緊急テーマ:インフレと金利上昇が近い(1)
This is my site Written by admin on 2004年5月25日 – 08:00

こんにちは、吉田繁治です。ここ10年、日本と日本以外の世界は、
経済の面ではいつも逆の動きをしてきたように見えます。4月末に行
ったNYの街角で改めてそう思いました。

緊急テーマの本号では、まず金利のメカニズムを書きます。10年の
ディスインフレから、インフレへの変曲点に近づいているように感じ
るからです。

インフレになれば、
(1)金利は上がり、
(2)支えきれないくらい発行されている国債と債券価格は、暴落し
ます。

意外に、金利、物価上昇、債券価格の相互メカニズムを知らない人が
多いように思います。政府は、マーケット金利にはもう、従属的な
ポジションであり、多額の国債を発行してしまっているためにもうコン
トロールは効かないのです。

地味な感じですが、実はこのテーマこそが経済でもっとも重要です。

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<Vol.189 緊急テーマ:インフレと金利上昇が近い(1)>

【目次】

 1.感想:日本と逆だった世界
 2.個人金融資産の収奪こそが、一貫した戦略
 3.10年で約2倍になった米国の小売総額
 4.物価の変曲点(臨界点)が近い
 5.実感的な物価観察
 6.【原理】物価下落が止まれば、金利は上昇
 7.転換点
                     (次号へ続く)
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■1.感想:日本と逆だった世界

90年代から2001年ころまでの世界は、サイクル的に起こる債務
国の通貨危機と経済危機を除けば、実は好景気での成長期でした。

好景気の代表が、米国と中国だった。

経済を計る代表的なものは、世界のGDPでおよ60%占めている個
人消費です。個人消費は、モノの購買と教育、通信、交通等のサービ
ス支出や医療を含むものですが、多くは小売業と車等の売上です。あ
とで、世界のGDPの40%を占める日米両国の、小売売上を見ます。

▼手形受取りである売掛金が、めぐりめぐって日本株の買収資金にな
った

【掛け売りで儲けたように見えてきた会社のように】
日本は、80年代以降20年も、品質のいい高度工業品の輸出国であ
り、毎年外貨を稼ぎますが、その外貨を他国(主は米国)に貸付けて
散財し、身の不遇をかこつ奇妙な国に思えます。

日本国を、例えれば、
 ・勤勉に働いて債務を圧縮し 
 ・商品は「掛け」で売り、
 ・結局は回収できない売掛金(米ドル)を貯めた会社のようです。

売掛金は、帳簿上では売上に計上でき利益として計算されても、実質
的な(キャッシュの)収入にはならない。
 ・売掛金(資金の貸し付け)が増えれば、
 ・売れた分の仕入れ代金の決済(輸入代金支払い)は必要ですか 
  ら、国内のキャッシュはますます減って苦しくなりますね。

他方、米国のように、
 ・相手国からの借金で商品を買え(輸入すれ)ば、
 ・現金は要らず、
 ・その商品を転売(米国内での販売)し、
 ・利益(キャッシュ)がはいります。

日本と米国の、資金フローの関係は、まさにこれです。

▼日本の財務省は、米国の手形引き受け屋

日本は、米国の財政赤字を補い(資金供与し)、財務省のドル安を防
ぐという政策によって、ドルを売る政策の選択肢を失っています。

アメリカで低い金利が維持され、キャッシュが溢れて消費と住宅に向
かう景気の半分くらいは、日本の財務省のドル買い(=貸付)によっ
て支えられています。

日本は、米国から売掛金の回をするどころか、高度商品・部品・産業
用機械を供給しながら、毎年、貸付けを増やしています。相手が米国
ですから、将来も戻っては来ないでしょうね。

米国人のほどんどの人は、マスコミも含め、米国の政府財政と経済の
景気が、日本の資金供与(日本の財務省)によって支えられていると
は知りません。米国政府は、絶対にそれを言わない。

「米国に資金が集まるのは、米国が魅力があるからだ」と考えていま
す。これが近年の『米国経済白書』を筆頭とする基本論調です。この
論の筋で言えば、米国から資金が逃げはじめた2000年以降は、「
米国から資金が逃げはじめたのは、米国の魅力が落ちたためだ」と言
わねばならない。

しかし言わない。最近の米国政府は「論理のごまかし」は平気です。
資金供与をする日本の財務省が裏についていて、暗に要請すれば、動
くからです。

(注)先進国蔵相会議のG8等での各国の発言は、今は事実隠しが横
行しています。

▼武力こそが国家と言うブッシュ家

日本人は働いて儲けたお金を、隣の、銃を見せびらかして脅すのが趣
味で、けんかが好きな主人に、そっくりおまけをつけながら貸してい
ることと全く同じ構造があります。

武力こそが国家だと言うのが新保守派です。彼らは、武力で勝てば、
何をやってもいいと考えています。新保守派のステートメントとブッ
シュ・ドクトリンを見れば「ほとほと呆れ」ます。これは昨年の春に
分析しました。

そして隣家(米国)は、借りたお金を使い、国内では総悲観論から売
られて安くなっていた日本の株(会社の清算価値を示す純資産価格す
れすれでした)を買った。これによって、今は、日本の優良会社の大
株主になっています。

▼買収資金にもなって・・・

なんことはない、日本の財務省の米国への資金供与(外為会計90兆
円)は、米国人によって、日本を買う資金になっています。これが借
金を活用して実質的な支配権にするガイジン買いです。昨年来、株を
上げていた原因がこれです。

しかし予想PER(現在株価÷一株当たり純益予想)が25倍を超え
るあたりから、日本の個人投機家(ディ・トレーダー)のはやしたて
られた参入を横目で見て、ガイジンは、高値のものを売りはじめてい
ます。

安いとき(他が悲観論のとき)に買い高くなったとき(他が楽観論の
とき)に売るのが鉄則です。これは、皆分かっている。しかし悲観論
のとき買うのはとても勇気が要ります。この勇気は並大抵でもてるも
のではない。楽観論のときも同様です。

株は孤独な断崖を跳ぶ勝負。寂寥と孤独に耐える人のみ(おそらく5
%以下の人)が相場から利益を得ます。世間の動きについて行けば、
行く先には損失しかない。世情を逆に見なければならないのです。

ラスベガスのほうが、や利続ければ損だとわかっているだけ、よほど
ましかも知れない。

(注)近々、金融投機は『敗者のゲーム』(最新の改訂版)を、再度
新しい角度から分析する予定です。機関投資家が、長期では、平均株
価以上のパフォーマンス(利益)を上げてこなかったことを論証する
ものです。金融投機では再生可能な会社を買収するときだけ、確実な
利益を上げる可能性があると結論づけてもいいでしょう。

■2.個人金融資産の収奪こそが、一貫した戦略

米国を含む、世界金融は、1400兆円の個人金融資産大国の日本の
マネーを、インフレで価値が下落する前に、どう収奪するか、ここを
主戦略にしています。やすやすと収奪ができるくらい日本の個人投機
家や金融と株マスコミは素朴でナイーブです。

▼金融には冷酷さが必要

世界1の金融大国は世界1の金融戦略家でもなければ、資産価値を守
り続けることはできない。金融は非情の世界です。その中で実に無防
備な金融大国が、今も財務省が金融を支配している日本です。

ガイジン買いについていった日本の個人投機家の多く(90%?)は
損を蒙ることになる。見るに忍びない感じです。

ガイジンの「利食い(買ったときよりも高値で売り抜けること)」で、
ジャパンマネーは、またガイジンのものになっていますね。だれの
資金を食うのか? 日本の個人投機家が、一生懸命にためてきた虎の
子の資金を、です。それが、国際投機家の目的です。

【情報戦】
マスコミと経済アナリスト、そして証券アナリストを巻き込んだ誘導
作戦と技で、株価を釣り上げたあと売って、相手の富を獲得するのが、
「金融戦略」です。

金融は、元々冷酷なものです。金融には情けと容赦はない。
スパイ戦とマスコミを使う情報戦を含む戦争と似ています。

【前例はアジア通貨危機】
97年に、通貨を売り浴びせたあとのアジアの通貨危機の後に、
 ・総悲観論になってしまった韓国を含むアジアの安い株を買って、
 ・大株主になって、
 ・韓国の優良企業を買収した米国の行動と全く同じです。

▼ナイーブさの罪か、おだてに乗った罪か

日本の財務省と金融庁は、以上を見れば、まさに(意図せざる結果と
しての)売国の奴(やから)です。なぜ売国奴か? 

結局は米国や通貨マフィアの金融戦略のままに動くからです。実に、
実に・・・情けないことです。おだてられ、乗せられた人を、竹中大
臣、小泉首相、そして谷垣財務大臣、福井日銀総裁と言う名前で呼ぶ

日本の金融問題は、他国のように、自由さをもつ民間の金融として論
じることはできません。未だに、官が支配する金融体制だからです。
従って日本金融問題は、そのまま財務省問題になります。ここを忘れ
てはならないのです。このことは、だれも否定できないはずです。

個人金融資産は1400兆円ですが、そのうち総額では約1000兆
円を借りているのが政府部門だからです。

官僚という金融の素人が、多額の資金の支配権を手にし、ナイーブに
動いている、これが日本でしょう。金融の支配権とは、借金権のこと
でもあります。借金をした人が、その資金を運用するからです。

(1)個人は政府を信用し、金融資産を動かさない。
(2)そのため、政府と日銀は、金融の支配権を手にしている。
   これが、危うい「金融大国」の日本です。

米国から見れば、日本の財務省(財務省審議官)だけを動かせば、1
400兆円もの富が動かせる。容易な世界です。

【日本と世界の経済感の違い】
日本を除く世界では、90年代の好況が終わったという認識が強い。
他方、日本では、景気回復が言われます。これも逆です。

日本のマスコミ(特に景気回復を言う日経新聞)は、またも、手練の
国際金融マフィアに踊らされている感じを受けます。

■3.10年で約2倍になった米国の小売総額

米国と日本の小売総額を長期で対照すると、興味深いデータになりま
す。こうした比較は、意外に行われませんね。

▼小売総額の長期比較

      日本  (91年比)    米国 (91年比)
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
91年  142兆円 (100)   $1.80兆 (100)
94年  143兆円 (101)   $2.40兆 (133)
97年  147兆円 (104)   $2.76兆 (153)
99年  143兆円 (101)   $3.12兆 (173)
02年  135兆円 (95)    $3.48兆 (193)
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
    (商業統計より)  (米国経済白書04年版より)

91年から02年までの11年間で、日本の全小売業売上(名目金額)
は、142兆円から135兆円へと総額で5%減少していますが、
全体では、横ばいです。

【日本人:1人当たり100万円】
135兆円は、国民1人当たりでは、年間で約100万円を買ってい
る計算です。日本人の1人当たり小売総額は年100万円であること
は、記憶しておいたほうがいいでしょう。

3人世帯なら300万の購買です。11年間ほとんど変わっていない。
つまり、日本人は11年間、金額では拡大消費はしていない。

▼米国

他方、米国の小売総額(名目金額)は、
 ・91年の$1.80兆から、
 ・02年は$3.48兆へと93%も増加しています。
  11年で約2倍になった。

【米国人:1人当たり135万円】
米国民の1人当たりでは、02年で$1万2250(約135万円)
です。今の為替レートでの、金額だけの比較では日本人1人あたりの
1.3倍になっています。

11年間も小売総額が横ばいであった日本と、その間に約2倍になっ
た米国が、鮮やかに対照されます。

米国人が買ったのは米国内の生産物だけではない。世界の生産物の増
加分の過半を、買掛金や手形で買った。他方、巨額輸出国である日本
と中華圏(含む台湾+香港)が、ドルを外貨準備として貯めています。

米国では、91年から02年の11年間で消費者物価は、32%(年
平均2.8%)上がっています。米国は90年代もずっとマイルドな
インフレ経済でした。低金利で、住宅価格はそれ以上に上がった。

日本の11年間の消費者物価は、合計の指数では、ほぼ横ばいです。
劇症デフレではありませんが、マイルドなデフレだった。原因は、売
掛金と米国の手形(債券)を貯めるだけで、民間が使わなかったから
です。民間の預金を使ったのは政府部門だけでした。

借りて投資すべき民間企業は、1年で20兆円(約5%)の債務を減
らしてきたのです。

■4.物価の変曲点(臨界点)が近い

日本を含む世界の物価は「変曲点」に達した感じです。
最初に、この認識について書きます。

世界の金融の信用総額(マネーの総量)では、商品生産の増加より多
い額を、毎年、増加させています。

(1)商品生産は、年平均で3%分増加すれば、10年で1.34倍
です。世界のGDPの増加は、3%レベルでしょう。GDPは、イン
フレ率を引いた実質のものです。

(2)ところが金融の信用総額は、<金利分(5%が長期の基準でし
ょう)+年金貯蓄+世界の政府の財政赤字+中央銀行のマネー発行の
増加分>で増え続けます。

こうした信用総額の増加を、年平均10%とすれば、10年で2.5
9倍になります。

マネーの流通速度を一定とすれば1.34倍にしかなっていない商品
とサービスの生産・流通量(GDP)に対し、2.59倍になったマ
ネーが対応します。

このことは、貨幣数量説では、(長期的には必ず)物価が10年で2
倍(7%の上昇)くらいになることを示唆しています。

ところが、90年代以降、世界の主要国の物価上昇率は高くても5%、
平均は2.5%というマイルドインフレ(ディスインフレ)です。

(注)80年代は、西側諸国の平均で、年10%のインフレでした。
生産力が高く、貯蓄率も高かったドイツと日本だけは、5%レベルの
物価上昇率。

90年代以降も、マネーは、商品生産の量を超えて増加し続けている
のに、物価はディスインフレに転じています。ここにインフレエネル
ギーの高まりがある。

インフレという熱が、マネーの増加に歩調をとって、少しずつ発散す
ればいい。しかし今、約10年もの「潜熱」になっている。そうした
全体印象が否めないのです。

中央銀行と政府が、マネーを印刷するフリーハンドを獲得するペーパ
ーマネー経済は、最後はインフレに帰結します。これが原理です。

(注)日本で90年代デフレが起こった理由は、「世界史上最大規模
の地価の下落(1000兆円以上)」によって、民間企業、世帯、金
融機関に信用収縮が起こったためです。これは、世界では日本だけの
特殊事情でした。

最近の各国の「マネーサプライ」の増加を示します。狭義のマネーサ
プライは、預金の当座・普通預金、定期性預金、譲渡性預金の合計。
つまり現金性がある預金の総額です。各国で若干の計上基準のちがい
がありますが、大差はありません。

      狭義のマネーサプライの
      増加前年比(04年3月)
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
米国       6.4%
ユーロー諸国  10.7%
日本       4.3%
英国       6.8%
カナダ     10.3%
豪州      10.6%
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
    (ロンドンエコノミスト誌)

マネーサプライ(預金の合計)は、金融機関を仲介にして企業、政府
、個人の借金になっています。これが経済の血液です。マネーサプラ
イは今も年10%近い増加であることが分かるでしょう。世界は決し
て信用収縮はしていない。マネーの増加が続いています。

(注)日米がマネーサプライの増加が少ない理由は、日本からは米国
に、米国からはユーローへ流れていたためです。国際金融は、貿易の
商品よりも強く世界がリンクした構造をもっています。

世界のGDP(実質経済)の増加に比べ、はるかに多いマネーサプラ
イの増加の蓄積は、
 ・血液が、生産物の根拠がない「生理的食塩水」で水増しされ、
 ・近い将来の物価上昇へ向かって、
 ・血圧を高めていることを示します。

これがインフレ圧力です。インフレは増えすぎたマネーが実質の価値
を減らすことです。

インフレは、起これば、短時間で世界的になります。
日本の国内だけの物価と金利動向では、判定できない。
資源価格は世界同時で共通です。

■5.実感的な物価観察

世界の物価、そして日本の物価がどう向かっているかを、検討します。
経済でもっとも重要な指標が、物価と失業率です。

とても感覚的な言い方ですが、国際都市NYについて言えば、
 ・諸々の物価水準は、東京と変わらないか、
 ・質を考慮に入れれば、すでにNYのほうが高くなっている印象
  を受けます。($1=110円での比較です)

レストランのメニュー価格、家賃、ホテルの室料、そしていろんな店
舗の商品価格を、体感で比較した印象からのものです。

ここ10年くらい、指数で年平均3%弱は上昇した米国の物価と、横
ばいまたは下落した日本の物価の結果です。

(注)NYと東京を、商品別の統計(経済産業省)で確認すれば、1
0%くらい高いものと、10%くらい安いものが入り交じっています。

他方、ユーロー諸国と英国は、多くの品目で、東京の20%〜30%
高です。02年からのユーロー高のためです。ユーローの過大評価が
あることが分かります。行ってみればわかりますが、ユーローの経済
は、強くないからです。

(1)NYと東京は、ほぼ同じ物価水準になった。
(2)ユーロー諸国より東京の物価は安くなった。

つまり、90年代から2000年初頭も、日本以外の世界はインフレ
でした。

【結論】
「米国比較で1.5倍は高いとされていた日本の諸物価の、貿易とい
う要因による下落の時代は終わった」と感じています。

これは、後で述べるように、経済では、重い意味をもっています。

(注1)もちろん、全体の物価のことであって、
 ・企業の数量生産性の上昇と、
 ・国際ロジスティクス網の整備と物流の情報化による、
 貿易財でのグローバル競争の深化という要因での価格下落は電子
 製品では続きます。
 しかし物価は、電子製品だけで構成されるものではありません。

(注2)今、論争の中にある中国元の切り上げがあれば、中国からの
輸出商品の価格上昇を意味し、これは世界の物価が上昇する誘因にも
なります。

■6.【原理】物価下落が止まれば、金利は上昇

▼金利と期待インフレ率の関係

名目金利は、「期待物価上昇率(期待インフレ率)」と「リスクプレ
ミアム(貸付の回収リスク)」を加えたものです。

<名目金利=期待インフレ率+リスクプレミアム>

100万円を貸そうという人は、
(1)物価の期待される上昇率に加え、
(2)貸したあとの回収のリスクをカバーできる受取り(リスクプレ
ミアム)がなければ、貸すという動機が生じない。

現金で手許に置いておくほうが得だからです。100万円を貸して、
物価が2%上がり、回収リスクが2%あるなら、4%以下で貸す人は
いない。5%か6%以上の金利でなければ、貸す動機がなくなります。
これが金利の原理です。

【期待インフレ率】
期待インフレ率は、<物価統計で計算される過去の物価上昇率(イン
フレ率)をもとに、人々に形成される集合的な将来予想>を言います。
難しく言えばこうなる。

人々は、過去の傾向を直線的に延長し、未来を見る傾向をもちます。
そうした傾向をベースに、共同幻想で予測(または期待)されるイン
フレ率(または物価下落率)が、期待インフレ率です。

これは心理的な期待ですから、実際のインフレ率やデフレ率よりも大
きな幅で変動します。<共同幻想の心理は傾向線を強化する>のです。

下がればもっと下がると思うし、上がれば更に上がると思う。これが
自然な心理です。こうしたものが集まって、集団心理になったものが
共同幻想です。共同幻想は自己強化します。ポジティブ・ネガティブ
にヒステリックにもなります。これがパニックです。

1%レベルの金利という超低利の日本国債が売れてきた理由は、国内
でのデフレ期待が強く、期待インフレ率がマイナスだったからです。

消費者物価や卸売物価統計と比例するように、期待インフレ率は、9
9年〜03年まで、1%〜3%のマイナスでした。↓
http://www5.cao.go.jp/j-j/wp/wp-je03/03-1-2-17z.html

期待インフレ率がマイナスになったのは、95年からです。日本の金
利の低さは、「期待インフレ率のマイナス」に符合していました。

<低金利=マイナスの期待インフレ率+リスクプレミアム>

物価下落が期待されているときは、企業の設備投資が減り、個人の買
い物も少なくなって、資金需要が減ります。これが金利を下げます。

しかしながら、この将来予想は、
(1)物価が上昇に変わるという「期待の転換、または認識の変化」
   が生じると、
(2)実際の物価よりも、共同幻想のため、大きく上昇する性格をも
   っています。

<原則:将来予想は、現実の経済よりも変動幅が大きい>。これが金
利を左右します。金利を受け取るのは未来です。金利は将来予想で決
まる性格をもっています。

(注)確か昨年秋に、毎日新聞から景気動向についてのインタビュー
を受け、「株価上昇は財務省のドル買いによる金融相場である」とい
う趣旨のことを申し上げたのですが、その後も株価上昇が続き、掲載
された発言の声はかき消さた感じでした。何事もタイミングが大切と
思った次第。1年先のことを言えば、鬼が笑うのでしょうね。こころ
すべきことです(笑)

■7.転換点

日本の90年代後期は、<ディスインフレから1%〜3%のデフレ期
待>がありました。これが、2004年の今は「2%程度のインフレ
期待」に向かって変わってきているのではないか?と思えます。 

過剰に下がったものの上昇は早い。30万円に下がったゴルフ会員券
がたった10万円上がれば、それだけで33%の上昇です。80%以
上も下がった都心部地価も、同様です。わずかな値上がりが、率にす
れば大きくなります。

大手スーパーの新規出店の急増、つまり05年度の計画で04年比
70%の設備投資の増加も、これを裏づけます。

投資の採算がとれるまでに十分に安くなった地方の土地の、先行取得
に走っているところ(例えば低価格の婦人衣料の「しまむら」等が代
表)も現れています。

株式の時価総額では、東証1部が350兆円レベルになっています。
03年4月の230兆円に比べれば、120兆円(52%)も膨らん
でいます。これは、半年か1年後からの「インフレの先取り」にも見
えます。

時価総額の膨らみは、財務がもともと健全であって株価が上昇した企
業には設備投資を促します。一般には、これを「景気の底打ち」や「
回復」と言っています。

しかし、その後に生じる状況は、そんなに単純ではありません。
期待インフレ率の上昇が、金利を上げるからです。ここからが問題で
す。

<名目金利の上昇=期待インフレ率の上昇+リスクプレミアム>

マイナス2%の期待インフレ率が、プラス2%の期待インフレ率に転
じれば、それだけで金利は4%も上昇します。

(注)実は、経済学では、この「期待」の研究は十分なものではない
。肝心なところは、いつも解明不十分なのが学問。

泰斗ヘーゲルは、学者をミネルバの梟(ふくろう)と言った。事実が
終わったあと、夜に活動する。自分のことを言っていたのかもしれま
せんね。言ったことは、しばしば自画像です。私の発言も同じかもし
れない。(笑)

▼金利上昇と国債価格の下落が近い

景気の回復は、
(1)金利の上昇、
(2)すなわち超低利の国債や債券の下落と、
(3)新発国債の金利上昇が近いことも示唆しています。

国債の金利は、金融関係者には、その国の金利のベースになるものと
「見なされて」います。<国家はもっとも信用ある経済機関である>
という前提からです。人々が寄せる信用が厚い機関は、低い金利で借
入ができます。

<民間の貸出し金利=国債金利+貸出しのリスクプレミアム>

長期国債金利が1.5%で、貸出しのリスクプレミアム(回収リスク)
が2%なら、民間向けの長期金利は3.5%以上になるという意味
です。リスクプレミアムとは、回収のときの貸し倒れリスクのことで
す。

しかし、下を見れば、日米とユーローの国債金利は、民間企業が発行
する社債金利より逆に高いか、または同じになっています。

今は、多くの人が国家に優良な民間企業よりもリスクを感じているか
らです。いよいよこれが、国債に及んだという感じがします。

世界の資金市場が、低い国債金利(=国債価格のバブル)に、国債価
格下落のリスク(金利上昇)を見ていることを証明するものでもある。

機関投資家は、手持ち国債の暴落下落リスクに、震えています。
誰かが逃げ始めれば、その後の暴落(金利上昇)は、すぐです。

機を見て、ジョージ・ソロスも、大々的にブッシュ政権批判を始めた。
稀代のプロ投機家、ウォーレン・バフェットは、株と債券をほぼ全
部売り、現金に交換しています。高金利を予測しているからです。

これらは<日米欧の国家信用の下落>を示しています。
このことはとても重要な、新しい現象に思えます。
何に、マネーがとりつくか? これは決まっているでしょう。

                  (次号に続く)

※本稿は、有料版として以前送ったものに加筆しています

今日からまたNYに立ちます。NY視察・研究ツアーは48名です。
18名の定員オーバー後の申込みの方には、深くお詫びします。

3月、4月、5月といろんな場での講演が続きました。無料版の送信
が途切れ途切れになって、申し訳ありません。タイム・マネジメント
が下手です。

講演が多いのは6月までで、後はすこし時間的に楽になります。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
【1.6月11日の、公開講演「毎日ITフォーラム」】

6月11日に、総務省、大阪府、関西経済連合会、NTTドコモ、毎
日新聞の共催で公開講演会があり、基調講演を行います。演題は「I
Tビジネスの可能性を拓く」です。50分の講演と、後はパネルディ
スカッションです。

会場は、大阪梅田の毎日新聞オパールホールで、13:30くらいか
らです。案内は↓以下にも掲載されています。

http://www.ogc.ne.jp/it_forum/

今週あたりの毎日新聞にも、案内が掲載されると思います。昨年の基
調講演は、OSのトロンとユビキタス・コンピューティングを提唱す
る坂村健氏だったそうです。

【2.新刊書】
『利益経営の技術と精神』(商業界)は、全国の主要書店で発売され
ています。

アマゾンで注文することができます。
http://www.amazon.co.jp

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     【ビジネス知識源 読者アンケート 】

読者の方からの意見や感想を、書く内容に反映させることを目的とす
るアンケートです。いただく感想は、とても参考になります。

1.テーマと内容は興味がもてますか?
2.理解は進みましたか?
3.疑問点は?
4.その他、感想、希望テーマ等、ご自由に
5.差し支えない範囲で読者の横顔情報があると助かります。

コピーしてメールにはりつけ、記入の上、気軽に送信してください。

↓著者へのメールのあて先
yoshida@cool-knowledge.com

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▼本無料版と姉妹編である有料版の、最近のものの目次です。

      <151号:情報活用の原則と方法(1)>
 
【目次】  
 1.情報とは?
 2.情報利用に必要なマネジメント機能
 3.エンパワーメント(権限の部分委譲)
 4.情報と呼ばれる出力帳票は、限定された事実をデータとして 
   示すに過ぎない
 5.情報活用はマネジメント問題
 6.効果をあげる情報利用の原則
 7.診断の原則(重要)
 8.対策の選択と実行にあたっての原則
 9.リーダシップの機能
 10.対策と結果を対照した記録
 11.機会損失を知る

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