特別号:経済的な根拠なく高騰し、急落している中国株が示すこと
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おはようございます。お読みなるころには、ギリシアの国民投票の
結果が出ているはずです。事前調査では、緊縮策への賛成は44%、
反対43%という。1%は、調査の誤差範囲です。

朝は、アメリカとの女子サッカーの決勝もありますね。CNNは、サ
ッカーの米国チームにインタビューしながら、この国民投票の風景
を映しています。ギリシアは、今、日曜日の午前10:30です。

(注)その後、国民投票の結果が出て、61:38で、緊縮策への反対
でした。本稿は、結果を見る前に書きました。当方の、展開の予測
がどんなものかわかるので、結果が出る前の記述にしておきます。

▼国民投票でのYES、またはNOと、その後の展開

YESを選べば、(1)VAT(付加価値税)の増税、(2)年金の削減、
(3)公務員の賃金カットへの合意を条件に、債権国とIMFが資金支
援と返済期限の再延長を図るでしょう。

NOなら、ECB(欧州中央銀行)からギリシアの銀行に対する緊急流
動性支援(ELA:上限650億ユ─ロ:8兆9000億円)が停止される可
能性があります。

ギリシアの銀行は、すでに20%の預金が流出してしまったため、
ユーロの現金が枯渇しています。このELAがないと、預金の引き出
しに応じることができなくなります。預金が引き出せないと、経済
は停止します。商品が買えず生活もできない。

ギリシア政府は、ユーロの代わりに、政府の国民に対する借用証で
あるIOU(政府借用証=政府紙幣)を出さざるを得ません。(注)
ギリシアの中央銀行は、ユーロの自主発行はできません。フランク
フルトにあるユーロ本部しか、ユーロの増発はできないのです。

IOUはI Owe You(あなたに負債を負う)から来ています。紙幣の本質
は、中央銀行が発行するIOUです。政府が発行するIOUは政府紙幣で
す。戦争のとき、占領地域で発行する軍票と同じです。日本では、
明治政府が、日銀ができる前に発行していた太政官札が政府紙幣で
した。通貨は、国民が信用して使うなら「何であってもいい」。

「1 IOU=1ユーロ」と決めても、政府の財政力がないため、市場で
は信用がない。ユーロの1/3くらいの価値でしか流通しないでしょ
う。通貨の価値が1/3になると、世帯と企業の預金は、1/3の価値に
減ることになります。

しばらくすれば、緊急紙幣のIOUは、ギリシア中央銀行が発行する
新ドラクマに切り替えられて行きます。ギリシアが新ドラクマを発
行したときが、ユーロからの離脱です。

新ドラクマは、いずれユーロの価値の1/3くらいに下がり、ギリシ
アの賃金、国内にある国債残は1/3の価値になります。他方、物価
は3倍に上がって行きます。

新ドラクマになっても、ユーロ建ての対外負債は、債権国の変更承
認がない限りユーロのままですから、ギリシアは払えません。最終
的に、債権国は、対ギリシアの債権を1/3に切り下げる決断を迫ら
れるでしょう。払えないものは、払えないからです。

【ドイツの考え次第】
ドイツには、ギリシアのユーロ離脱は避けたいという考えがありま
す。輸出力が弱く、政府財政が赤字の、南欧や東欧の離脱のきっか
けになって、その後の、ユーロ崩壊を恐れるからです。

ユーロは「ドイツ経済圏」です。日本円を、アジア全域が共通通貨
に採用したことを想定する思考実験をすればこれがわかるでしょう。

NOが出ても、ドイツはギリシアの銀行への緊急資金支援は止めず、
財政緊縮の要求を続けながら、返済期限の延長に応じる可能性も高
い。

輸出国のドイツは、マルクのときより通貨が安いことで、利益を得
ています。ドイツにとっては安いユーロで得た貿易黒字を、ギリシ
アに還元すべきという意見も、世界に強い。『21世紀の資本』を書
いたピケティ(フランス)も、援助継続派です。

ギリシア経済にとって、ユーロは高すぎる通貨です。強すぎる通貨
のため輸出が増えず、対外債務国になっています。

ドイツの実力のためユーロの金利は低く、ユーロ建てで為替リスク
のないギリシア国債は、ドイツ、フランス、英国、米国の銀行が買
っていました。(注)残高は3160億ユーロ(42兆円:2015年)で、
GDPの1.7倍です。

ユーロの通貨政策や支援の決定に対しては、形上ではドイツも1票
です。しかしその経済力から、事実上の支配力を持っています。

ドイツはフランスを巻き込みながら、ドル通貨圏に対抗するユーロ
通貨圏を作りました(2000年)。ドイツの、経済的、通貨的な覇権
を示すのがユーロであるという見方は、根強くあります。


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<Vol.334:特別号:経済的な根拠なく高騰し、
              急落している中国株が示すこと>
       無料版:2015年7月6日

【目次】

1.テーマ:中国の株価と中国経済
2.中国株が、2014年8月から上がってきた理由
3.実際のGDPの成長は4%台
4.不動産価格の下落と、シャドー・バンクの不良債権
5.2014年7月以降の、株価の高騰
6.政府対策+信用売買の解禁と、株価高騰、及び下落
7.結論

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■1.テーマ:中国の株価と中国経済

本稿のテーマは、ギリシア危機の影に隠れている中国の株価下落の
問題です。
https://www.rakuten-sec.co.jp/web/market/data/ssce.html

【6月12日の頂点】
中国株(上海総合指数)は、3週間前の2015年6月12日、5178ポイン
トをつけました。予想PER(株価/1株当たり予想純益)では20倍く
らいの高い水準でした。

〔比較〕日経平均の予想PERは16.3倍、米国のS&P500社は17.8倍、
ストック欧州600社は16.8倍です。2015年6月現在、世界の予想PER
の基準はほぼ16倍と見ていいでしょう。

【低迷の5年】
対米輸出が急減したリーマン危機(2008年)のあと、中国株は5年
間も、PERでは8倍から10倍の水準に低迷していました。米国、欧州、
日本は15倍を上回っていました。

中国の低いPERの理由としては、
(1)経営内容とガバナンスが不明瞭な、国営企業が多い、
(2)中国企業の会計の、本当の内容にわからない、
(3)市場を海外に開放していないということがあるのかと考えて
いました。

中国株が、少しずつ上がり始めたのは、2014年の8月からでした。
GDPの成長は減速し、中国経済は好況とは言えません。

【不況を示す一例】
ロイターは、中国の百貨店に閉店ラッシュが起こっていて、2014年
通年で1619万平米の売り場面積が減ったと報じています(15年6月
17日)。

3万平米(1万坪クラス)の大型百貨店に換算して540店分ですから、
これは大きい。中国の国土は、米国とほぼ同じで、日本の25倍です。
日本で言えば、20店の百貨店閉鎖に等しい。期間は1年です。閉店
の勢いの激しさがわかります。売上の好調なら、決して閉店はしま
せん。

【不況の中の、株価高騰:2014年~2015年】
中国政府にとってタブーの「不況」という声が、あちこちから聞こ
えます。なぜ、不況に向かっていた2014年7月から、逆に、中国株
が上がり始めたのか、経済的な意味は不明です。(これを本稿で考
え、推理します)

〔2.6倍〕上海総合は、その後、15年6月までの10か月間で、2000か
ら5178へと2.6倍に高騰しました。特に2014年11月以降、バブル的
な急騰を示しています。これは経済的な理由に反する高騰です。
https://www.rakuten-sec.co.jp/web/market/data/ssce.html

▼下落が始まった

高騰した株価は、15年6月12日に2.6倍の5178をつけたあと、現在
(7月5日)に至るまで、ほぼ一本調子に、3656へと下げています。
3週間での下落幅は1522ポイントで、マイナス29%です。

わが国の日経平均に置き換えると、2万円の株価が、3週で5800円
(29%)下げ、1万4200円になるような暴落です。
http://www.bloomberg.co.jp/apps/cbuilder?T=jp09_&ticker1=SHCOMP%3AIND

これは価格調整を超えた、激しい下げです。
何を意味しているのか。

(1)中国の株価は、短期で、再び5000や6000に戻るのか。
(2)長期間戻らないとすれば、この6月暴落は、今後の中国経済に
対しどんな意味があるのか。ここを推察し、考えるために、本稿を
書きます。

■2.中国株が、2014年8月から上がってきた理由

中国の株価が大きく下がっている理由を推理するには、まず、中国
経済が減速している中で、2014年7月以降、なぜ2.6倍に上がったの
かを推理する必要があります。

中国の株式市場についての、価格以外の情報は、わが国では、ほと
んど見ることはできません。

政府に都合が悪いと想定されるインターネットの記事は、経済の状
況を説明する記事を含み、短時間で閉鎖されることが多い。

政府は、景気悪化をひどく恐れている感じです。

ます、株価上昇の理由を考えるにあたっては、
・数値で明らかになっていることを元に、
・論理的に組み上げることが必要です。

【GDP】
経済活動を総合的に表すのがGDPです。実質GDPは、商品とサービス
(無形の商品)の1年での生産量を、物価上昇を引いて示します。

GDPは、企業で言えば、付加価値高(売上×粗利益率)です。GDPの
増加は、その国の企業の合計の付加価値高が、増えたことを示すの
です。

〔GDPの増加=企業の付加価値の増加=世帯所得の増加+企業所得
の増加〕、です。

株価や地価は、資産価格です。商品の付加価値ではない。このため
商品フローのGDPには入らず、国富に属します。

【実質成長率:政府発表分】
中国の実質GDPの成長は、2010年10.4%;2011年9.3%;2012年7.8
%;2013年7.8%;2014年7.4%;2015年6.8%(IMF予測)とされて
います。

2012年以降は7%台に減速しています。政府は新常態(New 
Normal)と言い、景気の減速とは決して言わない。

中国や日本の対米輸出を激減させたリーマン危機(2008年9月)の
前は、中国のGDP成長は10%~14%という高い成長でした。5年から
6年経つと、商品生産と国民所得が2倍になっていたのです。

リーマン危機後は、2008年が9.6%で、9年が9.2%、2010年には10.
4%に戻したものの、2011年は9.3%と、一段下がっています。

【GDP成長が8%以下なら、失業問題が社会不安を生む】
農村から都市の工場への人口移動が続く中国では、GDPの成長で8%
はないと、失業が増えて、社会不安が起こるとされていました。こ
れは、二桁成長の頃、中国政府自身が言っていたことです。

2012年には、20年来はじめて、7%台の成長に落ちています。実質
で7%の成長は、10年で2倍です。ほぼ0%の日本、2%の米国、1%
の欧州に比べれば、とても高い経済成長です。2015年は、公式には
6%台の成長とされています(IMF)。

▼8%のGDP成長という条件と、本当の失業

しかし、国を挙げての近代化と、低い所得からの増加の途上であり、
農村からの都市移動が年間1300万人と多い中国では、GDPで8%以上
の成長がないと、巨大な移動人口を吸収できません。
(注)政府の目標は都市部で年間1000万人の雇用を生むことです。

雇用保険は賃金の20%と低い。失業が増えると、都市流民になり、
社会不安が高まります。2014年は主要都市(102都市)の失業は8.
7%推計されています(移動人口分を含む:経済産研究所)。雇用
と失業は、経済的に、所得と並び重要なことです。

政府が発表する失業は10年以上、いつも4.0~4.3%の範囲で変化が
ない。この失業は、都市部に戸籍をもつ人が、省に登録した失業
(登記失業者)のみです。

農村部に戸籍をもつ人の失業は、不明のままです。農村部の人口は
50%の6億7500万人です(2012年)。経済的には、1990年以降、近
代化が進んだ都市と、中世を残す農村の2つの国があると見ていい。

失業の、全国調査は実施されていません。西南財経大学は、独自の
調査で、都市部失業は、政府統計の2倍の8~9%台と推計していま
す。以下はそのデータに基づく失業率です。
http://www.rieti.go.jp/jp/columns/a01_0400.html

1980年から2010年までの20年間で、2億6093万人が都市へ移動して
います。日本の人口の2倍もの移動人口を、都市の雇用で吸収する
には、GDPの年率で8%以上の規模拡大が必要でした。

所得格差、政府の腐敗、及び経済的な不満からの暴動が多発してい
るようですが、公式な報道はありません。

中国にとって、あらゆる問題を生む失業は、社会福祉が未整備なた
め、他国よりはるかにクリティカルな問題です。

■3.実際のGDPの成長は4%台

7%台に減速したというGDPの、本当の成長率には疑問が呈されてい
ます。

【電力消費量は、商品生産量に比例する】
世界の電力の使用は、産業用が圧倒的に多い。2011年の日本では、
1年で1兆844億KWの電力を使っていますが、家庭用は2902KWであり、
総電力の27%に過ぎません。あまり知られていませんが、産業用が
73%です。家庭が省エネしても、実は、小さい。

モーターの動力用が主である産業用電力は、商品生産量に正比例し
て、増えます。商品とサービスの、生産の総量であるGDPが5%増え
ると、産業用電力も5%は増えます。

中国でもGDPが2桁成長している時期は、電力消費の増加が10%~
15%/年でした。

ところが、この電力消費の増加が2014年から2015年は、5%以下に
減っています。

【鉄道貨物の輸送量もGDPの増加に比例する】
同時に鉄道貨物の輸送量も、2009年から13年は、前年比で10%~
15%の増加でしたが、2014年からは10%を割ることが多くなり、
2015年は、マイナスから2.5%くらいです。

輸送貨物のトン数は、物的な商品の生産量に比例します。電力使用
増加の減少と合わせ、2014年、2015年は大きな経済の停滞が生じて
いる有力な証拠と見ざるを得ない。
http://members3.jcom.home.ne.jp/tanakayuzo/chinaelect/newpage10.html

(注)日本のマスコミは、中国の経済成長については公式発を載せ
るだけです。観光客の爆買いは取り上げますが、本当の中国経済は、
新聞ではわからない。

▼中国のGDPの成長は、4%台に減速している

米国の機関も、2013年ころから、中国のGDPの成長率は4%台に急減
していると見ています。$1兆(120兆円)分、架空の上乗せがある
という。

胡錦濤主席に代わった習近平体制は、2013年からです。
2013年、2014年から中国経済は、明らかに不況化しています。

日本製品の排斥と反日デモが起こったのは、経済の減速が始まり、
失業が急増した2012年、2013年でした。

流動化した失業者の不満を、外に向けるものでした。反日の動きと、
中国経済の減速による失業の増加は、符合しています。

●中国の経済成長は、2013年ころを起点に、今度ずっと、3%台の
成長に落ちると見ています。

▼生産年齢人口の増加が、2015年でピークをつける(日本の20年遅
れ)

生産年齢人口(15歳~64歳:働く世代)の変化をみると、これが言
えます。中国の生産年齢人口は、2015年が頂点で10億140万人です。
東京オリンピックがある2020年は10億30万人に減り、2025年は10億
20万人です。

2030年から、生産年齢人口の減少が大きくなり9億6750万人→2035
年9億5140万人→2040年9億940人→2045年8億8480万人→2050年8億
4847万人です。

生産年齢人口の減少の中で、経済成長が4%以上というのは、あり
えないことです。実質成長は3%に下落します。同時に、巨大な高
齢化も進行するからです。

●中国は、2012~15年に、農業人口が工業化数することによる高い
経済成長の終焉(しゅうえん)、つまり「ルイスの転換点」を迎え
たことになります。

GDPは、〔1人当たりGDP生産性×生産年齢人口×就業率〕です。生
産年齢人口が増えなくなると、中国のGDPの成長は4%台以下になり、
減少が激しくなる2030年頃からは、GDPゼロ成長でしょう。

【日本は1995年からだった】
日本の生産年齢人口の頂点は、20年も前の1995年(8659万人)でし
た。2015年には7691万人で、968万人(11%)も減っています。こ
れを主因に日本のGDPは、この20年増えていません。

こうした、GDPの急減速と企業利益の減少の中で、株価だけが10か
月で2.6倍に上がったのです。経済的な根拠のない上昇と言う理由
がここです。

【リアルタイム】
ギリシアの国民投票の結果を受け、7月6日の前場では、日経平均が
324円(1.6%)下げて、2万215円になっています。今日も、午後1
:15分から、日銀の株ETFの買い(月間枠2500億円)が、360億円入
るでしょう。前場で、1%以上下げると、日銀のETFの買いが発動さ
れます。

2014年11月以後の日本株は、公的資金が買い支える「官製相場」が
続いています。1単位360億円の買いで上げるかどうか、上げなくも、
下落防止にはなります。ギリシアショックの今日も、2万円台でと
どまっています。

安倍政権は、国民の政権支持の元は、株価にあると判断しています。
このため、年金基金の運用機関(GPIF)、ゆうちょ銀行、かんぽ生
命が、国債を日銀に売ったマネーで、株を買っています。日銀の
ETF(株価の上場投信)の買いも、この一環です。

■4.不動産価格の下落と、シャドー・バンクの不良債権

リーマン危機以後の住宅価格は、政府による4兆元(80兆円)の経
済対策によって、2010年には10%上がり、2011年もほぼ10%上がっ
ていました(70都市:新築)。
http://www.smtb.jp/others/report/economy/25_2.pdf

しかし経済成長が(推計で)4%台に減速した2012年になると下が
る都市が増え、2012年末には50都市(70%)で下落しました。そし
て2013年には、ほとんどの都市で住宅価格が下がったのです。

中国では、政府の金利統制により、預金金利は物価の上昇率より低
い。この狭間(はざま)を縫って、
・金利の高い理財商品を売って、
・民間と地方政府(省)に、主に不動産資金を貸すシャドー・バン
ク(影の銀行)が発達します。

シャドー・バンクとは、闇(違法)の金融ではなく、政府の規制の
外にある銀行という意味のものです。

2012年には、シャドー・バンクの資金量(貸出金)は36兆元(720
兆円:1元20円換算)に達しています(JPモルガンによる)。

中国のGDPの70%に匹敵し、日本の民間銀行の預金に相当する巨額
です。不動産価格が下がると融資に不良債権が生じます。

中国の2012年、2013年の住宅価格の下落は、中国経済の成長率の水
準が、4%台に低下する「ルイスの転換点」で生じたことです。

この不動産の下落によってシャドー・バンク(資産36兆元:720兆
円)に、生じた不良債権額は不明です。100兆円以上であることは
間違いない。200兆円かどうか。300兆円か、分かりません。

不良債権では不良と優良の線引きが難しい。金利分や返済分の追い
貸しや、支払い延期をすれば、破たん債権にならないからです。

日本の資産(株価と不動産)のバブル崩壊のとき(1990年~)、そ
れを担保にしていた銀行が抱えた不良債権は、金融庁の公式表明で
は100兆円でした(2002年)。実際には、200兆円はありました。

この不良債権の処理に、日本の銀行は10年余を要しています。
2015年現在も、地銀に、未処理の残りがあります。

中国政府は、シャドー・バンクの不良債権を顕在化させないよう、
利下げをし、追加融資を行っています。そして住宅ローンを借りや
すくし、住宅価格を上げる政策もとっています。

中国の土地は国有です。地方の各省が管理しています。貸している
農地の使用権を、安い価格(1平米1000円等)で買い上げ、その使
用権を、ビルや住宅の建設用に例えば10倍の1万円で売る。これを、
地方政府が行うのです。

建物つきの場合、上物の建築用の資金は、シャーバンクから借る
(融資平台という)。この不動産事業で、地方政府(省)が得てき
た収益は、累積で27兆元(540兆円)とされます。

地方政府は、シャドー・バンクと一蓮托生です。この地方政府が、
シャドー・バンクにマネーを貸し付けて(実際は供与し)、貸付金
の不良化を防いだのです。

中国の中央政府は幕府(連邦国家)に相当します。地方政府は大名
です。大名は、省のGDPの成長率、不良債権、失業率、不正件数な
どで評価されています。

2013年には、全中国の住宅価格が下がっていました。ところが
2014年になると、一転し、住宅価格は騰勢を強めているのです。
(↓2ページ) 他国ではこうしたことは起こらない。半分は社会
主義国である中国の特殊性です。
http://www.smtb.jp/others/report/economy/25_2.pdf

2414年に、小規模な都市で前年比7%、中規模都市では10%、上海、
北京、重慶などの大規模な都市では15%も価格が上がるように回復
しています。原因は中央政府と地方の省による利下げ、ローン貸付
け、住宅振興です。

GDPの成長の減速により、本来なら下がるはずの住宅価格が、2014
年には、再び、10%以上の騰勢を強めています。

この住宅価格の上昇で、2012年から懸念されていたシャドー・バン
クの不良債権問題(数百兆円)は、解消したように見えています。
このため、世界のメディアも報じなくなっています。

▼2015年:再びの住宅価格の下落

続く2015年の中国の住宅価格の下落は、わが国では報じられていま
せん。中国の不動産は、2013年には下げ、14年には上がって、
2015年には再び下げて、現在に至っています。

中央と地方政府の住宅対策で上がっていた価格は、2015年になると、
市場の、需要と供給の実勢を反映し、下がるようになったのです。

2015年3月のデータでは、70都市の新築住宅の価格が、前年同月比
で6.1%も下がっています。北京は4.7%の下落です。70都市中で
48都市(69%)が下落しています。
http://jp.reuters.com/article/businessNews/idJPKBN0O303Z20150518

(注)スイスのUSBの中国法人は、2015年1月~2月の、不動産は、
前年同期比で6%どころではなく、16%下がっていると指摘してい
ます。

中国では、実態を示す数値は、出す機関によって異なっています。
当方の経験では、悪化した数値のほうが正しいことが多かったので
す。

都市部では、高額物件を除いた、平均的な住宅の年収倍率は7~8倍
付近ですが、地方・農村では所得水準が低いため、年収倍率が20倍
になっています。

2014年の住宅は、政府の必死の利下げや住宅ローン振興の中での下
落です。所得に対し、年収の10倍から20倍に価格が高騰してきた地
方の住宅不況は、中国経済の最大のリスクになっています。

【GDPの長期での成長と資産価格の関係】
GDPの成長率は、平均個人所得の成長率でもあります。

GDPの成長が、過去の2桁台から4%台に減速し、その減速が今後長
期のものであるとき、資産価格の水準は大きく下げます。下がるの
が常態です。この中で、不良債権が発生します。これも当然です。
(注)日本では1992年から、米国では2008年から起こったことです。

しかしまだ、部分的な市場主義経済の中国では、政府が関与して住
宅価格の下落を止め、不良債権の発生を抑えようとしています。特
に国有である土地と住宅価格には、地方政府が、行政として深くか
かわっています。(注)中国の土地価格は、70年や90年間の、土地
の使用権です。

このため、市場の需要と供給からは考えられない住宅価格の再上昇
が、2013年末から2014年にかけて起こったのです。しかし、2015年
にはメッキが剥げ、再び、下落を開始しています。

中国経済を予測するとき、政府による計画経済の部分と、市場主義
経済の部分を、見極めておかねばならない。国営企業の経営は、計
画主義が強い。

計画主義とは、売上計画や利益計画に近いものが、実績とされるこ
とです。GDPの計算も計画主義的と言っていい。経済成長の目標数
値が、結果の数値になっている気味が強いからです。

テーマである株価はどうか。市場主義ですが、政府の関与がきわめ
て強い。1800社の上場企業には、国営企業が多いためです。国営企
業とは、国鉄(現JR)、NTT、郵貯をイメージすればいいでしょう。

■5.2014年7月以降の、株価の高騰

住宅価格への対策と同時に、政府は、リーマン危機の後、5年間も
低迷していた株価対策を、実行しています。2014年の初頭に、ある
人は、「これから中国では、政府の対策で、株価が上がる」とささ
やかれたという。

政府幹部との関係が利権を決めるクローニー資本主義(縁故による
資本主義)では、これが多い。共産党の幹部が、全部の頂点に君臨
しています。国営企業の経営者は、共産党の官僚です。

わが国の明治時代の、殖産興業をイメージしたらいいでしょう。
明治政府は、西欧諸国に対抗するため、官営の産業を作って、政府
が援助したのです。官営事業の多くは、1880年(明治13年)に、三
菱や三井財閥に払い下げられています。

こうした前提があっての、政府の株価対策です。

(1)証券会社の、政府資金を貸し付けて、ETF(株の上場投資信
託)を買わせる。

(2)政策金利を従来の6%から、0.25%ずつ、4回引き下げて5%に
下げる。中国は実質GDPが(実体で)+4%、物価の上昇が1.2%
(2015年5月)くらいなので、4.5%という政策金利は、下限に近い
くらい低い金利になります。(注)2008年の政策金利は8%でした。

中国国債(10年債)の利回りは、2015年6月で3.2%であり、政策金
利より低くなっています。

(3)株式市場に、年金基金等の政府資金を注ぐPKO(Price 
Keeping Operation :価格維持作戦)

推計ですが、2014年からの中国政府は、(1)住宅価格の下落への
対策と、(2)株価低迷への対策を優先したのではないかと思われ
ます。

ローンと所得が関係する住宅価格より、株価対策のほうが打ちやす
いのです。

▼中国の株式市場は、まだ国内専用の市場

上海総合の上場企業数は2073社です。(注)1992年には780社でし
た。

A株は国内専用で人民元での取引です。米ドルで買えるB株が、日本
を含む海外に解放されています。しかし上海市場で言えば、A株が
時価総額のうち99.5%です。B株は0.5%に過ぎない。

海外の投資家は、中国の株式市場には、ほとんど参加していません
(2014年)。情報が少ない理由は、海外の持ち手を、ほとんど無視
できるからでしょう。ガイジン投資家の売買が60~70%を占める当
東京市場とはまるで違います。
http://column.world401.com/data/china_kigyou.html
http://www.nikihou.jp/nandemo/faq/faq_contents.html?q_id=010207

■6.政府対策+信用売買の解禁と、株価高騰、及び下落

上海市場の2073社の時価総額は、政府の対策を導火線にして、10か
月で2.6倍に上がったため$10兆(1200兆円)を超えています。日
本の東証一部の2倍です。(1989年のバブル期以降で最高の591兆円
:15年5月)

(注)上海総合は、6月12日を頂点に、29%下がっています。現在
の時価総額は852兆円でしょう。3週間で348兆円もの株主資産が失
われています。もっとも、高騰した分をバブルと諦観していれば、
失った気分はないでしょう。

【8900万人】
中国の株式市場の特徴は、8900万人という個人投資家の多さです。
日本は700万人ですから13倍です。人口が10倍なので、総人口に対
する割合は多くはないのですが、8900万人もの個人株主というと、
やはり驚きます。

そして更に特徴的なことは、個人株主の売買が、市場の80%から
90%を占めていることです。機関投資家、金融機関などの株式所有
は少ない。

【信用売買残高40兆円】
政府は個人株主に対し、信用売買を解放しました。証拠金の3倍く
らいの取引ができます。

先物の売買、空売り、ETFなどの指数の売買です。中国の信用売買
はとても大きく、総額で、40兆円と言われます。

個人に解放された信用売買の多さが、この10か月の株価高騰の主因
でしょう。

1日の売買代金もすさまじい。15年5月28日は、47兆円です。日本の
株式市場の売買は増えたとは言っても、3兆円くらいです。その15
倍以上です。同日の米国市場での売買額が$1320億(16兆円)だっ
たので、米国の3倍です。

【2014年11月以降の高騰】
株の売買額が急増したのは、2014年11月からでした。日銀が、異次
元緩和の追加と、公的年金の運用機関(GPIF)が株を日銀に売って
国内株、海外株を買うと表明したときと、同じ時期でした。

解放された信用取引で、個人投資家の株式売買額が急増した時期で
す。ただし、中国の個人投資家の売買は、短期所有、短期売買です。

【激しい売買回転率】
売買の回転率は、〔時価総額1200兆円÷47兆円=26日〕です。1か
月で1回転するくらい、1日の売買が大きい。東京市場はほぼ200日
で1回転です。中国市場の売買は7.7倍速い。

この売買回転の速さは、上がるときの速度も速く、下げの速度も速
いことを意味します。

中国株が、2015年6月13日から、なぜ29%も下がったのか?
予想PERは、かつての8倍から20倍に上がっていました。 

個人投資家8900万人と言えば、上げるときは集団心理になり、下げ
るときもパニックになります。信用売買が多いと、株価が下がった
場合、追加の追い証(おいしょう)が必要になるので、売りが売り
を呼び、一層下げる相場になります。

現在がそれです。

政府は、追い証のために、住宅を担保に差し出す制度まで作りまし
た。他国に、例のないことです。

中国政府は、可能なあらゆる手段をとって買い支えていますが、個
人の信用売買解消のための、売りの勢いが勝っています。ギリシア
危機が原因ではないことは確かです。

■7.結論

予想PERで20倍なら、現在の世界の水準では、強いバブル価格とは
言えません。しかし、中国の国営企業の次期利益が、粉飾的に、実
体より1.5倍高いなら、予想PERは30倍ですから、バブル価格の領域
です。

GDPも計画数値が、調整されて、実績になっているくらいですから、
国益企業の次期利益が実体の1.5倍であることは、十分に想定でき
ます。

これを示すように、国営企業20社が現在、売買が呈されているので
す。理由は、すべて「重要事項に対する公告未発表のため」です。
http://www.naito-sec.co.jp/chinap/ch_stop_ago.aspx

重要事項と言えば利益に関することです。次期予想利益を、上げる
ためか? いずれにせよ中国の市場では、6月半ば以来、異常な動
きが起こっています。

・2015年1月から・・・・・不動産価格の、前年比12%の下落
・2015年6月中旬から・・・株価の29%の下落

中国のGDPの本当の増加率(4%台)から見て、この株価下落と不動
産価格の下落が、短期で修正されることはなさそうです。

ただし中国の社会主義的な部分浮上し、株価・不動産の同時下落を
政府の力によって押し止めることはあるでしょう。ただし、それも、
2年と続けることはできません。

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<773号:マレーシア紀行と国際金融>
    2015年6月17日
【目次】

1.マレーシア
2.1998年のアジア通貨危機の意味
3.新興国にとってヘッジ・ファンドはエコノミック・ヒットマン
4.アジア通貨危機(1998年)
5.アジア通貨危機の遺産は、各国の外貨準備の増加だった
6.2014年からの異変

【後記】

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