多層的な戦争
This is my site Written by admin on 2022年6月5日 – 12:00
今回の戦争で明らかになったことは、近代の総力戦は4層からなるも
のであるということです。(注)本稿は有料版の日曜増刊と共通の内
容です。

■1.第一層

・・・目に見える物理的な戦闘が第一層です。どんな戦闘にも、正義
と悪という倫理的な概念とルールはない。国土と設備の破壊、人の殺
戮だけがあります。

武器力と戦略に勝って、戦闘で勝った側が、その後の教科書では正義
になる。負ければ悪です。今回はNATO側が民主主義、ロシアは専制主
義とされています。驚くことに、ウクライナすら民主主義としている
のです。

【プロパガンダ戦】
戦争の報道は、いつの時代もプロパガンダ戦です。原爆をナガサキ、
ヒロシマに落とし、21万人の民間人を蒸発させた米国に正義はありま
したか?(注)負傷者は16万人。死亡を含む総被災者は、両市の人口
の63%。

【米国で最大の製造業は、軍産共同体1兆ドル】
戦闘は、米国の武器・弾薬の、7年や10年前に作った古い在庫一掃
(対戦車砲のジャベリンなど)の消費の増加ですから、兵器産業の売
り上げは増えます。レイセオン、ロッキード、グラマン、ボーイング、
L3ハリス、ゼネラル・ダイナミクスなど・・・:

総合計では米国で約1兆ドル(130兆円)の、自動車より大きな産業で
す。米国が「戦争景気と8%台インフレ」なのは、戦費を含む財政支
出の増加のためです。

米国の兵器産業は、競争力の高い輸出産業です。銃器の産業ともに、
軍産共同体の議会ロービーを作っています。保守系シンクタンクと一
体になった外交問題評議会は、フォーリン・アフェアーズを機関誌に
しています。当方も購読していましたが、3ヶ月前に停止しあした。
主要な記事は、毎週、送ってきます。

■2.第二層=情報戦

・・・情報戦の階層では、戦争の推進本部がメディアを使って(ある
いは協力を得て)、国民に対し敵側を、悪と戦争犯罪者に仕立てるプ
ロバガンダ戦を、物理的な戦闘に負けるまでは、続けます。そして
「ある日突然」終わって、別の世界になります。

勝った側の主流メディアは、国民に対して、その後もずっと、負けた
側を悪だったとする教宣を続けます。戦争犯罪もこの筋で裁かれるの
です。

東条英機は戦争犯罪で死刑でしたが、満州国を作った重鎮の岸信介
(商工大臣)は、戦犯の死刑の日に釈放されています。戦後は、米国
からマネーを得てCIAのエージェントになることを約束したからです。

【メディアと学会尾】
メディアと学会が時の政府に従属するのは、メディアや学問の資本が、
政府からの金融支援が大きいからです。その展開が、「公立大学」で
すが、私大も、補助金(助成金)がないと経営できない。

卑近な事例を挙げると、田中理事長が脱税事件で解任され、芸術学部
出身の小説家、林真理子氏が推挙されたことの日大の目的は、制裁で
ゼロになった文科省の私学助成金を復活することです(90億円:早稲
田に次いで2位:復活は5年後という)。

英米を中心に、世界の主流メディアは、SNSも含んで、2000年代は、
金融資本になっています。奥の院である株主資本家の方針に沿わない
記者の記事や発言は、事実を伝えるものであればあるほど左遷されて
首になります。個人で読者を持つ独立系ではない、サラリーマン・ジ
ャーナリストの宿命です。

【真理省に似て・・・】
報道機関の内部では、編集権というお題目から言論が統制されていま
す。TV局ではディレクター、新聞社ではデスクが、SNSではAIを使う
全文検索がこれにあたっています。排除する言葉を決めるのは組織の
幹部です。

ジョージ・オーウェルの小説『1984』の「真理省」の役割を果たして
いるのが金融資本家です。(注)村上春樹では、『世界の終わりと
ハードボイルド・ワンダーランド』で書いた「システム(組織)」に
あたるものです。

【筆頭株主は、3000兆円の資金量のシャドーバンク】
メディア、製薬、IT,鉱工業、流通を含み、世界の株式会社のトップ
株主は、現在、バンガードとブラックロックです。いずれもインデッ
クスファンドというシャドーバンクです。

ヘッジファンドを含むと、合計では、3000兆円の総資金でしょう。世
界の主要企業の筆頭株主は、2000年代で、ほぼ全部がシャドーバンク
になったのです。筆頭株主の意思を尊重しないと、社長がすげ替えら
れます。

真理省は、事例が増えてきたコロナ・ワクチンの後遺症を、フェイク
として排除し、ロシア側の戦争情報を、でっち上げと断じています。
1年半前、2020年の米大統領選選挙でも、選挙不正の申し立ては根拠
がないものとしています。

(注)11月の中間選挙で、民主党が上下両院の多数派を失うと、この
3つがひっくり返っていくでしょう。真理省の活動は、非合法なイタ
リアマフィアのように、地下に潜るしかなくなるからです。民主党が
多数派のうちは、真理省の活動が合法的です。

【SDGSもシャドーバンクが推進している】
世界の累計では、1年間で4兆ドル(520兆円:GDPの4%)の投資が必
要とされ、生産は増やさないので、結局は世界の物価を上げていく
SDGS(持続可能な開発目標)も、SDG債(新たな巨大株)を発行して
売るという形をとって、シャドーバンク(金融資本家)側が推進して
いるものです。

2040年までの累計では8000兆ドル(1京400兆円)という巨額になるで
しょう。物価の4%/年の上昇要素です。本来は、3万点の部品のガソ
リンエンジン車より部品数が少なく、高級でも300万円台に安くなる
はずの電気自動車1台が、500万円以上、700~800万円になることにも、
現れています。EVでトップのテスラは1000万円台です。

■3.第三層=マネー戦争
・・・通貨と金融(=貸し付けと債券買い)の戦争です。米国は、敵
国の通貨を国際的に流通させないため、SWIFT回線から締め出しを行
います。

SWIFTには世界の銀行(中央銀行を含む1万1000の銀行・証券)が加盟
し、ドルを媒介通貨にして、世界の通貨交換と送受金を行っています。

SWIFTは、BIS(中央銀行の上部機関である国際決済銀行:バーゼルの、
バベルの塔を小型にしたビル)の回線です。BISへの加盟は、世界の、
国際的な銀行取引を行う条件です。

【中国のCIPS】
長期的には(5年か?)、米ドルからの離脱を目指している中国は、
SWIFTとは別に、CIPSの送受金回線を作って、世界の主要400行が加盟
しています。

日本では、CIPSに外為銀行の、三菱UFJやみずほ銀行が加盟していま
す。CIPSの基軸通貨は人民元です。円の輸入代金を、CIPSで中国企業
に送金すると「円→人民元」に交換され、現地の企業の口座に振り込
まれます。CIPSは、西欧のユーロのような地域通貨をユーラシア大陸
に広げる目的をもっています(金融の一帯一路)。

【金融制裁】
米国は、戦争や経済封鎖のとき(イラン、北朝鮮、ロシア)に対して
は、金融制裁として、SWIFTからの排除を行います。ただし中国に対
しては、金融制裁は発動できないのです。

中国が、世界1、外貨準備(3.1兆ドル:400兆円)の大きな国です。
毎年のドル買いが世界1大きく、ドル基軸(いわば神輿)を支える担
い手です。中国がドル基軸をやめたときば、ブレトンウッズ3です。

【ブレトンウッズ3】
1944年が金兌換のドルでブレトンウッズ1、1971年が金・ドル交換停
止でブレトンウッズ2、2022年から2024年が、3ポールの基軸通貨のブ
レトンウッズ3なるでしょう(ドル、ユーロ、人民元)。

購買力平価でのGDP(=商品生産数量)では、米国を越えている中国
を、SWIFTから排除してCIPSに追いやると、ドル買いが急減し、米国
の最大の国益である「ドル基軸の体制」が瓦解します。貿易赤字国の
米ドルは、少なくとも1/2に暴落するでしょう。

【米国の軍事覇権の意味】
米国の軍事覇権は、ドル基軸の世界体制を支えるためのものです。ド
ル基軸は、世界の銀行の、任意の協定であり、強制力をもつ条約や法
ではない。このため世界の銀行に「(任意に)ドルを買わせ続ける裏
付け」が必要です。

これが「いざとなれば、海外の国を短時間でつぶす」という軍事覇権
です(実際は脅威を煽る張り子の虎です)。米軍が駐留する目的も、
ドル覇権の瓶の蓋にするためものです。

人民元は、開放経済の1994年以来、「ドルペッグ」の通貨体制の中に
あります。人民元は、中国が貿易黒字で貯めてきた外貨準備(3.1兆
ドル)を信用の裏付けの担保に発行されています(人民銀行のB/Sを
見れば明らかです)。

中国の外貨準備も、米国FRBに預託されています。ロシアの外貨準備
(6000億ドル)も、ユーロはECBと欧州の銀行に、ドルは米国のFRBと
米銀に預託されているので凍結されました。制裁解除までは、ロシア
のマネーをロシアが引き出しできないのです。

ロシアのウクライナ侵攻後の3月には、751万円に急騰したビットコイ
ンは、現在、389万円へと48%も暴落しています(時価総額は74兆円
へと34%減少)。

【ビットコインの暴落】
ビットコインでは、ロシア人の超富裕者であるオリガルヒの利用(マ
ネーの国外持ち出し)と、中国人が多い。オリガルヒは、親欧米派と
プーチン派が混在しています。
(ビット・フライヤーの価格チャート/円)
https://bitflyer.com/ja-jp/bitcoin-chart

ビットコイン(BTC)と他の仮想通貨では、2021年から、ビットコイ
ンを持っていなくても売ることができる「先物」の制度が作られてい
ます。米国金融は「オリガルヒ制裁」の目的で、ビットコインの先物
売りを仕掛けています。

「マネー・ロンダリング(資金洗浄=脱税)を防ぐ」という名目での
米国(シャドーバンク)による、ロシア・中国への金融制裁の一環で
す。先物の売り攻勢が終われば、再び1.5倍や2倍に向かって高騰す
るでしょう。

■4.第4層=経済戦争

・・・貿易の封鎖がこれです。金融制裁と同じ時期に、貿易封鎖も始
まっています。

ロシアの名目GDPは、1.3兆ドル(170兆円:人口は1.4億人)です。
韓国のGDP1.6兆ドル(208兆円)より少し小さい。輸出は3371億ドル
(43兆円:2021年)と、GDPに対して24%と大きい(日本はGDPの15
%)。

【貿易収支】
貿易収支は1890億ドル(24兆円)という大きな黒字です。日本の経常
収支の黒字13兆円(2021年)の1.8倍もあります(日本の貿易収支は
ほぼゼロからマイナス:所得収支が約20兆円)。

24兆円という大きな黒字は、外貨準備のユーロとドル買い、金買いに
なってきたのです。

外貨準備は6300億ドル(82兆円)と大きく、日本1.3兆ドル(170兆
円)の48%です。ロシアが輸出大国、外貨準備大国であることがわか
ります。

【経済にとって必需の輸出品目】
輸出品目は、高品質な原油、天然ガス、非鉄金属、穀物です。いずれ
も、西側の基礎的なエネルギー、資源、穀物になるものです。これら
3品目は、経済にとって必需なので、ロシアを経済封鎖すると表面で
は言っても、輸入を止めて、他国かの輸入に切り替えるのは難しい。

原油は品質(ロシア産は高品質)によって、精製設備が変わるので切
り替えには2年はかかるでしょう。パイプラインで輸送され、輸入さ
れる天然ガスは、船便のスポットの液化LNGに切り替えることができ
ない。陸上の貯蔵タンクと配送網が必要になるからです。

2022年末に、EUは、ロシア産原油の輸入を完全禁止にするとして足並
みがそろっているかのように報じられますが,実際の禁輸は、難しい。
NATOr軍をもつ26か国のEUの会議の特徴は、従来から「言葉では決め
ても、実際の行動はまとまらない」ことです。EUは善意の合意で作っ
た経済連合です。

【価格の高騰】
2021年には、高くても1バーレル80ドルだった原油価格は、現在1.5
倍の120ドル付近です。ロシアは、西側への輸出が減った分を、中国
とインドに輸出しているので、エネルギー価格の1.5倍への高騰が、
制裁と逆にロシアのエネルギー輸出額を大きくしています(22年1-
3月は8兆円:1年で32兆円のペース)。

【ロシアの貿易黒字は、中国についで3位に浮上】
西側からの車などの輸入ができないので、2022年のロシアの貿易黒字
額は、平年の24兆円から、40兆円に増えるかもしれません。

中国の貿易黒字が6764億ドル(88兆円:日本の経常収支黒字の、倍:
2021年)ですから、その約50%です。日本の経常収支の黒字(=外貨
買いになる)の位置は、2022年からのロシアに代替されました。

ロシアは、EUの輸入制裁で西側メディアがいうほどは、困ってはいず、
貿易黒字(=海外からの収入)は増えています。

【ルーブルの高騰】
このため、いったんは、SWIFTでのドルやユーロとの交換が禁止され
0.89円へと50%に下がったルーブルは、4月末からは急騰し、現在は、
ウクライナ戦争前を越える2.07円です(2.3倍に上昇)。原油輸入
のためのルーブル買いが増えたことを意味しています。
https://www.rakuten-sec.co.jp/web/market/data/rub.html

【世界はエネルギーと食糧の危機】
米英が主導し、EUを焚きつけている対ロシア経済制裁は、2022年の世
界のインフレ率を上げて、逆効果になっています。原因は、ロシアの
輸出品目がエネルギー、金属資源、穀物という、西側経済にとって一
定量が必要な、GDPの基礎資源だからです。

世界的な熱暑による小麦の不作と、ロシアとウクライナの輸出が難し
くした戦争が重なって、世界の4か月分の在庫が切れる「2022年夏か
らの食糧危機」に向かっています。

高くなっても、外貨準備を取り崩せばいい日本のように、買えれば、
まだいい。今回は、高い価格で入札しても、世界の需要量に対して、
穀物(小麦・トウモロコシ)が足りないという危機です。後発国では、
アフリカ型米騒動になっていくでしょう。

【ロシアと米国は、エネルギー・資源・食糧では自立国】
米国はエネルギーと食糧では自立国なので、両方の輸入国とEUの苦し
みは、分からない。価格の高騰で、米国の原油メジャーと穀物メジ
ャーの利益が増えるからです。

人間にとって、食品のカロリーでは1週間の不足が許されない。1か月
不足すれば、約20億人の後発国の、飢餓になっていくでしょう。自然
の穀物の育成には4かから6か月はかかり、原油のようには緊急提供で
きない。

まとめて言えば、金融制裁と経済制裁は、EUを不利にして、ロシアを
有利にしたのです。


【停戦の仲介】
近々、トルコのエルドアン大統領の招待に応じ、プーチンが訪ねます。
エルドアン大統領は、ウクライナ戦争の停戦を仲介しています。米国
でも、「ウクライナ戦争で何もいいことはない」として、停戦論が出
始めたのです。

【戦況】
要所のセベロドネツクが陥落すれば、ウクライナの面積の20%を占め
る東部が、ロシア軍の制圧下になるからです。東部は、ウクライナの
GDPの約80%を作っている工業地帯です。

日本では東海道メガロポリスにあたります。ロシア人が多い東部が制
圧されれば、ウクライナは穀物農業だけの小国に落ちます。

プロパガンダ戦をしている米国軍産共同体の内部でも、本当のところ
では認めざるを得なくなってきたのではないか。それを示すのが、ダ
ボス会議(年次総会:2022年5月27日)での、軍産共同体のヘッドで
あり、現在も実質的な権限(=権威)をもつキッシンジャーの停戦を
薦める発言です。

6月に停戦交渉があっても、一挙には、停戦にならない。
新国境付近でのゲリラ戦は、だらだらと続くでしょう。

【後記】
11月の米国中間選挙が注目されます。現在の傾向では、共和党が上下
両院で多数派になります。普通、戦争で上がるはずのバイデンの支持
率は36%と低い。2大政党制での支持率は、45%以上が必要です。約
10%が、バイデンと民主党不支持に変わったのです。

反軍産共同体のトランプ路線が、議会では表面に出てきて2021年7月
のアフガンからの撤収のように、なしくずしに、停戦になっていく可
能性があります。米軍からの武器提供の増加がないと、ウクライナ軍
は戦えない。

大統領令は、議会を通らないと有効にならない。バイデンのウクライ
ナ武器支援を、共和党が多数派になった議会はつぶすでしょう。

世界の通貨と経済の問題は、6月8日の、有料版で書きます。
共通版はここまでです。

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