グローバル・デマンド・ビジビリティ(GDV)が、日本産業の再興のキーポイント(2)
This is my site Written by admin on 2011年1月12日 – 08:00

おはようございます。先週号では、製造ではアップル社、小売りで
はウォルマートが構築して実行したサプライ・チェーンの面で、日
本の産業に、2000年代の遅れがあること指摘しました。

サプライ・チェーンは、言うまでもなく、生産から流通までの全コ
ストを、ムリ・ムダ・ムラを排除することによって、コストダウン
(最適化という)する方法です。最適化は、営業利益に対し、各段
階の必要在庫を適量化するという意味です。

そのシステムは、1990年代後期から、主に米国のソフト・ベンダー
から紹介されました。各種・各様のセミナーがあったのでご記憶の
方も多いでしょう。このサプライ・チェーンを、コンピュータシス
テムの購入として理解し、業務の方法の改革として考えなかったこ
とに問題あったのでしょう。情報システムは業務の支援を行うもの
です。業務を変革しなければ、システムは活きません。

サプライ・チェーンには、2つの面があります。

(1)ロジスティクス:
ひとつは、需要プル型のサプライ・チェーンの実行、言い換えれば
ロジスティクスです。ロジスティクスは、商品(または部品)の需
要予測数に対し、最適量の在庫を補充する活動を言います。この最
適量は、どういう風に計算し、発注するのか、ここが現場業務の課
題になります。

(2)商品計画:
もうひとつは、「商品計画」です。例えば小売業は、店頭で商品構
成(棚割りともいう)をして、販売します。この商品構成の計画が
、商品計画に当たります。(注)製造業では、店舗の商品構成に匹
敵するものとして旧製品と新製品のミックス(構成)があるでしょ
う。

店舗の商品構成は、一般に、季節のサイクルである3ヶ月で更新し
ます。わが国では、四季と産物の変化が、他国より大きいという条
件のため、商品構成の更新割合が米国より大きくなります。食品で
も、夏と冬は、食べるものが激変します。これは米欧にはないこと
です。典型は、需要プル型の棚割をするコンビニの、夏と冬の商品
構成の変更です。

四季の大きな変化は、3ヶ月単位で作られる新商品が、わが国では
、他国よりはるかに多い原因でもあります。体感気温では、夏は赤
道直下のシンガポールより暑く、冬は北国の寒帯より寒い。重要な
のは、温度計の気温ではなく、湿度と関係する体感気温です。俳句
でも季語がある理由です。何事でも時期はずれは「間抜け」とされ
ます。これがわが国の、購買だけに限らない行動文化でしょう。

この条件が、米国の店舗よりは、商品計画が難しくなる要因でもあ
ります。1980年代に確立したIY堂の、高頻度・少量発注をするタン
ピン・カンリも、四季の大変化という季節要因から来ているように
感じるのです。

この特質のため、米欧の、店舗のデマンド・チェーンにおける商品
計画より、わが国では、売れる商品の変化対応における精度が高く
なる必要があります。ウォルマートには理解できない点かも知れま
せん。参考のため、開発輸入のデマンド・チェーンであるユニクロ
のWEBの、ほぼ3ヶ月サイクルの新商品数を見てください。この季節
毎の新商品(商品更新)の多さは、わが国の季節要因から来てます
。他方、例えばサンフランシスコやロスの気候は、年中、温暖です
。このため、店頭商品の季節要因での変化は少ない。
http://store.uniqlo.com/jp/store/home/

更新は季節で商品が50%以上も変更されるファッション以外では、
継続販売商品の決定(約80%)、カット商品の決定(約20%)、新
規商品の導入(約20%)です。4週単位では、これより小幅な、更
新になります。(注)80:20は経験的なものです。

店舗で商品が売れる原因は、実に多様で、決定できない点がありま
す。しかし商品計画のためには、この売れる要因を仮説化する必要
があるでしょう。今回、「売れる要因」を、参考のためまとめてみ
ました。以下、サプライ・チェーンの商品計画から見て行きます。

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<520号:グローバル・デマンド・ビジビリティ(GDV)が、
        日本産業の再興のキーポイント(2)>
         2011年1月12日

【目次】
1.店舗で商品が売れる要因への経験的な仮説
2.売価要因(25%)
3.世帯所得が、売れる価格帯を決める
4.米国には、現在の日本と似た10年があった
5.1980年代のドル高と、オイルショック
6.日本の店頭価格も約半分に下がった
7.結論:これからの価格政策
8.売価要因25%

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■1.店舗で商品が売れる要因への経験的な仮説

店舗で商品が売れる要因を、今回、仮説的(及び経験的)にまとめ
てみました。店舗立地と店舗面積、部門面積、駐車場、競合要因は
、与件(変更のない条件)とします。類似商品を集めた(アソート
した)部門単位での、売れる要因です。

売上を決めるのは、1.品揃えの豊かさという要因(40%)、2.売価
要因(25%)、3.プロモーション要因(15%)、4.サービス要因(
10%)、5.その他の要因(10%)と想定されます。括弧内の%は、
経験的な仮説です。(注)顧客が自分で商品を選んで、レジで支払
うセルフ販売の時。接客販売の店舗では、接客の要素が入る。

以降で、これを順に見て行きます。サプライ・チェーンの中で、店
舗が作る「商品計画」がどうあるべきかを、探索するためです。サ
プライ・チェーンのソフトでも、ロジスティクスの面は、いろんな
既存ソフトもありますが。「商品計画」でロジックを作った標準ソ
フトはないからです。

▼1.品揃えの豊かさという要因(経験的仮説40%)

「品揃え」は、部門の棚の、品目構成を言います。商品構成と類似
しますが、正確には、商品構成は、価格の要素(価格帯とプライス
ポイント)を含む品揃えを言うので、単なる品目の構成は、品揃え
が適語です。簡単に言えば、どんな商品を陳列するかということで
す。

(1)品揃え要因の中の、カテゴリーの種類という要素

カテゴリーは、元は哲学用語で小難しい「範疇」ですが、商品カテ
ゴリーは、商品の使用者(顧客)から見た「用途分類」を言います

例えば、賞味期限がほぼ1週間内と短いため日配商品と言われ、店
舗が毎日発注する(とても日常的な)豆腐では、味噌汁に入れる用
途が適切なもの、そのまま食べる生食が適切なもの、舌触りの荒い
木綿豆腐、滑らかな絹濾(こ)し豆腐等があります。特別に厳選し
た原材料と製法の高価な豆腐もある。

その国の食文化で多く食べられるものほど、カテゴリー種類が多い
。ドイツやフランスの肉、チーズ、ワイン等の種類は、わが国の数
倍~10倍はあるでしょう。他方わが国では、魚の種類は、世界最高
に豊富です。

まず、売れる要因として店頭陳列するカテゴリーの種類の豊富さが
あるでしょう。「品揃えの豊かさ」とも言います。単純な食品スー
パーに慣れた米欧の人達は、価格の高さは別にして、調理済みの総
菜を売る日本の百貨店のデパ地下に行くと半日が楽しめるくらいの
「品揃えの豊かさ」に驚嘆すると言います。

わが国独自の「マイクロ・マーチャンダイジング:微細な分類のカ
テゴリーの豊富さ」と言っていいものです。食における特産の地域
文化が、大きく異なるのも日本です。カテゴリーは超豊富でも、品
目の平均売上数量は少ないので、タンピン・カンリの手法になる。

以上のような、使う立場、着る立場、食べる立場からの商品分類が
カテゴリーです。シャンプー、歯ブラシ、携帯電話、パソコン、ポ
ロシャツにも、実に多くのカテゴリーがあります。店舗の品揃えの
とっては、どういうカテゴリーで、何種を陳列するか、これが棚割
の決定になります。

(2)カテゴリーの中の、比較される適正品目数という要素

さて次は、同じカテゴリー(用途分類)の中で、顧客が購買の際、
「あれかこれか」と比較する品目の数です。

最近コロンビア大学の心理学者ジーナ・アイエンガー女史が、参考
になる実験を、「店頭での食品・飲料等の販売」で行っています。
(『選択の科学』 結論を言えば、「ジャムの種類が多すぎると、
顧客は却って決定に迷って、ジャム売り場の売上が下がる」という
ものです。

女史はコーラ、ダイエット、コーラ、ペプシ、スプライトでも同じ
実験を行っています。価格・容量が同じで、選択においては同列に
思えるものを7種並べた。

インタビューした過半の顧客の反応は、この7種の異なる品目を1種
としてとらえ、「炭酸水を飲むか、飲まないかだ。自分の分類は、
炭酸水、水、ジュースの3種」と捉えていた。これは、店舗の品揃
え政策(棚割)、およびメーカーの製品戦略にとって驚嘆すべき事
実です。(注)普通のクラシック・コーラとダイエット・コーラは
もちろん「用途カテゴリー」が異なるので区分されるでしょう。

店頭には、飲料や食品の種類が多すぎるのかも知れません。これは
、「部門別の営業利益」で発見できます。商品種類が、商圏地域(
食品スーパーでは1万人から2万人)の需要にとって過剰に多いと、
売上が十分でない品目が、品揃えの80%以上になって、部門が赤字
になります。

サプライ・チェーンの中での、店舗部門の営業利益管理が、何より
も重要です。「品揃えの豊富さ」の要因で売ろうとして、売り場面
積を大きく取りすぎ、カテゴリー種類を増やしすぎて、同じ用途カ
テゴリーの品目数が、商圏需要に対し多すぎると、その部門が営業
利益で赤字になります。

(注)部門の営業利益=部門売×部門の粗利益率―(部門の間接費
+部門の直接費);間接費はその部門がなくても発生している経費
です。レジ、店長、事務費用等は間接費です。直接費は、その部門
をなくすと無くなる経費です。部門別管理と言います。

部門の営業利益管理を、サプライ・チェーンの中で、徹底したのが
ウォルマートです。毎週、部門の営業利益目標と対照した実績が、
部門マネジャー・店長・担当バイヤーに出され、目標対比を出し、
差異の原因を究明して、営業利益の改善活動を行っています。

これが、サプライ・チェーンで上位5位にはいった、ウォルマート
のマネジメント・システム(経営法)の根幹と言っていいものです
。サプライ・チェーンは、現場業務です。単に情報システムではな
い。

ウォルマートでは、長年の営業利益に対する「最適品揃えの試行と
実験」から、ファイン・ライン(Fine Line:需要カテゴリーの最小
枠)を発見しています。これは、上記のジーナ・アイエンガーの実
験と同じ結果から導かれた、「品揃え最適」の業務概念です。

重要なことを言えば、大切なのは「部門の売上の最大化」ではない
。「部門の営業利益の最大化」です。

ファイン・ラインでは、「最小カテゴリー(商品ユニットともいう
)の中の、ほぼ同じ価格・容量で、同列に比較される陳列品目の、
営業利益に対する最適数は、最低3種、最大5種である」というもの
です。これは、われわれにも応用が利く品揃えの原則なるでしょう

「同じ用途の、同じ価格と容量・品目の最小カテゴリーの品目数が
、1品目では比較ができず、十分には売れない。2品目でも少なすぎ
る。3品目が最適だが、競合要素が強い地区や、そのカテゴリーの
需要が多いものでは、5品目になる。これが、営業利益から見た上
限である」ということでしょう。

これが、カテゴリーの中の最適品目数です。

(3)欠品という要素

品揃えの中の3番目は、欠品という要素です。欠品は、店舗に陳列
すると本部バイヤーが計画した(商品計画の)品目が、陳列されて
いない状態を言います。

普通、店頭在庫ゼロを欠品としていますが、これは、経験則から言
って誤りでしょう。同じ品目でも複数個が存在しないと、急に売れ
行きが減る現象があるからです。

これも最低陳列在庫数で、1品目3個が必要でしょう。サプライ・チ
ェーンへの発注のロジック(定期発注法)の、最低在庫のパラメー
タ(変数)を、多くの品目では3個と設定すべきです。

この点で、発注ロジックに誤りがあるソフトが多い。欠品率を訊ね
ると、多くの店舗は2%以内と答えます。しかし、1品目で3個未満
を欠品とすれば、はるかに多いでしょう。

店頭で顧客が商品を選んでいる様子を観察するとこれが分かります
。1個だけ残った商品は、他の人が手を触れて買った後の「売れ残
り」と見なされるからです。1個だけ残った在庫を買うのは、特に
食品では勇気が要ります。

ただし、その部門の「ベストプライス」で、価格帯の高く、売れ数
が極度に少ないものでは、ゼロ個を欠品としても許容されるかも知
れません。原理的に言えば、商圏での売れ数から見て、自店が在庫
1個しか陳列維持できない品目は陳列カットすることのほうが望ま
しい。(注)ただし、家電や家具等の耐久財では、1品目1個の陳列
です。これは、店頭見本です。

以上、部門の(1)カテゴリーの種類、(2)ファイン・ラインの中
の品目数(3~5種)、(3)欠品という要素が、売上と営業利益を
決める品揃えの要素でしょう。部門の売上を決める要因のうち、ほ
ぼ40%が、この「品揃えの豊かさ要素」と判断されます。

■2.売価要因(25%)

店舗の商品計画において売価構成を(プライシング)を決めるには
、世帯所得の要素が欠かせません。記述が若干長くなりますが、こ
の世帯所得の推移から、現在と今後の、最適価格を求めます。

▼最適売価を決めるのは、商圏の世帯所得

売上を決める要素で「品揃えの豊かさ要素」を40%とすると、品目
の売価要素が25%くらいでしょうか。(これも経験的な仮説)

「品揃えの豊かさ要素」の上に、売価の低さという要素がないと、
営業利益が高く、十分に売れる部門にはならない。百貨店は、各部
門の「品揃えの豊かさという要素」では、十分な品揃えであること
が多い。総菜のデパ地下がいい例です。

問題になるのは、価格という要素です。これが1990年代の以降の20
年の世帯所得に比べて、高くなっています。デパートの売上が増え
ていた時代は1980年代までの、世帯所得が増えていた時期です。そ
の後20年、百貨店の総売上は9兆円から6兆円に減少し、コンビニの
総売上(7兆円レベル)より低くなりました。

この原因を、価格の面から見ます。

円で見た世帯所得は、わが国では、1994年(14年前)の664万円を
頂点に、2010年は当方の推計で530万円へと、134万円(20%)も減
っています。1月当たりで11万円も減っています。(厚労省:国民
生活基礎調査:2009年)

【(1)世帯所得の推移(表1)】
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
1990年     596万円
1992年     648万円
1994年     664万円(世帯所得の頂点)
1996年     661万円
1998年     655万円
2000年     617万円
2002年     589万円
2004年     580万円
2006年     566万円
2008年     548万円
2010年(推計) 530万円(世帯数4800万:世帯人数2.6人)
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

次に、世帯の所得階層を見ます。

【(2)世帯所得の構成比:2009年:同調査(表2)】
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
200万円未満    19%( 910万世帯)
200~ 400万円   27%(1300万世帯)
400~ 600万円   19%( 910万世帯)
600~ 800万円   13%( 620万世帯)
800~1100万円   12%( 580万世帯)
1100万円以上    10%( 480万世帯)
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

年収400万未満の世帯が46%に増えています。他方で、800万円以上
の世帯は、 22%に減っています。今後、400万円未満の低所得世帯
は、50%以上に 増えます。800万円以上の世帯は、20%以下に向か
って減ることが確実です。 2012年から、団塊の世代(5年の幅で10
00万人:500万世帯)が、65歳を 超え始め、90%の人は完全退職し
、年金生活に入るからです。

店舗での買い物は、世帯の所得が増える時は増加し、減るときは減
少します。前掲の表1を見て下さい。

わが国4800万世帯(家族2.6人:人口1.26億人)の平均所得は16年
前の1994年には664万円でした。 
     
以来16年、今は530万円で、134万円(20%)も減っています。1ヶ
月の所得で11万円も少ない。これは先進国(日米欧10億人)でひと
り日本のみです。

400万円未満の世帯が46%(2200万世帯)に増えました。衣食住の
必需商品を買う「下限所得」でしょう。日本の実態です。
低価格化が進む原因でもあります。価格帯の5区分で言えば、ロワ
ー・ポピュラー帯の買い物をしている人が50%(6000万人)です。
(注)価格帯5区分:ベスト:ベター:アッパーポピュラー:ポピ
ュラー:ロワー・ポピュラー

こうした本当のデータは、マスコミも断片的にしか取り上げないた
め、知らない人が多い。

■3.世帯所得が、売れる価格帯を決める

価格政策を決めるとき、世帯所得の傾向は必須です。
高齢化(65歳以上)が先に進んだ地方都市では、400万円未満の世
帯が60%くらいを占める多数派です。2010年代は3大都市圏(東京
・名古屋・関西圏)の高齢化です。

厚生年金の平均支給は、1年に200万円、自営業の国民年金は60万円
です。年金支給は、2010年の政府予算で53兆2000億円に増えていま
す。全世帯所得(254兆円:4800万世帯)のうち53.2兆円(構成比2
1%)を年金が占めます。

これに加え団塊の世代(1947年~51年生まれ)の約1000万人が65歳
を超え、年金生活に入るのが、2012年からです。世帯主が65歳以上
は1560万世帯(世帯構成比31%:2010年)です。今10軒のうち3軒
は、65歳以上の世帯と見ていい。近々10軒に4軒になります。

この所得傾向を、マーケティング風に言えばどうなるか。団塊(10
00万人:500万世帯)の世代に属する年収600万円以上の世帯が、65
歳を超え、退職のため、相当な勢いで減ります。2012年を以下のよ
うに記憶しておいてください。

(1)20%が800万円以上の高所得:10軒のうち2軒に減る。
(2)30%が400~800万円未満の中所得
:10軒のうち3軒のまま。
(3)50%が400万円未満の低所得:10軒のうち5軒に増える。
       *
世帯の平均所得は、一時的に企業の利益が増え名目GDP(現在482兆
円)が増えて景気が回復しても、数年続く見込みないと上昇しませ
ん。下落するときも上昇するときも、企業利益に2~3年は遅れます

価格を決めるマーケティングでは、少なくとも今後3年、世帯所得
の減少が続くと見ておかねばならない。

■4.米国には、現在の日本と似た10年があった

空想や推測ではなく、実証的に言います。

米国の1980年代は、世帯(1億世帯)の80%の実質所得が減った時
期でした。原因は、①オイルショックによる物価の高騰と、②製造
業の空洞化、つまり製造業雇用の急減です。米国では、例えばGM(
世界最大の自動車会社)のワーカーの賃金は、当時の金融業の現場
ワーカーより高かったのです。
      
実質所得は物価の上昇率(当時は1年に+3~10%)を引いた所得で
す。当時は第二次オイルショック(1980年)で、商品物価が上がっ
た10年でした。

名目賃金は1年に3%くらい増えていた。しかし商品が3~10%上が
っていたため、80%のワーカーの商品購買力は減っていたのです。
(注)20%のマネジャークラス以上の実質賃金は増えていました。

▼ディスカウント・ストアとSPAのビッグ・バンの1980年代
        
この時期、新興勢力として店舗数を増やしたのはKマート、次にウ
ォルマート、都市部でターゲットでした。またGAPなどのSPA型専門
店のディスカウント・チェーンが、全業種に勃興しました。1980年
代に、ディスカウント・ストアと、SPAのビッグ・バンが起こった
のです。(注)SPAはユニクロやニトリのような、製造直売の専門
店。つまり、海外での開発・輸入のサプライ・チェーンです。

SPAは、生産費が低いアジアや中南米で商品開発し、コンテナで輸
入して販売する専門店チェーンを言います。

1990年代にアパレルの価格を1/2から1/3にしたユニクロや、家具価
格を1/2から1/3に下げたニトリのような開発マーチャンダイジング
を行う各業種の専門店です。

総合品種のディスカウント・ストアと、専門店SPAの主力価格は、
それまではなかったロワー・ポピュラー帯でした。ポピュラー・プ
ライスの半分の価格がプライス・ポイントでした。(注)プライス
・ポイント:価格を横軸にとり、その価格の品目数を縦軸にとった
商品構成グラフの中で、もっとも陳列品目数が多い価格。

現在は、1990年代後期と2000年代の米国の、世帯所得増加のため、
若干高い価格帯の商品がSPAに増えていますが、80年代のGAP等は、
それぞれの業種で、もっとも低い価格帯の店舗でした。当時、店舗
見学された方はご記憶でしょう。

▼百貨店とGMSの凋落  
        
新勢力の勃興に比例して凋落したのは、ショッピングセンターの核
店舗だった百貨店とGMS(代表がシアーズ)です。

顧客である世帯の実質所得が減っているのに、
(1)百貨店はポピュラー・プライス帯の約2倍は高いベタープライ
ス帯を主力にし続け、
(2)GMSは古いポピュラー・プライス帯で、新興のディスカウント
・ストアとSPAの価格から見れば、2倍も高いと見えたからです。

重要なことを言えば、百貨店やGMSも、商品構成の価格帯を上げた
わけではない。

しかし、ディスカウント・ストアとSPAの専門店チェーンが、ポピ
ュラー・プライスの半分の価格を主力にしたため、顧客の目には、
「高い店舗」に見えてしまいました。

■5.1980年代のドル高と、オイルショック

1980年代前半期の米ドルは、$1=200円以上でした。今の2倍以上
の、ドル高でした。通貨が高いと、海外の物価と賃金は安く見えま
す。このため海外からの商品輸入が急増した。米国製造業の空洞化
(生産の海外移転)も招きました。国内物価は、1980年の第二次石
油危機で高騰していました。2000年代後期の資源・穀物・エネルギ
ー価格高騰に類似します。

80年代のドル高と国産物価(名目価格)のインフレを利用し、それ
を機会として、低い価格の輸入によって価格を当時のNB価格の半分
に下げたのが、輸入商品を50%、60%、70%、80%と増やしたディ
スカウント・ストアとSPAでした。今の日本に類似するのが、ドル
高・オイルショックの、米国の1980年代です。

日本の現在は、円高と輸入資源高でしょう。

        *
加えて1994年には、それまで1元=30円と高かった中国の人民元が
、一挙に、1元=15円水準へと切り下げられます。この時期から、
中国が5つの経済特区の工場で、輸出商品の生産大国に向かいまし
た。

80年代から中国輸入が主だったユニクロとニトリ等が売価を下げて
も大きな利益が出るようになったのは、人民元の切り下げの1994年
以降です。輸入価格(商品原価)が半分になったためです。

わが国で、コンテナで低価格雑貨を輸入する100円ショップ(ダイ
ソウ:国内2540店)が勃興したのも、この時期からです。成功を収
めるマーチャンダイジング(開発・調達)の方法が変わったのです

■6.日本の店頭価格も約半分に下がった

日本の店頭商品の価格は1990年に比べると、全業種で54%に下がっ
ています。20年で半分の価格になった。

主因は、1990年前後に比べ、人民元を含む世界の通貨に対し、円が
実効レートで2倍に切り上がったためです。(注)貿易加重で計っ
た通貨のレートを、実効レートと言います。

円が2倍に切り上がっても、言い換えれば、海外から見た日本の物
価と賃金が2倍に上がっても、コストダウンして貿易黒字を続けて
いるのですから、日本は凄い国です。

しかし、コストダウンの中に、賃金の切り下げとリストラが入って
いたため、世帯所得が1996年から持続的に下がったのです。

世帯の平均所得が減り始めた1994年を起点に、日本の店頭物価は、
その後20年の長期で下がる傾向を示します。

典型例を言えば、コンビニの弁当も、1990年には600円くらいがプ
ライス・ポイントでそれでも安かった。今のプライス・ポイントは
298円で、半分です。ファミレスのメニューのプライス・ポイント
も1200円くらいでした。今は600円付近でしょう。
以上のような、50%に向かう価格下落が、全品種で起こった。1年
に3%下がると、20年で、0.97の20乗=0.54になります。    
       
 
       *
他方海外は2%くらいの、持続的なインフレでした。米国の店頭物
価は、1.02の20乗=1.5倍に上がった。90年代~2000年代と20年も
円高基調だったので、円で見れば米国の物価が上がったようには見
えませんが、ドルで見れば持続的に上がっています。

▼米国小売業における価格シフト

前掲表2で、米国の1980年代から1990年代の20年の価格シフトをイ
メージ化しています。ロワー・ポピュラー帯の商品を主力とするチ
ェーンストア群が、全米の小売額の60%以上を占めるようなった。

1980年代から90年代の20年間で、米国の小売業に、革命的な変化が
起こっています(表2)。

ウォルマート1社の売上が$4050億(33兆円:イオンの4.5兆円の7.
3倍:2010年)と、20年で約10倍に増えた事実を見ても、この価格
革命が肯けます。

サプライ・チェーンで小売業の筆頭とされるウォルマートの全米シ
ェアは、今、売上金額で10%、価格帯が低いので商品数量では20%
です。日本のシェアで言えば、金額で10兆円の売上で、商品数量で
20%に相当します。

■7.結論:これからの価格政策

米国の1980年代のような価格シフトが、日本では2000年代にゆっく
り起こっています。現在も進行中です。

ドルに対し人民元が大きく(20%以上)切り上がらないと、わが国
の「競争的な価格切り下げ」が続きます。日本のメーカーの電子製
品がどこで作られているかを見てください。シャープの液晶ディス
プレーが、亀山産をうたうくらい国産は少なくなっています。圧倒
的に、中国製品が増えた。ソニーブランドも中国産がほとんどです
。今1元は12.7円付近です。元相場が上がるか下がるかによって、
日本の物価水準が左右されます。

しかし、こうした為替の変動要素があるにせよ、世帯所得の減少か
ら低価格帯が各社の販売量での主力になることは、否めません。短
期の結論を言えば2011年、2012年は、今の商品構成の下限価格を20
%から25%下げたところが、もっとも売れるプライス・ポイントで
しょう。

実効レートでは、円が世界の通貨に対して、20%切り上がっている
ためです。2013年以降は、まだ、明瞭には見えません。

(1)日本政府の財政破産から円安になることと、
(2)資源・エネルギー・穀物の高騰から、
わが国の基礎生活物資の物価が急上昇する可能性が相当に高いから
です。(注)今のままなら、政府財政の破産は確実です。

ただしこれで日本経済(世帯と企業)が潰れるわけではない。政府
部門(公務員400万人:国+地方)の財源が不足し、44兆円の新発
国債に依存する今の予算(一般会計で92兆円)が組めなくなります

ひどい例ですが、2007年に630億円の負債で破産した夕張市の予算
のように向かう可能性が、相当な確率であります。5%の消費税を1
0%に上げることができても、政府税収の増加は10兆円に過ぎませ
ん。

こうした財政破産が認識されると、新規発行(40兆円水準)と借り
換え債(150兆円)の国債の金利(現在は10年債で1.2%付近)が、
3%や5%に向かい高騰します。

金利が3%に上がれば1年に190兆円×1.8%=3.4兆円の政府の利払
いが増え、5%に上がると7.2兆円の利払いが増えるからです。

3%や5%で落ち着いても政府の利払いが毎年、同じ額で増えて行く
。1年に150兆円の満期(返済期限)が来る国債の残高が、900兆円
もあるからです。

政府財政が破産に向かうと認識された途端、円債がヘッジファンド
から空売りされ、$1=150円にも向かう円安になります。輸入物価
が今の1.8倍に高騰します。

円安と資源高になると、基礎商品(特に1年に30兆円売れている食
品)がインフレになる。わが国は、国民が食べる総カロリーの60%
を輸入しているからです。2010年には、輸入している資源・エネル
ギー・穀物(国際コモディティ)は円高の中でも、2009年に比べ、
54%も上がっているのです(日経商品指数)。

物価インフレは、普通の時期なら、小売業には追い風です。しかし
円安からの物価高騰では、世帯所得が増えません。このため80%の
世帯は、基礎商品の買い物数を減らす行動になります。

20%の実質的な失業者を含むと、平均所得が250万円と低い20歳代
の人(1408万人)に、いくらの価格なら買うか聞いてください。50
代の人(1618万人)の、ほぼ半分の価格です。(注)フリーターや
雇用調整金をもらうのも、実質失業です。これらを入れれば20代の
失業は20%(280万人)です。

【確認】
第二次石油危機の後の1980年代インフレの時期に、百貨店やGMSの
価格が上がる中で、価格を下げた米国のディスカウント・ストアや
SPA専門店チェーンと同じ価格帯を主力とする店舗が、わが国の201
0年代には、ウォルマートのように業績を急拡大させます。

ウォルマートの1970年代のビジョンは、$2万(164万円)の世帯に
、$4万(328万円)の所得の生活を提供することでした。2010年の
代成長を目指す小売業が、この実例に漏れることはないと断言でき
るのです。

方法は1980年代のウォルマートやSPAのサプライ・チェーンにあり
ます。

■8.売価要因25%

店舗の売上を決める要素のうち、品揃えの豊富さの上で、売価要因
は25%を決めると書きました。

この売価要因は、
(1)お買い得商品の品目数の多さ(20%以上)
(2)もっとも売れ数が多いプライス・ポイントの品目の、品揃え
の多さ
(3)商品価値の高い商品の多さです。

品揃えの豊かさと売価に続く、3番目の要因が、
・プロモーション要素(15%)
・サービス要素(10%)
・その他の要素(10%)でしょう。

いずれも、サプライ・チェーンの商品計画(商品構成計画)作りに
関係します。今日これから2年ぶりのパリに発ちます。売価用要因
を含む続きは、パリから送ります。

【後期】
欧州のPIIGSの財政危機からの金利高騰が、ポルトガル、スペイン
ベルギーと波及して、深刻化してます。ユーロは今108円付近です
が、2年前とは円に対し30%も下げています。パリの物価が、円で
どう見えるか。

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