米英の証券化金融が極まり、転換する経済(1)
This is my site Written by admin on 2008年7月14日 – 08:00

こんにちは、吉田繁治です。発行の途切れを、お詫びします。調べれ
ば、その間も、2000名以上の読者が、増えています。新しい読者の方
にも、申し訳なく存じている次第です。いい内容の、論考・考察をお
届する義務が、当方にあると思っています。

姉妹マガジンの有料版も、お陰様で、全部門で総合1位を続けています。
『ビジネス知識源プレミアム(週刊)』です。
http://premium.mag2.com/mmf_rank/mmf_rank_wek.html

久しぶりに、無料版を書きます。テーマは何が適当か。今、わが国を
含む世界経済が、ここ数十年を見渡しても、かつてなかった「転換」
を果たしつつあるように感じています。

設備投資サイクルが生む好況/不況という、経常的な、循環ではない。
政府は「秋には回復する」と言っていますが、根拠はない。経済の
回復の60%部分は、個人消費の増加を言います。秋になれば、政府が
言うよう、どんな根拠で、わが国の個人消費(約300兆円)が増えます
か? 世帯の総所得は増えないのに物価は上げ、社会福祉はカットさ
れているのに・・・政府のコトバは、消費税を上げるための名目に過
ぎません。

現在の転換に匹敵するものと言えば、わが国に15年の経済成長の停滞
をもたらした「資産価格(不動産・株)」の下落です。

一般に「バブル崩壊」と言われますが、根底は、今回と同じ「80年代
の金融膨張(わが国では円の増刷)と資産価格の膨張」が、天井まで
行き着いた結果でした。

(1)信用恐慌含みになった:
米国、英国、スイスを含む欧州の、膨張していた「証券化金融」が、
・2006年6月からの、米国の住宅価格の下落を起点に、
・07年8月には、「住宅関連証券」の流通市場の消滅にまで至り、
・今、「信用恐慌」と言える規模にまで進化したこと。

(2)根底にあるのが、米ドルの購買力の低下:
3億人の人口を擁する米国は、「1年に100兆円規模の貿易赤字」を続け
ています。これは、持続不可能なものです。それに、2003年からは、
「1年30兆円のイラク戦費」が加わっています。

ノーベル賞経済学者のスティグリツは、近刊『アメリカを不幸にする
戦争経済』で、イラクに投じられる特別戦費(1年50兆円の軍事費以外
の各種予算に分散)は、少なく見積もっても、「10年で300兆円の政府
負担」になるという計算を明らかにしています。

これらは、いずれも米国からの「ドル垂れ流し」になります。一例を
挙げれば、世界の貿易黒字国の「外貨準備」は、$6兆(600兆円)を
超えています。1年に、100兆円相当増えます。その60%は、米ドル建
ての証券です。このためドルが下がる。

古典的な通貨は、紙幣です。しかし、垂れ流されているのは、100ドル
紙幣ではない。コンピュータのデジタル数字になった「ドル証券(se
curity)」です。このドル建ての証券(国債・社債・株・住宅関連証
券)を、海外の金融機関や個人が買うことで、巨額な資金供給が行わ
れてきた。

「米ドル基軸体制」と言われる「世界の資金循環構造」が、イラク戦
争に始まる2003年からの、ドル証券の価格低下のため、日々、持続不
可能な姿を見せています。

(3)一次産品の高騰からのインフレ
「イラク戦争の2003年」ころから特に激しくなった「米ドルの価値下
落」と呼応し、原油をシンボル財として、エネルギーと資源、そして
穀物までも、数倍の価格に高騰しています。

「ドル基軸体制」の世界では、米ドルが、モノの価格を計る基準にな
っています。この米ドルと「直接に連動」している通貨は、日本円、
中国元、そしてドルペッグ制をとっているサウジや首長国です。

米国を輸出市場とするこれらの国々では、米ドルと同じ「通貨下落」
を蒙っています。それが、資源高騰です。

ユーロは、対ドル、対円、対元で、1.7倍(現在1ユーロは170円)に上
昇しています。これも、価値を下げたドルを基準にして見るための
「相対的」な上昇に過ぎない。政府の財政赤字をGDPの3%枠に規制
しているユーロ圏でも、直近の消費者物価上昇は、4%という高さです。

ユーロは、円や元ほどは、米ドルに連動しているとは言えません。し
かし「価値が下がるドル建て証券」を保有しているため、やはり「モ
ノの購買力」では価値下落しています。

なぜ、以上のような結果に至ったのか、原因を明らかにしないと、対
策もなく、将来への見通しも作れません。本稿は、無謀にも、それら
の総体を、それぞれの金額を明らかにしながら、単純な原理から、解
こうと試みるものです。

(注)250兆円の元本資金をもつヘッジファンドの投機が、一次産品の
高騰を招いた原因と言われます。確かに、50%部分くらいは、投機に
よって、説明は可能でしょう。しかしそれは、現象的な姿です。根底
にあるのは、ドル証券の市場価格の低下、つまりドルの購買力の下落
です。これはドルの「貨幣膨張」から起こっているものです。

本稿は、2号分で23ページです。読むのに約1時間でしょうか。途切れ
たお詫びに、有料版との共通部分を含んでいます。

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<Vol.227:米英の証券化金融が極まり、転換する経済(1)>
         2008年7月14日

【目次】

1.原理は、MV=PT
2.米国コモディティ・インデックスの市場は25兆円
3.信用縮小後の、コモディティ価格の急騰はなぜか?
4.米国における金融経済の膨張
5.信用膨張は、金融工学と乗数金融の発達でもたらされた
6.利益も損も、倍数化する乗数金融
7.30倍の、巨額レバレッジ
8.ヘッジファンドの損失と巨大投資銀行は一蓮托生

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■1.原理は、MV=PT

われわれは、日常生活ではケインズが言った「貨幣錯覚」をしやすい。
貨幣錯覚とは、今日の1万円や100ドルは、明日も、来年も同じ価値を
持つという誤認です。そのため預金する。ところが貨幣価値は、変
化します。デフレで高まり、インフレで価値を下げる。

▼貨幣膨張

物価が上がるインフレを、中国では「貨幣膨張」と言うことを知りま
した。なるほどこれは、正確な用語です。

100億円や1億ドルと言っても所詮は「数字」です。何が買えるかで、
貨幣の価値は決まる。チョコレート1枚しか買えなければ、価値はそれ
だけしかない。

アフリカ南部のジンバブエ(人口1300万人)では、ハイパーインフレ
が起こっています。1米ドルが、2億5600万ジンバブエ・ドルと言う。
(08年5月)

2億5600万ジンバブエ・ドルを、袋に詰め、商品の乏しいお店に行って、
1個のパンが買える。これが、通貨の性格です。単位(億や兆)も、桁
数の多い数字です。韓国のウォンも円の10分の1です。

しかし先進諸国では、政府・中央銀行が、経済に合わせ貨幣の発行量
を抑制するので、「とんでもないインフレーション」は起こりにくか
った。

独裁政権のジンバブエのような、無謀な通貨発行はしないという政府
信用を理由に、円も米ドルも元もリアルも、その価値(購買力)が、
信任されています。中央銀行の役割は、通貨価値を守ることです。

ところが歴史を見れば、中央銀行が、しばしば、通貨政策を、大きく
間違えます。

▼MV=PTの原理

貨幣量と物価の関係を示すのは、米国の経済学者フィッシャー(1867
〜1947)が作った、古典的な公式です。(マネー数量説と言われます。
今これを取り上げる人は少ない。)

M(貨幣量)×V(貨幣の流通速度)
               =P(物価水準)×T(商取引量)

MV=PTの関係は、「マーシャルのK(=GDP÷通貨発行量)」
として1980年代までは各国で計算され、マネー政策の基調を形成して
いました。GDPの増加を、若干上回る貨幣発行量が、インフレや、
その逆のデフレを起こさない経済の成長に適当とされていた。

しかし後で述べる90年代の「証券化金融」と「金融のグローバル化」
とともに、「マネー量の総体」がわかりにくくなって、日米欧で、集
計計算がされなくなっています。しかし、MV=PTは、原理として
生きていると感じたのが、ここ最近です。

【単純化した事例】
A国の、商品生産量を100単位とします。物価が1であればGDP(国
内総生産=商品量)は100です。その時、貨幣量が10であれば、貨幣の
流通速度(=回転率)は10になっている。

M(10)×V(10)=物価(1)×商取引量(100)です。

通貨が増刷され、市場で流通する貨幣量が2倍(20)になるとどうなる
か? 

通貨の増刷とは、中央銀行が通貨を刷り、金融機関や政府に、低い金
利(公定歩合)で貸すことです。
・金融機関がもつ証券を、中央銀行が買い取っても同じです。
・政府が発行する国債を、中央銀行が買っても同じです。
 振り込む代金が貨幣です。

金融機関に増えたマネーは、その時の金利率以上の利益を、生まねば
ならない。金融機関は、誰かに貸し付けます(あるいは自己運用)。
借りた人は、その借り入れから利益を生まねばならないので、投資を
含む商取引に使う。

これによって、その国で流通する貨幣量が、2倍に増える。
しかし商品の生産量は、急に増やすことはできない。
結果は以下です。

M(20)×V(10)=物価(2)×商取引量(100)

つまり物価が2倍に上がる。しかし経済規模(GDP:言い換えれば商
取引量)は変わらない。物価が2倍とは、貨幣の価値(購買力)が2分
の1になったことと等しい。この極端な通貨発行が、今の、ジンバブエ
です。

増えたマネーで住宅証券や株が買われている間は、それらが上がる。
一部が、コモディティ市場に流れれば、原油・資源・穀物が上がる。

世帯の所得も、それにつれて上がるのならいい。しかし、商品物価は、
低い賃金の新興国の工業化と輸出で、住宅や資源ほどは、上がらな
かった。そのため企業の売り上げも増えず、賃金は上昇しない。

これが、第一次オイルショック(1973年)と異なる点です。1973年に
は、物価の上昇(30%)と、わが国賃金の上昇(30%)は、比例して
いました。理由は、世代が若く、企業の生産性上昇も高く、企業の数
量売り上げも、増えてたからです。今は価格が上がると、商品購買が
増えない。世帯所得が、増えていないからです。

■2.米国コモディティ・インデックスの市場は25兆円

▼米国の商品取引所

原油・資源・穀物の、数倍への値上がりは、コモディティ・インデッ
クスの市場に、ヘッジファンドによって、米ドルの価値下落を嫌うマ
ネーが、注ぎ込まれたことを示します。

米国のコモディティ・インデックス市場(国際商品の先物市場)は、
2008年で、25兆円の規模しかない小ささです。ここでの先物取引で、
世界の資源価格が決まる。来月や来年、または10年後の原油等を取引
する市場です。

これも、米ドル基軸通貨体制と言っていい。米国にある商品取引所に
注がれる米ドルで、国際商品(コモディティ)の価格が決まり、その
価格で、世界の輸出入が行われるという「制度」だからです。

世界は、この制度を、信任しています。東京にも商品取引所がありま
すが、ドルに従属する円であるためローカルです。

●この市場に、4半期(3か月)単位で、金融機関から借りた米ドルの
真水マネーが、(わずか)3兆円分、余分に注がれています。

これによって、昨年の8月に$70〜$80だった原油は、1バーレル$140
と2倍になり、他の資源もつれて上がって、小麦、トウモロコシや米も、
数倍の価格になった。

わが国のカップヌードルも、3月頃から100円から130円に上げ、ガソリ
ンは1リットルで2倍の200円付近になった。他の食品も、5%から10%
上げていて、企業間の卸売物価は、6%上げています。(注)消費者物
価では、中国が7%、欧州と米国は、約4%の上昇です。

以上は、マネー量との関係で、当たり前のことであって、不思議なこ
とではない。物価上昇は、マネー量から言えばまだ少なすぎるくらい
です。(注)問題は、後で述べる注がれるマネーの、中身の変化です。

▼今は「貨幣量」の中身が、問題

MV=PTにおける貨幣量は、以前は、預金量として把握されていま
した。M2(預金+譲渡性預金)というのがそれです。

しかしわが国では、M2(約700兆円の預金)は増えていません。直近
(08年5月)で、0.7%の増加に過ぎません。個人の預金残は増えてい
ない、むしろ、多くの人で、今は減っていることを思えば、首肯でき
るでしょう。(注)上場企業の預金残は増えています。

M2を「古典的貨幣」と呼ぶことにします。個人、企業、政府の預金で
す。これが今、20%を超える勢いで増えているのは、世帯の貯蓄率の
高い中国と、(預金量の統計が公開されない)アラブでしょう。アラ
ブでは40%以上の増加かも知れません。空前の景気です。

世界規模では、「古典的貨幣(預金)」は、さほど増えていません。
日米では世帯の預金は減り、欧州でも、増加は少ない。(注)M2は、
貨幣の量ですから、物価の上昇率を引かない「名目」で計ります。

じゃ何が、マネーとして増えたのか?

▼証券化とレバレッジ(乗数金融)

米英の金融機関とファンドを中心にして、
(1)金融の証券化と、
(2)レバレッジ(乗数金融)が進んだ1980年代中期以後は、
このM2を、古典的貨幣(預金量)だけで捉えることはできない。

【証券の拡大概念】
例えば、上場企業の株(世界で約5000兆円の評価を中心に波動)は、
市場で現金化ができます。国債も、銀行にもって行けば、すぐ現金に
替わる。社債も同じです。これらをまとめて「証券(security)」と
いうことにします。

この証券が、急増した。M2は、銀行の負債(預金)です。証券は、各
国政府(国際)、投資銀行(証券)、企業(社債と株)、そして世帯
の住宅ローンとしての負債です。

●1980年代以後のM2(通貨量)は、古典的貨幣(各国の通貨)だけで
計ることはできない。準通貨である「証券」を加えて、見なければな
らない。

この証券が、2000年代以後、わが国を除く世界で、急増しています。
(注)わが国では、バブル崩壊以後の、金融機関のリスク耐久力の乏
しさから、金融の証券化は、さほど進展していません。

【レバレッジ】
米英欧での「90年代の証券化金融」に加わったのが、金融機関とファ
ンドによる「乗数金融(後述)」です。

リスク率が低かったことから自己資本の30倍余の資金を、ファンドと
金融機関が運用するように変わった。預金を運用する古典的な銀行で
はなく、他から借りて証券投資をする投資銀行(Investment Bank)と
言うように、内容が代わったのです。

世帯の預金を集め、それを長期(10年以内)、短期(1年以内)で貸し
付け、金利として収益を得る「古典的な銀行」が、(1)証券化と、
(2)低金利が原因のレバレッジで、様変わりしています。

金融革命(ビッグバン)以後の米英で、かつての商業銀行の古典的業
務が、内外からマネーを集め、証券に投資して、準マネーを膨張させ
る投資銀行に変わった。ここを、見ておかねばならない。

■3.信用縮小後の、コモディティ価格の急騰はなぜか?

そして、2007年8月(サブプライムローン危機)以後、
●この証券化とレバレッジに、リスクが高まって、
●「信用縮小とドル下落」が同時に起こっています。

円は、中国元やサウジのリアルと同じ、米ドル従属通貨です。政府が、
国民に断りなく、米ドル従属を選んでいます。

仮に、ユーロへの従属を選べば、日本の世帯の、預金(700兆円)の実
質価値(対外購買力)は、ユーロ投資で2倍以上に上がったでしょう。

ただしそうすると、輸出企業の円換算での売り上げは、半分以下にな
っていた。加えて、わが国の金融機関と財務省が、保有するドル証券
(合計で610兆円:中身は主が米ドル:07年12月)を売れば、ドル基軸
は2000年代の早期に終わり、米国は不況のどん底に陥っていました。
http://www.mof.go.jp/houkoku/19_g.htm

【1200兆円の住宅ローン】
07年8月以降は、米欧英は、米国のサブプライムローン(130兆円)、
オルトAローン(130兆円)を中心に、プライムローンも含んで、住宅
ローン関連証券(米国で1200兆円の残高)の、流通市場の消滅という
事態に直面しています。

都市部の住宅が、米国に比べ高いわが国の、住宅ローンが200兆円(世
帯当たり総平均で400万円)ですから、米国の住宅ローン(世帯の総平
均で1200万円)の巨額さがわかります。

【600兆円の住宅証券会社は、今、倒産寸前】
08年7月には、住宅ローンの買い取りと証券発行を業務とする政府系の
ファニーメイとフレディマック(両方で$6兆:600兆円の総資産規模)
が、住宅価格の下落による巨額損失で、破産に至りつつあります。

ファニーメイとフレディマックは日本で言えば、国債を持つ郵政公社
(300兆円の総資産)に相当します。

メディアでは、倒産を防ぐに必要な増資が8兆円とされていますが、0
8年7月以後の、米国の住宅価格下落(30%)を思えば、これでは足り
ないでしょう。日本で郵政公社がつぶれれば、どうなるか。それが、
ファニーメイとフレディマックです。

ファニーメイとフレディマックは、民間金融機関の住宅ローンの証券
市場(約600兆円)が消滅した07年8月以後、一手に、住宅ローンを買
い取り、ローン証券を発行し、売っていたのです。

これらは、不動産と株価の下落後の、日本の90年代のように、物価を
下げる要素です。(わが国は不動産で1000兆円、株価のボトム(03年)
で400兆円の、時価の喪失があった。)

●2007年8月以後の、米欧英の金融機関の、以上のような信用縮小を、
証券の買い取りと、貸し付けで補っているのが、米国と欧州の中央銀
行FRB(連邦中央銀行)と、ECB(欧州中央銀行)の、マネー増
刷です。
(注)とても足りないというのが分かるでしょう。

●加えて、ドルペッグ圏(アラブ、中国)からの、増加する貿易黒字
を使う(1)ドル証券買いと、(1)ユーロ証券買いです。これがある
から、今、世界恐慌が起こらなくて済んでいると言っていい。

中央銀行によって増刷されたことと同じ、海外からの、増加のドル買
いのごく一部が、金融機関からファンドに流れ、ファンドが、コモデ
ィティ・インデックスを、3か月で3兆円分、投機的に買いあげている
と理解すればいい。

サブプライムローンを起点に、米欧に信用縮小が起こった08年7月の原
油価格は、1バーレル(159リットル:ドラム缶1本分)70ドル付近でし
た。これでも、価格の50%以上の分に、ファンドの投機を含んだ価格
でした。

本来は、今、欧米の金融機関の、巨額な信用縮小(=損失)のため、
資源も住宅も株も物価も、下落しなければならない。

しかし、
(1)FRBとECBが、民間金融機機関とファンドの信用縮小を補い、
(2)アラブと中国そして日本が、ドルとユーロを買ったため、現在の
  価格は、投機が投機を呼ぶ相場になって、$140付近です。

■4. 米国における金融経済の膨張

GDP(商品生産量)の実質額に対し、米国の「金融的な資産と負債」
の総量(Financial Assets) はどうなってきたか? 

【金融機関・企業・世帯がもつFinancial Assetsの時価の急増】
   〔年度〕           〔GDP対比〕
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
1960年代〜1980年の20年間      ほぼ、400%
1981年〜1990年の10年間       600%に増加
1991年〜2000年の10年間       800%に増加
2001年〜2007年の7年間       1000%に増加
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
         (米FRB:英エコノミスト誌:080319号)

1980年代まで、米国の金融機関・企業・世帯がもつ金融的な資産の時
価は、GDP(経済の実質規模)の約4倍で、固定していました。

ここで言う「金融的な資産」には、預金、国債を含む債券、株券(時
価2000兆円:07年:日本の5倍)、社債、保険、年金基金(総額で100
0兆円:06年:日本の5.8倍)、及び住宅価格の時価総額(3000兆円:
07年:日本の3倍)を含みます。

預金が金融機関の、預かり金(=預金者から借りた負債)であるよう
に、金融的な資産には、対応する別の主体の負債がある。従って、上
表のGDPの10倍は、負債の増加と言っても同義です。(注)米国政
府の負債はその一部であり、わが国と同額の1000兆円です。

バランスシートと、同じ原理です。例えば、ファンドや投資信託が使
う資金は、出資者が預けたものです。

世帯の住宅資産(3000兆円)に対応する負債は、1200兆円の、住宅ロ
ーンという負債です。

以上を合計すれば誰かの負債が、2000年代で米国のGDPの10倍(1京
3000兆円)と、巨額になったのと同じです。日本のバブル崩壊以後、
世界で、「金融的な資産のハイパーバブル」が起こったと言えます。

「金融的な資産=負債」は、全部が貨幣とは、言えません。

しかし住宅や株券は、商品を買うときの通貨に、換えることができま
す。その意味で、貨幣に準じます。信用の総額に属する、準マネーと
言っていい。

●これら金融的な資産が、1980年代の半ばころから、過去からのトレ
ンド線を大きくはずれ、2007年にはGDPの1000%(10倍)に「膨張」
しています。

【負債と同じ】
米国のGDPは、1ドル100円換算で1300兆円くらい(日本の2.5倍)で
す。ここで金融的な資産の総額が、1京3000兆円(米国の実質GDPの
10倍)という巨額に、膨らんでいます。

これが、維持不能であることは、誰にもわかる明白なことでしょう。
借りた人やファンドが、利払いできるということがないと、金融的な
資産の価値はないからです。

【わが国の政府負債1000兆円】
例えばわが国では、1500兆円の個人金融資産(預金、保険、年金、株、
債券)が、計算上あることになっています。しかし利回りは0.7%か
ら1.6%と低い。1500兆円のうち、1000兆円も借りている政府部門(国
+地方自治体)が、1%以上の金利払いが、できないからです。

金利が5%なら、50兆円の税金を使わねばならない。50兆円は、2008年
の国税の総額(国家収入)と同じ額です。

つまりわが国は、今後も、(政府財政を維持するなら)ほぼ永久に、
低金利です。金利が上がれば、企業の前に、政府財政が破産します。
政府の破産の結果は、円安(1ドル=200円以上)です。

米国の金融的な資産が、減ったのは、2001年の、ドットコムバブル(
IT株バブル)の崩壊による株価下落によるものだけです。(注)50
00ポイントだったナスダックが50%下落し、現在に至っています。

上記の金融的な資産に含む、米国の住宅価格の水準は、統計が取られ
始めた1987年を63とすると、2000年に100(1.6倍)に上がりしました。
(ケース・シラー指数)

2006年9月のピークには、225(3.6倍)に上げています。今、米国の住
宅資産の総額は、GDPの2.3倍の、3000兆円でしょう。1億戸×全米
平均価格3000万円=3000兆円です。

米国の株価の時価総額は、2000兆円で、GDPの1.5倍でしょう。

(注)住宅価格は2008年4月では183と、ピークからは19%下落です。
30%余の下落は、あると見ています。

以上のようにして、2007年に至る米国経済の「信用総額(=禁輸的資
産)」は、
(1)90年代からの株価上昇とその維持、
(2)継続的な、住宅価格の上げ(06年まで16年間)、
(3)債券価格の高騰(=低金利)を主因に、
GDP(=商品生産力)の10倍の大きさにまで、過剰に「膨張してい
ます」。

信用総額を構成する住宅資産・株・証券等は、直接にモノを買える貨
幣ではない。しかし容易に、現金に交換できます。

【商品先物】
例えばファンドや投資信託は、預かり資産の一部を使い、商品先物(
コモディティ・インデックス)に投資しています。

前述のように、この先物投機が淵源になって、原材料・運送費・加工
費を上げ、世界の消費者物価を上げています。コモディティ市場では、
以下の等式が働いています。

〔貨幣数量×その流通速度〕=〔物価水準×商品の取引量〕
      ↓            ↓
    〔金融経済〕      〔実物経済:GDP〕

以上が、まず、確認しておくべき事項です。

■5.信用膨張は、金融工学と乗数金融の発達でもたらされた

【金融工学とレバレッジ金融】
1980年代の半ばころを起点に、米英の金融は、大きく変化します。

背景になったのが、回収リスクを確率化する金融工学の、金融取引へ
の応用です。これが同時に、後で述べる乗数金融(レバレッジ)も、
発達させます。

英米が、不動産と株価の上昇トレンドにあった約15年間で、将来の下
落のリスク率は、低い確率とされたからです。

リスク計算は、過去の価格変動をデータにして、はじき出すものです。
過去の価格変動の、標準偏差に、依存します。

【確率計算では抜きがたい自己強化のサイクル】
商品の予測発注と同じく、過去の売り上げ数が増えていれば、予測で
も、売り上げの増加を見込みます。株や不動産価格の予測も、同じで
す。

「確率的な予測では、過去の価格上昇を延長するしか、他に方法はな
い。」

相場の、経験による「質的な判断」ではない。質的な判断なら、「お
かしい」という直感から、転換点を読むことができることがある。例
えば予想企業利益に対し、株価が高すぎるという判断などがそれです

▼予測の自己強化

しかしコンピュータで、過去の価格をデータに、価格変動を確率計算
すると、過去の傾向が、強化されます。

上げ相場が続くと、価格が下げるリスクは少ないと計算されるから、
買う人と買う金額が、増える。買いが増えれば、他に理由がなくても
価格は上がります。株価に、理論価格(将来利益の割引現在価値)
はあっても、適当な価格というものはない。買われる価格が株価にな
る。住宅も同じです。

2001年の株価下落の後、米国のみならず(ドイツを除く)欧州を含み、
80年代までの日本のような「住宅神話」が作られたと言っていい。
(注)わが国の80年代より、上昇の程度は低いのですが。

価格が上がるから、買いが増え、価格が一層上がるという「自己強化
のサイクル」になる。これが、今の原油相場のように、需給の関係で
の価格を離れて、バブル化します。

【金融の自由化】
加えて、80年代までの金融には、対外資本取引を含め、様々な規制が
あったのですが、それらは順次撤廃された。

日本に、英国流の金融の自由化(ビッグバン)を求めたのも、その一
環です。時の橋本内閣はそれを受け入れます。英国Financial Times紙
は、英政府と金融機関の投資政策を広報してコメントする金融新聞の
ようです。

小泉内閣に、国郵貯・簡保の、民営化を求めたもの米英の政府です。
300兆円余の資金が、欲しかったからです。郵政公社は、民営化で株価
の想定時価は10兆円です。ヘッジファンドで、5兆円の株を買えば、
300兆円の運用を支配できます。

【米英の金融業という活路】
米英は、自国製造業の空洞化(1980年代)の後の90年代経済において、
金融の自由化と市場化に、活路を求めたと言っていい。その意味で、
戦略的でした。

2003年のイラク戦争も、米英が、原油価格の決定権を、自国内の商品
市場で、握る目的のものです。テニスのような、金融のウィンブルド
ン化を目指した。ウィンブルドンには世界の、テニスの強者が集まり
ます。

グローバル化及び市場経済とならんで、これが、米英の政府政策でも
あった。

●米英では、かつての製造業の位置が、90年代に、金融業に振り替わ
ったと言えば、その転換が、わかるでしょう。そのため、モノを作ら
なくても、GDPは減らなかった。所得も増えた。

モノづくりの日本が、低い賃金の中国の、工業化による価格下落で、
ゼロ成長と賃金の下落に苦しむ間、米英は、金融業の利益で成長した。

「株主資本主義」と「ファンド資本主義」が、それを支えたイデオロ
ギー(思潮)でした。ここから、巨額な所得格差も、生まれます。

金融では、1人で1年に10億円の所得を得る人も、多い。コンピュータ
画面を見た、数字の投資だからです。元本運用が1000億円と大きけれ
ば、2%の手数料でも20億円の収益になります。

ロンドンのシティと、NYのウォール街は、日本、中国、アジア、ア
ラブから余剰マネーを集め、手数料を収入とし、大きく発展します。
もちろん、自己売買も多い。

そのインフラ・ストラクチャー(基盤)になったのが、
(1)画面の中で、世界を瞬時に動くマネーのデジタル化と、
(2)投機のプログラム化、つまり情報化です。
(3)そして、金融工学による、さまざまな金融先物商品の登場です。

【金融業の膨張の証明】
1980年には、金融サービス業の利益は、米国の全部門の、企業利益の
10%に過ぎなかった。

2007年には、以下に示すよう、製造・流通・小売り・サービスの、全
部の企業利益の、40%を占めるまでに「膨張」しています。これは驚
くべきことです。

今、米英でもっとも大きな産業が、金融業になったと言っていい。

サブプライムローンの延滞の増加に端を発する米国、英国の金融機関
の、巨額損失(現在は40兆円位とされています)は、原子炉における
炉心の溶解に似た、衝撃です。

2009年までの最終的な損害は、住宅価格の30%の下落で、300兆円に達
する可能性が高いからです。加えて、他の証券化商品の下落で、合計
500兆円でしょうか?

90年代以後の日本経済と企業を、15年にわたって苦しめた100兆円の不
良債権に相当します。(注)米欧のGDPを合わせれば、日本の約5倍
です。日本にとって100兆円の不良債権の重みは、欧米にとっては500
兆円の証券価格の下落です。

【金融業(Financial Service)の利益が、全企業利益に占める割合:
米国】 (BCAリサーチ:英エコノミスト誌080319)

    全企業利益に占める割合  株価時価総額に占める割合
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
1980年    全企業利益の10%    金融業で6%
1985年         15%
1990年         20%
1995年         20%
2000年         25%
2005年         30%
2007年         40%      同19%
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

2007年8月、サブプライムローン問題の勃発前のピークでは、金融業で
稼ぐ利益は、全企業利益合計の、40%までを占めていました。2008年
の今、これは、0%に向かい、急減しています。

例えばGE(ジェネラル・エレクトリック)と言えば、松下のような
電器会社です。しかしGEは、ジャック・ウェルチの改革で、90年代
に、その事業の50%以上がが保険・証券・不動産を取り扱う金融業に
変身しています。

これら金融業の、米国のGDPに占める付加価値産出(粗利益)の割
合は2007年で15%です。従業員数は、全米の労働者数の5%です。

生産性(=付加価値算出高)は、他の産業より、3倍高い。
したがって、金融業の平均所得も、3倍になり得ます。
1年数千万円の賃金は、普通です。

しかし、資産相場が下落した時の損害は、金融機関が連鎖し、巨大に
なります。これは製造業が潰れるときの、比ではない。それが、07年
8月以後の、米欧英で起こっているのです。

欧米の金融機関とファンドの自己資本の合計は400兆円と言われます。
今後、500兆円の損害が生じれば、合計で、債務超過になる。債務超過
は、犠牲を払う増資か、自分の利益でしかうずめられない。

例えば、アルプスの金融大国であるスイスは、今、証券の損失の拡大
から金融崩壊の前夜のような様相です。(注)アラブの巨額資金は、
スイスとロンドンのシティを経由し、米国に流れています。

■6.利益も損も、倍数化する乗数金融

【レバレッジ】
乗数金融とは、レバレッジです。例えば、顧客から預かった元本が
1000億円とします。

(1)これで1000億円の、価格変動がある国債や証券を買う。買った国
債や証券の、担保としての掛け目が90%なら、他の金融機関から900億
円を借りることができる。
(2)この900億円で、また国債や証券を買う。
(3)そしてそれを担保に810億円を借り、また買う。

こうした「レバレッジ」を繰り返せば、合計の運用額は、無限等比級
数の原理で、10倍になります。貸し手になるのは、世界の証券会社や
銀行です。

元本1000億円+810億円+729億円+648億円・・・・
             =1000億円÷(1―0.9)=運用総額1兆円

上記の例のように、10%が担保の欠け目(担保掛け目90%)なら、最
初の元本1000億円を使うレバレッジによって、最大1兆円の運用を行う
ことができます。これがヘッジファンドの方法です。

運用の粗収益が7%であり、借入金利が5%なら、利益は〔1兆円×(7
%−5%)=200億円〕になります。

1000億円の元本に対し、20%(200億円)の利益です。この利益は、株、
証券、不動産の上げ相場のとき、もっと大きくなる。

このようにして、金融機関相互のレバレッジが積み重なり、金融機関
・企業・世帯がもつFinancial Assetsの時価は、2007年で、GDPの
10倍(1京3000兆円)にも、膨らんだ。

2000年に比較し、積極的な運用を行う8800本のヘッジファンドの元本
も、50兆円から、その5倍の250兆円余になっています。

レバレッジを加えれば、実際の運用額はこの数倍以上でしょう。

【日本の10年間の超低金利】
低い金利は、資金調達コストの安さを意味します。90年代の日本は、
不動産と株のバブル崩壊のため、金利を低くした。

特に、わが国の金融危機の1997年以降は、実質的にゼロ金利でした。
これが、世界の、低い金利のアンカー(錨)になっていた。

1年40兆円の規模で増えていた個人金資産(主は団塊の世代)を背景に
したジャパンマネーは、英米の金融機関が借り、利用するものでした。
キャリート・レードだけではない。日本の金融機関と政は、主に米
国の金融機関に、低金利と量的緩和で生じた余剰マネーを預けていま
す。

円相場は、財務省の介入によって、実質的に、米ドルにリンクしてい
たので、為替の変動も予測できていた。(注)下げるドル買いを嫌い、
ユーロ買いが増えています。

【アラブマネー:中国マネー】
今、巨額の貿易黒字を出すアラブマネー(元本約200兆円)と中国マネ
ー(元本約150兆円)が、使われています。

世界の外貨準備600兆円の、約60%(360兆円)は、ドル証券やドル債
です。これは、米国への貸し付けと同じ意味をもつ。(注)外貨準備
は、世界の貿易黒字の累積(=米国の貿易赤字)を示します。

米国の国債を持つことは、米政府に貸し付けすることです。国債は、
買い手にとって金融資産ですが、政府にとっては負債です。民間企業
が発行する証券(社債・株)も、そうした性格のものです。

例えば、日本の世帯の金融資産1500兆円は、政府が1000兆円を借り、
企業・金融機関が500兆円の借りているという性格のものです。政府の
バランスシートで、これがわかります。

米英の金融機関に、世界は、巨額の資金を預けた。その、負債を引い
た純額が600兆円です。これが、米英の、ホットな運用資金になって、
株、住宅を上げ、今は資源を上げる。BRICsやアジア等の新興国
の株を含む、世界の投機に向かう。目的は、金融益です。

このホットマネーは、タンス預金のようには退蔵されず、上がるもの
を次々に求め、激しく動く。つまり貨幣の流通速度が、速い。MVの
Vが、流通速度です。(注)わが国で、バブル崩壊後、マネーの流通
速度が低下しています。

●大元を言えば、「希代の赤字通貨である米ドル」を、世界が基軸通
貨として信任し、米ドルに、自国通貨を従属させる事実上のドルぺッ
グをとったことが原因です。

(注)ユーロだけが2000年以後、ドルペッグを離脱し、財政赤字をG
DPの3%枠に押さえています。

1971年以後の変動相場は、貿易赤字国の通貨を下げることで成立する
のですが、貿易黒字国からの買いで、米ドルは十分には下げなかった。
その矛盾が、いよいよ、裏付けの資産でもあった米国の住宅価格の07
年の下落によって、露わになったと言っていい。

【転換点】
さかのぼれば、「米国の2000年代の資産相場」の転換点は、2年前の2
006年6月でした。きっかけは、わが国の日銀が、その日銀当座預金の
残高30兆円を10兆円に向かい、一挙に、20兆円を吸い上げたことです。
「個人金融大国」の引き締めは、世界に波及します。

06年の4月から6月に、ゼロ金利と量的緩和を解除する目的で、日銀が
手持ちの国債を、20兆円分売ったのです。(注)現在の短期政策金利
は、0.75%です。長期金利は1.8%付近を変動しています。

わが国の金融機関は、20兆円の現金(当座預金)を減らし、代わりに
20兆円分の日本国債をもつことになった。

これが、日本からウォール街に向かっていたマネーを、20兆円相当、
収縮させます。そのため、2006年の6月には、米国に、住宅価格を5%
下げる都市が出てきた。

【2007年8月のサブプライム・ショック】
株、証券、不動産が、2007年8月以降のように下げに転じ、それにつれ
て、市場金利が上昇すると、金融機関に、レバレッジでの利益と全く
逆の、巨額損失が出ます。

それが、現在です。

■7.30倍の、巨額レバレッジがある

●証券会社(=投資銀行)の大手ゴールドマン・サックスは、元本資
金が$400億(4兆円:エクイティ)です。運用資産は、$1.1兆(110
兆円)です。つまり、ロールドマンでのレバレッジの「信用乗数」は、
27.5倍です。(08年6月)

●同業の、投資銀行メリル・リンチは、元本資金は$300億(3兆円:
エクイティ)にすぎない。運用資産は、$1兆(100兆円)で、信用乗
数は33倍ともっと高い。

この信用乗数の、高い水準は、1998年に破産したLTCM(ロングタ
ーム・キャピタルマネジメント)の33倍と同じです。

(1)信用乗数が33倍であると、市場金利の1%の上昇で、その33倍の
33%分の、金利負担が増えます。

(2)証券価格の1%の下落も、元本に対し33%の下げに匹敵します。

この両方が重なり、わずかな金利の上昇や住宅価格の下落が、巨額な、
信用倍率での損になる。

相場の上昇期にためていた自己資本(留保利益)も、市場金利(長期
金利)の上昇があれば、レバレッジ金融の中では、わずか数ヶ月で、
飛びます。

1兆円の元本(資本)で、32兆円の信用借りをし、33兆円分の株や証券
を買っていれば、1%の金利上昇で〔32兆円×1%=3200億円〕の利払
いが増える。

そして株価が1日で1%下げても、3300億円の含み損が出る。金利との
合計で、6500億円の損です。これは、元本の1兆円のうち、6500億円を
失うことと等しい。

2000年代の低金利と、アラブ・中国・日本・ドイツからの、貿易黒字
のマネー流入(1年100兆円規模)を原因に、大きく増えたレバレッジ
金融では、毎日が、激しく生死をかけた勝負です。

(注)ユーロの高さ(1ユーロ=170円)は、米ドルの下落を嫌うマネ
ーが、ドル証券を売って、代わりの現金で、ユーロを買ったために起
こっています。(注)2000年は1ユーロ=100円でした。

しかし、ユーロからは、ドル買いをしています。ドル買いの量が、ユ
ーロが、産油国・中国・ロシア・日本から買われる総額より小さいた
めのユーロ高騰であることを忘れないでください。欧州経済が強いた
めでは、毛頭ない。

●07年8月以降、3か月の決算サイクルで、金融危機が襲う理由が、こ
れです。

●世界の株価が上がり、米国の住宅価格下げ止まる時期まで、これが
続きます。日本の金融危機が、1997年からの政府のゼロ金利、2003年
からの株価の上昇、不動産価格の下げ止まりと上昇で、なんとか回復
したのと同じです。

(注)2008年は、欧州の住宅価格も、下落期に入っています。欧米と
もに、住宅ローン関連証券が、低利では売れず、ローン資金が増加供
給されないためです。住宅ローンの審査は、優良な世帯にもおりない
くらい厳しくなった。

■8.ヘッジファンドの損失と巨大投資銀行は一蓮托生

今、過去は15%から20%近い利益も出していた約8000本のヘッジファ
ンドの平均運用益は、2008年の6ヶ月で〔−2.1%〕です。(英エコノ
ミスト誌:080705号)

平均運用利益の〔−2.1%〕が意味するのは、ファンドの利益が
〔−20%〜+18%位〕に分布しているということです。
(注)過去は、元本に対し、10%から20%の大きな運用利益でした。

半分のヘッジファンドは、新たな資本が投入されない限り、資金繰り
に窮し「潰れます」。

ファンドを潰れるままに放置すれば、米欧の金融に、システミックな
リスクが、発生します。連鎖倒産です。儲からないファンドからは、
人は資金を引き揚げます。これが、膨らみきった信用(Financial
Assets)の収縮です。

元本資金1000億円で、33倍のレバレッジで投資しているファンドから、
仮に200億円(20%)の資金が引き揚げれば、どうなるか? 

運用総額は、3.3兆円です。元本が200億円減れば、そのファンドは元
本が減った〔200億円×33倍=6600億円分〕の、株・証券を、市場で売
らねばならない。

市場に売りがあふれ、価格は一層下げ、損失は大きくなります。
金融当局(FRB、ECB)は、これを、防がねばならない。

ヘッジファンドは、8800本でその元本が250兆円です。

この元本に対し、USB、メリル・リンチ、モルガン・スタンレー、
ドイツ銀行、シティグループ、クレディスイス等の、米欧の巨大金融
機関が、ひとしく、レバレッジ資金を提供しています。その運用総額
は不明ですが、5倍のレバレッジでも1250兆円の運用総額です。欧米の、
主要金融機関は、相互リンクで一体です。

(注)主な金融機関の、ファンドへの貸し付額は、USB(70兆円)、
メリル・リンチ(40兆円)、モルガン・スタンレー(40兆円)、ド
イツ銀行(30兆円)、シティグループ(25兆円)、クレディスイス
(25兆円)、JPモルガンチェース(20兆円)、リーマン・ブラザーズ
(20兆円)、ゴールドマンサックス(20兆円)等とされています。
〔OECDの統計:07年12月〕

欧米の、証券化金融を推し進めてきた、上記巨大銀行(投資銀行)と、
ヘッジファンドは、一蓮托生です。ファンドの損は、巨大金融機関の
損と同じで、ファンドの破たんも、投資銀行の破たんです。

株価と不動産価格が上がらない、逆に下がるため、商品先物の利益で、
お茶を濁しています。

原油と資源価格の高騰で、資源を海外から買うわが国からは2008年の、
年率換算で26兆円の所得が、海外流失します。これは、いずれ、世帯
当たりで1年50万円余の、生活水準の低下になります。

投資銀行の損失は、各種のデリバティブを使い、先送り(いわゆる「
飛ばし」)されています。

デリバティブの代表であるCDS(クレジット・デリバティブ・ス
ワップ:いわば債権・債務の保険)は、$45兆(4500兆円:英エコ
ノミスト誌08年3月)になった。別の統計では$60兆(6000兆円)を
超えています。

このCDSのプレミアム(いわば保険料)が、リスクの拡大から、
どんどん上げています。(以下次号)

CDSのプレミアムの上昇は、証券の下落と金融機関の損を見込んだ
ものです。

see you soon!

【後記】
米欧は、上海市場の株価が6000ポイントから3000と半分になって住宅
価格の下落も見られる中国を含んで「1997年の、金融危機後の日本」
とほぼ同じ状態に、向かう感じです。

これは米欧の当局が、決して言わないことです。従って、日本のメデ
ィアも報じません。FT(Financial Times)が部分的な数字を、報
じています。

日本のバブル崩壊と違うのは、資産価格の下落に、物価の上昇が加わ
っていることです。物価の上昇は、FRBが短期金利を下げても、マ
ーケットの長期金利を上げます。そのため、住宅価格と証券価格は更
に下げるというサイクルになる。

2008年8月は、金融が極まって、波乱の時期になります。

今、イランのミサイル発射実験と、原油を積むタンカーが通る狭いホ
ルムズ海峡に、緊張の演出があります。イスラエルが、イランの核開
発を材料に、空爆をほのめかす。原油を$200以上に上げる材料作りで
す。

米国大統領選では、オバマ民主党(イラク撤収を言う)が有利になっ
ています。マケインの共和党が与党を続けるには、アラブでの軍事緊
張が、増さねばならない。そのための、物騒な気配です。

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ジネスの成功原則、関連事項、経済を原理からまとめ、明快に解いて
お届けしています。以下は、08年7月9日号の目次です。

無料での試読が、最初の一ヶ月間できます。

<385号:経済随想(3)&(4)>
     2008年7月9日分

【目次】

1.米国における金融経済の膨張
2.信用膨張は、金融工学と乗数金融の発達でもたらされた
3.利益も損も、倍数化する乗数金融
4.約30倍の、巨額レバレッジ
5.中央銀行のマネー注入分が、上がっていた商品相場に流れる
6.今日の、米国FRB(08年7月9日)は?
7.金融機関がレバレッジを増やすことができた原因はCDS
8.300兆円ものイラク戦費が、インフレの原因になる

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