21世紀の産業革命を引き起こすAI(1)
This is my site Written by admin on 2016年9月18日 – 10:00
おはようございます。酷暑とリオ五輪の8月が終わり、朝夕はめっ
きり秋めいてきました。人間的な時間では、過去は、刻々と瞬間の
記憶になる。「われわれは、未来への投企(projet:プロジェ)によ
って生きている」と言ったのはサルトルだったか。未来、ビジョン、
目標です。

テーマは<21世紀の産業革命を引き起こすAI>です。

AIは人工知能ですが、
・人間がプログラムを与える「エキスパート・システム」ではなく、
・自己学習によりプログラムを自動生成するディープ・ラーンニン
グ型(深学習型)のものをいうことにします。

進歩の途上なので、このAIの統一定義は、まだありません。

2016年3月に、囲碁でイ・セドルに勝ったGoogleの「アルファ碁」
から、世界的な関心を惹きました。棋譜をデータベース化し、人間
が判断のプログラムを作っていたエキスパート・システム型のAIで
は、10年以上かかると言われていたのです。

対して、パソコン1200台でクラスターを組んだアルファ碁は、10万
局のプロの棋譜をもとに、3000万回の自己対戦の試行錯誤を繰り返
すことで、世界のトップ棋士を負かすほど強くなっていました
(2015年12月時点)。0.12秒で1局の速度です。今日も強くなって
います。

「群れや集団」が原義であるクラスターは、パソコンを並列につな
いで計算速度を上げる技術です。1200台のクラスターを組むと、計
算速度(スループット)は、〔√1200倍≒35倍〕に上がります。こ
れは学習と判断の時間を1/35に圧縮できることです。

グーグルが、数百億円の投資で作った「アルファ碁」は、自己対戦
を繰り返す強化学習でこの10年を短縮したのです。

●アルファ碁のようなディープ・ラーンニング型のAIは、蒸気機関
と鉄道、石油革命、内燃機関、電気、通信、パソコン、インターネ
ットと続いてきた、近代産業の大きな技術革命の系列につながるも
のになるものでしょう。

労働人口の減少が、GDP成長のボトルネックになっている高齢化先
進の国日本にとって、今後15年で広範囲に適用されるAIロボットは、
ブレーク・スルーになります。(注)AIの頭脳をもち、AIにコント
ロールされる可動部分をもつのがAIロボットです。車も、移動ロボ
ットとしてとらえることができます。

わが国の15歳から64歳の生産年齢人口(7785万人:2015年)は、
2060年には、4418万人へと3367万人(43%)も減ります。毎年、
75万人(年率1%)も減って行く。年間の人口の減少は、熊本市
(73万人)や静岡市(71万人)の総人口に相当するくらい大きい。

GDPは、1人当たりGDP生産性×(生産年齢人口×就業率(約70
%))です。

これだけ大きく生産年齢人口が減ると、国全体のGDP(生産=所得
=需要)が増えることの想定は難しい。事実、未来に向かって設備
や機械投資を行うべき企業が、「わが国の将来のGDPが、今より増
える」とは想定していません。このため、需要の増加が必要な設備
投資が増えていないのです。

世界の年齢レースの先頭を行く、この高齢化社会に、労働力を代替
できるAIによって、希望のライムライトが照らされてきたのです。

(注)本稿は有料版で送信したものに、修正を加えたものです。約
1か月無料版の配信が途切れたお詫びとして、送ります。
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<842号:21世紀の産業革命を引き起こすAI(1)>
         2016年9月18日:無料版

【目次】

1.エキスパート・システム
2.自動走行が実用化される時代
3.人工知能の4つのレベル
4.機械学習からディープ・ラーンニングへ
5.自然言語の、機械翻訳はまだ難しい:その理由
6.フレーム問題(枠組みの問題)がある
7.経済や株価へのAIの利用の問題
8.経済予測や株価へのAIの利用の問題
9.シンボル・グラウンディング問題
10.特徴量の自動設計が、新しいディープラーニングの特徴

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■1.従来のエキスパート・システム

エキスパート・システムは、専門家がもつ論理的な推論のプログラ
ムに、データベース化した情報を与えるものです。

鋳鉄の釜を藁で炊いたときのような、おいしいご飯を作る炊飯器に
は、
・温度センサーで、変化する外部情報を取り込み、
・プログラムで、加熱をコントロールするエキスパート・システム
が組み込まれています。

システムエンジニアが、ご飯を炊いて試食する実験を繰り返し、お
いしいさが「最適」になるように、加熱をコントロールするもので
す。炊飯器の脳に当たる部分に、マイクロ・プロセッサー(超小型
の単能コンピュータ)があり、プログラムが焼きつけられています。

洗濯機なども同じです。衣類に対し最適な水流になるよう、モー
ターが制御されています。これらは、炊飯の専門家、洗濯の専門家
という意味でエキスパート・システムです。1990年代からの家電の
多くには、エキスパート・システムが組み込まれています。液晶
TVでは画像エンジンです。 

これらは、「if(~ならば)・・・、then(こう処理す
る)・・・」という構造の、知識ベースのプログラムです。

米国のアイロボット社が開発したお掃除ロボット(ルンバ)も、障
害物センサーをもつエキスパート・システムです。軽くぶつかった
ときセンサーが働いて、180度に方向を変えます。しかしこれはま
だ、自分で試行して自己学習して行くディープ・ラーンニング型の
AIではない。

■2.自動走行が実用化される時代

室内で、センサーがついた模型の車を数十台走らせる。車には自己
学習のプログラムが組み込まれています。最初、ごつごつとぶつか
る。しばらく、試行錯誤を繰り返す。そして、ある時から相手の進
行方向を予測し、お互いに方向を変えて「みずすまし」のように、
すいすい走り続けます。

(1)認識した相手の方向を、確率的に予測するプログラム
(2)その行く先とは交叉しないように、方向を自己修正するプロ
グラムが組み込まれているからです。

空中を飛ぶ昆虫の脳に近いセンサーと判断プログラムが組み込まれ、
走行経験によって、自分の知能を強化するプログラム(機械学習と
もいう)が組み込まれているのです。

脳に当たるところが、人工知能です。モーターとハンドルの走行系
の機械がロボットです。自動走行の車は、人工知能が制御するロボ
ットです。(注)2016年の新車、BMWの7シリーズは、車庫入れに限
定して自動で行います。ランダムな障害を予測する機能は、信頼性
の問題があるので、まだつけてはいません。

目的地を与えれば、途中の、ランダムに生じる障害にぶつかること
なく、障害を避ける自動走行もできます。ここが、専門家の与えた
プログラム通りにしか動かないエキスパート・システムとの違いで
す。ディープ・ラーンニング型のAIは「自己学習」ができるのです。

自己学習という点ではグーグルの「アルファ碁」で使われた新しい
AIも同じです。

われわれが録画やデジカメで使う小指の爪の大きさのメモリチップ
が数10ギガバイト(文字数で数10億文字)を記憶できるように小さ
くなり、複雑で長いプログラムと、膨大な画像データを記憶できる
ようになったからです。

近所のパン屋では、お客様が買ったいろんなパンのカゴを置くと、
形を自動認識して、瞬時に商品名と価格、及び合計額を表示します。
これにも認識機能をもつAIが使われています。POSレジのような
バーコードは要らない。時代は、ここまで来ているのです。しばら
くすれば、魚、野菜、果物などの不定形の生鮮食品を売るスーパー
のレジに応用できるでしょう。

ほぼ10年後の、進化した人工知能を内蔵する洗濯機なら、大気の湿
度や温度、そして汚れやシミの程度と成分に対応して適した洗剤を
入れ、完全に自動洗濯するようになっているでしょう。

【実用化の時代へ】
8月24日から発売が始まった日産の「セレナ」は、高速道の1車線に
限って、ドライバーが設定する30km/hから100km/hの範囲で、
自動走行ができます。

車線変更も可能になるのは、2018年からの予定です。2020年には交
叉点での一時停止を含む、一般道の自動運転になる予定です。
(注)日産によると、セレナの予約は極めて好調のようです。これ
は自動運転を支援するプロ・パイロットのAIを装備しています。

今はまだ、不測の事態への対応のため、免許をもつドライバーの同
乗が条件です。しかし2年後の2020年には完全自動走行も試行され、
2030年には普及するでしょう。AIのプログラムは、無限に複製がで
きるため、パソコンの普及の速度で利用が進みます。(注)免許を
もたない当方は、とても期待しています。

ドイツのアウディ社は2015年に、上海の公道で、自動走行の試験を
行っています。

【テスラの事故】
オートパイロットシステムを備えた、マセラッティに似たデザイン
の米国のテスラ(電気自動車)は、センサーに不完全なところが残
っていて、トラックの白い荷台からの強い反射光を「障害物ではな
い」と認識し、死亡事故を起こしています(2016年5月)。なおこ
の新車価格は、926万円から1363万円とメルセデスやBMWの大型車並
みです。

需要が多いタクシーの自動走行は、4年後の2020年には、実用化さ
れる見込みです(経産省)。

【自動走行の4段階】
自動走行は、次の4段階のステップでという。

(1)部分自動化
→緊急自動ブレーキ(AEB)。先行車両との距離を一定に保つアダブ
ティブ・クルーズ・コントロール(ACC)。車線維持支援(LKS):こ
れらは実用化されています。
(2)複合機能
→高速道単一車線での自動運転(日産のセレナ)、自動駐車システ
ム(BMWの7シリーズ等):実用化の途中です:2018年に普及。
(3)高度な自動化
→市街地を含む一般道の手放し運転(2020年に普及)
(4)完全自動化:→運転手のいない自動運転:(2020年からか)

見えない角度から飛び出してきた子供などを、瞬間にどの程度避け
ることができるかがポイントでしょう。人の、直後の動きの予測を
どう行うかという問題です。人間が事故を起こすような場合でも、
自動運転車には、事故が許されないだろうからです。Googleは、極
秘裏に、ここを研究しているようです。Googleが、Google Earthで
地球70周分の道路情報を集めているのは、自動走行車で先行するた
めと言われています。

4年後に近づいた東京オリンピックでは、運転手の乗らない自動運
転車が相当数走り回っているでしょう。まさに、未来都市図です。

■3.人工知能の4つのレベル

範囲の定義がまだ曖昧なままの人工知能は、4つのレベルに分ける
ことができるという(わが国の第1人者とされる東大准教授:松尾
豊氏)

【レベル1】単純な制御プログラム

エアコン、掃除機、シェーバー、テレビなどの自動センサー。考え
る知能ではなく、エキスパート・システムでの反応神経のレベルで
す。

【レベル2】古典的な人工知能

2015年ころまでの将棋のプログラム、お掃除ロボット、質問に答え
るウィザードシステムなど。利用する知識ベースを増やすと、自動
診断プログラムにもなります。

【レベル3】機械学習をとりいれた人口知能

Google等の検索エンジンに内蔵されたプログラム。ユーザーの検索
歴から、「次に買う可能性の高い商品」の画像とサイトを、個別に
自動表示する。グーグルで検索し、買わなかった商品の画像が追い
かけてくるのがこれです。これが、エキスパート・システムにはな
かった、予測する機能です。

数10億人のインターネット検索履歴というビッグデータ(超大量の
データ)から、多くの人が「次に買った商品が選択され、表示され
ています」。
(注)試行によって正確になっていく「ペイズ統計」が使われてい
ます。

パターン認識が1990年代から進化し、2000年代のビッグデータと連
結して、機械学習になって進化しました。ただし、この機械学習の
レベルでは、人間が、「そのものをそのものたらしめる特徴量のア
ルゴリズム(計算法)」を作って、コンピュータに与えていました。
特徴量とは、数字のリンゴとミカンなどが区分される要素になるも
のです。

この段階では、人間が、コンピュータにパターン認識の方法を、特
徴量として教えていたと言っていい。このため、特徴量の違いがど
こにあるのかわかりにくい犬と猫の顔の微妙な区分は、できなかっ
たのです。ヨットとバラの区分はできましたが・・・

【レベル4】ディープ・ラーニング(深学習)を取り入れた人口知
能

ビッグデータの機械学習から更に進み、モノを区分する特徴量を、
学習(試行錯誤)によって自分で発見し、判断するものです。

例えば、犬と猫の顔写真の画像データを与え、これは猫、あれは犬
と教え続けると、学習が一定量に達したとき、自動認識できるよう
になる。これがディープ・ラーンニングです。

人間は、ほぼ3歳には、学習の結果、犬と猫の顔を区分できます。
特徴となる要素と量(耳や目の形など)を、親が教えたわけではな
い。これは犬だ、こちらは猫と言ってきただけです。子供は、犬の
顔と猫の顔のデータから、区分のための特徴量を、「自分で認識す
る脳力」をもっています。

特徴量(feature value)は、区分のキーになるものです。第3のレ
ベルの機械学習では、人間が特徴量を教える必要があったのです。
レベル4では、自習して、プログラムを自動生成するのです。

■4.機械学習からディープ・ラーンニングへ

Googleは、2012年にインターネット画像のデータからコンピュータ
が猫と犬を区分できるシステムを開発し、人工知能学会に衝撃を与
えました。従来の、ビッグデータによる機械学習と違い、区分の鍵
になる、多数の要素からなる特徴量のバランスを自動で発見してい
たからです。

特徴量によって、「教えたことのない新しい犬種の犬(未経験のこ
と)」を見せても、「これは犬だ」と判断できるようになったので
す。

囲碁の石の配置は、定石をはずれると、過去にはない初めての現れ
方をします。未経験のことに対しても、「この局面での最善手は*
*」と判断できるようになってきたのです。ここで、人間が特徴量
のプログラムを作っていたエキスパート・システムとは一線を画し
ました。

猫と犬の特徴を区分して、言葉で言えるでしょうか。われわれも、
その要素はうまくは言えません。普段、分析的に見ていないからで
す。人工知能はこれを数値化(ベクトル化)するのです。

自動車のセンサーが感じる、とても多くの要素からなる「危ない」
も、同じ構造です。事故を多く起こす、人の「危なさ」の認識とは
違うかもしれません。

2010年代の画像認識から盛り上がったディープ・ラーンニングによ
って、コンピュータは、自分で経験を蓄積して自己成長するAIにな
りました。人間には制御できない進化をする可能性ももっているの
です。

コンピュータの特徴は「忘れないこと」と「計算の速さ」です。囲
碁や将棋のように、人間である名人クラスの棋力を越えることにも
なります。1秒以内に1局を打てる自己対戦からの学習によって、
どこまでも強くなる可能性があるのが、人工知能です。

猫と犬の画像を区分できるシステムは、質的な部分を含んでいるの
で、人間が行う品質管理の工程を、完全自動化するシステムとして
も応用ができます。中国が、品質管理の自動化を入れば、最強の工
業国になるでしょう。

【応用の一例】
生鮮流通における選果の工程である、おいしい野菜とそうでないも
のも、自動選別できるでしょう。米国白人の40歳代の多くがおいし
いと感じる食物と、日本人の40歳代、性別、所得、住む地域で、お
いしいと感じるものの違いも、発見できるはずです。

昨日、ある自然食のレストランで食べた有機栽培の、鮮度がとても
高い野菜は、実は、私にとってあまりおいしくはなかった。私のお
いしさを感じる特徴量は、どこか違うところにあるのか・・・

【シンギュラリティ】
人工知能が、人間の能力を超えたときを、シンギュラリティ(技術
的特異点)と呼んでいます。車の完全自動運転は、オートバイロッ
トのプログラムが、人間の脳力を越えて、完全無事故になった時点
で、実現することです。

■4.自然言語の、機械翻訳は難しい:その理由

簡単な、辞書による置き換えの翻訳は、Googleでも自動翻訳として
提供されていますが、実用に耐えるものではない。松尾豊氏は、簡
単な文の翻訳を例に挙げ、機械翻訳の難しさを指摘しています。

He saw a woman in the garden with a telescope

人間による普通の訳:「彼は望遠鏡で庭にいる女性を見た」
女性は庭にいて、彼はそれを望遠鏡で覗いている、ということです。

しかしこの自然言語は、文法的には、曖昧です。
(1)庭にいるのは、女性か彼か、定まらない。
コンピュータで、「彼は、庭で望遠鏡を使って、女性を見た」と訳
しても間違いではない。望遠鏡は、庭より、部屋の窓から使うこと
が多いだろうという常識が必要です。

(2)望遠鏡をもっていたのは、女性か彼か、決まらない。
「彼は、女性が庭で望遠鏡をもっているのを見た」とも訳せます。
これには、なんとなく違和を感じます。理由は、望遠鏡を使うのは、
男性が多いと思っているからです。

では、われわれはなぜ「彼は望遠鏡で庭にいる女性を見た」が自然
だと判断するのか。以下の「常識(共通の基礎知識)」があるから
です。

(1)男性が、望遠鏡で外を覗くという行動は、女性がそうするよ
り多いだろうという常識。
(2)男性のほうが、女性に対して強い関心をもちやすいという常
識。

以上のような言外の意、いわば文脈が知識のフィルターになって、
人は、「彼は望遠鏡で庭にいる女性を見た」と訳すのが普通だと判
断しています。

我々は、コンピュータに持たせることが難しい膨大な知識(文脈)
を背景に、その場の自然言語の意味を、瞬時にとっているのです。
翻訳が、コンピュータに難しいことは、自然言語の認識ができない
ことと同じです。人工知能は、まだ、一般常識の知識がないので、
自然言語の翻訳は難しい。

逆に、単語が難しくても正確な文章が多い学術論文は、機械翻訳が
できるでしょう。

言外の文脈に依存するにより、曖昧でも通じる文章以外は、機械翻
訳もできます。ただし小説は難しい。特に、言葉が生む概念を描く
詩もほぼ不可能です。写真は判断できます。では、ピカソの美はど
うか?

■5.フレーム問題(枠組みの問題)がある

コンピュータにとって克服するのが難しいのは、常識に依存してい
るため曖昧なままでも人間には通じる自然言語とともに、フレーム
問題があります。簡単に言うと、あらかじめ決まったルール以外の
処理ができないのです。

自動運転は、昨日と今日のルールが不変なので、AIにも可能です。
明日に障害になるものは、今日も障害物だからです。しかし3日後
は、例えば橋の存在が障害物になるとすれば、過去の、橋が障害で
はないときのルールから学習した自動運転はできません。地震など
への緊急対応も、学習していない場合はできないでしょう。

人工知能の大家、ジョン・マッカーシーの想定は面白い。

電気で動くロボットは、バッテリーが切れると動けなくなる。洞窟
の中には、バッテリーがある。しかし、その上に時限爆弾が載って
いた。設計者は、ロボットにバッテリーをもってきて、自分で交換
しろと命令した。

(1)ロボットはバッテリーをもってきたが、時限爆弾も一緒だっ
た。時限爆弾を認識する知識はもっていたが、バッテリーを運べば、
時限爆弾も一緒に載ってくることの知識はなかったからだ。ロボッ
トは、バッテリーを運んで洞窟を出たところで爆発した。

(2)設計者は、次は、「自分が何かをしたら、その行動で副次的
に起こることを考える」ように作った。するとロボットは、バッテ
リーの前で、あらゆる可能性を考え始めた。

「自分がバッテリーを抱えたら、壁が壊れるだろうか」、「天井は
落ちてこないか」、「自分が、バッテリーの重さでひっくり返らな
いか」、「時限爆弾はどうすべきか」・・・時間切れになって、ロ
ボットは爆発した。

(3)ロボットの人工知能に更に改善を加え、「目的を遂行するこ
とに、無関係のことは考えない」とした。

ロボットは、バッテリーを洞窟から運ぶことと関係があるかないか、
あらゆるケースを考えることに没頭して、洞窟に入る前に固まった。
一歩ずつ、「ここで何が起こるか」を考えたからです。

人間は、洞窟からバッテリーをもってきて交換するときは、それに
関係のある知識だけを、無意識に抽出して、処理しています。

このときは、確率が0%に近い「大地震が起これば、洞窟が崩壊す
る」とは考えません。ところが、あらゆるケースを考えて行動する
ように設計した万能ロボットは、そこまで考えてしまうのです。

人間が、普通に行っていることであっても、ロボットには難しいこ
とがあります。

■6.経済予測や株価へのAIの利用の問題

【フレーム問題】
経済の予測や株価では、1年前と今年では、人間の認識の違いが出
ます。例えば昨年は利下げで株価が上がった。ところが今年は、利
下げで株価は下がっている。金利に対する、投資家の認識の変更が
起こったからです。

このためAIが、昨年の株価と金利データの学習から、今年の株価を
予想してもはずれます。金利は、どの場合も、同じように働く自然
科学の引力のようなものではないからです。

状況の変化によって、利下げの働き方が変わります。このため、
AIによる株価シミュレーションは、原理的にできないのです。

(注)1929年からの大恐慌期のデフレは、確かに、マネー現象でし
た。この事実観察から、大家フリードマンはマネーの供給が十分な
ら、デフレにはならない。インフレになるとしたのです。リフレ派
が言う「デフレは貨幣現象」というのがこれです。

しかし、日本の1998年からのデフレは、マネーが十分に供給されな
いからではなく、世帯所得が20年で20%も減って、購買需要が増え
ることができなかったからです。経済の法則も、時期と地域で異な
ります。このため、過去のデータを学習して相関や並行の関係から
未来を予測するAIの方法は、適用できない。

【市場の本質】
また、例えば株価で未来予測ができるようになったとして、「上が
る」となれば買いが増えて上がり、上がればAIによる買いが増え、
更に上がります。最終的には、買いばかりになって売りが消えます。
これは、株価をつける市場の消滅を意味します。つまり、株価での
AIは、不可能です。

市場では、上がると予想する人が買い、下がるとする人は売ります。
異なる判断の均衡点が株価です。全員が同じ予想になれば、市場取
引は消えるのです。売買の市場があるためには、売りが50%なら、
買いも50%でなければならない。その均衡点が、価格です。株式市
場は、異なる予測を戦える場です。

経済予測(GDPの予測)もできないことは、株価の予測が不可能な
ことからもわかります。株価という要素によって、投資家の資産が
増減し、その資産の増減が商品需要を変えるからです。

日本の株価が上がっていた時期(2012年後期から2014年)には、資
産効果により、GDPに属する百貨店の機械式の高級時計や宝飾品が
多く売れていました。今、それは減っています。株価と百貨店の高
額品売上は連動しています。

■5.シンボル・グラウンディング(symbol grounding)問題

人間は、シンボル(記号、文字、言葉)から意味を理解できます。
シンボルは代わりに表すものです。馬(文字と言葉)は、実物の馬
を表しています。例えば「体に大きなシマ模様がある馬はシマウ
マ」と教えると、図鑑や動物園でシマウマを見たことがない人でも、
はじめて実物を見たとき「あれはシマウマだ」と認識ができます。

これを、AIでは、「シンボル・グラウンディング(シンボルによる
通底)」と言っています。

AIは、言葉の意味内容が理解できません。このため、言葉が表す概
念によるシンボル・グラウンディングができません。「シマ模様が
ある馬はシマウマ」と教えても、シマや馬の意味を理解していない
ので、実物の認識ができないのです。

【AIのディープ・ラーンングには画像が必要】
言葉はシンボル(記号)です。AIは記号の意味内容を認識できない。
AIにシマウマを教えるには、シマウマの画像と馬の画像を学習させ
ておかねばなりません。

■7.3つの障害以外でのAI

以上のように、AIには、(1)ロボットが、時限爆弾で爆発してし
まうフレーム問題、(2)シマウマなどの、言葉のよる説明だけで
は、実物の画像と結びつかないシンボル・グラウンディング問題が
あります。

AIでは、ルールが変わると過去の学習が無効になり、小説での顔の
描写からはその顔をイメージできない。これは、原理的な階層での
ことです。

▼画像認識におけるニューラル・ネットワークの方法

人間の脳は、ニューロン(神経細胞)がシナプスのネットワーク
(つながり)でつながって、できています。トランジスタをニュー
ロンとしたとき、それを結ぶ回路(配線)がシナプスです。シナプ
スが伸びてつながったとき、記憶ができます。

あるニューロンがシナプスでつながった他のニューロンから信号を
受け取って、その信号が一定量(閾値:しきいち)の臨界を超えて
興奮すると、次の別のシナプスに信号を伝えるというのが、脳の物
理的な働きです。

電気回路では、閾値を超えると1になり、1未満のときは0の信号を
出力すると置き換えることができます。出力が1と0ですから、コン
ピュータのスイッチ回路で模倣できるのです。このときの入力信号
の強度の重みが肝心で、この重みの違いが情報です。(注)頭から
煙を出して信号を強くして考えるというのは、シナプスの物理に合
致しています。

例えば、手書き文字の認識です。われわれは、2と5や3の手書き文
字の違いを、どう認識しているのか。

画像センサーから、文字情報がドット(点)の重みとして入ってき
ます。たとえば、28×28=784マスの方眼用紙で、点の集合を数値
化して認識するとします。784マスの方眼用紙が、ピクセル(画
素)に相当します。この画素データの重みを、784マスの位置とと
もに、コンピュータが認識します(入力層)。そして、この入力層
のデータは、次の「隠れ層」に渡される。隠れ層という理由は、学
習によって正しい答えを学習し、そのアルゴリズムを自動生成する
からです。

ここで処理されたデータが出力層に移り、ペイズ確率的に0から9の
どの数字に合致するかという結果を、瞬時に表示します。

その中身を言えば、3である可能性が20%、5である可能性が80%と
いった具合です。このときは、5と判断されます。これが、ニュー
ラル・ネットワークでの画像判断の方法です。要は、確率です。人
間な「曖昧」な認識をしています。手書き数字では、3にも5にも見
える数字も、あるからです。

癖のある手書きの数字をたくさん読ませ、これは5、あれは3と教え
て、変化に幅がある手書き数字を学習する。これがディープ・ラー
ンニングです。たくさんのデータ(ビッグ・データとも言う)を使
うので、ディープと言う。

100万件くらいの手書き数字を、ひたすら読ませ、人間が正解を教
え込む。人間も、はじめて数字を書いてから、その手書き数字を、
ほとんど誤りなく判断できるには、幼稚園の年数をかけています。

学習が済んだAIは、手書き数字を、人間よりはるかに早く判断しま
す。この判断は、学習が終わった結果の、ニューラル・ネットを使
う「予測フェーズ」になります。予測というのは、認識の対象にな
る新しい手書き数字は、AIにとって学習結果を使う未来だからです。

AIが間違えることもあるのは、過去の画素の重みのデータに基づく
確率的な予測であるためです。人間も読みまちがえる手書き数字も
あるでしょう。

人間にとっても、あらゆる判断は予測です。この食べ物がおいしい
かどうか、過去のおいしいものの経験(=学習結果)に照らして、
ほぼ70%や80%以上合致すれば、おいしいと判断していることと同
じです。

以上が、AIの脳に相当するニューラル・ネットの構造です。

■8.特徴量の自動設計が、新しいディープラーニングの特徴

▼機械学習で難問だったこと

年収と関係があると思われるデータをいろいろ集めたとします。性
別、年齢、学歴、職業、会社での役職、居住地域、好きな色、好き
な食べ物、誕生日・・・などです。年収とこれらの各特徴量の関係
は、「多変量解析の方程式」で表せるでしょう。

【特徴量の数値化】
Y(年収)=性別×a+年齢×b+学歴×c+職業×d+役職×e+居
住地×f+好きな色×g+好きな食べもの×h+誕生日×i・・・
などです。

このa、b、c・・・を特徴量と言います。性別、年齢、学歴、職
業、役職は個人年収との関係が深いでしょう。関係の深さは、特徴
量が大きいことを意味します。居住地、好きな色などはどうでしょ
うか。ほとんど関係がないように思えます。

ディープ・ラーンニングに前の、機械学習の段階(1990年代まで)
では、この特徴量を、人間が判断して入れていたのです。ここが、
認識して判断するAIの最大の難関になっていました。人間が最適プ
ログラムを作っていたエキスパート・システムに似ていたのです。

人間の論理的な思考は、この特徴量を元にしています。

顔が左右対称な人には、仲間由紀恵のような美人が多いというのも、
左右対称と美人という要素の、相関関係による論理的な思考です。
美人=30%×左右対称+20%×やせ形+15%×切れ長な目・・・で
しょうか?(違うかな・・・)

芸術の美などはどうでしょうか。要素が難しそうですね。ゴッホ、
ルノワール、セザンヌ、ピカソは、どれがより高次元の美か。

▼ディープ・ラーンニングは、多階層のニューラル・ネットで、特
徴量を自動生成する

ディープ・ラーンニングの方法の優れた点は、区分と判断の元にな
る特徴量を、学習を通じて自動生成し、成長する点です。簡単な事
例のディープ・ラーンニングは、冒頭で言った「自走式の模型自動
車」です。

カメラが受け取った画像情報から、ぶつかった障害物の特徴量を把
握し、次はそれを避けるハンドリングをする。試行錯誤を繰り返し
て、自分の経験で、障害物を避けることができように賢くなって行
く。

AI化し、ディープラーニングする将棋や碁のソフトでは、1局1秒以
内で勝敗まで行く自己対戦を繰り返し、数か月も動かしてゆけば、
どんどん強くなって行きます。どの駒の配置が最終的な勝ちになる
のか、駒や石の配置での、正確な特徴量を強化し続けるからです。

将棋や碁も、ニューラル・ネットからの判断した指令で機械的に動
くロボット部分をいれれば、自動走行車と同じです。

これは、人間の代わりに働くロボットを作ることもできることを示
しています。AIが産業過程に普及すれば、高齢化による生産年齢の
減少は、経済成長と無関係になります。欧州や米国のように移民に
頼らずとも、労働人口を増やせるからです。

以降、経済成長と生産と所得の増加に関係するAIは、次稿で述べま
す。日本の希望の21世紀のために。

【後記】
難しいとされるディープ・ラーンニングの原理を、ご理解いただけ
たでしょうか。理解しておけば、2030年、2040年に向かう大きな成
長と所得増加に向かう長期計画も立ちます。医師の場合も、例えば
レントゲン画像やデータ検査での診断は、正確に自動化できます。

インターネットは1995年の普及期開始から、20年です。生活に欠か
せなくなったスマートフォンも含め、あまねくインターネットにな
っています。AIも、これから20年後、2035年には、すべてがAIとい
う爆発期を迎えるでしょう。人類の知恵はすごいプレゼントをして
いたのです。

フォードのベルトコンベア・システムの原理を作ったフレデリッ
ク・テイラーは、『科学的経営法』を、未来への贈り物としました。
AIも、近い未来への贈り物です。

1995年には、インターネットと電子メールは、技術者が使う専門的
なものでした。ほぼ10年で、小学生や80歳台の人も使うように様変
わりしました。自動走行から始まる人工知能も同じです。10年後に
は「普通」のものになるでしょう。

遅々としていたエキスパート・システムや機械学習と違い、ディー
プ・ラーンニングは、アルファ碁がごく短期間で開発されたような、
時間短縮を行うからです。

夢だった鉄人28号や鉄腕アトムの時代が実現します。よくないとこ
ろでは、戦争もロボット化されます。軍事は世界で大きな政府需要
があるので、もっとも早いかもしれません。

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<829号:サマーズの「長期停滞からの脱却論」(1)>
        2016年6月8日:有料版

【目次】
1.長期停滞は、貯蓄の増加があっても、
投資が増えないことから起こる
2.負債の崖(Debt Overhang)などの論は、部分的な説明
3.自然金利と実質金利
:実質金利>自然金利のとき、経済は長期停滞する
4.貯蓄の超過と寡少な投資がもっとも大きな問題
5.クルーグマンの流動性の罠論についての言及
6.マネー増発政策のリスク
7.名目GDPの達成目標を掲げ、財政を拡張すること
8.財政赤字が巨大化しても問題ではない
【後記】

<831号:リフレ政策の失敗とサマーズの長期停滞論(2)>
        2016年6月22日:有料版

【目次】

1.サマーズの長期停滞論:その後半部
2.金利が下限に達しているので、金融政策では効果がない
3.財政拡張での、先進国世界の協調が必要である
4.新興国からの資本流出の問題
5.長期停滞から脱するための拡張財政の実行は、容易である

【後記:今後も財政破産は絶対にないとする説について】


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