新論:謎に満ちたゴールドを解けば、紙幣と経済のからくりが見える(2)
This is my site Written by admin on 2009年11月30日 – 08:00

おはようございます、吉田繁治です。ドバイの政府企業(ドバイワ
ールド社:負債$590億:5.3兆円)が、突如、デフォルト(債務延
べ払い)を宣言し、世界の株価が震撼しています。

ドバイは、埼玉県の大きさで、石油は産しない145万人の都市国家
です。GDPは461億ドル(4.1兆円)で、日本の約100分の1。5.3兆円
はGDPより大きな負債です。

▼時事

世界の株価下落は、債権(貸付け金や証券)悪化の連鎖的な波及を
、恐れたものです。

リーマン・ショックは、
(1)住宅価格の下落が主因の、世帯のデフォルトを原因にした住
宅証券の下落(AAA格-40%:BBB格-80%)と、
(2)証券にかけられたデリバティブ(CDS:債務保証保険)の、連
鎖的な価格下落から来ています。

露呈した損失は、200兆円を超えるものだったでしょう。世界の金
融機関やファンドの、バランスシートに隠れた未露呈分は、300兆
円と推計されます。信用恐慌と言えます。

米国では、国債残高より住宅ローンと住宅証券が多い(合計$12兆
;1080兆円)。巨額な債権の背景があるローン・デフォルトの増加
だったのです。

(注)09年7-9月期の米住宅ローンでは、残高に対するデフォルト
率は14.4%(過去最悪)に上がっています。ローン問題は、解決に
はほど遠い悪化を、更新しています。

ドバイワールド社は、ネバダ砂漠の蜃気楼ラスベガスの規模を大き
くした、都市開発におけるバブル的負債の政府企業の破産です。

湾岸国の債務危機(信用不安)として、近々、オイルマネー(アブ
ダビ投資庁の政府系ファンドSWF:100兆円等)から、緊急に融資さ
れるでしょう。延滞利子も払われるため、波及は狭い。対ドバイ債
券の無価値化ではない。

【重要なこと】
ただし、東欧と中東に貸し付け金が多いスイスと欧州の大手銀行の
自己資本問題が、再び浮上します。こちらの方がはるかに問題は大
きい。損失処理は、終わっていないからです。

●興味深いのは、機関投資家やファンドが、
・09年3月以来の、ゼロ金利マネーを借りた投機で、
・株価の高所恐怖症にかかっていることです。
(注)何かのショックがあると、売りに殺到するのがその証拠。

09年3月を底とする株価以来、銀行とファンドは、中央銀行が貸付
けたゼロ金利の短期資金を使って国債・社債・デリバティブ・株を
買って上げています。ゼロ金利資金で、国債(安全資産とされる)
が買われているから、金利もさほど上がらない。

ゴールドを含む国際コモデティ(エネルギー・金属・穀物)には、
短期で投機を繰返す「キャリー・トレード」がされています。

●09年3月以降の株、国債、商品相場は、中央銀行マネーを使った
「キャリー・トレード相場」です。

景気が回復したとされ、
・中央銀行が危機対策に貸付けた(あるいは不良債権を買った)余
剰マネーが絞られるとき、
・ゼロ金利によるバブル株価や資源価格も終わります。

しかし、秋口には回復するとされていた経済の実態は、良くない。

●09年10月ころを、出口政策(=利上げ)の目処としていた米国FR
B(連邦準備銀行)は、少なくとも。あと6ヶ月は短期ゼロ金利を続
ける見込みです。

キャリートレードは、
・ゼロ金利のドルを借り、
・新興国等の比較金利の高い通貨を買って(=ドル売りになる)、

・そのマネーで、株や証券に短期投資する取引を誘発します。

この取引では、米国の銀行やファンドからのドル売りが増えるので
、トレンドはドル安になります。逆に、ブラジルを代表に新興国や
資源国の通貨や株が買われ、約30%上がった。

米国から見れば、経済が成長しているとは言っても、新興国の株式
と債券の金融市場は、ガリバーと小人に似て小さい。数百億ドルの
投機でも、通貨と全体相場が大きく動きます。

●米国(及び英国)のような「対外純債務国」は、本来、海外より
金利が高くなければならない。資金赤字を補うため、国債・社債・
証券を海外投資家や銀行に買ってもらわねばならないからです。

債務国の金利が低いまままなら(短期金利は米国0.2%:英国0.57
%)、その通貨が売られて下がるのは、金融の当然です。両国は、
経済危機の持続ため、中央銀行が低金利を敷き続けています。

(注)日本から米国債、証券、株を買うには、ドル安と価格のリス
ク分として、3%程度のスプレッド(利幅)が必要でしょう。

              *

時事はここで終わり、11月4日の前号に続く<謎に満ちたゴールド
を解けば、紙幣と経済のからくりが見える(2)>です。

前号の後半では、前FRB議長グリーンスパンの、ゴールドとマネー
に関する論文を参照し、われわれが日頃は疑問もなく(意味を考え
ず)使っている不換紙幣(ペーパーマネー:政府管理通貨)の、基
本性格を明らかにしました。『ゴールドと経済的自由(1966)』

必要な方は、消えないうちに、保存しておいてください。
グリーンスパンは、この論文を消したいはずです。
http://www.321gold.com/fed/greenspan/1966.html

理解を深めるために、後半ではゴールドと不換紙幣の近世史をたど
ります。なぜ、米国FRB(及び政府系エコノミストと銀行家)が、
ゴールドを敵視してきたのか、その理由も分かるでしょう。

・2000年代に約3倍になったゴールド価格は、ドルの将来価値への
不信に根ざしていて、
・消費財である国際コモディティ(エネルギー・金属・穀物)の投
機による価格変動とは、異なる性格をもつことが、了解できるはず
です。

冒頭は、銀行制度と紙幣からです。若干、長くなります。丁寧にた
どる必要があるからです。本稿は、何につけても相場が上がると、
上がった理由を述べ、もっと上がるという評論と異なります。

■1.政府財政の歴史

最近、政府財政と通貨発行の、主な歴史をまとめてみました。ゴー
ルドは、(現在でも)通貨と密接に絡んでいるからです。

その結論を言えば、
・王政、封建制、民主制(あるいは共産制)にかかわらず、
・最終的には、その国の経済の中で、政府の奢侈(ムダ)、不正、
戦費のために、政府の財政が膨張し、
・マネーを刷ってインフレを起し、時代が転換していることです。

古代から、革命も政府の転覆も(あるいは他国からの征服)も、
・軍事費(傭兵と武器購入)の枯渇と通貨の増刷、
・そして国民に生活困窮を起す、物価の高騰から起っています。

1989年のソ連の崩壊も、例に漏れません。
・不効率な国営企業、及び冷戦下の軍事費増強での赤字のため、政
府がルーブルを刷りすぎて起った数倍のインフレで、
・約束されていた年金が無効になり、
・賃金の購買力が減ったことが原因です。

金貨の時代(ギリシア・ローマ)から、帝国の終わりには、金の含
有量を減らす重量偽装が起っています。その後のビザンチン帝国も
同じです。

金の含有量を減らさず価値を保っていたときは、経済は繁栄してい
ました。16世紀のイタリア・ルネサンスも、経済では、金貨の価値
の維持をベースに起ったものです。(フィレンツェ共和国のフロー
リーン金貨:メディチ家が銀行)

フィレンツェやベニスに行けば、金細工師や宝飾の店が多い。フィ
レンツェのベッキオ橋や、ベネチアのサンマルコ広場には、イタリ
ア的に洗練された黄金デザインの、高価な宝飾店が並びます。

絶対王政や封建制でも、増税は貴族、国民の反乱や蜂起(革命)を
起します。政府は増税の代わりに、末期になると(ほぼ100%)金
貨に含むゴールドの含有を減らして金貨を増やし、予算を拡張しま
す。

含有量を減らし、金貨に数字を書いて増発すれば、見かけ上の政府
予算がまかなえます。鋳造替えによる大量発行で、貨幣の価値は下
がって、物価が上がります。通貨の価値を下げることは、通貨を貯
めた国民の富の略奪であり、増税と同じです。

これが、金貨の時代の通貨の増発です。現代と同じように、初期は
貨幣が溢れてバブル的な投機になり、後期はハイパー・インフレを
起す。それによって、官僚の年金と、世帯の所得は無効になる。

とりわけ、政府の年金の無効と生活難が、ほぼあらゆる革命の原因
です。300年の江戸時代の終りも、領主と武士の、経済的な困窮か
らです。封建の幕藩体制でも、お金の切れ目が、縁(幕府と大名へ
の忠誠)の切れ目になっています。武士道の心だけでは、無理です

2009年の現代日本では、厚労省(社保庁)が管理する年金への国民
の不信と、官僚への反発が、民主党への政権交替の主因でしょう。
そのため、政府予算を減らす事業仕分けにも喝采する。

失業、年金の無効化、物価高騰のインフレが時代を転換させます。
全部が、バブル(=インフレ)の破裂から、政府が倒れるというお
定まりの歴史でした。

金が通貨に使われ、悪貨への改鋳を繰返した時代(体制)のすべて
が、これだったと言っていいことに、改めて気がつきました。

実に、世界の歴史は、「金貨の改鋳と価値下落の歴史」だった。金
含有を減らした貨幣の増発が引き起こす、ハイパーインフレです。

(注)歴史教科書は、通貨の経済問題をほぼ無視し、英雄史、戦争
史、あるいは思想史にしています。国債を発行する政府、通貨を発
行する中央銀行にとって、都合が悪いためです。制度化した講座経
済学でも、インフレやデフレの原因が通貨であることについて、実
に、弱い記述しかない。

■2.金貨に代わる通貨が工夫された、フランス18世紀の帰結

欧州で、金貨に代わる紙幣が工夫されるのは、権勢を誇った太陽王
ルイ14世が没した後(1715年)のフランスでした。(注)歴史的に
は、ジンギス・ハンのモンゴル帝国も、紙幣を発行しています。

政府財政は、権勢にまかせた積年の戦費、王の奢侈、宮殿の建設、
貴族・高級官僚の不正で、お定まりの破産状態になる。

年間税収が1億4500リーブル(利払い前の政府支出1億4200万リーブ
ル)に対し、発行されたフランス国債は、税収の20.6年分の30億リ
ーブルでした。当然、利払いも償還も、できなかった。

▼金貨を裏付けにした紙幣の発行

このとき幼少だったルイ15世の、摂政になったオルレアン公は、カ
ジノで賭博師ジョン・ロー(30歳代)と出会います。

ローは賭博の経験から「信用理論」をまとめていた。それをオルレ
アン公に開陳する。賭博場では金貨の代わりにチップを貸付け、賭
けさせる。儲けがあれば、後で、金貨に交換する。交換前は、チッ
プです。外では買い物はできません。

賭博場主は、確率的な利益を得ます。配当率が99%と高くても、客
が一夜で100回賭ければ、最終配当は、37%に減るからです。

ジョン・ローは、チップが金貨の代りになる「信用」の原型と悟っ
ていました。ここから、信用理論が生まれた。紙幣や証券の歴史は
、実に、禍々(まがまが)しい。

【土地の証券化】
封建王家は大地主です。ジョン・ローは、土地を担保(裏付けの資
産)に土地証券を発行する「土地銀行の制度」を提案しています。
発行される土地証券がペーパーマネーです。

(注)米国の、デリバティブで価値偽装された住宅証券(残高600
兆円)や、商業用不動産証券(残高300兆円)に似ています。

(以下、『信用恐慌の謎:ラース・トゥヴェーデ:1998』を参照し
、筆者解説を含みます。)

後に破産する、政府銀行(フランス王立銀行)は、賭博師による信
用理論から生まれます。

【銀行】
フランス人が「銀行」という言葉に、ジョン・ローの詐欺を感じる
理由がこれです。フランスの銀行は、約300年後の今も、バンクと
いう言葉を使いません。BNPパリバや、ソシエテ・ジェネラルです
。証券を表わすセキュリティも、貨幣よりは安全な資産という含意
のものです。信用が根幹だからです。

■3.信用理論に基づく方法

オルレアン公は、ジョン・ロー提案を受け、最初、以下の方法を採
用します。

(1)新しい貨幣の鋳造
公は、貴族と国民が持つ、金貨と銀貨の無効を宣言して造幣局に回
収し、貴金属の含有量が80%しかない新貨幣を交換に与えます。旧
貨幣の流通は、法で禁じます。

この悪貨への改鋳は、貨幣が20%増量されたことと同じです。政府
の金庫に、フランスの総貨幣の20%が、ゼロから生まれる。20%の
実質課税(没収)と同じです。資産や物価の価格が上がる。1万円
の金貨の価値が、8000円に下がる。

(2)官僚の汚職の摘発
次は、国民の人気を得るための、汚職の摘発と罰金及び資産の没収
。汚職を知らせた国民に、汚職額の20%を与える通告制度を敷きま
す。(注)どこかの国の、官僚叩きとも似ています。

(3)ロー銀行の設立
翌1716年が「ロー銀行」の設立です。国民の税金は、全額をロー銀
行が発行した紙幣で払わねばならないという法を作った。

・信用の裏付け:国民がロー銀行の紙幣を銀行にもって行けば、無
条件で、満額の「新金貨(金の含有は80%に低下)」と交換できる
とします。新紙幣の信用を、新金貨で裏付けるためです。

・また、十分な担保(金や土地)の裏付けなしに、私設の紙幣を発
行した銀行家は、死刑に処すという法を作った。紙幣の信用を壊さ
ないためと、銀行家に紙幣発行による不当な利益を与えないためで
す。

【信用された紙幣】
以上の3つの制度で、ロー銀行の印刷する紙幣が、金貨のようなハ
ード・カレンシーと同等と国民に認定されることになってゆきます

次に、ロー銀行(後に王立銀行になる)は、政府が発行する赤字国
債を買います。これによってフランス政府は、国債発行で紙幣を手
にし、以前の金貨のように信用させ、政府支出に使うことができる
ようになります。

■3.株と紙幣の発行によるバブル経済

ローの信用理論を元にした才能が、発揮されるのはここからです。
国民が持つ30億リーブルの既発国債を、一挙に帳消しにしようと考
えるのです。使う手段は株の発行でした。

【ミシシッピ会社の株】
フランスは、1684年に米国のミシシッピ川とルイジアナ州を占領し
ていました。軍の派遣による新大陸アメリカからの略奪です。

ローは、ここに、植民地貿易を独占する株式会社を作るようオルレ
アン公に奨めます。「ミシシッピ計画」と呼ばれる政府プロジェク
トでした。

植民地貿易で利益を出すミシシッピ会社は、株を発行します。その
株は、フランス国債でしか買えないと決めた。そのため、国民がも
つ国債は、配当率の高い株式に変わって行った。国民は価値のない
国債と、利益を生む株を競って交換した。

【エッセンス】
オルレアン公は、ローの信用理論から、以下を理解します。

(1)金貨を裏付けにしたペーパーマネー(兌換紙幣)は、人の信
用を獲得できる。
(2)国家が発行するペーパーマネーが、積年の財政赤字を補填す
る。

【紙幣発行】
公は、次に、以前の金貨発行額の16倍以上になる10億リーブルの兌
換紙幣を印刷します。

【銀行の原理】
国民は、同時には、金貨への交換を要求しない。そのため王立銀行
が所有するゴールドは、わずかな「準備」でいい。準備(リザーブ
)の発見こそが、現代銀行の基本を作った。

いつでも、銀行に行けば金貨に交換できるという安心から、国民は
、紙幣をマネー(金貨)そのものと思うからです。

「政府による準備銀行制度」の発祥です。例えば米国FRBは、後で
述べるように私立ですが、政府機関のように連邦準備銀行と言う。
何を準備するのか? 準備されるのはゴールドでした。

【イタリアも同じ】
ルネサンス期のイタリアでは、金細工師が、貴族から貴金属を修理
や加工に預かったことを証明する「金証書(ペーパーマネー)」が
通貨として使われていました。

欧州の銀行の発祥は、金細工師による金の預かり証の発行に由来し
ます。貴族は豪奢な生活のために、宝飾品を「質に入れ」、渡され
た金証券で物を買っていた。金への交換が一斉に求められることは
ない。

金細工師に10%の預かり準備率が必要とすれば、金の預かり額の10
倍の金証書を発行できます。現代銀行の、自己資本比率(BIS規制
は8%)に相当するものです。預金(銀行にとっての負債)を、貸
付ける、あるいは自己投資する。

銀行は、巨額利益を出していても、預金(銀行の負債)の一斉取り
付けが起れば、一夜でつぶれます。経験上、皆が同時に引き出すこ
とはないという前提で、現代も、銀行制度が成り立っています。

【高い配当率】
フランス政府のミシシッピ会社は、フランスの全植民地からの貿易
利権を独占するように拡大されて「インド会社」と名前を変えます

発行済み株式は、1億2500万リーブル分だった。
その利益配当は5000万リーブルで、配当率40%という高さでした。

巨額財政赤字で破産したルイ王朝のジャンク債(国債)をもつ国民
は、競って価値のない国債を差し出し、配当が高いインド会社の株
を受け取った。国債の負債が、後に全部、株に変わった。株は、配
当はしても、元本の返済の必要がない。国の負債は、ほぼ1年で消
えたのです。

配当が高かった株価は、買いが大きく超過し、バブル的に高騰しま
す。上昇率は1年で10倍でした。時価では12億5000万リーブルにな
ります。(注)株も、会社が発行する、配当付きペーパーマネーで
す。

【増資=ペーパー株の発行】
オルレアン公は、更に、15億リーブルの、増資新株を発行します。

増資株に、3倍の応募が殺到したという。増資するのは業績がいい
。だから買いとなるどこかの国に、似ています。増資は、株数を増
やすこと、つまり、モルトを水割りで薄めることなのですが・・・
水割りにすれば、見かけ上はウィスキーも増えます。

資本とされる株の発行も、換金性があるという意味で、通貨に類似
します。ジョン・ローは、紙幣、政府企業の株、国債の全部が、考
案した信用理論から言えば、同じ証券の別の形態に過ぎないと見抜
いていました。初期は、国民は、ジョン・ローの考案に乗ります。

政府企業の株の価値の裏付けは、植民地からの利益と配当です。

ホリエモン(懐かしい)が、高く買われる株を発行するのは、日銀
しかないお札の輪転機が、会社にあることと同じと言っていたこと
を思い出して下さい。

奇妙にも、10倍の増資を続けても、ライブドアへの将来利益への過
剰期待から、株価が上がった。「インド会社の株」も同じでした。

▼紙幣の増刷によるバブル景気

株価の高騰でフランスは、王立銀行によるペーパーマネーの発行を
起点に、バブル景気に沸きます。

国民は、国債に換えて買ったインド会社の株の高騰で、豊かになっ
た錯覚をしていた。パリに至るところ、住宅が建設され、物価もイ
ンフレ的に高騰します。パリ市の人口は30万5000人(当時は欧州1
の大都市)に増えた。パリの街は欧州一になります。今の、ドバイ
や上海でしょう。都市も、王と国民の奢侈によって作られます。

国債を吸収したペーパーマネーの発行で国家を救い、フランス経済
を浮揚させたローは、国民の英雄になっていました。王立銀行によ
る、国債に代わった政府紙幣の発行からわずか3年後のことでした

(注1)現代の中央銀行でも、債券や国債の増加買い取りは、紙幣
の増発です。
11月20日現在、
・日銀は75兆円の1万円札(紙幣75億枚)を発行し、
・72兆円の国債を買っています。6兆円の買現先も中身は国債です
。合計で78兆円の国債を買い、75兆円を発行しています。
http://www.boj.or.jp/type/stat/boj_stat/ac07/ac091120.htm

(注2)米国FRBは、
・$1.5兆(135兆円)の国債と、$1兆(90兆円)証券を銀行から
買って、
・紙幣を$1兆(90兆円分)発行し、当座預金を通じて1.2兆(108
兆円)を、銀行と政府に供給しています。

●FRBの特徴は、金融危機に対応した$5.3兆(477兆円)の簿外保
証(off-balance)です。FRBによる、債券・証券の価値保証であり
、金融機関と政府への、実質的なマネー供給と同じです。銀行の損
は、FRBが埋めるとしているからです。
http://en.wikipedia.org/wiki/Federal_Reserve_System

■4. 3年後の破産:紙幣と株の暗転

銀行設立から4年目の1920年、1人の貴族(コンティ公)が、馬車に
紙幣を満載し、フランス王立銀行に向かいます。金貨への交換を要
求するためです。

この行動が1日でパリ中の話題になり、市民に「紙幣発行に見合う
ゴールドが、王立銀行にあるのか?」という素朴な疑問を広げます

買われたという根拠だけから10倍、20倍に高騰していた株価は、激
しい騰落を繰返します。高値に危険を感じ、売って利益確定する人
も増えて行った。

王立銀行での金貨への交換要求の急増に対し、オルレアン公は、逆
の効果を生む決定をします。信用を壊す行為です。

紙幣の、金貨への交換率を5%切り下げたのです。
紙幣、国債、株は同時に、5%の価値を失ったことになる。
損を恐れ、金貨への交換要求が増えるばかりになります。

銀行設立から4年目の1920年2月には、信用喜劇を演じたオルレアン
公は、金貨の使用を、全面的に禁止します。

500リーブル以上の金貨と貴金属の所有は禁じます。追加で、15億
リーブルの紙幣を発行します。紙幣しか使えなかったからです。

【幻想の金鉱】
紙幣の発行量に対し、支払い準備のゴ―ルドが不足した政府は、次
は、ニューオリンズに大きな金鉱がある言い、採掘の労働者として
パリ市民を募ります。アメリカは新しい富だったのです。

金鉱の採掘権をもっていたインド会社の株も、一時は上がります。
オルレアン公は、金が不足していた王立銀行と、未発掘の巨大金鉱
をもつというインド会社を、あらかじめ合併させていました。本来
の、詐欺師に転じたジョン・ローの知恵です。

ところが、新大陸に渡った鉱山労働者(失業者や犯罪人が多かった
)は「ニューオリンズに金鉱はない。」と言い、続々とパリに帰っ
て来ます。あたかも、中東やアフガンに派遣された米軍のようです
。米国が、巨額軍事費(10年で約200兆円)で、中東支配にこだわ
る理由は、原油を押さえればドルは基軸通貨を守れると思っている
からです。

当時、紙幣発行量は26億リーブル、一方で、王立銀行がもつ金貨は
半分でした。普通は、準備率50%として十分過ぎるくらいです。

しかし「銀行に、紙幣の価値を裏付けるゴールドはない。インド会
社のニューオリンズにも、金鉱がない。」と国民が知ればどうなる
か?

【取り付け】
1720年の半ば、銀行は紙幣を金貨に換える人で、一杯になった。
資産を失うパニックに駆られた人々の、取り付けが起った。
圧死する死者が15人出たと言います。

同年8月15日、フランス政府は、取り付けを押さえるため、額面金
額の高い紙幣では、年金債・預金・インド会社の株の購入以外はで
きないとします。買いものには使えなくなった。

10月にはインド会社の(内容のない)特権が剥奪されます。

株も紙幣も、ルイ14世が発行していた国債のように無価値に戻った

50歳になっていたローは、破産した市民からのリンチを恐れ、ダイ
アモンド一個を持ち、国外脱出します。亡くなった59歳のときは、
つかの間の英雄は無一文だった。国民は、資産と思っていた紙幣、
株、国債の富をほぼ全部、失います。

▼補注:フランス革命へ

これから69年後、1789年のフランス革命も、ルイ16世時代に溜まっ
た45億リーブルの国債の利払いのための、重税から起っています。
マリー・アントワネットが断頭台に消えた、あのフランス革命です
。(注)世代の記憶は、約60年サイクルとされます。

ルイ16世のフランス税収は5億リーブル、国債残は税収の9年分(45
億リーブル)でした。今から思えば、わずかです。(注)現在の日
本国債約800兆円は、収入が減った国税・地方税の約12~15年分で
しょう。その分、国民が寄せる政府への信用は厚いと言えます。

革命の1789当時の通貨発行量は、
・金貨等の金属貨幣22億リーブル、
・紙幣8000万リーブルと記録されています。

しかし、6年後の1796年に、再び政府と銀行から紙幣が大増発され4
50億リーブル(約20倍)に増えています。他方、ゴールドが必要な
金貨は、わずかしか増やすことができません。

加えて、政府と民間銀行が発行する様々な紙幣は、5800種もあった
。現代では証券と考えればいいでしょう。裏付けは、ゴールド準備
だったのですが、準備額は少なかった。ゴールドだけが価値を保っ
ていたのです。

その後に、紙幣のリーブルは、ハイパーインフレで約3000分の1に
切り下がり、呼称も、現在のフランに代わっています。(注)2005
年のトルコのようです。

その後、何回も、紙幣をゴールドに変えようと、銀行取り付けが起
っています。銀行の資産構造は、フランス王立銀行と、何ら変わっ
ていないからです。

(注)日本国民は、フランス人のようには、重税や資産喪失による
革命は起していません。政府に従順な国民性(=文化)かも知れま
せん。最近の官僚批判の根底は、将来の生活が貧しくなるという直
感からです。そのため、政府支出のムダと天下りを批判する。

フランス人が、伝統的にゴールド選好が強いのは、政府や銀行が発
行する紙幣が繰り返し無価値になった歴史(つまり人々の共通記憶
)からです。アラブ、インド、中国の国民性も似ています。

■5.日本人の、敗戦後ハイパーインフレの記憶は化石だが・・・

日本人は、63年前の1946年~1950年のハイパーインフレで、国債と
預金が150分1の価値に下がった記憶を、もっています。

しかし、それは、敗戦と、農業及び商品を作る工場の破壊によるも
のだったとされ、戦争や敗戦がなければ、再発することはないと考
えているふしがあります。

「現代の中央銀行や政府は、ルイ王朝時代よりはるかに賢明になっ
た。ジョン・ローもいない。紙幣が無価値になるハイパーインフレ
の再発はない。」と考えてるふしが感じられます。

紙幣の大増刷の起点になったフランスのような取り付けは、この国
の国民は、起さない。60年は、過去の記憶を化石にするのに十分な
時間です。

【価値を保つゴールド】
日本のハイパーインフレの間の、ゴールドの価格はどうだったか?
 敗戦直前の1945年は、金は1グラム4円80銭でした。1951年には物
価と比例し、585円に上がっています。

円は金に対し122分の1に下がり、金は122倍に上がった。
金の価値は一定です。円が下がったことになる。

(注)現在の価格は、1グラム3400円~3500円(円価格で64年前の1
945年の720倍:年率上昇10.83%)を、ランダムに波動しています

http://gold.tanaka.co.jp/commodity/souba/y-gold.php

【通貨発行量=日銀信用≒日銀のバランスシートの金額】
1年内の短期ではなく、長期で見たときどうか? 
誰にも分からない。

はっきりしているのは、経済成長率(実質)を超える通貨発行と国
債の発行が、確実だということです。原因は、世界の政府部門の、
容易には解消しない赤字です。

(注)日銀は、過去に発行した通貨量(現金+銀行が預ける当座預
金)の量を、ピークだった2006年比では約30兆円も絞っています。

民主主義の政府は、
・選挙での人気と政権維持のため、
・年々の拡張予算を余儀なくされます。

増税は国民の賛成は難しい。
しかし予算は拡張します。
高齢化による福祉費も増え、景気対策も必要になるからです。

▼物価高騰(紙幣の無価値化)が王政を転覆させ革命を生んだが・
・・s

紙幣が発明された途端に増刷されたことが、ペーパーマネーの価値
下落(所得に対する物価と金の高騰)の原因でした。

しかし今は、政府が巨額赤字で、中央銀行が国債を買って紙幣を増
発しても、
・すぐには消費者物価(CPI:現在は2%~3%マイナス)の変動に現
れず、
・物価と紙幣の価値の関係が、分からなくなっています。

過去と、現代経済は、どう違うのか?

■6.2000年代は消費者物価では、紙幣の価値は分からない。

現代は、金の価値(相場)をベースに物価を見ることはない。基準
はペーパーマネーの額面金額です。これを名目価値と言いますが、
その名目価値は、日々、変動します。(注)インフレ率を調整した
後が実質価値です。

▼消費者物価

主因は中国です。1994年以降、規模で日本を超える工業大国になり
貿易黒字も世界最大になって、本来は上がるべき人民元が、失業を
嫌う中国政府から低く抑えられているからです。(注)欧州からは
、人民元切り上げ要求が出されています。

ドルを買う(=人民元売り)ことで、人民元を安く保ち、中国商品
の輸出が増加する限り、先進国の物価に下落調整が加わります。例
えば、シャツの中国工場の出荷価格が200円、先進国での売価が200
0円だからです。この中国要素が、物価下落の過半を占めているで
しょう。

今、日本では、政府がデフレを言う。デフレは、インフレと反対の
、(1)物価の下落、(2)賃金の名目額の下落、(3)下がる物価
に対する通貨の価値上昇です。負債が重くなり、賃金も下落します
。この点について国内要因のみならず、海外要因を見なければなら
ない。

中国政府が、ドルや円に対し、元を今の2倍、3倍に切り上げれば、
日本の物価下落も、ほぼ終わるでしょう。

しかし、デフレ対策として、日銀がゼロ金利の紙幣を刷って供給し
ても、小泉内閣の2006年のような「円キャリートレード」に使われ
ます。円が海外に逃げ、国内のデフレの解消にならない。
(注)国際金融が自由化された経済では、低金利資金は海外に逃げ
るというマンデル・フレミングモデル。

1994年以降の中国が、輸出工業国化しなければ、日本の物価は下げ
ず、逆に、ゼロ金利の紙幣価値は下がったでしょう。

2008年9月以来、中国、対米輸出が急減しています。これは、中国
の輸出物価が下がることを意味し、わが国の物価も下げるのです。
1980円だったジーンズが890円、480円だったコンビニ弁当が298円
になるとか・・・・コンビニ弁当の、総菜の主はどこかきたか?

▼資産価格(不動産、株、証券、国際コモディティ)

本来、消費者物価指数(CPI)には、資産価格(不動産、株、国際コ
モディティ)の変動も加わえねばならない。

資産価格(証券化された価格)の上昇を物価に入れないことがイン
フレのなさとされて、(1)金融緩和が続き、(2)資産バブルの発
生と、(3)買えないという極点での崩壊(及び不幸)を生んで来
たからです。

資産価格の高騰は、資産に対する紙幣価値の下落です。例えば1年
で10%上げていた不動産の有効性(使用の実質価値)が、年10%上
げたわけではない。

2007年までは5年で2倍~3倍になっていた米国の都市部の住宅が、2
倍から3倍、広くなり、設備も高度化して使用価値が上がったわけ
ではないことを考えれば、すぐ分かるでしょう。

この20年間、米国FRBは、
・1990年代に株が上がっても、
・2000年代に住宅が上がっても、
「消費者物価は上がっていない」として、金融の引き締め(=FRB
による国債売り、社債売り)には向かわなかった。

逆にドルは強いとして、海外からの1年約100兆円分のドル債券(国
債、社債、株)の購入超過を推進します。

(注)2000年代のドル紙幣が強かったわけではない。実際は、資産
に対しドルは下がっていた(=資産価格が上がっていた)のです。

■7.海外からのドル債購入の意味

海外からのドル債購入は、米国にとっては、米国FRBによるマネー
増発(=銀行へ低金利で増加貸付けをすること)と同じ効果を持ち
ます。ドルはペーパーマネー時代の基軸通貨として、他の通貨を計
る基準です。累増する赤字で増刷されたドルの価値は、どうやって
守られたのか?

(注)ドル紙幣のみではなく、ドル証券の総体が、ドルの増刷に相
当します。政府が関与する国債、株、住宅証券、紙幣は全部同等だ
った、ジョン・ローの信用理論を想起してください。

▼海外からのドル債購入が米国の通貨増発だった

海外から、米国債、社債、株が買われることは、米国へのドルの流
入になる。円でドル債を買うときは、円を売ってドルに換え、その
ドルでドル債を買うからです。

このため、米国が1年100兆円規模の赤字でも、変動相制の中で下が
るべきドルは、下がらなかった。欧州と貿易黒字国が、その経常黒
字の分(=米国の赤字分)で、ドル債を買っていたからです。

FRBがドルを増加発行しなくても、米国にとっては、国債や社債が
海外に買われた分が、マネー量の増加です。今、米国債の49%を海
外が買っています。これをグリーンスパンは謎と言いましたが、信
用の詐欺師、ジョー・ロー風に考えれば謎ではない。

日本の2009年~2010年の50兆円を超える国債が、仮に、中国や中東
から好んで買われれば、日銀が円を発行して買うことの代行を果た
したことになります。

(注)海外は1年の発行額の5%しか日本国債を買っていません。GD
P(経済力)に対する、国債残(=累積財政赤字)が約2倍と巨額だ
からです。

FRBが、バブルを冷まそうと金利を上げれば、普通は、株価・住宅
価格は下げる。しかし、高金利(スプレッド:利幅)を求め、海外
がドル建て証券を買えば、米国にマネーが流入します。そのため、
ドル増刷、低金利と同じことになってしまう。これが1990年代から
2008年まで20年も続いた「国際金融フロー経済」でした。

【2008年の信用恐慌】
米国は、株・不動産バブルの間、グリーンスパンのFRBが、金利は
若干上げても、資産バブルを生んだ民間マネー量の、減額調整はし
なかった。これが、株価と崩壊する住宅バブルを生んでいます。

つまり、結局は、証券化された金融において、自然に、証券と資産
の価格下落(マネーの縮小と同義:信用恐慌:2008年)を生んでい
ます。

〔知識:現代金融は証券がマネーに加わった〕
1990年代からの金融工学で、金融が巨額に証券化された現在、マネ
ーは多種です。紙幣だけではない。株、住宅証券、債券(国債・社
債)、銀行ローンは、証券化され現金に交換が容易な準マネーです
。紙幣のみでなく、証券の総体を見なければならない。そしてデリ
バティブ(CDS:債権保証保険)が保険になりノンリスクとされた
証券が流通しています。

ルイ王朝のフランスの、「インド会社」の株は、事実上は国債です
。株も国債も、信用の点で紙幣と同義のものだったことを想起すれ
ば分かります。

マネーが、国内であれ海外であれ、値上がりと金利や配当をもとめ
別種のマネー(証券)を買っている間は、
・国債、社債、株、住宅証券、及び国際コモディティの先物(証券
)のインフレ(高騰)にはなっても、
・通貨が安く、賃金が低い新興国の安価な商品輸出で、消費者物価
には及ばない。

2000年代の先進国は、戦後ベビーブーマーの高齢化のための貯蓄が
、証券化され、そこにリスクをとる金融工学が加わって「証券スト
ックの大きな経済」になっています。(注)商品経済は、生産物つ
まりフローの経済です。

【通貨の相対価値に歪みがあるグローバル経済】
しかもわれわれは今、商品交易量が増えた世界経済の中にあります

金融と交易で結びついたグローバルな交易経済が、1980年代の先進
国では顕著だった消費者物価のインフレを防いでいます。

国境はありますが、消費財(安価な新興国の労働を封じ込めた商品
)は世界から来ています。

【そのため、現代世界の物価は、過去と異なる】
マネー量の増加ににもかかわらず、世界の消費者物価が上がらなく
なったのは、1994年に中国がドルに対する人民元を半分に切り下げ
て以後です。

1980年代までは、日米欧は、数%~10%未満の持続的なインフレだ
ったのです。7%のインフレが10年続けば物価は2倍に、紙幣の価値
は50%に下がります。

〔(1)起点は1994年の元切り下げ〕
米国(クリントン)と中国(鄧小平)の協調で、元が半分に切り下
げられた1994年頃から、世界に「ユニクロ化現象(先進国の消費財
物価の下落)」が起った。

〔(2)新興国になった旧共産圏〕
旧共産圏(東欧)も、自由世界に安い商品を輸出しています。欧州
の物価が上がらなくなった理由は、1990年代の東欧の自由経済化で
す。欧州(特にドイツ)から投資が行われ、商品工業が起った。

〔(3)結果として下がった先進国物価〕
日本の商品のスーパー等での「店頭価格指数」は、1992年を100と
すると現在は50です。他方、「消費者物価指数」が半分になってい
ない理由は、消費者物価の中に、サービス価格(医療、教育、通信
、旅行等)が入っているからです。

ドルで計る価格が半分になって輸出工業化した中国からの商品(交
易品種)が、先進国の物価を上げないというグローバル化です。

〔(4)人の労働の化身は、コンテナで輸入できる〕
中国からの輸入は、中国の20分の1の人件費を、海上コンテナに詰
めて輸送し、輸入しているのと同じです。

商品に化け、化身した労働の輸入です。これが90年代以降、日本人
や米国人ワーカーの、名目賃金の平均額が上がらなくなった主因で
す。今年は、輸出の急減から、下がっています。人は、居住権を与
えずとも輸入できるのです。この点への省察がないと、物価論、経
済論、賃金論を誤ります。過去のデフレとは、異なります。

(注1)2008年の世界の貿易金額は2004年に対し、4年で1.5倍に増
えています。この間、大きく増えたのは新興国の、安い商品の輸出
です。

(注2)2008年9月以降は、所得の10%(1年100兆円)を過剰消費し
ていた米国世帯の信用崩壊のため、1.2倍水準に減っています。こ
れが40兆円の輸出減となった日本の不況の原因です。

▼相対価値の中にある各国通貨

その中で、人類の歴史でもあった紙幣の価値下落が現れるのは、一
つは諸外国の通貨との相対的な価値の関係からです。

それが、円の下落や高騰、あるいはドル、ユーロの相対価値の変動
です。

(注)世界の政府が、容易には減らない財政赤字を抱えていること
を思い出してください。今は、米国の連邦財政が$2兆(180兆円)
で最大です。日本の国家部門は、50兆円くらいの赤字です。

通貨の相対価値(比較価値)中では、
・円高はドル安やユーロ安であり、
・円安はドル高やユーロ高です。

お互いの尺度が、日々動いてしまいます。お互いのモノサシが、数
ヶ月で10%以上も伸び縮みするので、何が価値か分からない。ゴー
ルドという価値の基準がないからです。

通貨(円やドル)の価値自体が、本当はどう動いているのか、分か
らない。

今は円高ではない、ドル安とされています。じゃ円高とは何か? 
ドルに対する円高です。ドル安とも言えます。つまり円高もその意
味は分からない。

通貨の価値を計る基準が、変動する各国の通貨しかないからです。

各国内の消費者物価との関係でも、分からない。新興国が、安く輸
出しているからです。原油や国際コモディティとの関係でも、分か
らない。証券化された投機で激しく動くからです。

■8.絶対価値に思えるゴールド価格

とりわけ2000年以降の、コールドの価格は、それら各国通貨の相対
価値や物価、資産価格の基底にある「絶対価値」のように思えます
。メートル原器のような、絶対の尺度です。

▼金の実質価格の安定と上昇

調べてみれば、ゴールドの価格は、100年間、米国の物価上昇(=
その反対がドルの価値下落)に正比例しています。インフレ調整後
の金価格の100年の総平均は1グラム$13.5(08年のドル価格ベース
)です。

これは2005年の金相場価格です。100年の長期にわたって、インフ
レ率控除後の実質価格が安定しているものは、金以外にない。

(注)現在は2005年の2.6倍のドルベース価格に上がっています。4
年で、金に対しドル価値(約5000兆円の全証券)は2.6分の1に下が
った。フランス革命以前のフランスなら、取り付けが起ったでしょ
う。1970年代、80年代、90年代、2000年代の、それぞれに違うゴー
ルド価格(ドルベース)の動きと、価格の意味を解明することが、
本稿の目的です。

もちろん金価格も、短期には個人、銀行、ファンドの投機で動いて
います。しかし2000年代のゴールドへの投機(あるいは投資)は、
通貨の価値下落を避けることが目的に思えるのです。

▼国際コモディティとの違い

原油や国際コモディティでは、銀行やファンドが買うときは、自分
が使う目的ではない。値上がり益を狙うための、投機の仮需です。

1年以内の短期で売って、利益を確定する。ファンドや投資銀行は
、石油や穀物を使って商品を作ることはしません。(注)最終的に
は、原材料として買う実需が、その価格を決めます。

投機の仮需(一時所有在庫)で高騰したものは、投資銀行やファン
ドは売らねばならず、その年の世界の実需量に合わせて、下がりま
す。(あるいは上がります)。

国際コモディティ(エネルギー、金属、穀物)の値動きは、1年内
に大きく変動しています。

下げたものが上がるときは、ほぼ必ず「中国(またはインド)が使
う」という論拠が、準備されます。原油が$140に高騰したとき(2
008年)、「13億人の中国が経済成長し、輸入する」だったことは
記憶に新しい。

▼異なる性格をもつゴールド価格

ゴールドが買われ高騰している理由は、将来の宝飾用や工業用の需
要増のためではない。通貨価値の下落をヘッジする投資としてです
。その金塊の在庫を、宝飾用に売りさばく必要はないからです。

(注)ファンドの金投機は、高値で売り抜け、ほぼ三ヶ月内(四半
期決算サイクル)に、出資者に配当を払う短期利益を得るためです

【FRBの設立:1913年】
さて、ここで、米国のFRB設立(連邦準備銀行:1913年)をめぐる
史実を挙げ、解釈し、その意味を探ります。特に戦後のFRBは、ゴ
ールドを敵と見ているからです。

断言できることです。今は、米国が拒否権をもって支配するIMFが
、ドルの敵である金価格を下げるため403トン(時価1.2兆円)を売
りに出し(09年10月)、保有ドル下落の損を嫌うインドがその全量
買うことを表明しています。

■9.謎めいた米国FRB(連邦準備銀行)の設立の経緯

ジョン・ローの銀行は、交換可能な金貨を裏付けの準備とする紙幣
の発行機関でした。金貨の準備は少なかった。そのため、紙幣の金
貨への交換要求(取り付け)から破産します。

破産を避けるため、国債を買い、ますます紙幣を刷って、18世紀の
フランスにインフレを起こし、(1)バブル崩壊、(2)増税、(3
)アメリカ独立戦争(1775-83)でのフランス戦費が、フランス革
命(1789-94)に至らせます。

紙幣を発行する銀行制度の歴史は、戦争と血で塗られています。血
かマネーか。ベニスの商人の世界でもある。

▼国債を担保に紙幣を発行するイングランド銀行モデル

フランス王立銀行の後を受けたのが、英国女王陛下の、イングラン
ド銀行モデルです。世界の海を支配していた英国債の信用(=国家
財政信用:徴税権)を担保に、通貨(ポンド)を発行します。

19世紀末にはヨーロッパの銀行家は、「法定通貨システム(=紙幣
システム)」を考案します。

ゴールドとは一定率で交換ができましたが、銀行がもつ金・銀の準
備高に拘束されるのでなく、国債担保ならより大量の通貨を発行で
きます。

通貨発行益が、得べかりし金利(低い公定歩合)より、大きいこと
を銀行家達が理解したからです。これは、紙幣増発によって銀行が
利益を得る「インフレの経済学」でもあります。

以降、欧州の銀行家は、金証券を発行していた(インフレを起さな
い)金の擁護者から、金の敵に変身しています。金が重要視される
ことは、紙幣を発行する自由を、ロー銀行のように拘束します。

インフレで価値が下がる紙幣の,価値が不変とされた金への交換要
求が多くなれば金準備がなくなって、銀行は破産するからです。

他方、イングランド銀行が、国家が発行する国債を買うには、何も
要らない。輪転機を回し、ポンド紙幣(法定通貨)を刷ればいい。

国債には、無金利の紙幣と違い、金利がつきます。その金利は、国
民の税金を集めた国家財政から支払われます。法定通貨を発行する
イングランド銀行にとって、紙幣の発行は二重、三重の利益を生み
ます。

ロスチャイルド家を代表とする銀行家が、当代きっての優秀な経済
学者を雇って研究させ、明敏な頭脳で理解したのは、以下です。

【仕組み】
(1)無金利の紙幣を、金利がつく国債と交換できる。
 ↓
(2)保有する国債価格が下落(=金利が上昇)するような時期は
、経済対策と言って、更に国債を買い金利を下げて、原価ゼロの紙
幣を刷ればいい。これによって経済は、金貨(または兌換紙幣)の
時代と異なって、常に物価が上がるインフレ含みになる。
 ↓
(3)インフレは、物価の高騰であり、それは紙幣価値の下落であ
る。
 ↓
(4)紙幣発行額は、銀行の負債である。その負債の実質価値は、
インフレで減って行く。つまり中央銀行はインフレで利益を得る。
これがインフレの経済学です。

具体的に言いましょう。

単純化した【中央銀行の資産】     【中央銀行の負債】
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
金準備     1兆円        通貨発行 10兆円
国債買い受け  9兆円        
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
総資産     10兆円        総負債10兆円

インフレ、つまり国債価格の下落(=金利の上昇)の時期は、政府
の国債をもっと買い、金利を下げる。それによってインフレを加速
する。紙幣発行は、印刷代と紙で原価がほぼゼロである。

これで金利がつく国債を買う。国民の税は、政府を通じた国債の利
払いとして、中央銀行の利益にもなる。商品を作る労働は要らない
。政府が相手だから、企業に貸すときの貸し倒れの心配も皆無であ
る。

政府と相談し、国債を発行させて買えばいい。財政赤字の政府は、
これを歓迎する。政府にとっても、インフレは国民からの借金の、
実質的な減少である。

こうやって毎年国民の富の数%~10%を、継続的に銀行が吸い上げ
る仕組みが、法定の紙幣発行を独占する中央銀行システムでしょう

金の預かり証券に依存しない準備制度のジョン・ロー銀行は、信用
理論における卓抜したアイデアでした。しかしロー銀行は、金貨を
準備(リザーブ)とする点で、間違えた。そのため、インフレ時に
は、紙幣を金の交換する人が増え、金が枯渇して破産します。

●イングランド銀行は、ロー銀行の轍を踏まない。形上、金の準備
はする。しかし、紙幣は国債を買い取って発行する。これを世間と
学者に「金本位制」と呼ばせていい。わずかではあっても金準備は
あるのだから。ポンド紙幣の、金への交換は応じるとする。

●こうしたイングランド銀行を、
・欧州の銀行家(英国を本拠にしていたロスチャイルド家)が、
・量産システムを作りつつあった新大陸(ニューワールド)に作る
試みが、FRB(連邦準備制度:米国中央銀行)でした。

FRBは米国の政府機関ではなく、米国政府の金融対策に協力はしま
すが、純粋な民間銀行です。日銀の悲願とも言われる政府からの独
立性の意味は「民間出資」であることです。株式会社は大株主が人
事権、利益配当要求権をもち、ガバナンス(統治)するからです。

19世紀から20世紀初頭の、Great Britainのイングランド銀行は、
世界の基軸通貨(貿易に使われる通貨:その価値がもっとも信用さ
れる通貨)だったポンドを発行していました。基軸通貨の保有は、
他国の中央銀行の信用を確保する準備金にもなるものです。

(注)第一次世界大戦以降は、ドイツに破壊された英国は没落しま
す。英国に変わったのが、フォードモデルの量産システムの米国で
した。

アメリカには96年前の1913年まで、中央銀行はなく、私立の多くの
銀行は、預金を預かって紙幣(預かり証と同等)を発行し、それが
流通していたのです。皆に信用されるなら、紙幣はなんであっても
いい。古代のような貝殻、金属貨幣でもいい。もちろん、金貨でも
いい。

本稿は、ここまでにします。中央銀行がゴールドを,通貨発行を制
限する敵と見なすことは、紙幣発行のイングランド銀行に始まり、
それを、米国FRBは受け継ぎます。以降は、次号で書きます。

【後記】
FRBもイングランド銀行も、本源的に、マネーとしてはゴールドで
あることは十分に知っています。前FRBが議長グリーンスパンの『
ゴールドと経済的な自由』も、それを示します。

しかし中央銀行としては、「金は通貨として価値がない、法定の紙
幣が、より価値がある。」と言わねばならない。FRBの、ゴールド
に対する矛盾した態度、行動、金価格への関与は、ここから出てい
ます。

http://gold.tanaka.co.jp/commodity/souba/y-gold.php

【年間平均価格:1グラム】  【米ドルレート:平均】
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
1971年(ニクソンショック以前)は公定価格$1(360円)
1973年   $ 3.1   968円     269円
1980年   $19.7  4499円     228円
1985年   $10.2  2490円     239円
1990年   $13.6  1826円     145円
1995年   $12.8  1209円      96円
2000年   $ 9.0  1014円     108円
2005年   $14.3  1619円     111円
2008年8月 $30.1  3249円     108円
2009年11月 $35.5  3199円      90円
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

以上は、38年間を見たとき、金価格の上昇が、紙幣の下落を示すも
のでもあるのです。100年以上も、継続しインフレ調整後で同じ価
値を示している金価格の上昇は、通貨の価値の下落を示します。

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る情報価値をe-Mailでお届けする」ことを趣旨に、ビジネスの成功
原則、経済、金融等のテーマを原理からまとめ、明快に解き、週1
回お届けしています。最近号の、一部の、目次は以下です。

  <454号:60年のドル基軸通貨体制の崩壊が近い>
        2009年10月21日分

【目次】
1.グローバル経済が高めた米ドルの価値
2.2009年の変化
3.原油・資源輸出国が、ドル以外での決済を検討
4.ドル・キャリー・トレードがドル安で利益を得る

  <455号:流通業経営の本質課題の発見と解決法>
      2009年10月28日
【目次】
1.現象は準恐慌
2.小売業の設備生産性と人的生産性:代表イオン・IY堂
4.生産性を高めてきたニトリとユニクロ
5.今後の小売業に共通な本質課題は、人的生産性を、現在より50%
上げること
6.人的生産性の低さを示す1人当たり管理売場面積
7.すこし専門的なところに入ります:商品作業の過程と作業量です

8.問題解決シートを使う:これこそが、マネジメント
【後記】定量発注法

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