完結編:仕事ができる人の習慣
This is my site Written by admin on 2006年1月6日 – 08:00

新しい年を迎えました。あけまして、おめでとうございます。

日本列島は、雪です。温かい地域に住む私には、まれに降る雪は、
ロマンティックなイメージがあります。しかし、北海道で雪に遭(
あ)えば、自然の暴力と人力を超えたパワーを感じます。昨年来、
ことのほか寒い日が続きますが、いかがお過ごしでしょうか。

新年の第1号として、6回にわたってお送りした<仕事ができる人
の習慣>シリーズの完結編をお届けします。

テーマは、新年らしく、有効な意思決定の方法です。何かの決定に
悩んでいる人は、本稿を参考にしてください。経営者だけではない。
すべての人の、意思決定の際に役にたつはずです。

意思決定は、エグゼクティブの任務(ミッション)のうち、もっと
も重要なものです。時間を使えば、有効な意思決定ができるという
わけではない。能率的な仕事の方法はある。しかし効率的な意思決
定の方法はない。

そもそも、意思決定において「方法」といえるものがあるのか? 
ドラッカーの面白さは、こういったところにまで、解答を探そうと
試みることです。

その解答を[1.姿勢]→[2.方法]→[3.実行]→[4.成
果]にまとめ、公式にして言えば、以下のようになります。

【原則1.姿勢】
<個々の問題としてではなく、戦略的に、一般論的な問題として考
えなければならない。>

問題は個別に現れます。しかし原因には共通性があることが多い。
共通な原因を見つけ、解決策を決めることを、ドラッカーは「戦略
的(strategic)」な意思決定と呼んでいます。

有効な意思決定は、起こった問題への対処ではなく、共通原因への
対策です。(注)システマティックな対策と言うこともできます。
システムとは、問題解決という目的をもった仕組みです。

【原則2.方法】
<一般原則に基づいて(戦略的に)意思決定を行うべきものと、個
々の異なる事情に基づいて(個別に)意思決定すべきものを分けな
ければならない。>

個別に対処すべき「特殊問題」と、体系的でシステマッティクな解
決法をとるべき「一般問題」の仕分けです。問題の解析力がここで
試されます。

一般(general)とは、共通性があって、他の多くのことに通じると
いう意味です。特殊とは、個別的・例外的なことです。何が特殊で、
何が一般的かということの判断は、知識によるしかありません。

【原則3.実行】
<意思決定のプロセスにおいてもっとも時間をとるのは、意思決定
そのものではなく、意思決定の実行である。意思決定は、(現場の)
仕事のレベルに下ろさないかぎり、意思決定とは言えず、「よき
意図(またはアイデア)」に過ぎない。>

意思決定は、現場での実行(plan-Do-Check1のマネジメント)にまで、
コミット(関与)しなければならないということです。

決定だけでは、実行されない。実行されても、意思決定者の意図と
は、異なることになる。

【原則4.成果】
<成果をあげる意思決定には、概念的で高度な理解が必要である。
しかし実行のための行動は、可能なかぎり単純なものでなくてはな
らない。現場が、実行できなければならない。>

現場の仕事は、普通の人が実行できるように、単純にして手順化を
図らねばならない。

本稿は、以上でまとめた意思決定における[1.姿勢]→[2.方
法]→[3.実行]→[4.成果]について述べます。

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<223号:完結編:仕事ができる人の習慣>

意思決定の方法

【目次】

1.一般的な問題か、個別の対処で済むことか?
2.個別問題は一般問題である
3.ハインリッヒの法則:再掲
4.意思決定が有効である前提条件を明確にすること
5.成果をあげる意思決定
6.決定の場面では意見の不一致が必要である3つの理由
7.葛藤を乗り越える

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■1.一般的な問題か、個別の対処で済むことか?

経営と仕事では、問題は、その都度、様相を変え繰り返し起こりま
す。過半の時間は、個別問題への対処に追われていると言っていい。

方法は2つです。

(1)個別の特殊な問題として、別々に対応法を考え、処理する。
(2)問題の現れ方は違うが、原因に共通性があると見て、方針と
原則、そして標準手順に係わるものとして対処する。

▼対処と意思決定

(1)の個別対処は、生産性と成果が低く、
(2)の原因対策は、最初は時間がかかっても、生産性と成果が高
い方法です。

在庫過剰やその逆の欠品(=現象)は、多くの商品において、異な
る部門や事業所で繰り返し、形を変えて現れます。

その都度の在庫対策は、起こった問題への対処です。
これは、処理ではあっても「意思決定」ではない。

現場担当としては、起こった個別問題にその都度対処をし、問題の
解決をすれば仕事をしたことになるでしょう。こうした、対処の意
思決定は簡単です。「対処は行わねばならない」からです。

エグゼクティブ(または知識作業者)は、こうした個別対処とは次
元が違う視点をもつ必要があります。

在庫過剰や欠品にたいし、在庫管理と発注の手順において原因対策
を立てないかぎり、問題は起こり続けます。

原因対策がなければ現場の労働(=コスト)は、起こった問題の対
処に費やされます。

起こった現象としての問題は個別的です。
しかし、原因には共通性があることが多い。

<問題を(正当に)分析すれば、問題の大部分は、より根本的な状
況が表面化した「兆候」に過ぎないことが明らかになる>

兆候は、例えれば痛みです。鎮痛剤を飲むという対症療法では、原
因は解決しません。しかし人体は治癒力がありますから、鎮痛剤で
一時の痛みを和らげれば、時間の経過で、治ることもあります。

しかし会社の仕事では「自然に問題がなくなる」ということは、決
してない。その都度の対症療法を行っても、原因が解決されていな
い限り問題は、次々に起こってしまいます。

在庫問題への個別対処は、原因療法でなければならない。
品質、クレーム、事故の個別処理も同じです。

一生懸命に仕事をする、あるいは起こった問題に対応するという次
元と異なるのが、共通原因に遡って解決するための意思決定です。

これが、現場作業を組み立てることはしても、直接には行わないエ
グゼクティブやスタッフの任務(ミッション)です。

■2.個別問題は一般問題である

個々の企業にとっては幾度もは起こらない個別の(uniqueな)問題
でありながら、多くの企業にとっては一般的な(general)問題であ
るということがあります。

たとえば「企業合併」は、会社にとっては幾度もない事象です。し
かしこの企業合併は、多くの企業という視点からみれば、いつもど
こかで起こり、これからも多く起こる一般問題です。(今年はM&
Aの年になります)

特殊問題・・A社とB社の合併 →[個々に異なる事情がある]
  ↓       ↓         ↓
一般問題・・抽象化された合併 →[一般原則がある]

A社とB社のエグゼクティブが、特殊な個別問題である自社の合併
の決定をする際、知っておかねばならないのが、成功する合併の「
一般原則」です。

一般原則は、多くの事例における成功と失敗の経験から導かれた「
知識」として得られます。

「一般原則は、経験を集約し、原則にした知識として得られる」

集約とは、共通要素を整理することです。たとえば本稿のような論
述は、特殊問題としてではなく、一般原則を述べています。

▼真に個別の問題は、稀(まれ)である

<実際には、真に特殊な問題であるということは極めて少ない。特
殊に見える問題に出会っても、「これは真に例外的か?」、それと
も「まだわからない新しい何かの兆候か?」と問わねばならない>

大切な分岐点はここです。わが社にとって、特殊で例外的なことに
思えても、他社の事例を見れば、一般的(general)な視点が得られ
るのです。

仕事ができる人の習慣、または持続的に成功する企業は、特殊に思
える問題に対し、これは、繰り返し形を変えて起こっている一般的
な問題であるはずだという取り組みの姿勢をもち、解決のための「
原則」を探します。原則とは原理です。

重要な視点は、個別問題にも共通原因があるはずだと決めることで
す。

そこから、原則を探す行動が生まれます。
必要なことは、原理的な思考をする習慣です。

物事を別個の問題として処理すれば、問題の数だけ時間(=コスト)
がかさみます。

<(二度と起こらない)真に特殊な問題を除けば、他のあらゆる問
題は、一般的な(原則による)解決を必要とする。すなわち、原則、
方針、政策による解決を必要とする。>

原則、方針、政策による解決は、個別問題への対処とどう違うのか?

<一度、正しい方針を得るならば、おなじ状況から発する問題は、
すべて実務的に(現場の意思決定で)処理ができる。すなわち、問
題の具体的な状況に応じ、原則を適用(apply)できる>

これが問題の解決(solution)です。

問題解決は、消火へ駆けつけることだけでない。消火は「個別的に
すぐ必要」です。

その個別処理とは異なり、火災が起こる兆候を見つけ、その原因を
つぶすのが、原則による解決です。

▼誤り

<圧倒的に多く見られる間違いは、(本当は一般的な問題であるの
に)特殊な問題の連続としてみてしまうことである。すなわち、一
般的な状況としての理解を欠き、従って、問題を対処するのに原則
を欠き、個別対応で処理をしてしまうことである。この結果は、失
敗と不毛である>

こうした誤りを避けるには、起こった特殊な問題には、一般的な共
通原因があるはずだと決め、その原因を探すことを習慣とすること
です。この思考を、自分に課す義務とせねばならない。

■3.ハインリッヒの法則:再掲

JR西日本の宝塚線(福知山線)で起こった悲惨な脱線事故に際し、
昨年の4月に書いたことを、再掲します。ハインリッヒの法則は、
起こった特殊な問題には、共通の根(一般原因)があることを教
えてくれます。

今、多くの会社で、会社の体質や企業文化に起因する問題が頻発し
ています。その際の、多くの企業の言い訳は、個人に起因する特殊
問題だったということです。しかし、それは、釈明する本人も言い
訳だと認識しているはずです。

昨年来、証券で起こっている「発注ミス」も、最初言われた、個人
の問題ではなかった。コンピュータシステムの欠陥でしたね。情報
システムに依存する仕事が増えています。ミスは、ますます共通原
因をもつように変わっているのです。

▼ハインリッヒの法則(1:29:300)で起こった事実を見る

「1件の重大事故(ミス・災害・製品不良・サービス不良・クレー
ム)の裏には、29件の軽度の事故があり、その裏には300件の、
当事者だけは知っているひやっとしたことが起こっている。」こ
とが、ハインリッヒの法則として明らかになっています。

1:29:300の確率論的な法則です。(ハインリッヒは労働災
害の事例を、科学的に研究した米国の技師です。)

http://www.mitsue.co.jp/case/marketing/03.html

この法則は、保険、医療事故、顧客クレームにも応用展開されてい
ます。

たとえば自動車保険では、ある人が一件の重大な交通事故を起こす
裏には、29件の軽度の事故があり、300件の事故寸前のひやっ
とした状況があったはずだということを前提にしています。火災で
も、医療事故も、会社での問題も同じでしょう。

表面化する重大事故 =  1件
軽度の事故     = 29件
ひやっとしたこと  =300件

重大事故にはならなかった329件は、放置されれば、確率的な必
然で、次の事故を生みます。

小さなことを放置すれば「事故は必然」であると認識しておかねば
なりません。

1:29:300は事例によって異なるかもしれません。

1:10:100かもしれない。重要なことは、起こった問題に共
通原因を探し、原則による解決を図るという姿勢です。

▼顧客クレームもおなじ

顧客クレームでは、「1件の現れたクレーム」の裏に、29件の軽
度の顧客クレームがある。加えて、300件の「顧客の不満になり
そうなこと」が発生していると見なければならない。クレームがあ
っても、言わない顧客が圧倒的に多いからです。ただ、静かに去る。

これを知っていれば、現れた顧客クレームの原因対策はおろそかに
はできないはずです。これが、原則についての知識の効果です。

【常識】
「現れたことは氷山の一角」という常識を、数理的に根拠付けたの
が、ハインリッヒです。この法則は、あらゆる場面で思い出す価値
があります。ビジネスに重要な、しかも思考に有効な方法です。

▼共通原因

問題や異常なこと、あるいは事故は、何の脈絡もなく起こるように
見えますが、実はそうではない。

突然に見えるのは、原因と結果の関係についての思考を欠いている
ためです。なぜ原因思考を欠くのか? 

「原則による解決を考える習慣」がないからです。起こったことを
個別に考えてしまうからです。そして、方針や原則の問題として考
えるのは、自分の任ではないとしてしまう。

あるいは、次に起こった別の問題の対処に追われ、Busy(忙し
い)になってしまう。Busyとは、他のJobを受け付けないコ
ンピュータの状態です。

エグゼクティブの任務は、起こった個別的な問題に一般原因を探す
ことです。そして、原因対策を立てることです。

<成果をあげるエグゼクティブは、原則や方針によって一般的な状
況を解決していく。そのために彼は、ほとんどの問題を、単なるケ
ースのひとつとして、すなわち原則の適用ができる問題として解決
していくことができる>

目指さねばならないのは、「外見では特殊に見える問題に、共通の
原因を探し、一般原則を使って、問題を解決する」ことです。こら
がソリューションです。

<法律が多い国は、無能な国である>

個別に解決しようとすれば、法律や規則が増えます。

同様に<マニュアルが膨大に必要な組織は、無能な組織である>

マニュアルが、起こった個別問題のそれぞれへの対処方法しか示し
ていないからです。

以上、判断と意思決定の方法について述べました。

特殊で個別的な問題はほとんどない。他の問題とも共通原因がある
はずだとう仮定で、原因の解析を行い、原則による意思決定を行う
ことです。

必要な姿勢は「共通原因が浮かぶまで、情報を集め、問題を分析す
ること」です。エグゼクティブには、科学的な姿勢が必要です。

外見が異なる現象に、共通の原因と法則を探すことです。

■4.意思決定が有効である前提条件を明確にすること

科学に、「境界条件(boundary condition)」という面白い概念が
あります。ドラッカーは、意思決定が有効である条件としてこの境
界条件という概念も使っています。

境界条件は、数学に慣れていない人には、聞きなれない言葉です。
日常用語では、その決定が有効である前提条件のことを言います。

▼境界条件

あることが有効なものとして成立するには、必ず前提条件がありま
す。普段は意識されないことが多いその前提を、「境界条件」と言
います。

「3角形の、3つの角の和は180度である」という幾何学の真理
は、三角形が平面上に直線で書かれたものであるという前提(=境
界条件)をもっています。

平面ではなく、球の上に描かれた3角形(境界条件と違う状況)で
は、3つの角の和は180度より小さくなり、180度は真理では
なくなります。

平面に描いた三角形という前提(境界条件)が満たされないときは、
その真理も成り立ちません。境界条件が変わるからです。

普通は、こうした境界条件を意識しない。

しかし、意思決定に当たっては、その決定が有効である条件(境界
条件)を常に意識し、明確に定義しておかねばならない。

<境界条件を簡潔かつ明確にするほど、意思決定は成果をあげるも
のになり、達成しようとする成果をあげる可能性が高まる。逆に、
いかに優れた意思決定に見えようとも、(その意思決定が有効な)
境界条件を明確にできなければ、成果が上がらないことは確実であ
る>

意思決定に当たっては、この決定が有効である目的と境界条件は何
であるかを、常に明確にし、書き下しておかねばならないのです。

あらゆる決定に当たって、「その決定が有効になる、境界条件(前
提)がある」ということを、ここで記憶しておくといいでしょう。

■5.成果をあげる意思決定

<意思決定は判断である:A decision is judgment>

多くの人が言うように、事実を多く集めれば、正しい判断ができる
のかと言えばそうではない。

もちろん事実に基づかない判断は無効です。必要条件と十分条件と
いう概念を使えば、以下のように言うことができます。

判断(judgment)が、事実に基づくことは、必要な条件です。
しかし事実に基づく判断だから、決定として十分な条件を満たして
いるとは言えません。

judgmentは判決です。神が行わない判決が誤ることもあることは当
然のことです。

理由は、事実の認識そのものに判断が含まれ、事実と思えるような
ことも実は「意見」だからです。

意見(opinion)とは、事実そのものではなく、事実の認識から来る
見解です。認識の構造は以下です。

[事実]→[情報や意見(仮説)]→[意見の認識]

意見は、真理とは違います。
意見は、未検証の部分が残る仮説(hypothesis)です。

<意思決定も、科学とおなじように、仮説が唯一の出発点である>

現代科学でもっとも有名な仮説は、アインシュタインの「相対性原
理」です。その相対性原理も、今のところ、反することの証明がな
いという範囲での「暫定的(ざんていてき)な真理」です。

つまり仮説です。アインシュタインの、論理的な意見といってもい
い。こうした方法しか、人間は持っていません。

科学的に真理と思えることすら「仮説」にとどまります。仮説とは、
科学における仮定です。その仮定に反することがないという境界
条件の中で、真理とされるものです。

ここまで考えれば、神ではないわれわれには、事実の全的な認識は
できず、もつことができるのは「意見や見解」であるということは
了解できるでしょう。

事業での決定は未来に係わることです。未来はまだ起こっていない。
つまり起こった事実ではない。そうしたことについて決定を行わ
ねばならない。

▼意見の対立を活用する

会社の命運を分けるような大きな投資が、有効であるかどうか、ど
う判断するか?

【評価基準は多様】
いくつもの評価基準があります。

(1)投資の回収期間の長さ、短さという評価基準
(2)投資の利益率という短期の基準
(3)投資がもたらす利益を金利とリスクで割った現在価値という
   評価基準

回収期間、短期の利益率、将来利益の現在価値のどれを重視するか
という評価のそれぞれで、投資が有効かどうかの判断は分かれます。

つまり、どの評価基準を重視するかという異なる見解によって、お
なじ投資の有効性の判断も異なります。

(注)たった3つの評価基準を挙げました。他に、社会の進歩に役
立つかという評価基準もあり得ます。株主を満足させるか、従業員
の意欲を高めるかという基準もあります。

【意見の不一致を生み出す】
<成果をあげるエグゼクティブは、意思決定の教科書に出てくるよ
うな原則(全員の見解の一致)を避け、意見の一致ではなく、逆に
意見の不一致や相違を生み出そうとするのはこのためである>

エグゼクティブ間の意見の不一致は、避けるべきことではない。
意見は、「選択肢」を示しているからです。
決定は一致です。意見は選択肢です。

【異見がないとき】
意見の不一致がないときは、異なる選択肢について検討がなされて
いないと言えます。たとえば多くの会社の、バブル期の役員会では、
土地は買いで一致していました。

外部の銀行を含め、見解の相違がなかった。
地価が下がるという異見はなかったのです。

こうした意見の一致は、あとで大きなリスクを生むことが多い。
別の可能性についての検討が、すっぽりと欠けているからです。

▼GMのスローンの方法

<スローンは、GMの最高レベルの会議で、まずは、「この決定に
ついて、意見が完全に一致していると了解していいか?」と訊いた>

(注)アルフレッド・スローン:GMの全盛期の経営者:1923年か
ら56年まで社長を務めました。
http://www1.harenet.ne.jp/~noriaki/link57-7.html

ここまでは、誰でも行うことです。そして全員一致で決める。ここ
から誤りが生じることが多い。

わが国の、多くの企業における意思決定の失敗の原因は、全員一致
を仮想した意思決定にあると見ていいのです。(本当なら全員一致
になるはずはない)

トップに服従することが、エグゼクティブの任務でもある異見を述
べる責任の放棄であることが多い。わが国に多い、和の意思決定の
悪しき側面です。

皆がひとつの方向に進んでしまい、他の可能性や、おなじコストや
リスクの他の選択肢(=異見:異なる見解)を検討しない。これが、
わが国の企業や国が、決定を誤る理由です。

スローンが、長期の投資や、組織上の決定を誤ることが少なかった
理由は、次のようなことを付け加えることを守ったからです。

<役員全員がうなずくときは、「この問題について、決定がどんな
意味をもつかについてもっと深く理解する必要があると思われるの
で、異なる見解を引き出す時間を作るため、決定を次回まで引き伸
ばすことを提案したい」>

全員一致には、危険があると感じていたことになります。状況が変
われば、その意思決定が想定外の損失や誤りを生むこともあること
を直感していたからです。

スローンは、
・結論(決定)から出発し、
・決定を都合よく根拠付ける事実だけを探すようなことを、
 決して行ってはならないと決めていたと言います。

▼意識して意見の不一致を生み出す

<正しい意思決定には、適切な意見の不一致が必要である・・・こ
の決定がいかなる意味をもつかについて深く理解するために、意見
の不一致を(意識して)生み出すことである。>

しかし役員間・幹部間で意見の不一致があることを嫌うトップは、
数多くいます。意見の不一致は、快適ではないからです。

にもかかわらず、いかなる場合も自分の判断と決定が正しいと思え
るトップは、自分の心に正直であれば、いないはずです。

ところが面と向かって反論を述べられると、その場では不愉快にな
って、逆に自説に固執します。

あとで「反論を述べた常務の意見は正しいかもしれない」と思えて
も、自分が負けた気分になり、発言した自説を曲げなくなってしま
うのです。

自分の誤りを認めるには、勇気と器量の大きさが必要です。

トップ自身が、自説が正しいことを示す事実や数字だけを探すこと
に終始し、内心では間違っているかもしれないと思っているような
決定も、「意地」、「なりゆき」、「空気」で行われてしまいます。

こうした誤りを避けるには、どうしたらいいのか? 

意見の不一致を嫌う性格をもつと自認するトップは、社外に異なる
意見を述べることのできる見識のあるアドバイザーをもつべきです。

そして自社の役員会や幹部会を、意思決定の機関ではなく、決めた
ことを実行するための執行機関とすべきです。

しかし、常に正しい意思決定ができるかといえばそうではない。ウ
ォルマートのサム・ウォルトンは、会議について以下のような方法
をとっていました。

「会議での決定事項には、反対意見を出した人(あるいは心の中で
反対意見をもつ人)も、全員が従わねばならない。しかし、その決
定が誤りであることが分かったときは、直ちに、間髪をおかず、決
定を変更する。」

変更の勇気です。方針や原則の変更には、新しいことを決めること
より、はるかに多くの勇気が必要です。

勇気はどこからくるか? 状況が変わって、決定したことから生ま
れるリスクや損失をあらかじめ計量しておくことです。だから勇気
は蛮勇ではない。

▼重要なこと

次は、決定したことの実行です。実行に当たって重要なことは、意
思決定において大切なことと異なります。

(1)意志決定の場では「異見(Opinion)」が必要です。会社の岐
路になるようなことについての満場一致は、他の選択肢についての
検討が深まっていないとして、避けるべきでしょう。

(2)しかし一旦決定されれば、反論を述べた人も、実行しなけれ
ばならない。反論を述べたから実行しないというのは実行責任の放
棄です。

ウォルマートの毎週の幹部会では、異なる意見を出すことが奨励さ
れました。見解が分かれても、必ず決定をした。

決定したことには、実行では全員がそれに従うことをルールとして
いました。そして決定が誤っているとわかったときは、即座に、修
正を行なったのです。成長する実行組織で、もっとも重要なことが
これです。

誰であっても、いつも正しい意志決定ができるはずはないからです。
非のうちどころがない正しい決定を待てば、機会が逃げてしまう。

■6.決定の場面では意見の不一致が必要である3つの理由

・実行の場では全員一致が必要です。
・決定の場では異見が出なければならない。
 人は、皆、異なる現実を見ているからです。

(1)意思決定を行う人は、誰であれ、暗黙の前提条件の囚人にな
   っています。

知らず知らず、自分の起案と判断に沿った都合のいい事実を集め、
異なる状況が起こったときのリスクを軽く見ているからです。

(2)反対意見は別の選択肢を見せてくれます。

他の選択肢と比較検討されていない決定は、「ばくち」です。
事業の意思決定は、賭博であってはならない。

個人的な責任で行う投機と、多くの人が関係する事業は異なります。

(3)反対意見は、想像力を刺激します。異なる状況、現実、問題
   を見せてくれる。

事業においては、未来に向かった想像力が必要です。意志決定は、
未来への想像や構想での戦いだからです。構想力と言っても同じで
す。

異なった結論に達している人は、自分とは違う現実や事実を見て、
決定後に起こる異なる問題に気がついているかもしれない。

エグゼクティブは、以下のように自問せねばならない。

<もし彼の意見に筋が通っていて、合理的で知的なものであると仮
定すれば、一体彼は、どのような事実を知り、どのように認識して
いるのか?>

意志決定にあたっては、
・「誰が正しいか」という権威主義、権力主義、言い換えれば知的
  責任の放棄ではなく、
・「意見を比較検討した上で何が正しか」を求めねばならない。

更に、自分の見方が唯一のものであるとしてはならない。誰でも自
分の見方、認識、意見からしか出発はできない。しかし他の人も、
他の見方、認識、意見をもっていると想像しなければならない。

誰が正しいかではなく(権威主義)、何が正しいか(事実主義)と
いう観点からの、意思決定でなければならない。これはプロクター
&ギャンブル(P&G)の社是にもなっていることです。

事実と正しいことに従う。権限で判断をしない。これは楽ではない、
知力がいる。「誰が正しいか」ではなく「何が正しいか?」と考
えるべきであるとしています。

(1)私の判断と行動は、倫理的に見て、正しいことか?
(2)私の判断と行動は、事実に対し、客観的で誠実であるか?
(3)私の判断と行動は、公的機関の詳細な調査に耐えられるか?
(4)私の判断と行動は、倫理性を守るP&Gの行動綱領を守って
   いるか?

これらの経営原則も参考になります。

■7.葛藤を乗り越える

意思決定で悩むのは、以下のようなときです。

<何もしなくてもうまくいくということはないが、かといって、何
もしなくても取り返しがつかなくなるというわけでもない。>

つまり、今の方針と路線でも、大きな問題は予想されない。意思決
定と行動をしなくても生き延びられる。未来にかかわる戦略的な決
定はしなくてもいいように思われる。

そうした状況にあるときに、平穏な事態を変えることになる意思決
定は辛(つら)い。多くの経営者は、ここで悩む。

悩むとは、気(き)を使うことです。知力なら、どんなに使っても
いい。しかし気を使えば神経が疲れ、不眠や病の原因にすらなりま
す。

知力を使った後は、スポーツのようにさわやかな疲労です。
気を使えば神経が痛みます。

どうすべきか?

(1)意思決定によって得るものが、[コスト(犠牲)+リスク]
    を大きく上回るなら、決定し、行動しなければならない。

(2)決定するかしないか、いずれかに決めるべきである。二股を
   かけたり、間(あいだ)をとろうとしてはならない。

以上で、意思決定の条件は整ったことになります。

決定すること以外の選択肢も検討した。決定によって得るものは、
コストとリスクの合計を上回る。あとは決定しかない。

<しかし、まさに、意思決定の極めて多くが行方不明になってしま
うのも。この時点においてである。>

理由は<この時点で、意思決定が愉快ではなく、評判もよくなく、
(実行が)容易ではないことが明らかになる>からです。

問題は遠くにあるときは、容易にも見えます。
いざ明日のことになると、障害が急に大きくなるのです。

どんなに検討しても未来の成果は、確定したものではない。意思決
定が、現場での実行に移ったとき、様々な、予測しなかった容易で
ないことも生じます。

想像力が豊かな人であればあるほど、そのことを実行前に頭の中で
体験し、疲れてしまうのです。

このとき避けねばならないことは、<もう一度調べよう>とする逆
戻りです。これでは決定ができない。

必要なのは「意思決定の勇気」です。

▼逡巡(しゅんじゅん)は数週間

しかし<ほんの一瞬であっても、理由はわからずとも、心配、不安、
気がかりがあるときは、意思決定はしばらく待つべきである。・
・・しかし、待つのは数日、最長でも数週間である。>

人生の大きな選択肢では誰でも、こうした不安と葛藤(かっとう)
に駆られます。

(女性の場合は結婚の決定でしょうか、男性の場合は、転職や独立
でしょうか。)

ここでも、知識は役に立ちます。
こうした葛藤を心理学では「認知の不協和」と言っています。

・決定がもたらすプラスの側面(認知の協和)と、
・マイナスの側面(認知の不協和)が同時に見えてくる。

この不協和の心理は、誰にも共通で、普通のことだということです。
大きな決定であればあるほど、葛藤は大きくなります。

この決定はいいと思える肯定の心理と、決定を行なえばあとでマイ
ナス面が出て、後悔することになるのではないかという否定の真理
が、あたかも音楽の不協和音のように響くのです。

では最終的な決定は、どう行うか?

(1)仮に意思決定が誤っていたとしても、致命的なことになる前
   に、修正ができること。
(2)決定後は、実行と成功へコミットメントをすること。

大切なことは、決定を成功させることへの、コミットメントです。
エグゼクティブは、意思決定だけの責任ではない。

決定のあとの実行の仕組みづくり、すなわち、実行者チームと手順
つくりと、実行の結果である成果にもコミットしなければならない。

以上で完結です。成果をあげることは、才能ではなく学習で習得で
きるとドラッカーは言っています。繰り返し挙げた以下の5つの習
慣からです。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
1:常に、自分が何に多くの時間をとられているかを知ること。
2:常に、自分以外の外部に役に立つことに焦点を当てること。
3:常に、自分ができること、すなわち強みの上に、仕事を組み上
  げること。
4:常に、自分の能力のうち、優れたものが何かを知り、その領
  域で成果をあげることに集中すること。
5:常に、成果に焦点を当てて意思決定をすること。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

【後記1】
ドラッカーの『経営者の条件(THE EFFECTIVE EXECUTIVE)』素材に、
全7号の<仕事ができる人の習慣>として記述しました。

エグゼクティブ(役員)だけではない。現場にいても、自分の成果
に責任をもつ専門的職能か知識労働なら、エグゼクティブとなんら
変わるところはありません。

定型作業を効率よく行う義務のワーカー以外は、すべての人がエグ
ゼクティブです。仕事が、マニュアルで示された定型作業でないな
ら、あなたも自己決定をし決定で成果をあげるべきエグゼクティブ
です。

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 <250号:2006年の展望>

【目次】

1.05年までは、インフレ・ターゲット策だった
  ・・・忘れてはならないこと
2.消費者物価が上昇に転じた気配
  ・・・兆候を見る
3.根底は、世界の主要通貨価値の下落
  ・・・金融経済の根底を見る
4.物価と金利の原理的な関係
  ・・・経済原理を見る
5.短く分析すれば・・・
  ・・・05年を分析してみれば
6.物価
  ・・・変化が明らか
7.2006年は転換点になる
  ・・・金利と物価
8.狂乱に近くなってしまった日本の株
  ・・・株価上昇が、速すぎる
9.過去との比較では修正して見なければならない日経平均
  ・・・重要な事実(警告のために)
10.日本の株価を上げた要因
   ・・・まとめれば10項
11.結論と後記
   ・・・懸念

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