歴史は繰り返す。舞台と登場人物を変えて(2)
This is my site Written by admin on 2006年11月22日 – 08:00

こんにちは、吉田繁治です。先々週は4日間、つかのまのNYでした。
NYは、昨年より勢いが衰えたとは言え好況です。

午後5時の太陽が、赤々と輝く様を思い浮かべました。

住宅価格は、バブルの後期です。
控えめに見ても、50%は高すぎます。

金融コンサルティングと税務・会計サービスの最大手、アーネスト
&ヤングに勤める企業アドバイザーと会食する機会がありました。

年齢は29歳。クライアントに通貨先物の取引アドバイスをしている
と言う。激しく反対売買をして、保有リスクをヘッジします。

「今年は、年俸1000万円クラスの同僚にも、クライアントの保険会
社や金融会社にも、冬のボーナスとして数千万円をもらう人が、た
くさんいます。」 

数百万円の聞き誤りではなく、数千万円です。日本の会社のボーナ
スのような、定例的なものではない。ほぼ3ヶ月単位の会社の利益と
個人成果に比例し、激しく上下する歩合的な賞与です。

彼の話を聞き、NYの好景気と住宅のバブル価格の理由が、全部分か
った気分がしました。

マンハッタンの、周辺環境のいいところでは1億5000万円〜2億円く
らいの住宅は、特殊ではない。200平米(61坪)の、標準的な広さの
マンション(コンドミニアム)の普通の価格です。

1.5億円なら、住宅ローンを組むような人の所得では買えません。6
%の固定金利、20年返済で1.5億円を借りれば、毎月の返済額は約1
00万円(年間1200万円)だからです。

ローンに加え米国では、買った価格の1.5%くらいの高い固定資産税
(買った価格を時価としその約1.5%の州税)がかかります。ローン
の支払い1200万円に、固定資産税の225万円が加わります。合計で年
1425万円。

前記のボーナスの理由は、米国の株価の好調からです。
これが、住宅価格も上げています。

米国でも日本と同じように、現場ワーカーの賃金は、上がっていま
せん。しかしNYでは、わが国では上場企業のトップの報酬である3千
万円〜5千万円の年収の人は、普通の社員の中にも実に多い。その多
くが、金融関係です。ワーカーの何十倍の所得ですから格差という
生易しいものではない。

どうなってしまったのか・・・

前号に引き続き<歴史は繰り返す。舞台と登場人物を変えて(2)>
です。わが国の、過剰流動性による80年代後期バブルと同じ風景
が、今のニュヨークそして全米の主要都市に広がっているように感
じます。そしてヨーロッパにも・・・

http://www.nytimes.com/pages/realestate/

上記で住宅価格とその内容を見てください。見なければ信じられな
いでしょう。わが国の六本木ヒルズ現象が、ひとつのビルでなく、
街全体とほぼすべての高層ビルに広がったのが、マンハッタンです。

根底の原因は3つです。
(1)グローバル金融の発達
(2)世界のドル債券買い
(2)約10年続いた世界の低金利

バブルは「今のままが将来も続く」という感情的な判断から生じま
す。

しかし所得に比べあがりすぎたものは、ピークの臨界点を越えた瞬
間から、共同幻想がはげ、下がり始めます。下げは、経済合理性を
超えて進みます。わが国の商業地は70%〜80%も下落しました。
まさに半値、八掛け、二分の1です。

この格言は、下げ相場ではまず50%、次にその80%、さらにはその
50%=50%×80%×50%=20%で価格は底打ちするというものです。
日本の都市部商業地がそうでしたね。

米国の消費景気が、全米では年10%から15%の割合で、NYのような
都市では年率20%以上で上昇してきた住宅価格による部分が大きか
ったことは、常識になっています。

住宅価格の上昇分を現金にできるホーム・エクイティ・ローンが発
達しているからです。

(注)米国の住宅価格には全米で30%、NYやロスの高騰地域なら50
%から60%の低金利と世界の過剰流動性によるバブルが含まれると
見ています。

米国でどこかの会社に勤めると、突然クレジットカードの申込書が
いやというくらい送ってきます。住宅ローンの借り換えを促すもの
も多い。住宅ローンの総残高は2000兆円にもなる。

米国はクリスマス商戦。クリスマスまでの1ヶ月間で通常月の3か月
分が売れる月です。

本稿は、一見では難しいデリバティブのことです。その原理は単純
です。算数でOKです。マンハッタンの主産業はデリバティブの開発
と売買です。所得の多くはそこから来ています。顧客は、世界の金
融機関です。

本号は2号分です。
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<Vol.242:歴史は繰り返す。舞台と登場人物を変えて(2)>

【目次】
1.急増しているデリバティブ(金融派生商品)
2.金融手数料収入とリスク・テーキングの街
3.クレジット・デリバティブの仕組みを単純化すれば
4.将来のリスクを、現在に引き戻し確定させるための対価がプ
レミアム
5.ブラック・ショールズ方程式での計算
6.世界の金融はデリバティブ・チェーン
7.見えない金融工場では確率計算を行っている

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■1.急増しているデリバティブ(金融派生商品)

NYには、世界のマネーが利益を求め集まっています。金融先物取引、
金利スワップ(固定金利と変動金利の交換)、そして激増してい
るクレジット・デリバティブ。

あなたの固定金利の住宅ローンも、銀行が金利変動部分を米銀やヘ
ッジファンドに保険料を払い組んだものです。

クレジット・デリバティブは、06年6月の残高が急増し、$20兆(2
340兆円)です。これはクレジット・リスク、言い換えれば金利高騰
リスクの高まりを示すものです。

リスクが高まれば保険をかける人は増えるでしょう?
(その原理は、後で単純化して述べます)

▼元本総額で370兆ドル(4京4千兆円)

90年代中期以降、世界で激増したのがデリバティブ(金融派生商品)
です。

2000年6月の総残高は、世界で370兆ドル(4京4千兆円)。
05年対比の増加率は31%です。(データは日経新聞06.11.18)

世界のGDP(約4000兆円:日本約500兆円)と比べれば、10倍の金額
になります。

デリバティブの種類は多様です。しかしその共通原理は「リスクを
回避するために、リスク確率を計算し、より以上のリスクを避ける
ためにかける保険」と理解すればいい。

デリバティブ市場は、株や国債の現物を売買するように、こうした
金融派生商品の契約を売買するマーケットです。

90年代後期以降、世界でもっとも成長した商品が、この370兆ドル(
4京4千兆円)に達したデリバティブです。

仕組み(スキーム)の開発元の多くは、ウォール街のオフィスです。
金融工学の開発工場と販売が、NYという都市の産業です。

プレミアム(一種の保険料)を払ってデリバティブをかければ、確
かの自分のリスクだけは減ります。しかしそのリスクは、その保険
料を受け取る人に転嫁されます。市場全体のリスクは、変わらない。
リスクが消えるのではない。

デリバティブの増加は、売られたリスクを引き受けプレミアム収入
の利益を狙う投機家(スペキュレーター)の増加も示します。一種
の賭博場の胴元です。

生命保険会社は、死亡率という長期で安定した確率の上に、事務手
数料を加え保険料を決めます。そのため保険総額が増えても、安定
した利益を得ることができます。

デリバティブは、金利、株価、債券価格、外国為替、原油、商品相
場という、不安定に、激しく動くものの元本に保険をかけます。

市場が予測の幅を超えて動いたときは、リスク・テーキングに加担
していた胴元は破綻してしまいます。

マンハッタンを歩いても、4京4千兆円のデリバティブはどこにある
のか、目には見えません。契約書に過ぎないからです。コンピュー
タ内のディスクの記号です。

コンピュータが並び、デスクがあって人がいるだけです。開発した
商品は、iPODの中の音楽データのようなデジタル信号です。

(余談1)ソーホーのアップルストアで80G バイトのホワイトの
iPODを(人よりずいぶん遅れて)買ったら、これはいいと家人に取
られました・・・CDだった音楽の流通は、様変わりです。次は(お
そらく5年後は)、印刷物でしょうね。iPODの画面が、より高精細に
なってA5サイズになればいい。

(余談2)グーグルが最近1,940億円で買収したビデオ動画のYouTube
が、NYに住む日本人の間で、日本のテレビを見る方法になっています。
数千億での買収は、すでに日常的です。異常な気がします。こうした
世界では、価格が、すでにハイパーインフレです。
http://www.youtube.com/

■2.金融手数料収入とリスク・テーキングの街

世界のデリバティブ元本370兆ドルの1000分の1の手数料でも、3700
億ドル(43兆円)です。これによる手数料が、NYに集まっています。

デリバティブ元本の増加率が、31%です。手数料も、それに比例し
30%は増えたことを示します。これが金融機関を潤します。中国や
日本は商品を輸出します。ウォール街は世界に金融派生商品を売り
ます。

増加率の31%は、中国の経済成長率の3倍です。商品が増えているの
ではない。見えない金融派生商品が、増えています。金融商品も商
品です。

米国は70年代に開発され、80年から普及し、90年代後期から激増し
た金融工学の応用から「金融派生商品」を作りました。その中身の
本質部分はリスク確率の売買です。

▼新たなIT産業に匹敵する

ITのソフト産業に匹敵するボリュームでしょうか。従事する人の総
数ではそれ以上かもしれません。全米の企業の全利益の30%が、金
融利益と言われます。

NYで目に見える産業は小売業、レストラン、ホテル、不動産、建設、
観光客向けのミュージカル、アートそして保険や銀行しかない。

日本産のIT商品を売る秋葉原のようなところは、米国にはない。店
舗の商品の中身は、食品を除けば、そのおそらく60%以上が海外産
です。

商店の棚の中国製品は、激増しています。ITのソフトでは、英語圏
で数学教育が進んでいるインドです。インドでは掛け算の九九も2桁
です。18×17=306も暗算。

NYは目に見えない「金融商品」の都市でした。コンピュータのディ
スクと通信回線の中を、元本370兆ドルのデリバティブが行き交いま
す。

製造業とIT部品製造では空洞化した米国は、金融のリスクを商品に
仕立て上げたということができます。

5番街には、低価格ファッションの、アバクロンビー&フィッチ、へ
ネス&もーリッツ(H&M)、ザラ等の店が増えています。エルメスの
ような高額ブランドも、面積を広げた旗艦店(フラグシップ・スト
ア)を増やしています。まさにわが世の春がNYです。

金融機関が総資産を増やすのは、預金者からの「借金」の増加です。
しかし、これが返済を要する借金とは感じられない。国債を発行する
国と同じでです。

預金(借金)が増える間は、資金は潤沢で損失はカバーされます。
逆に、総資産が減るときは、大変なことになります。日本はこれを
経験しました。NYは、まだです。

NYを見るとき、世界の金融機関の総本山が、ここにあると見ればい
いでしょう。いわば金融の伊勢神宮。内部では秘術めいた確率計算。

■3.クレジット・デリバティブの仕組みを単純化すれば

デリバティブと言っても分かりにくいのは当然です。預金、保険、
株、債券なら分かる。誰でも金額を書いた現物に接することができ
ます。しかし、金融機関内でもデリバティブの売買にたずざわって
いる人は少数です。少数が、一回で数百億の取引をする。

以下で、元本が2340兆円にまで急増したクレジット・デリバティブ
の仕組み(スキーム)を、数式を使わず、これ以上単純化できない
ところまで単純化します。(

注)複雑に見えるのは、将来のリスクや金利を確率計算するためで
す。仕組みは実に単純です。

ある銀行が1億円を貸しているとします。
その回収リスクを10%とします。

▼将来の回収リスクを売買する:対価がプレミアム

10%の回収リスクがあると認定される1億円の貸付金の現在価値(時
価)はいくらか?

当然に[1億円×(1−回収リスク0.1)=]9000万円です。
貸し倒れ予想が1000万円です。

銀行が1億円の債権を他に売るなら、9000万円という価格が時価です。
ここまでは、普通に理解できるでしょう。

しかしデリバティブの取引では、1億円(=元本)の債権を他に売る
わけではない。回収リスク部分だけに対し、保険料(プレミアム)
を払って保証を受ける取引がデリバティブです。

債権元本(1億円)の持ち主は(元の銀行のままで)変わらない。
そのため簿外取引とされます。元本を売買し帳簿に記載しなければ
ならない株や債券の現物取引とは違います。

(注1)デリバティブの目的は、将来のリスクのヘッジ(回避)で
す。将来のリスクは、例えば5%や10%の確率でしかあり得ません。
従って、デリバティブでの損と利益が生じるのは、想定した確率が
狂った時です。

よくない例ですが、生保をかけ始めてすぐ死ねば、死亡率が狂った
ことになります。その取引で言えば保険会社は損をし、受取人は、
数十万円の掛け金で数千万円をもらえるので金銭だけで言えば、得
をします。

■4.将来のリスクを、現在に引き戻し確定させるための対価がプ
レミアム

例では「回収できないと認定した確率が10%(1000万円)」です。

ここで銀行が、予想回収額9000万円を確定したい意向を持つとしま
す。回収リスクの1000万円を損失として確定させることでもありま
す。

1000万円を払うから1億円の回収保証をしてくれるところはないか?
ということになります。保険会社がこれを引き受けたとします。

債権をもつ銀行は、
・1000万円のプレミアムを保証を引き受ける保険会社等に払い、
・1億円の回収の保証を得ます。

・銀行は、1000万円のプレミアムを払い、1億円の回収保証を受ける。
・保険会社は、その1000万円を受け取り、1億円の支払保証をする。

デリバティブのスキーム(仕組み)の設計は、プレミアムを確率計
算して、ヘッジファンドを含む金融会社が仲介し行います。取引が、
双方の合意で行われるのは当然です。

仮にその貸付が8500万円しか回収できないときは、1000万円のプレ
ミアムを受け取っている保険会社は、元本の1億円との差額の1500
万円を、保証した銀行に対し支払うことになります。

保険会社は(受け取っていたプレミアム1000万円−保証の支出1500
万円=)500万円の損をします。

逆に合意の予想より多く9500万円が回収できたときは、保険会社は
元本の1億円との差額の500万円だけを払えばいい。

保険会社は[受け取っていたプレミアム1000万円−支払い保証の支
出500万円=]500万円の利益を得ます。

回収確率の90%と見積もられた1億円の債権をもつ銀行は、1000万円
のプレミアムを払って、1億円の支払い保証を得ます。

純回収額は1000万円のプレミアムを引いた9000万円です。
こういった、取引が、クレジット・デリバティブです。

重要なことは、債権の回収リスクが減ったわけではないということ
です。銀行にとってはリスクの確定ですが、保険会社にとってリス
クの引き受けです。リスクの量は同じです。やり取りされるのがプ
レミアムという保証料です。

▼まとめ

クレジット・デリバティブは、回収リスクと金利の将来変動リスク
を確率で計算し、双方が合意できる「プレミアム(保険料)」を決
め、貸付の回収リスクを抱える銀行などに売ります。

数年前から有名になった天候デリバティブも広く買われています。
天候の予想外の変化で、大きく売上が変わるアパレル会社などが、
発注契約と在庫リスクを避けるためにプレミアムを払って買う。

デリバティブはヘッジ、つまり将来のリスクの他への移転です。

元本総額が、世界で370兆ドル(4京4千兆円:06年6月)に上るとい
えば、その巨額さが分かるでしょう。

【固定金利の住宅ローンも】
本来は日々変動する金利を、10年や30年間も固定金利とする住宅ロ
ーンにも、銀行サイドでは「金利スワップ(金利交換)」というデ
リバティブが使っています。

マーケットで共同予想されている確率より金利が高騰すれば、その
損失は、プレミアムをもらって金利変動のリスクを引き受けた他の
金融機関が蒙ります。

デリバティブの市場リスクは、予想外に大きな金融変動があったと
きです。

保険の仕組みは英国のシティで誕生しました。開発したのは17世紀
のロイドです。日本に紹介されたのは明治維新です。

今は、保険に代わるものが、リスクを確率計算し売るデリバティブ
です。開発の最初は1973年です。有名なオプション価格(プレミア
ム)を計算する『ブラック・ショールズ方程式』です。

■5.ブラック・ショールズ方程式での計算

現在のある会社の株価を1000円とします。期間180日以内に、この株
を、市場価格がいくらであっても、990円で買うこと(権利行使)が
できるオプションの、プレミアム(価格:対価)はいくらか?

▼〔条件〕
株価の過去の変動率が上下10%幅であり、短期の予想金利(安全金
利)は3%であるとします。配当はゼロとします。この条件の見積も
りが大切です。

▼〔結果〕

計算過程は難しいので省略します。
公式を含め、興味がある人は、
http://www.findai.com/kouza/BSmodel.XLS

結果は、41円95銭の価値(プレミアム)です。

▼〔意味〕これは何を意味するか? 

『現在1000円の、この会社の株を、180日以内に990円で買う権利は、
株価変動率が10%、金利が3%という条件なら、41円95銭の価値が
あるということです』

1万株を990円で買う権利(オプション)が、41万9500円の価値(プ
レミアム)です。180日以内に1100円に上がれば、990円の権利行使
価格で1万株を買うことができます。

利益は[(株の時価1100円−権利行使価格990円)×1万株−払った
プレミアム41万9500円]=68万500円です。

180日間ずっと990円以下なら、990円で買う権利を行使すれば損をし
ます。そのときは買う権利を放棄するだけでいい。損は、支払った
プレミアムの41万9500円です。

(注)企業の役人等に、ボーナスとして与えるオプション株は、こ
のプレミアムを払わないで、一定価格(上記のケースでは990円)で
買う権利を与えたものです。

これがデリバティブの代表であるオプション株の原理です。

『ブラック・ショールズ方程式』は、たった2つの条件、金利と、
将来価格の予想変動率(ボラティリティ=標準偏差)の確定だけで
オプション(権利行使権)の現在価格を計算できる優秀なものです。

【ブラック・ショールズ方程式の展開】
1973年以降、ウォール街はこぞってブラック・ショールズ方程式を
使い、多様なデリバティブが開発します。金融機関がこれに飛びつ
いたのです。パソコンでも当然に計算ができます。

先駆けが、破綻したロングターム・キャピタル・マネジメント(LT
CM)でした。ブラック・ショールズ方程式の開発者自身が参加したフ
ァンドです。

価格の変動率は、過去のデータで計算できます。
3ヶ月以内なら金利は比較的に安定しています。

この両方を予測すれば、価格がランダム・ウォークで、不確定に変
動するあらゆる債券、株、国際コモディティ(穀物・金属・原油・
エネルギー)の、先物価格、オプション、プレミアムを決めること
ができるからです。

人間は、対価を払っても将来を確定させたい。この欲望が根源です。

この方程式を使って、売ったオプションが利益を上げるのは、金利
と価格変動が、予測の範囲に収まったときです。

逆に、破綻するのは、金利と価格変動が、予測の範囲を大きく超え
たときです。

▼リスクが消えるわけではない

上記事例では、この会社の株価の変動率を10%の幅としました。こ
れが、180日で50%も変動すれば、当時者間に、大きな損と利益が生
じます。多額に損をした人や金融機関は破産します。賭けている金
額は、数億円どころか数兆円だからです。

同様に金利を3%としました。金利が思いがけず5%に上がれば、当
時者間に、大きな損と利益が生じます。

一定の時間では、ラスベガスのルーレットの賭けで、赤と黒が数学
的な確率の50:50ではなく、30:70になることはよくあることだか
らです。同じ数字が連続することもある。

■6.世界の金融はデリバティブ・チェーン

今、世界のほぼ全部の主要金融は、相互にデリバティブで連結され
ています。世界に、元本4京4千兆円のデリバティブ・チェーンがで
きていると言っていい。主要金融機関のほぼすべてが、これに係わ
っています。

リスクの買い手が、別の場面では売り手でもあり、売り手が買い手
でもあるという相互依存です。

世界のどこかの金融機関が、大きく損をし、支払い不能になると、
そのほころびは、鳥インフルエンザのように瞬時に伝染します。

世界の金利が予想外に上がって、債券(もっとも巨額なのは国債と
社債)が大きく下落し、株価が下がる事態が起これば、その破綻が
世界の金融に及びます。

デリバティブの目的は、リスクの分散(ヘッジ)です。このデリバ
ティブで、波乱が起こるのは、金利、株、債券価格の変動率が「過
去の確率の枠を超え大きくなったとき」です。

先の例で言えば、1億円の債権の回収確率が共同予想の90%を超えて
70%しか回収できないないときは、一時的には1000万円のプレミア
ムを得た保険会社の損失は、[プレミアム収入1000万円−保証3000万
円=]2000万円に拡大します。

過去の確率の平均を超える大きな事故が起こったとき、保険会社が
破綻し、支払えなくなることと同じです。

現在の世界の金融の根底のリスクは、金利の上昇です。10年間もの
低金利があったため、高金利の確率が、小さく見積もられています。

そのため「低い共同予想」に反し金利が高騰すると、多額にもつ債
券の下落で、あちこちの金融機関に破綻がつながります。ちょうど
インターネットの、対策が立てられていないウィルスのようです。

現在の予想が、デリバティブのプレミアム価格を決めているからで
す。

■7.見えない金融工場では確率計算を行っている

デリバティブのスキーム(仕組み)を開発・設計しているのが金融
会社、ヘッジファンド等です。金融会社は、手数料が収入になりま
す。その開発の中心がウォール街です。ウォール街が金融工学の工
場です。

建物の外壁は、石やコンクリートです。さほど広くないオフィスに
は人がいて、パソコンが並ぶ。開発と取引が、相互に連結されたコ
ンピュータの中で世界を相手に行われています。開発者の多くは数
学者です。文系は、仕組みをよく理解していないことがある営業で
す。

▼再び単純化した例:オプション価格

何を生んでいるか? 未来のリスクを、予想金利(または配当)と
確率から計算するリスク・プレミアで割って、現在価値にすること
です。リスク・プレミアムとはリスクを保証する価格(対価)のこ
とです。

基本式は簡単です。(注)リスクプレミアムに確率を加味するので
実際の計算は複雑になります。問題はリスクプレミアムです。

現在価値=将来の1億円
          ÷{1+(予想金利+リスクプレミアム)}

NYウォール街には、確率の数式からなる「金融商品」を開発し販売
して手数料を得ている人が多い。

▼未来を現在化する唯一の方法が確率

確率は、未来を現在化する唯一の方法です。

正六面体の「さいころ」があとします。1から6までの数字のどれが
出るか、振る前(=現在)は誰も分からない。ここで未来に賭ける。
3が出る確率は6分の1(≒16.7%)です。これは、何を意味する
か。

さいころを振る前(現在)では、3が出る(未来の)確率は、6分の
1であるとしか言えない。つまり3が出る確率の「現在価値」は6分
の1です。

3が出れば1億円をもらうことができる権利をAさんが作ったとします。
この権利を「オプション」と言います。このオプションをAさんが
売りに出すとします。

3が出れば1億円をもらうことができるオプションは、いくらの現在
価値があるかという問題が、金融における「オプション価格」の基
本です。

(注)あらかじめ決めた価格(権利行使価格)で、将来の株を買う
ことがオプション株の価値も、こうした確率的なものです。

(言うまでもなく)1億円×6分の1≒1667万円です。

1667万円以下でAさんからそのオプションを買えば、6分の1の確率
で1億円になるので買っておいたほうが得です。

1667万円のオプション価格で等価だからです。これが、未来を現在
化する「オプション価格」の基本原理です。

重要なことは、このオプションを作って売るのに1億円の現金は準備
する必要が(ほぼ)ないことです。

6000人に売って、1667万円×6000≒100億円が集まればいい。3が出
る確率は6分の1です。確率的には1000人が当て、プレミアムとして
集まった100億円が払われる。

(注)3を当てる人が100人(6分の1)より多ければ胴元は損をしま
す。

これでは、「胴元」には何の収入もない。それでは意味がないので、
1667万円のオプション料に、たとえば10万円の「事務手数料」を
加えて売ります。胴元の想定利益は10万円×6000=6億円です。

胴元はこの手数料収入を得ることを目的にデリバティブを組みます。

要素が少なく単純な確率分布をするさいころと違い、回収リスクや
将来の債券価格では、要素を多くして複雑な統計的確率の計算をし
ます。その方法は、将来の売上予測と同じです。

▼将来金利という要素

しかしさいころが振られ、結果が出るのが今すぐではなく、1年後と
します。そうするとこのオプションの現在価値はいくらになるか?

1年間の金利を加味しないと損をします。向こう1年の予想金利を
10%とします。

3が当たり1億円がもらえるのは1年後です。予想金利が10%なら、1
年後の1億円の現在価値は、1億円÷(1+0.1)≒9091万円です。
元本9091万円に10%の金利(909万円)が付けば、元利合計で確か
に1億円になりますね。

1年後の1億円の現在価値は、9091万円です。それをもらうことがで
きる確率は6分の1ですから、その権利(オプション)の現在価値は、
9091×6分の1≒1515万円です。

(注)これは当然に1年後の1667万円を金利の10%で割り引いた現在
価値と同じです。1667÷(1+0.1)≒1515万円です。

「6分の1の確率で1年後(の未来)にもらう1億円の現在価値は、予
想金利が10%なら、1515万円である。これがこのオプションの現在
価値である。」とすることができます。

ここでは予想金利を10%と固定しました。そのため計算は単純でし
た。向こう1年間の金利の変動をどう見るか? これも誰にも分から
ない。過去の金利の変動幅(ボラティリティ)から、確率で予想し
か方法はない。

最も確率の高い金利を想定し、その金利で割り引いてオプション価
格を決定します。

モノ、株、債券、不動産の価格変動率(ボラティリティ)が高まり、
金利や経済成長の将来リスクが高まると、開発されるデリバティ
ブも増えます。

そして、価格(プレミアム)も高くなる。いろんな会社はリスクを
避けるために保険をかけます。そして、リスクを引き受けプレミア
ム収入を得ようと考える別の会社も増えます。

20年前は特殊で微々たるものだった金融のリスク回避(同額のリス
ク引き受け)の元本が370兆ドル(4京4千兆円)に達しました。

天文学的な数字であり、想像を超えます。世界の金融が、複雑に相
互依存しているということになります。

重要な視点は、リスクを確率計算し、別の人に売却しても、金融機
関全体(市場全体)のリスクが消えたわけではないということです。

そして、今、世界の金融と、金融資産の最大のリスクは、金利の上
昇です。金利の上昇は、住宅価格、利付き債券価格、株価の下落を
意味します。

次号ではNY風景も送ります。ほぼあらゆる資産とホテルを含むサー
ビス価格が、東京より高くなったのがNYです。理由は、米国に世界
(日本、欧州、中東、中国)から集まったマネーのためです。

$1=117円の米ドルには過剰評価があります。

この米国バブルはいつまで続くか、(無謀にも)これに取り組むの
が次号です。

【後記】
本稿では、わかりにくいウォール街の商品「デリバティブ」につい
て、基本的なことを述べました。NYの経済のおそらく30%部分はこ
れで成り立っています。

今後の経済の金融の焦点になるのは、金利動向です。わずかな変化
が大きな変動になります。これが21世紀の特徴です。理由は、信用
借りの、急激な発達のためです。100億円の借金で投機すれば、1%
の金利上昇で1億円の支払いが増えます。

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        06年11月1日号
【目次】
1.個人の金融資産とその構造から
2.米国の住宅価格の高騰
3.わが国の世帯の財務:米国の世帯の財務
4.日米のマクロ指標の対照
5.地域別の住宅価格上昇
6.証券化している米国の住宅ローン
7.世界にない特徴をもつ米国の住宅ローン
8.加えてホームエクイティ・ローンの制度

<296号:夢の基盤:米国の住宅価格の分水嶺から(2)>
        06年11月8日号
【目次】

1.米国の議会制度の要所をまとめれば
2.米国の金利が世界経済の焦点
3.米国FRBは利上げを停止した
4.米国は金利を上げるという選択肢をもてなくなった
5.米国が金利を上げることができない結果は?
6.高騰する資源価格
7.世界の金融資産の増加
8.所得(GDP)に対し過剰になった金融資産の行く先

<297号:米国バブルの帰結>
         06年11月15日号
【目次】
1.レジデンスになるザ・プラザ・ホテル
2.高騰しているホテル料金
3.高く感じるレストラン
4.世界の貿易構造と不均衡のマグマ
5.産油国と資源輸出国の貿易黒字と外貨準備
6.資源戦争の裏側のマネー経済
7.NYの一部の人の臨時ボーナス

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