連休特別号:驚異の会社:戦略と価値提供のリファレンスモデル(2)
This is my site Written by admin on 2006年5月9日 – 08:00

こんにちは、吉田繁治です。9日が連続した休みも、あっけなく終わ
りました。思えば、毎年の、楽しみな正月や、計画していたレジャ
ーも瞬く間に過ぎます。そして待望した逢瀬ですら・・・

生きている間、時間とはこうしたものでしょう。時の停止は命の終
わりのときです。生命の本質は、時間で変化することでしょう。

生命からは、組織(organization:有機体)を連想します。

▼組織と経営

事業も、生命体のアナロジー(類比)でとらえることができます。
組織をあらわすorganizationの原義は、有機体です。

オーガナイズは、必要な要素を集め(=まとめて経営資源といいま
すが)、目的に向かって組織化(=有機化)することですが、その
意味は以下です。

「人間、知識、作業を、目的に向かって役に立つために整列(arra
nge)させること」 これが有効な組織です。

組織を運営することを経営(management)と言っています。マネジ
メントはmanが含まれることから了解できるように、人を動機付け、
方法を示して実行を計画し、実行過程を管理し、有効に動かすこと
です。

経営(management):
組織が、全体として有効な働きをするように、分業を方向付けて、
働きを指揮・管理するスキル。

方向付けて指揮する経営の働きがないために、各人の作業が有効に
目的づけられず、全体組織として有効でない状態を、カオス(混沌)
と言います。カオスは、有機体や組織の対立概念です。

このカオスは、仏教の「空(くう)」に近い。個々のものはエネル
ギーをもちながら、方向付けがない。

そのため組織の全体の働きが有効でない。「熱」はあっても、プラ
スとマイナスに方向がないため相殺されます。利益の出ない組織に
は、こうしたカオスが多くあります。

組織の働きが有効であるかどうかは、利益で計ります。ここでいう
利益は、単年度でなく、事業開始から終了までの合計利益です。

カオスの集団を方向付け、組織にする力を「リーダシップ」とも言
っています。リーダシップは方向(方針・指針・目的)を決め、マ
ネジメントは作業方法を決め、実行課程を管理する。

「経営目的(またはビジョン)」を達成するために使う手段や方法
を「戦略」と言います。

(1)実現したい状態(ゴール)を描く=目的(ビジョン)
(2)達成するための方法を計画する =戦略
   ・・・以上がリーダシップ
(3)計画を実行し、過程を管理する =実行
   ・・・以上がマネジメント

基本的なことを言う理由は、カーディナル・ヘルスが、リーダシッ
プとマネジメントの理念モデルのような会社だったからです。

そう思った理由は、ひとつひとつの言葉に、事業実際の裏づけと意
味があったからです。

(注)マネジメントに、リーダシップという別の言葉であらわした
ほうがはっきりする要素が含まれると示したのは、90年代の米国リ
ーダシップ論です。その後、経営論はリーダシップ論になっていま
す。

▼13歳のように

13歳のころのように、素朴に考えます。今日も会社に行って、仕事
をするのは何のためか? 給料をもらい、生活ができるようにする
ためです。ここから、もう一層をめくるだけで会社と経営目的が見
えてきます

給料は、現物ではなくマネーです。マネーは、どこから来るか? 
商品やサービスを売る相手である顧客からしか来ません。
顧客はなぜ、マネーを使い商品やサービスを買うか。

類似の他のものより、自分の生活(衣・食・住・情報・知識・健康
・美)や仕事にとって、有効だと思えるからです。義理という恩返
しの絆(きずな)で買うのではない。

利益が出るように買ってもらうには、顧客にとって、他より有効で
便益が高い商品(有形のもの)とサービス(人的な貢献)を提供し
なければならない。

これを「価値の差異化」と言っています。差異化が何かを調べ、差
異化した価値を伝達するのが「マーケティング」です。店舗では、
商品構成がマーケティングです。

(注)価値の差異化は、類似の価値のものが増えたときから出てき
た20世紀後期の概念です。デジカメもアパレルも、他のすべての商
品も、価値の差異化を競っています。

まとめれば「顧客のどこに役立つのか(ビジネスドメイン)、他よ
り役立つにはどうすべきか(価値の差異化)、価値を伝えるために
どうマーケティング(店舗なら商品構成)するか?」

これが、仕事の方法であることになります。

他より役に立つと多くの人に評価される結果として、より多く売れ、
コストを上回る利益が出る。利益は、競争他社や業界水準より、
同じものならコストが低く、違うものなら顧客にとってより有効で
あることの結果として生まれます。

コスト+利益の分配が給料です。給料をもらうことが目的であるに
せよ、社員も、顧客に役立つことは何か、靴を作って売るとき、ど
んな仕事をすれば、より顧客に役に立てるか、どうアピールすれば、
多くの顧客にその価値が伝わるかを考え、実行せねばならない。

何のために仕事をするのかを、若干のビジネス単語を使い、素直に
考えれば、経営目的(事業目的)にまで到ります。

カーディナル・ヘルスは、13歳の少年のように事業目的を記述して
います。

【事業目的】
<われわれは、よりすぐれた医療を果たすというカスタマー(医療
機関・調剤薬局)の使命(ミッション)の達成のための、支援を行
うことを事業の目的とする。(同社:アニュアルリポートより)>

そして前稿(232号)で示したように、事業目的を達成するための戦
略を、たった3行に圧縮します。10人の会社ではない。事業規模8兆
円、社員数は5万5千人です。

事業規模が大きいからこそ、5万5千人と、それ以上に多い数十万軒
の顧客に、短時間で理解されねばならない。

大きな事業をつくり運営するコツがこれです。複雑な理解が難しい
事業になってしまえば、成長は止まります。事業の定義を単純化し、
標準作業を、以前の何倍にも増やせるかどうかです。

<Overall corporate strategy: Build a diverse portfolio of m
arket leading business integrated around healthcare providers
and pharmaceutical manufacturers.>

【解釈的な意訳】
<会社の全体戦略(strategy):健康産業と製薬メーカーを取り巻
くニーズを総合(integrate)し、市場をリード(lead)し利益化で
きる事業(business)を作って、多様なポートフォリオ(portfo1io)
を樹立すること。>

前稿はstrategyまでを解釈しました。本稿では分かりにくい「総合
(integrate)」の意味からです。そしてlead、business、portfolio
の意味内容と続けます。いずれもビジネスのキー概念です。

最後は、価値観です。本稿は、リーダシップ型経営の、ビジョン、
戦略、価値観の事例でもあります。

(注)リーダシップ型経営の対立語は、コマンド&コントロールです。
定型作業をだけ行うワーカーと、作業指示をするマネジャーの組織。
これは、実行だけを求める経営法です。中国の工場のマネジメントよ
うだと言えば了解できるでしょうか。近代化初期の方法です。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

<Vol.233 連休特別号:驚異の会社:
         戦略と価値提供のリファレンスモデル(2)>

【目次】
1.カーディナル・ヘルスにとっての総合(integrate)の意味
2.そしてリードという概念
3.ビジネスとポートフォリオ
4.COOは会社の価値観だけを説明した

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

■1.カーディナル・ヘルスにとっての総合(integrate)の意味

総合(integrate)とは、
(1)各要素を有機的に(=顧客の役に立つように、または問題を
   解決できるように)結びつけ、
(2)総合化した商品として提供することを意味します。

カーディナルにとって総合(integrate)は、
・病院・調剤薬局の医薬品ニーズを、
・管理の問題解決と有機的に連係する、という意味をもちます。

「有機的に」は、顧客の役に立つように、という意味です。

この総合を具体的に言えば、
・院内のピクシス(自動調剤装置:前稿を参照)に、
・自動発注のソフトウェアをつなぎ、
・EDIのネットワークによって、
・カ社の物流センターで受注データを受け取って、
・ジャストインタイムで必要な医薬を補充するということです。

ニーズの総合とは、病院のベッドサイドの投薬にまで、卸の物流を、
シームレスに連結することだったのです。シームレスとは、中断
する作業がないことを意味します。カーディナルが行ったのはED
I(Electronic Data Interchange)とサプライチェーンの到達点で
もあります。

こうした発想での、顧客のニーズ総合(integrate)は、カーディナ
ル・ヘルスにとって基幹的な戦略です。これが、カーディナルを発
展させます。

(注)これを顧客にとっての「価値提供の戦略」とも言います。こ
こでいう価値は顧客の利益か、コストダウンという問題解決のこと
です。

例えば、ある調剤薬局に医薬品を卸すとき、カーディナルは調剤薬
局の経営的なニーズは何かと考えることを義務付けます。

そのために、医薬品管理のために必要な、全部のソフトウェアと方
法を提供します。

カーディナル・ヘルスには、営業マンが400名いるとされますが、営
業マンは、「経営コンサルタント」として調剤薬局や病院の経営に
までタッチします。

目的は「小さな薬局にも、大きなチェーンと同じ生産性と経営利益
を提供する」ことです。

提供するのは、利益とコストダウンという、顧客にとっての欲しい
本当の価値です。

この筋で、価値戦略の意味もわかるでしょう。

価値は、顧客にとっての価値でなければならない。そうすると、価
値提供は必ず「ソリューション」という概念に行き着きます。

家電産業・自動車産業、そして卸・小売業は、基本的なところで、
未だに量産・量販の基本概念でマーケティングしています。近年の、
世界の流行である「合併、M&A」も、それが規模の利益を目的
にするのなら、さほどの効果はないでしょう。これが、もうすぐ大
きな問題になります。

20世紀の量販・量産と、21世紀の産業を分かつのが「価値提供」、
つまりソリューションです。あなたの会社の顧客にとって、ソリュ
ーションは何か、問題解決を実行するための戦略はなにか?

【問い】
<あなたの会社の、顧客の本当の価値ニーズと、そのためのソリュ
ーションを、A4の用紙1枚に記述してください。価値ニーズとは、
例えば口紅では「美への希望」です。医薬では「健康(への希望か
?)」です。アパレルでは「スタイル」でしょう。家具では「コー
ディネート」でしょう。食では今「安全、健康、味」です。>

その価値ニーズのための障害を、業界に先駆けて、プロアクティブ
に解決するのがビジネスです。障害とは、顧客が困っていることで
す。

顧客である病院や調剤における医薬品の管理作業で、50%のコスト
ダウンを果たせるなら、顧客である病院は、競ってこれを入れるで
しょう。

重要なことを言います。

自動化調剤装置は、それ以前に作られていたのです。しかしそれは
、スタンドアローンの装置でした。カーディナル・ヘルスは、それ
を、自社の物流と連結し、シームレスな情報&物流ネットワークを
作り、提供したのです。ここが価値のイノベーションです。カーデ
ィナルは総合化し有機化した。

カーディナルは今、全米の病院への医薬の供給で、50%のシェアと
言います。問題解決(ソリューション)をするという事業定義の重
要性が、ここにあります。

米国医薬品卸で、業界最大手である9兆円の売上規模をもつマッケソ
ンも、当然、こうした自動調剤装置や、医薬の院内管理のシステム
をもっています。
http://www.mckesson.com/homeflash.html

しかし2つの理由で、2番手のカーディナル・ヘルスに負けています。

(1)カ社のような、顧客の問題解決に乗り出すのが遅れた。
   マネをする、二番煎じの、不徹底な戦略に過ぎなかった。

(2)問題解決のための有機的な総合(integrate)という概念が欠
   落していた。

そのため、個別の、有機的にならない単独のソフトウェアや機器の
提供だった。

結果はマッケソン(9兆円企業)の赤字です。マッケソンの戦略では、
今後、ますます苦しくなることが、アニュアルリポートに浮かん
で見えます。

経営者の現状肯定的な「われわれはナンバーワン」と繰り返す表現
から、それを読み取りました。何でナンバーワンか。売上規模でナ
ンバーワンだけでは意味がない。量産・量販の延長概念に過ぎない。

マッケソンの株を空売りすれば、財を作れるかも知れません。言い
過ぎではない。アニュアルリポートは、その意味を正当に読めば、
すべてを示します。カーディナル・ヘルスとは、似たような言葉が
並んでいながら、その意味内容において、天地の差が読み取れます。

カーディナルは、マッケソンにとって変わることができます。
米国でメールマガジンをお読みの方、いかがでしょう?

根本的な違いは、マッケソンの事業規定とその仕事の内容が、医薬
品の伝統的な卸ではあっても、「顧客の問題解決」ではなかったこ
とです。

文中の、総合と有機的という概念とその、具体的な内容が、鍵です
ね。

重要なことは、コトバだけではなく、内容に事業の実があるかどう
かです。コトバでは、単年度では、小説のようにリアリティをもた
せた嘘もつけます。小説は言葉ですから、これでもいい。しかし、
事業では偽になります。エンロンが、5年間くらい行ったことです。

【有価証券報告書が情報の宝庫】
内容に意味があるかどうかを確かめるには、昨年のアニュアルリポ
ートで宣言したことが、翌年のアニュアルリポートでどんな成果を
生んだかを、継続的に見ることです。

立派なことを言っても、翌年や次年度の成果検証がないのが、内容
のない事業です。それにしても、ライブドアの有価証券報告書(日
本版アニュアルリポート)は、読んでみて、信じられないくらい貧
弱な内容であることに、驚愕しました。

わが国では、有価証券報告書にいいかげんな記述が実に多い。株を
買っている人(わが国で約1000万人に増えています)がまず読むべ
きは、その会社の5年分の、有価証券報告書です。5年分の内容比較
です。同じ業界の競争他社と比較すれば、戦略重点も見えるでしょ
う。

IR(投資家との良好な関係の維持)のみかけをよくする前に考え
るべきは、(1)事業目的と、(2)その事業目的を達成する戦略
の中身です。戦略の実行成果と、次の有効な戦略です。

最近は、金融庁が、有価証券報告書をインターネットで公開してい
ます。基礎の会計知識と、言葉を読みとる能力をもつなら公開企業
についての情報の宝庫になります。

余計な形容詞や副詞を消しマスクして読むことです。暗黙に、どう
言葉を定義をしているかを、その文脈(テキスト)から読みとるこ
とです。文章の、見かけ上の巧拙ではない。実体です。

意味のない仰々しい言葉が多いとき、事業の実体に、カオスがあり
ます。理由は、有価証券報告書は、社内で使われている言葉を反映
するからです。形容詞に重きをおいた表現のところは、内容が薄い。

おそらくは「しっかりやれ、きちんとやれ、一生懸命にやれ、誠心
誠意やれ」という意味のわかりにくい言葉が、毎日の仕事上でも飛
び交っている会社です。

たとえば副詞を使った「きちんとやる」ことはどう行うことか、そ
れを、名詞、動詞、数字で定義しない限り、仕事の指示にはならな
い。政治家が多く使うのが、このきちんとやるということです。

新聞にも実に「きちんと行う」という言葉が多い。指示する側が作
業方法を知らないとき、「きちんと行え」と言うのでしょうね。

会社では、指示用語としては禁止したほうがいい言葉のひとつです。
読めば意味のない理念、戦略にならない戦略が満ちています。

https://info.edinet.go.jp/EdiHtml/main.htm

■2.そしてリードという概念

<会社の全体戦略(strategy):健康産業(病院・調剤薬局)と製
薬メーカーを取り巻くニーズを総合(integrate)し、市場をリード
し収益化できる事業(business)を作って、多様なポートフォリオ
(portfo1io)を樹立すること。>

つぎは文中のリードです。

リードは、先行するという意味をもちます。リーダシップのもとの
言葉がリードです。リーダーは、皆に先行して課題(または目的)
を示し、課題の解決方法を示す人です。

市場をリードするとは、どんな意味をもつのか。例えばカーディナ
ル・ヘルスの場合では、1位のマッケソンや3位のアメリソースバー
ゲンが、まだ行っていない、顧客にとって有効なことを先行して行
うことです。リードは、最初は業界の少数派です。

プロアクティブ(proactive)という言葉があります。
先行して、行動を起こすという意味です。変化を先に起こす。

業界の起こった変化に対応(react)するのではなく、顧客のニーズ
の分析から、必要なことを、他に先駆けて行うことがリードです。
変化を起こすのは、企業です。変化は、自然現象のように起こるの
ではなく、企業によって人為的に起こるものです。

だから変化対応ではない。顧客にとって有効な変化を引き起こすこ
と、これが事業です。

カ社の戦略では、とりわけこのリードが重視されています。医薬品
を玄関口で卸した後の、院内の医薬品管理に、先駆けて乗り出すと
いうこともそれです。

ベースになるのは、顧客のニーズ分析と調査です。

「顧客は、本当は何を求めているのか、何の問題解決を求めている
のか?」ということです。これで、確証を得ることです。

そして、マーケティング(商品とサービスのコンセプト作り)での
4つの問いは、
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
問い1:業界の常識として商品やサービスに備わっている(あるい
は備えるべきとされている)要素のうち、取り除くべきものは何か?

問い2:業界で標準やモデルとされていることと比べ、思い切り減
らすべき要素は何か?

問い3:業界標準と比べ、大胆に増やすべき要素は何か?

問い4:業界ではこれまで提供されていないが、今後、付け加える
べき要素は何か?(259号)
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

顧客のとっての価値を差異化し、業界に、プロアクティブな変化を
引き起こし、顧客に新たな価値を提供するための4つの問いです。

■3.ビジネスとポートフォリオ

<会社の全体戦略(strategy):健康産業(病院・調剤薬局)と製
薬メーカーを取り巻くニーズを総合(integrate)し、市場をリード
し利益化できる事業(business)を作って、多様なポートフォリオ
(portfo1io)を樹立すること。>

「戦略(strategy)」、「ニーズ」、「総合(integrate)」、「リ
ード」を説明しました。つぎは、分かりきった言葉とされる「ビジ
ネス」です。果たして、分かりきっているのか・・・そのあとが、
ポートフォリオです。

▼ビジネスを作る

ビジネスは、利益の上がる事業という意味です。
利益は、一体、何によって上があるか?

例えば、米国医薬品卸業界1位のマッケソンの物流費が、仮に、出荷
額の2%だったとします。

カーディナル・ヘルスは、この業界基準の物流費を、まず30%コス
トダウンすること(1.6%にすること)を考えます。

【発想のポイント】
重要なことは、これだけコストがかかるという発想による、従来の
経費の積み上げではなく、マッケソンに比べ30%のコストダウンを
果たすにはどうすべきか、何を、どう合理化すべきかということで
す。

30%のコストダウンを果たせば、同じ価格で売ったとき、物流に使
っていた部分の30%が利益になるからです。これが、利益の上がる
ビジネスを作ることの、カーディナルが考えた内容の一端です。

カーディナルは、物流センターの統合、規模化、自動化、そして自
動調剤のピクシスと連動するEDIという4つの戦略セットを、企
業買収によって揃え、1998年に有機的に総合化(integrate)します。

有機は、顧客の問題解決(ソリューション)という目的に対し有効
にすること、総合は各機能をセット化し揃えることです。仕事が有
効であるかどうかは、目的で決まります。

これによって、
(1)マッケソンと同じ価格で売れば、コストダウン分の30%以上
  の利益が残り、
(2)そのコストダウン分の半分を使い価格割引すれば、新たな顧
  客を獲得できることになります。

カーディナルは、1980年に食品卸から参入した新興企業です。新規
のマーケットに参入する戦略はこうしたものです。参考のために、
1980年から25年間の売上高の推移を示します。

 1980年 食品卸から医薬品卸へ参入(事実上の創業)
 1990年 $ 10億
 1995年 $ 50億
 2000年 $303億
 2005年 $749億(粗利益$50億:営業利益$18億)

(注)カーディナル・ヘルスは、1998年に、物流費で従来と比較し
(自社比で)、50%のコストダウンを果たしています。そのために
は、前稿で前述したように、上流取引、下流取引の合理化・標準化
が必要です。

▼事業のポートフォリオ

ポートフォリオは金融用語です。

債券、株、資源に投資するとき、
(1)安全ではあるが利回りの低い債券、
(2)その債券が下がったときに反対の値動きをする傾向がある別
   の債券、資産、資源、
(3)及びリスクは高いが利回りも高い債券の3種を一定割合で組
   み合わせる方法です。

鍵になる割合(ポートフォリオ比率)は、コンピュータプログラム
で、過去の価格変動データからシミュレーションをし、最適率を出
し、組み合わせを一定期間で、変えて行きます。

(注)この方法がうまく行かないときは、市場での価格決定の要素
に変化が起こったときと、予想確率の設定を誤ったときです。過去
にLTCMは、ロシアのデフォルト(債務の支払い停止)の確率を
誤りました。

この方法を、難しい用語で「オルターナティブ(代替的)投資」と
言います。カーディナル・ヘルスはポートフォリオ戦略をとってい
ます。

米国の、200兆円の医療産業の全体おいて、今は周辺的な代替市場と
されているのは、(1)高齢者が多い長期療養医療、(2)わが国
でも急増している自宅介護、(3)そしてわが国ではない、処方薬
のメールオーダーです。

これら3つは、既存の医療産業にとって、周辺的なものです。しか
しこれらは、現在のトレンドでは増加傾向が強い。確定した高齢化
で、ますます増えるからです。

長期療養医療のマーケットは米国で$141億(1.6兆円)、自宅介護
は$20億(2300億円)、メールオーダーは$330億(3.8兆円)とさ
れます。

(注)処方薬のメールオーダーは、一定期間で繰り返して同じ医薬
を買う必要がある慢性患者にとって、いちいち調剤薬局に出かける
無駄をなくすことができ便利です。わが国では、普及していません。

カーディナル・ヘルスは「既存産業にとって代替的」と言われる、
こうした市場に、早々と参入しています。合計で5.6兆円の周辺市場
で、すでに20%のシェア(1.1兆円)を獲得しています。

これが、事業のポートフォリオです。

以上の長文で、やっと3行の解説が、終わりました。

<Overall corporate strategy: Build a diverse portfolio of m
arket leading business integrated around healthcare providers
and pharmaceutical manufacturers.>

<会社の全体戦略:健康産業(病院・調剤薬局)と製薬メーカーを
取り巻くニーズを総合し、市場をリードし利益化できる事業を作っ
て、多様なポートフォリオを樹立すること。>

明晰なコトバが使われています。感心します。内容に共感しました。
しかしビジネスで大切なのは共感です。エモーショナルな理解が、
重要なのです。

論理での理解では、総論への賛成しか導けない。5.5万人の仕事は、
細分化された各論です。

総論には賛成、自分の仕事の各論には反対という状況は、理解が言
葉上にどどまっているとき起こります。行動にむすびつくにはエモ
ーションが必要なことは、最近の脳科学がすでに明らかにしていま
す。

「言われていることは分かるが、なんとなく、感じが嫌だ」という
態度が、総論賛成・各論反対です。各論を統御する機能を果たすの
が、次に述べる「価値観」です。

■4.COOは会社の価値観だけを説明した

COO(最高業務責任者:社長:マーク・パリッシュ氏)はシャー
プそうな人物でした。ペンシルバニア大学ウォートン校か、ハーバ
ード、あるいはプリンストンのMBAでしょう。40代前半に見えま
した。

4名の副社長(事業部長に相当)が、各事業の戦略の説明をしている
とき「もっと的確な表現が使えるのに・・・」という表情が見えた
ことが、印象に残っています。

(蛇足)英語のヒアリングが得意ならと今回も後悔しました。読む
のと書くのはまぁまぁいいのですが、会話は、中学3年生レベルです。
NYに住む家族に笑われます。「それ、変だよ・・・まるで江戸
時代」

レストランやタクシーで、フォーマルなコトバをたどたどしく難し
く使いすぎます。英語で3時間くらい講演したことはあるのですが・
・・今思い出し、顔から火が出ます。

自己の名誉のためにいえば、約2万語の単語力だけです。これだけは
大卒のネイティブスピーカーにテストで勝ちました。受験のとき、
語源で覚えたのが残っています。(苦笑です)

▼経営目的、価値観、戦略へのマインド・セットの共有

戦略の説明は事業部長(vice president)に任せ、COOの彼が説
明したのは、会社の価値観だけです。

<カーディナル・ヘルスは一つである。以下の3項について、マイン
ドセット(意識、認識、感情)を共有するのがわが社である。>

「マインド・セット」という心理学的な概念に着目しください。

1.なぜわれわれは、存在するか?
              これが経営目的である。

2.われわれは、何に立脚するか?
              これが価値観である。

3.われわれは、どこへ向かうか?
              これを示すのが戦略である。

彼は、経営目的、価値観、戦略(方法)について、マインド・セッ
トを共有するのが、カーディナル・ヘルスだと繰り返しました。

<戦略は時によって変わるかもしれない。しかし価値観は変えない。
価値観にこそ、カーディナル・ヘルスの本質がある>

どんな価値観か?

<われわれは、行動のガイドライン(枠組み)になる原則の有効性
にゆるぎない信念をもっている。その価値観は、われわれが、どう
ビジネスと仕事を行うべきかを決める。この価値観に対し、われわ
れは契約(コミット)し実行に責任をもつ。>

宗教的な言葉、神への契約のようです。マインド・セットだからで
す。

わが国では、「同質な国民であり、皆、同じ価値観や認識をもつは
ずだ」という前提に寄りかかり、自社の価値観を言葉で示す会社は
稀なようです。訓話的な社是に有効な意味を与えるものであり、企
業にとって必須のものであると考えるべきです。「言葉が通じない」
「仕事の評価がおかしい」、「あの部署の行動が変だ」という
カオスをなくすためです。

わが国で上場企業の80%が採用するように変わった「成果主義」も、
実は、仕事の評価のベースになる価値観から派生したものでなければ
ならない。評価とは、何が大切かという価値観です。

▼4つの価値観

価値観とは、判断、行動、評価において、何をもっとも大切に守る
かということです。これがエモーションを動かす。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
1.倫理綱領

われわれの仲間と顧客に対し、あらゆる行動において、フェア(公
正)であり、オネスト(誠実)であれ。

2.行動の原動力

自分自身と仲間に対し、高い基準を設定せよ。成果に焦点を当てよ。
プロセスの努力は、(長期的あるいは短期的な)成果がなければ、
無効であると心得よ。自分の全行動に対し、個人的に責任を引き
受けよ。

3.革新の綱領

すでに明白になっていることは、超えねばならない。われわれがも
つ専門的な知識と技術を使い、顧客の利益・便益のために、新しい
方法を発見せよ。

4.協働の綱領

顧客の顕在的・潜在的なニーズに対し、ソリューション(問題解決)
を提供する目的で、顧客、および仲間と一緒になって協働せよ。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

以上の価値観4項を、COOのマーク・パリッシュ氏が説明しました。

聞き取りが苦手な私にも、クリアに伝わりました。
論理的で、余分なコトバがなく的確だったからです。

5万5千人の、世代、人種、宗教、考えが違う社員に、明確で誤解の
ないことを伝えねばならない。彼は、社員に対しても、顧客に対し
ても、あるいは取引先に対しても、価値観を繰り返し訴えているは
ずです。

大きな企業ほど、実行すべきことは、単純でなければならない。
大きな企業を作るには、メッセージは明快でなければならない。
誤解を生むものであってはならないのです。

連休特別号として、出張記を送りました。

企業が有効な組織体として成立する、基本の3要素について、明晰
な思考をし、事業を作り上げたのがカーディナルです。

1.事業目的・経営目的・ビジョン
2.経営目的を達成するための戦略
3.行動綱領である価値観

成長する企業は、以上の3つが有効に働き、毎年より多くの顧客を
獲得します。そのために、収益がコストを上回り利益を出す。他方、
成長が停滞し、事業が困難になるのは、以上の3つが機能を発揮
せず組織の中に、カオス部分が増えるからです。

業績の悪い会社は、各人が怠けるのではない。仕事は、十分にする。
必死の努力もする。しかしその努力と仕事の方向に誤りと混乱が
ある。そのため、個々人のエネルギーはあっても、組織全体ではエ
ネルギーが相殺され、空(くう)に近づく。

組織の中にカオスが増えれば、それに正比例し使われるコストが有
効でなくなって、利益が減り、最終的には、有機体である組織の無
機化、つまり倒産です。倒産(無機化)とは、組織で働いていた人
々が離散し砂粒に戻ることです。

砂漠の中に、砂を使い、顧客にとって有効な働きをする生命のある
有機体を作るのが事業作りです。

集結せよ。集まって分業し、目的のために有効な働きをせよ。その
ための方法はこれだ、行動方法はこれだということまでを示すのが、
ビジョン、戦略、価値観です。

本シリーズの目的は、ビジョン、戦略、価値観の内容がどんなもの
か、事業においてどんな働きをするのか理解していただくことです。
理解すれば、わが社でも「作る必要」があると思えるはずです。

see you next week!

【後記】
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
     【ビジネス知識源 読者アンケート 】

読者の方からの意見や感想を、書く内容に反映させることを目的と
するアンケートです。いただく感想は参考になります。

1.テーマと内容は興味がもてますか?
2.理解は進みましたか?
3.疑問点は?
4.その他、感想、希望テーマ等、ご自由に
5.差し支えない範囲で読者の横顔情報があると助かります。

コピーしてメールにはりつけ、記入の上、気軽に送信してください。
質問のひとつひとつに返信することはできないかも知れませんが、
共通テーマはメールマガジンでとりあげます。

↓著者へのメールのあて先
yoshida@cool-knowledge.com

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
■以下は、有料版(週刊:1ヶ月で630円)の購読案内です。

姉妹紙の『ビジネス知識源プレミアム:有料版』は、「1ヶ月ビジ
ネス書5冊を超える情報価値をe-Mailでお届けする」ことを趣旨に、
ビジネスの成功原則、関連事項、経済を原理からまとめ、明快に
解いてお届けしています。

<266号:事業改革のプロセスと方法(4)>
      06年4月26日号
【目次】

1.ビジョンと戦略の関係
2.顧客に向かった全体経営目的(全体ビジョン)への問い
3.事業拡大が失敗する根本原因
4.改革のためのビジョン・コミュニケーション
5.事業規模の拡大が失敗する根本原因
6.改革のためのビジョン・コミュニケーション
7.必要なこと:社員にエンパワーメントをする
8.エンパワーメントの行動基準

<267号:完結編:事業改革のプロセスと方法(5)>
           06年5月3日号
【目次】

1.世界バブルと認識する
2.迫るドル危機
3.イランの驚くべき提案
4.基軸通貨体制

5.短期的な成果を出す
6.改革チームが磨くべき言葉による定義の能力
7.短期的な成果を活かし更に改革を進める
8.新しい方法を、企業文化として定着させる。

【最初の1ヶ月目は無料試読の特典があります】

(↓)お手間をかけますが、会員登録方法の説明です。
http://premium.mag2.com/begin.html

新規の申し込み月の1ヶ月分は、無料で試読ができます。
無料期間の1ヶ月後の解除も、なんら拘束はなく自由です。

【申し込み方法】
(1)初めての会員登録で、支払い方法とパスワードを決めると、
(2)[まぐまぐプレミアム]から会員登録受付のメールが送って
   きます。
(3)その後、購読誌の登録です。
(4)バックナンバーの購読も月単位でできます。

↓会員登録の方法の説明
http://premium.mag2.com/begin.html

↓申し込み画面。
http://cgi.mag2.com/cgi-bin/magpre/frame/P0000018

↓購読誌の登録
http://premium.mag2.com/mmf/P0/00/00/P0000018.html

Comments are closed.