ドルの反通貨、金価格上昇の意味を解く(2)
This is my site Written by admin on 2019年9月27日 – 12:00
こんにちは、吉田繁治です。ずいぶん涼しくなりましたね。いかがお
過ごしでしょうか。前号に続く、<ドルの反通貨、金価格上昇の意味
を解く(2)>を送ります。

最近、ワイドショーでも金価格の上昇が取りあげられます。2018年の
およそ8月から、なぜ上がったのかという問いかけです。一般の人が
見るTVや新聞に特集が出るとき、相場の終わりともいう。今回も、格
言が妥当するのか。本文は、約24ページと、若干長い。

9月8日に、有料版として書いたものの修正版です。

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 <410号:増刊:ドルの反通貨、金価格上昇の意味(2)>
      2019年9月27日:無料版

【目次】

1.2018年8月から、金価格が上がった原因の究明
2.現代の通貨の増発
3.米国の株価は、バブルか?
4.日本では、日銀を含む政府系の郵貯・簡保・GPIFが株価を支え、
 米国では、自社株買いの4.2兆ドルが、株価を上げた

【後記:大阪中の島での無料講演会のお知らせ】

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■1.2018年8月から、金価格が上がった原因の究明

【米ドルは一見、下がっていないが・・・】
基本的な疑問は、どこにあるのか。世界の通貨に対するドルの実効
レートは、下がっていない。

むしろ高い水準。「ドルが下がるとドルが売られ、代替資産とされる
金が買われて上がる」というのはわかるが、ドルが高い水準なのに、
なぜ金が上がるかということでしょう。

今回、相対的である外為市場で、ドルの上昇が始まったのは、2018年
の夏、トランプの対中関税が始まり、英国の議会でEUからの離脱方法
をめぐって迷走していた時期です。

EU離脱は、英国とEUの貿易における10%の関税の問題です。EU(欧州
経済連合)の28か国間では関税が0%、労働の移動は自由です。

離脱すれば、
(1)英国民の過半が嫌っている移民の流入は抑えられますが、
(2)貿易には10%の関税がかかります。EU(28か国の経済同盟)で
はなくなる英国は、EU以外の世界とも、関税の協定を結びなおさなけ
ればならない。EUへの輸出のため、日本も英国に工場を作っています
が、EUに移転しなければならない。
・同時に、英国に支店がある世界の金融機関は、EUでも営業免許を取
り直さねばならない。

【国民投票所あとの英国の、3年間の迷走の理由】
英国議会の迷走の理由は、英国に属する自治領の北アイルランドと、
陸続きの独立国のアイルランド(EUのメンバーを続ける)との間の、
全部の道路に、10%関税と物品検査の検問所(国境)を、多数作らな
ければならないからです。

北アイルランドは、北部のスコットランド(英国)とともに、EU残留
を求めています。英国の分裂の可能性をはらむのが、北アイルランド
問題です。血で血を洗う激しい紛争があった、北アイルランドの英国
からの独立問題も再燃するでしょう。(注)アイルランドは独立国で
すが、北部の北アイルランドは英国の自治領です。

トランプの貿易戦争と英国のEU離脱は、同じ関税の問題です。世界の
産業は、共産圏が崩壊した1990年代から「グローバル・サプライチ
ェーン」、つまり「資材~加工~仕入れ~販売」が国を超えて、在庫
管理(販売・発注システム)でつながっています。

【1990年から始まったのがグローバル化だった】
世界を二つに分断していた冷戦の終わりだったソ連崩壊のあと、
1990年から2010年代の30年間は、製造、物流、販売が「グローバル
化」した時代です。

インターネットも、産業のグローバル化を加速しました。日本は、
1990年代の、冷戦崩壊のあとをうまくイメージできず、産業の適応が
遅れました。

これがGDPの成長のない30年を過ごした、第一の理由です(これは指
摘されない事実です)。世界的な、アップルやアマゾンを作ることが
できなったのです。ぜいぜい、国内だけの楽天やZOZOでしかない。

【見方の問題】
政府とエコノミストは、1990年からの資産バブルの崩壊に、その後の、
GDPゼロ成長(30年!)の原因を、集約してしまったのです。
●冷戦の終結から「始まるもの」ではなく、「終わるもの」を見てい
たことになります。米国、ドイツの企業は、始まるものに焦点を当て
て、東欧、ロシア、中国に進出したのです。

われわれは、時代変化によって、始まるものに、焦点を当てねばなら
ない。次回のドル危機のあと、2、3か月目から上がる金価格について
も、同じことがいえます。

本稿ではそのメカニズムを述べますが、特に米国では、「株価下落→
ドル危機→金融危機→金価格上昇」になります。

英国と中国の関税が上がると、グローバル・サプライチェーンが分断
されます。賃金が、2000年以降の20年で3.5倍に上がった中国からは、
工場の東南アジア移動がすでに増えています。オバマと違いトランプ
は、1990年以降の、生産と経済の歴史の展開を、「米国第一」といい
ながら、逆に、後退させています。

中国輸入に関税を課しても、米国の生産は増えない。米国製造業全体
の先行きを示す景況感指数は、50を下回り、「不況感」が強くなって
います(18年8月:3年ぶりの50割れ)。日本の、上場企業全体の利益
は、-15%でした(19年3-6期)。3年ぶりの減益です。とくに、かつ
ては世界1だった、日本の電気機器の利益は、-74%と壊滅的です。

【中国関税と米中、英国関税とEU、そして日本の経済成長】
関税の増加は、世界のGDPの成長を下げる要素になります。IMFは世界
のGDPで1%程度の下落しか見ていません。しかし複雑系の、多数の経
路をとった波及から、実際にはその2倍にはなるでしょう。

事実、製造と金融で中国と関係が深く。輸出が多いドイツのGDPは、
19年の4-6期にはマイナスです(-0.1%)。2.2%くらいは成長して
いましたから、マイナス幅は2.3ポイントと大きい。

(注)ドイツのベリンガーメーカーが設計した、プロ用のオーディオ
機器(低音・中音・高音に分割するチャンネルデバイダー)を買うと、
当然のように、中国製でした。おなじドイツの設計の、超高品質・低
価格のアンプThoman(トマン)も中国製でした。ドイツは高級車BMW
でもその70%を、中国(52万台)を含む、コストの低い海外で生産し
ています。

トランプ関税と英国のEU離脱は、今のまま進むと、グローバル化して
しまった世界の生産と経済のゆりもどしの転換点になるでしょう。始
まったばかりなので、産業のあらゆる経路に及ぶ複雑系の影響は、
IMFと世界のエコノミストには、まだ見えていない。

経済データは常に過去のものです。集計は、3か月から6か月、住宅統
計などは遅れます。人間に、そのデータの意味が分かるのは、いろん
なデータが出揃う1年かから1.5年後でしょう。

【金融は、実体経済の先行する】
ところが金融(マネーの流れ:ファイナンス)は、マクロ経済の事実
データに、3か月から6か月くらいは先行します。

企業は、将来のGDP(=自社売上)を想定して、資金調達して、設
備・機械・雇用への投資をするからです。資金調達には、金融がかか
わります。金融・経済について書くことが多いのは、このためです。

「長期金利(お金のコスト)が下がる」のは、長期資金の需要の停滞
と減少を示します。実は、中央銀行は「資金の需給で決まる市場の長
期金利」を70%くらいは追認し、その近い将来の傾向を30%くらい変
える能力しかもっていないでしょう。

【長期金利は、市場の売買で決まる長期国債の利回り】
金融機関の間の、長期国債の売買によって、長期金利は決まっていま
す。

・国債人気が高いときは価格が上がって、市場の流通価格に対して金
利が下がり、
・国債の売りが多いときは、流通価格は下がって金利は上がります。

長期国債も、途中で売買されるものが、圧倒的に多い。長期債も、1
年に1.5回転~2回転するくらい、短期債のように売買されています
(日本証券業協会のデータ)。

【国債は長期保有ではなく、激しく売買されている】
金融機関の間の長期国債の売買額は、中央銀行が売買に介入できる金
額より、はるかに大きい。2019年は1か月に1600兆円台の売買(売り
800兆円:買い800兆円)です。1000兆円の国債が、1年に9600兆円
(12か月分)、ほぼ1回転するくらい売られています。10年債でも長
期保有は少ないのです。この意味は、長期・短期の金利は、日銀以外
の金融機関の売買で決まり、日銀は、金利の調整のためその売買に介
入しているということです。

【通貨も同じ】
外為市場(世界の銀行の店頭)でも同じです。世界の外為の売買は、
1日(1か月ではない)に500兆円もあります(WIKI)。円の売買は11
%ですから、55兆円です。1日に数兆円程度の、政府・日銀の介入で
は、円相場は動かせません。1日10兆円から30兆円の、売買への介入
が必要です。

【株は比較的に長期保有される】
国債の売買、通貨の売買に比べれば、株の売買は、圧倒的に少ない日
本では、時価総額が約600兆円ですが、1日には2.5兆円平均の売買で
す。売りが1.25兆円、買いが1.25兆円ですから、200に日の市場の営
業日で250兆円。1年に0.42回転であり、平均保有期間は「1÷0.42=
2.4年」と長い。買って売らない投資家が多いからです)。このため、
日銀の1か月5000億円の株ETFの買いは、売りがない買いの介入になり
価格を上げます。

【景気予想+FRBで変動する米国の長期金利】
米国の長期金利(10年債の金利)を見ます。

2016年7月には、1.6%という低さでした。6か月後の17年1月には2.4
%に上げ(長期国債が売られ、価格が約6%下がり)、2017年12月ま
での約1年、2.3%~2.4%が続きました。

【長期金利の上昇=国債価格の下落】
米国国債買が減って、価格が下がり、長期金利が上がったのは2017年
12月からです。11か月後の2018年10月には、3.15%という高さでした。

この11か月間、米国の長期債は売りが多く、価格は6%下げたのです。
原因は、FRBの、出口政策としての短期金利の利上げでしょう。金利
が上がると、既発国債の価格は、金利上昇と同時に下がるからです。
国債は、発行時の固定金利の債券だからです。

【長期金利の下落=国債価格の上昇】
長期金利が下がりはじめたのは、FRBが18年9月に出口政策の継続とし
て、短期金利を0.25%利上げしたあと、2018年10月からです。
(FRBは18年12月にも0.25%の利上げをしました)

ところが長期金利は、FRBの利上げに反して、「トランプ関税後と英
国のEU離脱後の、実体経済(生産と需要)の低下を予想して(織り込
んで)」下がって行ったのです。

【中央銀行の対応は、常に、遅れる】
市場の長期資金需要の減退に遅れて、FRBが利上げをしたことが分か
ります。FRBのみならず、世界の中央銀行の金融政策は、実態の資金
需給に対して、ほぼ常に、およそ6か月は遅れるのが常です。理由は、
使う経済・金融指標が6か月は古いからです。

金融市場の長期金利が下げる中で、FRBは、短期政策金を2回上げまし
た(18年9月0.25%、12が月0.25%)。

▼以下、慎重に、ゆっくり読んでください。複雑系の金融を示します。

●18年9月からの、FRBによる、短期金利の上げの中での、市場の長期
金利の低下が、昨年秋の米国株の大きな下げを生んだ原因になってい
ます(株価は18年10月~12月に20%下げています)。短期金利が上が
るなかで長期金利は下がったのです。

長期金利の下げは、企業の資金需要(借り入れと社債発行)の減退を
示すものです。企業の景況感が低下し、投資が減ったことを示します。

その中で、FRBは、異次元緩和からの出口政策として、0.25%×2回の
短期金利の上げ誘導を実行したのです(18年9月と12月)。

●長期金利は3.15%(18年10月)から、現在は1.5%台(金利では48
%と半減)に下がっています。2%の短期政策金利を0.5%下回って、
逆イールドという珍しい現象が起こっています。ここが、肝心な点で
す。
https://jp.investing.com/rates-bonds/u.s.-10-year-bond-yield

【2018年の夏から、トランプ関税第一弾】
この長期金利の低下の3か月前、2018年の7月は、米中両方のGDPを低
下させるトランプ関税の、追加第一弾でした(現在は第四弾)。

米国の、貸付の長期金利(長期債の金利+α=企業の設備投資のとき
の金利)は、2018年10月から下がっています。中国への関税発動によ
る、米国のGDPの低下」を予想した、投資資金の需要減退が起こった
のです。

【GDPの減速予想→長期国債の買い→長期金利低下】
資金需要が減ったので、金融機関(当座預金)がもつじゃぶじゃぶの
マネーは、金利のつく長期国債の買いに向かった。この買いのため、
長期国債は、価格が15%上がっています(=長期金利は3.15%→1.5
%に下げています。既発国債の価格が上がることが金利が下がること
です)。

【米国金融での、異常な現象の発生】
米国では、
・市場での、資金の供給と需要が決める長期金利(資金需要が増える
と長期金利は上がり、減ると下がる)と、
・FRBが、2019年7月末に、狼狽して0.25%下げた短期の政策金利(2.
00%~2.25%の誘導目標)が逆転するという、異常な現象が起こって
います(2019年8月~)。

長期の貸し出しはリスクがあるので、回収リスク(貸し倒れ引当金)
を見る金利は、高くなければならない。それが短期金利より低いとい
うことは、企業の資金需要がGDPの減速を予想して減退していること
を示します。対中関税で、企業は「景気の低下を想定」しているので
す。

英国の通貨ポンドでも、ドルと同じ時期に、EU離脱問題から景況感が
低下し、長期金利が米国と同じように下がって、長短金利の逆転が起
こっています。英国ポンドは、FRBの傘の下と見ていいものであり、
ドルと同じ動きをする通貨です。英国でも、EU離脱後のGDPの低下を、
企業経営者は想定しているのです。

【株の売り→米国長期国債の買い+金の買い】
投資家の運用マネーの行き先(残高3兆ドル:315兆円)であるヘッジ
ファンド(投資信託)からは、
・低いとはいえ金利がつく米国長期債が買われて、価格は上がり、利
回りは下がって、
・GDPの減速予想から下落リスクが高くなった株が売られて下がる中
で、金が買われたのです(ヘッジファンドは先物の売買が多い)。

以上が、1年前の2018年8月から、金価格が上昇にはいった理由です
(18年7月末1198ドル→19年9月8日1506ドル:26%上昇)。

「ヘッジファンドが、株を売って金を買った」ことが、金価格を先導
しました。
https://gold.bullionvault.jp/金-価格-チャート.do

まとめれば、以下の、波及の経路でしょう。株価、金価格、外為等の
複雑系では、マネーの経路の判断が重要です。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
(1)トランプ関税第一弾(18年8月)+英国の、EU離脱の国会の迷走
(2)関税からの、GDPの低下予想→企業の長期資金需要の減退
(3)長期資金が滞留した金融機関のマネーでの、長期国債買い→長
期金利の低下(長期債価格は上昇)
(4)株価リスクの高まりの中での、ヘッジファンドの金先物と金
ETFの買い増し→金価格上昇
(5)新興国の中央銀行の、金と金ETF買い増しの継続→金価格上昇
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

【ヘッジファンドが、国債を含む債券価格と金価格を先導する】
ヘッジファンドの金先物の売買は、短期的投資です(3か月から1年の
限月での、売り清算がある)。しかし先物の買いを増やしていくとき
は、長期投資になります。

金ETFは、反対売買の限月(期限日)がない株のような金証券なので、
長期買いが多い。(金ETFは、金価格と同じであることを、発行会社
が保証します)。金ETFは、金地金を証券化したものです(セキュリ
タイゼーション)。金商人でもあるロスチャイルド系のSPDR(スパイ
ダーゴールド)が最大手です。紙の金、つまりペーパーゴールドです。

現在、世界で2500トン分くらいが発行されています。ETFは買いが増
えると増えて、売りが増えると減ります。大型タンカーの通路である
ホルムズ海峡の危機(19年6月)ときも、買いが増えました。

【重要】「トランプ減税で経常収支の赤字が増えているドルの長期下
落リスクへの認識」から、準備通貨として金を買っている新興国の中
央銀行は、買った金を売ることはなく、長期買いです。

【ドルの下落はないという見解についての、反論】
金が上がる条件としての「ドル下落はない」という見解について申し
上げます。

[通貨相場は、相対的なもの]
ドルを含む世界の通貨は、ドルの金準備制を停止したあと(1971年
~)、基軸通貨のドルまでを含む変動相場制です。この中での「ドル
高、ドル安」は他の通貨(ユーロ、元、円)に対する、相対的なもの
です。

(→)構成比がドルについで高いユーロが下がると、ドルの本質的な
価値が下がっていても、ドルは相対的に上がったように見えます。

●ユーロは、「英国のEU離脱と、米国より対中貿易が多いため」、
2018年4月の1ユーロ=1.23ドルから、現在は1ユーロ=1.10ドルにま
で、12%下げています。これが、ドル高に見える主因です。

逆に、円に対しては、米ドルは4%から5%下げています。(2018年
12月112円→19年9月107円:111円~107円を変動)

・通貨の構成比が、円の約3倍のユーロに対して、ドルが上がり
(ユーロが下がり)、
・合計では、米ドルに匹敵する、元を含む新興国通貨に対して上がっ
たので(新興国通貨はドルに対して下がった)、
(→)世界の通貨に対する、2015年以降のドルは「上がっている=下
がっていない」ように見えています。

(注)2015年は、FRBが、2008年以降の量的緩和(QE:4兆ドル:420
兆円)のドルの供給を絞る、出口政策として、「0.25%×9回」の利
上げを行いはじめた年度です。

FRBの利上げのため、
・2015年は1ドル=1.16ユーロ、2018年1月は1ドル=1.20ユーロの、
ドル高(ユーロ安)でした。ユーロの金利は0%~マイナスに下げた
からです・

【相対的な尺度が変わっていく変動相場では、ドルの価値は分からな
い】
●ドルの絶対価値は、変動相場の中では分からない。絶対的な価値を
もつ金との関係で計るべきという、少数派の見解をもっています(喜
んで少数派です)。

●1971年にニクソン大統領が金交換制を一方的に停止したあとの、変
動相場の40年間のドルは、世界の通貨に対する「実効レート」であっ
ても、「お互いに伸び縮みするゴムの定規」で計った相対価値に過ぎ
ないからです。

【1971年以降の、変動相場】
FRBの金交換の停止(1971年~現在)は、米国FRBの、ドル発行の準備
資産(担保)だった2万4000トンの金が、ベトナム戦争での7000億ド
ルの戦費による貿易赤字を原因に、欧州に流出したための、「金のデ
フォルト(ドルという約束手手形の、金交換の停止)」でした。

●ドルと交換されたFRBの金が枯渇して、金本位のドルがデフォルト
し、金本位を放棄したというのが真相です。

特に、本質では反ドルでもあるフランスとドイツは、FRBに対して、
貿易で受け取ったドルと、金の交換を要求したからです。FRBが決め
ていた金の公定価格は、1オンス(31.1g)が35ドルでした。現在の
43分の1です。1グラムでは1.12ドルであり、118円(!)でした(現
在は5500円付近)。

ベトナム戦争(1955年~1975年の20年間)の直接の戦費は、現在価値
では7兆ドル(735兆円)であり、第一次世界大戦より、米国の戦争費
用は大きかったのです。その後の医療費や年金・恩給を含むと、もっ
と巨大な費用がかかってます。米国の凋落は、米国のほぼ唯一の敗戦
だったベトナム戦争で始まっています。

ベトナム戦争の陰で、輸出により、2000年代の中国のような二桁の高
度成長したのが日本です。米国が、戦費をばらまき、日本がそれを得
たのです。父は船員でした。ベトナムに食糧・医療品・衣服などの補
充物資を運ぶ輸送船に乗ると、危険手当として給料が2倍になると休
暇で帰ったときいっていたので記憶しています。1970年ままでの日本
は、米国の朝鮮戦争、ベトナム戦争特需で経済成長していたのです。

【戦争と国債の増発→通貨の増刷】
20年の長期の戦争は、「財政赤字からの国債発行→中央銀行による国
債の買い」として通貨を増発させます。ドルが増発されると、ドルの
価値の下落を恐れる国(欧州)からの、価値を保つ金との交換要求が
増えます。ドルと金交換は、FRBからの金の流出なので、FRBは金準備
制の持続できなくなります。

米国財政を赤字にしたベトナム戦争の結果が、実は1971年の「金ドル
交換停止」でした。(新著『臨界点を超える世界経済』で、「政府に
よって、「金融の正史」とされていない本当の歴史」も詳しく書いて
います)

戦後世界が、金に代わってドルを貿易に使う基軸通貨の体制(1944年
~71年)では、金1オンスを35ドルと交換可能としたドルに対して、
世界の通貨は交換レートを固定した固定相場でした。

円は、1ドル=360円でした。現在の105円になおすと、当時の金1グラ
ムは108円という安だったのです。いまは、5500円付近ですから、金
に対する1万円札の価値(購買力)は、50分の1に下がっています。原
因は、「金の生産量以上に、円が増発され続けた」からです。

1971年の、米国からの一方的な金・ドル交換停止のあと、ドル価値の
アンカー(錨)だった金がなくなります。

あとは、ドルと世界の通貨は、外為市場での売買によって日々変動し
ていく「変動相場」にならざるを得なかったのです。貿易収支の赤字
のためドルが海外に流出する米国は、ドル価値を守ることができなか
ったのです。

【信用通貨となったドルの価値は10年で急落した】
ベトナム戦争による戦費が原因で、1971年に金・ドル交換が停止され、
信用通貨になったドルに対しては、1973年、1979年と2度の石油危機
(原油価格はドルで20倍)が起こります。1980年には、金価格は1オ
ンス850ドルに上がっています。1971年の1オンス35ドルからすれば、
850ドルは24倍です。

●金の価値が、10年で24倍に上がったのではない。金は5000年前から
同じ金属です。金の価値が上がったのではなく、増刷を続けた信用通
貨の米ドルが1970年代の10年で、1/24に価値を下げたのです。金は、
3年で数倍、5年で10倍、10年で20倍というような価格の上げ方をして
きたのです。

増発されたドルの価値が、1970年代の10年で1/24に下落していたとい
うことでしょう。このドル価値の大きな下落は、他の通貨も一緒に動
変動相場では見えない。1ドルは円に対しては360円が240円くらいに、
34%下がったにすぎないからです(1980年)

■2.現代の通貨の増発

現代の世界は、通貨では戦争のあとではない。元FRB議長のグリーン
スパンが、1929年から33年の大恐慌を想起して、70年に一度と言った
金融危機(2008年9月のリーマン危機)のあとです。

08年9月に発現した金融危機(リーマン危機という)の後、米国、欧
州、日本、中国の中央銀行が合計で20兆ドル(2100兆円)の通貨を増
刷しています。これが、「ゼロ金利の、大量に、さらさら流れる過剰
流動性」になったあとの世界、つまり現在です。

【2年という波及期間】
米国住宅価格の下落は、2006年からでした。リーマン危機まで、2年
の波及期間があったのです。この2年間が、デリバティブ証券の下落
が、玉突きの球のように、金融機関の自己資本の消滅に波及していく
期間です。金融機関の自己資本という損失を吸収するバッファー(緩
衝)があるので、債券の下落の波及には、タイムラグが生じます。

今後も、株価・債券の下落のはじまりから、金融危機へは、2年の期
間があると見ていいいでしょう。

2年間の最中は(1年目くらい:ほぼ現在)、「これは小さな崩壊だ」
という論が主流になります。リーマン危機の前も、「不動産ローン担
保証券(MBS、ABS)の下落では、金融危機には至らない」されていた
のです。

大恐慌が始まった、1929年の株価暴落のときも、実体経済の恐慌まで
は、2年の期間がありました(1929年~33年の4年間が大恐慌)。

●現在、マイナス~ゼロ金利のマネーは、集計すると、世界で18兆ド
ル(1890兆円:円は400兆円)にのぼります。マイナス~ゼロ金利の
国債、超低金利の債券、下落リスクが高まった株の売買マネーとして
運用されています。

このうちわずか1%(19兆円)が「金現物や金ETFの買い越し」に向か
うだけでも、金価格は、3倍には高騰するでしょう。

金の生産は、鉱山とリサイクルで4500トン/年、時価では、22.5兆円
くらいしか生産されません。1年に2500トンくらいは固定的な需要
(工業用+宝飾品)なので、金地金では2000トンくらいしか、新たに
買えるものはないからです。(注)短期証券である先物は、現物とは
別枠の買いです。現物需要ではなく、先物証券だけで上がった金融相
場は、3か月から6か月後、最長は1年後に反対売買の限月があるので、
そのときは下げます。先物の買いが清算売りより増える間は、上がり
続けます。

【金の価格と、採掘可能埋蔵量】
金は、1トンが現在価格では約55億円、100トンで5500億円、1000トン
で5.5兆円です(1グラム=5500円とする)。

年間の、金の新規の生産(鉱山の生産)は約3500トンであり、金鉱山
の枯渇のため、容易には増えないのです。地下4000~5000メートル掘
っても、今後、採掘が可能な金の、世界の総量は5万トンとされてい
ます。金鉱山が枯渇してきたため、今は金鉱石1トンから、わずかな
3~5グラム(小指の爪先)くらいの金しかとれなくなっています。

採掘可能なものは、最大に見ても8万トンはないでしょう。年間の採
掘量を3500トン以上に増やすには、設備投資が必要であり、すぐには
増えません。

海水には、微量の金が含まれています。しかし、東京ドーム4~5杯分
でやっと1グラム。円での小売価格では、約5500円分です。海水を煮
詰め、金を精製することを、ヒトラーのナチスドイツが試みましたが
まるで採算には合わず、バカバカしい実験でした。ヒトラーは、いろ
んな狂気的なことをやっています。

通貨、国債、株式は、紙の契約書であり、必要ならいくらでも増発で
きますが、金の生産設備には、年3千数百トンという物理的な限界が
あります。低いコストで、使用量に対してはほぼ無限に採掘できる原
油や鉄鋼石とはまるで違います。

いままで掘り起こされた地上の金(宝飾品、ゴールドバー、電子部
品)は、18万トンとされ、時価では1000兆円くらいでしかない。ただ
し、買いが増えて1グラムの価格が5倍(2万7500円)に上がると、約
5000兆円です。世界の通貨の担保資産として、中央銀行がもつべき準
備通貨にする量があります。

【金本位への反対論】
金本位(正確には、金貨ではないので金準備制)への反対論が「金は、
現代の準備通貨にするには少なすぎる」とヒステリックに言うのは、
金価格を固定して見ているからです。金価格の上昇は、米ドルとドル
を、基軸通貨として中心にしている世界の通貨(ユーロ、人民元、円、
豪ドル、カナダドル、スイスフランなど約100種)の、実質価値の低
下(資産価格に対するインフレ)の発現と見ることができます。

●「金」は不動産と同じような意味で、価格が上がることにより、金
額での実質的な量が増えることができます。中央銀行(特に米国FR
B)は、金価格の上昇がドルの価値下落を示すので、金の上昇を認め
たくないのです。

■3.米国の株価は、バブルか?

金の、これから2年先の価格を見通すには、時価総額3000兆円の米国
株がバブルとして崩落するのか。バブルであっても、大きくは下がら
す、±15%(ダウで±3800ドル)くらいの幅で波動しながら高い水準
を続けるのか、にかかっています。

米国の株価崩壊は、まず米国の金融危機になります。米国の金融危機
はドル危機でもあり、その時は、米ドルの反通貨(代替資産)として
買われる金価格は、高騰します(この上昇は、100%の確率です)。

【金融危機の直後は、金価格は下がる】
ただし、金融危機の発現の直後は、金価格は下がることが多い。決済
資金に困窮した金融機関、ヘッジファンドが、手持ちの金を売って現
金に換えるからです。金は債券より、はるかに換金しやすいからです。
下落した数か月後から、金融危機(ドル危機)を原因にした金価格上
昇が始まります(08年のリーマン危機の事例)。

08年のリーマン危機では、金融機関とヘッジファンド中心に、ドル不
足からの資金繰りのために、金の換金売りが急増し、1オンス(31.
1g)970ドルから750ドルまで、23%下げています。2か月後には上が
り始めて、3年後の2011年7月には、1750ドルへと、2.3倍に上がった
のです。原因は「金融危機=ドル危機」です。
https://gold.mmc.co.jp/market/gold-price/

【高い株価に依存している、米国の金融】
米国の株価崩落が、金融危機になる理由は、米国の平均的な金融機関
の自己資本(平均では「総資産=総負債」の約5%しかない)の中身
の多くが、持ち株の含み利益だからです。

銀行の資本は、
(1)基本項目(Tier1)=発行株式+優先株+利益の内部留保
(2)補完項目(Tier2)=保有株や債券の評価益の45%+土地等の評
価益の45%+貸倒引当金+劣後債のローンなどです。

「Tier1+Tier2」が自己資本とされます。それを「貸借対照表の資産、
つまり、貸付金等のリスク債権+株等のリスク債券」で割ったものが、
銀行の自己資本比率です。

米国の大手銀行の自己資本比率は、9%水準ですが、その自己資本の
過半が、「持ち株の含み利益」である点が、株価が下がったときの問
題になります。(注)邦銀の三菱UFJの自己資本費比率は、米国より
高い12.2%です(2018年)。ユーロも平均では13%と高い(2016年)。

【リーマン危機のあと3倍】
リーマン危機のあと、FRBの4度のドル増発(QE:4兆ドル:420兆円の
ゼロ金利マネーの供給)を主因に、
・米国の株価は、平均で3倍に上がり(ex:金は2.3倍)、
・NYSE(ウォール街のNY証券取引所)と、ナスダック(タイムズスク
エア)の、株価時価総額は3000兆円になり、世界の株の50%に膨らん
でいます。
http://www.nicmr.com/nicmr/data/market/stock.pdf

日本は、株価の時価総額では、米国の1/5の602兆円です(19年9月)。
550兆円のGDPに対して、1.1倍です。他方米国はGDPの1.4倍の時価総
額です。(注)1980年代後期は、日本が世界1の株価時価総額でした。
米国の株価時価総額は、米国の名目GDPの20兆ドル(2100兆円:2019
年)に対して、1.4b倍も大きくなっています。

世界1の投資家、ウォーレン・バフェット(バークシャー・ハサウェ
イの運用資金の時価4.9兆ドル:515兆円と巨大)は、GDPを超える米
国の株価の40%分(金額では800兆円)は、バブル的な評価といって
います(バフェット指数)。

株を買わない学者や評論家ではなく、自ら、メガバンクの2倍、3倍の
515兆円の運用マネーを投資信託として預かり、実際に株式投資して
いる人の発言です。傾聴に値するでしょう。

●2008年リーマン危機のあと、株価は、10年で3倍に上がっているた
め、米国銀行が投資資産としてもつ企業の株には、大きな含み利益が
出ていて、その含み利益が、米国、欧州、日本の銀行の自己資本に算
入されています。

実際のことをいえば、この株価の上昇が、2008年の米銀を金融危機
(=銀行の債務超過)から回復させたのです。

米国では、国全体の金融資産のうち、時価3000兆円になった株の割合
がもっとも大きい。米国債は22兆ドル(2310兆円)と株式の77%です。
日本は逆に、1080兆円の国債の割合が、株の1.8倍も大きい国です。

【株価依存の米国金融;国債依存の日本の金融】
企業の1株当たり期待純益が高く、株価に依存した金融の国が、米国
です。政府の借り入れ債務である、利払いが少ないゼロ~-金利の国
債に依存する金融の国が日本です。いずれも、将来、発現する問題を
抱えています。

(1)日本は、「長期金利の3%への上=長期国債価格の、24%の下
落」から、金融機関の自己資本が消えて、金融危機になります。金融
機関のもつ国債が多いからです。
(2)米国は、株価の下落(30%~40%)から、金融機関の自己資本
が消えて、金融危機になって行きます。金融機関の、持ち株の量が多
い殻です。

■4.日本では、日銀を含む政府系の郵貯・簡保・GPIFが株価を支え、
 米国では、自社株買いの4.2兆ドルが、株価を上げた

▼日本の株価

【2013年は、外国人投資家の買い】
2012年から2013年の日本株は、ヘッジファンド(外国人投資家)によ
る15兆円の買い越しが、日経平均(225社の平均株価)を、1万400円
から1万6178円にまで、55.6%上げています。

【2014年からは、政府系金融機関の買い】
2014年からは、
・まずGPIF(公的年金の運用機関:運用資金163兆円:2019年)が株
を買い、
・ゆうちょ銀行(総資金量210兆円:2019年)、かんぽ生命(総資金
量73兆円:2019年)が、アベノミクスの一環として株を買い、
・日銀は株ETFを買って、上げています。官製相場です。日銀は現在
も年間6兆円(月間5000億円)のペースで株ETFを買っています。

もし日銀が1か月5000億円平均のETF(株価指数を背景にした上場投
信)買いを、縮小から停止しなければならない時期になると、日経平
均は。40%安の1万3000円には下がるでしょう(今日の日経平均は2万
1199円:19年9月6日)。

日本は、株の下落だけでは金融危機にはなりませんが、企業の投資が
減って不況になります。ただし、証券会社には、破産が増えるでしょ
う。日本は、長期金利が3%に上がると(金融機関がもつ10年債は25
%下落)、
・まず、金融機関が自己資本を失う金融危機になり、
・つぎに、利払いが増える政府財政が、デフォルトに向かいます。

なお、日本は、主にドル建ての対外資産(主はドル証券投資)を、世
界1の1062兆円ももつので(19年3月:日銀)、30%のドル安になると
(1ドル=70円台)、海外資産をもつ金融機関・企業が300兆円くらい
の為替差損を蒙って、金融危機・経済危機になります。(日銀資金循
環統計)
http://www.boj.or.jp/statistics/sj/sjexp.pdf

【2019年は自社株買い】
日本でも、日本株買いで増えている米国の株主(ヘッジランド、投資
信託、年金基金)からの、「EPS(Earning Per Share)、つまり1株
当たりの税後純利益)を米国並みにあげろ」という要請から、株式市
場での流通株数を減らす「自社株買い」が増えています(2018年は6
兆590億円)。

超低金利の社債の発行で現金を得て、投資ではなく、自社株買いによ
って株数を減らし、1株当たりの純益(EPS)を見かけ上では高めて、
株価を上げることの要求です。

【経営の本末転倒】
資金を調達し、売上を増やして利益の出る設備投資、技術投資をする
ことが本義の企業にとって、社債(負債の証券)を発行し、自社株を
買うのは、経営の本末転倒です。株主資産を増やす、米国の強欲資本
主義の波及です。

わが国の経営者は、米国のような高い報酬だけを目的にはしていなか
った。自社株買いが、急に5兆円に増えた2014年から変わったように
思えます。2012年までの自社株買いは、2兆円レベルでした。(注)
カルロス・ゴーン氏は、米国の経営者の、オプション株による高い報
酬を、自己正当化の例として出していました。西川社長も金額は
4600万円と小さくでも、ゴーン氏とおなじことをやっていて、辞任を
迫られています(19年9月)。

今年の2019年上半期(6か月)の、自社株買いの発表は、5兆8250億円
でした(年間では12兆円のペース)。2018年の2倍です。1か月の平均
で1兆円ですから、円を増刷する、アベノミクスのはじまりとして、
株価を大きく上げた2013年の「外人の買い越し(15兆円)」に匹敵し
ます。

日経平均、2万2000円付近(19年9月)は、
(1)1日の売買が、2兆円を下回る日が多い、薄商い(40%から50%
減)の中で、2倍に増えた自社株買いと、
(2)毎月5000億円(年6兆円)の、日銀による株ETFの買いが支えて
いるといっていいでしょう。ETFは先物と違い、清算売りの限月がな
いので、売らない限りは買い越しの長期保有になります。

日銀の株ETFは、27兆円(6兆円の4.5年分)に増えています(19年8月
末)。どこまで増やすことができるでしょうか。
https://www.boj.or.jp/statistics/boj/other/acmai/release/2019/ac190831.htm/

政府が指揮している、公的年金運用のGPIF(総資金量160兆円)は、
米国債を28兆円(18%)、米国株を42兆円(26%)、国内株を38兆円
(23%)保有しています(19年6月)。国内株は、25%まで増やせる
と言う。
https://www.gpif.go.jp/operation/pdf/2019-Q1-0802-Jp_035988.pdf

自社株買いは、株主への利益還元といいつつ、日産のカルロス・ゴー
ン氏と西川社長が行ったような、オプション株で高額の報酬を得るこ
とも、副次的な目的でしょう。

【オプション株の仕組み】
オプション権(選択権という意味)は、一定価格で、株を買う権利で
す。1000円だった株価が1200円に上がると、それを1000円で買う権利
があるので、1株当たり200円の利益です。

会社から1000万株のオプション権を無償でもらっていれば、「200円
×1000万株=20億円」の特別な報酬になります。株価が下がったとき
は、権利を流せば損はゼロです。

米国のCEOの、100億円を超える報酬の多くの部分は、オプション株を
貰ったあとの自社株買いによって、得られています。CEOは自社株買
いの決定ができ、株主は、株価が上がると歓迎するからです。自社株
買いは、株式配当とみなされています。FRBの量的緩和(4兆ドル:
420兆円)は、報酬面では、株買いのレバレッジがかかって、企業経
営者と大口資本家に行ったのです。

【2019年は、ヘッジファンドと個人の売り、自社株の買い】
米英系のヘッジファンドは、2019年も、日本株を1兆3788億円売り越
しています(19年1月~8月)。このため、1か月平均で1兆円と大きく
なった自社株買いで、株価を買い支えて上げるという算段です。

下のデータの、事業法人の買い越しに、自社株買いが含まれています。
売り越す会社も多いので、事業法人全体の買い越しでは1兆円/月より
低い。
http://www.ando-sec.co.jp/market/movement.html

【長期では・・・】
政府系金融による株の買いが減って(または終わり)、株が下がった
ときは、「自社株買いの社債による負債が増えたが、一時は上がって
いた株主資産は消える。B/Sの総資産・負債に対する自己資本比率は
下がる」という結果になります。社債は、期限日には、全額を一括償
還しなければならない負債です。

2013年以降、「市場経済の自然ではない、政府系金融による人為的な
株買いの連続」が日本株を上げて支えています。

【個人と、生保・信託銀行の機関投資家】
市場の投資家だった個人と機関投資家は、政府発の上げ相場だった
2013年から一貫して売り越しています。700万人の個人投資家の合計
では、「ヘッジファンドの売りを主因にして、下がったあとの、逆張
りの買い」しかしていません。

[投資主体別の日本株の買い越し額:2014年~19年] 
http://www.ando-sec.co.jp/market/movement.html

以上の事情の、展開と理由は、証券会社が進んでは言いたくないこと
です。様々な材料を都合よく解釈し、上がるとしなければ、株の売買
は増えないからです。

ただし以上は「日経平均」についてです。企業利益の増加期待から上
がる個別株はそれぞれが別の動きです。しかし、オーバーオールな日
経平均(225社の単純平均)やTOPIX(一部上場の約2000社強の加重平
均)の平均株価に連動する部分は、60%はあるでしょう。

日経平均が下がる中で、個別株が上がる、上がる中で、個別株が下が
ることは少ない。マクロ経済の予想で売買される指数の売買が増えて
いるからでもあります。日銀が買っている株ETFも、日経平均のよう
にグループ化した株価指数です。

まとめれば、安倍政権の2013年以降の日本株は、個人、機関投資家、
銀行が売り越すなかで、
・2013年はヘッジファンドの買いで、
・2014年からは、過去は市場外だった政府系金融機関からの買いで上
がってきました。
(日経平均8800円(12年11月)→現在は2200円付近)

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
(1)2013年はヘッジファドによる、日本株の買い越し(15兆円)

(2)ヘッジファンドの買い越しが一巡した2014年からは、政府系金
融機関(郵貯+かんぽ生命)の買いと、年金基金のGPIFの買い。

(3)2014年から日銀の株ETFの買い増しが3兆円/年、政府系金融の買
いが一巡しはじめた2016年には3.3兆円に増枠、2016年7月から1年6兆
円に増枠して現在に至る。

(4)企業の自社株買い。[2013年2.7兆円→14年4兆円→15年6.5兆円
→16年4.2兆円→17年4.2兆円→18年6.5兆円→19年は13兆円のペース
(上半期)](アイエヌ情報センター)

2019年の、もっとも大きな買い越しは、日銀の、6兆円の2倍以上の、
事業法人の「自社株買い(2019年上半期は昨年の2倍)」になってい
ます。2019年3月までの日本株は、「19年下半期の自社株買い」が、
前年比でどの程度増えるかに、かかっているでしょう。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

以上の買いの要因は、いずれも、市場経済の不自然さであり、「いず
れ、終わる」ものです。政府系金融が企業の株を買うことは、「企業
へのマネーの供給」と同じ意味をもちます。株も広義の流動性マネー
だからです。

人民銀行を先頭にした大手政府系銀行が、国有企業にマネーを提供し
ている「中国の共産主義金融」に近い。ソ連の共産主義金融では、
「国有企業に貸しつけるが、利払いはなく返済もない融資」が多かっ
たのです(ルーブル発行量の増加の継続になって最後は1000倍のルー
ブルインフレ:1999年)

個人、機関投資家、銀行が、下がる中で買い増しを続けることは(1
か月はあっても)、想定できない。そのとき、日本株は下げます。

米中貿易戦争、英国のEU離脱の影響で、わが国の企業利益が縮小する
中で(9月は-15%:上場企業)、「2019年下半期から2020年の自社株
買い」が、どの程度増えるか。2020年3月まで、今年の2倍のペースで
増えたあと、どの程度減るのかということに、日本株の2020年がかか
っているでしょう。(注)日本株の下げ幅は、米国より小さいでしょ
う。

なお日本株の下落で、金が上がることはありません。日本人の金買い
は少ないからです。しかし日本株は、米国株と同時に下落します。米
国株の下落のときは、「リスク資産に売り→安全資産(国債と金)買
い」にマネー流れ、金価格は、確実に上がります。

▼米国の株価は、4.2兆ドルの自社株買いが上げた(440兆円:2011年
~18年)

ここで、増刊号とし23ページを超えました。米国株以降のテーマにつ
いては、次号とします。

【後記:大阪での講演のお知らせ】
今回は、10月9日、大阪中の島での、当方が参加する無料講演の案内
をします。会場が大きいので、事務局から、まだ空席が残っていると
聞いています。約10日後ですが、遅くはありませんので奮ってご参加
ください。

『パラダイムシフトの発想(4回目)』
期日:10月9日(水曜日):13:00~16:35
会場:大阪大学中の島センター 10階 
   佐治記念ホール(定員は200名)
   〒530-0005 大阪市北区中之島4-3-53 TEL 06-6444-2100
主催:公益法人 知財登録協会(SIR)

・当日のプログラム(13:30~16:50)
(1)知財パラダイムシフト(儲かる知財への進化):1時間
          ・・・玉井誠一郎(SIR理事長)
(2)世界最初の、国民の立場からの通貨論:1時間
          ・・・吉田繁治
(3)がん治療の最前線(理想のがん治療を目指して):1時間
         ・・・松浦成昭(大阪大学がんセンター総長)
(4)17:00~:懇親会(9Fレストラン)

【案内1】
https://www.ipbrand.org/news/20190830.html
(申し込み↓)
https://ws.formzu.net/fgen/S67582499/

クリックして、氏名等をご記入ください。協会員でなくても、どなた
でも参加ができます。シンポジウムへの参加は無料です。

講演終了のあと、5時からの懇親会では食事と飲料があり、会費が一
般5000円/1人、SIR協会員が3000円/1人になっているとのことです。

当方は、約1時間、「(政府ではなく)国民のための通貨論」につい
て話します。懇親会では、読者の方々と、お話をする時間がもてるで
しょう。

【案内2】
2022年ころまでのドル、ユーロ、人民元、円、そして長期の金価格の
予測を含むのが、拙著『(負債の)臨界点をこえる世界経済』(19年
7月1日刊行)です。

「論理的な根拠をもつ予想」を心がけて書いています。ご一読をお薦
めします。(2160円:400ページ)
臨界点を超える世界経済-吉田-繁治

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
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                                     以下は、項目の目処です】

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