1929年~33年の世界恐慌を振り返れば、将来が見える(1)
This is my site Written by admin on 2012年1月18日 – 09:00

おはようございます。前号でも書いたように、ユーロ(17ヵ国)の国家
と民間銀行のファイナンスが、PIIGS(5ヵ国)を先頭に、2012年の「1
月~3月危機」に向かっています。

(注)経済マスコミに先駆け、「ユーロの1・3月危機」と名付けること
にしました。1~3月は、ユーロでは、過去の国債の償還が、50兆円規模
(年間ベースで200兆円)と大きいからです。


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<573号:1929年~33年の世界恐慌を振り返れば、
                             将来が見える(1)>
       2012年1月18日号

【目次】
1.国債のファイナンスの問題
2.銀行損失は、2年後では、未確定のまま過ごされる
3.ユーロと、日本の違い
4.欧州の政府負債と財政赤字(GDP比:2010年)
5.欧州は、平均でGDP比10%の国債の新規発行がある
6.PIIGSの対外債務と、1年に70兆円(推計)の、対外返済
7.ギリシア国債のヘアカットは、50%では足りないと言われ始めた
8.1929年からの世界恐慌の推移

【後記:3題】

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■1.国債のファイナンスの問題

ファイナンスは、資金の調達を言います。ファイナンスの危機は、過去
の国債の返済、社債の返済、つまり債務の満期が来るのに、債権市場(
=国債と社債の売買市場)で、借り換え債と新規債の発行が困難になる
ことです。

ファイナンが難しくなると、国家や金融機関に、支払いが遅延すること
(デフォルトと言う)の懸念、つまり「資金ショート」の恐れが大きく
なります。

ファイナンスの難しさを示すのが、国債金利と、銀行の社債金利の高騰
です。デフォルトで先頭を走るギリシアのように、長期金利は30%を超
えます(12年1月は長期金利35%)。

企業は資金ショートを起こすと、銀行取引が停止され、倒産します。倒
産は、過去の債務の清算を迫られ、定期預金も差し押さえに合い、支払
い資金がなくなって、事業活動ができなくなることです。

(注)負債の期限の利益を失うといいます。満期にかかわりなく、過去
の負債を、一度に、全部、返済することを迫られます。

▼実体経済と、銀行危機の関係は、マネー・ストックの減少から

国家と大手銀行(または金融機関)が倒産という事態を起こすと、「国
民経済(企業と世帯の投資と消費)」において、信用収縮、言い換えれ
ば投資と消費に使えるマネーの縮小が起こるため、実体経済(投資と商
品購入)が恐慌に向かいます。

恐慌は、企業の売上が20%や30%と大きく減って、国の失業が25%を超
えることです。国民所得も減ります。(注)スペイン、ギリシア、ポル
トガルの実質失業率は、すでにこれに近い。

【銀行危機は連鎖する】
銀行の倒産は、相互に債権・債務をもつため、つまり「短期資金の貸し
合い」をしていますから、一行ではとどまらず、約一週間という短期間
で、連鎖した破産になります。

このため、銀行間の貸し借りと同時に、民間経済で使えるマネーも急減
します。現在の商取引は、現金の紙幣ではなく、預金の振り替えで行わ
れるからです。

【大口預金の動きが肝心】
銀行の破産の前は、個人の小口預金ではなく、数億円や数百億円の大口
預金の解約・引き出しが先行します。大口預金の解約は、世帯の不安を
煽(あお)るので、普通はマスコミが報じません。

●いま、PIIGSの銀行からは、破産と預金の凍結を恐れ、ドイツの銀行
に、企業と富裕者の「大口預金の大移動」が起こっています。同じユー
ロで、ドルや円に換えたときのような為替変動がないからです。(注)
預金の凍結は、引き出し額の制限です。

◎対策はひとつだけです。ユーロ政府(EU)またはECB(欧州中央銀行)
が、市場でファイナンスができないため資金が不足する国家(つまり行
政機構)と銀行に、当方の推計では、当面で必要な5兆ユーロ(約500兆
円)を、貸し与えることです。

(注)欧州は、90銀行の自己資本で1147億ユーロ(約11兆円)が不足と
言っています(EBA)。この金額は、銀行の資産査定を大甘にみたとき
の自己資本不足です。これでは、まるで足りません。

■2.銀行損失は、2年後では、未確定のまま過ごされる

欧州政府(EU)は、2011年のストレス・テスト(政府が行う、金融機関
の資産査定)で、不良債権額を、実体よりはるかに小さく(推計で1/3
)しか言っていません。

このため「最低でも5兆ユーロ」が必要だと、論理的に言えないのです
。何ごとも嘘をつくと、嘘に引きずられます。

【2011年に、表面化したドル不足】
昨年(2011年)、ユーロの銀行は、ドル建ての負債の満期決済が困難に
なりました。ECBからの依頼を受け、緊急に、FRBと日銀が米ドルを貸し
与えたことは報じられていますので、ご記憶でしょう。

理由は、ユーロの銀行が、決済に必要なドルを調達しようとしても、市
場が、リスク率を見た高い金利でしか応じなかったからです。付記すれ
ば、こうした時の不足金額は、(ほとんどのケースで)マスコミが報じ
たものの数倍あるいはそれ以上です。

欧州の銀行は、ドルでの預かりと、運用が、日本の銀行よりはるかに多
い。スイスなどは、たぶん80%がドルでしょう。

企業の倒産前にも同じことが見られます。「2億円不足です」と経理担
当が言う。「いつまでの不足分ですか?」。「来週です。」「またすぐ
足りなくなるでしょう。3ヶ月の不足額は?」、「売上の変動があるの
で仮定が困難です。売上がよければ、たぶん、15億円です」。

「じゃ、これから半年では?」、「・・・」。約20年前、当方が痛く経
験したことです。担当は、ほぼ100%、不足額を少なく言う。

大手金融機関も、金額が大きいだけの違いで、「少なく言う」事情は同
じです。

▼銀行の損失と、国民経済の、マネー・ストックの減少の関係

銀行は、普通の時期の、健全なところでも、自己資本比率は8%~15%
と少ない。このため、10%の預金(銀行にとっては負債)が減れば、あ
るいは総資産に10%の含み損が生じれば、即刻、資金繰りの危機になり
ます。

負債を運用する銀行が、普通の企業と異なる点がここです。
わずかに見える損失でも、大きな信用収縮を生みます。

【銀行の1兆円の損失が、国民経済では、12.5兆円のマネー・ストック
の減少になる】

100兆円の資金量の銀行で、必要な自己資本比率を8%(8兆円)とすれ
ば、総資産のわずか1%の赤字(1兆円)の確定によって、総資産100兆
円を、12.5兆円も縮小せねばなりません。事実、欧州の銀行は、日本
の銀行に対し、「当行の融資債権を、(割引率*%で)買ってくれ」と
申し入れています。

100兆円の資産の銀行の、12.5兆円の縮小が、国民経済の中の、マネー
・ストック(国の金融資産の総量)では12.5兆円の減少になります。

[マネーはレバレッジの構造]銀行の信用が増えるのも「乗数」、減る
のも「乗数」です。このため、バブルとバブル崩壊を繰り返します。ペ
ーパー・マネーは、低い準備率によってレバレッジ化した銀行信用だか
らです。

【下落した債券の流通市場の消滅】
銀行が、所有する債券・證券(資産勘定)を大きく売ると、値下がりが
生じ、資金不足が大きくなります。このため「売るに売れない」とこと
になる。住宅ローンに関連したMBSやRMBS(デリバティブ)が、この典
型です。

米欧で1000兆円はある不動産担保ローン証券の流通市場は、同時に消え
、AAA格でも、額面の43%の価格しかつかない(FT紙)。

欧州の銀行の、「実質資本=時価資産-負債額面」の数字は入手できま
せん。出てきても、結局(推定で2012年末から)、国有化された後でし
ょう。その時の増資額や、援助、貸付金で、損が推計できます。

【銀行の損失を構成する5要素】

(1)PIIGS債(200兆円)の不良部分、
(2)ユーロの、約20%下落による損失、
(3)ハンガリー等の東欧債(200兆円)による損失、
(4)住宅証券(1000兆円)の下落損失、
(5)株価(欧州の時価は約1000兆円)の下落による(2011年で約-20
%:欧州)損失の5つが加わります。

(注)PIIGSでの損は、全体から見れば、20%程度の構成比にすぎませ
ん。

政府、中央銀行が、劣後債の購入や増資に応じることは、事実上の国有
化、あるいは国家による管理(東電に類似)です。

東電が言う損失と、外部から見た、今後の損害保証や除染工事を含む損
失には、数倍以上の開きがあります。これと同じ構造が、欧州の90行に
あります。

こうしたときに使われる「劣後債」は、株のように返済順位が下位で、
金利が高いものです。逆が優先債で、これは普通の社債です。

(注)野村證券、三菱東京UFJ、みずほも、会計上、自己資本に近いと
見なされる劣後債の、1000億円レベル以上の発行を予定しています。野
村證券は、破産したリーマンの債券と人の買収で8000億円も使い、これ
が欧州を含む世界での損失になっているからです。

ユーロの国債と、銀行の危機が長引き(すでに2年)、しかも月を追っ
て深刻化する理由は、
(1)欧州政府が、銀行の「本当の損失額」に近い数字を言わず、言っ
ても数分の1と少ない金額であること、
(2)このため、「いくら必要か?」が確定しないこと、です。

●2011年7月のストレス・テストに当たった高官は、「本当の不良債券
は言えない。言わない。言えば、大変なことになるから。」とマスコミ
に漏らしています(小さな記事でした)。これが、本当のことです。

以上のような、金融当局の態度は、金融市場(=長短の債券を売買する
市場)で疑心暗鬼を生むので、危機は一層深刻化するしかありません。
会議は多い。有効な対策は決まらない。不良債券・不良証券の「予想的
な確定」がないからです。

銀行間で、短期資金(コール・マネー)の貸し借りをしている金融関係
者は、自行の本当の不良債券から類推し、他行の不良債券を疑っていま
す。「自行でも、これだけある。あの銀行は、積極的だったから、もっ
とあるだろう。」という推計です。

以上の事情の、総合の結果、ユーロは「1・3月危機」に向かっています
。予断するのは、欧州の銀行にとって迷惑かもしれない。当方、ユーロ
債で、日本の銀行にいま以上の損をしてほしくないために、申し上げま
す。

(注)格付け機関のS&Pは、改善が見られないとして、ユーロ9ヵ国の
国債を、同時に格下げして、非常事態に近い宣言をしています。格付け
史上で、初めてのことです。ポルトガルも、ギリシアと同じジャンク債
(国家破産の可能性が向こう5年で65%以上の投機的な国債)に下がり
ました。

■3.ユーロと、日本の違い

株価と地価が50%以上も下がった結果の、日本の金融危機(1997年~)
のとき、
(1)危機を認定するのに、1990年に株価が下がってから7年、
(2)地価が下落した1992年から5年、
(3)銀行の不良債権、つまり自己資本不足(公称で100兆円)を、認定
するのに、金融危機(1997年)の後、約5年を要しています。

ユーロと日本が異なるのは、1990年代の日本は、内需は減少しても、
・円高に抗した、企業の「高品質・低価格」への努力で、
・外需(輸出)が、好調を続け、
・経常収支の、巨額黒字が続いていたことです。
この点、ドイツと同じです。

このため、円が売られる暴落はなく、逆に海外からも「強い円」が買わ
れ円高にもなっていたのです。銀行は、担保としてとった地価の下落と
融資の不良化のため危機を続けていましたが、国としては、経常収支が
黒字でした。

ユーロ(17ヵ国の合計)は、違います。ユーロの金融危機とともに、1
ユーロ=160円、170円の時期もあったユーロ(2007~2008年)は、1月
は100~97円の範囲です。3年間で、通貨が42%も下がる暴落です。
http://fxdata.ehoh.net/jpy.html

【通貨の下落と上昇の意味】
通貨の下落は、下落した国から上がった国へ、マネーが移動しているこ
とを示します。一方で、円のように上がる通貨には、マネーが流入して
います。

ユーロ債の売りは、ほぼ同額が、ドル国債買い、円国債(主は短期債)
の買い、元買いになっています。

つまり、PIIGS (5ヵ国)を中心にユーロ(17ヵ国)から、巨大にマネ
ーが抜けています。国境を越える、世界のマネーの移動は、1日で500兆
円と大きい。

専用回線の中の、一秒に最大3000回の、通貨先物と実物を含む売買によ
る、デジタル数字の瞬間での移動(ロボット・トレーディング)なので
、見えませんが・・・レバレッジ、デジタル化、瞬間取引が現代金融で
す。

先物、オプション、CDS、CDO等のデリバティブの本質は、売買額を、10
~30倍に膨らませることができるレバレッジです。

このため、売買で生じる利益も損も巨大化し、早期化(時間短縮)しま
す。同時に、利益は計上しても、それと同額の損失は、デリバティブ(
CDS等)を使い、1年間は、飛ばすことができることです。

◎ユーロ危機では、内外からのユーロ売りによって、マネーが抜けてい
ることが、日本の金融危機(1997年~)と、真逆です。(注)ドル危機
のときも、同じことが起こります。その点、日本は特殊でした。

フランス国債が格下げされたのは、PIIGSに対するフランス銀行の貸付
(および、PIIGS国債保有:エクスポジャーと言う)が多いからです。
近々、この南欧に、東欧の債務危機(債権の額面で約2兆ユーロ)も加
わります。

                         *

以降では、最初、ユーロ諸国の国債残と政府財政の赤字、および、欧州
銀行の、PIIGSへの貸付と債券保有額を見て、解釈します。この目的は
、PIIGSでこれから必要な、ファイナンス額を推計するためです。(注
)マスコミ報道には、定量的な裏付けが欠けています。

次は、1929年~33年(80年前)の世界恐慌が、何を原因に、どういう過
程をたどったかです。これを調べ、書く理由は、『大収縮1929-1933』
(ミルトン・フリードマン&アンナ・シュウォーツ:邦訳)を読んだと
き、デリバティブ等での金融商品の多様化の違いを変換すれば、現在と
「瓜二つ」と思ったことです。

このため、今後の推移を予想する手段になると考えたからです。

かつてマルクスが言ったように「歴史は(性懲りもなく)繰り返して」
います。

『国家は破産する』(カーメン・M・ラインハート&ケネス・S・ロゴフ
)でも、「今度は、いままでとは違う(This time is different:原題
)」と、毎回言われながら、大小の金融危機、債務危機、国家破産は、
同じことを繰り返していると、800年間もの豊富な実例を通じ、証明し
ています。

■4.欧州の政府負債と財政赤字(GDP比:2010年)

以下は、欧州各国の、
・GDPに対する政府負債(=国債発行残)、
・政府財政の赤字(=つまり毎年の国債発行残の増加)、
・対外赤字(=つまり対外債務の増加)を、対照して示すものです。

                               経常収支
           政府負債  財政赤字  対外赤字    現在の状況
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
ギリシア     125%   -12%      -8%     財政・銀行危機
イタリア     117%    -5%      -4%     財政・銀行危機
ベルギー     101%    -6%      +2%      →国債の格下げ
ポルトガル    93%    -8%      -9%     財政・銀行危機
フランス      83%     -8%     -3%      →国債の格下げ
英国          80%    -13%     -3%     潜在危機
ドイツ        77%     -5%     +5%     
スペイン      66%    -10%     -4%     財政・銀行危機
オランダ      66%    -6%      +7%
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
(CIA The world fact book等から作成:解釈は当方)
https://www.cia.gov/library/publications/the-world-factbook/

一見して分かるのは、
(1)国債の残高が、自国のGDP比で100%を超えていて、
(2)毎年の財政赤字がGDPの5%以上で、その分、国債発行が増え、
(3)発行が増える国債のファイナンスを、海外からの買いに頼らざる
を得ない国、つまり経常収支の赤字がGDP比で4%以上の国において、財
政、金融危機が起こっていることです。

(1)危機突入グループ:
ギリシア、イタリア、ポルトガル、スペインが、この、ファイナンスの
危機の枠に入ります。単に国債残と財政赤字の大きさではない。

本質を言えば、海外から国債を買ってもらわねば、新規と借り換えの国
債をファイナンスできない構造が問題です。

(2)潜在危機グループ:
英国は財政赤字がGDP比で13%ともっとも巨大ですが、海外からのファ
イナンスはGDPの3%程度(経常収支の赤字)とPIGSより低い。これは、
海外からのファイナンスがGDP比3%であることを示します。

このため、上記のPIGS(GDP比4%以上を海外からのファイナンスに依存
)に準じますが、まだ、そこまでは至っていません。フランスも、英国
とほぼ同じです。

(3)対外貸付国:
ドイツは、財政赤字はGDP比5%と高いものの、5%の経常収支の黒字で
、対外貸し付け国です。オランダも、同じです。

このため、危機は国家財政(国債)でなく、南欧と東欧の証券・国債を
買ってきた銀行の、自己資本の危機になっています。

■5.欧州は、平均でGDP比10%の国債の新規発行がある

ユーロ17ヵ国のGDPは、ほぼ米国($14兆)並みで、$12兆(約1000兆
円)です。これらの国々が、平均で言えばGDP比約100%の国債残を抱え
(2011年)、GDP比で、約10%の新規国債の発行をせねばなりません。

過去の長短国債の平均満期を、5年と仮定します。参考のために言えば
、米国は平均4年、日本は7年付近です。以下のような資金繰りになりま
す。

【構造】
(1)ユーロ17ヵ国の約1000兆円の、過去の国債の満期分 として200兆
円の借り換え債の発行が必要です。

(2)加えて、当年度の、GDP比で約10%の財政赤字のため、100兆円の
新規債の発行が必要です。合計で、300兆円をファイナンスしなければ
、国債はデフォルトします。

対外収支で赤字(経常収支が赤字)の国は、発行した国債も海外から買
ってもらわねばならないファイナンスできません。それがギリシア、イ
タリア、ポルトガル、フランス、英国、スペインです。

海外の国債を買い超(買い>売り)できるのは、経常収支が黒字の、ベ
ルギー、ドイツ、オランダの三国だけです。(注)経常収支=貿易収支
+観光収支+海外投資の配当・金利収支

ベルギー、ドイツ、オランダが(そして米国、中国、日本が)、ギリシ
ア、イタリア、ポルトガル、フランス、英国、スペインの借り換え債と
、新規債を買い続ければ、2012年の金利の高騰(PIGS債の下落)は小さ
い。

ところが、ベルギー、ドイツ、オランダは2011年までの、PIGSの金利高
騰(=国債価格の下落)で、保有国債の時価が下がって損をしています
。

国債の、大口保有も買い手も銀行です。

(注)米国、中国、日本、および新興国は、すでに2011年で、ユーロ債
の売り手に転じています。このため、2012年は100円を割るユーロ安に
なったのです。

・・・誰が、2012年に合計で300兆円の、発行されるユーロ国債(借り
換え債+新規債)を買うのか?  

経理担当の方はご存知ですが、資金繰りでは、支払いに1兆円(1/300
)が足りなくてもデフォルトになります。

ファイナンスに300兆円必要な時、国債200兆円は売れたが、100兆円は
売れ残ったというのがデフォルトであり、国家破産です。

▼欧州金融安定基金(EFSE)に、あやふやさがある

これを防ぐため、欧州金融安定基金(EFSE)が100兆円準備されると報じ
られています。

これは、欧州政府(EU)とECB(ユーロの中央銀行)が100兆円を出して、
基金を作ったというものではない。

欧州政府(EU)の合計信用を担保にして、
・EFSE債を新たに発行し、
・世界に売って基金を作り、
・その基金で、ユーロ(特にPIGS国債)の国債を買い、
・同時に、資金が不足する銀行に貸し付けるというものです。

その構造を、有り体に言えば、もともと必要な300兆円のユーロ国債発
行のうち、100兆円をEFSE債に振り替え、米国、英国、中国、日本、ス
イスに売るというものです。(注)スイスと英国のマネーは、中東マネ
ーです。

1月16日に、格付け会社のS&Pは、EFSE債もユーロ債と同じと見なし(
当然のことですが)、AAAから一段階格下げしています。(ウォール・
ストリートジャーナル)
http://jp.wsj.com/Finance-Markets/node_376002

米国、英国、中国、日本、スイスが100兆円のEFSE債を買わないと、ユ
ーロ債(特にPIGS債)は、2012年のいずれの日か、デフォルトします。


●当方の予想では、ユーロ下落で損が想定されるので、海外は,増加買
いはしないということです。

じゃ、どうなるか。 

・ドイツ政府がPIIGS救済マネー出すか、
・欧州中央銀行(ECB)がEFSE債を買うしか方法はなくなるでしょう。(
注)最初の危機の時期が来るのが、2012年3月付近と見ます。

デフォルトをさけるため、最後の手段として、EU政府が、世界に売れて
いる円建て債やドル建て債を発行し、日銀やFRBに買ってもらう方法は
あります。これらは、円やドルで返済せねばならないものです。

こうしたときの、当局の共通心理は、「EFSE債等の債券が売れ、資金が
入ってきて、目先の危機が回避されると、助かった」と思うことです。


●しかしそれは、当然に、借金の増加です。また、新たに積み上がった
満期の時期が来ます。そのとき、返済金をどうするのかという問題が、
負債金額が膨らんで襲います。デフォルトして債務がカットされない限
り、借金は追いかけてきます。

新規債は少ししか発行しない。借り換え債のみは、どうか、買って下さ
いということでなければならない。(注)日本も、年々、海外から国債
が売られているイタリアの状況に近接しています。

このためには、とりわけPIIGSは、年金と医療の社会福祉費、および公
務員給料を、大幅に切り下げ(30%以上)、税収とバランスさせて財政
の赤字を減らし、国債発行を少なくするしか、方法はない。

これが、政治(所得分配の機能)で可能かどうかです。国民の合意がな
ければ、実行できない策になります。英国のように、公務員のゼネスト
や、ギリシアのような暴動が起こるでしょう。

政治的なリーダシップは、いずれの国も、弱体化しています。これから
の、退職者が増えて年金の支給と医療費が、大きく増える高齢化社会へ
の、国民の共感をよぶ国家像を描くことが、日米欧とも、できていない
からです。民主社会は、国民に対し、福祉のカット、年金カットの政策
がとれないのでしょう。

■6.PIIGSの対外債務と、1年に70兆円(推計)の、対外返済

PIIGS5ヵ国が、海外から借りた対外債務(借入金+国債)は、以下です
。(2010年末:BISの統計:$1を80円で換算)
  
      対外債務(危機の順位)    
~~~~~~~~~~~~~
ギリシア      20兆円       
アイルランド  60兆円       
ポルトガル    23兆円
スペイン      78兆円
イタリア     200兆円
~~~~~~~~~~~~~
合計         357兆円

357兆円の対外債務は、長短の平均満期を5年と仮定すれば、PIIGSの合
計で、1年に約70兆円の、海外への満期償還(海外への返済)が必要で
す。(注)PIIGSにとっての海外は、ユーロ域内(フランス、ドイツ、
オランダ)と、英国、米国、日本、中国、スイスです。

国の経常収支が、いずれも赤字のPIIGSには、当然に、この返済資金は
ない。借り換え債を、海外に売り続けねばならない構造があるのです。
借り換え債が売れないときは、1年に70兆円を、PIIGSがどこからから借
りて、ユーロの現金で振り込まねばならない。

一般に、国家の金融が危機になると、新規国債の市場での売れ行きが問
題にされます。

ところが、EUの中央銀行が短期ゼロ金利を敷く中で、ある国の新規債の
発行金利がほぼ5%を超えると、同時に、もっと大きな問題の借り換え
債の発行が困難になります。これが、デフォルトです。

PIIGSのように国債残が、GDPのほぼ100%を超えた国では、新規債より
、借り換え債の発行こそが、問題になります。2012年を通じ、PIIGS5ヵ
国は、毎月、今月、今週の資金繰り(国債の返済金)をどうするかとい
う問題に直面します(確定した事実)。

借金は、増やせるときはいいのですが、いったん、増やせないとなると
、過去の借り入れの返済が襲う借金の多い企業の資金繰りと同じく、デ
フォルトの危機が、数ヶ月内に襲います。

金融市場での、集合的な意識(共通意識)において、「認識の変更(あ
の国は危険)」が、これを招きます。

(注)社債発行が多かった東電は、いま、買い手がないので新規の社債
発行ができません。社債市場は導電が決めるというくらい信用が高かっ
たのですが。

赤信号、皆で渡ればこわくないとは、ビート・タケシが巧みに言ったこ
とと記憶します。国債を買う金融市場(金融機関と年金基金)も、世界
が、「赤信号、皆で買えば、価格が下がらないからこわくない」という
行動様式で、来ています。国債の価格と金利を決めるのは、債券市場で
す。

反転すると、一夜で(実際にはほぼ三ヶ月)、金融危機です。三ヶ月に
は、根拠があります。短期国債の満期は、三ヶ月が多いからです。国債
の満期の三ヶ月間は待って、つぎの、短期借り換え債の購入をさけるか
らです。

そうすると、国家破産寸前の、紆余曲折の2年を経て、日米欧が一斉に
、中央銀行の国債買い、言い換えればマネーの増加印刷(インフレ)に
進むかも知れません。(注)まだ、一斉のマネー印刷の兆候は見えませ
ん。

現在、銀行のデ・レバレッジ(信用の収縮=融資の回収と証券の売り)
による、デフレ型恐慌に向かっています。しかしこのデフレは、いずれ
、インフレ策への転換を生む原因にもなるからです。これが、歴史の証
明するところです。

■7.ギリシア国債のヘアカットは、50%では足りないと言われ始めた

ギリシアは、過去の国債の満期償還が完全に不可能と見られています。
2012年の1月末から金融機関との間で個別に、任意に、交渉で決める50
%のヘアカット(債務のカット)では、足りないと見られています。70
%から80%の、債務カットになる。

この合意が採れるかどうか・・・ここが、2012年1月末からの最大問題
です。タイタニックが出会う最初の(ちいさな)氷山と見ていい。

そうなると、PIIGS国債の全体の危機が深まります。米国の金融機関は
、PIIGS債に対し100兆円も保証するCDS(保証保険)を抱えています。こ
のため、米国の大手銀行も危機になります。

リーマン・ショックの2倍以上の危機になると言えます。

▼リーマン・ショックの、2倍の損失の意味

CDSに参加しているのは、米欧の最大手40行です。取引は、密室の店頭
取引(「あいたい」での売買)です。おそらくは、飛ばすことになる。


このため、また不良債券での損失が先送りされ、長引きます。リーマン
・ショックのときも、AIGが抱えていたCDSの行使は、見送られたのです
。CDSと住不動産関連ローンの不良債権を含む総損失は、IMFの推計では
$5兆(400兆円)でした。これを、100年ぶりの金融危機と言いました
。

この$5兆は、米欧の政府と中央銀行が、2008年冬と2009年に信用の拡
大をして貸し付け、デフレ型の世界恐慌を避けたのです。

◎今回が、リーマン・ショックの2倍とは、米欧の金融機関(主は大手
銀行)の、米欧の金融機関や基金の総損失が、$10兆(800兆円)にな
るということです。一体、何百年ぶりの危機になるのか。

■7.1929年からの世界恐慌の推移

現在がどんな地点にあるのか、2012年がどう向かうかを判断する歴史的
な材料として、近代史上最大の、デフレ型恐慌とされている1929年から
1933年の大恐慌(80年前)を取り上げます。
増刊号で書いて送ります。

See you soon!

【後記】
歴史的なアナロジーで言えば、イラクによるホルムズ海峡の封鎖が、米
英・イスラエルとイラン間の局地紛争(空爆)を生み、それが、資源イ
ンフレになって、インフレへの転換を生む可能性もあります。

海峡の封鎖が起こると、サウジアラビア、クウェート、アラブ首長国連
邦の原油の、タンカー輸送ができなくなり、原油価格は、2倍の、1バー
レル200ドルになると見られています。金も高騰し、穀物も金属も同時
に高騰します。

18センチ口径のAlpair12での成功に気を良くし、買っておいた小型のAl
pair6(口径8センチ)でも、ほぼ同じ方法で、作成中です。箱はもともと
あるので簡単です。小さな口径なら、どんな音になるか、心が躍ります
。

最後は、毎週の、お詫びです。アマゾン、楽天、紀伊国屋webを含み、g
oogleで検索しても、『国家破産』は、在庫切れになっています。

アマゾンでは、書店が出した中古品が、新刊を1000円超える2900円にな
っています。著者として誠に情けない。初版の印刷が、少なすぎたから
です。増刷の配本に、あと一週間かかるという。

書店の店頭では残っているところも、若干あるようですが・・・リアル
タイムでは、確認しようがありません。

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