年金は、将来も大丈夫なのか(3) 完結編
Written by admin on 2014年8月19日 – 11:00
こんにちは、吉田繁治です。年金問題の3号目です。本号が完結編
です。
政府は、年金の支払額について、5年に一度長期の見通しを示す
『財政検証』を行っています。経済の成長率、物価の上昇率、賃金
の上昇率を想定し、支払い可能な厚生年金額を「検証」するという。
5年前、「100年安心」と言っていました。年金は、政府の、国民に
対する約束です。意味は、現在の給付額の水準(物価上昇を引いた
実質額)を、100年先まで維持できるから、年金の約束は安心とい
うことでした。
今回の、厚労省の『検証』では、それを言わない。単に数表を出す。
その数表に、将来の年金の、実質額の減額が、強く、匂っています。
実質額とは,物価上昇率を引き、商品購買力で計った金額です。
重要な変更を言わないで、済ましてしまうのは、褒(ほ)められた
ものではない。本来は、マスメディアが、これを、チェックしなけ
ればならない。
年金は、数十年先のものなので、[年金の名目額÷(1+物価上昇
率×年数)=実質額]でみなければなりません。
名目額が20万円で維持されても、物価が年率で2%上がり続ければ2
0年後は、[20万円÷(1+2%×20年)=20万円÷1.4≒14万円]に
減るからです。
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<Vol 314:年金は、将来も大丈夫なのか(3) 完結編>
2014年8月19日
【目次】
1.1人平均が5万5000円の国民年金の自営業
2. 公的年金での、政府の支払い義務負債の概算は、1100兆円
3.大半の人が「われわれはもらえない」とは言うが・・・
4.100年安心とは、あまりに嘘になり、言わなくなった
5. GDPの8つのケースを想定した政府(とてもわかりにくい)
6.現在の、厚生年金の支給の基準額は、1世帯21.8万円/月
7.2026年まで、12年間の経済成長の想定(A~Hの8段階)
8.ケースE:もっとも、GDPの成長が低いケースでの賃金と年金
9.物価上昇と、年金の運用利回りが、政府財政に生む矛盾
10.退職後の25年の生活への対策は、金融資産での自助しかない
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■1.1人平均が5万5000円の国民年金の自営業
厚生年金を掛けていない自営業(1864万人)の場合、1人の年金額
は月額5万5000円です(受給者の平均)。
20歳から60歳になるまで、40年かけ続けたときの満額が、6万4400
円です。平均の支給額は、5万5000円です。欠けた期間があるから
です。夫婦2人で、11万円/月が平均です。
(注)上乗せになる厚生年金を掛けていた期間があれば、その期間
分のプラスがあります。2ヶ月に1回、2ヶ月分をまとめて支給され
ます。なお国民年金、厚生年金、共済年金、及び他の私的年金にも、
他の所得と合算されて、所得税がかかります。
国民年金だけの人は、65歳以降を無職とした場合、月25万円の家計
支出を維持するには、毎月、14万円の預金取崩しが必要です。
25年分なら[14万円×12ヶ月×25年=4200万円]、
20年分では、3360万円の金融資産(預金)になります。
自営業の世帯なら、65歳時点で4000万円くらいの金融的な資産、ま
たは後で述べるリバース・モーゲージ用の住宅が必須になるでしょ
う。自営は、医師、弁護士、会計士も含みます。
ただし、国民年金の世帯は、75歳くらいまでは働くことが多い。夫
婦では、平均が11万円の国民年金だからです。毎月10万円や15万円
の預金を崩しづけることができる人は、多くはない。
▼世代別の世帯の、金融資産と住宅資産
以下は、10歳の世代別にみた、世帯の金融資産と住宅資産です(20
09年:総務省)。純金融資産は、住宅ローン等の金融負債を引いた
純額です。住宅資産は、宅地を含んでいます。
年収は、共稼ぎ分を含み、65歳以上では、年金の受給を含んでいま
す。
70歳以上で平均年収が489万円と高いのは、個人事業者(医師、弁
護士、会計士等)と、定年に左右されないオーナー経営者が混じっ
ているためです。
【世代別の世帯の、金融資産、住宅資産、年収】
世帯の
金融資産 住宅資産 合計 年収平均
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
30歳未満 -38万円 776万円 738万円 (446万円)
30~39歳 -262万円 1532万円 1270万円 (584万円)
40~49歳 74万円 2190万円 2264万円 (748万円)
50~59歳 927万円 2643万円 3570万円 (841万円)
60~69歳 1785万円 3004万円 4789万円 (598万円)
70歳以上 1860万円 3069万円 4929万円 (489万円)
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
全世帯平均 947万円 2514万円 3461万円 (651万円)
http://www.stat.go.jp/data/zensho/2009/shisan/pdf/yoyaku.pdf
総務省 全国消費実態調査 金額は2009時点。2人以上の世帯。
40歳未満で、純金融資産がマイナスなのは、住宅ローンのためです。
60歳以上で金融資産が平均で1700万円くらいに増えるのは、会社勤
務だった人に退職金がはいるからです。
なお、全世代でみた、家計資産額(金融純資産+住宅資産)の分布
は以下です。
ほぼ十分と思われる5000万円以の家計資産の世帯は、22%〔5世帯
に1世帯〕です。
65歳以上で家計資産5000万円以上は、半数の世帯(1000万世帯)で
しょう。65歳以上がいる世帯は2070万世帯で、世帯構成比では43%
もあります。
【参考:家計の資産金額別の分布:2009年】
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
1000万円未満 28%(1480万世帯)
1000~3000万円未満 32%(1700万世帯)
3000~5000万円未満 19%(1000万世帯)
5000~1億円未満 16%( 850万世帯)
1億円以上 6%( 320万世帯)
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
http://www.stat.go.jp/data/zensho/2009/shisan/pdf/yoyaku.pdf
定年時の60歳から69歳の平均資産では、
・金融資産が1785万円、
・住宅が3004万円の価値、
・合計が4789万円です。
住宅を少しずつ売って行くリバース・モーゲージを含むなら、65歳
以降、月額で、約15万円を25年間使うことはできます。
その場合、平均寿命で亡くなるとき、住宅資産もゼロになる。これ
が[平均]です。子供に残す資産は、なくなります。
(注)リバース・モーゲージ:担保価値のある住宅を抵当に、銀行
から、毎月、年金のように借りる契約。最後は、抵当にした住宅を
銀行に売って、返済する。払う住宅ローンと逆にもらう住宅ローン。
肝心なのは、売れる価値のある住宅・土地であること。担保価値は、
不動産相場の70%(または60%)になることが多い。
以上が高いか低いか。
ここが、わが国の戦後経済の、平均的な到達点です。
▼厚生年金の価値は、平均で、3000万円の預金に相当する
以上の意味で言えば、夫婦2人の世帯(妻は専業主婦)の、平均的
な厚生年金の金額である21万円/月は、国民年金の平均(2人で11万
円)に対し、毎月10万円多い。
25年もらうなら、[10万円×12ヶ月×25年=3000万円]の金融資産
に相当する大きなものです。年金が一生の生計にとって、大切なも
のであることが、以上の概算でも、はっきりわかるでしょう。
夫婦で月額21万円の、平均的な厚生年金を受け取ることができる世
帯は、国民年金だけの世帯(夫婦分平均11万円/月)と比べ、65歳
になった時点で、政府に預けた3000万の金融資産を、多く持ってい
ることと等しい。
■2. 公的年金での、政府の支払い義務負債の概算は、1100兆円
払う側の政府から言えば、国民年金(基礎年金)では、国民1人当
たり[5.5万円×12ヶ月×25年=1650万円]の、年金の支払い義務
の負債をかかえていることになります。
国民全員に共通な、基礎年金での政府の将来負債は、おおざっぱな
計算をすると、1650万円×2912万人=480兆円です。この2912万人
は、2011年で、基礎年金を受け取っている人です。
http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r9852000002quvo-att/2r9852000002quze.pdf
この上の、二階部分にあたる厚生年金では、[1人5万円平均×12ヶ
月×25年=1500万円]です。政府の将来負債は、1人1500万円×304
8万人=457兆円です。
国民年金と厚生年金での、政府の将来負債は、480兆円+457兆円≒
930兆円と巨大です。これに、公務員共済年金分(424万人が受給:
2011年)を加えれば、政府の、支払い義務の送金額は、1100兆円く
らいになるでしょう。
政府は、現在の国債などの借金(1130兆円)以外に、将来の公的年
金で、1100兆円くらいの支払い義務、つまり負債を、別途、負って
いるとみていい。この観点で言えば、年金義務を含む政府負債は、
2130兆円で、現在の名目GDP(487兆円:14年6月)の4.4倍です。
(注)2008年の「国の連結貸借対照表」で、政府は、公的年金の、
将来債務を1050兆円と試算しています。当方の試算と、ほぼ同じで
す。
http://www.kansai-u.ac.jp/riss/rcss/DPS/pdf/dp096.pdf
以上は、現状の年金です。
問題は、今後、現在の年金額はどうなるのか、です。
いや、どうなり得るか、です。
・年金受給が増えて行く年齢構成と、
・現役世代の人口が減るためのGDPの実質成長から言って、
年金支払い可能額(実質)が増えることはない。
じゃ、どれくらい減るのか。
■3.大半の人が「われわれはもらえない」とは言うが・・・
55歳以下くらいので大半の人は、年金受給者が増えるため、現在の
水準の年金は、受け取れなくなると想定しています。
しかし、人間にとって、10年や20年先のことが、切実な切迫感をも
って迫ることは稀(まれ)です。
「われわれがもらうときの年金は、相当に減る。あるいは、支給開
始が、65歳、67歳、70歳、73歳と上がって行く。」という予想が、
実際に数年先に迫って切実になると、締めつけられるような、切迫
感になるでしょう。
年金を設計した政府は10年、20年、30年先の年金について、一体ど
う考えているのか。それを示すのが、過去は『100年安心』と、国
民に公言していた厚労省が、従来とは違う姿勢で出した、『年金の
財政検証(2014年6月)』です。
http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/nenkin/nenkin/zaisei-kensyo/dl/h26_kensyo.pdf
端的に言えば、今後の経済成長によって、
・現在の年金は減額、
・または支給開始の繰り上げが必要というメッセージを、
暗に、発しています。
減額が決定ではない。減額する必要があると言っています。
■4.100年安心とは、あまりに嘘になり、言わなくなった
つい5年前まで、厚労省は、年金は100年安心と言っていました。安
心とは、当時の支給レベルを続けることができるという国民への約
束です。
もう100年安心とは決して言わない。
ムリなことがはっきりしたからです。
15年も前から、減る現役世代が、大きく増える年金世帯を支えるこ
とが不可能なことは分かっていました。国民は、計算せずとも、人
口構造から察知していのです。しかし政府は、100年安心と言って
いました。
バブル経済崩壊以後の、国民の実感が、それでした。政府は「ムリ
になった」とは言わない。代わりに、非現実に高い、将来の経済成
長率を作る。
「このGDP成長率と物価インフレなら、所得代替率で50%以上の、
厚生年金の給付が可能」という『検証』を、今回も行ったのです。
■5. GDPの8つのケースを想定した政府(とてもわかりにくい)
厚労省は、『年金の財政検証(2014年6月)』において、日本経済
の将来の経済成長につき、
・ケースA、もっとも成長率が高い場合から
・ケースH、もっとも成長率が低いの、
8つの場合での、公的年金の、将来支給額を算定しています。
しかし原資料を見ても、とても、分かりにくい。
http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/nenkin/nenkin/zaisei-kensyo/dl/h26_kensyo.pdf
▼公的年金の、政府の目標基準
【政府の目標】
現役時代の報酬の50%を、厚生年金として支給できることを、厚労
省は、目標の基準としています。
現役時代の、平均の標準月額報酬(=38歳の報酬)が35万円くらい
だった人に、世帯で約20万円の厚生年金を支給できることです。
現在は、夫婦2人で厚生年金21万円が平均ですから、ほぼ現状です。
現状の平均年金の21万円/月を、維持できるのか。焦点は、ここで
す。
■6.現在の、厚生年金の支給の基準額は、1世帯21.8万円/月
2014年の現行水準では、現役男子の、生涯平均での手取り収入(税
と社会保険の控除後)は、月額で34万8000円(年額で417万円)で
す。
34万8000円が生涯平均の標準報酬だった人の、世帯の年金額は、
[基礎年金2人分12万8000円+夫の厚生年金部分9万円=21.8万円/
月]です。
これは、現役の時の所得の、代替率で言うと、[年金受給額21.8万
円÷現役の手取り収入34.8万円=62.6%]です。
2014年現在、所得代替率は62.6%と、政府が、いつの間にか目標基
準として下げた50%より高い。これが、現在の厚生年金です。
上記で示した厚生年金がこれです。
(注)公的年金の受け取り額が、現役の報酬の何%に当たるかを計
算するとき、手取り収入に対してではなく、本来、税と社会保険料
を引く前の標準報酬と比較せねばならない。
理由は、年金支給に対しても、税と社会保険料がかかるからです。
税と社会保険料としては、所得の約20%が天引きされています。
【高く見せる、所得代替率】
厚労省は、現役時代の報酬に対する年金の所得代替率を高く見せる
ため、分母になる報酬を、税と社会保険料を引いた後の手取り収入
としています。他のことでも、官僚がよく行う姑息(こそく)な粉
飾(みせかけ)です。
[年金受給21.8万円÷手取り収入34.8万円=所得代替率62.6%]と
するのは、「厚生年金は、所得に対し、大きく支給されている」と
見せるためです。
手取り収入の34.8万円ではなく、税と社会保険料(両方で約20%)
を引く前の標準月額報酬と年金支給額を比較すれば50%を割ってし
まうからです。
厚労省は、2014年から2026年までの、向こう12年間に対し、8つの
ケースの経済成長を想定して、それぞれの経済成長率で、62.6%
(世帯の厚生年金21.8万円/月)と高い所得代替率がどう変わるか、
計算し、公表しました。
それが、『検証』です。
年金額の所得代替率が高いということは、「高い年金」ということ
です。厚生年金の平均21万円/月は、「高い年金だ」と政府が、暗
に、言っていることになります。
●近い将来、平均支給額は実質額で20万円、19万円、18万円・・・
と下がらざるを得ないという含意(ふくみ)が見えます。(注)年
金の金額は、将来の物価上昇率を引いた、実質額で言っています。
これが、『年金の財政検証』です。(原本↓)内容を見ても、一般
には、ほとんど理解が不可能と思えます。
http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/nenkin/nenkin/zaisei-kensyo/dl/h26_kensyo.pdf
■7.2026年まで、12年間の経済成長の想定(A~Hの8段階)
▼ケースA:
36年後の、38歳の人の賃金は143万円(名目)を想定
ケースAは、実質GDP成長率が、もっとも高いケースです。どんな前
提か? GDPは所得面では国民所得でもあります。
従って実質のGDP成長率が一番高いケースは、経済の可能性の中で、
働く人の所得が、もっとも大きく伸びたときです。
出発点は、2014年の現役男子の、平均月額所得34.8万円です。年間
の上昇率を2015年は2.5%、2016年も2.5%、2017年には3.6%と上
げて行き、2022年以降、4%台以上の上昇としています〔これは非
現実的です〕。
このケースAでは、1997年から金額が下がってきた平均報酬が、201
5年を境に、その後、最初は2.5%、7、8年後からは4%上がるとし
ています。(注)平均で4%上がるのは、上位者では8%上昇の意味
です。
男子38歳の、現在の平均報酬は34.8万円です。年平均で、はほぼ4
%です(物価上昇を含む名目)。名目報酬が年率で4%上がると、3
6年後(2050年)は、1.04の36乗=4.1倍です。
金額で言えば、36年後、38歳(現在は2歳)の月収の平均は、[現
状34.8万円×4.1倍=36年後143万円]です。この想定が、ケースA
です。(現在、年齢が2歳の赤ちゃんが36歳になったとき)
物価上昇を年率1.8%としているので、36年後の実質賃金額ではそ
の分減って、64.3万円です。これでも、月収が現在の1.8倍です。
経済成長がもっとも高いケースAでの、38歳男子の実質報酬と、夫
だけが厚生年金をかけた世帯の年金額は、以下のように試算されて
います。千円単位は、四捨五入しています。
【ケースAでの厚生年金額(実質)】
2014年 2019年 2030年 2043年 2050年
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
・実質賃金 35万円 35万円 43万円 56万円 64万円
・実質年金額 22万円 21万円 24万円 26万円 33万円
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
・所得代替率 63% 60% 57% 51% 51%
[3つの条件]
毎年の実質GDP成長 +1.1% :物価上昇1.8% :名目GDP+3.9%/年
生産年齢人口が年間0.5%くらい減る中で、実質GDPの成長が1.1%、
名目GDPの成長で3.9%を、向こう36年間続けるという想定です。
2050年の人口は、1億人を割って9700万人(-24%)です。
これは、確実な未来です。
このとき38歳の平均報酬額は名目で143万円(給与明細の手取り金
額)、2014年の物価に換算した実質では64万円という。
物価が、年1.8%上がれば、36年間では[1.018の36乗=1.9倍]に
なっているからです。
現在の1.9倍の物価ですから、実質額は、[1/1.9=53%]に下がり
ます。年率ではわずかな1.8%でも、36年という長期では、1.9倍に
なるのが物価上昇です。
この場合、2050年の、夫婦2人での平均的な厚生年金の受取額は、
名目金額では[33万円×2.2倍=73万円]です。
それまでの想定インフレ率を引いて、2014年の物価基準になおせば、
実質33万円です。いかにも、高過ぎる想定に思えます。
国の名目GDP(現在は487兆円)が、今の4倍の2000兆円付近になる
ということです。名目とは言え、「高度成長期」が続くような経済
成長です。
■8.ケースE:もっとも、GDPの成長が低いケースでの賃金と年金
次は、A~Eの中で、将来の経済成長がもっとも低いものとして、政
府が想定したものです。
物価上昇は年率平均0.6%で、実質経済成長は年率-0.4%です。
名目GDPの増加は、年率0.2%です。
【低成長のケースHでの、厚生年金額(実質)】
自分が、いつ65歳になるか想定しながら、見てください。これが、
現実的な、予想できる厚生年金です。
金額は、2014年の物価で示しています(実質金額)。
2014年 2019年 2030年 2036年 2055年
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
・実質賃金 35万円 35万円 38万円 40万円 46万円
・実質年金額 22万円 21万円 21万円 20万円 18万円
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
・所得代替率 63% 60% 54% 50% 39%
実質賃金は、各年度、およそ38歳の男子の分です。
年金は、65歳から受け取るとしたものです。
このHのケースが、現実的な線に近い。
2055年には、公的年金の基金(現在150兆円)を、使い尽くします。
積み立てていた基金が、ゼロになるという意味です。
基金を崩すことができる間は、ほぼ50%の所得代替率が維持されま
す。その後、可能な支給額が大きく下がって行きます。
2014年現在の厚生年金は、所得代替率が63%です。38歳の現役世代
の所得に対し、65歳以上の厚生年金が63%(22万円/月)です。
これが、将来50%の代替率に下がる。
2055年は39%です。
以上がケースHです。
われわれは、年金に関し、このケースHが現実的と見ておかねばな
らない。
(注)ケースHでも、厚労省は、年金基金の運用利回りを、年平均
で2.3%と、高くしています。
年金基金の、平均運用利回りが2.3%あるとすれば、国債金利は2%
以上でなければならない。
国債金利が2%以上になると、政府の利払いが、現在の3倍〔30兆円
〕に増えて、財政赤字が増え、政府財政は破産に向かうからです。
■9.物価上昇と、年金の運用利回りが、政府財政に生む矛盾
・安倍政権と日銀は、インフレ率2%を目標とし、
・日銀が国債を買い取ってマネーを供給する「異次元緩和」を実行
しているため、
厚労省の財政検証でも、物価の上昇を1.3%から2.0%としています。
もっとも成長率が高いケースAでは、
・物価上昇 で2.0%/年、
・年金基金の運用利回りが、3.4%/年です。
このときの実質経済成長の想定は、1.4%/年です。
(注)1年だけではない。向こう10、20年、30年の年平均です。2%
は10年でも1.22倍(30年で1.8倍)、3%なら10年で1.34倍(30年で
2.4倍)という大きな数値になります。
ケースAでは、物価の上昇が2%/年、実質経済(実質GDP)の成長が
1.4%/年とされています。この場合、長期金利は、「物価上昇2%
+実質経済成長1.4%=3.4%」に向かって上がる傾向を示します。
(その根拠)長期金利のフィッシャー等式
=期待実質経済成長率+期待物価上昇率+予想財政リスク率
▼年金基金の、想定運用利回りと、国債の金利の矛盾
ケースAの想定のように、公的な年金基金(約150兆円の残高)の運
用利回りが年率平均で3.4%と高くなるのは、年金基金にとっては
いいことです。
ところが政府部門は、1158兆円の債務をかかえています(2014年3
月末)。
国債の利払いは、1年に10兆円規模と、とても少ない。10年債の、
長期金利であっても0.6%台(直近は0.5%)と低いからです。
政府の債務額は多くても、利払い額は1990年代初頭(10.8兆円:当
時の国債金利は6.1%で現在の10倍)より減っているのです。
(注)長期国債の金利は、1970年代7.5%、80年代7.5%、90年代に
6.1%から3.1%に低下し、00年代3.1%から1%台に低下して、2014
年8月は0.5%台です。
年金基金の運用利回りが、年率平均で3.4%になるということは、
長期国債の平均的な金利も、3.4%付近に上がるということを意味
します。
そうすると、政府の債務に対する利払いは、現状の約3倍である30
兆円に向かって、増えて行きます。30兆円は、消費税で言えば、ほ
ぼ15%分です。(注)年間の発行分(180兆円)から新しい金利に
変わって行きます。
以上が意味するのは、
・年金基金の運用利回りが3.4%に上がっても、
・政府財政からの国債の利払いが、現在の10兆円/年から30兆円/年
に向かって、20兆円も増えることです。
20兆円に利払い増えれば、払えないので、デフォルト(破産)に向
かって行くということです。消費税を上げればいいという話もあり
ます。
現状の8%を、10%、13%、15%と上げる、GDPの中の国民所得が減
ってしまうので、増税による増収(所得税+法人税+消費税)は、消
費税率を上げた分、増えることはないのです。
●経済成長が高くなり、市場の金利が上がることは、政府部門の負
債が1158兆円(14年3月)と、名目GDPの2.4倍に大きくなっている
日本政府にとって、財政の破産も意味します。
高い経済成長があると金利が上がります。金利が3%にも上がると
政府財政が破産に向かう理由は、政府の負債額が、GDPの2.3倍と大
きすぎるからです。期待経済成長率が高くなると、金利は、上がり
ます。
厚労省の『年金の財政検証』では、国債の利払いの増加への見解が
ないのです。
http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/nenkin/nenkin/zaisei-kensyo/dl/h26_kensyo.pdf
【厚労省の誤り】
物価が上がって、経済成長率が高まると、年金基金の運用利回りが
高くなるから、年金にとってプラスとだけしています。これはマク
ロ経済(特に金利)の想定において、厚労省が犯した根本的な誤り
です。(意図的でしょうか?)
実質成長率を年-0.4%としたケースEでも、物価上昇は1.2%で、年
金基金の運用利回りは、3%としています。(注)長期金利=成長
率0.4%+期待物価上昇1.2%→ 1.6%です。
年金基金の運用利回りが3%なら、10年もの国債の金利も、3%付近
でしょう。これも、ケースA(運用利回り3.4%)と、ほぼ同じで、
実際は、財政の破産シナリオになります。
厚労省は、基金の運用利回りを3%以上にしたいという目的から、
国債利払いによる、政府財政の破産シナリオを描いています。
『年金の財政検証』は、年金が大丈夫という目的から、一方では、
10年物の国債金利が3%を超え、政府財政が破産に向かうシナリオ
も描いているのです。
厚労省が誤りを犯してしまった理由は、厚労省が、年金基金の運用
では、国債の金利を受け取る側だからです。
財務省に3%~3.4%という年金基金の想定運用利回りを見せれば、
財務省は国債の金利を払う側ですから、「無理だ」となったでしょ
う。
あるいは、財務省も気がつかないか。または国債を管理している財
務省理財局は「どうせ、『検証』は厚労省の作文だ。」と本気には
していないのかも知れません。
■10.退職後の25年の生活への対策は、金融資産での自助しかない
現在の厚生年金では、
・現役時代の38歳の手取り報酬(平均が35万円)に比べて、
・ほぼ63%(22万円/月)の所得代替率があります。
これが将来は、50%に向かって13ポイント下がり、
2055年からは、39%に向かって24ポイントは下がることを、
想定しておかねばならない。
現在も、年金だけでは生活ができず、平均で毎月4.3万円が取り崩
れされ、年金と合わせた生計費(26.5万円/月)になっています。
年金世帯の、この家計水準を維持するには、金融資産と預金から崩
せる金額を、毎月、これより5万円は増やさねばならない。
ほぼ、40未満の世帯なら、年金世代になったとき、預金取崩し額が
月10万円くらいになります。
政府の寿命予想のように男子が84歳まで(2060年)とするなら、65
歳以降は、20年です。妻はほぼ、25年です。
月10万円×12ヶ月×25年間=3000万円。
実現性が高い低成長ケースHの場合、退職時の金融資産が3000万円
必要です。
つまり、現在(約1300万円)の年金受給世帯より、将来の世帯は17
00万円くらいは余分に必要です。あるいは70歳まで、元気な比人は
75歳まで年収200万円くらいにはなる何かで、働くことです。
政府は、以上のことは、決して言いません。
わが国の年金制度は、現役世代から年金世帯への所得移転です。
それが、ムリになるというのが、今後の年金です。
●年金世代に向かうときは、とりわけ50代から、自助の部分を増や
さねばならない。これが、普通の、結論です。
政府と、年金制度を決めてきた政治家は、100年安心と言ってきた
年金について、国民への約束破りで、強く批難を受けるべきです。
人口の年齢構成で、生産年齢の人口が減って、65歳以上の年金世代
が増えることは、30年も前から、分かっていたことだからです。
国立人口問題研究所が行っている年齢別人口の変化は、確実なこと
です。若干の正確さを犠牲にすれば、エクセルで試算ができること
です。将来年金の支給額は、90%くらいの正確性なら、誰でも計算
ができます。
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<721号:完結編:
異次元緩和は、目的の成果を生んでいるのか?(3)>
2014年7月30日
【目次】
1.異次元緩和マネーの、運用の事例
2.SMBC(三井住友フィナンシャルグループ)の資金運用
3.異次元緩和による増加マネーには、運用問題がある
4.米国とユーロの、マネー・ストックの増加
5.政府の、金融・経済政策への、誤った自画自賛
6.今後の日本には、円安はダメ、円高がいい
【後記】
<722号:人口の年齢構成コンビニのマーケティング適合>
2014年8月6日
【目次】
1.フランチャイズ・システム
2.あるコンビニの顧客年代の変化
3. 2000年代での、コンビニ顧客の年齢構成における変化
4.人口爆発から、2010年代以降、人口の減少へ
5. 2000年代の、10歳別の人口の変化
6.これから12年の、年齢構造の驚くべき変化
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