金と基軸通貨:歴史的な展開と今後の予想(2)
This is my site Written by admin on 2018年9月16日 – 10:00
おはようございます。もっとも新しい有料版の前半部から8ページ
までをお届けします。先週、カナダの大自然の中で書いたものです。

            *

カナディアン・ロッキーの山岳と森、至る所にある青い水の巨大湖
を見ながら湖畔を散策し、1万年前の氷の氷河に雪上車で行って、
今日はワイナリーに隣接したロッジ風ホテルで書き始めました。

カナダは、アルプスの規模を数倍に拡大した急峻な山岳、杉と松の
原生林、150万か所という湖に、3千数百万人の東京圏並みの人口し
かいない国です。国土は日本の約26倍で、米国より広い。1億2600
万人の日本は、カリフォルニア州の広さしかない。

人口と国土の広さは、人々の考え(思想)と文化(生活意識の様
態)の基礎を規定しています。カナダの95%以上の面積は、人が住
んでいず自然の山と原生林、北極につながるツンドラでしょう。土
地と木と水が豊富で、氷河水が至るところに河を作り、水道の水も
手が切れるように冷たい。人々の共通意識が決める時間の流れは、
樹木の年輪のように遅くておおらかな国です。インターネットの時
間とは無縁でしょうか。しかし、山岳の中でもWiFiが繋がるのには
少し驚きました。

はじめて乗る雪上車から降り、自分の足で氷河を初めて知りました
が、風が吹きすさぶ表面に、小石のように散らばる透明な氷片を手
に取ると水晶のように固く、手の熱では、容易に溶けません。最下
層の氷は1万年前のものという数百メートルの厚さの氷河の、透明
なところは、翡翠(ひすい)の色に澄んでいます。ミネラル(鉱
物)が溶けて、波長の短い青を反射しているからです。

各所にある、氷河が溶けてできた大きな湖も、エメラルド色でした。
描写すると長くなるのでやめますが、見たことのない究極は、ここ
にもあったのです。日本の景色は、東山魁夷の風景画のように水分
で煙っていますが、カナダでは、遠くまでクリアです。

ここは、私にとって最高のピアニスト、グレン・グールドを生んだ
国です。グールドのバッハ(平均率クラヴィア曲集やゴルトベルク
変奏曲)は、天上を想像した人の音に聞こえます。蒼(あお)く澄
んだ氷河湖を見て、原点はこれかとも思いました。優れた芸術家の
創造には、印象派が地中海であるように、必ず、原点となる風景や
体験があります。芸術は、実用の技術を超える美を求めたものでし
ょう。

カナダの河と湖と山岳そして湖の淵までの、まっすぐに伸びた松や
杉の原生林を見るまでは、「イタリアではなく、なぜカナダにグー
ルドか」と不思議でした。

同じ演奏を30年聞き続け、どんな理由でいつも新鮮なのか。たぶん、
何かの意識と感情の表現主義の、突き詰めた究極を毎回、感じるか
らでしょう。数百回、いや、その数倍は聴いたでしょうか。

【移民の国だった】
カナダは、アジア系移民を多く受け入れ、先進国(G7)での人口増
加率は4年で5%と世界1高い(2位米国3%、3位英国2%、4位イタリ
ア2%、5位フランス2%)。基礎的な経済成長率は人口減の日本よ
り、1年に1.5ポイント分くらいは高くなります。(注)GDP=1人当
たりGDP生産性×労働人口

バンクーバーの人口の20%以上は中国人。フィリピンとインドも目
立ちます。観光客も圧倒的に中国人です。中国が、米国を超えて
GDP(商品生産額)で世界1になる10年後には、「世界を制覇」する
のではないかとも思えます。インバウンド消費のように顧客がお金
を払う国が世界をサーバントにするからです。大阪の御堂筋の商店
街は、中国人の街になっています。

21世紀は、中国を先頭にした新興国での、グローバルな合計生産力
が需要を超過したことで、「経済では需要が重点」になった時代だ
からです。買い手が決める市場、つまり買い手経済の時代です。こ
れは、今後、50年は続くでしょうか。

【日本の問題は、システムの創造性の弱さ】
日本という国は、稲作農業の上に、明治からは繊維産業を、戦後は
鉄鋼を先頭にした重化学工業を興し、1980年代からは、家電と自動
車で世界を制しました。しかしこれは、1995年付近までの「ハード
ウェアの時代」に適合したことでした。

Windows95が出た1995年以降、世界はインターネットとデジタル技
術(ソフトウェア)の時代に転換しました。この時、日本人が苦手
な世界最初の創造が必要なソフト技術では、激しく、後塵を拝した
のです。簡単に言えば、「インターネット時代の、人を興奮させる
新しい機能のプログラムが作ることができなかった」からです。家
電が凋落したのもこのためです。(注)アニメ風のゲーム以外の分
野のことです。

投資家によって変動する会社価値(=今後、利益を生む可能性の評
価)である、株価の時価総額が100兆円を超えたアップルやアマゾ
ンはこれを行っています。トヨタの時価総額は約20兆円であり、世
界の42位に落ちています(2018年8月)。中国のアマゾンであるアリ
ババ(約50兆円)の半分以下です。自動車工業と家電産業の株価は、
ハードウェアの時代の終わりを象徴しているものでしょう。

デジタルのソフト開発技術では米国が、その器であるエレクトロニ
クス・ハードの生産では、低いコストで中国と韓国が勃興しました

根本の理由は、米国人がもつ「システム化技術(新しい「系」を作
る技術)」に、日本人が遅れたことでしょう。系とは、ある目的を
持った機能の連携のことです。例えばワープロは、「文書を作る」
という目的のために、多様は機能が、支えあって連携しています。

コーディングするプログラマは、多数います。しかし、新しいシス
テムを個人が夢想し(一種のビジョン)、それを創造するシステム
エンジニアが少なかった。ソフトの創造が高くは評価されない会社
風土(企業文化)だったからでもあります。ハードのデザイナーは
高い地位でした。システムデザイナーの地位と評価は低かった。

教育で育成することもできなかった。部品をすり合わせて、精度を
高くして組み立てるハードウェア品質に優れた職人の国でした。約
25年間の低成長の根本の理由が、これです。

わが国の工業を先導してきた経産省は、これに気が付いているでし
ょうか。記憶ではなく、世界にない新しいものを夢想して作る、創
造を重視する教育の問題です。30年前に手を付けるべきことでした。

米国の大学教育は「**はこう考えて、この本を書いた。あなたの
考えはどうか」と教師が問って、発表させます。個人の創造を問っ
て、その考えの論理的なユニークさを評価する。日本の教育は、
「先人の考えを記憶し、記憶に対して〇×を付ける評価」が多い。

こうなった根本の理由は、「欧米に比べ、文化・文明・学問が遅れ
た国」という意識を、われわれ日本人が、根本でもっていたからで
しょう。遅れた国だから、欧米の「進んだ学説」を記憶させた。文
系の大学教授は多くが「翻訳家」でした。ここに、文科省の先導の
遅れがあります。理系でも似ています。

【トランプの25%関税の、最終負担は米国民が負う】
カナダは、これから、経済ではトランプの、20世紀の生産のグロバ
リーズムの拡大を否定する関税政策に打撃を受けます。カナダと米
国、そしてメキシコは、お互いが関税を撤廃した自由貿易圏の
NAFTAを形成していたからです。(注)環太平洋の自由貿易を推進
するTPPのお手本は、EUとNAFTAです。トランプは、米国をTPPから
離脱させ、25%関税に向かっています。

・米国は、25%課税による輸入物価高により、
・世界は、GDP(需要)が世界1の米国輸出の減少から、
ともに経済成長を低下させる制限貿易の政策を、なぜトランプがと
るのか。

世界で50兆円売るウォルマートの商品は、米国産が多い食品以外は
ほぼ100%がアジア・中南米・中東からの輸入品です。他の小売業
もほぼ同じです。個人消費がGDPの70%を占める米国(日本は60
%)で、輸入課税25%(政府収入)により、店頭価格が5%から15
%上がれば、米国の経済成長率は、目に見えて低下します。

米国では、食品・ドラッグ・化粧品・洗剤類以外の消費財はほぼ作
っていません。1972年までは得意だった自動車でも、現地生産を入
れると、海外ブランドが金額で60%でしょう。衣料・住関連・家電
は、ほぼ100%が輸入です。アップルのiPhoneやiPadも、中華圏で
作られています。他のITメーカーも同じです。

設計はアップルでも、製造はネットワーク型のファブレス(工場の
ないメーカー)になっていて、サプライチェーンの元は、中華圏で
す。衣料のGAP等(SPA:開発輸入小売)の製造はアジアです。アマ
ゾンはインターネット上の販売システムであり、商品は作っていま
せん。アマゾンのKindleやAIのアレクサなどの製造は中国です。輸
入品の店頭価格は、関税を上げれば、上がります。

米国の25%関税の、最終的な負担をするのは米国民です。製造業が
空洞化した米国では、消費税(米国は売上税)を上げることと同じ、
物価上昇の効果をもつからです。いったん空洞化し。工場が閉鎖さ
れ、雇用を減らした製造業は、関税を高めても再興しません、

【政府寄りになった主要メディアは、世界に共通する】
米国の主要メディアは、反トランプの言動において、事実上の言論
統制下にあります。このため、輸入関税は、米国人の職を増やすと
し、店頭価格の上昇が米国民の負担になるという言論は、まだ興っ
ていません。安倍政権がメディアとエコノミストを懐柔したことと、
結果の現象は同じです。

多くのエコノミストが、政府政策に対する反論・対論を出せないの
は、安倍政権とトランプの政策を主因に株価が上がってきたからで
す。

株価は、投資家による、企業の将来の利益予想で決まります。利益
予想が高いことは、GDPの成長の将来予想の高さを示しているから
です。

【テーマとの深い関連】
本稿のテーマ、<金と基軸通貨:歴史的な展開と今後の予想(2)
>はトランプの関税政策(=輸入制限策)と深い関係をもっていま
す。

【根柢の問題は、米国の経常収支の、構造的な赤字】
米国は、経常収支(貿易収支+所得収支)が、製造業の空洞化によ
る構造的な赤字の国です。2018年度は6140億ドル(68兆円:IMF)
の予想ですが、トランプ減税(10年で165兆円;1年で16兆円)によ
り、もっと増えるでしょう。
その分、海外へのドル散布が増えて、対外負債も増えます。
http://ecodb.net/country/US/imf_bca.html

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<959号:金と基軸通貨:歴史的な展開と今後の予想(2)>
       2018年9月12日:有料版送信分

【目次】
1.米ドルという信用通貨が基軸通貨というディレンマ
2.金交換制(=金本位制)との対比
3.1980年のイラン革命で高騰した金の、その後
4. ドル基軸を守ったのが原油のドル建て販売
5.ドル基軸体制の崩壊を恐怖したFRBは「金撲滅運動」をした。
【後記】

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■1.米ドルという信用通貨が、基軸通貨というディレンマ

最初に、いくらでも増発ができる信用通貨(米ドル)が、世界の基
軸通貨ということのディレンマについて書きます。ディレンマとは
矛盾であり、本質的に両立しないことを言います。

基軸通貨は、世界が貿易に使う通貨です。円の日本と、元の中国の
輸出入代金の決済は、多くが米ドルで行われています。両国で、円
と元の通貨価値への信用が、米ドルよりは低いと考えられているか
らです。

信用通貨に対する金本位(金交換制)の通貨は、戦後のわれわれに
とっては、「想像の領域」なので、具体性をもって記述しなければ
ならないでしょう。

▼米国の信用通貨が、世界の基軸通貨であることの問題

「1971年以降の、金交換制から離れた信用通貨のドル」を増刷して、
海外に渡すことは、米国の対外負債が増えることと同じです。米オ
国の経常収支の赤字分のドルが、海外(経常収支黒字国:中国と日
本が二大国)に流れますが、それは、米国の対外負債になるからで
す。

米国の対外負債の増加分、海外の、米国に対する債権である外貨準
備も増えます。

信用通貨とは、政府に、人びとが寄せる心理的な財政信用がもとに
なった通貨です。信用通貨を基軸通貨国にした国は、対外負債が増
え続ける構造をもっています。


海外が経済成長すると必然的に増えていく輸出入のために、海外が
より多くドル準備(中央銀行または政府が保管)を必要とするから
です。

一方で、海外が外貨準備を増やことは、米国の対外負債のGDPの増
加率を超える累増をすることです。増加が止まらない米国の対外負
債は、最終的には、ドル下落(暴落)を招きます。2018年は、新興
国が対外負債により通貨危機を招いていますが、米国にも、対外負
債が一定線(臨界点)を超えると、これと同じことが起こるのです。

ある国の、財政信用が担保でしかない信用通貨を、世界がもっとも
信用できるとして基軸通貨にした場合、その通貨は下落する宿命に
あります。

これを提唱した、ベルギー系米国人のエコノミストのトリフィンに
ちなんで「トリフィンのディレンマ」と言っています。ドル基軸通
貨を支える国の日本で、トリフィンに言及するエコノミストは、知
る限り、皆無です。(注)世界が貿易につかう基軸通貨は、IMFの
SDR(特別引き出し権)のような、政府財政をもたない無国籍通貨
でなければならない。

中国は、貿易黒字で稼いだ3.5兆ドル、日本は1.2兆ドルの外貨準備
を持っています。世界では、13兆ドル(1430兆円)でしょう。80%
は、米ドルと推測します。この外貨準備は、米国が、対外的な経常
収支の赤字のため支払ったドルです。海外に渡ったドルは、米国の
対外負債を構成しています。

米ドルは、世界は不満をいいながら認めている基軸通貨です。基軸
通貨は、自国通貨より信用が高いとして、世界が貿易に使う通貨の
ことです。基軸通貨となっているドルは、世界各国の通貨信用を超
えたものです。

(注)ドル基軸通貨体制を支えている日本は、不満を言っていませ
ん。中国はドル基軸通貨体制を支えても、ドルへの不満を言ってい
ます。ドル基軸通貨体制は、もっともドルをもつ中国と日本が支え
ているのです。

■2.金交換背制(金本位制)との対比

●戦前の金本位の時代は、金流出防止のための断続があっても、金
が、国籍を持たない貿易通貨でした。これが、まず確認しておかね
ばならない知識です。戦前に、貿易通貨として多く使われていた英
国ポンドも金本位性でした。ポンドが基軸通貨でしたが、本当はそ
のポンドの担保である金が基軸通貨でした。円も、ドルも金本位の
通貨でした。

現物の金は重く、運搬・移動が不便で、強盗の問題も大きい。この
ため、大英銀行で金と交換できるポンドとしていたのです。

【金本位制による調節機能】
ある国の経常収支の赤字が続くと、海外に行った兌換紙幣(金と一
定率で交換できる通貨)と、金との交換要求が起こります。増発さ
れた紙幣の価値は、いずれ低下するとみられるからです。

金との交換要求が増えると、1960年代からの経常収支の赤字国(米
国)が保有する金は、海外に流出し、なおも通貨の増発を続けると、
最終的には枯渇します。

金が枯渇すれば、金と交換できる兌換紙幣は、発行ができなくなる。
紙幣の増発ができない経済は、デフレ化し、経済成長率は低下して
いきます。

「政府または中央銀行には一定量の金保有が必要」という事情があ
るため、通貨の増発になる経常収支の赤字(貿易収支+所得収支)
の増加は、抑制されていきます。

通貨が海外に向かい増発され、それが対外負債になると海外からの
金との交換要求が増えて、その国の金保有が減少していくからです。
(注)1971年の金・ドル交換停止前の米国は、まさこの「金流出の
事態」に陥っていたのです。

通貨発行での金本位制度(金準備制)の中では、
・金が枯渇すると困るため、
・発生した経常収支の赤字は抑制され、
ついには、収支は均衡するという調整機能が働きます。

●通貨発行での金本位制度は、世界の経常収支の不均衡を是正し、
通貨価値を一定に保つという機能をもつのです。

【その証拠が、1972年までの固定相場】
1971年までの「金・ドル交換制」の時代は、1ドル=360円として固
定されていたことからも、「通貨価値の一定」はわかるでしょ
う・・・

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