200号記念:仕事への省察(1)
This is my site Written by admin on 2004年10月19日 – 08:00

こんにちは、吉田繁治です。今日は書類ファイリングをし、机のそば
がすこしすっきりしました。いつの間にか、本無料版も創刊以来20
0号に達しました。有料版は187号です。

ここ4年で400編弱の論考をお届けしたことになります。200ペ
ージの書籍で30冊に相当するでしょうか。

最近の講演で創刊号以来読んでいますと名刺を下さる方が10名くら
いありました。嬉しいことです。日々、多くの出会いがあります。

「いつの間にか」は修飾ではなく実感です。当初ここまで続けること
ができるとは思わなかった。

書いたあとは頭が空っぽになる感じです。計画性があるとは言えませ
ん。書き終わって翌日または数時間すると次のメ切りの原稿です。

情報は絞り出せばまた入っているという感覚でしょうか。

しかし今から4年先(2008年)の自分の仕事を現実性をもって想
定できるかと言えば、私にその能力はない。4年前も同じでした。半
年間先くらいまではぼんやり分かる。先は不明です。日々目前のこと
に集中する方法しか持たない。

ドラッカーは1年半を想定せよと言いますが私には半年です。ドラッ
カーほど大きなことに取り組んでいないためかも知れません。

私にとって一文と一言の積み重ねが仕事です。
ここ4年、その方法しか知らなかった。

言葉は、モノと違い不思議です。
含む「伝統」と交感する。

1ヶ月ほどお休みになったことを詫びます。テーマは200号記念、
「仕事への省察(1)」です。数号のシリーズにします。

最初の1.2.3.4.はテーマに関連する時事随想から。5.から
は「仕事への省察」です。

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<Vol.200:200号記念:仕事への省察(1)>

【目次】
(緊急時事随想)
 1.成果は、会社の外部の顧客
 2.異常なことを正常と思いこむ「正常心理」
 3.赤字通貨の臨界点
 4.ロシアがユーロ圏に:重要
 
【目次】
 5.組織とは何か:横の職能と、縦の職位の体系
 6.成果目標と達成方法
 7.目標の性格
 8.出井氏とゴーン
 9.近代マネジメントの基本はPDC(Plan Do Check)
                     次号へ続く

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■1.成果は、会社の外部の顧客

▼近所のお話

さっき近所の『笑家』という肴が美味しく安い居酒屋に行きました。
100キログラムと思える若主人は、他のなにより、車が趣味です。
毎日いい魚屋で仕入れたネタがある。今日はこれがいいですよと奨め
てくれます。

アルバイトで買った漆黒のメルセデスのことを以前書いたことがあり
ます。1個200円で早朝から深夜まで400個をクロネコヤマトで
宅配し1日8万円をもらった。400個配達の作業量が想像できるで
しょうか? 

創業2年です。変わらず誠実な商売で雰囲気は楽しく、いつも「わら
いや」で近所の家族連れの常連が多い。

しかし時に今月(あるいは今週)はお客様が少ないということもある
という。「前に出した魚がいけなかったのか、この料理がダメだった
のか、何が原因か・・・」と考えるが、理由はわからず相当に悩むと
いう。

今日の笑屋では、8時頃他のお客様が帰ってしまった。話していると、
若主人は「9月には、落ち込んだ」と言っていた。

しばらくすると盛況を呈しほっとした。料理や素材が原因ではなかっ
た。単に客の動きの季節的な波であることがわかった。

経営者かあるいは利益責任をもつ人なら、客が来てくれたことの喜び
と十分に来ないときの奈落に落ちると思える不安が分かるはずです。

▼社員一般

しかし「会社」から給料をもらう社員は、顧客が減り相当なことがあ
っても、安心しているように見えます。給料をもらうのは仕事の成果
には関係がなく、労働の対価としての権利と考えることもできるから
です。

【給料は内部から】
社員の多くは「会社の内部」から給料をもらっているという意識でし
ょう。倒産の際も法的には労働債務(給与)が他の一般債務に優先し
支払うべきとされています。

【達成】
仕入れが自分の仕事とすれば、仕入れを前よりうまくやれば、仕事に
達成感がある。利益の成果ではなく労働の対価として「会社から」給
料をもらう。

【経営】
しかしまともな経営者は、顧客つまり「会社の外部」からしか収入は
来ないと考えている。仕入れは購買であり利益からの支出です。仕入
れは手段であり成果ではない。

【内部の仕事】
仕入れたものが残りなく売れなければ、損失(資金のマイナス)を生
む。会社の内部で費やされるすべては、収入という成果を得る手段と
しての「経費」か「投資」です。優れた商品でも、顧客に売らない限
り収入にはならない。

▼収入は外部から

収入は会社の外部にいる顧客からしか来ない。仕入額と経費を上回る
収入のことを「成果(performance)または利益」と言います。

成果は直接的な利益のみではなく、潜在顧客の増加や競争優位を含む
、将来利益の原因になるものを作ることも言います。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
社員的な見方→[成果=会社内部での仕事の評価]
経営的な見方→[社員の働きは、手段であり経費]
                 →[目的は外部顧客の獲得]
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

【価値連鎖】
自分の仕事が会社の外部の顧客を維持し増やして獲得するという成果
にどうつながっているかを考えない人が多くなっているように思えま
す。

顧客へ至る分業のつながりを、こなれていないコトバで「バリューチ
ェーン:Value Chain :価値連鎖」と言います。

要は、自分の仕事が会社の外部にいて自由な選択権をもつ顧客に「他
では得られないどんな価値」を与えているか、です。これが仕事の意
義であり達成です。

【内部評価】
多くは内部の評価を得ることが仕事の達成だと思っている。米国的な
ワーカーは、社員的な見方です。「労働の対価が会社からもらう賃金」
と考える。

日本人には米国のワーカー的な見方だけではなく経営的な見方をする
社員が比較的に多い。更に経営的な見方と判断ができるようにしなけ
ればならない。これが経営改革の普遍の目標です。

賃金は顧客が与える。経営者は収入を経費と投資に分配する機能です。
収入は外部からしか来ない。銀行も政府も、貸し付けはできても収
入は与えない。借り入れは一時しのぎです。

▼居酒屋に例えれば非道(ひど)い話になる

ダイエーの高木社長は窮して言った。「他の総合量販店も業績は悪い。
ダイエーだけが悪いのではない。ダイエーの固有問題ではなく、総
合量販に共通問題だ。(日経新聞)」 典型的に「社員的」な言い方
です。高木氏の「認識方法」が言わせたコトバです。単なる失言では
ない。

われわれは仕事をしている。成果は十分ではない。同業の会社も同じ
だ、だからダイエーは借金を棒引きされるべきだ。と言ったことにな
る。

聞いたマスコミも「社員意識」で聞いたから、これを取り上げなかっ
た。ひとりトヨタの奥田氏が「借金は返すべきものです」と常識を言
った。

「ダイエーは他社に比べ、顧客に対し、他が提供できない***の価
値を新しく提供している。しかし、まだ価値表現が十分ではない。利
益という成果に向かい、顧客貢献の価値を高めることと、分かりやす
い価値表現を更に強化し利益を出す。」と言い続けなければならなか
った。

例えば、客が少なくなって資金繰りに窮した町の居酒屋が「他の居酒
屋も業績は悪い。われわれだけが悪いのではない。居酒屋に共通問題
だ。」と言って、銀行に借金カットを要求したらどうでしょうか?

これは非道い話になる。高木社長は経営者として問題になる話をした
。大きな会社であると、常識もなくなるものでしょうか。

■2.異常なことを正常と思いこむ「正常心理」

最近知った言葉のひとつが「正常心理」です。多くの会社内部で、異
常なことを集団で正常なことと刷り込む「正常心理」が跋扈(ばっこ
)しています。

▼警報の実験

ある大学で、警報を鳴らす実験をした。
・部屋に1人しかいない人、
・5名くらいでミィーテングを行っている人たち、
・そして数十名がいる部屋。

警報(つまり危機情報)に対する反応が、近くにいる人数でどう違う
かを実証したものです。

たった1人しかいない人は警報が鳴るとしばらくきょろきょろと部屋
を見回す。すぐ不安になって最初に教室を飛び出す。これは、よく分
かる反応です。1人のときは警戒し、自分で判断するしかない。

5名がいる部屋では、まずお互いが顔を見合わせる。最初は、誤報だ
ろうとだれかが言う。警報は鳴り続ける。次第に不安になって、1人
しかいない人の次に部屋を出て、外を確認する。

数十名がいる部屋でも、最初は5名の部屋と同じ反応です。しかし誤
報だと皆で確認し合うと、相当な時間警報が鳴っても、皆部屋を出な
い。あるいは出るのが相当に遅れる。

周囲が「正常だ」と考えるから、自分も正常だと思う心理が働く。「
外部からの情報」に対する反応が鈍くなる。外部情報を否定して、仲
間内の情報で判断する。

集団が外部情報の正当な認識ができず、内部情報に依存してしまうこ
とを、危機管理では「正常心理」と言います。

【悲惨な事件】
昨年韓国で、地下鉄の火災(放火事件)があった。煙が電車の中に入
り込んで来たのに皆じっと座席を動かず、静かに座っていた。だれか
が撮った写真が残っていて、信じられない内部の様子が分かった。1
96人が死んだ。

逃げなかった人には、他人が動かないから自分もこのままでいいと考
える「集団的な正常心理」が働いたと考えられている。

http://www.bo-sai.co.jp/tikatetuhoukajiken.htm

▼大企業

マスコミの論説や解説は、人々に対し「集団的な正常心理」を起こす
作用をすることがありますね。異常なことを取り上げ、逆にニュース
に登場しない他は正常だと表現してしまう。

多くの大企業で、事実上の粉飾会計で黒字を出しながら、臨界点を超
えて危機が発覚してしまうまで、社員は昨日と同じ「正常な」内部環
境の中で、危機に気が付いていないことが多い。

オフィスも人も去年や先月と変わっていない。ダイエーや西武の多く
の社員にも似た心理が働いているに違いない。

大きな会社であればあるほど外部情報を抑圧する「集団的な正常心理」
が働く。役員も時にはトップも集団的な正常心理であることが多い。

内部と周囲には、動揺を抑えるため最後まで肯定的な情報が流される。
そして臨界点(沸点)になると、晴天の霹靂(へきれき)が来る。
(この国では、最後に、政府が登場するのが常です。)

■3.赤字通貨の臨界点

そして今世界でもっとも巨大な国の通貨「ドル」が、米国のみならず
世界人々の「集団的な正常心理」の中にある。皆がドルを持つから、
自分も持つ。危機が言われていても何も起こらなかったので、またい
つもの誤報と思っている。

米国の代表的なビジネス誌、ビジネスウィークでは、米ドルの危機に
ついてのんびりとした論調です(最新号)。ゆで蛙シンドローム(症
候群)に思えます。

為替相場は、長期ではファンダメンタルズ(国家財政と民間経済の基
礎要件)に従います。短期の変動は、株価と同じ心理的な相場です。
この「長期とはいつか?」 ここが、経済予測の難関です。

【03年のドル崩落を防いだ異常な手段】
日本政府が、昨年から今年の3月まで30兆円もドルを買い越した異
常さの後(=ドル崩落を非常手段で押さえた後)、ドルを買っている
のは中国を含むアジア諸国でした。

(注)日本政府の1年間で30兆円(世帯あたり80万円)もの、財
務官の独断でのドル買いを異常だと思う神経が、経済マスコミには欠
けています。これも集団的な正常心理でしょうね。

正常な神経から見れば、異常なドル買いがあった。ドルは110円近
辺にとどまった。1$=110円周辺は、日本政府が意図して作った
「異常相場」だった。

日本のドル買い停止の後の6ヶ月、日本に代わって今度はアジアの中
央銀行がドルの手持ちを合計で13兆円($1300億)増やした。
これは年間換算で26兆円相当します。例えば韓国も大幅にドルを買
っている。

(1)03年3月までは日本が1年30兆円の額でドルを買った。(
2)04年4月以降は、ドル買いを停止した日本の代わりに、アジア
がほぼ同じペース(年26兆円)でドルを買い支えた。

イラク戦争以後の1年半、政治相場によってドルは維持されています。
ドルを買うこと(=貸付金)で、イラク戦争と戦費までもバックアッ
プした。

そして今ドルは対ユーロや円に対してだけではなく、主要国の変動相
場制をとる通貨に対し、02年から20%も下落しています。年率で
は10%の下落です。(注)中国元はドル固定相場です。今は、中国
政府はドルを買い支える立場です。

ドルがこれ以上下げればドルを巨額に持つ日本を含むアジアは、政府
と民間が甚大な損失を蒙ります。

(1)日本の財務省は、外貨準備として約90兆円を持ちます。10
%(約10円)の下落で約9兆円(1世帯当たり20万円)の含み損
が出ます。
(2)民間金融機関の、ドル債券の手持ちは約100兆円です。10
%以上のドル安100円以下なら、また自己資本がとぶ。

アジア経済は米国を市場とする輸出で成り立っています。米国の赤字
によって日本を含むアジアの主要企業が利益をあげています。とりわ
け90年代以来の、世界の交易構造がこれです。

▼臨界点が見えた

[米国の貿易赤字+財政赤字+企業債務+世帯債務]に対する「正常
心理」が、「リスク心理に転じる臨界点」はどこか?

変動相場の原理が「普通に」働けば1ドル80円以下あるいは60円
にまでに下落するはずの米ドルが、高く維持されていることは「正常」
か、「異常」か?

地獄の底までドルを買う日本の存在こそが異常なのではないか?
日本がドルを売りあびせれば、ドル基軸は一夜で崩壊します。

警報は今まさに鳴っています。集団的な正常心理にかられ教室にとど
まる人と、カナリアのように危機を感じる人がいる。

1971年の共和党ニクソンショックのような、通貨調整の「晴天の
霹靂(へきれき)」の序曲にも見えます。

異常なことに対し正常心理をばらまく日経新聞、そして官庁エコノミ
ストの感度は相当鈍っています。

日本人は一般に「財務省−日銀」が管理する円の世界にどっぷりと漬
かっている。為替への感度は鈍い。世界でも特殊です。

例えれば、米国以外に世界はないと思えてしまう米国大陸の内陸部の
ような感じですね。

日本人にとっては過去は自然の海が心理の防波堤だった。今は、マネ
ーの世界は、瞬時で動くリアルタイム通信でむすばれ海の防波堤は蒸
発した。

■4.ロシアがユーロ圏に:重要

▼ロシアがドルからユーロへ

最近(04.11.18)驚いたニュースは、「プーチンのロシアが
ルーブルのドル連動制を廃止する」発表をしたことです。

ユーロ70%、米ドル30%の比重で、通貨バスケットにしルーブル
と連動させます。ユーラシア(大陸欧州+東欧圏+ロシア)がユーロ
圏になった。

金融ローマ帝国は次々に崩れています。80年代から90年代は、金
融ローマ帝国の勢力拡張期でした。米ドルに自国通貨を連動させる国
が増えたていたからです。

2000年のユーロの誕生、2001年の9.11、そして今度のイ
ラク戦争で事情が変わった。マネーは、マネーをムダに使う国と、借
金の国から離れます。これがマネーの自然です。

▼いよいよ中国とアラブ

あとは中国とアジアです。中国は元切り上げ圧力に対し、ロシア方式
に似た[ユーロ**%+ドル**%]の通貨バスケットを志向する可
能性が高い。中国のドル離れを意味します

ユーロとドルに対する元の独歩高は避けねばならない。元高は国内失
業を増やし、結果として暴動が起こります。事実、社会の不公正、役
人腐敗、そして失業に抗議する、時には数十万人規模の暴動が増えて
います。マスコミは、これを十分には伝えていない。

今の中国は、共産党王朝の政治体制です。
爾来(じらい)中国王朝は暴動で崩壊しています。

中国(とくに香港)では、民間で今ドル売り人民元買いへの殺到があ
る。中国人は政府高官も含めてマネーの面では徹底した「個人主義」
です。統制国特有の、ダブル・スタンダードがあります。

次は、日本、中国に準じて米国からドルを受け取っているアラブ諸国
でしょう。

こうした一連の、世界のドル離れの雪崩をブッシュ政権は是非にも止
めなければならない。米国に猶予(ゆうよ)は許されない。

▼イラク戦争の原因についての本当の話

定説になっているのは「米国がフセイン政権を倒した本当の理由は、
フセインが、ドル建てに変えユーロ建てで原油輸出したから」という
ことです。今更、言うまでもないことですが。

アラブは地勢では欧州大陸の隣地です。米国は遠い。

フセインが呼び水になり、アラブのドルからユーロへの移管が起これ
ば、商品の代わりにドル債券(またはドル紙幣)を渡せばいいドル基
軸の体制が痛烈な打撃を受けることになると米国政府筋(シンクタン
ク:ヘリテージ財団)が見たからです。

アラブの原油を買うのに、欧州への輸出でかせいだユーロ(外貨)を
払わねばならない米国を、米国自身が想像できない。

官僚とは違い、野心ある知的エリートを集めたシンクタンクが、政策
を起案するのが米国特有の政治的な意思決定の構造です。スピーチや
記者質問への回答を聞けば、ブッシュ大統領個人は小泉首相と似て経
済音痴です。

ブッシュ大統領もシンクタンクのシナリオで踊る俳優です。

年末までに、
(1)日本政府(財務省)が、数兆円の短期国債(為券)を日銀に
   持たせ、
(2)日銀から借りた円でドル買いに走るかどうか、焦点はここで 
 
   す。(もちろん実行されても、秘密裏に行われます。)

米国は「公式には」絶対にドル買い要請をしません。要請すれば、ド
ルが弱いことを世界に向かい、米国政府が照明したことになるからで
す。

▼公式発言の裏と腹

「為替相場への(政府)介入は効果がないことが実証されている」と
いう、スノー財務長官とグリーンスパンFRB議長の公式発言は、「
ドル相場は、市場が自由意思で決定している」としなければならない
という苦しさからのものです。

日本政府等への介入要請によってドル相場が維持されれば、それは政
治で歪んだ相場です。政府も、ドルが弱いと認識していることをマー
ケットが悟ってしまうからです。

どこまでドル基軸への「正常心理」でわが国が行くのか? 
昔陸軍、今財務省です。失敗の構造が戦時とそっくりです。

国債発行、郵貯の空洞化、ドル買い損失で財務省責任論が出ないのは
不思議です。年金も財投で使った。心ある財務官僚は今どう思ってい
るか・・・明確に「財政の敗戦」を招いた。

何事につけ赤字には限度がある。これが正常な意識です。日本国だか
ら、あるいはGDPで1位の米国だから赤字がいくらあっても構わな
いというのは「普通に言えば」異常心理でしょう。

若干長い、緊急時事随想を終わり、以降は「仕事への省察」です。

■5.組織とは何か:横の職能と、縦の職位の体系

約1000万人くらいの個人事業主を除けば、5000万人は組織で
働く。基本的なところから、組織を解く必要があります。

確認しなければならないのは組織は責任の体系であるということです
。多くの人が集まる組織では責任の持ち方を、こまかく分け、個人が
分業する。

▼横(職能)と縦(職位)の分業

(1)組織とは分業の体系である。
(2)横の分業(バリューチェーン)を職能(job function)と
   言う。
(3)縦の、階層的な分業を職位(job position)と言う。

職能はそれぞれが責任をもつ機能によって横の部署に分かれます。総
務、人事、経理、商品企画・商品開発、製造、営業(販売)、倉庫、
物流、店舗等は職能です。

外部の顧客は、部署の分業合計を受け取り評価する。

職位は、全体責任をもつ経営者、各部署の部長、課長、係長、係員等
を示す。(英米流にはマネジャー組織です)

職位は「成果責任」の持ちかたによる階層的な縦の分業です。

経営者は、全体の成果責任(現在利益と将来利益)を持つ。
部長は、担当する部門の成果責任を持つべきものです。
課長は、担当する課の成果責任を持つべきものです。

経営者、部長、課長はそれぞれがチームをもつマネジャーです。マネ
ジャーが行うべきことをマネジメント(経営)と言います。

■6.成果目標と達成方法

各部署(横の分業)、各職位(縦の分業)は、それぞれ成果目標をも
って仕事を遂行すべきです。

成果目標は、数字であらわすことができる生産性、利益、コトバであ
らわすことのできる進歩・改善・改革です。必ず、達成期限を持ちま
す。成果に達成期限があるのが資本主義です。

目標として、それが達成されたあとの状態が数字とコトバで描かれな
ければならない。「改革や改善」は手段です。改革や改善されたあと
の姿こそが目標として描かれなければならない。

例えば小泉改革が、うまくいかないことの理由は、道路公団や郵政を
含め改革の後の姿がないからです。改革はどんなにおおきなものでも
手段にすぎない。手段は目的にはならない。

改革は、会社の制度・組織の変更を含む時です。
改善は、制度変更がないときです。

目標を達成するための方法は、チームのマネジャーが決める。達成す
る方法のない目標は、あり得ない。達成する方法がない目標は単にコ
トバで描いた夢想です。(夢想が目標であることが多すぎます)

目標を達成するための手段を、戦略とも言います。
戦略とは、目標に至るための方法と手段を示す設計図です。

チームマネジャーは、PDCの方法を基本にマネジメント(経営)を
実行します。

■7.目標の性格

昨年より低下した目標は普通はあり得ない。目標は必ず、昨年より高
い成果(または利益、あるいはコストダウン)を目指す。

昨年の成果は、昨年実行した方法(または戦略)によるものだった。
今年の目標が昨年より高いとすれば、昨年とった方法(あるいは戦略)
に対し、方法あるいは戦略の変更か付加が行われなければならない。

昨年と同じ方法では、昨年以下の成果しか上がらない。他社が進歩し、
競争的な参入もあり競争はよりハイレベルにになるからです。その
中でじっとしていれば、必然的に退歩です。

目標だけを高くすることはできない。昨年の方法を検討し、高くなっ
た目標を達成する方法を決めなければならない。達成方法のない目標
を、だれも受けいれてはならない。

■8.出井氏とゴーン

ソニーの会長出井氏が、今年度の利益目標を取締役会で発表した。社
外取締役の1名に日産のカルロス・ゴーンがいた。ゴーンは質問した。

「利益目標に、出井さんはコミットしているのか?」

出井氏は、昔、欧州ソニーの総責任者だった。欧米社会でのコミット
メント(実行契約)の重さを知っている。国語で言えば、武士に二言
はないのか、利益目標が達成できなければ言い訳をするのかとゴーン
は聞いたことになる。

ゴーンからの問いかけに戸惑って青ざめた出井氏は、絞り出すように
言った。「コミットメントだ。」

ゴーンは、昨年とは違うどんな方法と戦略の付加・変更で、昨年は達
成できなかった利益目標を達成するのかと聞いたことになる。

カルロス・ゴーンは日産のCEOに就任した途端、日産の改革と利益
目標にコミットした。「描いた目標が達成できなければ、私は去る」
という条件で自分を縛っていた。

彼が言う。「日本の経営の多くで、目標を達成する方法が欠落してい
ることが多い。」 これでは経営ではない。

目標達成には、まずは経営者がコミットしなければならない。上層の
コミットがない目標は下への押しつけに過ぎない。そして自分は「検
査役」、ひどく言えば部下の評論の立場に避難している。

富士通の成果主義の失敗も、「部下に成果責任を押しつけ、上司が評
価者になってしまった」からです。

部下から上がってきた目標を寄せ集めた会社目標が多い。これでは、
経営者のコミットメントがない。コミットメントがなければ目標は達
成されない。ましてや経理が傾向線で描いた目標は論外です。

さて、来年3月期のソニーの利益はどうなるか?

目標作りくらい難しいものはない。夢想ではない目標にするためには
達成する方法を作らねばならない。戦略付加と修正をしなければなら
ないからです。マネジメントを職務とするマネジャーはこうしたこと
にこそ、業務責任をもつ。だから部下より給料が高い。

■9.近代マネジメントの基本はPDC(Plan Do Check)

まず最初に基本となることから解きます。このことが土台になって、
仕事論へ進むことができます。

▼Plan(計画)

プランの条件で基本になるのは以下の5項です。

(1)目標設定:現状から変化したあとの姿を、コトバと数字で描 
        く。
(2)予算決定:手段(または戦略)と目標に対応した予算・人員
        を決める。
(3)期限設定:3年、1年、4半期、4週、1週
(4)実行方法:作業工程(または作業手順)と成果の計量方法を
        決める
(5)作業割り当て:責任者、役割、担当者を決め、必要な教育を
        する。

以上の基本項目が、プランには盛り込まれ、整合的でなければならな
い。

▼Do(実行)

(1)実行:実行方法、作業手順に従って、各自が責任作業を実行
(2)報告:期限前に、複数回の経過報告(accountability)を行
      う。期限後未達の報告はあり得ない。

▼Check(進行の過程管理)

(1)目標(成果)と途中結果の差異を、毎週(定期に)数値と、
   決めた計量方法で分析する。
   目標、予算、手段または方法を変更する。(反省と言う)
(2)実行途中で発生する目標達成の障害を解決する(対応と
   言う)

以上の、PDCが、マネジメントの基本中の基本です。最初のPDC
→次のPDC・・・と回るので、マネジメント・サイクルとも言いま
す。このPDCのプロセスを経営管理とも言います。

以上が、封建社会的な「奉公」ではない、職能と職位による「近代マ
ネジメント」の方法です。

形の上で職能や職位はあっても、部下が上司に絶対的に仕えるような
、奉公的な仕事の方法をとっているところも大企業・中小企業にかか
わらず多い。西武グループがそれでしょう。直感では250万社のう
ち80%以上でしょうか。

「**長」がついた職位が、責任の持ちかたの(近代的な)分業では
なく、(封建社会の)身分差になってしまっています。

まずはこのことを検討しなければならない。ドラッカーも言うように
「組織」は新しい発明です。われわれはまだコマンド&コントロール
の軍隊の方法以外に、組織マネジメントの方法を知らない。

個人事業なら顧客の増加という成果も単純です。しかし組織では成果
が見えなくなる。そして、仕事につきまとう権限、責任、義務とは何
か?

次号で更に考察を深めます。

【後記】
先々週、熊本県の天草に行きました。本渡市の4万人の人口の中で小
売りの技術競争は高レベルです。日本各地で人口が少ない商圏ほどそ
うだと言えます。

そうした地域では大手量販は、明確に競争負けです。店舗を見れば一
目瞭然です。今後伸びるのは今の大手小売業ではない。いずれもまだ
知られていない新興企業が、1年数10%で売上を伸ばしています。
不況などまるで無縁です。

小売業競争でも大都市部は遅れています。

先週は坂本龍馬の高知でした。飛行機で40分くらいでしょう。『利
益経営の技術と精神』は、高知の食品スーパーでも、社長が読んで、
指定図書になったということを聞いています。

http://www.amazon.co.jp

最大手企業で社員の必読書として指定されたと聞きました。
http://www.amazon.co.jp

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     【ビジネス知識源 読者アンケート 】

読者の方からの意見や感想を、書く内容に反映させることを目的とす
るアンケートです。いただく感想は参考になります。

1.テーマと内容は興味がもてますか?
2.理解は進みましたか?
3.疑問点は?
4.その他、感想、希望テーマ等、ご自由に
5.差し支えない範囲で読者の横顔情報があると助かります。

コピーしてメールにはりつけ、記入の上、気軽に送信してください。

↓著者へのメールのあて先
yoshida@cool-knowledge.com

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▼本無料版と姉妹編である有料版の、最近のものの目次です。

9月末の論証は、11月末になってほぼすべてそのとおりに
なっています。予測ではなく、論証である点に着目して下さい。

 <04年9月29日号:179号:ドル危機の論証(1)>

【目次】
 
 1.サミュエルソンの「世代重複モデル」
 2.物々交換から貨幣経済へ
 3.予想の予想の受け継ぎ
 4.紙片の発行者が得るセニョレッジ(seignior age)の利得
 5.貨幣発行者の倫理的な堕落(モラル・ハザード)
 6.貨幣の性質
 7.グローバル経済とは、米ドル圏の拡大だった
 8.グローバル経済の進展にともなうドル需要の増加

 <04年10月6日号180号:ドル危機の論証(2)>

【目次】
 
 1.米国は非常時「戦時体制」
 2.先制攻撃(pre-emptive attack)の実行中であること
 3.米国の国力の中で、世界に卓越しているのは軍事力
 4.大統領選挙の予測
 5.セニョレッジ特権を使った負債経済
 6.米国内の負債構造
 7.米国の対外純債務と住宅価格
 8.米国の経済戦略とセニョレンジ特権

 <04年10月8日:181号:増刊:結語:ドル危機の論証(3)>

 1.米国経済の負債増加構造
 2.米国の戦略的な課題国は日本・中国・アラブ
 3.英米メジャーのアラブ戦略の本質
 4.400兆円の純債務国の基軸通貨
 5.通貨バスケットは幻影

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