ビジネス知識源:ユニチャーム・ペットケアを短期間で日本1にしたSAPS営業(2)
This is my site Written by admin on 2010年6月8日 – 09:44

おはようございます。大きく開いた窓から下を見れば、10本の深紅の
国旗を掲げたポールに囲まれ、ライトアップされて光る噴水を、円形
に囲むガラス張りの20階ほどの建物があって、前方は、幅100メートル
はあるかと思える長安大通りです。

長安大通りの長さは、直線で40Kmという。今、グランド・ハイアッ
ト北京にいます。北京の中心部に位置します。(本稿は、4月時点に北
京で書いたものです)

前半は前号の続編、後半には北京を見た観想を書きます。

ユニ・チャームのSAPS営業は、他社にとっても、業績(売上と利
益)を上げる営業方法の改革と考えています。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

   <Vol.246:ユニチャーム・ペットケアを、
         短期間で日本1にしたSAPS営業(2)>
           2010年6月07日
 
【目次】
1.売上の減少が、営業改革の最初の結果だった
2.目標による管理の誤りを正す
3.本来の目標による管理では、あるべき行動が達成目標
4. 北京観想
 
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

■1.売上の減少が、営業改革の最初の結果だった

【前号】二神氏がSAPS営業を実行した結果は、最初、売上の激減
でした。皆が、売上目標に縛られなくなって、月末に売上を上げてい
た販促費を使った押し込み営業を、意味がないとやめたからです。

卸先からは「今月はいいんですか。倉庫を空けて待っていますよ」と
言われたという。

(注)SAPS営業:売上目標の達成をノルマにする仕組みを廃止し
て、行動計画の完全実行を目標にする、非常識な方法。

SAPSは、[行動の計画(Schedule)]→[行動計画の実行(Actio
n)]→[効果測(Performance)]→[反省し次の行動計画(Schedule
)]という、4段階の営業行動の略でした。

▼原因と結果の関係を、明らかになるまで分析する

ユニチャーム・ヘルスケアの社長になった二神軍平氏は、売上が減
る時期の時、出荷額の10%、時には20%を占めていた販売促進費
(各種のリベートや割引)を、得意先別に集計し分析します。

当時、販促費の分配はブラックボックスで、営業担当に委ねられて
いたという。この販促費を、顧客別、製品カテゴリー別、地域別、
販促費の種類別に分け、数ヶ月間の分析をし、対策を決める。

結果は、将来の売上増があまり見込めないところに多くの販促費を
つぎ込み、売上成長が期待できるところには少ないというバラツキ
でした。二神氏は営業の「効果分析」を行ったことになります。こ
の分析は、行うべき当たり前のことですが、実際は、十分に行って
いない会社が多い。

その分析の過程で、どんな商談や提案を、どの店舗や卸に行えばユ
ニチャーム・ペットケアの業績につながるか、ディスカッションの
過程で、各人に見えてきたという。

重要なことは、[営業活動が原因になる売上結果]の関係の現状分
析と、その分析から見える対策と、営業行動の変更を含むスケ
ジュール化です。

ユニ・チャームでは、ペット用品を買う最終顧客が、どんな商品を
求めているか、その最新の分析結果(つまりマーケティング情報)
をもっていたのはマーケティング部だった。

月末押し込み営業の時代には、この製品マーケティング情報が十分
に活用されていなかった。

消費者の最終需要の増加や減少見込みに拘わらず、営業担当には必
達の売上ノルマがあるからと、営業を行っていたことになります。

これも変なことですが、仕事ではしばしば、こうした奇妙なことが
起こっています。優先すべきが、売上目標の達成だったからです。

これでは、一時的な売上目標は、見かけの数値上で達成しても、年
間業績(売上と利益)は上がらない。売れない見込みの商品を過剰
に押し込んでも、消費者に売れた結果から発注される「補充発注」
が少なくなるからです。これが、事業の赤字の最大原因だった。

現在の営業の効果分析を、ぜひ、ユニ・チャームに倣って、行って
下さい。売上目標の達成を最重視していると、ほぼ必ず、赤字時代
のユニチャーム・ペットケア事業と同じ結果になっているはずです。

繰り返しますが、現場では、担当の多くが、自身で変だと思いなが
らも、過去から続く変なことを実行しています。

その本音を引き出さねばならない。会議では、問題として出て来
ないことも多い。これは、意識の高い営業にとっては、自分の売上
未達の言い訳と取られることを、嫌うからでもあるのです。

■2.目標による管理の誤りを正す

ほぼあらゆる会社の「会計的な目標管理」に、マネジメント方法の
誤りの発生原因があります。一般に、目標は売上や営業利益とされ
ます。

期首に、会社で、売上と営業利益の目標を立てる。その目標と実績
の差を計測する。そして多くの場合、利益結果が悪いのは、売上の
不足だとされる。売上の目標と実績の差や、前年比での売上減少が、
なぜ生じたのかの、環境、競合、そして行動分析がされていないの
です。

「目標による管理」は、業績目標と結果の差が生じた原因を、科学
的に分析することから始まります。その分析結果から、原因対策を
立てる。

ところが実際は、売上目標と利益目標は、営業を叱咤・激励するも
のになっています。「理由はともかく、この売上目標を達成しよ
う」ということが、目標による管理とされているのです。

■3. 本来の目標による管理では、あるべき行動が達成目標

目標による管理では、目標と実績の差が生じた原因(作業方法、つ
まり営業では営業の行動)を問題にすべきなのですが・・・・

まさに、営業の効果分析を行うべきなのです。ところが、どんな営
業を行ったかは、日報に「**時から**時まで、**を行った」
が記録されるだけです。

端的に言えば、一生懸命に行ったが結果は売上目標の未達で、芳し
くなかったという報告です。このため次回は、もっと一生懸命に、
同じ方法で営業するということになる。

本来は、
(1)「**を行うべきだったが、**が原因で、**しかできな
かった。
(2)「次は**を**の方法で行う」と報告されねばならない。

こうなると、前記の誤った「目標による管理」ではなく、「あるべ
き営業活動と、実際に行った営業の差」を管理することになる。

この「あるべき営業行動(目標)と、実際の活動の差」こそを、管
理すべきです。これが、次に何をするべきかという対策を生みます。

あるべき行動を行うことを必達目標にすれば、「本来**を行うべ
きだったが、**が、**の原因で行えなかった」という日報の報
告になるからです。あるべき方法も、担当営業が考えることになる。

仕事で問題にすべきは、あるべき方法と、実際の方法の差です。
売上目標をもつ営業も、同じです。

例えば製造において、不良品の発生が多い。
あるいは、1人当たりの生産性(生産量)が低いとします。

この時、次月はもっと一生懸命に行って、不良品の発生を押さえ、
生産性目標も達成しようということでは、いつまで経っても、結果
は変わらない。本来は、方法の変更がなければならない。

【本来の、目標による管理】
目標  =あるべき方法と行動
結果  =実際の方法と実行した行動
差の原因=あるべき行動がとれなかった理由(環境、競合、行動)
対策  =次にとるべき行動とその方法

ドラッカーは、提唱した「目標による管理(MBO)」で、これこ
そを言っていたのですが、多くの会社でMBOが導入されるとき、
わかりやすい会計目標が必達目標になって、誤ったMBOになって
います。

あのトヨタでも、グローバル10(世界の生産台数シェアの10%)が
必達目標になったとき、MBOに誤りが起こったように感じます。

売上目標の最優先が、現トヨタの社長が米国議会の公聴会で述べた、
リコール多発と、築き上げて来た高品質へのブランド価値の急落の
原因でもあったでしょう。怖いことですが、目標による管理を、上
司が誤ると、いずれ、恐ろしい結果も出ます。

以上の問題に気がついた二神社長は、営業活動の管理の方法を変え
ます。それが、個々人のSAPSを補う、OGISMA表の導入で
す。基本部分はSAPSと同じです。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
1.目的(Object):何を目的に、その営業を行うか?
2.達成目標(Goal):そのためにどんな営業活動を行うか?
3.課題(Issues):営業活動における課題
4.戦略(Strategies):営業活動の重点方法と自分の行動計画
5.評価(Measures):営業活動の効果測定
6.対策(Actions):効果を見た後の、対策行動
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

次稿で、これを、わかりやすく述べます。現状分析に50%の時間を使
うことから、OGISMAの方法が始まる。

■4.北京観想

北京市街は、四国の面積があるとガイド嬢が言う。人口は1800万人。
日本の、25倍の国土の広さに合わせるように建物のスケールが大きく
、距離の感覚が、5000室のホテル群が立ち並ぶラスベガスの大通り(
ストリップ)を歩くときのように、狂います。

中国の他の大都市と同じく、都心部は近代化され、ここ10年の巨額
設備投資で、建物は高層でガラス張りのハイパーモダンです。大理石
を多く使う。成田の、数倍の広さの北京空港の床は、磨いた御影石で
した。

▼設備投資と輸出経済が中国

中国経済は、GDP(総商品生産の金額)に占める、官民の設備投資
が47%と破格に大きく、金額で207兆円です。同時期の日本(97兆円:
09年)の2倍です。

GDPは今、日本の473兆円(名目額)とほぼ同じ金額に、大きくなっ
ています。10%の成長を20年続ければ、6.7倍に拡大します。中国が
7倍の経済規模になった20年の間、日本のGDPは増えていません。

物価が日本の約半分なので、日本で言えば400兆円規模の設備投資を1
年で行っています。日本の4年分を1年で行う。この設備投資の多さ・
大きさ、そして増加が、中国経済を成長させています。至る所で「建
設中」を、1980年代の開放経済以来(?小平の先富の思想)の30年間、
続けてきたと言っていい。

「地図では、すぐ近くに見えても、歩くと20分や30分は、優にかかり
ます。」とインテリ風のガイド嬢は、見事な日本語で言う。日本では、
インテリは死語ですが、中国では意味をもちます。原義は覚醒した人
という意味。

大陸性気候の朝の気温(4月)は、天候不順もあって5度付近で、冷た
い大気はしばらくすると肌が突っ張るくらい乾燥しています。
出掛ける直前まで原稿を書いていたためか、準備不足で気温を調べる
こととコートを忘れ、朝の寒気に上体を固くし縮こまって歩いたので
す。

北京空港に着いた直後、コートを買おうかとも思ったのですが、2
泊3日の詰まったスケジュールで、店を回る時間はなかった。しか
し太陽が出ると、すぐ気温が上がります。

ご存じのように上海が産業都市で、北京は政治都市です。広大な天
安門広場には、ナポレオンに匹敵する英雄・毛沢東の、巨大な写真
が掲示され、これは、いつもTVで映されます。天安門には地方か
ら多くの観光客が集まる。4月は、観光シーズンです。(6月下旬には
上海に行く予定です)

▼中国元の安さが輸出成長の理由

1元は13.5円~14円付近ですが、購買力平価(商品の購買力に換
算した通貨価値)では28円~30円でしょう。

このため、いつも「元切り上げの必要」が国際的な問題になる。
(注)近々、元は、米国の要請から、5%の範囲での切り上げ調整は
あると見ます。中国が元切り上げに抵抗するのは、輸出主導経済を維
持するためです。

元は、米ドルに対し、固定レート(中東のようなドルペッグ制)です。
海外からの元買いで上りそうになると、中国政府がその逆の「元売
り・ドル買い」を発動し、相場を固定させています。民間の人民元か
らドルへの交換(ドル買い)は、今も厳重に制限されています。

そのため、中国政府にはドル債が貯まる。散布されるドル債を買いド
ル基軸通貨体制を支えているのは、1990年代までは日本でした。今は
中国と言っていい。

以下は、GDPでほぼ同規模の日本と対照した中国のGDPです。中国は、
GDPの成長は公表しても、その中身の金額は公開していません。このた
め各種データを集計し、推計してます。(1元=14円換算:中国のGDP
比は2010年推計)
 
          官民の            名目GDP
   個人消費  設備投資  政府消費  純輸出  合計
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
中国  165兆円  207兆円  61兆円  38兆円 470兆円
構成比  35%   44%    13%   8%   100%
1人当り 12万円  16万円  4.7万円  2.9万円 36万円
———————————————————-
日本  282兆円  98兆円  94兆円   1兆円  473兆円
構成比   60%    21%    20%   0.2%  100%
1人当り 222万円  77万円  74万円   -    372万円
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

(注)日本の名目GDPは2009年(暦年):日本の官民設備投資は、民間
住宅14兆円、企業の設備投資64兆円、政府公共投資20兆円:政府消費
はほぼ政府の財政予算:純輸出は輸出-輸入で、貿易黒字。

一見して分かる特徴は、中国の1人当りの個人消費は1年12万円(1月1
万円)で、日本(1人当り222万円:1月18.5万円)の20分の1くらいし
かないことです。世帯の消費額の少なさを示します。

他方、設備投資のGDP比は44%と日本の2倍です。中国経済の特徴が分
かるでしょう。政府と企業の設備投資と、(外資系が輸出の50%を占
める)輸出による経済です。

このため中国のGDPは、政府の金融・経済対策の緊急増額で、容易に、
上乗せができます。ここに他国と違う特徴がある。他方で、失業問題
は、激しい。

中国には経済マスコミはありません。このため、政府発表による経済
情報の提供です。共産党員は、民間企業でも「うちには3名の共産党員
がいる・・・」と顔写真入りで壁に掲示するようなエリートです。

▼公表データと違う、膨大な失業数

リーマンショック後(08年9月15日~)、中国も一瞬は貿易赤字
に陥るくらい対米・対欧輸出が減りました。3億人が住む沿岸部の工場
では、中国語で「下崗(シアカン)」と言われるリストラ(一時帰休
や解雇)が、猖獗をきわめています。

ガイド嬢の旅行社で、最近、1人の欠員を募集したところ、普通な
ら旅行社には来ない一流の精華大学卒や博士コースを終えた人を含め
3000人(!)もの応募があったという。こうした事実は、報じられる
ことがない。

失業率は、政府発表では9.6%(日本の2倍)とされますが、とてもそ
んな数ではない。推計ですが、15%は超えているはずです。農家に帰
れば、家族労働の農家では、工場とは違い失業という概念がない。実
質的な失業数が15%とすれば、その総数は1億2000万人で、日本の全人
口に匹敵します。

大卒ホワイトカラーの初任給は、今、北京や上海の大都市で4万円程
度です。マネジャークラスで6~10万円でしょう。現場労働の最低賃金
は徐々に上がって、月1万5000円くらいです。

2000年代は、1年に内陸部(人口10億人)から、90年代よりは少
なくなったとは言え、まだ500万人がほぼ5年の労働許可証を得て、沿
岸の大都市の工場やサービス・建設業に、集まっています。

平均賃金は1年に10%上がっても、最低賃金のアンカー(錨のような重
し)があるため、生産商品は安くなる。

2000年代は10年間で5000万人が、都市部に職を求めて集まり、4000万
人が職を得て、1000万人が失業です。

日本の、全民間雇用に匹敵する数の労働者が、農村から都市部に出稼
ぎをしています。出稼ぎという理由は、中国では居住地の自由はなく
、労働許可には年限があるからです。

1994年以降の、日米欧の商品物価のデフレ傾向を作っている中国の
輸出(工場出荷金額で100兆円水準)は、先進国では、平均すればFO
Bの2倍~3倍の店頭価格で売られますから、200~300兆円分でしょう。
(注)FOBは船荷渡しの価格で、海上運賃・保険・関税を含まな
い商品価格。CIFは、それらを含む商品価格。

わが国の工業出荷額が279兆円です。中国はその全額に匹敵する商品量
を、世界に輸出しています。日本の総小売額(115兆円:07年)の2~
3倍で、米国の総小売額(360兆円)の60~80%に匹敵する巨大量です。

▼1994年の元切り下げから高い経済成長

中国は1994年に人民元をドルに対し半分に切り下げています。ここ
から、中国産が半分の価格になって、輸出主導型の成長経済が始
まった。

1994年以前は1元=30円でした。それ以後は1元=15円に、米中協調で
下げたのです。今、この16年間の元安が、漸進的に修正されようとし
ています。

米国と中国が協調した元安が、中国を輸出大国にした主因です。現在、
元は、事実上、ドルとの固定相場です。ドルが円に対しドル安(円高)
になると、元安にもなる。

今、中国の輸出が、米国では360万人の失業を生んでいるという批
判が強い。中国政府は「米国の失業360万人と、元高になったとき
の、中国の失業の可能性2億人のどちらが世界にとって重要か」と反
駁はしています。

▼共産党政府が重んじる国民に対する面子

中国政府は、国民の手前、米国からの要求には応じられない。統治の
ための建前と、米国に裏で通じる本音がある。面子を立てれば、妥協
も可能になるのです。

中国では、経済成長率が8%以上ないと、農村からの、1年500万人の労
働者の移動を吸収できません。経済成長は、中国の現体制を守るため
に必須です。

言葉遣いからインテリ風に見える案内嬢は「会社では、たった1名の募
集に、3000人の求職者が集まりました。一生懸命に仕事をしないと、
自分も、うかうかできないと思いました。」と明るく言う。

失業率は、公式統計では10%弱ですが、実際は15%(推計)でしょ
う。全土の労働人口が8億6000万人ですから、失業が1億2900万
人で、これは日本の総人口(1億2700万人)を超えています。

▼緊急対策が不動産バブルになった

中国政府は、
・2009年に4兆元(56兆円:GDPの12%)の公共事業対策を打ち、
・100兆円(GDPの21%)の銀行からの貸し付けを増加させて、急
 落していた株価と不動産価格をバブル含みで上げています。

合計で150兆円規模(GDPの33%)の、金融・経済対策費ですから、こ
れは巨大です。このため不動産バブルが激しくなって、北京の不動産
価格は東京並の高さです。上海では、北京の約1.5倍です。

今、GDPは8%~10%の成長軌道に戻っています。
8%成長が、中国で、失業者がこれ以上増えない下限ラインです。

失業保険はまだ1億2000万人(全労働者の15%の上位層:2010年)にし
か完備していない。失業は流民化し、深刻です。各地での暴動の多さ
は報じられません。報道や情報発信の自由はない。グーグルともこれ
が争点になっています。インターネットの閲覧は厳重に制限されてい
ます。

(注)今、中国政府は、不動産バブル崩壊を怖れて、金融引き締め策
に転じつつあります。北京都心部の住宅が8000万円(上海ではその北
京の1億2000万円付近)という価格は、明らかにバブルです。3年で2倍
くらいに上がっています。今年度中に、不動産価格の暴落が予想でき
ます。

しかし、人々は将来の高成長と、しばらくすれば他での復職できると
期待しているため「明るい」。国民性の特徴は、ケンカをしているの
かと思うくらい話し声が大きく、自分の言動への正当性の主張が強い
ことです。中国では「沈黙は金」ではない。

▼天壇公園の風景

世界遺産の、これもまた広大な天壇公園では、定年後(50歳~60歳
が定年)の高齢者や若い失業者が、それぞれのグループで集まり、
ある集団は午前中にも拘わらず、ゆっくりした太極拳の動作にも見
える社交ダンスを踊っていました。

他には円陣を組み、流行なのか、羽のついた蹴鞠(けまり)をして
いる多くのグループがある。原色の民族衣装で着飾って独特のリズ
ムで舞い、自前のラジカセ型カラオケをもってきて、誰に聞かせる
ともなく、ビリつく大音量で、孤独に歌っている人達もいる。

ルイ・ヴィトンの文様の偽財布やポーチ、何か分からないスカーフや
旗を売りつける人も多かった。中国では、どこへ行っても、押し寄せ
る波のように人が途絶えない。iPadのコピー商品がiPedです。

「この国は、ひとつの国として、同じ制度を敷くには、大きすぎ
る。」(中国学の碩学:吉川幸次郎)との言葉が記憶から蘇ります。

格差という概念を超えた、所得差がある。
あらゆる制度も、13の省と各都市で、自治的に異ならざるを得ない。
医療保険や税も、省毎に、まるで異なります。

安価な労働力(月間1万5000円付近の最低賃金)の供給源である内
陸部と農村の伝統的な中世(10億人)、都市部の近代化(2億人)、
大都市部(1億人)のハイパー・モダニズムが併存しています。

【民主制への転換は、当面はない】
共産党によるエリート独裁から民主制(選挙による代議制)への転
換が、国内でも云々(うんぬん)されてはいますが、省と都市間の、
経済(所得水準)と文化(行動様式)の事情の違いが大きすぎ、予
測できる20年、30年は体制転換は無理でしょう。欧米の歴史観は、
通じない。

西欧で民主制が成立した背景は、まず18世紀の啓蒙思想がありました。
啓蒙思想は、人に共通に備わるとする理性主義でもあり、そこから
「人権の平等思想と社会契約論(ルソー)」が生まれ、選挙制になっ
て行きます。

平等な個人という概念を、成立させたのがルソーの『告白』でしょう。
個人が中心になったので、個人の考えや行動を描く「ロマン=小説
(ちいさな説)」も生まれます。

日本では、福沢諭吉の「天は天の下に人を作らず、人の下に人を作ら
ず」という、人口に膾炙した平等思想が、選挙制の元になっています。
そして国家の礎として啓蒙教育を位置づけます。思想は物の見方で
す。社会を固定する身分制の封建時代にとって、平等思想はラディカ
ルでした。ラディカルとは体制の転覆を含む危険思想です。

日本以外の東洋は、こうした思想的な伝統をもちません。そのため大
きく言えば王政の時代でしょう。中国では、国家主席の言葉が法であ
り、制度です。王政とは誰も言わない。でも王政です。この王のイメ
ージは紫禁城にありました。中国では、今、人権の平等と言えばラデ
ィカルになる。

▼紫禁城

紫禁城(故宮:約500年間の明と清の時代の王宮:日本の皇居に相
当)は、敷き詰められ摩耗した石畳に、1万室の極彩色の木造建築
を擁し、当時は皇帝に仕える10万人が住んでいたという。

中世から近世の皇帝達が、広大な庭に整列し、はるか遠くは霞に消
える高官、科挙、宦官、兵士、女官(側女でだけで数千人)を前に
して、何を想っていたか。

皇帝が座る玉座の周辺は、香を炊きこめ、雲の中に霞むような印象を
与えていました。天上の人という演出です。

この王朝を倒し、13億人を統治する共産革命を率いた毛沢東が何を
考えていたか。震えるように寒く、固く冷たい石の中庭を歩きなが
ら、思いを巡らせても、実感が沸かない。

皇帝(最初に皇帝と言ったのは秦の始皇帝)は、自らを常人と隔絶
した聖人とし、神のようなものだった。紫は聖人の色とされる。聖
人が庶民を禁じる紫禁城です。屋根は、これも皇帝の色である黄色
(黄金)で葺(ふ)く。

故宮は、寺院と宮殿が合体しています。西欧の王とキリスト教の法
王を兼備した「人」が皇帝だった。この国を納めるのに、身分制とい
う縦の秩序は、必然だったように感じたのです。(注)共産中国の、
公式な見解は無神論です。

ある会社グループの社長会に同行し、2泊3日の中国。中国と日本
経済の今後の論理的な予測と、格差が大きな中国の医療制度、そし
て経営戦略の提案のために同行し、月曜日からの2日間を終えまし
た。

中国は、香港・シンセン・上海に行っていた時期もあり、メールマ
ガジンの読者ツアーを主催して、約80名の方をシンセンにご案内した
ことがあります。2台のバスを1時間くらい毎に交代して、中国経済と
産業の事情を話した。

今回は、北京に来る前、110枚の論考を新たに書く過程で、8%~
10%のGDP右肩上がりを想定した人々が多い中国事業家と、そうし
た成長が意識の中では昔日になった日本の事業の違いを考えました。

投資は、明日へ向かう経営の投企です。お会いした中国の事業家や
経営者は、1年に20%~50%の企業成長(売上増加)を基準にしていま
した。

30%としても5年で3.7倍。約20年も、振り替わりはあっても成
長していない日本企業から見れば、別の世界でしょう。

▼しかし、10年後に襲う高齢化

中国経済は、複雑な要素を孕(はらみ)みます。将来を解く鍵は、人
口の年齢構成にあります。

13億人の中国の年齢構成は、約20年分をずらすと、約25年続いた一人
っ子政策のため、日本と瓜二つです。(注)日本の年齢構成の面での、
GDP成長における最適の時期は、1994年ころでした。

米国の最適人口構成は日本の10年遅れの2004年でした。ただし、米国
のベビー・ブーマーは20年も続いているので、GDPにとって最適な
時期は4~5年遅れの08年~09年頃になっています。

米国の住宅価格が2006年にピークを打ち、07年から下がりはじめ、08
年に価格下落が大きくなって、08年8月~9月には住宅証券の下落から
金融危機を起こしたのは、このためです。

中国は、現在1年に500万人の、所得が低く若い農村人口が都市部
に移動して働き、所得(=購買力)が、農村に住むときの5倍以上にな
ることがGDPの2桁成長の原動力です。

この若年層の労働力が、2010年現在で、最適構成になっています。

【10年後】
あと10年経つと、今の中国の経済成長の中心になっているベビー・ブ
ーマーの先頭世代から順次54歳を超え、所得減の世代になって行きま
す。

そのため、中国の2桁%(あるいは1桁台後半)の高い成長は2020年頃
に終わり、その後、数%の成長率に落ちるでしょう。

今はまだ10%程度の国民にしか整備されていない社会保障(年金・医
療費・失業保険)の国民負担が、あと5~10年のうちに巨大な重しにな
ります。

現在、中国のGDPは、470兆円(名目:日本と同額)です。2020
年に、470兆円×(8%成長の10年)=470兆円×(2.15倍)=1010兆
円に向かうでしょう。

その間、少なくとも50%のドルや円に対する元の切り上げが起こりま
す。そのため円で言えば、1515兆円付近(日本の今のGDPの3.2倍
:現在の米国GDPの1.2倍)です。

別稿で、その原因と結果の関係を詳述したいとも思っていますが、
以上が今の中国を久しぶりに見て、感じたことでした。

次号では、SAPS営業の方法をまとめます。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
     【ビジネス知識源 読者アンケート 】

読者の方からの意見や感想を、書く内容に反映させることを目的とす
るアンケートです。いただく感想は参考になります。

1.テーマと内容は興味がもてますか?
2.理解は進みましたか?
3.疑問点は?
4.その他、感想、希望テーマ等、ご自由に
5.差し支えない範囲で読者の横顔情報があると助かります。

コピーしてメールにはりつけ、記入の上、気軽に送信してください。
質問のひとつひとつに返信することはできないかも知れませんが、共
通すると思われるテーマはメールマガジンでとりあげます。いただい
たメールは、全部を読んでいます。

↓あて先
yoshida@cool-knowledge.com

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
■創刊以来1位を続け『まぐまぐ大賞』を獲得している有料版(週刊:
1ヶ月で630円)の購読案内です。
http://www.mag2.com/events/mag2year/2008/

■有料版バックナンバー:有料版の約8年分超のバックナンバー480号
余は、有料の性格上、公開していませんが、月単位で購入できます。
以下からのリンクでたどることができます。
http://www.mag2.com/archives/P0000018/

『ビジネス知識源プレミアム』は、「1ヶ月ビジネス書5冊を超える
情報価値をe-Mailでお届けする」ことを趣旨に、ビジネスの成功原則
、経済、金融等のテーマを原理からまとめ、明快に解き、週1回お届け
しています。最近号の、一部の、目次は以下です。

 <482号:金融危機から国債危機;その来し方行く末>
         2010年5月5日分

【目次】
1.ギリシア国債の下落が続く
2.米欧日の、財政赤字の規模の大きさ
3.金融機関の利益や損失は何か?
4.2000年代金融のゼロサムゲーム
5.最終的には政府が代わりに保証して資金を出すから安心

<483号:増刊+正刊:
    金融危機から国債危機;その来し方行く末(2)>
        2010年5月12日号

【目次】
 1.南欧債務への、金融機関のエクスポジャー
 2.高いレバレッジ倍率
 3.金利高騰のシミュレーション
 4.金利高騰
 5.南欧国危機の波及は、なぜ起るのか?
 6.危機対策は、マネー供給しかないが・・・
 6.ユーロに現れた矛盾
 7.米国FRB、欧州ECB、英国BOEの総資産拡大の対照
 8.中央銀行が発行する紙幣の性格
 9.管理通貨制度
10.管理通貨制の発祥
11.通貨増発とインフレの関係
12.EU・ECBの増加資金供給の帰結

【目次】

1.世界の民間銀行部門の、融資額、証券保有、損失
2.デ・レバレッジの推計
3.主要国の銀行の融資・証券保有が、世界のGDPと同じ額であることの
意味
4.低金利が意味すること
5.根本の問題は、金融資産(=金融負債)の過剰
6.2009年、2010年と急速に膨らんだ米国の純債務
7.着地点の論理的な想定
8.新通貨制も想定できる

  <485号:ドイツ政府による、裸の空売り規制の逆効果>
         2010年5月26日号

【目次】

1.一般的な「空売り」
2. Naked Short Selling(ネイキッド・ショート・セリング)
3.先物取引とは?
4.差金決済の先物取引が主流
5.事実上は無効な、空売り規制
6.(補注)国債にも大きな先物市場がある
7.ドイツ政府による空売り規制が生んだ、ユーロ全体への不信
8.西欧のLIBORとCDSのプレミアムの上昇
9.重大なことを言えば・・・
10.CDSのプレミアムの急騰

有料版の新規の申し込み月の、最初の1ヶ月分は、無料お試しセット
です。
(注)お試し期間の1ヶ月後の解除も、自由です。以下は申し込みの
サイトです。
http://www.mag2.com/m/P0000018.html

(↓)お手間をかけますが、使い方と会員登録方法の説明です。
http://www.mag2.com/bgnr.html
http://www.mag2.com/howtouse.html#pay

【申し込み方法の概略】
(1)初めての『会員登録』で支払い方法とパスワードを決めると、
(2)[まぐまぐプレミアム]から会員登録受付のメールが送って
   きます。
(3)その後、購読誌の登録です。
(注)過去のバックナンバーの購読も月単位でできます。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

Comments are closed.