竜ちゃんと直ちゃんの披露宴
This is my site Written by admin on 2005年11月27日 – 08:00

こんにちは、吉田繁治です。今日の送信は、趣旨を変えます。すば
らしい披露宴を、経験することができたからです。儀式は、短い時
間に、生き方を縮図であらわします。

竜(りゅう)ちゃんは35歳、直(なお)ちゃんは、ひと回り若い
24歳です。6年間の付き合いだったと言います。

「ユウとマサノリは、受付をやってくれ」

「結婚式の受付って、どうやればいいんですか。葬式の受付と同じ
ですか?」と言ったのは、小さな居酒屋の『笑家』でアルバイトを
している大学生のユウ君です。

葬儀の受付を見たことがあり、結婚式にはまだ出たことがないそう
です。ユウ君は坊主頭です。ダイハツへの就職が決まっています。
通学しながら、たこ焼き屋と笑家の2つのアルバイトを、同時にし
ています。

「ユウは葬式と結婚式の区別もつかないんだから、ひどいもんです。」
と言ったのは竜ちゃんです。

千里阪急ホテルの受付には、ユウ君とマサノリ君が白いネクタイで
礼服を窮屈そうに着て、顔をこわばらせ、しゃべらずに立っていま
した。

マサノリ君も、笑家でアルバイトをしている大学4年生です。実家
は4店のスーパー・マーケットを経営しています。マサノリ君は、
昨年のニューヨーク・ツアーに、お兄さんとともに参加しました。

お兄さんは大学を卒業後、トロントに短期留学し、今年の9月から
父が創業した家業を手伝っています。ツアーで案内したスチュー・
レオナルドに勤めたいが、どういう方法があるかというメールが来
たことがあります。

私どもは、マサノリ君のお父さんと同じ席でした。「アメリカのス
チュー・レオナルド(現在4店舗)を見て感激し、食品スーパーを
始めようと思ったんです。」と言っていました。このメールマガジ
ンの読者でもあります。

笑家には、近所に住む人たちが、家族連れや夫婦で来ます。倉庫業
を経営している玉城さんは、家より笑屋での夕食が多いらしい。他
の人も、ほぼ似ています。

会場の前で、いつも笑家で顔を見る常連の夫妻10数名が集まり、
談笑していました。建築業の大西さん、村上さん、整形外科医の栗
田さん、仕事はわかりませんが池田さん、川上さん、多田さん、そ
して保険業の村田さんです。

村田さんは、幼稚園の子供の運動会で頑張りすぎ、10メートル走
ってアキレス腱を切りって松葉杖です。そして竜ちゃんのゴルフの
先生、大屋さん。皆、大阪人に特有のユーモアがあります。まるで
漫才です。お孫さんがいるという洒脱な池田さんは、そのままで吉
本芸人の話術。

玉城さんはサングラスで、ソフト帽をかぶっていました。髪がさび
しいからでしょうか。この姿で、一言もしゃべらずにマンハッタン
を歩けば、皆が視線を合わせることを避ける雰囲気を漂わせていま
す。

とても気が利く人で、いたずらっぽい常連客も、自然にリーダーと
認めます。リーダーの条件は、他人への気配りです。人はその気配
りを認め、黙ってはいても、尊敬として返します。気配りは気を周
囲に配る。

「気」は、白川静の『常用字解』によれば、すべての活力の源泉で
あり、大気(地球をとりまく空気の全体)、元気(活動の源となる
気力)として存在し、人は気息(呼吸)することによって生きる、
また人にあらわれるものを気質(気だて、気性)・気風(集団や同
じ地域の人々が共通にもっていると見られる気質)と言う、とあり
ます。

気は企業文化の定義にも通じます。

竜ちゃんは羽織袴でした。モーニングを試着すると、体重100K
gで165cmの体が、鏡の前に立ったコオロギかカブト虫に見え
たので、やめたと言っていました。重そうに色うちかけを着た、白
く細いうなじの直ちゃんは、歩きにくそうでした。

司会者が「お待たせしました。新郎、新婦のご入場です!」と言い
ました。会場は静かになって、期待が走ります。100名くらいの
参加者は、一斉に、会場の扉に視線を向けました。

カーテンが上がり、午後4時の外光が入って、会場が急に明るくな
りました。竜ちゃんと直ちゃんは、皆が注視していたのと全く違っ
た方向の、外の庭園に、二人で立っていました。

竜ちゃんは、気をつけの姿勢で、緊張のためか怒ったような顔をし
ています。目が真っ赤でした。会場の人たちをガラス越しに見て、
直ちゃんが、突然、泣き始めました。歩けるかなと思えるくらいの
涙でした。

直ちゃんの友達の席の女性たちも、ハンカチで目をぬぐっています。
私も、不覚にも、奥歯をかみ締める必要がありました。横の家人
を見れば、披露宴は今始まったばかりなのに、ぼろぼろになって泣
いています。

主賓の挨拶に立った、竜ちゃんのクルージングの先輩は、マイクロ
フォンを持つ手が、ぶるぶる震えていました。竜ちゃんは直ちゃん
と出会いのころ、クルージングに連れてきたそうです。

竜ちゃんの趣味は、海と車です。最近はゴルフを始め、「時代は、
ゴルフや。」と皆に薦めます。彼は自動車には、とても詳しい。

2週間くらい前の笑屋コンペでは、18ホールをあがった直後に滑
って足をくじき、軽い剥離骨折をしました。スコアは120くらい
だったでしょうか。ホールに入ったボールをとるとき、お腹がつか
え、ひざまづきます。

玉城さんも挨拶に立ちました。途中で、自分のお尻のあたりを叩い
ています。後で聞くと、竜ちゃんに、自分の挨拶のこのくだりで泣
けと示すサインだったそうです。しかしサインの必要など、なかっ
たのです。皆が、泣き虫になっていたからです。

乾杯は、鏡割りで、音頭は溝口のおっちゃんでした。阪神デパート
に魚屋を出店していました。5年前の笑屋の開店から約2年、竜ち
ゃんに魚の見分け方と料理を教えていました。今は引退し、時々、
笑家で見かけます。

乾杯の音頭のような、形どおりの挨拶の言葉が決まるには、年齢か
ら来る熟成が必要だと思えました。つかえつかえの言葉に、心がこ
もるのです。

竜ちゃんと直ちゃんは、いろんな人が新郎新婦の席に注ぎに行くビ
ールを、飲み干していました。傍らで見ていて、大丈夫かなと心配
になるくらいの飲みっぷりでした。

お色直しは直ちゃんだけで、現れた姿は、純白のウエディングドレ
スでした。背中と後ろ姿が綺麗に見えるので、選んだとのことです。

直ちゃんは顔が小さく、肌は透けるように白い。アップにした髪に
つけた輝くティアラと、純白の裾が広がったドレスは、名画『ロー
マの休日』のオードリー・ヘップバーンのようでした。羽織袴が相
撲部屋の親方に見える竜ちゃんと、好対照です。

結婚が決まったあと、いつだったか、直ちゃんはカウンターの中で
「笑屋には、産休があるのかなぁ・・・」と言っていました。産休
くらい、取れるでしょうね。

マサノリ君が組んでいるバンドのボーカルが、笑屋の専属歌手と紹
介され歌いました。

吉田拓郎の『結婚しようよ』です。伴奏のギターはマサノリ君。出
演が決まってから毎晩練習したそうです。

♪僕の髪が 肩までのびて
君と同じに なったら
約束どおり 町の教会で
結婚しようよ 

古いギターを ボロンと鳴らそう
白いチャペルが 見えたら
仲間を呼んで 花をもらおう
結婚しようよ

マサノリ君のギターがボロンと鳴りました。拓郎風ではなく、朗々
と響くバリトンでこの歌を聴いたのは、初めてです。搾り出すよう
な動作をし、大きく体を揺らし、手を差し伸べ、透き通る声をだし
ていました。

直ちゃんが、あるくだりで、竜ちゃんとのことで何かを思い出した
のか、激しく嗚咽(おえつ)すると、会場は共感に包まれました。
直ちゃんが泣くと、つられて皆が泣くのです。

花束の贈呈では、直ちゃんが、お父さんへの手紙を朗読をしました。
数年前に脳梗塞で倒れ、看病のため、直ちゃんは笑屋のお手伝いを
やめていました。

直ちゃんは、何度も何度も言葉につまり、読みました。

「お父さん 直が 小学校のころ 花博に 連れて 行ってくれた
よね。 あのとき 直は とても 嬉しかったです。脳梗塞になっ
て 言葉が 不自由だけど いつまでも 元気で 暮らしてね。 
今日まで 直を育ててくれて ありがとう・・・」

窓際には、元気になった直ちゃんのお父さんと、竜ちゃんの、丸い
眼鏡をかけたお母さんが、ポツンと立っていました。

竜ちゃんのお母さんも、酒屋を経営していたご主人が亡くなり、酒
と米の販売と配達をしながら、二人の子供を育てたのです。披露宴
の主役は、直ちゃんのお父さんと、竜ちゃんのお母さんに思えまし
た。

花束を渡すと、直ちゃんは、竜ちゃんのお母さんに抱きつき、崩折
れそうでした。披露宴の最後は、竜ちゃんの挨拶でした。

「皆さん、忙しいところ、来ていただいて、ありがとう、ございっ
す。ありがとう、ございっす。ありがとう、ございっす・・・」

何度、繰り返したでしょうか。ありがとうの言葉だけですが、一級
の、これ以上はないと思える、お礼の挨拶でした。

ユウ君とマサノリ君から聞いたことがあります。中学校のころの放
課後、毎日のように、近所の子供が竜ちゃんの家に集まっていたそ
うです。

集まった子供たちが自宅へ帰って夕食を済ました後、また竜ちゃん
の家に来ることもあったと言います。ユウ君とマサノリ君たちは、
竜ちゃんを「にいちゃん」と呼びます。子供は、人と言葉の嘘や真
実を見抜きます。

お母さんは「おばちゃん」です。集まっていた子供たちの2番目の
母のようです。ご主人の名前がついたハルキ酒店を1人で切り盛り
するお母さんを、子供たちが慕っていたのでしょう。「皆、とって
もいい子ばかりなのよ」と言っていました。いつも笑顔です。結婚
した直後から重いビール箱を運んでいたので、今は腰を悪くしてい
ます。

毎日、笑屋の狭い厨房で働いています。今は、直ちゃんに料理を教
える役目です。笑屋の2階に、竜ちゃんと住んでいましたが、結婚
を期に、別のところに1人で住むことになりました。

竜ちゃんは、トラブルが起こったとき、どういう方法を使うかはわ
からないのですが、きれいに解決してくれたそうです。正義派不良
の番長だったのでしょうか。お母さんからは、「何回も、竜のこと
で学校に呼び出しを受けたんですよ。」と聞きました。

同じホテルの中で、二次会が準備されていました。共感の強さで去
りがたく、二次会にも出ました。常連客の十数名も、ほぼすべて、
二次会に出ていました。

3つの丸テーブルを、ガヤガヤ騒いで寄せ、集まったのです。直ち
ゃんのドレス姿の友達のテーブルと、世代が違う常連のグループが
好対照でした。

思い思いにお祝いの言葉を述べ、若い友達たちは歌って、ビンゴゲ
ームに騒ぎ、クリスマスのイルミネーションで飾られたプールに、
幸運のブーケを投げるために移動しました。当日の夜の気温は、
10度以下だったでしょう。

マサノリ君、ユウ君、そして今日だけの専属歌手が、服を脱ぎ始め
ています。飛び込むのかと聞けば、「やります!」 

3人がパンツ1枚で、プールにジャンプしました。じゃばじゃばさ
せ、「さぶいッ、冷た、いッ!」と叫んでいます。冬のプールが寒
く、水が冷たいのは当然でしょうね。

革のジャンバーに着替えていた竜ちゃんも、友達に押され、そのま
まの姿でプールに落とされ、礼服の、頭をつるつるに剃った人も飛
び込まされて、「携帯が、死んだ、死んだ」とわめいていました。

直ちゃんは、二次会でも、気に入ったウエディングドレス姿を続け
ていました。プールの脇で、数名の友人に囲まれ、もみ合っていま
す。

後で聞くと、「直も飛び込む。」と言い一目散にプールに走ったの
で、友人達がびっくりして、「その姿ではダメ」と抱きとめていた
そうです。

松葉杖の、茶のダブルのスーツを着た村田さんも、プールの脇で皆
に押され、「やめぇや、やめぇや」と大声で騒いでいました。寸前
のところで、皆がとめました。

ホテルの係員が、バスタオルを何枚も持ってきました。竜ちゃんは、
服を脱いで丸いお腹を出し、パンツ1枚になっていました。係員
は「ついにやったか」という表情でした。

二次会の最後に、竜ちゃんは生まれて初めて書いたという手紙を読
みました。そのホテルの、レタペーパーでした。

「あんた、ほんとに、手紙、書いたん。」と直ちゃんは言い、竜ち
ゃんがうなずくのを見て、わぁと声をあげ、泣き始めました。

「直子、俺は、笑家を、豊中1、ニッポン1の店にしたるからな。
直子、お前のことを好きや。」 

どこかで聞いたようなせりふですが、直ちゃんは、何度も、「ほん
と、あんたが、手紙書いたん。」と確かめ、そのたびに、子供のよ
うに大きな声をあげ、泣きました。

言葉は心でした。心が言葉でした。普通の言葉が、この日は、輝い
ていました。

披露宴に参加した皆が、竜ちゃんと直ちゃんを好きだったからです。

笑屋は、いつ行ってもお客が一杯で、笑い声に包まれています。

【後記】
<追悼:ドラッカー『仕事ができる人の習慣(3)』>は、次週送
ります。今回は、竜ちゃん直ちゃんの披露宴について、書きたかっ
たのです。

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