「利益」はどこにある?(2)範囲の経済性を求めて
This is my site Written by admin on 2005年4月19日 – 08:00

こんにちは、吉田繁治です。桜の花びらも落ち暑くなってきました。
4月初旬に、北海道小樽に行ったとき降った雪が嘘のようです。

▼時事

ここ2ヶ月間のトップ記事だったライブドアの、ファンドマネーを使
ったM&Aは、フジテレビがニッポン放送の株を買い戻し逆にライブ
ドアに出資することで、とりあえずは決着したようです。

昨日の共同記者会見の席上、ライブドアの堀江氏は、手にする140
0億円相当の資金を使い「次のM&A(併合・買収)先を探す」と発
言していましたね。さてどこを狙うか?

【PBR】
東証1部上場企業(約1500社)の「PBR」(Price Book value
Ratio株価純資産倍率=株価÷1株当たり純資産)で、600社もが
倍率1を割っています。純資産は、資産から負債をひいたものです。

「解散価値」と「株価時価総額」が等しいときPBRが1になります。
PBRが1割れば、一般には、割安と見ることができます。

資産の帳簿価格が、時価に比べ、正当であるという前提での話ではあ
ります。実際には、資産価格の信頼性を危ぶまねばならない会社も多
い。日本の、現在の会計が含む問題です。

米国風に言えば、PBRが1以下(解散価値以下)になれば、買収を
警戒するのが経営者でなければならい。

【時価総額】
米系の時価総額の高い企業は、日本の医薬品と日用品業界のM&Aを
狙っています。たとえば世界の最大手P&G(時価総額15兆円)は、
最近、髭剃りのメーカージレットを$570億(約6兆円)の株式
交換で買収しています。

P&Gとほぼ同業である花王の時価総額は1.5兆円です。ファイザ
ー(製薬)の時価総額は28兆円ですが、日本のトップ武田薬品工業
は4.5兆円に過ぎません。

彼我の比較では、日本企業の時価総額が、子供のように小さい。理由
は、米国の医療費マーケットは200兆円、日本は37兆円だからで
す。米国の医薬品メーカー・卸は巨大です。

▼株価の本質

しかし株価は、企業の価値を正当に評価したものではない。
ところが株価という方法しか、われわれは持っていません。

共産主義は、原価で価格を決めた。他方、市場経済では、原価に関係
なく、売れる価格が価格です。その条件下で、企業は利益を出さねば
ならない。

マーケットでは、その時々の株価に、大きな歪みが含まれます。動く
歪みの中で、自分は割安だと思うと判断する会社を狙うのがM&Aの
本質です。

マーケットは、上にも下にも歪むのが常態です。「動的不均衡」(岩
井克人)という人もいます。どこにあるか分からない「均衡価格」を
求め、常に激しく動くのが市場の本質だという。均衡価格は、需要と
供給が一致する価格です。

市場商品である原油価格でも、いくらが正当な価格か、だれにも分か
らない。

動的不均衡説は、古典派経済学が、静的な均衡価格を前提にしたこと
への批判(クリティック)です。

誘蛾灯に集まる昆虫のように、それぞれが「正当な価格」を求め、人
々が動く。昆虫の動きが正当な価格でないと見て、ファンドの資金を
集め、合間を狙い一口で食べてしまうのがM&Aです。

【タレント性】
額と鼻に汗を浮かべたホリエモンは、冷血の爬虫類(はちゅうるい)
には見えない。得をしていますね。劇場社会では、TV映りは大切で
す。企業のブランド価値すら決めるからです。

経営者がタレント化しています。商品価値もタレント性によって決ま
るところがあります。

今回のライブドア、フジテレビ、ソフトバンク・インベスティメント
でも、タレントの顔が世論を決めたところが何割かあります。

実は視聴者も一種の投票に参加しています。企業社会では、世論は相
当に大きな当事者の決定を左右する要因になるからです。

株価も、誤ることが多い世論のようなものです。誤っていてはいても、
市場経済は、その方法以外に企業価値を計る方法を持っていない。

今回は<「利益」はどこにある?(2)範囲の経済性>です。

(注1)今回は、具体企業名を示しています。ヒアリングと取材で得
られたことを使ってはいますが、全内容とすべての解釈と意味の読解
は、筆者の文責に帰すべきものです。

(注2)本稿は2回分を書いて、まとめたものです。

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<Vol.207 :「利益」はどこにある?(2)
範囲の経済性を求めて>

【目次(1)】

1.医薬品のメディセオと化粧品・トイレタリー用品のパルタックの
合併
2.パルタック:卸の技術創造型で優良企業
3.重要:改善のプラス・アルファ
4.コモディティ化による利益率の低下

【目次(2)】

5.まずは、目に見える物流コストから
6.納品物流
7.範囲の経済性

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■1.医薬品のメディセオと化粧品・トイレタリー用品のパルタック
の合併

ライブドアとフジテレビのケースと、目的も方法も異なりますが、4
月18日の日経新聞には「薬剤卸のメディセオと、化粧品・トイレタ
リー用品卸のパルタックが経営統合」との趣旨の記事が出ていました。
ご覧になった方も多いでしょう。

http://www.nikkei.co.jp/news/sangyo/20050418AT1D1809318042005.html

パルタックの社長・副社長に、インタビューしたことがあります。
日経新聞の記事は、一読して、評価ミスのように思えました。

わが国の医薬品業界、ヘルス&ビューティケア、そしてトイレタリー、
日用財の業界で戦後最大のニュースかもしれないと判断しています。
めずらしい異業種卸の合併です。金融で言えば、保険・銀行・証券
の合併に匹敵します。

▼過去の論考で

03年8月の無料版<技術屋の精神と方法(1)(2)(2003年8月1
3日と20日号>に、このパルタックの、手押し台車を使ったスキャン・
ピッキング方式をとる「完全物流センター」を取り上げたことがあり
ます。

受注商品のデータを見て、棚から商品の一個一個を集め、バーコード
をスキャンし、店舗へ配送する籠(オリコン)に入れるという一見で
はコストが高く、時代遅れに見える方法です。

ところがこの方法が、米国風のベルト・コンベア方式より、
・1品(正確には1piece)当たりコストが低く、
・集荷ミスも10万分の1以下の正確度で上回っていることが
検証されています。

「量の少ないタンピン・バラ納品への個別対応で柔軟性があって、コ
ストが低く、完全納品」でした。

見学し、設計者である副社長に質問し話を聞いて驚いた。現場で働く
パートの人たちのにこやかな挨拶にも感銘を受けました。

トイレは自動化され、ピカピカで最新のものでした。社員食堂の椅子
も会議用かと思えるくらいのものでした。経営者の社員への態度や企
業文化が分かります。

物流センターの規模と無人化によって生産性を上げるのではなく、人
が働いて生産性をあげていました。

http://backno.mag2.com/reader/Back?id=0000048497

■2.パルタック:卸の技術創造型で優良企業

研究のための見学の前後に、全体経営に責任をもつ社長と、ロジステ
ィクスと情報技術利用の技術長である副社長から話を伺いました。

識見、ロマンティシズム、技術追及、社員の成功を願う思いに共感し
たことを記憶しています。もちろん今の現実が、理想的だというので
はありません。大切なことは理想をもっていて近づく戦略があるとい
うことです。

約4倍の時価総額(2347億円:4月19日)をもつ医薬品・医療
用品卸のメディセオとの、パルタックにとっては吸収されるように見
える合併は、役員や社員に一層大きな場を与えたいという願いからの
ものでしょう。

課題意識のある社員を成長させるにはより大きな課題を与える方法が
いい。

トム・ピーターズ(『エクセレントカンパニー』)に倣(なら)い調
査・分析し書いてみたい会社のひとつです。理念を実現させる技術を
追求しています。

卸は店舗とメーカーの、消費者には見えないバックヤードの産業です。
パルタックを知っている人は少ないでしょう。経営理念と営業方針、
事業内容を含め、以下を見れば、国語化されているので雰囲気が分
かります。
http://www.paltac.co.jp/

年商3846億円(前期)、経常利益86億円、社員数1936名で、
化粧品、トイレタリー用品、日用雑貨を商品領域にしています。

▼記憶

私も、パルタックのことは知らなかった。ずっと前、風変わりな印象
を与える、昔気質(かたぎ)の営業所長とゴルフをしたことがあるだ
けでした。(こうした頑固な人は好感も持てます。)

所長は「われわれの卸は、単価が低く利幅も薄い。社員がトイレにい
る時間も、原価として計算をしなければならない。」と言っていた。

しかし、この問題意識はちょっと違うのではないか、大きな無駄は、
発生した経費としては見えない、別のところにあるのではないかと思
えました。

大きな無駄は判断、方針、重点戦略の誤りから生じます。小さな経費
となった無駄は見えます。しかし判断の無駄は、数字にならない機会
損失だからだれにも見えない。

たとえば運転の技術をどう上げても、目的地と経路を誤る判断のミス
(機会の損失)から生じる大きなコストは、カバーはできない。

加えて、個々人の作業手順と作業方法、部署間分業と連携すべき作業
の無駄がもっとも大きい。

こうしたところの合理化が本筋でしょう。会社のコスト体質は、ここ
から生まれています。体質は、仕組みと判断の傾向と言い換えてもい
いでしょう。

厄介(やっかい)なことは、作業の仕組み、判断の手順と利用情報の
改革は、現場の社員には手の届かないところにあることです。

だれも、自分の仕事を無駄だとは思っていない。しかし、真面目な仕
事が組み合わさって、大きな時間とコストの無駄になっている。与え
られた分業を一所懸命にやるだけでは、会社の枠組みとしてのコスト
の無駄はなくならない。コストは出荷価格の構成要素になります。

業務の仕組みの無駄は、高い視点から、俯瞰(ふかん)するように会
社全体と取引先、そして最終顧客までを見なければわからない。

ベストな会社の事例で仕組みを解析し、比較しなければならない。ベ
ンチマーク(比較経営)法と言います。

合併は、そうした大きな視点から、全体業務と分業を見直し、生産性
の高く成果の上がるもの組みなおす機会にすることができます。これ
が構想です。

(注)ベンチマーク:比較の基準をそろえ、数値と事実で比較するこ
と。

▼ロジスティクス

パルタックの新しい物流センターを見学するまで、私のロジティクス
の技術的な知識は、主に米国のサプライチェーンのソフトハウスや、
サードパーティの物流会社、及び米国の小売業から得たものでした。

社長と副社長に会って、最新の物流センターの現場を詳しく見て、過
去の知識を納得しながら修正しました。

しかしながらロジスティクスは、物流だけではない。物流はロジステ
ィクスの一部です。重要な点は、最終需要に応じるための物流である
ことです。そのため、クライアント(まずは店舗)の商品構成と棚割
りにまで踏み込まねばならない。

結果として生まれる受注に、応じるだけではない。
卸を「中間物流」だけと定義すれば、宅配便と同じでしょう。

「卸の在庫管理は、後工程である。卸の前工程は、お得意先の店舗の
商品構成と棚割りである。したがって、前工程である店舗の商品構成
と棚割(品揃え)に関与しなければ、完全な卸と物流はできない。」
と基底で考えているのがパルタックです。
http://www.paltac.co.jp/ourbusiness/merchan/index.html

<店舗の商品政策⇒商品構成⇒売り場構成⇒棚割り>という大枠での
工程表が掲載されています。

棚割りは、棚を力任せに割ってしまうのではなく、どういうふうに商
品を並べるのがベストかという、店舗にとっての根幹になる仕事です。
棚を斧で割れば店長が怒ります。

(注)ロジスティクスについての、歴史的背景を含む基本的な理解は、
以下を見れば、分かるでしょう。理解されていないのが普通です。

http://www.sakata.co.jp/nletter/nletter_040610.html

■3.重要:プラス・アルファ

日本人の得意は、発想のオリジナルを海外に求めつつも、いいと分か
れば調べて改良し、いずれは上回ることです。「THE KAIZE
N」です。津波と同じように英語にもなっています。

このカイゼンが、パルタックの物流センターのいたるところあり、実
際に稼動しているのを見るのは、感動的でした。
http://www.paltac.co.jp/ourbusiness/logistics/index.html

ホームページの図で、バラピッキングと書いてある無線LANのコン
ピュータとスキャナ付きの手押し台車がKAIZENの典型です。物
流機器は、多くが、現場からの自社開発です。説明を読めば、機能イ
メージがわかるでしょう。

【規模の経済】
米国企業を一言でまとめれば、国内マーケットが日本の約3倍もある
ことを条件にした「規模の経済性」の追求です。

【改善のプラス・アルファ】
しかし国内市場の規模で劣る日本企業が生産性で勝つには、「規模の
経済の追求+改善のアルファ」が必要になる。パルタックの物流セン
ターに、その改善のアルファが形になって見えます。

▼プラス・アルファを見つける

このアルファ部分を、それぞれの会社で見つけ作ることこそ皆さんの
仕事でしょうね。セブイレブンも、中心価格が500円の、味がよく
安いお弁当で増えていた個食を開発し「コンビニ(オリジナルは米国
)+アルファ(お弁当のディスカウンター)」をやっています。

【ウォルマートはまだ・・・】
しかし日本に来たウォルマートは、日本市場と労働者相手に必要な「
アルファ」が何であるか、今までの規模の経済の方法の延長上では見
つけていません。見つけなければ、進出は失敗でしょう。

(注)ウォルマートの「店舗の部門マネジャーへのエンパワーメント
経営」に、そのプラス・アルファがあるとの仮説を持っています。サ
ム・ウォルトンが言った「店舗の中の店舗の経営者」です。

▼意味

「ロジスティクスとリテイルサポートにおける技術創造型」であるパ
ルタックと、病院向けを主力とする薬剤卸のメディセオが合併するこ
とはどういう意味を含むのか? 

メディセオとパルタックの合併で、日本では始めて「卸」で2兆円企
業が誕生します。
http://www.mediceo.co.jp/

しかし本当の意味は、目に見える物流の規模化、会社の規模化ではな
い。

(注)総合商社は、ファイナンス・航空機・原油・鉄材・一次資源を
含む大型商品総合であって、こうした、細かな日用財の卸とは事業の
性格が異なります。

■4.コモディティ化による利益率の低下

合併後の企業規模の大きさではなく、本稿ではその意味、そして、予
想される今後の展開を解きます。

利益がだんだんなくなる「コモディティ化する商品」で、
どう利益を上げて行くことを継続できるかという大きなテーマのケー
ススタディでもあります。

最近の、エレクトロニクス製品のコモディティ化による利益の減少は、
ソニーが先頭で悩んでいることでもあります。現代産業の共通課題
と言ってもいいでしょう。

コモディティ化は、(i)代替可能な商品が増えたことで新商品の寿命
が短くなり、(ii)商品価値が低下してありきたりになり、(iii)当初
は狙っていた利益が減る世界の共通現象です。

今後のほぼすべての日本産業は、コモディティ化と戦い、どういう利
益モデルを作るかというところが戦略(目的にいたるための方法)の
要諦(ようたい)です。

▼商品単価は半分になった

中国の工業化(特に元安になった1994年)以降、日本のみならず
世界のあらゆる商品分野で、「コモディティ化の洪水」が起こってい
ます。

日本の、店頭で売られる消費財の店頭価格は、最も高かった1992
年に比べれば、今は53%で、約半分です。(総務省調査)

単価が半分になれば、賃金を同じとするなら人時当たりの数量生産性
(=商品処理数量÷総人時)を2倍にしなければ利益が出ないことを
意味します。

商品処理数量は工場では出荷数量、卸や店舗では販売数量です。
総人時は、平均労働時間×(社員+パート数)です。

【コモディティ化】
商品価格デフレとも言われますが、正確には「コモディティ化」です。

コモディティという概念によって、
・コモディティにならないものは価格が上昇する可能性もあるが、
・ますますコモディティになるものは仮にインフレであっても価格は
低下してゆくという仮説も得られます。

あなたの会社の商品は、多く(売上の80%)がどちらに属するでし
ょうか。その見極めによってマーケティング、商品開発、販売の戦略
は180度変わります。

マーケティングとは、だれが顧客か、顧客の高いニーズは何か、適合
する商品と提供方法、必要なサービスは何かを研究し開発することで
す。

【50%の原因は中国】
「コモディティ化=価格低下」の原因は、(i)農村人口が膨大な中国の
現場労働の賃金がGDPの成長にもかかわらず上っていないこと、
(ii)加えて30%くらいの元安要因によるものが、50%でしょう。

【残り50%の原因はオートメーション化】
あと50%は、世界中での、機械設備による自動化生産の進展です。
これによって労働生産性(=生産数量÷総労働時間)が上がって、価
格が下がっています。

■5.まずは、目に見える物流コストから

合併を発表した直後の、ラジオ日経のインタビューでメディセオの熊
倉社長とパルタックの三木田社長は言っています。

<現在の物流費では、パルタックが売上高に対して5.6%、メディ
セオは1.2%です。商品の単価はパルタックが310円、メディセ
オが8200円です。したがって1商品(1piece)あたりの物流費は
パルタックが17円、メディセオは98円です。>

▼現在の物流費

商品1ピース(1個)当たりの物流費で、パルタックはメディセオの
約6分の1です。(物流費=倉庫の設備費+庫内の作業費+在庫管理
費+配送費等)

【性格の違いはあるが・・・】
メデイセオの病院・医院・薬局向けの配送と、パルタックの店舗向け
の配送という性格の違いはあります。一般に、前者がより少量の配送
が必要でしょう。それにしても大きな違いです。

【メディセオ】
メデイセオは、年商1兆2839億円(前期)です。物流費は、15
4億円です。年間で1億6千万個の商品(単価8000円)を販売し
ています。一個当たりの物流費は98円。

【パルタック】
他方、パルタックは年商3861億円、物流費は216億円。年間で
12億5千万個の商品(単価310円)を販売しています。商品量で
言えばメディセオの7.8倍です。一個当たり物流費は17円。しか
も納品精度は99.999%と言う。10万個に1個の間違いです。

実は、コストをかけてもこうした納品精度の完全化はトータルコスト
を下げます。

納品ミスが多ければ、それによる修正の、二重三重の作業でコストが
上がる。クレームが多発すれば信頼という財も失われ、店舗は入荷数
量と品目の確認が必要になって、流通のトータルコストが上昇します。

製品品質の完全化と同様に、流通品質の完全化は、サプライチェーン
(製造〜卸〜店舗〜消費者)のトータルコストを下げます。ここがポ
イントです。

【日米の店舗物流の違い】
大規模チェーンからの、大量発注による大量納品が当たり前の米国と
異なり、日本の店舗物流は、タンピン・バラ発注をベースにしたバラ
納品です。

米国の物流は、規模が大きく大量に運ぶ。
他方日本は、多頻度納品でしかも細かい。

大きなダンボール箱やコンテナ単位の納品ではなく、段ボール箱を開
け、個々の店舗の少ない受注量に応じ、一個一個を店舗への配送籠(
オリコン)に入れ、多くを個店へ運ばねばならない。自動化が困難な
部分を多く含むのです。

パルタックの物流費は、米国の同業の物流費に比べ、売上対比のコス
トが高いように見えますが、一回の受注と納品の量の大きな違い、そ
して高い納品精度をいれれば、相当に合理化されたコストだと評価で
きます。

きめ細かで精度の高い物流では、筆者が知っている限り、世界の水準
を超えています。

▼見通し

パルタックの物流の技術と作業方法を、メディセオの薬剤物流に応用
することは、合併後の利益を増やすことになるでしょう。薬剤におい
て、納品精度は命でしょう。

【共通のこと】
業界が違うから、慣習も方法も違うと言われます。

しかしいろんな業界を詳細に見れば、やっていることの本質は同じで
す。20%の異なる部分に目をつけるか、80%の同じ部分を見るか
の違いに過ぎない。

いろんな業界を見て、「同じことではないか」と思えるのです。

たとえば風邪の、個人による原因や症状の違いに目をつけるか、同じ
原因や症状を見るかの違いと同じことです。同じところをみなければ、
共通の治療法もなくなる。

【コツ】
こうしたところが、コツです。仕事に困難をきたす人は、物事を個別
問題とし、別個の原因があるものとして考え対応する。

他方、仕事の出来る人、あるいは生産性の高いことが体質の会社は、
問題が生じたとき、他の問題とも共通原因があるのではないかと考え
原因対策を打つ。以前、あのドラッカーも指摘したことです。

システム化(仕組み化、あるいは枠組み化)に至るのは、問題に共通
原因を発見するからです。

パルタックの物流技術(=情報システム+現場の作業方法+作業の仕
組み+物流センターの設備)をメディセオの薬剤に応用展開すること
で合理化されると見ます。

<統合により、メディセオの1商品あたりの物流費を半分程度に下げ
たい。業績の目標数字などの長期計画は、今期第1四半期決算発表後
あたりに明らかにしたいと思っています。(メデイセオ熊倉社長)>

<医薬品の市場は6兆円市場。化粧品・日用雑貨品までビジネスのフ
ィールドを広げることにより市場は13兆円に拡大します。医薬品卸
業界においては既に再編が進み、営業力の差別化が難しくなっていま
す。今後の差異化のカギは、物流の力です。全国に高機能な物流セン
ターを持つパルタックとの統合により、物流の力を磨いてユーザーに
応えたいと思っています。(熊倉社長)>

こうしたことがシナジー(相乗)効果と言われることです。お互いの
強みを共有し、弱みを、相手の強みでカバーする。

▼吹きだまりと言われて・・・

20年くらい前、物流、広くは流通に興味をもったとき、「物流や流
通センター部門は、会社の中でも評価やランクの低い社員の吹きだま
りです。」と言われたことを鮮明に記憶しています。

今は様々な業界で、差異化の鍵は「物流」と言われる。今昔の観があ
ります。理由は、未だに物流の合理化が進んでいないからです。

産業の歴史は、しばしば、皆が非エリートの現場仕事と思っていると
ころで技術革新が生じます。今はコンビニの主力になったおにぎりの
研究など、だれが、エリートの仕事して目をつけたでしょうか? 

前述したように、卸売業が自社のビジネスの定義で、暗黙に「中間流
通、または中間物流」としたところに大きな問題があります。

中間的なもので中間マージンをとるものは、いずれ、合理化が進めば
消える。卸は自己を中間と規定する限り、自分自身の存在を、自己否
定することにもなる。

そうではなく、先に述べた「ロジスティクス産業」と規定せねばなら
ない。ロジスティクスのビジネスは、最適のコストで最終需要者の「
需要のニーズ」に応じることです。

医薬品なら、医家や調剤薬局の「薬剤ニーズ」に十分に応じるには、
どうしなければならないかを深く考えねばならない。

化粧品、トイレタリー用品、日用財も同じです。まずは「店舗のニー
ズにどう応じるのが十分なことか」を考えねばならない。

■6.納品物流

▼個店への物流の零細性

店舗は多くの商品を、メーカーに比べれば、少量ずつ陳列して在庫し、
1商品当たり(=1SKU当たり)では少量ずつ販売します。

【数万種の商品】
大型店には、数万品目(種類)の商品があります。数百もの仕入先か
ら仕入れる。納品するベンダー側(卸やメーカー)から言えば、それ
ぞれの品目を少量ずつ、個々の店舗に納めなければならない。

【発注作業】
商品の平均売価を400円、1日の売上高(日販)を300万円(年
商10億円:1500平米)とすれば、売上個数は7500個です。
2万品目が陳列されていれば、その2万種の商品のうち、売り場担当
が、売れた7500個を調べ、ベンダーに個々に発注します。

【ベンダー(販社・卸)】
7500個は1社のベンダーへの発注ではない。取引先が500社の
ベンダーなら1社・1日平均では、15個(6000円)です。

たった6000円分の商品を、個々の店舗へ毎日配送すれば、配送費
が膨大になって、お互いにビジネスにはならない。

【発注サイクル】
そのため店舗は発注サイクルを決め、週2回、あるいは週1回とする。
週1回としても、ベンダー1社平均の納品金額をならせば、6000
円×7日分=4万2千円分に過ぎないのです。

配送と納品では、まとめた20万円分も、小さな4万2千円分も、ド
ライバーの人件費と配送費ではほぼ変わらない。人件費と配送費は、
かかった時間に正比例して増えるからです。

店舗の、ベンダー1社と店舗の取引金額が小さければ、言い換えれば、
取引のベンダー数が多すぎれれば、納品のためのコストは大きくな
る。逆に、店舗とベンダー1社との取引金額を大きくできれば、納品
コストは減ります。

納品コストが高いことは、消費者にとっては売価が高いこと、店舗、
ベンダー、メーカーにとっては利益が少なくなることを意味します。

▼メーカー販社、そして代理店的な卸の発達

わが国では、西欧や米国に比較すれば、メーカー販社と代理店的な縦
割りの卸が多い。

店舗が大型化を図り、多くの種類の商品を並べようとすれば、相当に
多くの取引先に発注しなければならない。

一例を言えば、全国に店舗数が急増しているスーパー・ドラッグスト
ア(およそ1000平米クラス)は、家庭用医薬、健康医薬、化粧品
、トイレタリー用品、日用雑貨、食品(主としてグロサリー:乾物)
を総合的に取り扱います。

今のわが国の「業種縦割りの流通構造」では、店舗側は相当数のベン
ダーに発注し納品を受けなければならない。ベンダーの配送車が何台
も店舗の裏に並びます。

中間に店舗がDC(Distribution Center:在庫をもつ流通センター)
を作っても、事情は似ています。DCに多くの配送車が並ぶ。

これらの配送コスト、そしてベンダー・DC・店舗の在庫管理と発注
の作業コストは、最終的には、消費者が負担することになる売価に転
嫁されます。

自分が懸命に行ってきた、あるいは行っている仕事が、消費者にとっ
ての余分なコストでしかないという認識は辛いものでしょう。

しかし大きな視点から見れば、有効な価値を生めない仕事もあります。
(注)取引規模は小さくても、消費者にとって有効な価値を生めば
単なるコストではありません。

薬剤卸のメディセオと化粧品・トイレタリー用品・日用雑貨のパルタ
ックの統合は、こうした「縦割り流通が価格に含む、膨大な社会的コ
スト」を減らそうとするものでもあります。

■7.範囲の経済性

業種を超えた、大型ベンダーやメーカーの総合化によって、コストを
合理化し経済化することを、経済学では「範囲の経済性(Economy of
Scope)」と呼んでいます。

難しく言えば、<2つ以上の財の一定量を、別々に生産(本稿のケー
スでは発注〜受注〜納品)するより、まとめて同時に生産(発注〜受
注〜納品)するほうが低いコストになる>とき、「範囲の経済性」が
成立します。

羊毛の生産と羊肉の生産を別々に行うより、同じ一頭の羊から一緒に
生産したほうが、羊毛と肉の合計コストは安くなる。範囲の経済性の
原型がこの事例です。

「ヘルス&ビューティケア」という店舗の業態概念によって、医薬と
化粧品・トイレタリー用品は、いずれは経済原理で統合される宿命に
あります。(今回のケースは、世界初かもしれません)

メディセオとパルタックの経営統合は、背景にこうした意味を持って
いるように思えるのです。

ロマンチストでもあるパルタックの三木田社長が、いつかインタビュ
ーで言っていた、「うちの社員を大きな舞台で活躍させさたい。」と
いう願いが、範囲の経済性の概念と結びついて結実したものに思えま
す。

リーダーは「人やチームの成功を、自分の成功として喜べる人」であ
ることがプライマリーな条件でしょう。

▼価値提供へ向かって

次は「価値提供の卸売業」を解く必要があります。パルタックではこ
れを、新しい概念として「ストア・ソリューション」と呼んでいるよ
うです。

ソリューションは問題解決です。言い換えれば、店舗や病院が求めて
いる価値の提供となります。

メデイセオは、病院・医院・調剤薬局への薬剤卸で、
パルタックは店舗への化粧品・トイレタリー用品の卸で、
従来の卸の次元を超えた「価値提供の卸」を目指すことに向かうこと
が予測できます。

ホームページを読めば、それが分かるのです。

しかしこの「価値」は解くのが難しい。
次稿で、分かるように表現できるかどうか挑戦します。

加えて、GDPの増加率を超えて年9%で増えている医療費(36兆
円:GDPの7%)問題にも触れます。米国の医療費はなんと今20
0兆円(GDPの18%)です。財政赤字の大きな原因が、米国では
軍事費と医療費です。

【後記】
先日のゴルフで、9ホールのハーフでパー・プレー(2バーディ、2
ボギー)が出ました。驚愕です。残りのハーフのスコアは言わないこ
とにします。

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▼(1)有料版の最新号(3月号:4月号)の目次です。

<204号:M&Aの経済学>

1.「会社はだれのものか?」ということから
2.高まるドルリスクへ
3.高齢化による社会保障基金の巨大化がファンドを誕生させた
4.めまぐるしい
5.土地資本は、どうやってシフトしたか?
6.土地資本がファンド資本にシフトしたメカニズム
7.ミドルマンが運用するファンドマネー
8.ファンドの方法
9.ファンド資本主義
10.ライブドアの時価総額が高いうちに

<205号:M&Aの経済学(2)>

1.会社は株主のものではない
2.自己資本という誤り
3.活動結果をあらわす損益計算書
4.株の価値の増加は50万円だけではない
5.株主価値

<206号:株主資本主義と企業価値、株主価値の構造>

1.会社論への立論の骨子
2.株への態度
3.皆が、どこの会社でも「社員」にもなることができる
4.株主資本主義という米国イデオロギー
5.時事的な補注:82兆円
6.企業価値
7.利益への理解:粗利益、営業利益、経常利益、特別損益、税前利
益、純利益(税後利益)
8.PERによる企業価値評価
9.DCF(ディスカウント・キャッシュ・フロー)法

<207号:キャッシュ・フロー・ステートメントの構造>

1.振り返りつつ行う導入
2.インタンジブル・アセット(手触りのない資産)
3.M&A(合併・併合)はPBRの低い会社を対象に行う
4.市場経済と株主資本主義は一対のパラダイム(ものの見方)
5.評価方法(1) PER:Price Earning Ratio:株価収益率
6.評価方法(2) DCF:Discount Cash Flow:割引キャッシュフ
ロー
7.キャッシュ・フローは最も単純な会計
8.キャッシュフローは3種
9.MSCB(転換価格修正条項付きの転換社債)という特殊な方法

<208号:時事随想:利益への責任>

1.株価資本主義
2.株価資本主義におけるPBRの原理
3.将来の利益を現在化する
4.ビジネス・モデルという用語の発祥
5.土地の価値での収益還元法も同じ
6.インターネットの収穫逓増に乗るのは少数者
7.再生機構は何にコミットメントできるのか
8.政府マネーに巣食うモラルハザード
9.価格
10.自社の在庫管理のなさを、売れ筋・死に筋と言って商品に責任
   転嫁する誤り
11.アフォーダブル・プライスの意味
12.アフォーダブルプライスの障害は自社のコスト
13.ディスカウントは産業の使命
14.もっとも重要な指標は営業利益
15.責任と権限

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