異次元緩和の失敗原因と、変えるべき方向(3)
This is my site Written by admin on 2016年8月8日 – 10:00
おはようございます。36度や37度の熱暑が続いています。リオ・オ
リンピックが始まりました。開会式の太陽をかたどった聖火、そし
てフィナーレでも太陽を象徴したように見え、地底のマグマの爆発
にも見えた花火は、すごいものでした。

直後には、48Kg級の三宅宏美の銅メダル。2回失敗し、あとがない
ジャークの3回目に、銅メダルを決める107Kgを挙げたあと、何かに
気がついたように、バーベルに頬ずりをしに戻った。「ありがと
う」と言ったらしい。

過酷な練習が生んだ深刻な腰痛で、痛み止めを注射して出場いたと
いう。競技のときは、歪んで鬼のような顔でしたが、表彰式では一
転、柔らかい笑顔で美しかった。三宅義信コーチは、「練習は誰よ
りもした」という。

並外れて努力した人たちが、4年間にたった一度の、数分しかない
機会に臨む。4分が制限時間の柔道を見ていました。あらゆる競技
で、言い古された「紙一重」が、残酷に勝負を決めています。極致
まで技術を高め、勝利を目指すことができる人間は、すばらしい。
練習を続けることできることが才能でしょう。

残念だったのは、66Kg級の海老沼匡と、52kg級の中村美里の銅メ
ダルでした。準決勝で破れました。解説の古賀稔彦(としひこ)が
言っていました。「二人は、本当によく努力をする。日本チームの
皆がそれを知っている。金メダルをとれば、チーム全員が力を出し
ます」

BRICs4か国のひとつとして、2008年まで高い成長をしていた2億人
のブラジル経済は、2015年のGDPは-3.8%です。激しいリセッショ
ンが、警官など、公務員給料の未払いも引き起こしています。強
盗・強奪は、人口当たり日本の600倍ともいう。しかしカーニバル
とサンバの国は、ラテン的に明るい。
         
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<Vol.362:異次元緩和の失敗原因と、変えるべき方向(3)>

         2016年8月8日:無料版

【目次】

1.前号までの振り返り
2.マネーの増発でインフレを起こすというリフレ理論の、
                       決定的な誤り
3.デフレは貨幣現象というのはドグマだった

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■1.前号までの振り返り

▼マネー・サプライは増加しなかった

前号(Vol.361)で、日銀が国債を買って、金融機関が日銀に預ける
準備預金であるマネタリー・ベースを増やしても、準備預金の増加
(250兆円)、貸し付けの増加にならなかったこと。このため世帯
と企業の預金であるマネー・サプライ(M3:1260兆円:16年6月)の
増加がなく、GDPと物価を上げる貨幣数量説が働かなかったことを
示しました。

(注)世帯、企業、自治体の預金であるマネー・サプライの1260兆
円には、紙幣も含みます。預金に対しての割合は少ないので、預金
として説明します。預金は、紙幣と同じ機能を果たす「預金通貨」
です。銀行オンラインの進展とクレジットカードによって、紙幣使
用の機会は減っています。

【貨幣数量説】
貨幣数量説は、M(マネー・サプライの増加率)×V(マネーの流通
速度)=P(物価水準)×T(実質GDP)、が働くとする考えです。

わが国では、1990年代の初期までは、この中のマネー・サプライが
4%以上(ほぼ50兆円以上)増えたとき、物価が上がっていました。
4%未満の増加のときは、物価上昇が0%かマイナスだったという
「並行現象」が見られます。

マネタリストは、MV=PTの貨幣数量説により、マネー・サプライが
物価の原因と言いますが、2000年代の日本で、これが妥当するかど
うか、疑問に思えます。

▼マネー・サプライが増えなかった理由

異次元緩和のあとでも、マネー・サプライの増加は、2%から3%台
/年にすぎず(2013年4月~)、開始前と同じです。年80兆円もの国
債を買い増すという異常な金融緩和を日銀が実行し、金融機関のマ
ネタリー・ベース(日銀当座預金)だけは3年4か月で250兆円も増
えた。

それがなぜ、貸し出しを増やすことにつながらなかったのか。全国
の銀行の貸出増加ペースは、前年比2.2~2.8%増であり、異次元緩
和前とまるで同じです。

理由は企業と世帯が、借入を増やすことをしなかったからです。
なぜ、企業と世帯が借入を増やさなかったのか。

GDPの将来成長(期待成長率)と物価の上昇・・・その合計が名目
成長率ですが・・・を、0%~1%台としか見ていないからです。つ
まり、人々は、将来の名目GDPが、3%以上の率で成長して行くとは
考えていない。

このため、日銀が異次元緩和で0%金利のマネーを供給しても、企
業と世帯は、借り入れを増やさず、企業の設備投資と、世帯の住宅
と商品需要の増加がなかったのです。

企業全体は、設備投資が採算に乗らないと(リスクがある予想ROI
が3%以上は見込めないと)、借入での設備投資を増やすことはな
い。世帯も、住宅価格が下がるという予想の中では、住宅ローンを
増やしません(新築需要は100万軒付近/年)。物価上昇がマイナス
や0%付近と低い中では、GDPを構成する商品、住宅の先取り需要は
生じません。

(注)需要面のGDP(名目503兆円)は、世帯消費(290兆円:55
%)+住宅投資(15兆円)+民間設備投資(70兆円)+政府消費
(105兆円)+公共投資(22兆円)+純輸出(1兆円)です(16年1
-3月期)。政府支出を増やせば、GDPはその分増えますが、世帯消
費と住宅投資+民間の設備投資が増えないと、意味のあるGDP増加
は生じません。
http://www.esri.cao.go.jp/jp/sna/data/data_list/sokuhou/files/2016/qe161_2/pdf/jikei_1.pdf

▼インフレ目標

政府と日銀は、インフレ目標2%の実現を言い、日銀が異次元の国
債買い(当初70兆円/年、14年10月以降80兆円/年)を実行すれば、
2年で、消費者物価は2%上がるようになり、人々が抱く期待物価上
昇率も、2%になるとしていました。

これが2%に上がるなら、「実質金利(-2%)=名目金利(0%)-
期待物価上昇率(2%)」ですから、名目金利は0%が下限でも、実
質金利はマイナス2%に下がる。つまり、借り手の実質的な金利負
担を、マイナスにできる。

【実質金利のマイナス】
例えば、住宅価格は、将来に向かい1年に2%は上がるという予想を
人々がもつなら、ローン金利が0.5%であっても、実質金利は-1.5
%です。10年後の住宅価格でが〔1.02の10乗=1.22〕、つまり22%
上がると期待できれば0.5%の金利払っても、1年に1.5%の予想利
益が出ます。これが、実質金利は-1.5%の意味です。

以上のように、実質GDPが増え、住宅を含む物価も2%は上がると国
民から期待される経済になるなら実質金利がマイナスになるので、
資金需要は増え、企業の設備投資、世帯の住宅需要と商品需要が増
えるでしょう。

しかし、肝心な国民の「期待インフレ率」は高まらなかった。逆に、
消費税の増税後の物価(CPI:総合)は、0.3~0.5%のマイナスに戻
ってしまいました。このため、借入を増やす、実質金利のマイナス
も生じなかった。

▼日銀のコミットメント:2013年4月

日銀は、「異次元緩和の実行により、2年をメドに2%のインフレに
なり、実質金利は-2%に下がって、借り入れによる設備投資が増え、
GDPが成長する」としていました。実際には、そうならなかった。

【低い伸び率の名目GDP】
実質GDPの成長は、2012年度、安倍内閣1年目の5兆円(GDPの1%)
の補正予算の効果で1.74%と比較的に高かった。しかし異次元緩和
が本格化した2013年度には1.36%に下がり、4月に消費税増税があ
った2014年度は、-0.03%に沈みました。

その後の2015年度は、わずか0.47%であり、来年に向かう2016年度
(17年3月期)の実質GDP予想は、0.49%増にすぎません。(注)政
府は、高い伸びといいますが、高い成長とはとても言えません。

異次元緩和により、名目GDPは3%は成長し、物価も上がるとした政
府・日銀そして政府系リフレ派のエコミストは、誤っていたのです。
(以上までが前号です)

■2.マネー増発でインフレを起こすというリフレ理論の、
                      決定的な誤り

▼デフレは貨幣現象

マネーを、一定量を超えて増やせば、インフレになるというリフレ
理論の根幹には、「物価は貨幣現象」という仮説があります(ミル
トン・フリードマン:マネタリズムの元祖)。以下のようなもので
す。

【一般物価と相対物価】
消費者物価の全体を「一般物価」と言います。食品、住まい関連、
衣服と靴、保険医療、交通・通信、教育、自動車と自動車関連、
AVやカメラ、スポーツを含む教養・娯楽、ホテルなどのサービス商
品、公共料金など、798品目の価格の加重平均を示すものが、一般
物価です。

消費者物価が2%上がるというときは、一般物価が、前年比で2%上
がっていることを示します。

一方、「相対物価」は、個々の品目の物価です。液晶TV、食肉、車
の価格は、相対物価です。
http://www.stat.go.jp/data/cpi/2010/kaisetsu/pdf/4-1.pdf

経済学者のヴィクセル(1851-1926:スウェーデン)は、「一般物
価の変動と相対物価の変動は根本的に異質である」という説を発表
しています。(注)ヴィクセルのもっとも有名な発見は、物価に対
して中立的で、インフレ、デフレにならない「自然利子率」と、現
実の「名目利子率」の区分です。

【原油価格の例】
具体的には、例えば原油が値上がりすると、原油と石油関連商品の
物価が上がるだろう。これは、相対物価の上昇である。

(1)相対物価である原油と石油関連商品が値上がりすれば、原油
と石油関連商品への支出金額が増えるため、他の商品への需要は減
らさざるを得ない。
  ↓
(2)需要が減った他の商品は、余って値下がりするだろう。した
がって、相対物価が値上がりしても、一般物価が上がるとは言えな
い。

特殊物価とは区分される一般物価は、使われる貨幣の量が増えると
上がる。貨幣の量が減ると下がる。つまり、物価は、貨幣現象であ
る。

【大家フリードマン】
ヴィクセルの仮説を援用しつつ、1929年から30年代の大恐慌期の米
国経済を研究したうえで、「物価は貨幣現象」とまとめたのが、マ
ネタリズムの大家フリードマンです。

大恐慌期には、金融機関の不良債権の発生から、マネー量が縮小し
ましたが、FRBは十分と言えるマネー量は供給しなかったか。この
ため、失業は40%になり、物価は1930年からニューディール政策と
いう公共投資が行われた1933年まで、毎年、10%も下がり続けてい
たのです。ここから、フリードマンは、「物価は貨幣現象」と導い
たのです。
http://uskeizai.com/article/121333175.html

この仮説に照らせば、20年間、一般物価が下がるデフレにあった日
本では、マネー量の不足が生じていたと言えるだろう。したがって、
マネー量を増やせば、一般物価は上がって行くとしたのがリフレ派
でした。異次元緩和は、「デフレは貨幣が不足する現象」という仮
説をベースに、作られたのです。

2013年の国会で、野党の質問に対し安倍首相は「デフレは貨幣現象
だから、異次元緩和で上がるようになる」と答えています。安倍首
相が自分で考えた言葉ではない。内閣官房参与、浜田宏一氏からの
「政策提言」の聞きかじりを鸚鵡(おうむ)返しに言ったものです。

▼2014年6月から原油価格は$110から$40台(2015年1月)に下落
した。

日銀の黒田総裁は、毎月記者会見を開きます。2015年の4月、イン
フレ目標2%達成とした時期には、以下のように発言していました。

「物価は順調に上がっているが、原油価格の下落のため下がってい
る部分がある」、この答弁は、その後も繰り替えし、行われていま
す。

リフレ派の主張では、相対物価である原油が下がれば、原油と原油
関連商品の物価が下がり、その支出が減って、余った所得により他
の祖商品の需要が増える。需要が増えた他の商品の物価が上がるか
ら、「原油が下がっても一般物価は下がらない」ということではな
かったか。

一般物価が下がるのは、貨幣現象ではなかったか、ということです。
しかし記者は、この質問をしません。ヴィクセルの一般物価仮説を
知らないためか、とも思えるのです。

リフレ派の理論に沿って異次元緩和を実行している黒田総裁は、知
ってか知らずか、リフレ理論の根幹を、無邪気に否定しているので
す。

■3.デフレは貨幣現象というのはドグマだった

「一般物価(CPI:消費者物価指数)が下がるデフレは貨幣現象」と
いうのは、大恐慌期には当てはまったが、他の時期には、そのまま
では適用できないドグマ(宗教のように独断的な説)でしょう。科
学ではない。

日本のデフレの原因は、マネー量の不足ではない。証拠は、日銀が
マネーの供給量を増やしても一向にインフレ目標が達成できないと
いう事実です。

(注)米国でも、リーマン危機後、未曽有である$4兆(400兆円)
のドルがFRBから供給されましたが、インフレにはなっていません。
2008年83.8%、2009年0.32%、2010年1.64%、2011年3.14%、
2012年2.08%、2013年1.47%、2014年1.2015年0.12%、2016年0.
82%です。2013年の3.14%が2015年には0.12%/年の上昇に下がっ
ています。FRBがマネー量を限界まで増やした米国も、欧州や日本
とあまり変わらない0%台の物価の上昇率です。

原油が、1バーレル$110から$40に下がった2015年以降、むしろデ
フレの傾向が見えます。原油という相対物価の下落が、米国でも一
般物価を下げています。ここから言えるのは、「現代の一般物価が
下がるデフレは、貨幣現象」ではないということでしょう。

●ここが、リフレ派が犯した致命的かつ決定的な間違いです。

経済は、その内容が変化します。大恐慌期に妥当した仮説も、
1995年以降の日本では妥当ではないこと多い。自然科学では1930年
代の法則と、2010年代の法則は同じです。

しかし、人間の認識、何を評価するかの価値観、行動経済学のよう
に非合理も含む経済行動は変化します。このため、1930年代の法則
と、2010年代の法則は同じではない。それに文化(判断と行動の様
式)が異なる日本と米国の経済法則も、異なります。

例えば米国では、住宅需要の金利への感応度が高い。金利が上がる
と需要が減り、下がると増えるという強い傾向があります。他方、
日本の場合、金利感応は、米国より低い。金利を下げても米国のよ
うには住宅需要が増えないのです。

日本の、20年間の物価下落の原因は、何だったのか。
これを確定せねば、次の経済政策を作ることができません。
次稿で、検討します。

【後記】
可能な限り、わかりやすく、経済理論的なことを書いています。ア
ベノミクスの当初から、「異次元緩和は、最終的にうまく行かな
い」と書いていたことを記憶しています。

当方の場合、過去のメールマガジンが多くの読者のファイルになっ
ているので、常に、記録が残っています。「円安(=円売り・ドル
買い)と異次元緩和を推進している内閣官房参与の浜田宏一氏は、
将来、売国奴と言われるかもしれない」とすら書いているのです。

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 <828号:消費税の増税延期と財政出動>
         2016年6月1日:有料版
【目次】
1.消費税増税延期と財政出動は、3月に決まっていた
2.異次元緩和が、需要主導型の物価上昇を生まなかった理由
3.次に何をするのか?
4.3%の消費税増税後(14年4月)、消費不況になった理由
5.財政支出の増加は確実にGDPを増やすが、乗数効果は低くなって
いる
6.政府債務比率を減らすことがアベノミスクの目的だったが・・・
【後記】

<829号:サマーズの「長期停滞からの脱却論」(1)>
        2016年6月8日:有料版

【目次】
1.長期停滞は、貯蓄の増加があっても、
投資が増えないことから起こる
2.負債の崖(Debt Overhang)などの論は、部分的な説明
3.自然金利と実質金利
:実質金利>自然金利のとき、経済は長期停滞する
4.貯蓄の超過と寡少な投資がもっとも大きな問題
5.クルーグマンの流動性の罠論についての言及
6.マネー増発政策のリスク
7.名目GDPの達成目標を掲げ、財政を拡張すること
8.財政赤字が巨大化しても問題ではない
【後記】


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