冷戦後の新世界秩序を作ろうとしている人々がいる(1) (2)
This is my site Written by admin on 2005年2月1日 – 08:00

こんにちは、吉田繁治です。大晦日に2号分(仕事への省察(2)
(3))をお送りして以降、1月分の発行が遅れ申し訳なく存じていま
す。お変わりなくお過ごしでしょうか。

金曜日の東京で1月の新年会講演が終了しました。
2月4日から約1週間、ユーロ高のフランスです。
実力以上のユーロで高で、物価が高いはずです。

経済問題は、まず国際比較での物価の高さになって現れます。

※本号は2号分、A4で20ページです。
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<Vol.204:冷戦後の新世界秩序を作ろうとしている人々がいる(1)
(2)>

(1)
 1.時事感想
 2.大前提:君臨を目指す米国
 3.小前提:財政赤字・貿易赤字は怖くない!
 4.米国の経済力を保証する根底

(2)
 5.アジア諸国の外貨準備は米国のもの
 6.97年のアジア通貨危機
 7.米ドルを持つ戦略に転じる
 8.新ブレトンウッズ体制

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(3)号の予告

 9.軍事力による世界経済の支配
10.ファンドでの株の買収の、入り組んだ戦略
11.グローバル金融資本の戦略
12.一国経済学の弊害
13.日本は一体なにをしている
14.米国の政略

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■1.時事感想

巨大設備と管理組織のNHKが、揺れています。

【1.受信料制度】
根底によこたわる原因は、受信料(6478億円:04年)を強制す
る制度が、デジタル化&インターネット時代を迎え無理になってきた
ことです。

受信料の制度は、前時代のものです。古今東西、アンシャン・レジー
ムの旧勢力は、遅れた制度にすがりつき、あがく。

あらゆる分野で「前時代的だったもの」が、見る間に自壊する時期で
す。

ダイエー、西武、建設、流通、製造、金融、政治、政党、情報産業、
大学、学校、スポーツで巨大な転換期です。毎日、起こっていて、皆、
不感症でしょうか(笑)

問題が溢れるまでには時間(約5年)がある。オーバーフローしhた
瞬間に、決壊と叫喚、そして結局は失敗する善後策です。金融に象徴
されますね。

【2.情報はパーソナルニーズ】
NHKの凋落は、出れば歌手としてのブランド価値が下がる紅白歌合
戦が象徴しています。ブランドは提供側と受けとる側(ユーザー・コ
ミュニティ)の双方で作って行く。あの人が使えば価値がある。他の
人が使うなら価値が減るという特性ももつ。

戦後のTVはファミリーニーズでした。マスコミもファミリーニーズ
だった。シンボルが大晦日に家族で見ていた紅白歌合戦。

レコード大賞も役割を終えた。ニーズが個人化した音楽業界に、国民
的歌手はいない。大河ドラマも同じです。これらはファミリーニーズ
だった。

情報へのニーズはパーソナル化した。この流れにNHKや他の放送局
がついて行けていない。(注)消費財も同じです。

行き着くところは、例えばWOWOWのように視る人が受信料を払う
仕組みか、ペイ・パー・ビューです。ハードディスク・ビデオは、放
送とコマーシャル制度を根本から変えます。

【3.あがき】
放送官僚だったNHKは、受信料制度を守るため、ますます政治権力
にすり寄ります。権益を守る共同体化した組織では、会長のリーダシ
ップは、旧来の組織を守ることによって得られる。お役人に共通です。
顧客貢献の目標はない。

しかし技術が変わった。一時的な手段をとっても、今の業容と料金徴
収法では存続ができない。

収賄スキャンダル・海老沢会長の辞任・受信料支払い拒否の増加は、
「デジタル化という過程」での泡のような現象です。朝日新聞も他の
新聞も、出版も同じです。消費者ニーズを見誤った結果でしょう。

世界の放送、マスコミ、出版、音楽産業は今後「5年」で変わる。ブ
ロードバンドと光ファイバーで威力を発揮するインターネットが変化
を促す。

【4.共通現象:コスト構造の変革】
放送局・マスコミ・出版社は、設備と販売網をもつ総合産業から分極
化し「プロダクション」に変わって行きます。

米国ではすでにその動きと政府政策があります。

コンテンツ製作と販売の原価構成比で、90%近くを占めている販売
コストが小さくなる。コンテンツは少数の人が作っている。今後も少
数の人が作る。

1人のコンテンツ制作者に、8人から9人の企画・流通・販売者がつ
いています。マスコミは、均質な大衆を前提にした販売制度でした。

i-PODと音楽のデジタル化は、かつては6000億円だったCDの売上
を半分近くにまで減少させています。モノ(CD)の流通とコンテン
ツ(デジタル情報)が切り離されたからです。

モノとしてのビデオをレンタルするカルチャー・コンビエンス・クラ
ブのモデルも、もう終わった。

【5.旧メディア】
レコード、CD、ビデオはモノの販売でした。
出版も、印刷と加工した紙の販売業です。

情報とそれを付着させていた媒体(紙・プラスチック)の関係を切断
するのがインターネット(=デジタル化)です。

デジタルコンテンツの販売も、楽天のような「場の販売ビジネス」を
使うものに変化します。

楽天には、1万の店鋪(平均売上200万円)がある。それぞれはオ
ーナーが独立運営するプロダクションです。小規模であることと利益
率は無関係です。中小企業・大企業の区分の意味が変わった。

【6.規模の不利の時代】
大規模になることは利益を保証しない。逆にコストが高く滅びること
が多い。21世紀モデルです。問題は利益率であり、1人あたりの利
益と収入です。

【7.共通現象:中間管理職】
情報産業では他にさきがけ「規模」を必要としなくなった。

組織の規模が大きくなると「膨大な人数の、年収700万円〜120
0万円の中間管理職」が増える。規模はコストです。

【8.共通現象:(重要)サラリーマンの時代が終わった】
中間管理職(いわゆるサラリーマン:年収500万円〜700万円)
の分厚い階層がなくなって、
・タレント的な開発技術者(年収数千万円以上)、
・契約的な現場職(同300万円)と、
・利益責任をもつマネジャー(同1000万円〜2000万円) 
 に分解して行きます。

NHKは中間管理職だらけの組織です。ミドルマネジメントは、至る
所、受難の時代を迎えます。

国と地方および周辺機関で40万人の官僚組織も同じです。年100
0万円(合計40兆円)の平均人件費は、国税の総額に匹敵します。
この維持も、ムリです。

NHK問題に限らず、報じられる現象ではなく、ものごとの基底を観
ていなければなりません。

元になっていることは何か?という視点です。

▼テーマ

テーマは<冷戦後の新世界秩序を作ろうとしている人々がいる>です。

二選されたブッシュ政権とそれを支える企業グループです。ネオコン
だけではない。ネオコンもその一派(新興シンクタンク)です。

05年の最初の号でもあります。基底から考えれば、事件や政治現象
の意味、政策の当否がわかります。金融も経済も、深く関係します。
数学的な論理を使い、骨太に描きます。

■2.大前提:君臨を目指す米国

▼情緒的な世界観

われわれは「世界秩序」について考えることは、ほとんどない。日本
は周辺国です。世界の秩序は、大きな自然のように「与えられたもの」
とされてきた。世界を考えても「仕方がない」・・・

万葉以来の世界観。自然を詠嘆する短歌の、個人的・情緒的世界に生
きてきた。茶室的な世界観と言ってもいい。

方丈記、吉田兼好、本居宣長、俳句でもあった。論理ではなく、情緒
・情感だった。論理の叙事詩ではなく、私的な感想の小説(ロマン)
だった。日本のリーダーは情感で人を率いる。

▼ロジカルで散文的な世界観

アメリカの当局は、今を「冷戦後の新秩序を、米国の軍事・金融・文
化の主導で作る時期」と考えています。アメリカは状況を作る。状況
を自然とは考えない。

叙事詩的な、論理と個人中心の世界観です。そのため、日本人と同じ
現象をみても、対応や戦略が異なる。

軍事がハードパワー、文化・金融・経済がソフトパワーです。

▼冷戦時代

冷戦時代は、世界が3つに分かれていた。

第一世界:資本主義イデオロギーと市場経済
第二世界:共産主義イデオロギーと統制経済
第三世界:低開発国

80年代末に、ソ連の体制が崩壊した。恐怖の均衡を保っていた一方
の極が壊走した。パワーバランスが冷戦の秩序と国家序列を作ってい
た。核大国の米国とソ連には逆らえなかった。

国家間秩序と国際政治は、軍事が決める。

しかし日本人は、軍事を抜いて、空想的、情緒的に善意の世界を見て
いた。

だから米国や他国が考える国際戦略が分からなくなる。
北朝鮮、台湾、中国すら分からない。

共産主義イデオロギーが消えた「冷戦後」は、どういった世界秩序を、
だれが作るのか? 

意図をもつ人々が戦略を使う叙事詩、あるいはロジカルな散文で見な
ければならない。意図をもった人々がいるからです。

(1)ユーロは、米ドルの支配を脱するため、経済・通貨統合を行っ
ている。ソ連の周辺国の多くがユーロ通貨圏に取りこまれつつある。
米国に匹敵し、超える経済規模の地域国家に向かいつつある。

(2)13億人の中国は、トウ小平が提唱した一国二制度で、まず経
済特区に外資と技術を呼び込み、2020年には米国を超える経済大
国を目指す。中国は資本、技術を輸入し、安い人件費と組み合わせて、
世界の価格体系を変更しつつあります。

(3)10億人のインドも経済成長を目指す。

(4)エネルギーの宝庫アラブでは、部族間と宗派間の紛争が絶えな
い。経済主義ではない、中世的価値観の世界です。

(5)プーチンのロシアは、再び統制国家に逆戻りしつつある。

(6)核兵器所有国は、国連常任理事国、米・英・仏・中国・ソ連か
ら分散しつつある。テロは続発する。

米国当局は冷戦後に「軍事で君臨する国家、経済でも世界を支配する
米国」作りを目指している。これが最初の仮説、大前提です。

経済では、単に、企業間競争に勝つという次元だけではない。通貨・
金融と、経済制度に係わるインフラの地層で、世界支配を目指すのが
米国です。企業間競争だけで経済を見る日本人には、米国の戦略はわ
かりにくい。

さきがけは92年のネオコン(主な起草者:ウォルフォウィッツ国防
副長官)の主張だった。ブッシュ大統領が二選されたことで、当局の
主流の政策に代わった。

▼認識の誤り

われわれが、米国の考えとして接するのは、NYタイムスなどを代表
とするリベラリズムです。解任されたパウエル前国務長官風のものだ
といって言っていい。これが日本人の好みです。

日本の主流マスコミは、リベラリズムに傾斜した主張に共感し報じる。

冷戦後の米国一極の世界支配はとんでもない。そのため、保守派の主
張やイラク戦争を含む事件を精査せず、「願望」で世界を見る。

そして予測を誤る。思い入れで見れば、赤の事実も青であるべきだと
なるからです。日本人の世界観は、情感的です。

米国政府の、保守派の主張は、単純であるために逆に分かりにくい。
皆がブッシュ非難の観点から見てしまうからです。

ブッシュ政権の政策に賛同しない人は、米国で49%、米国外で70
%でしょう。批判には、相手を正当に見ることが必要ですが、それが
行われていない。

『日本人が知らないアメリカ一人勝ち戦略』(日高義樹:04.12)に、
米国当局の主張がほぼ正確に描かれています。それを素材にします。
取り上げ方と解釈に、私の個性が表れるでしょう。

■3.仮説:冷戦後の新世界秩序に、君臨を目指す米国

まずこれを認めましょう。少なくとも今から4年の世界は、この仮説
から解けば、陰謀も含め、よく分かる現象が多発するからです。予言
ではない。確定した未来です。世界史では陰謀はつきものです。

▼赤字国が基軸通貨国

経済面では、貿易(経常収支の赤字50兆円)と財政の赤字(60兆
円)の合計で年110兆円の資金流入を必要とする米国経済と、ドル
基軸体制はどう向かうか。

世界のGDPの成長は、米国の赤字(=過剰消費)によってまかなわ
れています。米国は紙幣と債券(=借用証)を、年110兆円分、増
発する。輸出超過国の日本や中国はそれを受け取る。

【近未来】
こうしたドル基軸は、いつ終わるのか?基軸通貨体制を含む、大規模
な世界経済の再編成が近々起こるのか? そうではないのか? 米ド
ル一極で行くのか?

【変容】
わが国の輸出企業の大手は、トヨタを筆頭に国内生産(3.7兆円)
が海外生産(3.0兆円)と50:50、あるいはそれ以上になって
います。顧客の半分以上は海外です。

日産・ホンダ・三菱では、海外生産のほうが多くなっている。
日本の会社と、どこから言えるのか?

企業では世界市場がリンクした。
米国一極はどんな意味と効果をもつのか?
米国一極が、そもそも、実際に可能なのか?

米国は、凋落に向かっているのか?
米国は、世界に君臨するのか?

国語を使い日常用語で書きます。
概念的なことは、煩雑にならない範囲で、解説を加えます。

いわば、米国当局との仮想対論。

■4.小前提:財政赤字・貿易赤字は怖くない!

当局の主張で驚くのは、「米国の財政赤字・貿易赤字はなんら怖くな
い」としていることです。理由はなにか?

当局とは米国政府の主流派と解してください。

米国政府内にも、(1)反主流派、(2)遊撃戦的にカモフラージュ
する主張をすることが機能の中堅官僚、政治家、学者がいます。

通ぶって傍流の主張を取り上げると、判断を誤ってしまいます。米国
は実に多様な論説の国です。

▼貿易構造と資金供与

米国の貿易赤字は5000億ドル、政府財政の赤字は6000億ドル
規模です。1ドル100円換算で、年110兆円にもなる。

赤字の110兆円は、
・貿易黒字国(主は香港台湾を含む中華圏、東南アジア、日本)の
 民間からの米国債券買いか、
・中央銀行や政府からの米国債や債券買いで埋めねばならない。

債券買いは資金供与です。例えば定期預金証書は、金融機関への貸付
証でもある。

ドル紙幣やドル債券をもつことは、米国人、米国企業、米政府への貸
付と同じです。自分の金融資産と誤解し、この、貸付の認識がない人
が多い。財布の中の100ドルは、あなたが貸し付けたことを示す証
書です。

金融(ファイナンス)の原理を理解しないと、米国の戦略は見えなく
なる。金融資産とは他人への貸付です。その貸付が運用され生まれた
利益が金利や配当です。通貨も債券の一種です。

【輸出国の企業は・・・】
世界の輸出国は、米国(GDP1100兆円)という「過剰消費国」
を必要とします。過剰消費とは、世帯の借金の増加による消費です。
個人消費額は700兆円を超えます。

輸出工場の生産は、販売先(顧客)としての米国の過剰消費市場に向
かっている。

米国が輸入制限をすれば、世界経済は一夜で大不況に陥ります。中華
圏、韓国、アジア、そして日本は、一挙に経済成長がゼロになる。米
国貿易の黒字化は、世界を大不況に堕(お)とす。

米国の当局は、米国の貿易赤字が世界経済の機関車だと言う。

代金はドルで支払われる。ドルは大量発行によって、円やユーロに対
し趨勢的に減価する。いつまで続くことができるのか?です。

米国当局は「まるで問題ない」と言う。根拠は?

<貿易赤字が増えたらドルを刷って渡せばいいだけのことだ。そのド
ルに見合うだけの経済力を米国が持っていればいい。(エバンズ商務
長官)>

これが米国当局の、根底の主張です。
鍵は「米国の経済力」です。
これ以外に、何もない。

自分には借金に見合う経済力がある。
いくら借金しても大丈夫ということと等しい。

この論理に共感できるかどうか、ここが、世界経済論での分岐点です
。突き詰めれば単純です。ブッシュ政権は、要素を複雑には考えない
。これが特徴です。ネオコンを含めた彼らの認識方法と言っていい。

(注)日本の財務省の主張も同じです。「国家の信用は無限大である
。国債発行が多額でも問題がない。」

■3.米国の経済力を保証する根底

<日本をはじめ、世界の人々は、アメリカと貿易を続けて、その代金
としてドルを受け取っているが、そのドルを投資する先がアメリカし
かなくなっている。中国に投資する人もいるが、安全性を考えれば、
アメリカがもっともよい投資先だ。(デュスターバーグ元商務次官補)>

次に検討すべきは、これです。米国の「経済力」とは、年110兆円
の金融投資を、新たに受け入れ、累積投資額に対し配当と金利を払う
能力です。

払えなくなったとき、ドル下落が起こる。

▼投資

投資には、
・不動産や会社(株)を所有する直接投資、
・国債や社債を買う間接投資、
・貸付をする融資がある。

米国以外には、安心して何兆円も投資できるところはないではないか。
だから、世界の人や企業は、受けとった米ドルを米国に投資する。

そうした資金環流の構造があるから、米国の赤字は問題ではないとい
うのが当局の主張です。

世界経済(GDP約4500兆円)で、米国経済(1100兆円)は
25%を占めます。GDPの成長力だけは高い。

【(注)GDP】
GDPは個人消費、住宅建設、企業の投資、政府消費、政府の公共投
資の合計に、輸出入の黒字を足したもの(あるいは赤字を引いたもの)
です。付加価値の総額と言っても同じです。
http://www.nikkei4946.com/today/basic/46.html

▼比較

(1)日本はGDPでは第2位で、世界の10%強です。

・急速な高齢化と07年からの人口減がある。
・福祉、年金負担がどんどん大きくなる。
・高くなる税金と医療費で成長力は低くなる。

金融には、政府介入があり市場経済ではない。海外からの投資の妙味
が少ない。

(2)中国は7%〜9%の成長力ではあるが、GDPは1兆4000
億ドル(140兆円:世界経済の3%強)と小さい。

共産党独裁が、いつか崩れるカントリーリスクが高い。
過去の契約や政府が絡んだ投資は、いずれ水泡に帰す。

近代的な法治経済ではない。経済数字、企業会計の中身が信用できな
い。支配階級である官僚の腐敗が激しい。

小さな金額の資金流入で、不動産バブルを起こすような、底の浅い脆
弱な経済である。上海の一部は、東京の不動産より高くなっている。
正常な投資マネーは、バブルの匂いからは逃げます。

(3)西欧は、高すぎる福祉費用の老大国。経済成長力は弱い。ユー
ロ高は、生産性の高さではなく物価の高さを意味している。

財政赤字をGDPの3%以内に保つという金融規律だけで、ユーロ高
(ドル売りユーロ買い)を招いているにすぎない。各国の単独での経
済力は弱い。

(4)中国を除くBRICs、ブラジル(GDP50兆円)、ロシア
(44兆円)、インド(60兆円)はいかにも小さい。金融市場や会
計制度の発達がなく、非近代性があって投資には難渋をきたす。

全部を比較消去すれば、長期的な、本当の投資先は米国しかないので
はないか?という主張です。

・米国に輸出し、
・ドルを受け取って、
・そのドルで米国に投資し投資利益を得る。

・輸出による営業利益と、
・投資による金融利益の両方を得ることができる。

これが米国だということでしょう。

▼根底

米国にとって、貿易赤字と財政赤字が怖くないのは、他には年110
兆円もの投資を受け入れて配当を払える経済がなく、世界が米国に投
資を続けるからである。

・海外からの投資資金を使って、
・米国企業は最新の設備投資をし、
・生産性を高め利益を出し、
・高い配当を払う。

配当を受け取るのは投資国である。

こんなにいい投資先はないではないかということでしょう。
確かに90年代以降は、事実は、当局の言う通りでした。

■4.アジア諸国の外貨準備は米国のもの

各国政府が、民間から買って保有する外貨(通貨、債券)である「外
貨準備」の数字がそれを実証します。

新興輸出国であるアジアは、米ドルを、自国通貨より強く信用した。
自国通貨が世界に通用しないからです。

輸出は、相手国を信用するということでもある。例えば北朝鮮には、
輸出保証がないかぎりどの会社も輸出しない。

▼問題

グローバル経済では、グローバルな中立的通貨(ワールド・ドル)が
必要です。しかしワールド・ドルはない。米ドルで代用した。

米国は、世界の貿易額が増えれば増えるほど、赤字を出しても問題が
なくなった。輸出国が、増加する輸出のために米ドルを必要としたか
らです。

金融で米国FRBの属国であるのは、日本だけではないことに注目す
べきです。以下の事実を見てください。

03年度は、日本の財務省が、36兆円もの米国債券買いを行った。
これはそっくりイラク戦費だった。しかし、これは日本政府だけでは
ない。アジア諸国に共通です。ドルはアジアの政府が支えたと言って
いい。

▼アジアの外貨準備:ほぼドル預金やドル債券

      1996年   2004年9月末
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
日本    $2166億   $8208億
中国     1070     5190
韓国      340     1744
台湾      880     2330
タイ      377      437
インドネシア  183      350
マレーシア   270      565
フィリピン   100      125
シンガポール  768     1010
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
      $6454億  $19959億

9ヶ国の外貨準備は1996年(アジア通貨危機の1年前)に645
4億ドル(65兆円)でした。

現在は$1兆9959億(200兆円)です。135兆円も増え3倍
になっています。ドルは強く信用されてきた。各国の外貨準備の急増
がそれを示す。

米国が強いたのではない。各国政府が米ドルを必要とした。
いやいやながら、ドル手持ちを増やしたのではない。

ドルがなければ、1997年のような「アジア通貨危機」が起こって、
経済崩壊の地獄を見ると懸念したからです。

アジアを含む世界の外貨準備は、$3兆8000億(04年5月:約40
0兆円)とアジアの2倍です。4年間で、66%(260兆円)増え
ています。その分、米ドルへの通貨需要が増えたと言えます。

米国の赤字は、世界の米ドル保有、ドルニーズによって埋められてき
た。苦い記憶があった。

■5.97年のアジア通貨危機

1997年、タイバーツがヘッジファンドから売り浴びせられた。バ
ーツは急落した。

タイ国中央銀行と政府は、手持ちのわずか米ドルを売って、バーツを
買った。あえなくヘッジファンドの大量のバーツ売りに負けた。

・バーツは下落し、
・金融危機が起こって、
・タイ経済は一週間で奈落に沈んだ。

タイにとって1ドルの負債がバーツ下落で2倍の重みになった。通貨
下落の恐さです。タイ企業と政府は米ドルの短期資金を借りていた。
長期資金が調達できなかったからです。

バーツ危機は、一瞬で日本と中国を除く、財務の弱い東南アジアに波
及した。日本と中国は多額に米ドルを持っていて対抗売りができる。
数兆円のヘッジファンドなら負ける。

経済危機に陥った韓国には、IMF(国際通貨基金)が駐留した。金
融と経済の改革、財閥の解体を含む、大規模な企業リストラが始まっ
た。結果は、ファンドによる買収(米ドルの資金提供)の受け入れだ
った。

米国の金融奥の院が支配するIMFは、正義の味方として、韓国の財
閥系企業に、米系ファンドの資金を誘導した。

経営は韓国人、大株主は米系ファンドという構図になった。
時価総額で、ソニー・松下を超えたサムスンも、です。

ハゲタカファンドのリップルウッドによる長銀買収と同じです。

東南アジア通貨は、米ドルに比べ安くなった。各国は急速に輸出力を
回復した。しかし、資本ではファンドからの買収を受けていた。米国
系の金融資本に陥落していた。

■6.米ドルを持つ戦略に転じる

これに懲りた東南アジア諸国、韓国、中国は、米ドルを大量にもって
いるため強い通貨の国、日本にならって、米ドル(外貨準備)を積み
上げることにした。

ヘッジファンドからの通貨売り(空売り手法)に備えるためです。

先の表の外貨準備は、各国政府(財務省)の手持ち分だけです。それ
だけでも200兆円もの資金提供が、アジアから米国政府・米国企業
・金融機関に対し行われている。

これこそが、「金融力を含む米国経済の強さ」を示す証拠ではないか
と、米国当局は言う。

借金を増やすことができているのは、他国が貸すからである。米国経
済の強さを保証するものだということです。

各国政府は、
・信用の根幹として、
・自国通貨の信用の裏付け(担保)として、
・米ドルと債券を持っている。

これが米国経済の信用力を示す。以下の図式です。

【 米国FRBの信用力>各国中央銀行の合計信用力 】

円、元、バーツ、ウォンより、米ドルが世界からの信用があるという
ことです。

中国元は、多額に持てば怖い。日本円は、政府がとんでもなく赤字で
す。国債の累積額で世界最高になっている。バーツは、あなたがもっ
たら、すぐドルに換えるでしょう。流通性がないからです。

■7.新ブレトンウッズ体制

アジアにはまだ金融市場の発達がない。

各国は貿易黒字分を米国へ預け、米国ファンドを経由して、アジア投
資が行われる。

このメカニズムを分かりやすく示します。

▼金融資産の性格

ドル紙幣やドル債券をもつことは、米国に資金提供しているのと同じ
です。紙幣と債券は、借用証であることが本質だからです。

財布の1万円札は、あなたの金融資産です。
しかしこれは、あなたからの日銀への貸付でもある。
円紙幣(70兆円)は、日銀の負債です。

分かりやすく言えば、
・あなたの金融資産である銀行預金や郵貯の100万円は、
・銀行と郵便局への資金提供、つまり貸付です。

使うのは(運用するのは)銀行や郵便局です。

▼Key Currency

米ドルは、世界の通貨中の通貨、つまり世界の皆が受け取る「基軸通
貨(key currency)」です。

米ドルが他の通貨の媒介(仲介)になっています。
米ドルは世界貿易とグローバル金融の増加量に応じ、必要量が増す。

「米国のもっとも重要な輸出商品」がドルです。この認識をもってい
ると世界経済が見えてくる。

世界経済の拡大には、世界通貨の増発が必要です。

FRBがドルを印刷するだけでいい。政府は米国債を刷るだけでいい。
あたかも日銀のように、通貨発行権を独占する金融資本国が米国です。

グローバリズムが、米ドル需要を増やした。やはりこれは、今はまだ、
日本円、中国元、そしてユーロとは同列には論じられない通貨です。

これが意図されたことなら、すごい戦略家が奥の院にいることになる。

「新ブレトンウッズ体制」だと言う人もいる。(ドイチェバンクのエ
コノミスト:ドゥリー、フォルカーツ・ランダウ、ガーバー↓『The
Revised Bretton Woods System』2004.3)
http://www.nber.org/papers/w9971

ブレトンウッズ体制とは、第二次世界大戦後に、米ドルを金兌換通貨
と決め、世界が信用する貿易通貨(機軸通貨)にした制度です。

一級の知性をもつケインズが提唱し、自由世界の44ヶ国が応じた。
http://www.findai.com/yogo/0307.htm

しかし問題は、借金が増え続ければ、さすがの米ドルも信用が低下し、
ドル切り下げに向かうのでないかという懸念です。

基軸通貨に対する本質的な考察は、意外に少ない。

グローバル経済が、真に新しい現象だからです。

計算では、20%のドル安が必要とされています。
つまり円に対し80円です。

米当局は、どう答えるか?

ここからが、米国一極支配の、軍事戦略になる。

今はもう、G7は、ほとんど機能を果たしていない。
90年代に、通貨マフィアと言われたものもいつの間にか消えた。

イラク戦争の破綻は至る所で言われる。米国の敗戦だとも言われる。
果たしてそうか? リベラリズムのレンズで目を曇らせてはいけない。

過去の戦争のような敗戦や終戦、あるいは勝戦があるのか?
今の戦争は、領土獲得戦争ではない。

世界通貨で「新ブレントンウッズ体制」ができているという認識は重
要です。米国は、この体制の維持のために、あらゆる戦略を、総合し
実行せねばならない。

以下、次号で。

【後記】
本号は、米国当局の主張をたどり、その根拠を求め、今後の矛盾がど
こに生じるかを検証します。

フランスでは、生牡蠣にあたるかもしれません。ワインと牡蠣の組み
合わせは最高です。とりわけ好きなものですから。

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    <194号:ドラッカーとの対論(1)>

【目次】
 
 1.ドラッカーの立論の背景
 2.最初の検討
 3.実行と方法
 4.整備された環境のほうが仕事ができるか?
 5.大きな組織で歯車として働いたほうが仕事ができるか
 6.小さな組織で大物として働くほうが仕事ができるか。
 7.仕事に意味を加える

    <195号:ドラッカーとの対論(2)>

【目次】

 1.貢献から
 2.貢献と対極に思える「自己利益」から
 3.自己利益と貢献の矛盾をむすぶ通底器がある
4.再び貢献
5.内部市場の報酬と外部市場の商品価格
6.時代変化
 7.高付加価値商品のタイム・ドメイン社
 8.日本工業の高付加価値への希望
 9.原価率26%:粗利益率(付加価値率)74%
 10.希望

     <196号:ドラッカーとの対論(3)>

【目次】

 1.部門経営の研修
 2.部門経営の方法
 3.成果の定義
 4.責任があるから権限がある:逆ではない
 5.原価低減のコストダウンはエンパワーメントの階段作り
 6.業績停滞や低下の会社の共通特性
 7.方法:原点や基本に戻ることではない

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