**ができれば、次は
、**の工事を行う」という希望を書いた見積もり表に過ぎない。

(注)人が近寄れない汚染のため、修復工程が遅れ、最短でも2年
はかかるという別の予想(米仏の専門家)もあります。

東電による現在のリスクは(1)水素爆発(1~3号機)、(2)損
傷個所の修復の長期化(2号機)、(3)大きな余震とされていま
す。

今後3カ月間でのリスクは、(1)高度汚染水の漏曳量の増加、(
2)射性物質の外部流出の濃度が高まることによる作業の長期化、
(3)損傷箇所の密閉の不能です。その後のリスクは、まだ、記さ
れていません。(東電:工程表)

【肝心な点】
東電が頻繁に使う形容詞表現ではなく、肝心なところを言えば、「
建屋の内部へ人が入り、修復作業をすることが、いつ可能になるか
? 修復作業ができない期間はいつまでか?」ということです。

この点で、工程表(ロードマップ)は希望を書いています。

後述するように、工程、期間、コストを示すロードマップは、工程
ごとの作業人時と必要作業を決めない限り書けないものですが、こ
こは書かれていません。建築や土木のような、工程と人時の見積も
りが必要です。

燃料溶解、圧力容器と配管の破壊、格納容器の破壊、使用済み燃料
プールの破壊は、公表資料では定量的に明らかでない。形容詞表現
であり、「一部、損傷の可能性がある」とされています。

計器類(神経系に相当)も何が正常で、どこがどう壊れているのか
、出るデータ(温度・圧力)は、どこでどう計ったのか、原子炉の
中の状態を示したものか、あいまいなままです。このため、高くも
低くも異常な、矛盾した値(圧力・温度)が多い。

損傷の実態が、東電で把握がされているのかどうか、不明です。外
部に出た放射性物質の核種と量で、推測されているにすぎません。

事故後5週を超えた今も、高い放射線のため、原子炉やプールに人
が近づけないことが原因です。このため、放射線を計る米国製ロボ
ットが、格納容器に近づいたこと(4月17日)がニュースになって
います。

収束の目処を示した工程表は、首相(対策本部長)が東電に命じた
ものです。米国の強い要請で、(無理を押して)作られたとも言わ
れます。東電の勝俣会長は、「自信はない」と記者の質問に答えて
います。

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<534号:アフター3.11:大震災後の経済>
2011年4月20日号

【目次】

1.現場作業は、高い放射線量との戦い
2.震災損失の概算見積もり
3.震災と原発の波及的な損害
4.懸念される政府財政と国債金利の上昇

【後記】

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■1.現場作業は、高い放射線量との戦い

3月11日の事故以来、現場作業員は原子炉の建屋(1号~4号)に入
って、検査や修復作業を行うことができていません(事実)。その
ため東電も、どこがどう壊れ、どんな修復が必要かの確証を得てい
ないはずです(推測)。

現場で手を触れない限り、修復はできない。

【(1)建屋内の高度放射線】
4月17日には、事故後初めて、2台の米国ロボットが1号機と3号機の
建屋に入り、格納容器周辺の線量を計っています。(注)どこをど
う計ったのは、明らかにされていません。

1号機建屋内は「49ミリシーベルト/1時間」、3号機建屋内は「57
ミリシーベルト/1 時間」の被曝量だったと報じられています(NY
 Times 11.04.19)。 

シーベルト/1時間は、そこに1時間いたとき、身体が被曝する放射
線量を示すものです。専従作業員の被曝は、遅発性障害を減らすた
め、1年間の累積で20ミリシーベルト/年を限度とし、5年で100ミリ
シーベルト未満でした。

政府は、3月18日以降、突然、専従者の被曝限度を250ミリシーベル
ト/5年に上げています。(注)政府内の情報では、もう一段、500
ミリシーベルトに上げるとも言う。遅発性障害にとって危険な水準
です。

【(2)1人の累積作業時間の限界】
建屋内が50ミリシーベルト平均/時間なら、現在の被曝基準では、1
人の累計で5時間(被曝量で250ミリ)が、建屋内作業の限度です。
(注)線量は、場所で異なります。まだ事故の途上ですから急に上
がることがある。

その環境で、累計5時間の作業をすると、後の5年間は、休職か自宅
療養です。実際の作業は、線量計の警告音が鳴ります。

累計で5時間とは言っても、一回の作業は数分で終わらねばならな
い。建屋内の現場に走って行き、全速で帰ることを繰り返します。
防護服は、呼吸からの体内吸収による内部被曝は防ぎます。しかし
環境内の放射線による外部被曝を防ぐことは、できません。

数人のチームで、数分内にできることは限られます。原子力事故の
対策作業の特殊性がこれです。このため今回に比べれば、はるかに
小さな原発事故も、その回復に1年や2年がかかっています。

【(3)必要人時と作業人数の試算】
1機で1年に、50名×1000時間(5万人時)の、建屋内の炉と配管の
検査、及び修復作業が必要だと仮定します。

以上の条件で、1年で何人の作業者数が必要か、簡単に試算できま
す。(注)建屋に入る人は、決死の覚悟でしょう。管理者が、決死
の作業を強いることができるかどうか。現場の疲弊や反乱が起これ
ば、作業はできません。

5万人時÷1人の可能作業時間5時間=1万人(2年なら2万人)
1機で1万人(4機で4万人)です。

向こう9カ月(2011年12月)で収束へ向かうという希望の工程表を
出したその日に、東電の計画破綻が明らかになったと言えます。

【(4)必要な作業環境】
建屋内の放射線量が、今の10分の1の、「5ミリシーベルト/1時間
」付近に安定して下がる時期が来ないと、対策本部が描いた工程表
の実行はできないでしょう(推測)。

チェルノブイリでは、爆発事故が4月26日で、石棺が作られて放射
性物質の大量漏洩が終わったのは10日後の5月6日でした。この間の
10日で、16万人が避難しています。一機(4号炉)の石棺作りに、
事故後10日間、放射線を浴びる作業で延べ80万人(1日に8万人平均
)を要しています。

今回は事故機が4機です。加えて、まだ損傷部が特定できないくら
い複雑に壊れています。

以上の検討から、工程表の期限が、希望的だと分かります。困った
事態です。外部に、冷却水の循環回路を作るにせよ、建屋内に入っ
て配管をする困難な作業が必要です。

1時間も止むことなく必要なのが、注水です。破損箇所からは、注
いだのと同じ水量の高度汚染水が、今も漏洩しています(格納容器
と圧力容器:3機で1日数百トン)。これが、外部に出た放射性物質
の濃度を増やします。

幸運にも、被災地が50K圏に広がる大気への飛散が抑えられている
のは、放射性物質のほとんどが、漏洩する水に含まれるからです。

以上が、今、原発事故で肝心な点です。循環による安定冷却が成功
するには、最短でも2年を要するはずです。数万人の作業者の調達
は、困難だからです。4機の、収束工程が、同時にうまく運んだと
仮定して・・・

【進歩だが・・・】
希望的にせよ工程表が作れるところまで来たのは進歩ではあります
。「予断を許さない(言い換えれば被害拡大の可能性が大きい)」
という段階から、収束に向かう願望工程を示せるようになったから
です。

しかし、国民としては、安定冷却まで最短で2年を覚悟せねばなら
ないでしょう。

(注)3月11日以降の約40日で、燃料から流曳した放射性物質(65
京ベクレル)の量は、1~4号機の核燃料が含むものの3~4%に過ぎ
ません(東電&保安院発表)。96~97%は、圧力容器、格納容器、
使用済み燃料プールにあります。

【今後の不測の事態】
不測の事態は、部分的な再臨界による水蒸気爆発、または大きな余
震による原子炉(圧力容器と格納容器)と配管の破壊の拡大です。

仮に、水蒸気爆発が起こっても、すでに原子炉には穴が開き配管に
は亀裂があります。ここから「不測の漏洩」で、水蒸気圧力の急上
昇は抑えられるため、大爆発には至らないと判断しています(この
点では、1号機がもっとも危険)。

外部流失を抑えるに必要な原子炉の密閉(=冷却水循環系の確保)
は、その後逆に、爆発のリスクも増やすという矛盾があります。1
号機では70%の燃料の溶解と、部分的再臨界があるからです。密閉
するから爆発も起こるのです。

しかし、今より破壊部位が拡大しても、敷地内での放水を続けるこ
とができるなら、50km圏や100km圏への、放射性物質の飛散はない
でしょう。

原発の敷地内での汚染は深まりますが、放射性物質が風に乗って、
北関東や東北南部に広がることはないということです。

【スリーマイルは12年】
東電の、ロードマップの約2倍の、2年前後という想定期間は、安定
冷却までの時間です。その後は、燃料を冷温停止させる期間(約10
年)があります。

12年後に、燃料を取り出し、どこかの処理場(または保管所)に移
送して、その後、原発設備の解体による廃炉処置でしょう。(圧力
容器の破壊がなかったスリーマイルの事例)。

■2.震災損失の概算見積もり

▼直接損

【(1)震災の物損】
政府は、震災の直接的な物損を最大25兆円と見ています。しかしこ
の金額は、阪神淡路大震災(10兆円:1995年:GDPの2%)から類推
したものに過ぎません。

死者と今も見つからない不明者は、1995年の阪神淡路大震災の約5
倍です。津波に襲われた市町村が、空襲の跡のように消えています
。こうした損失額は、事態が分かるにつれ1.5~2倍に膨らみます。

http://japanese.china.org.cn/business/txt/2011-03/24/content_22214259.htm

震災地のGDPは、日本全体のGDPのほぼ4%です。企業、世帯、社会
インフラの物的資産が、被災地の年間GDP(国民所得)の約2倍と仮
定すれば、GDPの8%(40兆円)に相当します。

1年後にしか出ない個別の積算ではありませんが、概略で約40兆円
の物的損害を想定します。

最低でも、現時点の政府の最大見積もり(25兆円)を超え、30兆円
(GDPの6%)には至るでしょう。物損は阪神・淡路の3倍(GDPの2
%)の規模になるという意味。

(注)電力不足による工場の減産、店舗、サービス業の売上減少は
これら直接損には含まれない間接損です(後述)。

【原発の物損と損害賠償費用】
6機全部を廃炉と仮定して、原発の物損は時価で1機約3000億円、6
機では1.8兆円が想定できます。

廃炉までの追加費用は、全く不明です。スリーマイルでは1機の廃
炉までの全費用が$10億(1979年:当時は円が安く2500億円)かか
っています。

30年の米国物価上昇は、1.03の30乗で2.4倍($24億)です。福島
原発が6機を廃炉にすると仮定すれば、2400億円×6機≒1.4兆円が
想定できます。

(注1)当時の円では1機2500億ですから、この見積もりにほぼ見
合います。1.4兆円の、東電の廃炉費用と見ていいでしょう。

(注2:参考)放射性物質が漏れ続け、半径30Km圏が廃村になって
いるチェルノブイリでは、新しい石棺の建設費用に2000億円を要す
るとしています。この面からも、1機2400億円の廃炉費用は妥当に
思えます。
http://www.bloomberg.co.jp/apps/news?pid=90920010&sid=a7nUhW5W3Yuc

廃炉に必要な費用よりはるかに大きいのが、原発の損害賠償です。
東電が、資産処分や経営合理化で払えない分は、政府が負担せねば
ならない。バンクオブアメリカ・メリルリンチは、東電と政府で必
要な損害賠償を10兆円と見積もっています。(ロイター:110405)

http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPJAPAN-20441220110405

この見積もりの前提は、放射性物質の外部流失が、数カ月で止まる
ことです。東電の目標ロードマップの期間に、見合います。とりあ
えず10兆円としておきます。(注)安定冷却までに2年かかるなら1
5兆円でしょうか。大爆発があれば、その何倍にも膨らみます。

とりあえずの合計は、被災地物損30兆円+原発物損1.8兆円+廃炉
費用1.4兆円+原発事故の損害賠償10兆円=43.2兆円です。これは
、わが国の名目GDP(480兆円)の9%に相当します。

以上は回復のため、損害査定の後に、政府、東電、損保会社、及び
自己負担によって購われるコストです。しかしGDP(フロー)が9%
下がるということにはならない。(注)国民経済におけるストック
の損は、フローの所得(GDP)の減少とは区分します。

阪神・淡路大震災(10兆円の物損)も、ほぼ2年間の、政府補正予
算と、設備や住宅の震災特需(投資需要)によって、GDPの低下(
国民所得の低下)が補われました。

ただし罹災した世帯と企業は、資産と預金が減って、復興の住宅と
設備のために負債が増えました。

会社や自営設備・土地が消えたことによる被災地の失業の増加、言
い換えれば所得の損失は、以下で述べるGDPの減少要素になります

【最大損失は?】
スイス政府の原子力安全委員会長を5年間務めたジュネーブ大学研
究所長ヴァルター・ヴィルディ教授は、福島原発による損失を4兆S
F(366兆円)と超巨額に見積もっています。こうなれば、政府財政
も日本経済も、同時に潰れます。
http://www.swissinfo.ch/jpn/detail/content.html?cid=29927034

放射線の障害域をチェルノブイリの爆発並みに拡大し、スイスの土
地面積当たりGDPで換算した想定です。福島原発が、今後大爆発を
起こせば、こうした巨額損の可能性も生じます。

これからは大爆発がなく、数か月で4機の原子炉が安定すると見れ
ば10兆円、小爆発があって2年かかれば15兆円、3年で20兆円と見る
のが妥当でしょう。漁業や農業の損害のレベルは見当がつきません

チェルノブイリの4倍の、4機の同時多発事故の割には、西風と6万
トンの高度汚染水に助けられ、広域損害は極小です。

(注)密閉状態で安定冷却とされている5号機、6号機(もっとも大
きい)からの、あるはずがない汚染水の流失は、不気味ではありま
す。

■3.震災と原発の波及的な損害

▼GDP

3月11日大震災が起こった2011年3月のGDP(実質)は、前月比で、3
.6%低下しています。20日間での低下(企業の売上減少)ですから
、1か月換算では3.6%÷(2 /3) =5.4%の減少に相当します。

これは、(1)部品のサプライチェーンの切断、(2)全国的な買
い物やレジャーの自粛、(3)罹災地のGDP消滅によるものです。

年率換算で言えば、大震災後に5.4%(12.2兆円)のGDPの減少です

【対照】
08年9月のリーマンショックの時は、前月比のGDPが3か月連続で3%
(3か月で9%:50兆円)落ち込み、4か月目から、前月並みに戻っ
ています。(ニッセイ基礎研究所:主任研究員 斎藤太郎氏のリポ
ートから)

▼GDPの60%を占める個人消費は?

罹災地の店舗は、破壊によって資産が壊滅する損害を受けています
。企業は、高い地震保険をかけていないところが多い。

瓦礫になった家と店舗の前に立つ店主や、汚泥だらけになった工場
の工場主を見れば、人の情は、痛恨の念に駆られます。この見込み
を、当方が言うことはとてもできません。以下は、全国ベースのも
のです。

【百貨店】
大手百貨店の3 月の売上高は、三越が前年比-22.8%、伊勢丹が-
28.4%、高島屋が-17.3%、J.フロントリテイリングが―9.6%と
軒並み大幅な減少です。ブランドの百貨店商品は、こうした時期は
、不要不急の需要と見られるからです。

【自動車】
自動車の販売台数は、昨年9 月のエコカー補助金の終了後に急速に
落ち込んだ後、年末頃から持ち直しの動きが続いていました。

しかし3 月は、前年比-37.4%(含む軽乗用車)の急減となってい
ます。自動車を失った人が多いのですが、車のセールスに行けば、
売る側も失意に駆られ、販売できるような状況ではない。

【家電】
デジタル家電(約120品目)の売上は、3月14日から20日の週は、全
国で-34.4%(前年同週比)と大きな落ち込みをした後、20日から
4月3日の週は、37.4%の増加に転じています。

月間で言えば、前年同月比で横ばいになっていると見ていいでしょ
う(産経ネット版)。復旧需要では、車は遅れますが、必需家電は
早い。
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/1104/08/news037.html

【コンビニ、食品スーパー】
他方、コンビニの3 月の売上高(既存店)は、ローソンが前年比+
7.2%、ファミリーマート+5.2%、サークルK+5.5%といずれも
増加です。

震災後に水、食料、食品、電池や必需品などの買いだめ、前年に比
べた煙草の値上げ、被災地の親族に送る動きが広がったことが増加
の主因です。食品スーパーも、3月は5%程度、前年同月比の売上が
増えた店舗が多い。

【収束の時期】
1年単位(全国規模)で言えば、原発の放射線問題の収束がいつか
に、関係します。当方、スイスのヴィルディ教授が言う破局的な拡
大はないと判断していす。

【被災地の経済】
被災地のGDP(約20兆円:全国シェアで4%だった)が、どれくら
い回復するか。

政府・自治体の各種支援金を受けて、個人消費が罹災前の80%にな
るとすれば、全国ベースでは、約1%(5兆円)の減少です。以上は
、ミクロ経済の領域です。

■4.懸念される政府財政と国債金利の上昇

【1995~96年の補正予算】
阪神・淡路大震災の時は、10兆円の物損に対し、政府の3回の補正
予算での総支援金は、3兆3800億円(物損の34%)でした。これは
十分に、国債増発で賄える金額だったのです。世帯の貯蓄率はまだ
高く、国債残も今の半分以下だった。

東日本大震災では、前記のように、被災地物損30兆円+原発物損1.
8兆円+廃炉費用1.4兆円+原発事故の損害賠償10兆円=43.2兆円が
想定できます。

このうち幾らを、財源がない政府の、補正予算にできるかです。
1995年の前例に従えば、42.3兆×34%=14.4兆円になります。

本来は、原発が加わっているので、GDPを大きく低下させないため
には、政府の補正予算で、20兆円以上必要でしょう。

しかし、今は、財源の問題がある。大震災と原発問題がなくても、
政府赤字は43兆円(GDPの9%)という巨額で、43兆円の新発国債の
金融機関による消化(増加購入)に、困難がありました。

仮に、不足する14兆円レベルの補正予算を組んでも、当年度の国債
増発は、57兆円と史上最大になります。

資金循環表から見て、金融機関が引き受けることが可能な国債は20
兆円です。最大に見ても、30兆円でしょう。

27兆円の残りは、日銀引き受けにならざるを得ません。郵貯・簡保
・年金基金も、その資産(預金・基金)の減少のため、国債を増加
買いする余力はありません。逆に、2010年からは、売り手に転じて
いるくらいです。

海外は、10%以上の円高期待(=ドル安期待)がない限り、世界10
年債の金利がもっとも低い1.3%の日本国債を買うことはない。(
注)米国10年債の金利は3.48%、ドイツ債は3.44%と、約2ポイン
トは高い。

27兆円の国債を、やむを得ず日銀が引き受ければどうなるか? 日
銀の資産・負債が、27兆円膨らみます。これは、円安を期待した、
円売りを促すはずです。

対抗手段は、財務省が管理する外貨準備$1兆の売り(ドル上り・
円買い)です。前号で述べたように、財務省はこれを行い、円を得
て、それで日本国債を買うこと(=27兆円の国債発行の無効化と同
じ)を行うべきです。

なぜ、財務省にはこれを行う姿勢が見えないのか、理解に苦しみま
す。これを行わない限り、期待金利が2ポイントは上がって、国債
の時価は、10%は下がります。

これは、金融機関に80兆円の評価損を与えることになって、信用収
縮が起こり、GDPはリーマン・ショック(9%)以上の低下になって
しまうのです。

【後記】
まだ関係者以外には、あまり知られていないことですが、日本国債
(5年債)の、市場でのCDS(回収保証保険)のプレミアム(料率)
は、2011年4月は110ベーシスポイント(債券額面の1.1%)に急騰
しています。2008年は、0.2%だったのです。5.5倍もの保証料の急
騰です。

5年債の表面金利は今0.5%に過ぎません。従ってCDSをかければ、0
.6%ものマイナスの利回りになります。(注)FT紙:110415

日本国債の信用リスクが、高まっています。原因は、2011年度の、
政府の財政赤字の急増です。このままでは、ダメなのです。日本国
債売りを生んでしまいます。財務省は、是が非でも、ドル債売り(
円買い)を行う姿勢を、明確にせねばならない。

大震災と原発問題で、政府赤字が一層膨らみ、国債発行のうち27兆
円を日銀が買うとなれば、PIMCOを筆頭とする海外のヘッジファン
ドは、日本国債の先物売りを仕掛けるチャンスと見るでしょう。

その機会を与えてはならない。国債を保有する国内金融機関の資産
が、ヘッジファンドにかすめ取られるからです。

【ビジネス知識源プレミアム・アンケート:感想は自由な内容で。
以下は、項目の目処です。】

1.内容は、興味がもてますか?
2.理解は進みましたか?
3.疑問点、ご意見はありますか?
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