特別号:紀行 都市を憧憬させる街パリ
This is my site Written by admin on 2005年2月9日 – 08:00

こんにちは、吉田繁治です。語られすぎた街、パリに来ています。

2月は寒く、観光客はいつもより少ない。だれもがするように、シャ
ンゼリゼの大通りを歩けば、幅40メートルはある歩道は、それでい
ても人が溢れる。

葉がすっかり落ち、繊細な針金のような街路樹が並木になった石畳を、
黒く長い外套を着てマフラーをし、目的があるかのように歩く。

空は厚く曇り、風が冷たい。時折、カフェで熱いカフェ・オ・レを啜
り食事をとる。カフェは真冬でも街路に椅子とテーブルを出す。

思わずフォアグラを続けて食べれば、限界効用逓減の法則どおりに食
傷する。熱いオニオンスープは、チーズが絡んでいつも美味しい。固
いフランスパンを割り漬(ひた)すと、スープの塩味が和(おだやか)
になる。

下手なフランス語、と言っても単語で注文し、ややこしくなるとこれ
も同様にうまくない英語。20年も前は英語が通じにくかった。最近
は大丈夫になった。ギャルソンにはアジア、中近東人も混じる。パリ
は、親切な街になった印象がある。

マクドナルド風マニュアル・ワークではない。ラテンには定型作業の
枠をはみだし、個人を主張する伝統がある。同じ方向にまとめるのは
とても大変です。お互いが異なる価値観を個人で主張する。

近代的な手法(淵源は1908年のテイラー、T型フォードのベルトコ
ンベア型量産)に反発し、馴染まなかったのがラテン文化のフランス
とイタリアだった。そのため、20世紀のGDP経済には遅れた。

両国とも、作業分解やシステム的な思考と方法は苦手で、部分や細部
が前面に出る。バロック真珠のような部分と個性の突出がある。中小
企業が多い。

1年に訪れる観光客は1500万人と言う。1500のホテルがある。
店舗が、2月は冬もの一掃のSOLDES(バーゲン)の表示をしている。
すべての店が同じSOLDESを使うのが奇妙に思える。

それにしても店舗は「おしゃれ」です。デザイン性がある。

「美」が経済を超えた富や資産であるというのは、われわれが忘れて
きたことです。効率という近代の数字や生産性の尺度では、美を評価
できない。パリに行けば近代にも別の価値があることがわかる。

美の根底は、カラー・コーディネーションです。わが国の街づくりに
はこれがない。おもちゃ箱のようなとりどりの色の乱雑さになる理由
です。

薔薇(ばら)の美しさは効率的なものではない。全体も部分もなく、
ただ美しい。それがパリ。この街を愛している人が多いことが、パリ
を作ってきた。

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  <Vol.205:特別号:紀行 都市を憧憬させる街パリ>

【目次】

 1.ユーロ諸国はユーロ高の実力を持たない。しかし・・・
 2.資産蓄積の経済の国
 3.マルシェ
 4.モンパルナスの丘

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■1.ユーロ諸国はユーロ高の実力を持たない。しかし・・・

(まずは価格観察)

通貨が3割も上がった。ユーロは、過去の100〜110円の水準か
ら2年で上がり、135〜140円前後です。西欧諸国が、米国への
マネー投資を、ドル安の不安から回収しはじめたためです。

価格には、付加価値税(VAT:日本の消費税に相当)が19.6%もつ
く。1ユーロの価格表示のものに160円を払うことになります。パ
リの物価は、今は高い。

日本の財務省は、西欧の付加価値税の高さを真似ようとしています。

今年の秋から増税の答申が、おそらくは福祉目的税として出る。石弘
光氏が座長を務める税制改革委員会です。

皆が自国より上だと見る国の例がないと、世論を動かせない国が日本
でもある。明治以降の官僚の、情報権力の元は西欧・米国の都合のい
い事例だった。

店頭価格、レストランのメニュー、ホテル料金を比較した感じでは、
1ユーロ=100円が、世界との比較でのバランス点かと思えます。

(注)日本はこの10年で、店舗で売るものの商格は安くなっていま
す。家計が商店から買う商品の加重平均価格は、1992年の価格の
頂点からすれば53%です。(総務省統計)

均衡点を超えユーロが買われている原因は、米ドルの下落リスクを避
けるという資産防衛からです。ユーロのGDP経済が高く評価されたため
ではない。パリの物価を見ればそれがわかります。

資金流入のため、住宅は、上昇の幅は低下したにせよ、まだ年5%で
上がっている。資産価格のベースとなる短期金利(公定歩合)は2%
と低い。

新聞では住宅価格のバブル崩壊が懸念され、論議されている。

住宅の価格状況は米国の現在と同じです。米FRBの7回にわたるFF金利
(公定歩合:短期金利)の引き上げで、世界は金利上昇の可能性が高
くなった。

90年代後期から、西欧・米国・中国が資産バブルだった。日本だけ
が例外で、上がりきっていた資産価格が下落した。世界は、日本の高
齢化を追う。

世界の通貨と資産価格はリンクしています。
新しい、グローバルマネーという事態です。

(注)金利は、普通なら長期6〜7%、短期3%〜4%です。今は、
世界的に非常時で、経済浮揚のための低金利であることを忘れてはな
りません。特に日本の金利は異常です。この異常な低金利を前提にし
た経営、投資計画、変動金利での家計の住宅ローンは危険です。

■2.資産蓄積の経済の国

所得やGDPでは計れない蓄積を、西欧では見なければならない。
GDPでの豊かさは、部分的なことを言うにすぎないからです。

▼GDP

フランスを含めた西欧は、「GDPで計る経済」では強くはない。フラン
スの1人あたりGDPは$3万で、日本の$4万の7割くらいにすぎない。
日本より3割貧しいかといえば、全くそうではない。

GDPで計る経済に、カッコをつけました。
西欧をみれば、パリに限らず「建造物の蓄積」が厚い。

1年のフロー(流動部分)の経済活動を表すGDPだけで、経済の全部を
計ることはできない。GDPは、ストックの評価をしない。生活の質や資
産の評価はない。

(注)GDP=個人消費+民間住宅投資+民間企業設備投資+減価償却+
在庫増減+政府消費+公共投資+輸出−輸入、です。

GDPは、単純に言えば、年間で産み出された商品価格の合計で経済
の量を計る。フローだけを見る。

西欧のなかでもとりわけパリは、建造物ストックの街です。これに価
値がある。世界で最高の都市を造ろうとした意図は、今も続いている。

米国の「量産工業と経済」に対抗し、芸術・文化で世界最高峰を目指
したのがパリです。パリでは人間の活動である経済の内容が、異なっ
て見えてきます。

▼住宅に見るストック観

ストックが強烈なパリは、1億円の預金や確実な資産(蓄積でありGD
Pでは計算されない)がある人が、500万円の所得(GDPで計算され
る)が年5%増えても3%減っても、大差はないと感じることに例え
ることができます。

日本人は、銀行や郵貯の預金としての蓄積は世界最高(700兆円:
世帯あたり平均1800万円)です。世界の預金総額の半分に相当す
る。物的ストックではなく預金数字が強烈なのが日本です。

これは単に証書であり書かれた数字です。モノを買える「可能性」を
示しているにすぎない。インフレや通貨下落なら、その分が目減りし
ます。

日本人は物的な蓄積への入り口で、金融資産を蒸発させつつある。日
本人の蓄積のクリームを、米国政府や軍が食べていると言えばわかり
やすいでしょうか。

【日・米・欧の耐用年数比較】
世帯の資産で、もっとも大きなものは住宅。ところが日本の住宅の耐
用年数は、平均で30年と短い。20年も経てば設備にガタがきて、
評価は土地だけになる。

これでは資産とは言えない。資産性を言うのは、売る不動産業だけに
すぎない。

わが国の住宅(建物)には、資産性がない。ここが経済とライフプラ
ンで、西欧や米国と異なる点です。資産性、つまり換金性のある不動
産といえば、下落を続けている土地しかない。

商品経済であるフロー経済の日本と対極にあるのが西欧です。そのな
かでもとりわけパリ市街です。19世紀末には、街全域の建物の形と、
街路ができあがった。

あとの人々が行ったのは「メンテナンス」です。
祖先の富を相続した街がパリです。

(注)日本では住宅の寿命が短いため、メンテナンスや改善という概
念がまだ生まれていません。TVの「劇的ビフォア・アフター」は、
メンテナンスを越えた作り替えです。米国の住まいの改善店、ホーム
・デポが小売業でウォルマートに継いで2位とは、日本ではまだ想像
すらできない。

パリやイタリアの石造りは、1000年も価値を保つ。
ここから歴史観と歴史観が作る生活観が異なってきます。

わが国では、3ヶ月で建てた住宅を30年で廃棄し建て替える。80
年の生涯に3回の住宅を買うか、あるいは高い家賃として負担せねば
ならない国が日本です。

耐久性がなく、新建材と言いながら、質が悪くコストが高い。耐久性
とは単にもつだけではない。後世の人が使えねばならない。

日本を含むアジアは、住宅貧困の国々です。
建てては壊すことを、繰り返してきたためです。

【米国は2倍の60年】
米国の住宅は、平均で60年の耐久性です。一軒の住宅の建設コスト
が2000万円として、生涯でほぼ1軒分の建物コストだけを負担す
ればいい。しかも、建築の平米当たり単価は、日本の半分です。

米国人は、日本人の2倍(1人あたり60平方メートル)の広さの住
宅に住む。住宅の骨格である躯体(くたい)は60年はもつ。30年
の日本に比べれば、単位面積あたりの生涯負担コストは、四分の1に
なる。

米国ではメンテナンスし、買ったときより高く売るのが、世帯の資産
形成になっている。

【西欧は3倍の90年】
西欧の都市部では、石造りの住宅(アパルトマン)が建物として10
0年、200年ももつ。全住宅の平均は90年の耐久ですが、それは
郊外の木造住宅を含んでのものです。

フランスや他の西欧諸国の、1人あたりの居住面積は、日本とほぼ同
じで30平米です。

パリでは建造後300年のアパルトマンも多い。この場合、建設コス
トは300年に割って負担することになる。日本の10分の1です。

その代わりに、住宅の躯体の内部を覆う(furnishする)インテリアと
家具・台所用品にお金をかける。デパートではアパレル(衣料)と並
んで、住まい用品の売り上げが大きい。

住いの用品では、機能だけではなく、コーディネートの「美」を売る。
家電製品も、機能より、米国のシャーパー・イメージのようなデザイン
を売る。

オペラ座の裏の、ギャルリー・ラファイエット(日本の三越に相当)
の住宅館に行けば日本人は皆驚く。住まいの内部をカラー・コーディ
ネートし、動産である家具を伝承する。

↓以下でパリの雰囲気がわかるでしょうか。
http://www.galerieslafayette.com/

平均的な年間所得(400万円)の世帯が、われわれの目には豪奢な
内装と家具をもつ。同じ所得の人の日本の住まいは、比較すれば、生
活困窮者のバラックのようです。生活の豊かさのなかで、住宅は激し
く取り残されてきた。

政府の、戸数だけを重んじ、狭い125平米で事実上の制限を加えた
住宅政策と、人々の住宅思想の貧困の相互作用が原因です。

わが国は劣悪な住宅を高く供給してきた。年収の5倍もかけ貧困な住
宅を買う。不動産業の言動に、胡散(うさん)臭さが付きまとってい
る理由はごまかしで売ってきたからです。心すべきでしょう。

マンション(邸宅)という用語を、共同住宅に適用した広告を見るた
びに、顔から火が出ます。反省なく使い続ける業界は変です。

不動産のチラシも、恥ずかしくなる内容を、誇って書いている。
チラシに見るJapanese RoomやSalonとは一体何か?

パリ中にあふれる、今も使われる歴史的な建造物では、30年もかけ、
数百年はもつものを作る。1年のコスト負担は、数百分の1です。

耐久性を理由に、王宮のような大理石の内装と凝った彫刻を施すこと
ができる。ベルサイユ宮殿のミニ版が、至るところの広場(Place:プ
ラス)を取り囲む。

日本の住宅も、100年以上はもつ耐久性を重視せねば、いつまで経
っても蓄積は増えない。これからの経済の課題です。

需要がないのではない。60%以上の人が気軽に買えるようには需要
が開発されていない。

ドラッカー流に言えば、ニーズはあるのに、企業家によって顧客が創
造されていない。コスト意識のない公共事業に依存し、談合的に高い
見積もりを正当化してきたことの結果です。

資産蓄積を評価しないGDPは、経済を計る「全体」ではない。今年の生
産や販売を示すとても小さな「部分」にすぎないと思えてくる。

こうしたことが、観念ではなく「実感」になるのが、実物を観(み)
る旅行の面白さしょうか。

【ユーロの目的はアメリカの影響の排除】
ユーロ諸国は、域内貿易で生存ができる経済を作っています。遡れば、
誇り高きド・ゴール将軍(1890〜1970)以来の「西欧の自立」が、
現在の統一通貨ユーロでした。

日本・アジア・米国が、貿易で「相互依存」しているのとは異なりま
す。環太平洋の国は、通貨変動と資金移動がお互いの経済を直撃しま
す。

フランスではユーロ高ではあっても、域外から買うものが、2割・3
割安くなったという感じでしょうか

今後の日本の大政策は「資金が米国に貢がれる米ドル依存体制からの
離脱」です。

それを実行できる大政治家は、サラリーマン化した議員からは出ない。
サンフランシスコ講和条約を結んだ吉田茂のような、レトリックと
将来構想をもつリーダシップが必要です。

■ 3.マルシェ

マルシェは、マーケットつまり市場です。小売りの原点である楽市楽
座のようなものです。パリには70ヵ所の常設マルシェがあるといい
ます。個人商店や、農家・肉屋、魚屋が屋台を出し、古物も売られる。
日本で言えば、お祭りのときの出店でしょう。

マルシェが残っていることを理解するには、背景を説明する必要があ
ります。

▼背景

フランスでは、第一次オイルショックの1973年に制定されたロワ
イエ法が商業活動と大型店(300平方メートル以上)の出店を規制
しています。

(注)イタリアにも同様の商業活動規正法があり、英国には田園・都
市計画があって、いずれも米国風の大型店の出店規制をしています。

ロワイエ法は、97年に強化され今はラファラン法と呼ばれる。
日本の旧通産省が、大店法で参考にしたのが、ロワイエ法です。

米国風の資本が、都市を一変させてしまうことを共通に恐れたのが西
欧の政府です。

パリ市内は、もともと17・8世紀から石の6階建ての建物で埋まり、
わずかな土地の隙間がない。その上に、街の保護を目的にした商業
活動の行政による規制がある。都市部に中小・個人商店が残った理由
です。

都市がスーパーマーケットになってしまえば観光の価値はなくなる。
観光は街を歩く散策です。

パリ市街には、大型スーパーは少なく、伝統的な食料品店が残り、こ
の道一筋という感じの、高齢の店主がPOSのないレジにいる。街角
の至るところに、ファーマシー(ドラッグストア:ヘルス&ビューテ
ィケア用品)がある。

他方には、流通では1.カルフール 2.ルクレール 3.アンテルマ
ルシェ 4.プロモデス 5.オーシャン 6.ピノー・プランタン・ル
ドゥット 7.カジノのような巨大資本がある。

(注)カルフールとプロモデスは99年に合併しています。カルフー
ルは今、業績低迷で、CEOが交代した。赤字の日本からは撤退です。

流通大手は、郊外に米国風の巨大店舗(スーパー・マーケット)やシ
ョッピング・センター、ディスカウントストアが集合したパワー・セ
ンターを持つ。巨大ショッピングセンターがある郊外の風景は、世界
的に同じになった。

異なる点は、西欧では小売業がPB製造までを含む流通コングロマリッ
トを作っていることです。ダイエーの中内氏は、製造を含むコングロ
マリットに憧れていた。

フランスはヴァン・サン・ファミーユ(200の巨大資本家)の国で
す。西武の堤義明のような資本家が200人いて、それが経済の中枢
を握っています。

働くことではなく「会社を所有」することが200家族の方法です。
そこからレジャーが生まれる。お供を引き連れた旅行、コックを雇っ
た別荘への滞在、投資、芸術の保護が生活です。

有名ブランドのモエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトン(LVMH)もそのひとつ
です。超高級なホテル・リッツがあるヴァンドーム広場の周辺は、そ
うした資本の有名店が集まる。入るのに、若干躊躇します。

▼ビューロークラシー

フランスでは行政官僚の権威が高い。ビューロークラシー(官僚主義)
が強い。官僚は今も変わらずエリートとされる。西欧は総じてエリ
ート社会とも言えます。社会階層や職業の移動と流動性が少ない。失
業率は10%近い。しかし失業保険を含む福祉は充実しています。そ
のための高い付加価値税です。

日本の明治は、近代化(富国強兵)のためエリート官僚による支配の
西欧を真似た。官僚支配は、戦後まで引き継がれます。

総司令官マッカーサーが占領のために、官僚機構には手をつけず、共
産化する恐れがあった国会の権力を削いだからです。

民間資本は、総じて米国企業をマネます。日本は戦後の近代化のため
に米国の方法をマネ、70年代以降のアジアは日本の方法をマネた。

「欧米では・・・」と一まとめにする粗雑な論者・学者が多いのが日
本です。実際は西欧と米国では天地ほども違う。西欧でも、英国・ド
イツ・イタリア・フランス・オランダ・デンマーク・スイス・北欧は
共通性は大きくても、異なるところが多い。

▼マルシェ

さて、やっとマルシェです。市の東部にあるバスティーユ広場のマル
シェに、朝、ホテルから30分くらい歩いて行った。道路の真ん中が
細長い広場になっていて、屋台の列が200メートルは続く。

ここは食品中心のマルシェです。食料品店を見れば、その国の生活と、
大事にしてきた生活観がわかる。各国で必ず行きます。

数百店がならぶ屋台です。肉屋をみれば、あぁここはやはり肉食民族
の国。

子豚が皮をはがれ、針金にぶら下がっている。鶏も羽根をむしられ、
白い鳥肌をあらわにし、赤い鶏冠(とさか)のついた顔で、目を閉じ
ている。あらゆる種類の牛肉、ラム肉、鶏類があった。すべては屍体
に見える。

魚屋では、紫雲丹(うに)が棘(とげ)のある殻ごと砕いた氷の上に
山盛りで並ぶ。あわびは高価で、酸素の出る水槽のなかに入っている。

名前のわからない虫のような蜷(にな)が、いっぱいある。レストラ
ンでは小さなフォークで突き刺し、くるりと身を抜き食べる。

フォアグラ、ハム、ソーセージ、チーズの専門屋台が多い。チーズは、
ごまんと種類が並ぶ。強烈なカビで、灰色、緑、または真っ黒にな
ったものも多く、「果たして食べ物か」と思う。見れば死んだねずみ
のようなのです。

サラミの屋台で見ていると、農家のおじさんが、「グテ(Goutez:食べ
ろ)」と言って、包丁でスライスしたものを手渡す。

日本では見ることが少なくなった、太くてたくましい、厚い爪の労働
する指だった。フランスは畜産、農業、ワインの国です。

自分で作ったと早口で言っていたが、言葉の全部は理解ができない。
味は濃厚で塩が強い。日本人には苦手な、獣肉のにおいがする。

これが風味です。日本では、肉の素材感を調味で消す。ここでは、素
材感が味になる。日本人の食は植物的であっさりしたものですね。

農家の自家製が並び、主人や奥さん・娘さんが売る。食の製造・小売
業の原風景が、こうしたマルシェです。

■4.モンパルナスの丘

大学街のカルティエ・ラタン(ラテン区)の南は小高い丘で、有名な
墓地がある。サルトルやボードレールの墓があることを、案内書で知
り、訪ねた。

南側入り口のすぐ右に、ジャン・ポールサルトルの清楚な墓があった。
薄いピンクの石だった。

        JEAN PAUL SARTRE
   1905-1980
  SIMONE DE BEAUVOIR
   1908-1986

名前と生年・没年しかなかった。棺はそのまま納められている。備え
られた白い薔薇がしなび、枯れていた。空は曇り、寒かった。木々の
葉は落ちていた。広大な墓地に人は少なかった。

卒業論文はサルトルだった。何を書いたのか。自分にもわけの分から
ない文字を連ねたていたに違いない。

戦後レジスタンスから生まれた実存主義思想とは言っても、その意味
は未だに判然としない。サルトルはスペインのオルテガ・イ・ガセッ
ト(『大衆の反逆』)のような、ジャーナリスティックな哲学者だっ
た。語感だけを読んでいた。

飛行機ではモンテーニュ(1533-1592)の『エセー』を読んだ。とんで
もなく面白い。古典には突き詰めた思考がある。

彼は生涯、死をどう受け入れるかを片時もわすれず考え続た変人です。
生の向かう道筋は死だ、と言った。

「われわれは皆おなじところへ押しゆかれ、われわれ全部の運命の壺
が回されて、おそかれ早かれ、籤(くじ)が出され、永遠の死に向か
う小舟に乗せられる。」(荒木昭太郎訳)

「どこで死がわれわれを待っているか、確かではない。われわれのほ
うが、いたるところでそれを待とうではないか。死をあらかじめ思い
みることは、自由をあらかじめ見ることだ。死ぬことを学んだものは
、隷従することを忘れた者だ。いかに死ぬかを知ることは、あらゆる
隷属と束縛からわれわれを解き放つ。(同)」

これは、まさに、武士道の精髄ではなかったか? 
武士は、自分の死を意志で制御することが条件だった。

実存主義は絶対的な、何ものにも縛られない自由を希求した。そうす
ると、向かうところは、「生命の喪失が不幸でないことをよく了解し
たものにとっては、生の流れのなかに何の不幸もありはしない。(同)」
ということだったことになる。

「1日は、すべての日と同等だ。ほかの光もほかの夜もありはしない。
この太陽、この月、これらの星々、この配置、これこそ君たちの祖
先が享(う)け楽しんだものと同じものであり、また君たちの子孫の
相手をつとめる同じものである。(同)」

ボードレール(1821〜1867)の、ひときわ小さな墓も見つけた。
http://noz.hp.infoseek.co.jp/LitteratureFrance/Baudelaire/
http://hp.vector.co.jp/authors/VA011700/litera/wwwfile.htm

数本の花がたむけてあった。

パリの無数の教会と墓地は、生きることのただなかで、死を想起させ
る装置です。人々は教会と宗教画が多い美術館に集まる。生のとどの
つまりの終着点が見えるからでしょうか。行動には意味がある。

「(皆を死に慣らすために)われわれの墓地を、教会や町のもっとも
ひとの往き来する場所に置いた。(同)」

こうした感慨をいだきながら街を観たのは、初めてでした。そう言え
ば、マルシェの肉屋でも、動物の死がわれわれを生につなぐことを象
徴しています。

次の映像は、見事です。
「死すべき人間たちは互いに生命を受け渡す。あたかも走者が炬火(
たいまつ)を受け渡すように。(同)」

自分の炬火(たいまつ)を考えねばならない。

【後記】
パリは、衣食住の全域にわたって、ビジネスの方法を見せます。米国
の店舗作り、店舗デザイン、商品価値を見せるディスプレーはほぼ全
部が、パリに源流を持ちます。米国人もマネをしている。

【無料版の前稿訂正】
(前稿)国と地方および周辺機関で40万人の官僚組織も同じです。
年1000万円(合計40兆円)の平均人件費は、国税の総額に匹敵
します。この維持も、ムリです。

(訂正)40万人はミスで、正しくは「400万人」です。(400
万人×1000万円=40兆円) 読者の方から指摘もあったので、
訂正しお詫びします。

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の方から広告依頼のメールと料金の問い合わせをいただきますが、よ
ろしくご理解のほどお願いします。

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   <198号:米国政府の資源・エネルギー戦略(1)>

【目次】

1.エネルギーに致命的な弱点をもつのが米国
 2.長期投機:敢えて言います
 3.大切な認識:利を生む資産ではない住宅
 4.日本は07年から世界の低金利のマネー供給源ではなくなる
 5.根底の理由
 6.(補足)日本人のやさしい価値観が世界を救う
7.米国は呻吟している

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