財政破産否定論への見解(2)
This is my site Written by admin on 2016年7月11日 – 10:00
おはようございます。とても暑い日が続いています。よせばいいの
に、ゴルフに行きました。気温32度で、湿度は95%でした。セルフ
プレーだったため、夏で伸びたラフに入ったボールが探せず、ロス
トボールを5つ出しました(10打罰)。スコアは42、44でした。

最後まで回りましたが、途中で気分が悪くなり、顔は赤らんで、熱
中症寸前だったのでしょう。その日はムカムカして、夕食を食べる
ができず、水ばかり飲みました。気温より、湿度が問題ですね。

前号では、「日銀は、政府の国債を、金利を上げずに、買い続ける
ことができるから、政府の財政は破産しない」と言われていること
の検討を行いました。

▼前号の、要約した振り返り

日銀が、金融機関がもつ国債を買い進めることは、マイナス金利
(-0.1%)の日銀当座預金が増えることです。2016年6月末の時点
で、日銀当座預金は303兆円に膨らんでいます。

日銀は2016年2月から、250兆円を上回る預金について、0.1%の金
利を徴収しています。マイナス金利の目的は、異次元緩和よりさら
に進んだ金融緩和のためです。このマイナス金利のため、満期15年
以下の国債はマイナス金利になっています。(1年物─0.357%、5
年物-0.374%、10年物-0.293%、15年物-0.15%:16年7月時点)

金融機関が日銀に国債を売った分、マイナス金利の当座預金は増え
ます。

日銀は、金融機関から国債を買うとき、15年債より短いものは、発
行額面を上回る金額で買っています。日銀が満期10年、額面100万
円の国債を、103万円で買うと、10年間の金利が-3%、1年間では-
0.3%になります(単利で計算)。

このため、国債を売る金融機関には利益が出ます。国債金利がマイ
ナスでも、マイナス金利を敷く日銀が、利益が出るよう買ってくれ
るため金融機関は発行国債を買い、日銀に売っているのです。

ところが、売った後の代金は、金融機関が所有し、日銀に預けるマ
イナス金利の当座預金の増加になります。

【日銀当座預金の働き】
この日銀当座預金は、日銀が国債を増加買いすると、増え続けます。
日銀が国債を金融機関に売らない限り、日銀当座預金の合計額は減
少しません。

(注)A銀行が、B銀行に1兆円の債務を返済(または預金)しても、
A銀行の日銀当座預金が減少した分(─1兆円)、B銀行の日銀当座
預金が増えるため(+1兆円)、日銀当座預金の合計は同じです。
この日銀当座預金の合計額が減るには、(1)日銀の保有国債を金
融機機関に売ること、(2)あるいは、金融機関が自行の当座預金
を1万円の紙幣として引き出すことしかありません。紙幣としての
引き出し額は小さいので、事実上、(1)の日銀の国債売りしかあ
りません。

日銀当座預金は、2016年2月以降、金融緩和を深めるために、マイ
ナス(-0.1%)が敷かれています。金融機関が国債を日銀に売って
日銀当座預金が増えると、預ける金融機関の側が、日銀に金利を払
わねばならない。(注)国民の預金はマイナス金利ではありません。
預金金利はほぼ0%です。

このため、日銀が国債を買い進み続けると、マイナス金利での当座
預金の利払いが増える金融機関が、国債を日銀に売りにくくなる時
期が来ます。

そのとき日銀はマイナス金利を停止し、日銀当座預金にプラスの金
利をつける必要が出てきます。日銀当座預金の利上げは、日銀が国
債の買いを停止する出口政策と同じ効果をもつものです。

現在-0.1%の日銀当座預金の金利は、あらゆる金利の基礎です。こ
の金利を日銀が+0.5%に上げれば、その国の国債を含むすべての金
利が上がります。

国債の金利が上がることは、日銀の国債の買進み(異次元緩和)が
停止したことと同じです。

●つまり「日銀は、金融機関がもつ国債をいくらでも買い進むこと
ができるから、(国債発行に限界がない)政府は破産しない」とい
う論は誤りということになります。

金融機関の、日銀当座預金の保有額に限界が生じてくるからです。

(注)財政赤字の縮小が見込めない国において、金利が上がると国
債価格が下落し、金融機関が一斉に国債を売るようになって、国債
価格は一層下がり、金利も数か月の短期で高騰します。財政赤字の
縮小が見込めない国とは、政府の財政信用がない国のことです。

日本がギリシアのような「財政赤字の縮小が見込めない国」である
かどうかは、議論があるところです(確定していないという意味で
す)。

以上が、前号で述べたことの主旨であり、要約した再説明です。
「もう一度、詳しく書いてほしい」というメールが多数来ましので、
述べました。

本稿では、「日銀は、いくらでも国債を買い進むことができる」と
いう論が誤りであることを、日銀の損失の増加の面から、述べます。
本号は増刊とし、有料版、無料版を共通にします。

これから2年、経済と金融、および仕事と生活の基盤でもっとも重
要なことに関わっています。英国ではユーロ離脱が、英国、EU、
ユーロにマイナスの経済問題を引き起こしていますが、わが国では、
異次元緩和のこれからの推移が、問題の種になります。

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<834号:増刊:財政破産否定論についての見解(2)>
    2016年7月11日:有料版・無料版共通

【目次】
1.異次元緩和の国債購入で、日銀に生じた損失はすでに8兆円
2.マイナス金利と、日銀の保有国債で生じる「償還差損」
3.日銀が債務超過になると、財務省が出資することになっている
4.中央銀行は、無条件で通貨発行権をもつのではない
5.通貨発行権が有効であるために必要な条件
6.円の対外信用は、為替レートで計ることができる
7.まだ知られていない、日銀の償還差損
8.問題は、日銀への増資が必要とされたときに生じる
【後記】

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■1.異次元緩和の国債購入で日銀に生じた損失はすでに8兆円

▼日銀の国債買い

政府の意向を受けた日銀は、2013年4月から、1年に70兆円の国債を
金融機関から買い取って保有を増やす異次元緩和を始めています。
2014年11月以降は、80兆円に追加緩和しました。

13年3月には、日銀の国債保有は125兆円でした。3年3か月後の16年
6月には376兆円に増えています。純増251兆円。1年平均では77兆円
増えています。

国債は、そのまま持っていれば、満期の償還があり、保有額は減少
して行きます。純増には、「償還分+純増分」を買う必要がありま
す。日銀が、1年に77兆円の保有を純増させた裏では、1年に120兆
円の国債を買ってきたのです。

政府の発行国債は、借り換え分(120兆円)を含めば、160兆円/年
です(2016年度財務省予定)。160兆円の総発行のうち120兆円
(75%)を日銀が買っています。

このため、国債の買い手だった金融機関は、合計で、1年に約40兆
円の国債保有を減らしています。

▼日銀は、発行額面の3%増しで国債を買ってきた

ここで問題になるのは、日銀が、国債をいくらで買ってきたかです。

元日銀副総裁の岩田一政氏(政府系のシンクタンク:日本経済研究
センター理事長)は、「日銀は、額面100万円の国債を、平均103万
円で買ってきた」としています。利下げをするための国債買いは、
国債を高く買うからです。日銀が高く買うから、金融機関が国債を
売ります。

日銀が、維持緩和以降に増やした国債(251兆円)は、平均して、
発行額面より3%高く買われているのです。

▼日銀には、国債の満期に、償還差損が必ず生じる

日銀は、保有国債を途中では売りません。すべてを、満期まで待ち
ます。日銀が国債を売れば、金融機関の当座預金を吸収して減らす
金融引き締めになるからです。

このため、日銀が額面より高く国債を買っていると、満期には、必
ず「償還差損」が生じます。

異次元緩和以降の日銀は、国債保有を251兆円純増させています。
額面価格は、これより3%低い。〔251×0.97≒243兆円〕です。満
期に政府が償還するのは、243兆円です。251兆円で買っている日銀
は、2016年6月時点ですでに8兆円の含み損を抱えています。

含み損は、日銀が、満期が来る前に市場で高く売らない限り、実現
します。日銀は国債を売らないので、8兆円の損失は確定している
のです。

【日銀の自己資本は7.7兆円しかない】
日銀が10日毎に公表している営業毎旬報告でB/Sを見ると、16年6月
末の自己資本は、引当金(4.5兆円)と準備金(3.2兆円)、資本金
(1億円)の合計で7.7兆円しかありません。

日銀には、総資産・負債が432兆円もありますが、自己資本は7.7兆
円(総資産・負債の1.8%)しかない。国債の8兆円の損失で日銀は
すでに、自己資本がマイナスの債務超過になっています。

元日銀副総裁の岩田一政氏は、「日銀の異次元緩和(国債買い)は、
国債購入損8兆円のため、2017年から2018年には限界に達する。今
後はマイナス金利の拡大しかない」と述べています。
http://jp.reuters.com/article/japan-boj-iwata-idJPKCN0XI0C1

日銀政策委員会(日銀の金融政策を決める場)の木内登英 審議委
員も、2015年12月の都内での講演で、「日銀は国債を永久には買え
ない。限界が意識されれば、金利が大幅に上昇する」と述べていま
す。

木内氏は審議委員(6名のうちの1人)ですが、異次元緩和の継続に
は反対しています。異次元緩和は50%の規模(80兆円→40兆円)に
縮小すべきと言っています。
http://www.newsweekjapan.jp/stories/business/2015/12/post-4197.php

本稿では、日銀の国債買いが限界に達しているのかどうか、その限
界の根拠はなにかを探ります。両氏とも「限界であることの根拠」
は述べていないからです。

■2.マイナス金利と日銀の保有国債で生じる「償還差損」

【国債の平均満期】
日銀が買っている国債の平均満期は、8年です。2016年7月8日の国
債金利は、10年ものでマイナス0.293%です。(注)金融機関の間
の債券市場で1年に3000兆円、1日に15兆円という巨大な売買がある
国債の金利は、日々変動しています。
http://www.mof.go.jp/jgbs/reference/interest_rate/

【マイナス金利と、日銀が買う国債価格の関係】
発行額面100万円、満期10年の国債を、102.93万円で日銀が買うと、
1年間の金利は、マイナス0.293%になります。マイナス金利とは、
日銀が、発行額面より高く国債を買うことです。額面より、いくら
高く買うかで、このマイナス金利のレベルが決まります。(注)以
上は単利での計算ですが、1%以下の低い金利では複利との違いは
出ません。

【償還額は、発行額面しかない】
他方、10年後に政府が償還するのは100万円です。日銀は、金利を
上げることになるので、買った国債を売ることはできず、満期まで
保有し続けます。

このため、満期では100万円に対し2.93万円(2.93%≒ほぼ3%)の
損失が、確実に出ます。以上が、前述の岩田一政氏が、「日銀の損
失は8兆円」と言った根拠です。

【増え続ける日銀の損失】
日銀がマイナス金利で、国債を発行額面より高く買い続ける限り、
日銀の「償還差損」は、増えて行きます。2016年に長期金利がマイ
ナス0.3%/年になり、2017年にはマイナス0.5%に下がって、2018
年にはマイナス1.0%になったと仮定します。(注)岩田一政氏も、
マイナス金利の拡大が必要と言っています。

【日銀が国債を買い進めるには、マイナス金利の深化が必要になる】
マイナス金利の深化を想定する理由は、1年に40兆円のペースで減
っている金融機関の保有国債を、日銀が今後も買い増しを続けるに
は、次第に、「高く買う必要度」が高まって行くからです。

発行額面より高く買うことが、マイナス金利です。
高く買う分、日銀が蒙る「償還差損」も大きくなります。

【日銀が蒙る、償還差損のシミュレーション】
1年に80兆円の異次元緩和を、続けたときの日銀の保有国債、想定
金利、償還差損、そして債務超過は、以下のようにシミュレーショ
ンできるでしょう。
  
     保有国債  純増  長期金利 償還差損 債務超過
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
    
2016年4月 353兆円 228兆円  -0.293%  8兆円  0兆円
2017年4月 443兆円  80兆円  -0.5%   12兆円  4兆円
2018年4月 524兆円  80兆円  -1.0%   20兆円  12兆円
2019年4月 604兆円  80兆円  -1.0%   28兆円  20兆円
・・・・
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
(注)2016年4月の純増は異次元緩和以降の、日銀保有の増加分。
2017年4月以降の純増の80兆円は1年分。

日銀の自己資本は7.7兆円ですが、これは、2016年4月の償還差損8
兆円ですでに消えています。日銀が国債を買い進むと、この表の
2017年4兆円、2018年12兆円、2019年20兆円と債務超過が拡大する
でしょう。

【マイナス金利の深化の理由】
この表の長期金利は、10年債の金利の想定です。日銀は、現在、金
融機関の保有国債を1年に40兆円、純減させるように買っています。

これからも40兆円規模で買い続けるには、日銀は買う価格を上げる
必要に迫られるでしょう。これが、マイナス金利の幅の拡大です。
この拡大がないと、金融機関の売りの抵抗が強くなって、日銀の国
債買いは進みにくくなります。
      
マイナス金利の幅が拡大すれば、日銀が、国債の額面価格より高く
買うことになるので、満期時の償還差額も、年々大きくなって行き
ます。
上表がそのシミュレーションです。2019年4月では28兆円の、日銀
の償還差損が想定できます。現在の8兆円の3.5倍です。

さて・・・ここで、問題です。日銀は、自己資本の3.5倍(28兆
円)の債務超過に耐えられるのか?

普通の銀行や会社なら、自己資本額以上の損失が生じ、債務超過に
なれば、信用を失って破産します。信用を失うとは、現金でしか仕
入れができず、借入金も全部、一度に返済を迫られることです。

破産とは、借入金の全部の返済を、一度に迫られることです(償還
期限の利益を失うこと)。債務超過の銀行や企業は、「資産<負
債」になっているので、負債の全部を返済する資産がない。これが
倒産です。

日銀が債務超過になるとは、どういうことか? これを考えます。

■3.日銀が債務超過になると、財務省が出資することになっている

日銀が債務超過になると、政府(財務省)が出資して、債務超過を
解消することになっています。ただし、その財務省も財政が赤字の
わが国では、1年に約30兆円のお金が不足しています(この不足額
が国債の新規発行です)。

日銀に対して、20兆円や30兆円を日銀に出資する原資は、財務省
(日本国の経理部)にはない。どうするのか? 

国庫短期証券(短期国債の一種)を、日銀に売り、政府が現金を得
て(つまり日銀に借りて)、その現金で、日銀に出資するという方
法です。

これは、債務超過の企業が、自分の手形を増資にあてることと同じ
で、普通は無効でしょう。債務超過になった企業が発行する手形は、
誰も信用しないからです。

日銀は、「通貨発行権」があるとされています。

【重要な問題】日銀が、大きな債務超過になっても、通貨発行権は
有効なのかどうか。ここを考えます。この通貨発行権の有効性の検
討は、ほとんど誰も、行っていません。

▼中央銀行の債務超過への通説

「中央銀行が自己資本を失い、債務超過になっても問題ではない。
自分が通貨を発行し、いくらでも増資ができるからである」とされ
ています。エコノミストのほとんどは、この通説です。

〔財務省が国庫短期証券を発行する〕→〔日銀がそれを買って(引
き受けて)政府の当座預金に円を振り込む〕→〔財務省はその円で、
日銀に出資する〕という行為は、財務省の信用をクッションにして
はいますが、日銀が通貨を増発し、自己増資するのと同じです。

これが有効なのは、中央銀行には通貨発行権があるとされていて、
国民が、その見解に賛同しているからです。

【法貨説が、無効になるとき】
中央銀行が発行する通貨は、法が受け取りを強制している「法貨」
であり、その信用は、法貨であることに由来するとする財政学者も
います。その見解も間違いでしょう。

国会は、確かに、法で流通する法貨を定めることはできます。しか
し、それを価値があるものとするのは、マネーを使う国民であって、
中央銀行ではない。

国民が、政府と中央銀行の財政を信用せず、通貨の価値を信認しな
い場合、法的な通貨発行権が中央銀行や政府にあっても、それは通
貨発行権とは言えないものになるからです。

このあたりは、「聞いたことがない話」でしょう。
以下の具体例で言えば、了解できるでしょう。

■4.中央銀行は、無条件で通貨発行権をもつのではない

中央銀行の通貨発行権が有効になるのは、国民が、その通貨の価値
を信用するからです。発行される通貨の価値が、国民に信用されな
いときは、中央銀行の通貨発行権はなくなると言っていいのです。

▼通貨発行権が有効でない事例

【通貨の信認の事例:その1】
国の財政が破産し、通貨を増発したジンバブエでも、中央銀行は、
「ジンバブエドル」を法貨として発行できます。中央銀行は、法が
定める通貨発行権をもつのです。

このジンバブエドルは法貨です。しかし国民がその価値を信用しま
せん。価値が信認されない通貨、つまり商品購買力が認められない
通貨は、国民も海外も受け取りを拒否します。米ドルやユーロで払
ってくれ、となるでしょう。

走らない車が車ではないように、購買力が信用されない通貨は、通
貨たりえません。政府と中央銀行に対し、国民が寄せる財政信用が
ない場合、ジンバブエの中央銀行のように法的な通貨発行権はあっ
ても、発行権が有効ではありません。有効でない権利は、ないもの
と同じです。

「ジンバブエの中央銀行は、ジンバブエドルが国民に信用されない
ため有効ではないが、通貨発行権はもつ」ということは、経済的に
は、通貨発行の権利がないことです。

【通貨の信認の事例:その2】
次は、オリンピックの開催が間近なブラジルの場合です。通貨はレ
アルです。中央銀行は、法貨であるレアルの発行権を持っています。
いくらでも発行できます。

2015年の貿易赤字は$196億(約2兆円)でした。レアルの発行権が
海外に対しても有効なら、ブラジルがどんなに大きな貿易赤字でも、
レアルを中央銀行が輸入企業に貸し付けて、輸入企業はそのレアル
で支払えばいいことになります。

ところが、海外は、ブラジルの政府財政と中央銀行を、全面的には
信用していません。増発されるリアルの信用は低い。このため、貿
易赤字が大きくなって、ブラジル中央銀行が通貨を増発すれば、レ
アルの為替レートは暴落して、レアルの金利は上がります。

米ドルに対してレアルが暴落すれば、増発されたレアルの購買力は
増えません。現在、1レアルは$0.3(30円)です。レアルの増刷に
より、1レアルが$0.2(20円)に下がると、ブラジル中央銀行がレ
アルを1.5倍の量に増発しても、レアルの総量での購買力は変わり
ません。

国民が、政府の財政によせる信用が低い国の中央銀行が、通貨を増
発しても、その購買力は増えません。購買力が減る通貨を増発して
も、走らない車を作っても車が増えたとは言えないように、通貨の
増発とは言えないのです。

これが、通貨の増発権が有効でないことの意味です。政府と中央銀
行の財政信用がないときや、それが低い場合、通貨の増発が、購買
力を増やさないからです。

■5.通貨発行権が有効であるために必要な条件

▼政府と中央銀行の財政に信用がある中で、中央銀行は信用創造と
いうマネーの増発ができる

通貨の信用の根源は、政府と中央銀行の財政に、国民が寄せる信用
です。この信用があるとき、国民が寄せる信用をバックに、中央銀
行は信用創造(通貨の増発)ができるのです。

一方、「政府+中央銀行」の財政に信用がない場合は、通貨の増発
は、有効ではありません。この意味から、政府の財政赤字の累積が
大きくなって、累積赤字である国債残が財政信用を失うくらい増え
たときも、中央銀行がその国債を買い取ればいいから、財政は破産
しないという論は、誤りです。

国民に対する政府の財政信用がない中では、いくら中央銀行が国債
を買っても金利が上がり、財政は破産します。政府・中央銀行が、
無条件で「通貨発行権をもつ」とする学説は、誤りです。

有効性のなさを示す指標は、外為市場での増発された通貨の下落度
です。

【政府と中央銀行の財政信用】
政府と中央銀行の財政の信用とは、
(1)今は、政府の財政は赤字でも、将来は赤字が減り、
(2)借入を増やさず、国債の利払いを続けることができて、
(3)国債の純償還(国債の減少)も可能になるという、国民の予
測から来ます。

5年や8年後ではあっても、政府財政が黒字になる日が来るという予
想がない限り、政府と中央銀行の合計の財政は、信用されません。
(注)15年後や20年後の黒字予想は、不確定な要素が増えてかえっ
て信用されません。

ジンバブエには、財政信用がない。ブラジルでは、財政信用が薄い。
このため、中央銀行は通貨発行権を持っていても、それが、経済的
に有効ではないのです。

【債務超過になっているスイス国立銀行】
実は、2015年度のスイス国立銀行(SNB:Swiss National Bank)は、
債務超過である可能性が高い。

金融危機のユーロのスイスラン買いが増え、スイス・フランが暴騰
したため、下落するユーロを無制限に買って、スイス・フランの暴
騰を抑えてきたからです(2015年)。下がったユーロを時価評価す
れば、SNBは債務超過です。

発行元のSNBが債務超過でも、スイス・フランは、信用を失っては
いません。政府の財政が黒字であり、累積赤字を示す国債残はGDP
比で44.9%($2900:29兆円)と、日本の政府債務(1246兆円:
GDP比250%:2016年)より、はるかに小さいからです。

つまりスイスには「政府+中央銀行」の財政に信用がある。このた
め、スイス国立銀行が債務超過でも、スイス・フランは高く評価さ
れます。

もしスイス国立銀行が債務超過で、スイスの政府財政に信用がない
場合は、スイス・フランもブラジルのレアルのように、暴落するで
しょう。(注)2008年には1レアルは70円でした。現在は30.8円で
す(16年7月11日)。

●通貨の信認は、中央銀銀行と政府の合計の、将来財政の予測によ
ります。(注)現在は、大きな財政赤字で国債残が大きくても、将
来は改善するという見込みがあれば、通貨は高く維持されます。

■6.円の対外信用は為替レートで計ることができる

以上の、通貨信用の根底である財政信用の考察を経て、「日銀には
通貨の発行権があるので、このような「増資の自己引き受け」も可
能になる」ということの検討ができます。

通貨の発行権が有効であることの根底は、日銀が発行する通貨への、
国民と海外からの信認です。その通貨の信認は、上記の(1)から
(3)の政府と中央銀行の財政の信用です。

信用は質的なものです。物的なものでもなく、定量的に計るのは、
難しい。75%信用するというのはあまり意味をもちません。将来に
ついてのものであるため、人間の心理的なものである信用は、0か
100かでしょう。(注)例えば舛添前知事は、100%、人格の信用を
失いました。75%失ったのではない。

外為交換の分野では、通貨信用を、為替レートで計ることができま
す。通貨信用は、政府の財政信用を象徴するということができるの
です。財政と対外的な経常収支が悪化した国の通貨は下がり、財政
と経常収支が好転する国の通貨は上がるからです。

日銀が、異次元緩和で国債を高く買い続けた結果として、2016年4
月で、8兆円の「償還差損」が出ていて、すでに、7.7兆円しかない
自己資本は消えています。

そして、今後、日銀が異次元緩和をやめず、国債を額面より高い価
格で買い続ける限り、日銀の、自己資本を赤字が超える債務超過は、
増え続けます。

(注:再掲)前述の表のように、日銀が国債を買い進むと、2017年
4兆円、2018年12兆円、2019年20兆円と、日銀のB/Sの債務超過が拡
大します。

■7.まだ知られていない、日銀の償還差損

▼日銀の債務超過はまだ知られていず、円の評価は高くなっている

日銀がもつ国債という資産の償還差損(8兆円:16年4月)は、まだ、
ごく一部の人にしか知られていません。日銀のB/S(貸借対照表)
では、国債は日銀が買った価格で計上されています。このB/Sでは、
将来の、100%確実になった債務超過であっても見えません。
https://www.boj.or.jp/statistics/boj/other/acmai/release/2016/ac160630.htm/

このため、市場は、日銀の債務超過とその原因を知らず、2016年は
円買い(ドル、ユーロ、元売りで円買い)多くなり、上がっていま
す。

2015年、2016年と1ドル120円から100円付近に、17%も上がってい
るのです。今日は101.82円です(2016年7月11日)。

円の上昇は、円を買ってドルを売る人が多いことを示します。
つまり円は、信用されています。政府と日銀の合計での財政信用は
高い。

■8.問題は、日銀への増資が必要とされたときに生じる

しかし財務省が日銀の増資を引き受けると、日銀が買った国債のた
め債務超過になっていることが、日本国民と金融機関のみならず、
世界の金融機関とヘッジファンドに知られます。

原因が、マイナス金利のために、日銀が発行額面より国債を高く買
っていることだと知られれば、市場はどう反応するか?

スイス国立銀行の場合は、スイス・フランが買われて高騰すること
を防止するための、弱い通貨であるユーロを買ったことよる債務超
過でした。スイス・フランが強すぎ、政府財政が高く信用されてい
る結果です。このため、スイス国立銀行の債務超過という情報は、
スイス・フラン売りにはなっていないのです。

日銀の場合、スイス国立銀行とはまるで事情が異なります。

(1)政府の累積赤字は、GDPの2.4倍(1262兆円)と、GDP比で世界
1大きい。

(2)日銀が2016年4月で債務超過になったのは、日銀がマイナス金
利を敷き、国債を額面以上の価格で買っているからである。2016年
の初頭では、100万円の額面の国債を103万円で買っている。

(3)日銀は、マイナス金利つきの、異次元緩和を続ける。国債の
買いをやめる出口政策に向かうと、売り手が増えて買い手が不足す
るため、金利は一夜で高騰し、国債価格は暴落する。このため、マ
イナス金利付き異次元緩和は、やめることができない。

(4)マイナス金利付き異次元緩和の維持のため、日銀が国債を額
面より高く買うことを続ければ、日銀の償還差損による債務超過は、
2017年4兆円、2018年12兆円、2019年20兆円と拡大するだろう。

つまり日銀は、国債を買い続ける異次元緩和から出口政策へは行け
ない。このため日銀の償還差損による債務超過は、拡大し続けると
いう認識になった場合、円はどうなるか? 

買いが進むことはない。売られるでしょう。

【2017年から2018年】
日銀への増資が必要になるのは、償還差損の赤字が表面化してくる
2017年から2018年でしょう。このとき日銀は、「国債の買い増しを
続けるのか」、「順次減らして(テーパリングして)行くのか」を
迫られるでしょう。

市場が、日銀の国債買いは減らざるを得ないと認識したとき、円債
と円は、内外の金融機関とヘッジファンドから、先物売り、空売り、
オプション売り、そして円CDS(保証保険)の買いが、大挙して起
こるでしょう。

このときは、(1)円安、(2)金利上昇、(3)国債価格の下落、
(4)国債の発行難からくる政府財政の支払い困難を、同時に起こ
ります。そうならないためには、どうすべきか? 

次は、これを考えます。

【後記】
中央銀行はいくらでも国債を買って、通貨を増発できるから、財政
破産はないとする通説を唱える人が多い。これは誤りです。政府の
財政信用がなくなれば、ジンバブエやブラジルのように、その国の
中央銀行が発行する通貨の信用もなくなるからです。

正しくは、政府の財政を国民が信用している限り、中央銀行はいく
らでも国債を買って、通貨を増発できるから、財政破産はない、で
す。しかしこの文は、財政の信用の根拠に財政信用をもってくる同
義反復文ですから、意味はない。

日本国民は、果たして、政府財政を信用しているでしょうか?

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2.ドル/円の相場と、日本の株価の相関
3.日経平均と米国ダウの相関関係
4. 3493円(22%)の差異の理由
5.今後の株価を決める要素

 <825号:ダブルテーマ:(1)パナマ文書の公開理由
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【目次】

1. 「パナマ文書」が公開された目的の推理
2.タックス・ヘイブンの仕組みは、最初、英国政府が作った
3.GPIFの年金基金
4.年金基金の運用の損益
5.2014年10月の投資ポートフォリオの変更
6.PKO(株価維持)の資金の枯渇

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