ビジネス知識源:福島原発のリアルタイム状況(8)
This is my site Written by yoshida on 2011年3月18日 – 13:41

おはようございます。東日本大地震から、もう1週間です。大きな
被災を受けた方々は、それぞれに異なる困難な状況で、必死に生き
ておられることと思います。こうした被害はいつも個別的です。

阪神淡路の震災(1995.2)の、当方の小さな経験では、心理的なシ
ョックは、時間が経ち、すこし余裕ができたとき、強くなります。
どうか、普段とは違う、数々の制約条件の中ですが可能な最善を尽
くしてください。今の被災地と同じように、とても寒かった。

緊急の8号をお届けします。

3月18日現在、福島原発における緊急対策は、事故処理の最終段階
に入っています。TV報道も、通常の番組では、地震・津波の他の犠
牲と被害を多く報じるように、次第に落ちついてきています。

増刊は書いても、原発緊急号を送る必要がない事態に転じることを
願っています。緊急号を7部も送ったのは、時間単位で事故の展開
と対策が変化したからです。昨日は、ある雑誌の依頼で「危機管
理」の原稿を10枚書いていました。

本稿は読むのに、15分はかかります。

▼最悪の事態は避けられたと評価(18日午前6時)

最悪の事態、言い換えれば、
・圧力容器内の放射性物質(ウラン・プルトウム)が、
・崩壊熱で高温になった燃料棒の被覆管の酸化によって、冷却水の
還元反応が起こるとき発生する水素の爆発で、
・チェルノブイリ事故(7段階:原発事故で最悪)のように遠くま
で飛散し、地上に落下する事態は、避けることができたと判断して
いいでしょう。

(注)水素爆発(酸化反応で水ができる普通の反応)は、水素の同
位体等の核分裂で起こる「水爆」ではありません。念のために申し
添えます。水爆(水素爆弾)は核爆弾です。

何事で100%はありませんが、上記の、原発事故における最悪の可
能性(内部容器の爆発と再臨界反応)は、極小になったということ
です(18日:午前6時)。

最初に、以上を確認しておきます。

(注)残る危険は、原発近辺での、余震の大きさがどの程度かです。
   
安全設備が脆弱になった中での対策中作業です。大きな余震が起こ
らないことを願うしかない。

【30Km圏外】
今も日本政府によって待避圏になっている30Km圏の外の地域は、若
干、平常時より放射線の値(20マイクロ・シーベルト等)が高くて
も、身体に害を及ぼすことはない。

【関連情報】
報道によれば、オバマ大統領は、前日の17日付けで80Km圏内の米軍
と米国民に、待避要請を出しています。これは、今後の、万一の悪
化の可能性も想定した「予防措置」と判断していいでしょう。(韓
国も同じ)

【非常用発電の回復努力】
今東電は、最大20mの津波で流されとされる非常用電源(2重:冷却
水を送るポンプを動かす)に対し、別電源とつなぐ回復作業を行っ
ているとされます(東電)。

人による作業は、炉の近くの放射物質や高濃度の放射線に晒される
ので、身体にとって危険なものですが、成功を祈っています。

建屋の外壁は壊れていても、非常用電源の回復で、冷却水が正常に
注がれるようになれば、崩壊熱が吸収され、内部容器の今後の破壊
は抑えられます。(午後2時に完了予定)

炉の内部の燃料であれ、今問題の使用済み燃料であれ、正常に冷却
することができれば、放射線が強いごく近く以外の場所での、危険
は去ります。

●逆に、万一正常レベルの冷却がうまく行かないときは、必ず発表
がある「政府の待避や非難情報」を信頼していいでしょう。

原因の説明と状況は、東電も政府も、今のところ、うまくは行って
いませんが、「安全に関する結果の報告や指示」は、信頼できる
と判断しています。

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■1.3月18日午前6時の状況

短く復習します。重複部があるので、ご承知の方は読み飛ばしてく
ださい。

【原子炉の構造:単純化記述】
1.被覆管:
核分裂反応を起こす燃料(ウランやプルトニウム:ペレットという
レゴ状の燃料)の外は、ジルコンの合金であるジルカロイで覆われ
ています。

異常な高温(1200度付近)で、被覆管が溶解して落ちる事態になる
と、水蒸気や冷却水と反応し、水素が発生します。

【圧力容器】
この被覆管に覆われた燃料棒を格納するのが、16cmの厚さのステン
レス鋼で覆われ、これを圧力容器とされます。設計耐圧は80気圧
(大気圧の80倍)という。

高温の水蒸気で内圧が、設計耐圧の(ほぼ)2倍以上に高まって、
圧力容器が壊れる(または爆発する)のが、チェルノブイリ(7段
階)並みの最悪の事故です。

(注1)ホウ酸水の機能:充分にホウ酸水を入れれば、核分裂(再
臨界反応)を誘発する中性子をよく吸収し、核分裂を抑えることが
できます。

(注2)ヘリによる、ホウ酸水の散布は、「内部容器や格納容器」
ではなく、外のプール(深さは11m)にある使用済み燃料棒が対象
です。

(注3)格納容器(設計耐圧4気圧:厚さ3cmのステンレス鋼)は、
上記「圧力容器」の外を覆うものです。

【ヘリでのホウ酸水の散布(3月17日)】

3号機:どこからか白い蒸気を出し続けている3号機内の、使用済み
の燃料棒を保管するプールに、自衛隊ヘリが上空90~100mから散布
したのが(16日)、このホウ酸水です。原発は巨大プラントですか
ら、煙になって小さく見えるのはいたしかたありません。

4号機内でも、崩壊熱で温度が上がっている使用済みの燃料棒内で、
万一にも起こるかも知れない「再臨界反応」を防止するため、ホウ
酸水のヘリからの散布が検討されています(以上東電)。

■2.放射性物質による放射線

【最悪】
最悪は、前号(緊急7号)でお伝えしたプルトニウムやウランの、
内部容器の破壊による、外部への飛散です。

プルトニウムやウランは重金属で重い。爆発で起こる爆風によって、
微細粉末が飛ばされることがない限り、近くに落ちるだけです。た
だし、放射線(アルファ線:発がん性)の半減期は長い。

例えばプルトニウムの放射線の半減期は、2万4000年です。放射線
が人体に及ぼす毒性そのものは、他の放射物質と変わらないとされ
ます。しかし、半減期の長さが地球環境の問題になり、肺から微細
粉末を吸った後の、臓器への沈着が人体への害になります。

(注)本稿で最悪を示すのは、自分が知ることが、憶測による無用
な不安を抑えると考えるからです。

【気体性の放射性物質】
今、問題になっているのは、「気体性の放射性物質」です。半減期
がはるかに短い。中には、秒単位で消えるものもあるとされます。
しかし、風に乗って飛ぶので、30km圏等の広範囲になる。

各地の観測点から発表され、時刻によって、値が大きく変動するマ
イクロ(100万分の1)レベルの「シーベルト」は、蒸気や風によっ
て飛ぶ半減期が短い「気体性の放射物質」によるものです。

増えるなら問題ですが、安定や低下なら、危険区域と指定されたと
ころの圏外は、安全です。

内部容器内、格納容器内、そして使用済み燃料の冷却(温度)にか
かっています。どんな手段にせよ、正常値付近に冷却できれば、避
難圏外での危険はなくなります。

昨日に一時、30km圏内で30マイクロシーベルトと報告されたことが
あります。これで概略の計算ができます。前述したように、放射線
の強さは、核物質からの距離の2乗に反比例し、指数関数で減りま
す。

上記のとき、1キロ圏(立ち入り禁止区域)では、30×30=900倍で
す。30マイクロ××900=90000マイクロ=90ミリシーベルト/1時
間になります。

100ミリシーベルト以下の被曝(累積で浴びること)なら、健康被
害はないとされています。(注)被曝という言葉は、曝の音(お
ん)が同じなので核爆弾を連想させますが、そうではない。われわ
れは、微量ですが、日常生活や診療でも被曝しています。

現状(18日午前9:30)では、1km圏以内が危険で、それ以上の場所
は、ほぼ安全と見ていいでしょう。

(注)ただし気体性のものは、大気の流れで、刻々と値が変動しま
す。しかし、20kmや30km圏の放射線の値が上がる状況のときは、政
府が対策を指示する発表を行うでしょう。

【直近の放射線:西門】
情報源である東電の、最新のプレス・リリースでは、第一発電所の
西門(距離は不明)での放射線は、278マイクロシーベルト(危険
のない状態)です(3月18日午前5:30)

18日は、ほぼ安全な288~278マイクロの範囲で安定しています。こ
れは、今は、放射線の新たな発生源は出ていないことを意味します。

前日(3月17日)の、午後3時から7時までは、蒸気の噴出で、3600
マイクロシーベルト(3.6ミリ)と高かったのです。

以上の、時間での変動幅から見て、プルトニウムの微細粉末の外部
流出はないと判断できます。気体性の核物質のみです。

(注)安全基準を知るために言えば、日本人が普通の生活で、病院
で放射線を使う検査を受けるときの平均被曝量を含んで、1年間に
3.75ミリ(3500マイクロ)シーベルトとされます。1日で10マイク
ロ、1時間で0.4マイクロに相当します。待避圏の外は安全です。

●今後、余ほどの想定外の展開(巨大余震や津波)がない限り、待
避圏から遠く離れた関東圏は、安全です。

対策作業を無効にするくらいの、巨大余震や津波は、誰にとっても
予測の外ですから、祈るしかない。

■3.東電が、3号機が「限界」と言ったのはなぜか(17日)

継続的に観察された方はご承知のように、東電の広報は「3号機が
「限界(不安を呼ぶ)」なので、「ヘリからホウ酸水(臨界反応を
停止させる)を散布する」と表現しました。

限界とは何か、アイマイですが、たぶん「使用済み核燃料」を保管
しているプールの水が蒸発し、燃料棒が露出(露出の%は不明)し
て、温度が上がり、蒸気を発する状態でしょう。

3号炉付近から上がっている白煙は、この蒸気(微量の核物質を含
む)と思われます。水位等を計る計器が(部分的に)機能していな
いようなので、炉に関する数値は発表されません。

4号機のプールには、正常で充分とは言えずとも、まだ冷却水があ
るということです(東電)。

【電源の回復】
障害を起こした炉に、冷却水を送るためのポンプを動かす「非常用
電源」の回復は、東北電力から供給し、その接続作業を18日中に行
うと、言います(東電)。

これがうまく行けば、立ち入り禁止の、ごく近く以外は、ほぼ安全
です。(注)今までは、送電プラグ等が合わず送電ができなかった。

「使用済み核燃料」が放つ熱は、深刻ではあっても大きくはないの
で、分ではなく時間単位での冷却対策になります。

調べたとところでは、熱は石油ストーブの3~4台分で、1日にプー
ルの温度が5度から6度上がるレベルとは言います。(日数との計算
が合いませんが)冷却水が蒸気になる蒸発をするのは、ほぼ80度か
らとされます。

12気圧の高圧消防車(散水到達100m)での散水はまだ準備中です。
(18日午後12:50)。30トンの水を放水すると言う。外部電源の接
続の後、午後2時から開始予定です。

これは「時間の余裕」があることを意味します。余裕がないなら、
人体の危険を冒しても、3号機のプールを目指し散水が行われるか
らです。作業係の方の危険には、申し訳ないことです。

建屋の近くでは、約400ミリシーベルト/時の放射線が出ているとこ
ろがあるという。これが1桁単位なら安全です。

【負傷者】
なお、東電のプレス・リリース(3月17日:23:00)では、地震発
生(3月11日午後)以来の累積で、現場作業にあたっていた21名の
方が負傷し(あるいは放射線量が超過し)て、病院に収容され、2
名の方が不明とされています。

国内の報道はありませんが、ドイツのスピーゲル紙は、5名の方が
亡くなったと報じています。決死の作業だったことが分かります。
なお、現場作業に当たっていた方は、50名と聞いています。

今何名か、発表はありません。18日は非常用電源への接続作業を行
わねばならないので、短時間作業に走る方は、残っているはずです。

報道では、東電は一時、「現場の社員と関連会社の社員全員を待避
させたい」と申しいれたようですが、首相がとどめたとされていま
す。

90m離れた上空のヘリや、散水の到達距離で100mの高圧消防車が出
動し、事故処理の最終段階になったのには、以上の事情があります。

■4.集結処理

事故処理の最終段階、つまり3月18日午後2時に完了予定の、冷却水
を送るための電源の接続が成功した後は、数年以上の時間がかかる、
集結処理の段階に移るはずです。

回復ができ、事故前の発電ができるという専門家もいないわけでは
ありませんが、「世論」が許さないでしょう。新設以降40年経って
いるからです。

対策は、技術問題から政治問題に移るということを意味します。い
わば福島原発を葬ることです。どう葬るかが、問題になる。

たぶん、
(1)管理された石棺や、
(3)巨大プールになるでしょう(推計)。

原発への世論の変化から、新設が困難になることは容易に予測でき
ます。正常な原発で、ごく小規模なものは別にして、寿命から終結
処理がされた事例を調べてもないので、どうするか・・・です。

▼電力不足の課題は、早晩起こる

方法がまだ見えない集結処理の問題とともに、電力価格の上昇と節
電が課題になります。仮に原発がつくられても、安全基準の大幅引
き上げが必要ですから、プラントの建設コストが何倍にも上がり、
経済的に採算がとれなくなります。

日本の54基による原子力発電は、総電力量の23%付近です。他でも、
マグニチュード基準を大きく上げる補強や、従来は想定外だった巨
大津波への対策が必要になります。

頻発された「想定外」は、世論と科学者も許さないように変化して
います。

大地震の発生確率は、南関東でも30年内に70%付近と計算されては
いますが、いつどこで起こるか、現在の人知を超えています。例え
ば神戸や大阪では、通説では巨大地震の確率はほとんどないとされ
ていたからです。

後は石炭や重油を燃やす火力(70%)か、ダムをつくる水力(7
%)です。太陽発電や風力発電はごく少ない。総電力量は、11500
億KW付近です。家庭より、工場の生産で使う分が2倍くらい多い。
原油が$100を超えて上がっているので生産コストの上昇を意味し
ます。

世界で原子力発電割合が多いのは、フランスの40%付近です。昨年
の冬、パリ郊外の高速道を南西に走ると、穀倉地帯に、巨大キノコ
のように冷却水の蒸気を上げる原発が、相当に近くに、多数見えま
した。

世界では当然、石油を燃料に使う発電が多い。アメリカは、原子力
発電が10%内と少ない。理由はスリーマイル島での炉心溶解(5段
階の危機:2号炉のメルトダウン事故:1979年)以後反対が強くな
って、原発作りは停止されています。スリーマイルでの核物質の広
域飛散はごく微量でした。(注)ワシントンから車で2時間の距離。

オバマ政権は、石油の価格高騰問題から、原発作りを推進する意向
をもっています。どの形態の発電所も、メンテナンスを加えても寿
命があって、供給電力量を維持するには、新設が必要だからです。

(注)原子炉の寿命は30年~40年とされています。部品交換で10年
や20年は維持できるとされますが、いずれにせよ、全体は老朽化し
ますから、メンテナンスのパッチをあてても最長で60年の寿命が来
るものも多い。新設し、何年かを調べれば分かります。

電力需要が急増している中国・インドを含む世界で、特に地震地帯
では、原子力発電所の新設が困難になると思えます。発電コストの
上昇は世界同時です。

■5.経済・金融

少しは経済・金融を言う段階にきました。被害者の方には「何を言
う」と叱られるかもしれません。

世界の金融と経済は、2年半前のリーマン・ショック(信用の急収
縮)の後のような激しい動きです。今の株価は9120円(日経平均)
で昨日の終値より1.77%上げています。

今は、円売り・ドル買いの協調介入で下がって$1=82円です。昨
日一時は76円という、1995年4月(79円)以来ドル安・円高の史上
最高を記録しています。国際マネーの急移動が起こっているためで
す。

G7は、急遽電話会議を開き、ドル買い・円売りの協調介入をしてい
ます。(G7の市場介入は10年半ぶり)

日銀の緊急の短期資金供給は、地震後の5日間で、累計37兆円(1日
平均7兆円)に達しています。短期国債やCP、社債の買い(円の供
給)です。売りと買いを同時にするので、37兆円のマネー印刷とい
う意味ではない。8兆円~10兆円の短期資金の増加供給に相当する
でしょう。

これが、短期金利を下げる(短期国債の価格を上げる)と見られる
ことからの、円の短期国債買いを引き起こします。この利益が当面
は明白なので、円が買われています。マスコミが言う「日本経済の
復活力」への期待ではない。

株価の回復も、主因は、日銀による日経225の先物指数買いです。
為替にせよ株にせよ、日銀の介入額が少なくても、それが呼び水に
なって、短い期間は、投資家の追随買いを生むからです。

なお、今度の地震での物的な総被害は、若干の波及を含んで15~
20兆円とされています。この計算は、阪神・淡路大震災の総物損が
10兆円とされたことを元にした類推です。大きな被災地の県民GDP
は、兵庫県のGDP(17.5兆円:日本の3.5%)と類似するからです。

●今、ひとまずは安心しています。

メール: yoshida@cool-knowledge.com

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てください。時間単位で、危機への態度は変わっています。
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